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1,1
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上津文 一の綴り
【天地の 初めの時 高天之原に 成りませる 神の御名ハ 天之御中主の命
次に 高御産巣日の命 次に 神御産巣日の命】
高千穂書に言らく
【天之御中主の命 次に 薦枕高木の命 次に 神御魂御祖の命 次に 神漏岐の命 神漏美の命】
【次に国稚く浮脂の如くにして 水月如 漂エる時に 葦牙の如 萌騰る物に因りて成りませる神の御名ハ】
【宇麻志阿斯訶備比古遅の命 次に天之底立の命 次に 国之底立の命 また 天之常立の命
次に 天之退立の命 次に 国之常立の命 国之退立の命 次に 豊雲野の命 次に 豊国主の命 豊香節野の命 浮経野の命 葉木国野の命】
次に【宇比地邇の命 次に 妹 須比智邇の命 次に 角杙の命 次に 妹 活杙の命 次に 意富斗能地の命 次に 妹 大斗乃弁の命 次に 淤母陀琉の命 次に 妹 阿夜訶志古泥の命】
次に【大戸道の命 次に 妹 大戸辺の命 次に 青橿城根の命 吾忌橿城根の命】
次に【天之鏡の命 天之萬の命 次に沫那芸の命 沫那美の命 次に[高天豊道明千国根子大霊神伊邪那岐の命] 眞燿幻千国根子厳之神立神伊邪那美の命】
【ここに 天津神 諸々の詔以て 伊邪那岐の命 伊邪那美の命 二柱の神に これの 漂ゑる国を 造り固めな と 詔ちて 天之沼矛を 賜イて 言依したまイき
故 二柱の神 天之浮橋に立たして その沼矛を 指し下ろして 畫きたまゑば 塩 こウろこウろに 畫きなして 引き上げたまウ時に その矛の刃上より 垂り落イの塩 凝り積もりて 島と成る これを 淤能碁呂島と言】
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1,2
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その島に 天降りまして 天之御柱を 御立て 八尋殿を 御立てて これの 戸内に
その妹 伊邪那美の 命に 汝が身ハ 如何に成れるや と 問イたまエば 吾が身ハ
成り成りて 成り合わざる処 一処あり と 申す
伊邪那岐の命 告りたまイつらく 吾が身ハ 成り成りて 成り餘れる処 一処あり 故
これの 吾が身の 成り餘れる処以て 汝が身の成り合わざる処を 刺し塞ぎて
国土 青人草 厳物 和物 八百萬の物を [産み成さにと思ほエ侍りぬ] 如何にヤも
と 告りたまゑば 伊邪那美の命 然良けに と 申したまイき
ここに伊邪那岐の命 御手を拍たして 然あらば 吾と汝と これの 天之御柱を
往き廻り逢イて 御処の目交ゐせな と 告りたまゐき
此く 言期りて 汝ハ 右りゆ 廻り逢ゑ 吾ハ 左ゆ 廻り逢わに と 告りたまゐ
期り了エて 廻ります時に 伊邪那美の命 秀に 美哉 美し 好少男を と 告りたまイき
後に 伊邪那岐の命 秀に 美哉 美し 好少女を と 告りたまイき
各も各も 告りたまイ了エて 後に その妹に 女の 言先立ちて 良わず と 告りたまイき
【然ばかれども 隠所に起こして 御合イます時に その術を 知ろしめさず
ここに 鶺鴒飛び来て その首尾を 動ぐめきし 動ごかす 二柱の神 見そなわして
そを学び 交合の状を 知りたまイて 御子 蛭子を 生みたまイき】
これの御子は 形成せども 御泣まさずからに 葦船に入れて 流し去てつ
次に 淡島を生みたまイき こも 御子の数に入らず
【ここに 二柱の神 議りたまイつらく 今 吾が生めりし御子 良わず 猶 天津神の
御許に 称エ言申さな と 告りたまイて 直ちに 共に 天昇したまゐて
天津神の詔を 請イたまイき
ここに 天津神の詔以ちて 太占に 占ゑまして 告りたまイつらく
女を 言先立ちしに因りて 良わず また 還り降りて改め言と 告りたまイき
故 直ちに 還り降りまして 更に 彼の 天の御柱を 先の如 諸共に 御手を拍たして
往き廻りき ここに 伊邪那岐の命 先づ 秀に 美哉 美し好少女を と 告りたまイ
後に 妹 伊邪那美の命 秀に 美哉 美し好少男を と 告りたまイき
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1,3
-------------
此く 告りたまゐ了エて 御合イまして
御子 淡道の穂之狭別の島を 生みたまイき
次に 伊豫の 二名の島を 生みたまウ
これの島ハ 身一つにして 面四つあり 面
毎に名あり 故 伊豫の国を 愛比売と言
讃岐の国を 飯依比古と言 粟の国を 大宜
都比売と言 土左の国を 建依別と言 次に
隠伎の 三つ子の島を 生みたまウ 名ハ
天之忍許呂別
[次に 筑紫の島を 生みたまウ これの島
も 身一つにして 面五つあり 面毎に 名
あり 故 筑紫の国を 白日別と言 豊国を
豊日別と言 肥の国を 速日別と言 日向
の国を 久士比泥別と言 熊曽の国を 建日
別と言]
次に 伊伎の島を 生みたまウ 名ハ 天
之比登都柱と言
次に 津島を 生みたまウ 名ハ 天之狭
手依比売と言
次に 隠伎の三つ子の島を 生みたまウ
名ハ 天之忍許呂別と言
次に 佐渡の島を 生みたまウ 名ハ 両
児島と言】
次に【大八洲豊道之原を 生みたまウ こ
れの 天津御虚空豊道之原の国ハ 身 一つ
にして面十五あり 面毎に名あり 故 大和
の国を 秋津根別と言 津の国を 日下根
別と言 淡海の国を 淡海根彦と言 伊勢の
国を 伊勢津媛と言 遠淡海の国を 遠津海
別と言 无邪の国を 无邪津海別と言 常陸
の国を 常陸媛と言 科野の国を 狭依科彦
と言 野の国を 野道路媛と言 陸奥の国を
道路奥別と言 越の国を 越根別と言 丹
波の国を 丹波別と言 出雲の国を 出雲別
と言 穴門の国を 穴門根別と言 吉備の国
を 吉備津根別と言】【然て後に還りましし
時に 吉備の小島を生みたまウ 名ハ 建日
方別と言 次に 小豆島を生みたまウ 名ハ
大野手比売という 次に 大島を生みたまウ
名ハ大多麻流別といウ次に 比女島を
生みたまウ 名ハ 天之一箇柱と言
次に 知訶の島を 生みたまウ 名ハ 天
之忍男と言
次に 両児の島を 生みたまウ 名ハ 天
之両屋と言】
また【伊邪那岐の命 伊邪那美の命ハ 天
津神の 御許に 天昇しまして 島の八十島
を 生み竟エたる状を 審に 申したまゑば
天の御神 諸共に 告りたまイつらく
その 生めりし 八十島を 本津国と成し
て 八百千萬箇の島 国を蒔けとて 天の安
之河原なる 天津真砂を 依さしたまイき
故 二柱の大神 陸奥の岳に 立たしまし
て 天津大神の 賜ゑりし 天之真砂を取り
出 後ろ手に 吹き蒔かしたまゑば 八十箇
の島と成る 名ハ 蝦夷と言
越の根別の岳に 立たして 左の御手以て
蒔かせたまゑば 千箇の島成りき 名ハ
悒婁と言 丹波別の岳に 立たして 左の御
手以て 蒔かせたまゑば 太島成りき 名ハ
生津牟婁と言 岳に 至りまして 右の指
以て 弾きたまゑば ころ島成りき 名ハ
生津吹と言 また 左と右との御手以て 蒔
かせたまゑば 大千 小千の島成りき名ハ
かると言 また 愛媛の岳に 立たして
右の御手以て 蒔かせたまゑば 三凝島なり
き 名ハ 琉球と言 また 重ねて 蒔かせ
たまエば 二島成りき 名ハ あもと言
あかと言 遠津海別の岳に立たして 右の御
手に 蒔かせたまゑば やつぢおおち島成り
き
名ハ こゆかる うかる と言 [故 處
々の島 大き 小さきハ 天之真砂の 埃の
塩沫に 凝り成れるなり]】
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1,4
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【ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の命
八百萬の国 島 萬国を 蒔き竟エたまイて
更に 神たちを 生ましたまウ
故 生みませる 神の御名ハ 大事忍乎伎
の命 次に 大事忍乎美の命 これの二柱
の神ハ 天に在して むつ魂星の神と申す
次に 石土毘古の命 次に 石土比売の命
これの 二柱の神ば 天に在して けく魂
星の神と申す 次に 大戸日別の命 次に
大戸日比売の命 これの 二柱の神ハ 天に
在して いや魂星の神と申す 次に 天之
吹男の命 次に 天之吹女の命 これの 二
柱の神ハ 天に在して うか魂星の神とまを
す 次に 大屋毘古の命 次に 大屋比売の
命 これの二柱の神ハ 天に在して さな魂
星の神とまをす 次に風木津別之忍男の命
次に 風木津別之忍女の命 これの二柱の
神ハ 天に在して みな魂星の神とまをす
次に 伊和都稚男の命 次に 伊和都稚女の
命 これの二柱の神ハ 天に在して ふく魂
星の神とまをす 次に 天津豊田の命 次に
天津豊田媛の命これの二柱の神ハ 天に
在して はや魂星の神とまをす 次に 大橿
比古の命 次に 大橿媛の命 これの
二柱の神ハ 天に在して なか魂星の神と申
す 次に 塩凝之男の命 次に 塩凝之女の
命 これの 二柱の神ハ 天に在して かむ
魂星の神と申す 次に 海の神 大綿津見御
祖の命 次に 妹 大綿媛の命 次に 水戸
の神 速秋津日子の命 次に 妹 速秋津比
売の命 また 河海に因りもち別けて 生み
ませる 神の御名ハ 沫那芸の命 次に 沫
那美の命 次に 頬那芸の命 次に 頬那美
の命 次に 天之水分の命 次に
国之水分の命 次に 天之久比奢母智の命
次に 国之久比奢母智の命
次に 八百萬 眞萬の 現しき 青人草
を 生みたまゐて後に 伊邪那岐の命 伊邪
那美の命に 告りたまイつらく[吾と汝と生
めりし国ハ 狭霧の御香り 満てるかもと
告りたまゐて 吹き払わせる 御息吹きに
成りませる神の御名ハ 天渡志国渡志十百座
志那津産巣日の命 またの御名ハ 志那戸辺
の命 またハ 志那都比古の命 妹 志那都
比売の命] これの二柱の神ハ 天の西に
在座坐す たせ星御祖の神と申す 次に 山
野の神 久久能智の命 妹 鹿屋野比売の
命 またの御名ハ 野椎の命 次に萬の司の
神を 生みたまウ 神の御名ハ 天之大土国
之大土大御守山津見産巣日の命 またの御名
ハ 大山津見の命 妹 大山媛の命 これの
二柱の神ハ 天の道々に 在座坐して 高
知星御祖の神と申す
これの 二柱の神 山野に因り持ち別けて
生みませる神の御名ハ 天之狭土の命 国
之狭土の命 次に 天之狭霧の命 国之狭霧
の命 次に 天之闇戸の命 国之闇戸の命
次に 大戸惑子の命 大戸惑女の命 次に
生みませる神の御名ハ 鳥之石楠船の神
またハ 天之鳥船の神と申す 次に 大宜都
比売の命 次に 御崎の神を 生みたまウ
御名ハ 天津座高津座置清御魂瑞之火産巣
日の命 またの御名ハ 火之夜芸速男の命
また 火之玄毘古の命 又ハ 火之迦具土
の命 妹 火之夜芸速女の命 またの御名ハ
火之玄媛の命 これの二柱の神ハ 天の北
に保イます とむ星御祖の神とまをす[この
御子を生みますにゆ 御陰焼かゑて 病み臥
やしまします]故 御吐りに 成りませる
神の御名ハ 天御魂国御魂穿神常座金山産巣
日の命 またの御名ハ 金山毘古の命 妹
金山毘売の命 これの 二柱の神ハ 豊道之
原に在座ます 常星御祖の神とまをす 次に
御屎坐す時に 成りませる 神の御名ハ
天津降萬正哉斎美生立波邇産巣日の命また
の御名ハ 波邇夜須毘古の命 またハ 波邇
山比古の命 妹 波邇夜須毘売の命
これの 二柱の神ハ 天の東に
在座まして よち星御祖の神と申す 次に
尿ます時に 成りませる 神の御名ハ天清
豊道辺神御魂柝彌都波産巣日の命 またの
御名ハ 彌都波能男の命 妹 彌都波能売の
命 これの 二柱の神ハ 天の南に 在座ま
して いみ星御祖の神と申す 次に 御身を
起こし立たします時に 成りませる 神の
御名ハ 和久産巣日豊種津魂の命 妹 和
久産巣日豊種津媛の命 これの 二柱の御子
を[豊宇気毘売の命と申す またの御名ハ
豊遠迦媛の命 また 大宜都比売の命 また
宇迦之御魂の命]と申す これの媛御子
火産霊の命の御子 宇迦之御魂之男の命に
御婚イまして 生みませる 御子の御名ハ
稲依日子の命 次に 稲依日女の命を 生み
たまイき】
-------------
1,5
-------------
【先に 伊邪那美の命ハ 火の神を 生みま
せるからに 御陰焼かえて 御身悩みたまイ
ます時に 伊邪那岐の命に 告りたまイつら
く[夜ハ 七ぬ 晝ハ 七ぬ離り]吾を な
見たまイそ 吾が汝夫の命と 申したまイき
この 七ぬ離りにも 足らずて その隠り
ますことを 奇しとて 見そなわす時に 伊
邪那美の命ハ 火の神を 生みませる故に
御陰焼かエ脹らに 熱かイ悩ましたまイき
ここに 伊邪那美の命 申したまイつらく
吾が汝夫の命の 吾を な見たまイそと申
すを 吾を御阿波多志たまイつと申して 吾
が汝夫の命ハ 現し事を知らせ 吾ハ 隠り
に罷ると申して 黄泉津比良坂に 至りまし
て 思ほしたまイき 吾が汝夫の命の 現し
事知ろしめすに 心悪しき子を 生み置きて
来ぬ と 告りたまイて 帰りまして 更に
御子を 生みたまウ[御名ハ 水放姫の神
次 丹生津姫の神 次に 天之吉葛の神
次に 国之吉葛の神 次に 川那芸の神 次
に 川那美の神]】
【ここに 伊邪那岐の命 告りたまイつらく
愛くしき 吾が汝妹の命ヤ 子の一つけに
代エつるかも と 告りたまイて[御枕辺
に 腹這イ 御後辺に 腹這ゐて]泣きたま
ウ時に 御涙に 成りませる 神の御名ハ
泣沢之女の命
ここに 伊邪那岐の命 御佩かせる 十拳
剣を抜かして その御子 迦具土の命の御頸
御躯を 三段に 斬り棄てましましき 故
御刀の前に著ける血 走りて 湯津石村と
なり 斬りたまゑる 御刀の名ハ 天之尾羽
張といイ またの名ハ伊都之尾羽張といウ】
ここに 伊邪那岐の命 高天之原に天昇し
なして 天津大御神に 伊邪那美の命の
神避りましし状 また 迦具土の命を 斬り
たまイし状を 審さに 告り挙げたまエば
天津大神 諸々の詔以ちて 太占に占えて
告りたまイつらく 神避りき 然り 由無し
宜べ 息呼ぶせ成せ と 告りたまイき
此よ 息呼ぶせなさむにハ
【おきく おきく くるこ くるこ
ひれこ ひれこ】
と 左手振き振り 右手振き振れ 訓伝て
なして 阿波岐吾屋木に 迦具土ハ 剣刃
祓ゑて 手以て 修せ と 告りたまイき
-------------
1,6
-------------
故 伊邪那岐の命 天より 降りたまイて
【それの妹 伊邪那美の命に 相見まく思ほ
して 黄泉津国に 追イ行てましき 直に脇
戸より 出迎ゑます時に 伊邪那岐の命 語
らイたまイつらく 愛しき 吾が汝妹の命
吾と汝と 作れりし国 作り了エ得ずあれば
還りまさね と 告りたまイき ここに
伊邪那美の命 申したまイつらく悔しきか
も 迅く来まさずて 吾ハ 黄泉津戸喫イし
つれ 然あれど 愛しき 吾が汝夫の命 入
り来ませること 畏ければ 還りなにを 先
づ 審かに 黄泉津神どもに 論わに 吾
を 勿見たまゐそね と 此く 申して そ
の殿内に 還り入りませるほど 甚 久しく
て 待ちかねたまイき 故 左の御角髪に
刺させる 湯津爪櫛の 男柱一つ 割き闕ぎ
て 一つ火を燭して 入り見ます時に 蛆
集かれ 蕩ぎて 御頭に 大雷居り 御胸に
火之雷居り 左の御手に 若雷居り 右の
御手に 土雷居り 左の御足に 鳴雷居り
右の御足に伏雷居りき】【ここに 伊邪那岐
の命 御畏みて[直に 逃げ還らにとも 思
ほさずて]更に天津神の命の 御教ゑの如
に 息呼ぶせなしたまイき 故 その妹 伊
邪那美の命 現し御身と成りて づるたみま
しき ここに 伊邪那岐の命ハ 御慈しみま
して 伊邪那美の命を 御肩に 負せかけた
まイて ゆくらゆくらに 往ましつ
やがて 黄泉津醜女 五月蠅なして 追ゐ来
故[黒御鬘を 伊邪那岐の命ハ 左手に
投げ棄て 伊邪那美の命ハ 右手に 投げ棄
てたまイしかば 蒲子の実生りき そを 拾
ひ食む間に 逃け出ますを なを 追ゐ越し
しかば また 右の御角髪に 刺させる 湯
津爪櫛を 引き闕きて 投げ棄てたまゑば
笋 生りき こを 抜き食む間に 逃け出ま
しき また 後にハ 彼の八種の雷頭に 千
五百の 醜男を副ゑて 追イ馳せ来 故 御
佩かせる 十拳剣を抜きて 後手に 振きつ
つ 寛来ませるを なを 追ゐ来て
黄泉津比良坂の坂本に 至る時に]伊邪那
岐の命 坂上に 立たしたまイて 告り
たまイつらく 汝奴ハ 厭 醜め醜めき穢
き奴 此処より 此方に な来そ と 告り
たまイて 唾きつつ 御目を剥かして 睨り
たまゑば をどろをどろと 皆 震ぶイ慄き
き 再 御目 睨まゐたまゑば 声嗄れて
伏し転びて え うごろうごろになりき 故
[その坂本なる 桃の実を 三つ取りて 待
ち撃ちたまイしかば 八種の雷ども 五月蠅
なす 醜男 醜女ら よろぼイ起こり 禍さ
逃げに 走りき ここに 伊邪那岐の命 伊
邪那美の命 桃に告りたまイつらく 汝 豊
道之原の中津国に 有らうる現しき青人草の
[憂き瀬に落ちて苦しまに時に]そを扶けて
よ と 告りたまイて 大加牟豆美と言名を
賜ゐき 最後に 黄泉津禍諸男の頭 五十六
種の雷 千萬の醜男醜女を 率きて 越して
直ちに 千引き石を その黄泉津比良坂に
引き遮エて「その巌を 中に置きて 相向
き立たして」事戸を度す時に]黄泉津禍諸男
の頭 申しけらく[命の国の人草 一日に
千萬を 病み臥やし 千萬に 禍事成し 禍
騒エなして 悩ましめに また 百千の首を
絞り殺さな と いイき 故 伊邪那岐の
命 伊邪那美の命 御怒りまして 告りたま
イつらく 汝奴 然為さば 吾ハ 一日に
百千萬の薬を出さに 百千萬の幸事を出さに
また 千萬の産屋を建てに と 告りたま
ゐき]故[道反しの神を その 千引き石の
前に立たし]伊邪那美の命を千引石の後ゑに
立たし 伊邪那岐の命ハ 御親ら 千引石の
の眞上に 上り立たしまして 黄泉津醜男女
どもに 怒り告り言ちたまイて 御佩かせる
十拳剣を抜かして 左手に持たし 右手に
貴玉を 振り打ち招ぎて 往で避らしめて
避らしなして 口訓り 神訓ります
かエぬに かエぬに くウあちす くウ
あちす やさぬよほ やさぬよほ
なに なに しゑ しゑ しゑヤ しゑ
ヤ はて なにしゑ なにしゑ ヤはて
と 告り訓りたまイて 大目輝げに 睨り
たまエば 黄泉津頭とも 尽々に[あをぶし
まろに踝を反エして]哭き泣ちて 宕れき
故 伊邪那岐の命 伊邪那美の命 厳のころ
びを起こして 怪しきかも 騒まきつるかも
稜威速 禍らゐ人 と 雄健びを 震りた
まエば 尽々に 大土 面伏せ 蠢き 動き
す 故 ここゆ 此方に な来そ と 告り
たまイき 故[これの 二柱の神を 道敷き
の大神と申す また 道反しの命を 遮りま
す 黄泉戸の 明津神と申す 故 黄泉津比
良坂ハ 出雲の伊賦夜坂 これなり]】
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1,7
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ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の命
更に 還りまして 迦具土の命を 見そなわ
せたまエば【その 滴るの血 た走り 上り
て 天之安の河原なる 五百箇石村と成りき
また た走りし血 山野に飛びて 山野木
草の染と 成りき】ここに 伊邪那岐の命
伊邪那美の命 御畏みまして 剣刃祓ゑて
手以て いよよせ 息呼ぶせ 呪訓り成した
まエば 迦具土の命ハ 立ち生けに 生き立
ちまして 勤労ぎましき 故 告りたまイつ
らく 汝ハ 天に在して 天の益人 神訓り
道訓り 木の実を立て 萬の実を立てに
仕エて 御心を天降らせて 現しき青人草の
眞幸魂を守りて 幸わゑよ と 告りたま
イき ここに 天津座高津座置清御魂瑞之火
産巣日の命 またの御名ハ 迦具土の命 妹
夜芸速女の命に 御婚イまして 生みませ
る御子の御名ハ 和久産巣日の命 次に 天
之屋船の命 国之屋船の命 ここに その湯
津石村に 走る血に そそのかして 生れま
せる御子の御名ハ 石拆の命 次に 根拆の
命 次に 石筒之男の命 次に 石筒之女の
命 次に 甕速日の命 次に 樋速日の命
これの神の御子 建御雷之男の命 またの御
名ハ 建布都の命 また 豊布都の命 妹
建甕速日の命 先に 御刀の手上に集まる血
手之俣より 漏き落ちて 生みませる神の
御名ハ 闇淤加美の命 次に闇御津羽の命
ここに 大山津見の命 大山媛の命ハ 迦
具土の命の現還りますを 御喜ばしたまイて
御頭を撫でたまウ時に 成りませる
神の御名ハ 正鹿山津見の命 喉に成りませ
る 神の御名ハ 淤縢山津見の命 御腹に成
りませる 神の御名ハ 奥山津見の命 御胸
に成りませる 神の御名ハ 闇山津見の命
左の御手に成りませる 神の御名ハ 志芸山
津見の命 右の御手に成りませる 神の御名
ハ 羽山津見の命 左の御足に成りませる
神の御名ハ 原山津見の命 右の御足に成り
ませる 神の御名ハ 戸山津見の命たちを
生ましめたまイき
上津文一の綴り 完エ
-------------
2,1
-------------
上津文二の綴り
【ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の命に
告りたまイつらく 汝ハ 厭 醜め醜めき
穢き国に 至りてありけり 汝 黄泉津戸
咋イしつれば 清まりせずてあり 故 御身
の穢れを 滌ぎ祓イてに と 告りたまイま
しつれば 伊邪那美の命 宜 と 告りたま
イき 故 粟の御門に 立たしまして 見そ
なわしたまウに[潮 いと 速し]また 速
吸乃門に往き 見そなわすに 此処ハ 潮巻
きて また 速し 故 筑紫日向の 橘の
小門の 阿波岐原に 到りまして 禊祓ゐせ
なと 告りたまイて[投げ棄つる御杖に 成
りませる 神の御名ハ 衝立船戸の命 次に
投げ棄つる御帯に 成りませる 神の御名
ハ 道之長乳歯の命 次に 投げ棄つる御裳
に 成りませる 神の御名ハ 時置師の命
次に 投げ棄つる御衣に 成りませる 神の
御名ハ 和豆良比能宇斯の命 妹 和豆良比
之兄自の命 次に 投げ棄つる御褌に 成り
ませる 神の御名ハ 道俣彦の命 妹 道俣
媛の命 次に 投げ棄つる御冠に 成りませ
る 神の御名ハ 飽咋之宇斯の命 妹 飽咋
之兄自の命 次に 投げ棄つる御左の御手の
手纏きに 成りませる 神の御名ハ 奥疎男
の命 奥疎女の命 次に 奥津那芸佐毘古の
命 奥津那芸佐比売の命 次に 奥津甲斐弁
羅の命 奥津甲斐弁里の命 次に 投げ棄つ
る御右の御手の手纏きに 成りませる 神の
御名ハ 辺疎之男の命 辺疎之女の命 次に
辺津那芸佐毘古の命 辺津那芸佐比売の命
次に 辺津甲斐弁羅之男の命 辺津甲斐弁
里之女の命]
[ここに 上津瀬ハ 瀬 速し 下津瀬ハ
瀬 弱し と 告りたまイて 初めて 中津
瀬に 降り潜きて 滌ぎたまウ時に 成りま
せる 神の御名ハ]大禍津日の命 妹 奇禍
日女の命 これの神の御子 八十禍津比古の
命ありと 申す こハ 穢き繁き国に 至り
ましし時の 穢れに因りて 成りませる 神
に坐す故に 萬の禍事起こりなすハ これの
神の心伝てなり また 萬の禍物 現人悖る
のもの これの神の禍らイなり 次に いざ
と 言挙げたまイて 滌ぎたまウ時に 成り
ませる神の御名ハ 速玉之男の命 妹 速玉
日女の命 次に 萬事解男の命 妹 萬事
解之女の命 次に その禍 流れ失せてにと
水底ゆ 潜き出たまウ時に 成りませる 神
の御名ハ 神御魂別国津清美魂直毘産巣日の
命 またの 御名ハ 大直毘の命 妹 神直
毘の命 これの 二柱の神ハ 天に在して
彦星御祖の神と申す 次に 伊豆能男の命
妹 伊豆能売の命 次に速佐須良比古の命
妹 速佐須良比女の命【次に 水底に 滌
ぎたまウ時に 成りませる神の御名ハ 底津
綿津見の命 次に 中に滌ぎたまウ時に 成
りませる神の御名ハ 中津綿津見の命 次に
水の上に 滌ぎたまウ時に 成りませる神
の御名ハ 上津綿津見の命 これの大綿津見
の命の御子 宇都志日金柝の命 またの御名
ハ 穂穂高見の命 妹 高毘売の命 これの
二柱の御子を 振魂の命と申す 次に 多岐
玉の命 次に また 上津瀬の水底に 祓イ
たまウ時に 成りませる神の御名ハ天帯国
帯潮津清美底土産巣霊の命 またの御名ハ
底筒之男の命 妹底津比女の命これの二
柱の神ハ 天に在して 底筒御祖の神と申す
次に 中津瀬の中に 祓イたまウ時に 成
りませる神の御名ハ 天帯国帯潮津清美赤土
産巣日の命 またの御名ハ 中筒之男の命
妹 赤巣比売の命 これの二柱の神ハ 天に
在して 赤筒御祖の神と申す 次に 下津
瀬の水の上に 祓イたまウ時に 成りませる
神の御名ハ 天帯国帯潮津清美石土産巣日
の命 またの御名ハ 上筒之男の命 妹 石
巣比売の命 これの二柱の神ハ 天に在して
石筒御祖の神と申す 次に 波の上に滌ぎ
たまウ時に 成りませる神の御名ハ 伊吹戸
主の命 妹 伊吹戸毘売の命 次に 波の上
に 御立たしたまウ時に 成りませる 神の
御名ハ厳之幸守眞心常辺速秋津産巣日の命
またの御名ハ 速秋津比古の命 妹 速秋
津比売の命 これの 二柱の神ハ 天に在し
て 清筒御祖の神と申す これの神の御子を
沫那芸の命 沫那美の命 次に 頬那芸の
命 頬那美の命 次に 天之水分の命 国之
水分の命 次に 天之久比奢母智の命 国之
久比奢母智の命 次に 櫛八玉比古の命 櫛
八玉比売の命を 生みましき 次に また
水走ります時に 成りませる 神の御名ハ
速余須良比古の命 妹 速余須良比売の命
これの 二柱の神の御子 天熊之大人の命
妹 天熊之比売の命 次に 棚機比古の命
妹 棚機比女の命を 生みましき
-------------
2,2
-------------
ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の命 二
柱の大神 禊ぎ祓イたまイて 共に 波穂に
立たしたまイて伊邪那美の命 先づ 左
の御手 右の御手以て 伊邪那岐の命の 大
御頬を 洗イたてまつる時に 御現れたまゑ
る 大御子の大御名ハ 撞賢木厳之大御魂天
疎日御像媛の命 またの大御名ハ 天照大御
神 またハ 大日靈貴の命 また 豊照大
日靈貴の命と申す
次に 伊邪那岐の命 先づ 右の御手 左
の御手に 伊邪那美の命の 大御頬を 洗イ
たまウる時に 御生れませる 大御子の御名
ハ 眞夜楫干厳之明津魂月弓之男の命 また
の 大御名ハ 夜見照大御神 また 月弓之
男の命と申す
次に 伊邪那岐の命 伊邪那美の命 共に
波穂に 御立たしたまイて まづ 御胸
御腹を 洗イたまウ時に 御生れませる 大
御子の御名ハ 天開国開天津日高建速須佐之
男の命 またの大御名ハ 国照大御神また
神速須佐之男の命 また 神須佐之男眞幸
の命と申す】【これの時に伊邪那岐の命 伊
邪那美の命[甚く 御喜ばしましまして 告
りたまイつらく
吾ど汝ど 御子生み生みて 生みの果てに
三柱の貴の御子を 生み了エたり]と
告りたまイき 故 撞賢木厳之大御魂天疎日
御像媛の命ハ[生れましながらに 光美しく
天地も 千国共に 照り渡らせり][吾が
御子多なれども 此くばかり その上無く
奇びに 美しき御子ハあらじ 故 これの国
に 留むべもあらじ]と 告りたまイて や
がて 御身に纒かせる 御頸珠の 珠の緒を
もゆらに ゆらかして 撞賢木厳之大御魂
天疎日御像媛の命に 賜イて 告りたまイつ
らく 汝が命ハ 高天之原を知らせて 豊道
之原 また 外津世之原を照らして 現人養
にに 萬物養にに と 言依さしたまイき
故 その 御頸珠の名を 御倉板挙といウ
次に 御左 御右の 手纒きの珠の緒を 振
るべに 取りゆらかして 眞夜楫干厳之明津
魂月弓之男の命に 賜イて 告りたまイつら
く 汝が命ハ 生れましながら[御光 日の
神に次ぎて 美しくませれば 夜の食国を知
らせ と 言依さしたまイき]
次ぎに 御腹玉の 玉の緒を[振るべに取
りゆらかして] 天開国開天津日高建速須佐
之男の命に 賜イて 告りたまイつらく 汝
が命ハ 御躯 甚に 美しければ 現つの
食国[潮の八百重を 知らせと言依さしたま
イき]】伊邪那岐の命 伊邪那美の命 潮路
を 引き上がりたまウ時に 成りませる 神
の御名ハ 明魂之男の命 明魂之女の命 次
ぎに 躯居比古の命 躯居比女の命 故 汝
が神たちハ 青人草の 御生命を知らせ と
告りたまイき
-------------
2,3
-------------
ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の命ハ
天津座高津座置清美魂瑞之火産巣日の命 妹
夜芸速女の命に 告りたまイつらく 汝神
ハ 日の神 月の神に傅きて 高天之原に罷
りて 生まむ御子ハ 星の神となして 二宮
にを 斎かせよ 故 身滌ぎ祓イなせ と
告りたまイき ここに 迦具土の命 妹 火
之夜芸速女の命ハ 大宜津の 阿波門の鳴海
に 禊ぎ祓イ滌ぎて 生みませる御子の御名
ハ
【むつ魂星の神 きさ魂星の神 いや魂星
の神 うた魂星の神
さな魂星の神 みな魂星の神 ふく魂星
の神 はや魂星の神
なか魂星の神 かむ魂星の神 しら魂星
の神 しつ魂星の神】
また ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の
命ハ 天渡国渡十百座志那都産巣日の命 妹
志那都比売の命に 告りたまイつらく 汝
神ハ 高天之原の二宮の神を 斎きて 禊祓
イして 御子を産みて 高天之原に 斎かせ
よ と 告りたまイき 故 二柱の神ハ 建
依の隅の小門に 禊ぎ祓イて 生れませる
御子の御名ハ
【風星の神 風女星の神 霞尾星の神 気
霧星の神 あかゆ星の神 あかゐ星の神
露茅星の神 芽霜星の神 斎雪星の神
吹雪星の神 大雨星の神 大降星の神】
また ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の
命ハ 天疎豊道辺神御魂彌都波産巣日の命
妹 彌都波能売の命に 告りたまイつらく
汝神ハ 天の二宮の大神に斎きて 禊ぎ祓イ
なして 生ます御子ハ 高天之原に 斎き神
と称エなせ と 告りたまイき 故 二柱の
神ハ 愛媛の矢野田の小門に 禊ぎ祓イて
生れませる 御子の御名ハ
【あれぬ星の神 あれほ星の神 いどみ星
の神 うるき星の神 とぢ星の神
うほヤ星の神 八百星の神 うみ星の
神 とみ星の神 彦星の神】
また ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の
命ハ 天津降萬正哉威美活立埴産巣日の命
妹 埴安比売の命に 告りたまゐつらく
汝神ハ 清み祓イて 高天之原の 天津二宮
を 斎き奉れ また 御子の星の神を 生み
て奉らせよ と 告りたまイき
ここに 埴山比古の命 埴山比売の命ハ
白日の毛井の小門に 禊ぎ祓イなして 生み
ませる 御子の御名ハ
【すゐ星の神 やみ星の神 とみ星の神
つゐ星の神 なこ星の神 なか星の神
あれ星の神 つま星の神 みつぼ星の神
多多羅星の神 とろ星の神 かき星の神
たかを星の神 とい星の神】
-------------
2,4
-------------
また ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の
命ハ 天御魂国御魂穿神常座成金山産巣日の
命 妹 金山比売の命 神御魂別国津清美魂
直毘産巣日の命 妹 神直毘之女の命
厳之幸守眞心常廻速秋津産巣日の命 妹
速秋津毘売の命 天足国足潮津清美底土産巣
毘の命 妹 底巣媛の命 天足国足潮津清美
赤土産巣日の命 妹 赤巣比売の命 天足国
足潮津清美石土産巣日の命 妹 岩巣比売の
命 天之大土国之大土大御守山津見産巣日の
命 妹 大山毘売の命たちに告りたまイつ
らく 汝神たちハ 禊ぎ祓イなして八百萬
の 星の神の 御祖神となりて 高天之原の
二宮を 斎きまつり 豊道之原の 現しき青
人草の 幸魂奇魂を 天に 斎かせ 禍津魂
一速き魂ハ 神逐イなし 黄泉津に放ち
棄て消せね と 告りたまイき ここに 伊
邪那岐の命 伊邪那美の命ハ 大事忍乎岐の
命 大事忍乎美の命に 告りたまイつらく
汝神ハ 天津の言問イを 現しき青人草に
問わせて 国分りなせ また 天津禍国津禍
事 青人草に中らば そを助けて 禍反エし
なせ と 告りたまイき 故 大事忍乎岐
の命 妹 大事忍乎美の命の 生みませる
御子の御名ハ 萬事解男の命 妹 萬事解女
の命 大鳥比古の命 妹 大鳥比女の命
これの 萬事解男の命 妹 萬事解女の命
の 生みませる 御子の御名ハ 天之事分の
命 妹 国之事分の命 次ぎに 大垂比古
の命 妹 大垂比売の命
これの 二柱の神 秋津の御岳に 立たし
て 朝風の狭風に 西を向かして 天の常山
なる 玉木の瑞葉を噛みて 息吹きに 吹き
放ちたまゑば 大羽の麁物成りき 北の息吹
きに 吹き放ちたまえゑば 大羽の柔物成り
き 南の息吹きに 吹き放ちたまえゑば 小
羽の麁物成りき 東の息吹きに 吹き放ちた
まゑば 小羽の柔物成りき
ここに 伊邪那岐の命 伊邪那美の命ハ
迦具土の命 妹 火之夜芸速女の命に 告り
たまイつらく 汝神たちハ 現しき青人草の
助けとならに 現の山野に 火含みなさせ
て 現の御物 山足りなせ と 告りたまイ
き 故 二柱の神 山野木草に 向き立たし
て【火千よ 火百よ 火萬よ 斎てよ 愛で
よ 宣りよ 宣りよ なになに 垂るる火ハ
天の迦具の山の火なり】汝 治めて い
としも勿出そ 吾が食す国の浮宝 多木 幸
足りなさに 故 浮宝主の神 勤なせ
弥都波能男の命 弥都波能女の命に 告り
たまイつらく 汝神たちハ 現しき青人草の
助けとならに 現の山野に 水含みなさせ
て【現つの御物 足りなせて 現の御物 足
りなせ】と 告りたまイき 故 二柱の神
山野に及び 木草に向かし立たして
【いぬろ いぬろ いはひ なゐひ たあひ
ゐなち ゐなち たあひ なに なに】
垂るる水ハ 天之安之河原の 天の漬がせ
の水なり 汝 治めて いとしも な出しそ
吾が食す国の浮き宝 多木 幸足りなさに
故 浮き宝主の神 豊宝主の神 勤なせ
また 吾が食す国の 青人草ハ 淡かりしに
あるかも と 告りたまイて 天分の神
こを 千国に 治せ と 廻さしたまイて
天の祭りを 知らせたまイき 国分の神たち
に 諸々国の祭りを 知らせたまイき また
人草の神たちに 諸々 廻さしたまイて
人草の祭りを 知らせたまイき
-------------
2,5
-------------
ここに 天開国開天津日高日子建速須佐之
男の命 またの御名ハ 国照大御神 またハ
神速須佐之男眞幸の命ハ 天之大土国之大
土大御守山津見産巣日の命 またの御名ハ
大山津見の命 妹 大山比売の命 またの
御名ハ 神子多多良比売の命 二柱の神に
告りたまイつらく【吾が可愛の神たちハ 天
の下 八百萬の物を 知れる神なり 故 山
野 里 河海に 木草多に 敷き散らし 木
草物種 蒔きつけ足らしね と 告りたまイ
て 御身に生エる 御頭 御目 御口 御胸
御腹 御尻 御脚の 黒萌エの御毛を 尽
々に 抜かしたまイて 大山津見の命 大山
比女の命 二柱の神に 共に 託けたまイき
ここに 二柱の命 あウ と まをして
共に 御頭の御毛を 千噛みに 噛みて 息
吹きはらしたまゑば 杉 松 檜 槇 数の
眞木に成りき 次ぎに 御目 御口の御毛を
千噛みに 噛みて 息吹きに吹き散らした
まエば 榊 小賀玉 桂木に成りき 次ぎに
御胸 御腹 御尻 御脚の御毛を取り分け
に 千噛みに噛みて 息吹きに吹き散らした
まゑば 大木立 小木立 実木立 花木立
また 千種花 千種実成る千草 花葉千草
また 千菜 実成る千菜 花千菜 川千菜
海千菜 尽々に 添ゑて 青人草の 助きに
なし また そウ御毛を 一つなして 千噛
みに 噛みなして 東風 東南風 南風 南
西風 西風 西北風 北風 北東風に 吹き
上げ散らして 外津世分りに 蒔き散らした
まイき】
-------------
2,6
-------------
伊邪那岐の命 伊邪那美の 命ハ 国照大
神に 告りたまイつらく【何とかも 汝ハ
哭き泣る と 告りたまエば
吾ハ 潮の八百重を 知らせと 決きからに
泣くなり と まをしたまイき 彼の時に
伊邪那岐の命 伊邪那美の命 甚く 御怒
りたまイて 汝ハ 如何にも 思エる と
問イたまゑど 御答エたまわずて その母の
命に まをしたまイき 吾ハ 御母の領きま
す 現つの食し国の潮守りて 現しき青人草
の幸わゐを 知らせませにとまをす 故 伊
邪那美の命 伊邪那岐の命に 斯く麗しと
告りたまエば 告りたまイつらく 汝ば思
の随になせね】と 告りたまイき
-------------
2,7
-------------
ここに 大禍津日の命ハ 厭 醜め醜めき
穢き御心以て 黄泉津国に 往まして 黄
泉津戸咋イまして 八種 萬の雷 また 千
萬の醜男 醜女を 禍らイなして 現しき青
人草に 種々の災ゐをなしき 故 伊邪那岐
の命 御佩かせる 十拳剣を抜かして 大禍
津日の命を 頭斬りに 段々に 斬り放ち捨
てたまイき
故 それの段々より 滴り流るるの 黒み
血 這ウ虫 羽虫 短虫 長虫と成りき
また 御腸 縮巻き出て 大蛇 小蛇と成り
き また 御躯むくらべに縮括れ垂れて 大
毛物 小毛物 種々の毛物と成りて 青人
に 禍成す 故 伊邪那岐の命 伊邪那美の
命 現しき青人草に 御教ゑたまイつらく
これの物ハ 黄泉津醜物にあり 故 目見す
る時ハ 皆に皆に 殺し失せよ 目見して
過ぐさば 己づ罪とウなり と 告りたまイ
き 然なればヤ 毛物類ウるを な食らイそ
食らエば 穢れ成し 毒み成す また 這
ウ虫に 類ウる羽物 降り来て 突く食め
また 毛の物の類ゑるハ 繁きく 焼ゐ山に
住め 山所出らば 数多で 殺うせ と
告りたまゐき
-------------
2,8
-------------
ここに 大禍津日の命 妹 腐禍津比女の
命の御子 八十禍津日の神ハ
直に 厭 醜め悪じき 穢き国に 到りて
萬の雷 萬の醜男を 禍らイ成して 種々の
禍術をなし ゆぐまきに 悪じを成す故に
伊邪那岐の命 伊邪那美の命 御怒り 石
室に 在さして 御佩かせる 頭椎の剣を
抜かしまつりて 八十禍津日の命を 鍔深し
に 斬り棄てたまゐて 喉刺しに 息切れま
しき その 息切れ息の 上りて 禍息風と
成りき
また 屍屈れ爛れて 八十骨出き 故 こ
れの骨に 腐れ肉の 流れ纒ばれて 成り生
る頭ハ【悪じ雲張りの禍津頭 次ぎに 悪じ
空張りの禍津頭 次ぎに 悪じ高吹きの禍津
頭 次ぎに 悪じ高隠りの禍津頭 悪じ尾長
腐の頭 悪じ隠りの頭 悪じ形荒しの頭 悪
じ火時の頭 悪じ水時の頭 悪じ羽戸張りの
頭 悪じ形縫イの頭 悪じ形分けの頭 悪じ
足束の頭 悪じ胸口の頭 悪じ左右手の頭
悪じ開口の頭 悪じ頭目乃立の頭 悪じ左右
片角の頭 悪じ鷺黒の頭 悪じ三目の頭 悪
じ四手の頭】これの 禍津悪じ頭ども 奇妙
の眞黒業をなし 人種の男と女とを 掠み取
りて 八百萬の悪じ頭を生みて また 人草
を 悪じ業に 惑わして 人草を喰む 故
伊邪那岐の命 伊邪那美の命 御怒り 面火
照りて 炎逆巻きに 上げたまイて 告りた
まイつらく 汝奴ハ 憎き 穢き 悪じ成す
頭なり 現しき青人草を 八千千とも無く
害イなす頭にしあれば これの国に な住み
そ 遠く 外津世の国の 黄泉津国に 罷れ
と 大目荒けに 睨りたまイき 故 ここ
に 八百萬の禍頭ども 大神の逐ゐに 逐わ
れけるによりて これの国に もだること
ならまししかば 各も各もに 身縮凝り 眞
慄イ 戦きて 桃の木末に 弾かエ悔イ狂
れて 黄泉津の外津世之原に 神の逐ゐに
逐わエ祟りて失せき ここに 高天豊道明萬
根子大道根子神伊邪那岐の命 眞燿幻千国根
子厳之神立神伊邪那美の命 神事 やがて
完エたまイて 共に 天に 天昇しまして
天津大神たちに 返り言 まをしたまイき
ここに 天津神 諸々の御言を以ち 告り
たまイつらく 高天豊道明萬根子大道根子神
伊邪那岐の命ハ 天の祭りを知らせ また
眞燿幻千国根子厳之神立神伊邪那美の命ハ
国の祭りを知らせて 天の御榮り 国の御栄
り また 天の羽含みを成し 国の息含みを
成せと告りたまイき 故 神伊邪那岐の命
ハ 高天之原の 日之若宮に 還ゑり留まり
たまイき 神伊邪那美の命ハ 豊道之原の
出雲の比婆の山の頂に 大宮に 隠り鎮まり
たまイき
-------------
2,9
-------------
ここに 天開国開天津日高建速須
佐之男の命 またの御名ハ 国照大神ハ 父
母の命 伊邪那岐の命 伊邪那美の命の 大
御言 畏みたまイて 天に 昇しまして 汝
姉の命に 言挙げまをさにと まをしたまイ
て 直ちに【天に参イ昇します時に 山 川
海 尽々に 国土 皆 揺りて 地震成す
ここに 撞賢木伊都之大御魂天疎日御像比
女の命 またの御名ハ 天照大御神の命 告
りたまイつらく 吾が汝弟の命の 昇り来ま
せる故ハ 辿ろに 美しき心ならじ と 告
り言ちたまイて やがて 御髪を解かし 御
角髪に纏かして 左 右の御角髪にも 御鬘
にも 左 右の御手にも 八尺の勾玉の五百
箇の 美須麻流の玉を 纏き持たし 背平に
ハ 千入の靱を着け 伊都の高鞆を 取り帯
して 弓腹振り立てて 堅庭ハ 向股蹈みな
づみ 淡雪如 蹶え散らかして 伊都の雄叫
び 蹈み建びて 待ち問イたまイつらく 何
思エて 上り来ませる と 問わしたまイき
ここに 国照大神 まをしたまイけらく
吾ハ 邪き心ならじ 唯に 父母の大神の御
言以ちて 参イ上り来ぬ 吾が 泣きいざち
ることを 問イたまイし故に まをしけらく
吾ハ 潮の八百重を知れ と 告りたまウ
からに まをしけらく 吾ハ 潮の八百重ハ
知らずて 母の命の国に 在りなに と 思
イて泣くと まをししかば 汝の 思の隨
にせけよ と 告りたまウ 故に 昇し越し
来つれ 異しき心延エあり と な思イまし
そ と まをしたまゑば 直ちに 天照大御
神 然れば 汝の御心の明きことハ 如何に
してか 知らまじ と 告りたまイき ここ
に 国照大神告りたまイけらく 各も各も
に誓イ為さにと まをして】その汝弟の命
の 告りたまゑる隨に【各も各も 天之安之
河を 中に置きて 誓イなしたまウ時に 天
照大御神に 先づ 国照大神の御佩かせる
十拳剣を[八脚の眞秀机に載せて 天熊之大
人の命 持ち出て 眼の上高に 畏れみ畏れ
みも平手を拍たして敬イ 七足離り居 畏
みまつり 弥々 平手に 畏れみき]故 天
照大御神 それの 十拳剣をことイ度して
三段に打ち折り 取り敷きて 奴那登母母由
良爾 天の眞名井に 振り滌ぎて 狭囓みに
噛みて 吹き棄づる 息吹きの狭霧になりま
せる 神の御名ハ 多紀理毘女の命 またの
御名ハ 田心比売の命 またハ 奥津島比売
の命とまをす 次ぎに 市寸島比売の命 ま
たの御名ハ 狭依比売の命 またハ 中津島
比売の命とまをす 次ぎに多岐都比売の命
またの御名ハ 高津比売の命 またハ 辺
津島比売の命とまをす ここにまた 国照大
神に 先づ 天照大御神の御身に纏かしたま
ゑる 八尺の勾玉の 五百箇美須麻流の玉を
[三輪秀机に載せて 若比売の命 持ち出て
眼の上高に 畏れみ畏れみも 平手拍たしに
並めて 謹み 敬ゐ 弥々 平手に畏れみき
] 時に 国照大神ハ 左の御角髪に纏かせ
る 八尺勾玉の 五百箇の御統まるの 玉緒
を 乞イ度して 瓊之音も もゆらに 天の
眞名井に 振り滌ぎて 狭噛みに噛みに噛み
て 吹き棄づる息吹きの狭霧になりませる
神の御名ハ 天邇岐志国邇岐志天津日高日子
正哉吾勝勝速日天之忍穂耳の命とまをすま
た 右の御角髪に 纏かせる玉を さ噛みに
噛みて 吹き棄づる息吹きの 狭霧になりま
せる 神の御名ハ 天之穂日の命 また 御
鬘に 纏かせる玉を さ噛みに噛みて 吹き
棄づる息吹の 狭霧になりませる神の御名ハ
天津日子根の命 また 左の御手に 纏か
せる玉を さ噛みに噛みて 吹き棄づる息吹
の 狭霧になりませる神の御名ハ 活津日子
根の命 また 右の御手に 纏かせる玉を
さ噛みに噛みて 吹き棄づる息吹の 狭霧に
なりませる 神の御名ハ 熊野久須毘の命】
【ここに 天照大御神 天津愛子生れて 国
照大神に 告りたまイつらく これの後に
生れませる 五柱の彦御子ハ 物実 吾が物
に因りて なりませり 故 己づから 吾が
御子なり 先に生れませる 三柱の姫御子ハ
物実 汝の物によりて なりませり 直ち
に 汝の御子なり 此くと 告り分けたまイ
き】
-------------
2,10
-------------
故 その先に生れませる 多紀理比売の
命ハ 胸形の奥津宮に坐す神なり 次の狭依
比売の命ハ 胸形の中津宮に坐す神なり 次
の 多岐都比売の命ハ 胸形の辺津宮に坐す
神なり【これの三柱の 媛の大神 天より
埼門山に 降ります時に 青玉を 奥津宮に
置かし 紫玉を 中津宮に置かし 八咫鏡を
辺津宮に置かして 三宮に 御身代となし
たまイき 故 胸形といウ】また 豊日の
宇佐に坐します神なり
-------------
2,11
-------------
【ここに天照大御神 国照大神に 告りた
まイつらく 豊道之原の 中津国に 大宜都
比売の命といウ神あり 彼ハ 現しき青人草
の 喰イて 生くべき食物を 知る神なり
汝 往きて 見よヤ と 告りたまイき 故
国照大神 天降りまして 大宜都比売の命
に 食物を乞わしたまイき 故[大宜都比売
の命ハ 鼻 口 尻よりゆ 種々の種津物を
取り出 作り供ゑ 百取りの机所に 載せ
て 御饗エたてまつる時に それの状の拙き
を 窺見知ろしめして 怒り 面火照りまし
て 告りたまイつらく 穢わしきかも 何故
も 汚き物を以て 天津神に奉らにと 吾に
養ウぞ と 告りたまイて 直ちに 十拳
剣を 抜かして 大宜都比売の命を 斬りた
まイて 返り事まをしたまゑば]天照大御神
甚く 御怒りたまイて[汝ハ 悪しき神な
り 相見まく欲りせず と 一日 一夜 言
問イたまわずありき]ここにまた 天照大御
神 天熊之大人の命に 告りたまイつらく
大宜都比売の命ハ 青人草の食物を 知る神
なり 死去にてあれば 息呼ぶせなして 共
に 天に 返り言なせ と 告りたまイき[
故 天熊之大人の命 天降りまして 大宜都
比売の命を 目見侍ぶらすに 眞事に しハ
罷りたりき 故 これの神の 御身に成れ
る物ハ 御頭に 四の稲種なれり 御胸に
麦 黍 稗 なれり 御腹に 白豆 赤豆
八重豆なれり 左の御手に 粟 笹実なれり
右の御手に 菰実 黄黍なれり 左の御足
に 甘稈なれり 右の御足に 吉玉菜なれり
御陰に 蚕なれり ここに 天熊之大人の
命ハ 皆 取り持ちて 大宜都比売の命に
息呼ぶせに 平手に 掲げなすに 大宜都比
売の命 剣亡り 生き立ちたまイき 故 天
熊之大人の命ハ 天照大御神の 息呼ぶせ
また告りたまエる隨 に 奉りて 大宜都比
売の命と共に 天に 昇して 返り言まをし
き 故 天照大御神 甚く 御喜ばしたまイ
て 大宜都比売の命に 告りたまイつらく]
汝ハ 青人草の食物を 知れりなす 神にし
あれば それの 御種を 豊道之原の中津国
に 蒔き散らして 現しき青人草を助けて
食物を満ち足らわしめてよ と 告りたまイ
き 故 大宜都比売の命 告り言ちけらく
天照大御神の 吾を 愛じたまゑる御涙 吾
が頭に 零れ落ちて なれるものハ 稲種な
り 故 二種の稲を 水田津物となし それ
の大御目を 払わせまつる時に 御眉の埃
吾が頭に 分ぶき散りて なれる物ハ 作稲
種なり 故 こを 陸田津物となし また
吾が 殺さえにとせし時の御涙 零れ懸りな
れる物ハ 稗種 菰実種なり 故 こを 水
田津物と定め 外津物を 陸田津物と定めた
まイき また[天之邑君を定めて その稲を
天の狭田 長田に 植えしめたまゑば そ
れの秋 八束穂に 撓び繁りて いと良く稔
れり]故 水田津物ハ 四のあほ稲なり 稗
なり 菰実なり 陸田津物ハ 陸稲なり 作
稲なり 玉粟なり 玉薦なり 黍なり 大豆
なり 小豆なり 八枝豆なり 笹実なり 諸
手麻なり 狭実津物ハ 麦なり 故 こを
十四種津物といウ】
上津文 二の綴り 完エ
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3,1
-------------
上津文三の綴り
故 天照大御神 大宜都比古の命 妹
大宜都比売の命に 告りたまイつらく 豊道
之原に 天降りなして 人草に 馴ぎの食物
を作るさまを 教エ事なせ また 活咋イに
食ウべき状 腹を統べ状を 教ゑなしてよ
此く教ゑなして 現世吉さなせ また 厳
どに 諸神を召さしたまイて 汝が神たちハ
大宜都の神とともに 中津国に 天降りて
青人草の活咋ゐの腹を統べ 種々の種津物
作り足らし 揺らかし 口喰の様々を 訓
り伝て取らしてよ と 告りたまイき 各も
各もに 承け引きて 天降りましき
-------------
3,2
-------------
ここに 大宜都比古の命 妹 大宜都比女
の命ハ 種津諸神たちを 召さして 天降り
まして 奇日の襲の櫛觸岳の 三田井の真中
に 水田津作りなさして 天の狭田と 定め
けみの岳の 水出る眞中に 陸田津作りな
さして 天の陸田津と定めき 故 大宜都比
古の命 妹 大宜都比売の命の御子 田作之
男の命 妹 田作之女の命 畑作之男の命
妹 畑作之女の命たち 斎鋤斎鍬以て 山の
背 山の屈 峡立の丘の上の 岨峡の木を切
り 屈処に通し 埴以て埋め 直田となし
高みハ 茎立て 直田となす 大山津見の命
妹 大山比売の命ハ 八柱の山津見の神に
仰せて 泥を吉土とし 険土を悪土とし 木
立つ山 木立野 山原 荒野原 豊野原 大
浦 小浦に 沼海の磯辺浦 遠津海の磯辺浦
神の柔々に 発さして 諸処に 斎祓イて
人草の長田 広田を開かゐ 捲くり立てな
しに 天之水分の命 妹 国之水分の命 水
別の命 水足の命ハ 高山に 諸手を差し引
きて 込み満たせ ゆはらゆはらと 弥手に
眞中山に 樋立を 差し引き 山に 水立
を 差して 引き込み満たせ いはらいはら
と 弥手打ちに 引き纏びて 出る水を 長
田 広田に 庭津取り掛け 葦並み 稲作り
稗作り 菰実作り 八束穂に 繁垂りき
また 畑津留 掘らかし 開かゐ捲くり幾津
幾粟 幾黍 幾蕎麦 幾笹実を 種々蒔
かし また 畑津留水田津留に 幾狭実津物
を蒔かし また 弥々 玉菜 根菜 葉菜
実菜を 蒔かして 種津の副物に 品足りき
故 水田津物 畑津物 十四種津物 八百
穎 千穎長足り 幾寿ぎ御世に 歌イ奏でき
-------------
3,3
-------------
ここに 天照大御神 告りたまゐつらく
汝神たちハ 天の種津分りの神たちを 召さ
して 大八洲豊道之原の 山の隈々 国の国
々の極みまでに 開かイ起し 青人草の食
イて 生くべき食物を作れる業を 青人草に
教ゑ訓り伝てなさにと 告りたまイき 故
ここに 大宜都比古の命 大宜都比売の命
大山津見の命 大山比売の命たちハ 共に
千萬の 種津の神たち 共びて 水田津 畑
津を 開かイまします 国の国々 島の島々
生き足りなす
故 臼杵ゆ始めて 奇日別 豊日別
白日別 速日別 建日別 天之一箇柱 天
之狭手依 天之忍許呂 秋津根別 草木根別
淡海根別 伊勢津媛 狭依科別 遠津海別
无邪津海別 常陸彦 野陸媛 陸奥別 越
根別 丹波別 出雲別 穴門別 吉備津根別
愛媛 飯依彦 大宜津媛 建依別 国の国
々 島の島々を駆けり廻りたまイて 種津の
千道 御教ゑ訓り伝てて 八百丹吉し平地
美地に告らしましき
-------------
3,4
-------------
ここに 天照大御神の 御言以ちて 天降
活魂之大御食津豊宇気比古の命 またの御名
ハ 大宜都比古の命 妹の御名ハ天降活魂之
大御食津豊宇気比売の命 またの御名ハ 大
宜都比売の命の生みたま エる御子の御名ハ
稲依比古の命 妹 稲依比売の命 大結比
古の命 妹大結比売の命 水戸別足比古の命
妹 水戸別足比売の命 阿加麻多比古の命
妹 阿加麻多比売の命 これの神たちハ
瑞の幸栄エの 訓り伝てなしたまウ神なり
玉知之男の命 妹 玉知之女の命 玉敷之
男の命 妹 玉敷之女の命
天足之男の命 妹 天足之女の命 狭名実
守之男の命 妹 狭名実守之女の命
豆代之男の命 妹 豆代之女の命 豆照之
男の命 妹 豆照之女の命
豆隠之男の命 妹 豆隠之女の命 御田道
若男の命 妹 御田道若女の命
篠依之男の命 妹 篠依之女の命
これの神たちハ 畑津の幸栄エを 訓り伝
てなしたまウ神なり
津守菰代比古の命 妹 津守菰代比売の命
これの神ハ 水田津 畑津 御田津の種代
なして 殖ゆ津の訓り伝ての神なり
活伴之男の命 妹 活伴之女の命 萬菜取
之男の命 妹 萬菜取之女の命
萬石津菜取男の命 妹 萬石津菜取女の
命 炊語之男の命 炊語之女の命
これの神たちハ 食す菜 菜取り作りの訓
り伝てを 豊道之原の 国の極み 島の極み
共に駆けり 教ゑ降ち 心伝て 神訓りた
まイき
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3,5
-------------
ここに 天照大御神 大綿津見松浦比古の
命 大綿津見神門比売の命に 告りたまイつ
らく 汝神ハ 海原を知れる神にしあれば
それの海原に 御魚作りなして 現しき青人
草のために 魚取りの神となれよと 天之安
之河なる 八十隈手の 石産す御苔を取らし
て こを以て御種になし 大海に蒔き散らさ
にと 告りたまイき 故 ここに 二柱の神
飛み雲を呼びて 乗らしまして 幾ら 海
原に散らし放らげまししかば その御苔の端
に なれるハ 大海魚なり 下苔になれるも
のハ 小海魚なり 御苔根の州処に 零れ散
りたるハ 皆 八十の貝魚となりき 故 大
御神の命 告りたまわく 全べ 食ウものハ
その卵 多しきハ食エ 多さぬハ な食ゐ
そ 毒なす と 告りたまイき
-------------
3,6
-------------
ここに 宇迦之御魂比古の命 宇迦之御魂
比売の命ハ御子の香土開上比古の命 妹 吉
道路開岡比売の命を召さして 天照大御神の
御言以て 告りたまわく 汝神ハ 水田津物
地 畑津物地を作らに時の扶けとならに御力
多なるものを 作り生ゐえよ 彼の時 そを
廻み入れて 賄なエと 告りたまゐき 故
香土開上比古の命 妹 吉道路開上比売の命
ハ やがて 大空に ほほ鳴りて 御左の御
脚を 八進に張りて 苔産す原土を なゆら
なゆらに 原土を 建び建びに 厳ろになせ
ば 狭髪なる毛物成りき また 御右の御脚
を 八進に張りて 苔産す埴土を なゆらな
ゆらに 埴土を ゆくらゆくらに 和うらし
ませば 角なる毛物成りき ここゆ 天照大
御神の御許に 香土開上比古の命 吉道路開
岡比売の命 天昇しまして 大神に供エまつ
る 故 雄の建びになるものハ雄なり 雌の
建びになるものハ 雌なりとウて 称エ言ま
をす 大御神の命 甚く 嘉み寿ぎたまイて
告りたまイつらく こハ 青人草の扶けと
なれる毛物になもあり 汝 これに乗りてみ
よヤ と 告りたまエば 諾とウて 二柱の
神 直ちに 狭髪なる毛物に 男ハ雄に 女
ハ雌に跨げ 乗り巡らしつれば かららから
らと 潔に駆けりなしつ 故 大御神 頓
喜ばして 告りたまわく こハ 体力 多く
て 巧く走すかも と 告りたまイ 故 こ
れの毛の物を 馬といイ また 二柱の神
角なる毛物に 打ちこじり 乗りましつれば
てほろてほろ と滞 ぶれて 往き廻れば
大御神の命 嬉しみ 喜ばして 告りたま
イつらく 先の毛物と同じ力や 良けれど
道往きハ 滞に 憂しくこそあれ 然なれど
こハ 田乃土耕ゑしハ 忠励たちならに
と 告りたまイき 彼の角なる毛物 牛と名
付け また まめゐともいウ これの時に
大御神の命の御言以ちて 宇迦之御魂比古の
命 妹 宇迦之御魂比売の命 二柱の神に
言依さしたまゑば 直ちに香土開上比古の命
吉道路開岡比売の命 ハ 馬と牛とを引き
て 越根別の白加恵に 天降りまして これ
の種を 敷き産さし 多々に 国の国々 島
の島々に 蒔かしましき
-------------
3,7
-------------
ここに 天照大御神の御言以ちて 闇淤加
美の命 妹 闇弥都波毘売の命に 仰せたま
イて 秋の垂り穂の種津物を 刈り納め 直
らウ その道の状を 青人草に 教ゑまさに
とて 天の丸太ハ 堅木以て 作らし【簸る
箕ハ 桜の皮を剥き 五百し葛を削ぎて 作
らしめ】とエしハ 黒葛を編ませ 畑道の藤
料 を編ませて 取り業の道法を知らせ と
依さしたまイき
-------------
3,8
-------------
ここに 迦具土の命 妹 火之夜芸速女の
命ハ 大御神の命の 御言以ちて 御子の神
火之燿鉾之男之命 妹 火之燿鉾之女の命
二柱神に 火焚きの道を在させ 国毎 島
毎 蒔かせ また 火之速玉之男の命 妹
火之速玉之女の命に 青人草の食らウべき種
津物を 焼き炊ける状を 知らせたまイき
ここに 波邇夜須比古の命 波邇夜須比売の
命ハ 御子 天之秀瓦之男の命 国之秀瓦
之女の命に 仰せて 高山の背低山の尾より
埴土を採らして 丸木を 槌手とし 茅萱
を 蜘蛛手とし 埴を円めて 秀瓦とし あ
ぬをくりに 眞風 日風に晒して 轆轤を打
ち また 埴と砂とを以ちて 男窯 女窯を
なり立て 轆轤打てる秀瓦を中に押し入れ
山の茎木を 伐りて 小切りなさし 男窯
女窯に 打ち焼べて 飯釜 実釜 幾ら幾
ら幾らに 焼き干して 煮る利瓦 食らイ平
瓦を作らし 水伊津比古の命 妹 水伊津比
売の命ハ 大土の底津水を招びて 食物を
水以て啜り 水以て 天の押石の長井の水を
取り出たまイき
-------------
3,9
-------------
宇麻志金持男の命 妹 宇麻志金持女の命
ハ 峡立ての 木を伐り こ切りて そ
れの中を剥り 全抜きて 臼となし 下枝を
切りこ切り 横孔を貫きて 堅木を切りて
上差しに 取り嵌めて 持ち手とし 横杵
とし 堅木こ切りを縦杵とし 豊の種津物の
実の粗皮 大皮を 尽くさしめき
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3,10
-------------
また 国の金山の金を取らして 火に焼き
て 焼き鉈となし 幾ども 魚取り 弥切り
事し 鰭の広物 鰭の狭物を 海魚引き手と
なして 清まわりしめき【ここに 大綿津見
の命 妹 大綿比売の命の御子の神 天照大
御神 重ねて御子の神を召さして 海津鰭遠
岐の命 海津鰭遠美の命に 告りたまわく】
これの蒼海之原ハ 極み無にあるかも 故
こに 大海魚 小海魚 諸海魚を 多に 蒔
かせれど 極み無に 広らなれば いと 細
小なす 故 大海之原に 繁きく 弥多けく
生ゐ立てに 常世足らしなさして 天津神
の朝の御食 夕べの御食の 眞添ゑの御菜に
奉りならまじ 故 天之安之河の石種を
砂に取らして賜ゐき ここに 御子 海津鰭
遠岐の命 海津鰭遠美の命ハ 畏みて 大御
神の命の告りたまえりし 天の石村種 天之
安之河原の真砂を 掬びて取らして 蒼海之
原に 打ち降らして 天の掬びに 掬べる石
種 砂を取らして 潮を凝りて 砂に注ぎ
平手打ち出 息呼ぶせの道なして 海霊 海
霊 幾霊 幾霊 萬卵 生イに 萌エ萌エせ
せ と 告りて粗き石種 砂 を 吹き蒔き
散らしたまエば 大海魚 海魚の背々に 掛
かり また 細き石種 砂を 息吹に棄つる
に 諸海魚の背に飛び着きて 海魚 尽々に
皆 卵を孕みたりき 一魚腹に 弥萬の卵
なして 海原に盛る また こゆ 海魚の石
種 砂 風の共に た走り 飛びて 国々の
湖 山水 川水に 飛び入りて 川水魚なり
き ここに 二柱の神ハ 栲の木の皮を 打
ち剥ぎて 糸とになし そを編みて 海魚取
りの受け網を作り また 糸とを 編分けて
大鈎 小鉤を 付ねて 栲縄着けに 海
魚 川水魚を取る百道をなしたまイき 故
先の 二十八柱の神を 豊種津物の神といイ
八柱の神を 豊菜の神といイ 十四柱の神
を 豊食の神といウ
-------------
3,11
-------------
ここに 天照大御神 召さしたまイて 活
津比古根の命 妹 活津比売の命に 告りた
まイつらく
汝二柱の神ハ 天の酒作りなして 天降り
なせ また 熊野久須毘の命 妹 熊野久須
売の命に 告りたまイつらく 汝二柱の神ハ
未醤作りなして 天降りなせ
故 酒ハ 米を飯に蒸して 醸せよ 麦も
飯に蒸して醸せよ 醸せむには 真水以て
為せ また 麦と八豆とを 眞実穂に切りて
潮以て 醸し行せ と 告りたまイき 故
活津比古根の命 活津比売の命ハ 狭依科
の国に 天降りまして 米以て 麦以て 飯
に蒸して 真水以て修して 醸なしましき
故 米に成れるハ眞酒なり また 麦に成れ
るハ御酒なり 熊野久須毘の命 熊野久須毘
女の命ハ 穴門の国に 天降りまして 麦と
八豆とを以て 穂に切りて 潮以て修して
こに成れるハ未醤なり 故 酒ハ薬主とし
未醤ハ薬禰となせ また 未醤ハ 豊菜の眞
添えとなもなせと 告りたまイき
-------------
3,12
-------------
ここに 天照大御神 御言召さして 大山
津見の命 大山比売の命に 告りたまイつら
く 汝の御子たちに 仰せて 現しき青人草
の 住むべき家作りなさしめよ と 告りた
まイつれば
大山津見の命 大山比売の命 諾 と答ゑ
まして 直ちに 八柱の神に 訓り分まり
間分まりなしたまイき ここに 二柱の神ハ
大御神の御言以ちて 正鹿山津見の命に
千尋の栲縄を 幾らに 綯わせ 於滕山津見
の命に 弥尋木を 伐らしめて 幾らなく
柱となし 奥山津見の命に 御丸木を 伐ら
しめて 梁木 桁木 閾木 幾らなすとなし
闇山津見の命に 斎丸木を 伐らしめて
差木 帯木 幾らなすとなし 志芸山津見の
命に 弥尋葛を 取らしめ 原山津見の命に
広草を取らしめ 戸山津見の命に 大竹
小竹を 取らしめて 大山津見の命 大山比
売の命ハ 八柱の神と共に 弥尋木を 柱と
なし 眞中に 御分り立て 弥挽きおり 切
り家の戸柱となし 敷き分りて 梁木 桁木
を 敷き分り 弥分りて 弥尋葛を 柱の尽
々 結イなし 帯木を帯ばせ これの帯木を
八重葛以て 結ゐ吊りに 結イ固め 差木
を 敷き並み 大差木を 引き手繰りに 上
せて こを 多々に 結イ固め 茅萱を 束
々に 敷き積み その上その上に つかしを
敷き積み 栲縄以て 結イ固め 丸木散ら
しに 千木となし その上に 弥尋木を 引
き手繰りて 堅魚木 勝女木となし 棟腹に
千草を産し生わして 長雨 短雨を 忍ぶ
便りとなし 戸建に 柝竹を繁き建て また
柝竹を引き手繰りに 結イ固め 赤埴以て
弥 塗ろしに塗ろゐ捌ぎ固め 葉柴 木柴
を 角目に結イて 入る出るの時 便として
持ち廻りに祓エて 黄埴以て 間構イを作
らしめ 飯炊く秀瓦イ 菜炊く秀瓦ゐ その
上に置きて 食物の便となしたまゐしより
竈といウ こを以ちて 二柱の神ハ 八柱の
神に 百千人の添人をなして 草木根ゆ始め
て 国の国々 島の島々ぬ 国駆り 島翔り
て 天之一箇柱にて 完エぬ これの暇ハ
一歳 未だに 豊道之原の極み迄 造り完エ
たまゑば こを以ちて とまゑ と なも
いイける
-------------
3,13
-------------
ここに 天照大御神 萬言息吹比古の命
萬言息吹比売の命に 告りたまイつらく 吾
が裔の知らす 豊道之原の 国の国々 島の
島々ぬハ 言問イ いと 憂くして 聞きに
聞こゑずあれば 汝神たち 天降りなして
これの 高天之原の言問イを 国津現人に
眞移しなして 言伝てせな と 告りたまゐ
き こゆ萬言息吹比古の命 萬言 息吹比売
の命ハ 草木根の国の 哮の御岳に 天降り
まして 天の言の葉の別 国の言の葉の別
あ い う え を別 て に ウ ほ別
を は れ て ぬ別 吉言別 悪言別 和
し言別 荒ら言別 延言別 縮こ言別 言の
音別 言の色別 言の分別 言の緒別 言の
際別 言の斎別 眞言別 名言別 仮葉別
顕に葉別 尽々に 言伝てなしたまウ 故
秋津根比古の命 秋津根比売の命に告らして
然々を 秋津の国の 青人草に 言伝てな
したまイき 草木根別の命 草木根比売の命
に 告らして 草木根の国の現人に 言伝て
たまイき 久久能智比古の命 久久能智比売
の命に 告らして 久久の国の現人に 言伝
てたまイき 淡海根比古の命 淡海根比売の
命に 告らして 淡海の国の現人に 言伝て
たまイき 伊勢津比古の命 伊勢津比売の命
に 告らして 伊勢津の国の現人に 言伝て
たまイき 狭依科別の命 狭依科比売の命に
告らして 狭依科の国の現人に 言伝てた
まイき 遠津海別の命 遠津海比売の命に告
らして 遠津海の国の現人に 言伝てたまイ
き 无邪津海比古の命 无邪津海比売の命に
告らして 无邪津海国の現人に 言伝てたま
イき吉陸比古の命 吉陸比売の命 に告らし
て 吉陸の国の現人に 言伝てたまイき 野
陸比古の命 野陸比売の命に告らして 野陸
の国の現人に 言伝てたまイき 陸奥別の命
陸奥比売の命に告らして 陸奥の国の現人
に 言伝てたまイき 越根別の命 越根比売
の命に告らして 越の国の現人に 言伝てた
まイき丹波別の命 丹波比売の命 に告らし
て 丹波の国の現人に 言伝てたまイき 出
雲別の命 出雲比売の命に告らして 出雲の
国の現人に 言伝てたまイき 穴門根別の命
穴門根比売の命に告らして 穴門の国の現
人に 言伝てたまイき 吉備津根別の命 吉
備津根比売の命に告らして 吉備の国の現人
に 言伝てたまイき 豊日別の命 豊日比売
の命に告らして 豊国の現人に 言伝てたま
イき 白日別の命 白日比売の命に告らして
白日の国の現人に 言伝てたまイき 速日
別の命 速日比売の命に告らして 速日の国
の現人に 言伝てたまイき 奇日別の命 奇
日比売の命に告らして 奇日の国の現人に
言伝てたまイき 狭手依比古の命 狭手依比
売の命に告らして 天一箇柱の現人に 言伝
てたまいき 愛媛別の命 愛媛之女の命に告
らして 愛媛の国の現人に 言伝てたまイき
飯依比古の命 飯依比売の命に告らして
飯依の国の現人に 言伝てたまイき 大宜都
比古の命 大宜都比売の命に告らして 大食
津の国の現人に 言伝てたまイき 建依別の
命 建依比売の命に告らエて 建依の国の現
人に 言伝てたまイき
-------------
3,14
-------------
ここに 天照大御神 天津明魂之男の命
天津明魂之女の命 天津躯居之男の命 天津
躯居之女の命 四柱の神に告りたまイつらく
汝神ハ 現しき青人草の 魂守る神 躯身
守る神 と 称エて 守り活けなせ と 告
りたまイき 故 天津明魂之男の命 天津明
魂之女の命 汝が二柱の神ハ 青人草の御魂
を守りて 醜魂 穢れ魂 悪じ魂 有らしめ
ず 幸く 豊くなし 顕事完ゑ 隠事に到ら
ば 吾が高天之原に 星の神となして 吾が
前津辺に 天昇しなさせめて 斎かせよ も
しもに 真黒心有らば 遠く 黄泉津に逐イ
棄て消せ と 告りたまイき また 天津
躯居之男の命 天津躯居之女の命ハ 青人草
の御體守る神になもあるからに 日守り 夜
守りに 御體逞まに 潔に 眞力太に 長足
らしに 足らし足りに 守りなせ と 告り
たまイき また 天照大御神 首比古の命
首比売の命に 告りたまイつらく 汝神ハ
人草の御頭を守れ目盛男の命 目盛女の命
に 汝神たちハ 人草の目を守れ 歯根囲見
男の命 歯根囲見売の命に 汝神たちハ 人
草の歯根を守れ 食口の命 食口女の命に
汝神たちハ 人草の口を守れ 跟踵伎の命
跟踵美の命に 汝神たちハ 人草の踵を守れ
左手振比古の命 右手振比売の命に 汝神
たちハ 人草の双腕を守れ 左踵比古の命
右踵比売の命に 汝神たちハ 人草の双脛
を 守れ 胸岡之男の命 胸岡之女の命に
汝神たちハ 人草の御胸 御腹を守れ 大背
岡岐の命 大背岡美の命に 汝神たちハ 人
草の御背平を守れ と 事依さしたまイき
故 各も各もの神たち 共に 天駆り 国
分り 御體散らし 神散らしたまイて 千々
千々の 現しき青人草の 一人一人の 窶
し背平の 撓知りの神とまをす
去にし世の先に 伊邪那岐の命 伊邪那美
の命 禍津神を 外津世の黄泉津に 神逐イ
に 逐ゐたまイしゆ 豊道之原の中津国 甚
豊けく 直に 斎々しに 天照大御神 国
分りまして 天津御虚空に 御照らしたまゑ
るからに 荒ぶる頭どもハ 外津黄泉津に
縮繰り込みき
-------------
3,15
-------------
ここに 天照大御神 十四の 神たちに
告りたまイつらく 汝ハ 絹取りの神となり
て 青人草に 絹取りの道伝てせな と 告
りたまイき 故 天津繭別之男の命 天津繭
蚕比女の命ハ 野陸の国に 天降りて 繭蚕
を 放ちまして こを育て養イ 喰わす 薬
なす太榛を 植えさせたまイき
故 これを桑木といウ 繭蚕を葉飼ゐて 空
布とし【口に含みて 糸に紡つ】天之阿賀比
比古の命 天之阿賀比比売の命ハ 大食津の
国に 天降りまして 麻と楮とを 植え作ら
しめ 降ち長に なさせしところを 楮長と
いウ その皮を 引剥ぎに剥ぎて 糸に績ま
せ 天津紡比古の命 天津紡比売の命ハ 豊
日別の国に 天降りまして 草綿と葛条とを
植え作らしし処を 綿田といイ また 条
を植エしとこを 越智といウ それの実を取
りて 狭糸に紡がせ 天之棚機比古の命 天
之棚機比女の命ハ 秋津の国に 天降りまし
しとこを 桁田といイ 繭蚕の糸以て 綾に
織りたまイしところを 遠里といウ 天之若
武比古の命 天之若武比売の命ハ 穴門の国
に 天降りまして 倭文を織りしところを
石内といウ 天津千針比古の命 天津千針比
売の命ハ 出雲の国に 天降りまして 綾布
を切り断ち 男衣 女衣を 針以て 糸連を
秀なして 夏の暑さ 冬の寒さを 凌ぐ便
とし 天津蘿依比古の命 天津蘿依比売の
命ハ 草木根の国に 天降りまして 倭文を
切り裂きて 暑さ 寒さ 朝衣 夕衣に 針
以て 糸に接く結イなして 種々の衣物を
作りなす 故 各も各もの神たち それの国
ゆ 始めたまイて 八百国 八千島に 物学
びなさせて 訓り伝てたまイき 天照大御神
天津訓の神訓を 諭したまゑる随に 豊道
之原の 瑞穂の国に 諸神たちに 道知りな
させて 種々 千萬の法道を 完ゑ垂づてま
ししからに 瑞穂の人草 雨の隠り 風の隠
り 暑さ隠り 寒さ隠り 家なし 衣なして
食物ハ 飢エじ と なし 荒ぶる頭ども
ハ 神逐イまし 厳し御世に 朝楽し 夜楽
し 老ゆ 媼 益男 益女 子 童 共に
歓く 春ハ 花に歌イ 夏ハ 繁き葉に歌イ
秋ハ 弥束穂に歌イ 冬ハ 片葉に歌ウて
可笑じる
-------------
3,16
-------------
【ここに 勝速日建速須佐之男の命 天照
大御神にまをしたまイけらく 吾が心 清く
明き故に 吾が生めりし御子[日子御子
得たり]こに因りてまをさば おのづからに
吾 勝ちぬ とウて 勝ちさびに 荒び
猛びて 春ハ その御作田の畔を 離ち 溝
埋め 樋離ち 重き蒔きし[秋ハ 種津物完
ゑに実れる取る時に]絡縄を引きて 馬伏
せ籖捶き また 天照大御神の[新嘗聞こし
めす時に それの 新宮の 御蓆の 下辺
に 密かに 糞放り散らしき 大御神 知ろ
しめさずて 直に それの御座の上に 居ま
しき こに因りて 大御身 不平みましき]
[然すれども 大御神 御慈しみの御心以ち
て 咎めたまわずて 告りたまイつらく 糞
なすハ 酔イて 吐き散らすとこそ 畔離ち
溝埋むるハ 其処を 惜し とこそ と
告り直したまエれども それの 悪き 眞黒
業 止まずて転あり]】【ここに天照大御神
斎機屋に在したまゐて 稚比売の命に 神
の御衣を 織らせたまウ時に 須佐之男の命
そを窺き見て 天の班馬を 生剥ぎの逆剥
ぎて 殿の内に 投げ入れたまイき 稚比売
の命 御畏み 驚こして 機より 横手繰り
に 落ちて 持たる梭に 身を傷ゐて 御陰
ゆ 血走りて 神避りましき 故 ここに
天照大御神 須佐之男の命に告りたまイつら
く 汝ハ 穢き心ばエ 止まずてあり 相見
まく欲りせず と 告りたまイて 直ちに
天の岩屋に 御入らせたまイて 岩戸を 閉
てつけたまイき[これによりて 高天之原闇
く 天の下 豊道之原の瑞穂の国 続きて
外津世の国の国々まで 尽々に暗し
故 諸々の物事を火灯し弁ゑき]】
然らぬだに 荒ぶる 禍津頭どもハ 伊邪
那岐の命 伊邪那美の命 二柱の天津大神の
気詰めに 神逐イに逐イたまゐしゆ こなた
天照大御神の御稜威の御光に 気圧され
黄泉津外津世に 縮こまゑて くくくくしし
動き得ぬに 時し得て 荒ぶる頭ども【音
なイ 五月蝿なし[みな脹らに 湧き出る]
萬の物の 音なイハ 祟る妖 悉とに 発り
き】
-------------
3,17
-------------
【ここを以て八百萬の神たち憂イ 迷わ
せたまイて 天之安之河原に 神集ゑに 集
ゑて 祷ぎまつるべき方業を 種々に 論イ
まして 天津大御神たちの 太御許に 然々
の方を 良かやかに 祷ぎまつるべき業言を
祷ぎ言に 告り挙げましき 時に 高御産
巣日の命 神御産巣日の命の御言以ちて 八
心思金の命に 思わしめたたまイき これの
神ハ 思ゐ謀りの 覚れる理の 深く在す神
なり 故 思ゐ謀り 告りたまイけらく 大
御神の御像を 写し造り 良かやかの 謀り
なして 招ぎまつらに とまをしたまイき】
【ここに 八心思金の命の 御謀りの随に
伊斯許理度之男の命 伊斯許理度之女の命ハ
天之安之河原の河上なる 天之堅石を取り
金山比古の命 金山比売の命ハ 天之香山
の眞金を取り 天津眞浦の命 天津麻牟羅の
命ハ 眞金を求きて 日の大御像の御鏡を
眞清みに清みて 二つ造らしき これの二つ
ハ いと 小さくて 諸神たちの 御心に
適わず】【次に造れりし八咫鏡二つハ それ
の状 美しくて 諸神たちの 御心にも合エ
り】久久能智の命 久久麻遅比売の命ハ 天
の眞名木を 取り剥ぎて 天の羽鞴を作り立
てましき
-------------
3,18
-------------
明立天之御影の命 豊櫛比売の命ハ 天
降り駆りて 日向の高千穂山の 黄金を 求
ぎて 柝鈴 五十鈴を 作りましき
天之抜戸之男の命 天之抜戸之女の命ハ
天降りて 陸奥の加賀古の山の白金を取り
合兎鼓 五十兎鼓を 作りまし 活津比古根
の命 活津比売那の命ハ 天降りて 穴門の
黒金の焼金以て 種々の太刀と鉾と鐸とを
作りましき 天之日鷲比古の命 天之加奈止
美比女の命ハ 天降りて 大食津の富樫に
楮の木を植エて 白和幣を作りましき 長白
羽比古の命 白羽比売の命ハ 天降りて 草
木根の加太に 麻を植エて 青和幣を作りま
しき 山雷之男の命 山雷之女の命ハ 香山
の五百枝眞賢木を取り 八十の玉串を作りま
し 野椎之男の命 野苧之女の命ハ 五百重
大野原の 野薦を選り取りて 八十の玉串を
作りまし 天之櫛明魂の命 羽玉比売の命ハ
八尺の勾玉の 五百箇御統の玉を 清み磨
りに 磨らしましき【熊野久須毘の命 熊野
比売の命ハ 天降りて 丹波の竹を取らし
節の合イに 穴貫きて 吹き竹を作りまし】
伊豆之男の命 伊豆能売の命ハ 天降りて
遠津海の大竹を取り 一箇穴を貫きて 法螺
を作り 衝立船戸の命 衝立船美の命 道之
長乳歯の命 道之長乳女の命 天津比古根の
命 天津夷鳥比売の命ハ 天降りて 狭依科
の久久知山の 御広木を取り伐り 全貫きに
貫きて 愛媛山の五尋藤を切り 其皮を
薄剥ぎに 剥ぎて その皮を 空ろ大木に張
り 包み固めて 轟となし 狭枝以て 打ち
鳴らしなすに ととろ ととろと そが音
いと 爽やぎき 故 こを ととろ鼓 と
いウ 天之香具山の命 香具夜比売の命【天
之加奈止美の命 天之波比売の命ハ 天の加
久弓 八張を並べ結イて[狙の松蘿を緒とし
て]作りて 悉に 茅と菅とを以て 掻き鳴
らしみるに そが音 いと 妙にありき 故
こを 琴といウ】
-------------
3,19
-------------
天之御鉾男の命 天之御鉾女の命ハ 倭文
八十垂を織らし 天之八千千比古の命 天之
八千千比売の命ハ 神御衣を織らし手置帆負
の命 多久豆玉比売の命 彦狭知の命 天之
太比売の命ハ 天津御量 また 斎斧 斎
鉈以て 大峡 小峡の眞木を 伐りて 斎柱
を御立て 瑞の御殿を造り 天之時置師の命
天之時押女の命ハ 御笠鉾 楯を作り 日
受 雨受なす 天之御境比古の命 天之御境
比売の命ハ 膳 七供紗 五供紗 三供紗
を取り散らかし 奥津比古の命 奥津比女の
命 庭高津日古の命 庭高津比売の命 天之
御井之男の命 天之御井之女の命 阿須波比
古の命 阿須波比売の命 波比岐日遅の命
波比岐日母の命 天津秀瓦男の命 天津秀瓦
女の命 膳物作り連ね膳 三つの供紗を敷
きて 各も各もに 柏葉を敷き重ねて 白飯
を 秀瓦高に 左の前津物とし 汁秀瓦を
右の前津物とし 甘汁秀瓦を 左の先津物と
し 生秀瓦を 右の先津物とし 香秀瓦を
中津物とし 左の膳を置きて 汁秀瓦 かぬ
秀瓦 ちぬ秀瓦 ぬぬ秀瓦を置き 右の膳
二供紗に 汁秀瓦 そき秀瓦 先津膳 三供
紗に 利碗 水碗 焼碗 干碗に 山なす如
に 斎まわり 清まわりなして 山野物 海
川物 多 弥立てに 玉菜 しし菜 甘菜
辛菜 沖津藻菜 辺津藻菜 大海魚 小海魚
種々の御食物と 斎火に 炊き凝らし 作
り供エに 供エましき
上津文 三の完エ
-------------
4,1
-------------
上津文 四の綴り
ここに 十四の種津の神たちハ 各も各も
に 作りなせる 種津実を 奉りき 故 大
宜都比古の命 大宜都比売の命の御子 稲依
比古の命 稲依比売の命ハ 稲 萬斛を奉り
玉知之男の命 玉知之女の命ハ 陸田津稲
実 萬斛を奉り 赤玉比古の命 赤玉比売の
命ハ 色稲実 萬斛を奉り 玉敷之男の命
玉敷之女の命ハ 玉粟穂実 萬斛を奉り 天
足之男の命 天足之女の命ハ 青薦実 萬斛
を奉り 種実守之男の命 種実守之女の命ハ
黍実 萬斛を奉り 大結比古の命 大結比
売の命ハ 稗実 萬斛を奉り 水戸別足比古
の命 水戸別足比売の命ハ 菰実 萬斛を奉
り 豆代之男の命 豆代之女の命 豆汲之男
の命 豆汲之女の命 豆照之男の命 豆照之
女の命たちハ 種々の豆実を 萬斛を奉り
御田道若男の命 御田道若女の命ハ 眞蕎麦
実 萬斛を奉り 篠依之男の命 篠依之女の
命ハ 笹実 萬斛を奉り 七活伴之男の命
七活伴之女の命 萬菜取之男の命 萬菜取之
女の命 萬石津菜取男の命 萬石津菜取女の
命 炊語之男の命 炊語之女の命たちハ 甘
菜 辛菜 いみ藻 ぬゐ藻 萬斛を奉り 天
津海鰭比古の命 天津海鰭比売の命ハ 千萬
の 海魚の大物 海魚の小狭物 太藻菜 小
藻菜を 山なし奉る
-------------
4,2
-------------
【此く此く 捧げ物を 設げ供ゑて 天津
大言国之言主櫛麻知天之児屋の命 妹 許登
能麻遅比売の命 天之斎櫛国之斎櫛秋津鐸太
玉之男の命 妹 天之櫛魂比売の命 共に
論イ定めまして 占エ眞叶わし 天之香山の
眞雄樫の上津枝の条を 全貫きに貫きて
波波迦を取り それの皮を 焼きて 太占に
卜エなしたまイしかば 御卜 謀に叶イき】
【ここに天之児屋の命 許登能麻遅比売の命
ハ 天之香山の五百枝眞賢木を 根掘しに
掘じて上津枝に天之明玉の命の磨れる 八尺
の勾玉を 取り着け 中津枝に 天之香具山
の命の作れる 八咫鏡を 取り着け 下津枝
に 天之日鷲の命の作ける木綿を取り垂き
これの 種々の物ハ 天之太玉の命 天之櫛
玉比売の命 太御幣と取り持たし 天之児屋
の命ハ 太祝詞言に 祈ぎまをして 神祝ぎ
に祝ぎたまイき】
-------------
4,3
-------------
【ここに 常世の 長鳴き鳥を集めて 互イ
に 長鳴きせさしめ 天之手力之男の命ハ
岩屋戸の脇に 隠り立たしまし】田心比売の
命 湍津比売の命 狭依比売の命 御食津比
売の命 許登能麻遅比売の命 櫛玉比売の命
泣澤之女の命 天之伊豆之女の命 棚機比
売の命 彌都波能売の命 速秋津比売の命
鹿屋野比売の命 若沙那女の命 夏之女の命
秋比売の命 千依比売の命 また 八十の
比売神たちハ 黄金 白金に作れる 千花の
冠を 着らし 大御衣垂での 衽に 火丹色
の長御袴を 着けらしたまイ 手にハ 貴玉
の緒長に 五百箇の玉を 飾らして 岩屋戸
の左右に 並み居まし 八十八柱の 天津高
みの大神たちハ 御頭に 黄金勾玉の円穂の
御冠に左 右の手巻差しに 太広の衽を召さ
し 八雲の御袴を 着さしまし 手にハ 大
玉の貴玉を 持たしたまイて 岩屋戸の左の
新殿に 保イたまイ 八百柱の天津神たちハ
御頭に 思随の御冠 太袖の火の衽を着ら
し 千草袴を 腰垂らし 御手にハ 貴玉を
取らし 岩屋戸の右の石村に 並み居まし
八百千柱の神たちハ 岩屋戸の眞向かの原に
並み居まして 歌を歌イて 種々の鳴らし
笛 息吹笛を取らして 天地に散らけ 囂し
-------------
4,4
-------------
【天之宇受売の命ハ 神遊びの長として】歓
らぎの比売神たちを率きて【天之香具山の天
の日蔭を 鬘とし 天之眞拆を髪插に刺させ
八つ手葛を 襷に手繦きて 笹葉を手草に
結イて 手にハ 鐸着けたる矛を持ち 歓ぎ
女八人ハ 手にハ 茅巻きの矛を持ち 右手
に 五十鈴を取りて 岩屋戸の前津辺に 槽
伏せて 踏み轟こし 神懸りなし 雀踊りて
舞ゐ廻びに 一 二 三 四 五 六 七
八 九 十 百 千 萬 十十百百千千千
千萬萬 とと 歌イて 合菟鼓に歌イ
あなに 吉し あな 嬉し あな 貴ウと
あな面白 と 胸乳を掻き出 裳緒を 陰
に 押し垂らし 腰廻りなし 散らぎき 故
高天之原に響みて 八百萬の神たち 共に
平手拍たしに 高らぎ笑イたまゐき】これ
の時に 天の高柴を 多に積みて 火を放ち
て 庭火になし 歌に和ゐらして 笛音吹き
法螺吹き 鼓打ち 琴弾き 合菟鼓の拆鈴
を打ち これの音 いと妙に 潔く聞こエき
-------------
4,5
-------------
【ここに 天照大御神 奇しと思ほしたまゑ
ども 天之児屋の命ハ 広き 篤き 称言
祷みまをすを 聞こし召さして 告りたまイ
つらく[この頃 諸神たち 多にまをせども
此くばかり 言の美しきハあらじ と 告
りたまイて 天の岩屋戸を 細目に開けて
戸内より 告りたまイつらく]吾が これの
処に 籠りしに因りて 天之原 おのづから
暗く 豊道之原の中津国 勿論に 外津世
の 萬国ぬも みな暗しと 諸神たち 多に
嘆くに などて 天之宇受売ハ 八人の 歓
ぎ女を 率きて 遊びし為す また 八
百萬の神 諸々 歌イ 鼓 また鳴らし物以
て 楽しみ笑うぞ と 告りたまイき ここ
に 天之宇受売の命ハ 日の命に勝りて 貴
き神 居ますが故に 歓ぎ 遊ぶとまをしき
此くまをす隙に 天之太玉の命 彼の御鏡
差し出 見せまつる時に 天照大御神 い
よよ 奇しと 思ほさして 稍に 戸より
出 臨みて 御見たまウ時に その 隠り立
てる天之手力之男の命 それの岩戸を引き開
けまつる時に 十四つ柱の比売神たち 直
ちに 駆けまつりて 御手を取り 御身を秀
上げたてまつりて 畏こみ懸及き出したてま
つりき 直に 天之児屋の命 天之太玉の命
尻組縄を 御後辺に 引き渡して これゆ
内に な出りたまイそ と まをしき これ
の時 鏡を 岩屋に入れしかば 戸に触れて
少しき疵付きき】
【ここに 天照大御神の命を[その新宮に
遷し入れたてまつり]天之児屋の命 天之太
玉の命ハ 日の御綱を 掛け廻らして 十四
の比売神たち また[大宮之女の命をして
その御前に 侍らわせ]天之岩戸別の命に
御門を護らして 天之太玉の命 大殿祝ゐ
御門祭り】【その天照大御神の命 天之岩屋
戸を出ませるからに 天之原も天之下も お
のづと 輝ぎ照り明りて 八百萬の神たち
諸諸共に 相見るに 面 皆 著し 故 手
を伸して 歌イ 舞ゐ 天晴れ あな 面白
あな 楽し あな 清け おけ と 歌イ
ましき】
-------------
4,6
-------------
【ここに八百萬の神たち 共に 議りて 速
須佐之男の命に 千座の置戸の 祓ゐつ物を
負ウせて 髪 鬚を抜かしめ また 手
足の爪を抜かしめて 手の爪を 手末の吉棄
物とし 足の爪を 足末の凶棄物とし 唾を
白和幣となし 涎を 青和幣となし 天之
児屋の命の その祓イの 太祝詞を宣りて[
天の小菅を割き 祓イて]祓ゐ了ゑしめ 八
百萬の神たち 速須佐之男の命を責めて 汝
弟の命の為業 いと 悪しかりき
これヤこの 高天之原にも 豊道之原にも
な住みましそ 遠く底津 外津国に 速く
出ませ といイて 神逐イに逐イて 神降し
に 天降らせなしき】【ここに建速須佐之男
の命ハ 八百萬の神に逐わエて 降ります時
に 長雨降りしかば 青草を束ねて 蓑笠と
着て 神たちに 宿を乞イたまイき 神たち
答エてまをしけらく 汝弟の命ハ 為業悪
しくて 逐わエし大神なり 如何にぞも 吾
に 宿 乞ウとて 共に遮ぎき そを以て
甚く 雨降り 風吹けども 憩す得ずで 吠
イましき】
-------------
4,7
-------------
ここに【天開国開天津日高建速須佐之男の命
吾 神たちに 逐わエて 罷らにとするに
吾が汝姉の命に 目見エまつらで 直に
罷らにヤ と 告りたまイて 天に 昇し出
たまウ時に 天之宇受売の命 そを 目見て
天照大御神に 此く然 称エまをせば 告
りたまイつらく】汝弟の命ハ 悪き 心延エ
か 將ハ 明るき心エか ありヤ 天之宇受
売の命ハ 八心思金の命に 思イ謀りを 問
わす時に 思金の命 まをしけらく 建速須
佐之男の命ハ 眞黒に穢き御心を 逐エまし
て 今ハ 八百萬の神たちより 勝れたまイ
て 清く 明き御心になもあり と まをし
称エましき ここに 天照大御神 速須佐之
男の命に 告りたまイつらく 汝弟の命ハ
八百萬の神たちに勝れて 清く明るき眞心に
ならせり と 聞けり こに因りて 父母の
大御神の御諭しの如に 豊道之原の瑞穂の国
を 知ろしめせ と 告りたまイき
-------------
4,8
-------------
然なればヤ 豊道之原の中津国ハ 吾が
岩屋に籠れるにより 常しえに暗して 黄
泉津の荒振る神ども 多に 起きり【五月蝿
なし 道速振り 猛び 昼ハ 水泡沸き 雲
吹き 霧吹きなし 夜ハ 慓火の如 輝き
岩根 木根 立草葉 水之葉も言問イ】青人
草ハ 幸心 生き心無くに 夢に 心挫て
朝 夕べに 泣きいさつ 十四の種津物を
奪り食らゐ 押し食イなす 衣犯し 女犯し
なす 現人 皆 心伏しなすからに 汝弟の
命 天降りなして 荒振る神どもを 神鎮め
に鎮め 神逐イに逐イ治めて 青人草を 楽
しに 歌しめてよ と 告りたまイき 故
これゆに 荒振る神ども 強くに 荒び猛び
なば 神訓 道訓して逐エ 弱く 荒び猛び
なば 黄泉津に逐エ 善事持上げ 悪事もさ
げ 魂配り 眞配り 神配りませ 食乞ゐて
ハ 天を祭らし 国を祭らし 吾が伴を 出
祭らして 敬まゐね と 告りたまイき 故
ここに 国照大神 その御子 多紀理毘売
の命 市寸島比売の命 多岐都比売の命 五
十猛の命 五十猛背面の命 大屋毘古の命
大屋比売の命 抓津比売の命 八柱の御子神
を率き 御伴部の神たちと共に 日向の霧島
の岳に 天降りなしたまイき ここに 国照
大神 臣の神たちに 告りたまイつらく 吾
目見なすに 日之命の告りたまエる如に
国津禍神ども 多にありて 現人の種津物を
奪り 禍みて 己が押喰物と手繰り 其
足らで 其が上に 女 また 童 また 牛
馬を奪り喰らウ こハ 国の大禍なり 故
その禍らイ 馬 牛を奪りて 現人を 憂ぐ
しめなす また 山住みの 大毛物 小毛物
大虫 這ウ虫 ぬびも 現人に憂れなすハ
直ちに 殺せ 此くなして 豊道之原の禍
神を 殺し尽くして 現人 穏びになしてよ
と 告り言ちの随に 然 なせ と 告り
-------------
4,9
-------------
ここに 速日別の国の 襲の岳に 煙神
空張神ありて 杣谷に 五月蝿なす 荒び
猛び 国内の種津物を 隠りなし
また 稚児を取り喰らゐき これの時に 天
津大神の天降ります と 聞こエて 縮こま
りき 然あれども 隠り悪業 止みずであり
故 国照大神 告りたまイつらく 吾 大
御神の命の御言以て 五月蝿なす荒振る神ど
もを逐わに と 告りたまイて 天津日子根
の命 活津日子根の命 熊野久須毘の命に
告り言ちて 天之児屋の命 天之太玉の命を
召さして 告りたまイつらく 汝神たちハ
吾が食国に 騒エなす 荒振る神 多なす
そを祓ゑの 手伝てなしてよ と 告りたま
イき 故 五十猛の命 五十猛背面の命 大
屋比古の命 太窓之津の命 天相の命 興台
産巣日の命 玉主の命 天之櫛明玉の命 建
角身の命 天之御祖の命 建雷の命 経津主
の命 並べに 現人の八百萬の強士どもを
神集イ 集イまして 御議り告りたまイき
故 国照大神ハ 速日別の襲の岳尾に 赴か
したまイて 目見たまウに その岳の木々
尽々に 煙り神 空張り神の禍らゐども 各
も各も 尻 口より 吐糸を 眞繰り出して
八方張に 張り渡しき
故 国照大神 強士に告らして 火鑚らし
て 木の枝燒きに焼かせたまイき 直ちに
煙り神 空張り神の禍らゐら 口より 網霧
を吹き出しなすからに 国暗くて 文目 分
たず ここに 天之児屋の命 天之太玉の命
御議りまして 稲穂八十穎を 強士に 取
らさしめて 天地に 打ち振らし 撒かしま
す時 時じくに 直ちに 網霧晴れて 明ら
かになりき 故 煙り頭 空張り頭 並べに
八百の禍らイども 奔りき 五十猛の命
五十猛背面の命ハ 組手打ちに 打たし 呼
びかけに 返ゑさいを 斬らしたまエば 煙
り頭 空張り頭 八百の禍らゐども 竦み立
ちにふとぎき そを 目見取らしまして 八
握剣を抜きて 煙り頭 空張り頭を ずたず
たに 斬り殺したまイき 故 八百の禍らゐ
どもハ 八百強士神たち 共に 斬り捨てま
しき 故 禍津頭どもの 斬らエし口々より
うちゑきづり出て 一段ハ 八手蜘蛛 また
喧さ蜘蛛 一段ハ 針蛟 また 眞首蛇
一段ハ 這ウ虫 大虫となりき ここに 国
照大神 豊日の御宝の岳に 出ます時に 国
津神 豊日別の命 豊日比売の命ハ 現人の
作らしめる小麦を 粉となしたる棊子麺を
未醤の汁以て 御饗エまつりき 故 こを
杵島の里といウ ここに 屯ろまして 萬の
謀りましし処を 柚富といウ
-------------
4,10
-------------
ここに 国照大神 告りたまイつらく 天
之児屋の命 天之多岐玉の命 天津日子根の
命 五十猛背面の命たちの 現人の家族の長
千々を伴イて 愛媛の国ゆ罷れ 吾ハ 穴
門ゆ罷らになむ と 告りたまイき 故 天
津日子根の命 天之児屋の命 五十猛背面の
命 天之多岐玉の命たちハ 家族の強士長
千萬を 駆り率になして 愛媛の国に 廻び
まして 久万輪山に在しましき ここに 建
依別の宗我美の田渕に 火吹き頭 水吹き頭
あり 荒び 猛び 禍らイども 八百ありて
岩根 百根に 言問わし 昼ハ 水を息吹
りて 雨となし 夜ハ 己が作田に 火色を
放ちて 人草を 驚こして 十四種津物八百
穎 千穎を奪り喰む 故 天津神たちの 天
降りて出ませるを聞きて 宗我美の田渕を
隠家となして 騒エなし 素徴をなす 故
大神の御身代 天之児屋の命 天津日子根の
命 五十猛背面の命 天之多岐玉の命たちハ
家族の強士たちに 議りまして 建依の宗
我美の田渕に 立たしましき 火吹き頭 水
吹き頭どもの 禍らイども 山野に 炎 雨
に降らしき 燿の鳥狩りにて 家族の強士ど
も 皆に皆に 火に気圧されて 悩みき 故
四柱の大神 議りたまわく 天之水分の命
に仰せて 火治しなしき 故 火吹き頭 水
吹き頭 山野に 水を秀に高上げき 故 家
族強士人 水に 込み押されて 皆に皆に
悩みき 故 四柱の大神 天之火分の神に仰
せて 水海を 治しなしき 故 火吹き頭
水吹き頭 奇妙術尽きて 石根 木根 青水
面這ウ虫に 言問わせて 木末 木末を 宿
らして 化き入りき 故 家族強士 迷ゐ連
りき ここに 天津日子根の命 天之児屋の
命 五十猛背面の命 天之多岐玉の命 甚く
怒らせたまイ 何故も 吾が来ますに 異
き罪をする と いイて 御佩かせる 十握
頭椎の剣を 手振りに 振らして あな 囂
あな 囂 気耄れ 気耄れ と 打ち振り
に 振らし たまイき 故 火吹き頭 水
吹き頭 千々の禍らイども 尽々に 倒れ臥
しき ここに 家族の強士神たち 禍津神ど
もを 蹌踉に 斬り捨てましき 故 斬りし
口より 黒み血 多に 流れ出りて 毛の荒
き曲禍 毛の和き橈禍となりき ここに
四柱の大神 告りたまわく これの 毛の荒
き 毛の和き物ハ 青人草の作れるとこの
種津稚実にぬ 災イをなさに 故 それを殺
して 吾を祀れ と 告りたまイき
-------------
4,11
-------------
ここに 国照大御神ハ 豊日の国ゆり 穴
門に出ましし時に 穴門根別の命 穴門根比
売の命ハ 新宮を 鞆津に 建てて 命を
迎エまつりて まをしけらく 奴が親族 家
族 海に入りて いと 大きなる海魚を 取
り還りましき 故 命に 奉らに と まを
して 引き来て たて奉るに その身 十五
丈あり 故 国照大御神 告りたまイつらく
これの海魚ハ 喰らゐて 清げなるかも
人草の薬ともなるかも
故 吾に 食させよ と 告りたまイき こ
こに 穴門根別の命 穴門根比売の命ハ 大
海魚を 背断ちて 未醤に炊き凝らし また
これの身を 弥 切りに 切りて 甘と酢
とを 散らして 膾となして 奉る時に 国
照大神 告りたまイつらく これの海魚ハ
益良男の取れる 霊びの海魚にあるかな と
告りたまイき 故 これの海魚を 鯨 と
いウ ここに 動神あり 胸口神といウ
胸に 口ありて 能く 言問イなす 故 国
照大神 そを 捕らゑまして 言問わせ 用
ちましき 胸口神 答エまをす 奴ハ 禍津
日の神の曾孫の神なり 禍らイ人 八十余り
あり と 申す 何以て 生をる と 問ゐ
たまエば 奴ハ 人草の種津物を奪りて生き
る また 馬と牛とを 食めて生きる と
申す 汝ハ 穢らわしき 悪き神なり 故
これの国に 勿 住みそ 黄泉津に罷れ
と 告りたまイて 持たせたまエる 天之神
懸の桑弓以て 弓弦を 引き鳴らして 呪弾
ねに 弾かして 胸口神 八十の禍らイども
黄泉津北に 神逐イなしたまイき
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4,12
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ここに 国照大神 丹波の国に 道速振る
荒び 猛びの神 騒エなす と 聞こし召し
て 出ましの時に 出雲根別を 通わせませ
る 通ゐ道の【肥の河上なる 鳥髪の処に
至りま 斎饌秀瓦と箸と その河の水上より
流れ下りき これの山上に人有りと 思ほ
さして 求き上りましつれば 音泣く声 聞
こエき 故 その声を尋ねつつ 求き上りた
まゑば 翁と嫗と二人ありて 少女を中に据
えて 掻イ撫でて泣くなる 汝神たちハ誰そ
も と 問イたまエば その翁 言甚みまを
して 奴ハ 国津神 大山津見の命の子なり
奴が名ハ 足名椎 妻が名ハ 手名椎 と
まをす 娘が名ハ 眞髪觸櫛稲田比売とま
をす と まをしましき また 汝 泣く故
ハ 如何にぞも と 問わせたまエば 奴が
娘 八少女ありき ここに 越の八俣大蛇
年の毎に 狂イ来て喰ウ 今 このとのむた
山に来て 荒びて 禍風を放つ 故 大蛇の
越す時なり こにゆ 泣く と まをす 奴
が形ハ 如何にぞ 答ゑけらく その形ハ
いかさまに もこじみて 奴が眼ハ 赤酸醤
百足なし そが身 一つにして 頭 八つ
尾 八つあり 奴が身ハ 苔産して 檜 杉
生イ出 奴が身の長きことハ 谷 八谷
丘羽 八丘羽に 延ゐ渡りて 奴が腹を見れ
ば 何時も 縊れ 血合エ 爛れ 流れたり
き と まをす ここに 国照大御神 その
翁に 汝の娘を 吾に 奉らにヤ と 告り
たまイき 二柱の翁 手を拍ちて 畏し 弥
言無し 然ハあれども 御名を知らず と
まをせば 告りたまゐつらく 吾ハ 天照大
御神の同母弟 国照神とハ吾なり 今 天降
りなして】国の国々の 青人草の 禍事に遭
ゐなむを 救イ助けて 禍事 有らしめず
眞幸事になも なしてにとて 天照大御神の
御言を 諾なイて 天降りなしつ と 御答
エたまイき 故 ここに足名椎の命 手名椎
の命 平手を拍ち【然 在さにと 畏し】
御言の随に 奉らに と まをしき【故 国
照大神 その少女を 湯津爪櫛に取りなし
五百の爪櫛を[御髻に刺さしとにいろを翳さ
し]足名椎の命 手名椎の命に 告りたまイ
つらく 汝ハ 諸々の木の実以て 八塩折の
軽酒を醸し 垣を作り廻して その垣に 八
の門を作り 門毎に 八の仮支を結イ伏せ
その仮支毎に おのもおのも一口の酒槽を置
き 槽毎に その八塩折の酒を盛りて 待ち
てよ [吾 汝のために その大蛇を易く平
げに]と 告りたまイき】【ここに 足名椎
の命 手名椎の命 御教エの随に 設げ揃エ
待つ時に その八俣の大蛇 威猛りて 八百
ち波を 打たせ 山谷響まし 禍風振ららに
参出る[国照大神 来る大蛇に告りたまイ
つらく 奴ハ畏き神なり 如何で 饗エせざ
らにや と 告りたまイて 大蛇が頭を 握
み取りて 八腹の酒を以ちて 口毎に 注ぎ
入れたまエば その大蛇 槽毎に 頭を垂れ
て その酒を飲みき これに飲み酔イて 鋭
囂り伏し寝たりき]直に 国照大神 その大
蛇に 告りたまイつらく 汝ハ うるさき神
なり などて 一口酒に酔イて 此く寝ぬる
ぞ 速く起こして 比売を喰わにヤ と そ
が頭を 踏み揺らすに 臥したる大蛇 眼開
かして 怒り 蠢く 声猛びて さかさまに
緊巻きながらに 大命に向か立ちて 火鳴
り 口開くぎに 虚踏みかかるを 国照大御
神 告りたまイつらく 汝ハ 悪き神なり
吾に 幼く 拙き悪じなすハ 烏滸の奴なり
とウて 持たせたまエる貴玉以て 撃ち散し
たまエば 大蛇ハ 頻らに 怒りて 比売の
命に 跳びつかにと おどろ振り躍りて 息
巻くらにとなすを 大命 そを 窺間見て
速く速くに その大蛇が首を 引き握みて
垂長に[御佩かせる頭握剣を 抜かしたまイ
て その大蛇を ずだずだに 斬り離ちたま
イき そが屍の段々 轟ろ嚇まきて 鳴る雷
の禍毛となりて 御空に飛びき]また 左の
尾を 斬り裂きますに 奇し百玉の如の物あ
り こを 大蛇の比礼 と いイ 右の尾を
斬り裂きますに 奇しき榾木の如の物あり
こを 八蛇の比礼 と いウ また その
中の尾を 斬り裂きたまウ時に 御佩刀の刃
少し毀げたりけり 怪しと 思ほさして
刺し割きて 見そなわすに 別に 都牟刈の
太刀あり こを 御許に置きましき 故 こ
れの大蛇の 屈まるところに[常に 叢雲あ
り]と いウ 故 こを天之叢雲の御剣とま
をす】
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4,13
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【この 妹置以て 国照大神 吾が宮を造る
べし と 告りたまイて 出雲の国に 宮所
を求ぎたまイて 須賀の地に到りまして 天
之太玉の命に 告らしたまイて 吾 ここに
来りて 御心清々し 故 此に宮を造りて
吾妹子を召さめ と 思ほエぬ と 告りた
まイき 故 天之太玉の命 諾 宜し と
まをして 五十猛の命に 言合イまして 直
に 手置帆負の命 手置比売の命 櫛石窓の
命 豊石窓の命 屋船比古の命 屋船比売の
命たちをして 須賀の地に 大宮を 八つ八
つの棟造りなして 天之御蔭 日之御蔭と
隠ろゐましき】故 天之太玉の命 天合の命
興台産巣日の命たちハ 足名椎の命 手名
椎の命の御娘 眞髪觸櫛稲田比売の命を 天
の斎迎ゐ 国の斎迎ゐに取りなし 宮迎に迎
エて 先づ 桂木 小賀玉木 賢木 三つの
木の中津枝 赤芽差し 茅萱蓬を 眞砂置き
に置き並みて 大国形 小国形なし 十四種
津 山菜 野菜 鰭の広物 鰭の狭物 沖津
藻菜 辺津藻菜を 御食津なし 豊御酒奉り
食物の礼 神の礼 臣の礼 現人の礼に
仕エまつりき ここに 国照大神 歌イたま
八雲起つ 出雲 八重垣 妻隠みに
八重垣 造る その
八重垣を
と まをしたまイき 故 女子迎 妹夫結
び 結イたまエば 家族の伴の緒 強士ども
祝ぎまつりき 此処に 大神 保イますか
らに 常空に 紫雲立ちけり 故 出雲とい
ウ これの時に 天之太玉の命 歌イたまわ
【八雲起つ 出雲 爪櫛 妻求ぎに
御執らし 御弓に 柏差して
何も[吉 奇しな
稲田比売の神]】
と 歌イ 舞ゐ 歓ぎましき
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4,14
-------------
後に また 御食の 天の生田 天の栄田
を 定めまして それゆ 国照大神ハ 神伴
の緒 活津日子根の命 熊野久須毘の命 天
之太玉の命 五十猛の命 大屋毘古の命 玉
主の命 建角身の命 天之御祖の命 建雷の
命 経津主の命たち 八百ちの家族の強士人
と共に 丹波の佐分の御岳に出まして 見そ
なわしたまウに 穴太の山に 千萬に騒エな
す神あり 故 活津日子根の命 五十猛の命
ハ 背平に 矢張着けたる靫を帯び 左の御
手に 高鞆を著かし 蔓緊めたる梓弓を持て
眞鹿の行騰に 胸金を結イ締めて 天之狭
駒に打ち乗らせて 駒の番脚 疾きに 轟ろ
こして 猛び 叫びに 騒エなす神の緒ど
もを 召さしたまイて 告りたまわく 如何
にぞも天津大神の 禍津祓イますに それの
国に 騒エなしつるハ 穢き彼奴になもあり
と 告りたまイき 故 その神の緒ども
まをしけらく 奴どもハ 国内の田作り現人
に侍らウ 今 騒エなす故ハ 北の茅原に
禍神あり 彼が名ハ 隠り神 片現れ神 二
柱あり 禍らイども 千萬ありて 種津物を
奪り喰ウ そが上に 童子 童女を 奪り
て 或ハ犯し 或ハ素焼きて喰ウ 此くなす
業 多 幾らと無くあり 奴ハ 天津神の
天降ります と 聞こエて 嬉しく屯なして
御供辺に 立たまく思イ侍りぬ それの待
ち迎に 麦と大豆とを 阿礼になし 団子を
作り 小豆を餡して 餅めとなして 設けま
つり 御饗エまつる と まをす 故 大神
御食なさせて 告りたまわく これの団子
ハ 秀囓みに 味好し と 告りたまイき
故 こを 多久の里といウ ここに 国照大
神 天之太玉の命に 告りたまイつらく 北
の茅原の禍津神を 払イの謀りなせよ と
告りたまイき 故 天之太玉の命ハ 物部の
神たち 現人強士 千萬の家族神を 猛びに
猛ばせ 御親らに 八握の剣を佩き 五百
入の靫を帯び 眞黒熊の行騰に 黄金の冠に
御統る弥栄の勾玉を 左右の手の 高鞆の
上に 着け巻き持て 豊石窓の命の作れる輿
入にに 御越しまして 五十猛の命 大屋毘
古の命 並べに 物之部の神たちハ 千入の
靫を帯び 弓弦打ち張り 御前を払イ 神伴
の緒 家族の強士人と共に 出ましき 先に
大御神たちの御使イの使主人の神 返り言
まをす 禍津禍らイの状を 問わせたまイき
使主人の神 答エけらく 奴ハ 隠り神
片現れ神 二柱ハ 腹族なり 奴ハ 木隠り
水隠り 火隠り 野隠りなし 片双をなし
人草の種津物を奪り またハ 若男を取り
て うが飼イとし 若女を取りて 犯し女と
し 老ゆれば 殺して 肉塩となす 故 大
御田族 悪し良し無くて 身 常住み得ずて
震イ逃げ走して 東 西に 彷徨ゐてあり
と まをす
ここに 大神たち 共に 謀りまして 五
月蠅なす荒ぶる神どもを 平イなさしめて
おこなみまして 隠り神 片現れ神ども 並
べに 彼が禍らイどもを 焼イ倒りに をこ
のみに をこのみてに と まをして 北の
茅原を 火焼きなし 神火焚き 火焚き 天
の活津葛を 千尋切りに切り 氷木木 氷木
木に 結イ結イて 神猛 雄猛びましき 故
隠り神 片現れ神 八千の禍らイ おのも
おのも 屈み竦みき 故 玉主の命 建角身
の命 建雷の命たちハ 天の厳駒の 背鞍に
跨がり 天雲を 走らかして そに 翔りて
十握の剣を以て 隠り神 片現れ神の首を
刎ね落としき 故 その口より 禍風起こ
りき 禍らイの緒を 千々斬りて そが血飛
びて また 禍風になりき 残れる五百ちの
禍らイ 震イ慄きき 故 大神たち 哀れと
思ほさして 告りたまわく 奴ハ 荒ぶる
悪じ心持てるかな 今ゆ 忠誠し心に返さ
ば 助けヤもせに と 告りたまイき 故
八百千の禍らイ 誓イて 髪を 油注ぎに
結イ垂らし 太袂の常衣の上に 袖縫イの内
掛に 袴ハ 傍エに 長曳かし おのもおの
もに 頭ハ土付けに 手にハ 楮麻を裂き持
ち 八方に振り祓イなし 祓イ毎に 平手に
畏みまつる 故 大神たち 大直し 御直し
まして 御赦したまイて 大御田族の奴とな
しましき
上津文 四の綴り 完エ
-------------
5,1
-------------
上津文 五の綴り
ここに 国照大神 草木根の国に往ましの
時 天津日子根の命 天之児屋の命 五十猛
背伴の命たちハ 胞の四島を 払イ平けたま
イて 日下根の門に 参イ会ゐましき 故
経津主の命 国照大神に まをしたまわく
吾が家族 奴の使主人の長ども まをしけら
く 久久能智の国に 形隠り頭 鬼隠り頭と
て 八百の禍らイありて 素体身を消し 荒
び業をなして 種津物を奪る また 狭依科
の国に 羽鳥頭とて 奴が身にハ 翼有りて
空 翔りして 岩根 木根 茅草に 炎駆
り降らせ 五月蠅なす 悪じ頭あり また
ここに 草木根の国に 形縫イ頭 形分け頭
とてあり 奴が身ハ 頭 二つ 手 三つ
あり 力強く 千引き岩を 一持でに振り
生き立てる特牛を 頭ゆ 喰らゐなす 千萬
の禍らイ有りて ちばやぶり 荒び祟りて
禍の戦をなすとまをす と 称エ言まをす
故 国照大神 告りたまイつらく 汝 神
たちハ 謀りなして 禍物を逐らエと 告り
たまイき ここに 天津日子根の命 天之児
屋の命 五十猛の命 太玉之津の命 天合の
命たちハ 八百の家族の長たちを 率きて
久久能智の国に 向かして 神逐いに 逐イ
ましき 故 形隠り頭 鬼隠り頭どもの 八
百の禍らイども 皆に皆に 姿消し 体隠れ
の術も 大神たちの呪訓りに 気圧され 術
も 適得ずて 尽々に 斬り殺さゑたりき
それらが血 流れ とと迸り 岩根 木根の
野苔に迸り着きて 生りつるものハ 狐 獺
狸 河童 狆子 豸々子 猿 天狗禰人な
りき これによりて それの処を 加太那
といウ
-------------
5,2
-------------
ここに 天津久須毘の命 天之太玉の命
五十猛背伴の命 玉主の命 八百の家族の長
たちハ 狭依科に 出ましたまイて 羽鳥頭
を逐らイたまイき 故 羽鳥頭ハ 八百の禍
らイ共も 身にハ 翼散らし帯びて 空翔り
なす 故 大神たち 眞桑の弓に 蓬の四つ
羽を嵌めて 呪訓り 蟇目連らし おのもお
のも 射放たせまししかば その矢 翼毎に
飛び掛かり 禍頭の禍らいども 翼裂けて
大地に 眞逆頻らに 落ちて 失せき 故
岩根 木根 炎がり降らせ 止みき 故
奴が屍ゆ出る 漏れ蛆より 生れる物ハ 挿
毛鳶 烏 石鷹 梟 種々の 荒び鳥なりき
故 其処を 倭文といウ
-------------
5,3
-------------
時に 活津日子根の命 経津主の命 大屋
毘古の命 建雷の命 建角身の命たちハ 草
木根の国の斑鳩山に 出まして 八百の家族
の長どちに 問わせたまイて 形縫イ頭 形
分け頭を 求かせましき これの禍頭ども
八百の禍らゐ以て 千引き岩を立て並み そ
れの 眞中に居りて 二つの頭振り 三つ手
を以て 転石を投げ打ちに打ちき ここに
大神たち 甚く 御怒りたまイて 告りたま
わく 吾 これに来まして 神逐イますに
奴ども 神言 畏まずて 手向かゐなして
防ぎなす 憎き奴子どもかも と 告りたま
イて 神荒れに 御荒れまして 天の眞駒を
乗り棄てに 棄てまして 雄猛びに 猛び
て 禍人のなせる 千引き石を 引き抜かし
て 禍頭の五月蠅なすに 投げ入れ 蹴入れ
千引き石を 天に降らしき 故 一人も
残る頭無くて 骨 身 くたくたになりて
失せき 故 奴が体を 北の海路に 蹶エ蹴
遣りましき こによりて 尽々に 蝦蟇口と
なりき 故 こを 斑鳩の釜口といウ
-------------
5,4
-------------
国照大神 御伴の大神たち 千萬の家族の
長とち 共に 越の国と 陸の国とに 出ま
しまして 後に 御急がしたまイて 伊勢津
比売の国に 到ります時に 伊勢津比古の命
伊勢津比売の命 天津神を 御迎エなして
葛布 の御冠を奉る 故 大神並べに 伴の
大神たち それの新冠を 着初めたまイき
故 其処を木曽といウ 野陸の国に 出ます
時に 野陸比古の命 野陸比売の命 繭子の
糸布を 織りて 襲となして 大神に奉りき
故 其処を 碓氷といウ 武邪津海の国に
往ます時に 武邪津比古の命 武邪津比売
の命 玉麦以て すだとなして 御饗エまつ
る 故 そこを隅田といウ ここに 国照大
神 御伴の大神たちに 告りたまイつらく
越の国に 目立頭 左右角頭とて 禍なす頭
あり 奴ハ 頭に 二つの角有り 五月蠅な
して 青人草を 殺り悩まし 馬 牛を 取
り喰む 穢き奴なり また 陸の国に 蛸津
頭 三目有頭あり 奴が面に 三つの目有り
て 足 六つ対をなす よく 黒雲を翔る
おのがおのがに 八百千の禍らゐあり 人草
を 殺り喰イて 災ゐをなす 故 天之児屋
の命 天之太玉の命 経津主の命たち 企ま
りましき ここに 目立頭 左右角頭 八百
千の禍らゐともを 越の眞頸城の岳の 大峡
に 小峡に 埴水を 滾らしに 滾らこして
煮泉となし 尽々に 禍奴を 打ち嵌め
煮茹てよ また 蛸津頭 三目有頭ハ 陸の
岩代の山に 四身の綱 打ち掛け敷きて 禍
らゐ 共に 括げて 千々斬りに 斬りて
遠津海の八百瀬に放ちて 黄泉津に 払エ
と 告りたまイき 故 大神たち 共に 謀
りたまイて 天に 昇しまして 天の北に坐
す 星の御祖の大神 火精星の神 またの御
名ハ 迦具土の命に 天の斎火を乞イて 眞
頸城の岳の 底津石村の 眞底の杣を 弥
焚きに 焚き染め 埴水を 滾らしに 滾ら
して 大峡 小峡を 煮泉となしき 目立頭
左右角頭ども 八百千の禍らどもを 尽々
に 打ち込めに 打ち嵌めき 故 禍頭の体
骸ハ 盪になりて うぐろうぐろと 呻きき
故 其処を 新津といウ ここに 大神た
ち 陸の岩代の山に 四身の綱 引き延エま
して 蛸津頭 三目頭ども 八百千の禍らゐ
どもを 四身綱の八重張り手に 陥しかけ
弥 括げに 括げて 斬り放りに 放りなし
て 遠津海の八百瀬に 立ちすけに 蹴放ち
遣りまして 天の逐イ 国の逐ゐます 故
これの海原を 逐瀬となもいウ ここに 国
照大神 天津日子根の命 活津日子根の命
五十猛の命 五十猛背伴の命 大屋毘古の命
天之児屋の命 天之太玉の命 経津主の命
天相の命 興台産霊の命 玉主の命 建角
身の命 建雷の命たち 八百萬の長たち
ともに天昇しまして 豊道之原の瑞穂の国の
現しき青人草らを 厭 醜めき 殺りなす
禍頭どもを 鎮め平けて 安国の楽し所と
定めたまゐし状を 大神たち 八百萬の長
どち共に 尽々に 天昇しまして 返り言ま
をしたまイき
-------------
5,5
-------------
ここに 高天之原に 天照大御神の御許に
天津大神たち 神集イに 集ゐ纒ゐましき
故【ここに 国照大神 帯びませる剣を
取り出て 広前に捧げて まをしたまイき
これの太刀ハ 出雲の国に 大蛇を逐ゐし時
に その大蛇の尾に 隠しつる太刀なり 吾
これの太刀を帯びて 禍頭らを逐ウの時に
何時も これの太刀より 叢雲起きりて
御空に渡る いとも 奇しき太刀なり故 吾
が 如何でか 私に持て 斎かめヤ と 告
りたまイて 太前に立て奉りたまウ】
【時に 天照大御神告りたまイつらく こ
ハ 天之香山の磐染の美きの銅 以て 天津
眞浦の神に 作らしし 叢雲の剣なり これ
のものハ 吾が 岩屋に 籠りし時 心迫こ
に 美濃 淡海の伊吹に 落としし 太刀な
り と 告りたまイき】
-------------
5,6
-------------
ここに 国照大神 天降りまして 須賀の
宮に 還りたまイて 直に 八門の御室を
造りまして【足名椎の命 手名椎の命を召さ
して 告りたまゐつらく 汝神たちハ 吾が
御子の宮の首たれ と二柱の神に 稲田の宮
主須賀之八耳の命といウ御名を賜イき 故
須賀之八耳の翁の命 須賀之八耳の媼の命
とまをす これの 二柱の神を称エて 稲田
之宮主の神とまをす】
ここに 国照大神【その櫛名田姫の命 また
の御名ハ 稲田姫の命とまをす 隠処に起こ
したまイて 産みませる御子の御名ハ 清之
湯山主三名狭漏日高日子八島篠眞の命 また
の御名ハ 八島士奴美の命 またハ八束水臣
津野の命とまをす】次に【都留伎比古の命
またの御名ハ 山口の神とまをす 次に
国押別の命 またの御名ハ 形結の神とまを
す 次に 磐坂日子の命 またの御名ハ 恵
曇の神とまをす 次に 衝桙等乎留の命 ま
たの御名ハ 多太の神とまをす】弥先に【国
照大神 大山津見の命の御孫娘 大市比売の
命に 御娶イたまイて 産ましめたまエる
御子の御名ハ 天津御穂国津御穂幸照大年産
霊の命 またの御名ハ 大年御祖の神 妹
作年姫の命 これの二柱の神 天の眞中上に
坐して 年幸星御祖の神とまをす これの
大年の命 大山津見の命の御孫女子 作年姫
の命に 御娶イまして 産みませる御子の御
名ハ 御年幸魂の命 またの御名ハ 御年の
命 次に 奥津日子の命 奥津比売の命 こ
れの二柱の神を 大戸の神とまをす 次に
庭高津日の命 次に 阿須波の命 次に 波
比岐の命 先の奥津日子の命より 五柱の神
を 合わせまつりて 竈戸の神とまをす 次
に 香山戸の命 次に 羽山戸の命 次に
大山咋の命 これの 三柱の神を 醸し酒祖
の神とまをす 次に 大土の命 次に 稲依
日女の命 次に 千依比売の命 次に 佐々
津彦の命】これの四柱の神を 木綿取綿生の
神とまをす 故【羽山戸の命ハ 埴山姫の
命の御娘 埴戸姫の命に御娶イまして産みま
せる御子の御名ハ 若山咋の命 次に 若年
の命 次に 若沙那売の命 次に 弥豆麻岐
の命 次に 夏之売の命 またの御名ハ 夏
高津日の命 次に 秋毘売の命 次に 久久
年の命 次に 久久紀若室葛根の命】
-------------
5,7
-------------
国照大神 天の下を鎮め平けたまイて 天
に 返り言まをして 天照大御神の神狭告り
の随に 天降りまして 臣の神たち共に 大
須佐田 小須佐田を成して 穂倉造りて 朝
御食の神穎 夕御食の神穎 豊贄物を 定め
まして 御親らに 御食向かウ田作らし 国
の配りに 人草敷き足らし 歓ぎ 歌ハしめ
て 頃良し 田良しなさしたまわに と 東
の国の極みに 道之長道男の命 道之長道女
の命 西の国の極みに 速玉之男の命 速玉
之女の命 北の海辺の国々に 伊都之尾羽張
之男の命 伊都之尾羽張之女の命 頬那芸の
命 頬那美の命 国八玉彦の命 国八玉姫の
命 高淤加美の命 高売加美の命 南の海辺
の国々に 速玉之男の命 速玉之女の命 沫
那芸の命 沫那美の命 飽咋之宇斯の命 飽
咋之衣自の命 櫛八玉彦の命 櫛八玉姫の
命たちを招かして 現人 恵じなさしめ 明
津御代の 足らし御代なさしめにと 招きて
現人の楽しみを 目見 楽しみたまイき
故 国照大神 国々を 御巡りて 筑紫の
日向の国に 到りましし時に 国の翁どち
五月蠅なして 弥座置きに 弥塚の種津実を
置き重ねて 大神に 初穂の荷前に 種々
称エて奉る 故 大神 御喜ばしに 歌イ
これの 稲穂ハ 豊日 秀に
畑津稲穂ハ 奇日 秀に
種津百穂ハ 速日 秀に 麦の
眞穂ハ 建日 秀に
黍の垂り穂ハ 白日 秀に 大
御田族 十足る 十足る
惶根子
と 歌イましき 故 こを以ちて これの
処を 高千穂の国 となも いウなる
-------------
5,8
-------------
白日の国に 出ます時に 国主の長とち
小豆実以て 精げの米に 醸し滾らして 赤
飯となし 海の辺に 大御目慰みの門代に
交び風 間通せりあれども これの海辺ハ
西風 激に 筌脱けたれば 籠境石を以て
波除なし その上に 殿造りて 海漁人に
網引きを なさせめて 並海魚を 多なし
膾に汁にも 美塩焼きにもなして 眞添エの
御菜に 左右の膳の前津物なして 御饗エま
つる 故 国照大神 御歌イたまイつらく
海辺の 波除になすと 築く石の そ
の上を求ぎて 大殿守り 網引きなす
網引きまつらにゆ 瀬魚 眞海魚を
採りこそ 吉けめ 海辺 殿守り
と 歌イたまイき 故 ここを 築石国とい
イ 松浦国ともいウ また 左無き海魚を
せかれ海魚といウ 今 禍らゐ魚なり これ
の国ゆ 穴門の国に 渡り出ます時に 国内
国内の全る現し人 参イ来て 御饗エまつり
て 馬と牛とを引きて 舁き乗せまつりて
噪ら声を放ち 歌イ 轟こし 御伴に仕エま
つる 故 大御神も 臣の神たちも 諸声音
を 放ち 歌イ 誇らして 国巡まします
-------------
5,9
-------------
遠津海の国に 至ります時に 国津長どち
白米を 弥 蒸しに蒸して 火鑚りのさ臼に
杵以て 弥 搗きに 搗き搾めて 丸餅に
なして 御饗エまつる 大神 御食したまイ
て 告りたまイつらく こハ 腹保の物かも
いと 宜しき飯かも と 告りたまイき
故 こを 餅といウ
-------------
5,10
-------------
越の国に 往ます時に 国の長とち 出迎
エましき 大御神 国主の長に 告りたまイ
つらく これの国ハ 狭野の健き国かも 故
八束稲 多ならめ と 告りたまイき 多
なす と まをす 故 ここを 佐波国とい
ウ こによりて 国照大神 香山戸の命 羽
山戸の命 大山咋の命 三柱の神を召さして
告りたまイつらく これの国ハ 狭野の健
き国柄かも 稲 多なす 故 汝 神たち
御米を精げなして 酒を醸みて 澄まし取り
て 漉し水を清めて 現し人の病払わしの
御食津となせ と 告りたまイき 故 こを
御酒といイ 清酒といウ ここに 三柱の
神たち 御米実を精げとなし 弥 蒸して
絡げ熟し 八十か日に 木綿漉しに 漉して
大神に奉りき 大神 告りたまイつらく
こハ 麗しき酒水かも 飲みて いと清し
と 告りたまイき 故 これの里を 清志の
里といウ
-------------
5,11
-------------
此より 大神 恵美の国に 往まさにと告
りて 伊都之尾羽張の命 伊都之女の命に仰
せて 茂山の木を伐らしめ 辺津那芸佐毘古
の命 辺津那芸佐比売の命 奥津甲斐弁羅の
命 奥津甲斐弁理の命に仰せて浮宝 八十
隻を 造らしめ 沫那芸の命 沫那美の命
頬那芸の命 頬那美の命に 秀櫂を打たせ
天之久比奢母智の命 国之久比奢母智の命に
舵取りなさせて 恵美の国に 走り飛び
渡りたまイき ここに 水蛭子の命ハ 天之
磐樟船に乗らして 眞名鉤を以ちて 海魚取
りき 故 国照大神 目見まして これの翁
ハ 誰そ と まをしき 答エけらく 吾ハ
汝の兄なり この国を 造り固めなさにと
思ほゑて 魚釣りなす 吾 先に赤き海魚
を 獲たり 汝の神に 奉らむ また 沖津
藻の広葉藻菜を添エて 御饗エね といイて
奉る 故 大神 告りたまイつらく これ
の海魚と藻とハ 味わイ 妙にあるかな と
告りたまイき 故 これの海魚を 鯛魚と
いイ また 藻を 妙藻といウ また これ
の処を 恵美の相といウ 国照大神 陸奥の
国に 到ります時に 国津長ども 駒 八十
頭 駿馬 八十頭 迎エまつりき 大神 見
そなわしまして これの駒 駿馬ハ いと
斎々し と 告りたまイき 故 その所を
小松といウ 国照大神 建依の国に 到りま
す時に 国津神とも 大樹を小切り 全拔き
て 松の瑞葉を 澁抜きにして 辛し酒を
醸みなして 奉る 故 その処を 辛志の村
といウ
-------------
5,12
-------------
ここに 国照大神 出雲の須賀の宮に 還
りたまイて 天の下の祀りを 定めたまイて
御子 須賀之斎山主三名狭漏日高日子八島
篠眞の命 またの御名ハ 八島士奴美の命に
言依さしたまイて 熊成の岳に 永く 鎮
まりましき ここに 八島士奴美の命ハ 大
山津見の命の御娘 木之花散姫の命に 御娶
ゐまして 産みませる御子の御名ハ 布波能
母遅久奴須奴の命 次に 八束戸喜姫の命を
産みたまイき
-------------
5,13
-------------
ここに 八島士奴美の命 告りたまわく
これの夏日ハ 甚 暑くて 青人草 甚に
疲れむ また 病起きりなもせめ 故 佐世
の木の葉を 髪刺しに刺さして 歌イ 歓ぎ
踊りなせ 然せば 夏日の病あらじと 国
の国々 千々萬 最寄らもよらに 眞朋 眞
朋に 声々に 揃ゑて 並べて 斎まわりな
しき 故 こを 暑さ払イ 寒さ払イになせ
と 言伝て告り放ちたまイき ここに 八
島士奴美の命ハ 天の下 御巡りまして 天
の祀り 国の祀りを なさしましき ここに
陸奥の国の国津長どち 参イ来て 特牛
八百頭 うなイ 八百頭を 称エまつる ま
た 越の国の国津長どち 駒 八百頭 雌馬
八百頭を 称エまつる 故 馬と牛とを
国々に 道分けて 種取りとなして 平山の
低み 臨月なすに 放たしめて 牧なして
馬子 牛子 多々に 産さしめて 大御田族
の押手となさしめにと 告りたまゐ また
枯れ草を 手結イなし 青草 食ませて 豊
田之土を 肥やさしめよ 故 国の国々 島
の島々に 仰せて豊田之土の手押しなさしめ
にと 牧山を茂産山に修せ と 告り遣りま
しき ここに 建日別の国に ちばやぶる
悪しき頭あり 奴が手ハ 尋に余り 奴が名
ハ 兄手長頭 中手長頭 弟手長頭とて 兄
弟三人あり 頑狂る禍らイ 二十人あり 奴
ハ 大禍津日の神の曾孫の 目立の頭の子な
り 奴ども 弓射ることハ 勝れて強し 昼
ハ 木々山に拠りて隠り 夜ハ 邑に出て
構戸を貫きて 男女 同齢子らを殺して そ
を喰らイ 嘖イし 邑毎の種津物を奪りて
木山を焼き枯らして こを 贄なして 荒び
猛び 悪じなすと 建日の国津長の使主人
訴エて 参イ来き 故 八島士奴美の命
衝桙等乎留の命 に 仰せまして 建日の禍
頭どもの 禍らゐどもを 引き御手に 逐イ
捨てよ と 告りたまイき 故 衝桙等乎留
の命ハ 建依の国の香美の島に到りまして
建日の国の禍頭 二十ちの禍らイを 糸引き
に 引き寄せまして 大岩 小岩以て こと
ことに 打ち殺しまして 潮の八百重に 蹴
遣りましき 故 その体 凝りて 島となる
種島 これなり
-------------
5,14
-------------
【ここに 八島士奴美の命ハ 出雲の国ハ
狭布堆き国なるかも 初国 小く 造りなも
と 告りたまイて 栲衾 新羅の三崎を
国の余り 余りありヤ と 見れば 国の余
りあり と 告りたまイて 童女の胸鋤 取
らして 大海魚の支太 衝き別けに 旗薄
穂 振り別けに 三つ身の綱 打ち挂けに
霜黒葛 繰るヤ 繰るヤに 河瀬船の もぞ
ろ もぞろに 国 来 国 来に 引き来て
縫エる国ハ 去豆より 打ち絶ちて 八穂
米 支豆支の御埼なり 名ば 佐比売山なり
また 持ち引ける綱ハ 薗長浜なり また
北門佐伎の国の 国の余り 然々 縫エる
国ハ 多久より 打ち絶ち 狭田の国なり
また 北門隠岐の国の 国の余り 然々 縫
エる国ハ 手染より 打ち絶ち 闇見の国な
り また 越の国の国の余り 然々 縫エる
国ハ美穂の埼なり 持ち引ける綱ハ 夜見島
なり 火神の岳なり】
-------------
5,15
-------------
ここに 八島士奴美の命 武邪津海の由比
道に往ます時に 国津長 参イ迎エて 御饗
エまつらに と まをして 弓以て 大羽鳥
を射て 御饗エまつりき 故 大神 これの
鳥を 能くに 射つる と 告りたまイき
故 これの鳥を 鶴といウ 時に 国の邑の
現人 野原の甘菜 辛菜 山々に 海魚の広
物 多々に 水田津物 広々に 畑津物 築
々に 天の狭上り 初穂の荷之前 奉りき
-------------
5,16
-------------
故 八島士奴美の命 筑紫の四極海に 出
ます時に 国津長 蜷貝を 御饗エまつりき
ここに 豊日別の命 妹 豊姉の命 訴エ
けらく 由布の岳に 悪き頭あり 人草を
多に 害なウ と まをしき 故 八島士奴
美の命 押別の命 磐坂日子の命 御伴 八
百の家族を伴なイて 見そなわしますに 岳
の右りなる 千尋岩の中に 深々たる棚洞あ
りて こに 巣作りなす 男餓鬼頭 女餓鬼
頭 奴が子 百人産して 山の怪となりき
奴が頭にハ 一つの角あり 体に鱗ありて
鱗の毎々に針あり これの禍らイ 邑ごとの
種津実を奪る づるささるハ 針さ刺しに
殺し捨つ こによりて 現人 震イ恐れて
奴が心の随になす こによりて 八島士奴美
の命 押別の命 磐坂日子の命 二柱の神に
告りたまわく 奴ハ冦なウならじ 呪じ凝
りて括げ 火以て治せよ と 告りたまイき
故 押別の命 磐坂日子の命ハ 五十ぢの
強士人を手向け 発たしましき 故 男餓鬼
頭 女餓鬼頭ハ 百人の禍らイ そを見て
棚洞より 湧き出て 神の五人の眞中 目指
しに 馳せ入りき そに 当たる人 皆
傷つきて しどろ 打ちなして 幾許く悩
みき 故 二柱の神 怒り 面火照りまして
呪じ凝り 括げますに 禍らイ人 鎮打ち
和む これの時に 二柱の神 家族に告りて
千尋岩の 岩の上なる茂き萱に 火以て為
しき しかすかに その眞火 野悉に満ちて
禍頭ら 尽々に亡せき これの 焼かエの
こりる躯尽々に 煙消て 百足となりき
-------------
5,17
-------------
こに【布波能母遅久奴須奴の命ハ 淤迦美の
命の御娘 日河比売の命に 御娶ゐまして
産ましませる御子の御名ハ 深渕水夜礼花の
命】またの御名ハ 八束の命 またハ 八束
深惠水の命とまをす 次に 波多道依姫の命
次に 八雲立日奴の命 三柱の神を 産み
たまイき
-------------
5,18
-------------
青幡佐久佐日子の命ハ 天の下の現しき青
人草の 道引きの神とまをす 故 青幡佐久
佐日子の命 国廻なしたまイて 法螺 猛り
なす 筑紫の国ハ 人草 多にあり 越の国
ハ 人草 少になり 故 筑紫の国の人草を
越根の国に植エ 陸奥の国の人草 多にあ
り 常陸の国と无邪津海の国とハ 人草 少
になり 故 陸奥の国の東の人草を 常陸に
植エ 陸奥の国の西の人草を 无邪津海の国
に植エ 秋津根の国と 草木根の国ハ 人草
多にあり 狭依科の国と 遠津海の国ハ
人草 少になり 故 秋津根の国の人草を
遠津海の国に植エ 草木根の国の人草を 狭
依科の国に植エましたまイき また 東の陸
奥の国の野之辺 无邪津海の国の野之辺 丹
波の国の野之辺 建依の国の野之辺 速日の
国の野之辺 これの天の下の 六の野之辺の
尽々に 牛と馬とを放ちて 幾ら無く 雄駒
雌駒を産し 生ましめて 国の国々 島の
島々に 撒き散らさしめて 種津 畑津 さ
作りの助け なさしめたまイき
-------------
5,19
-------------
ここに 狭依科の国津長 宮処に 参イ来て
まをす 奴が国に 山狩人ハ多なれど 海漁
人 希なり 或る日 海幸と山幸と 幸 換
エてき 山狩人 海に出て 釣するに 珍ら
かなる海魚を 取りたりとウて 御饗エに
御祝きまつると 鰭の広海魚を 百余り奉り
き 故 大神 甚く 御喜びたまイて こハ
狭依 越せる 美し海魚かも と 告りた
まイき 故 これの海魚を 細魚沙魚といウ
-------------
5,20
-------------
ここに【深渕水夜礼花の命ハ 天之都度閇
知泥姫の命に 御娶ゐまして 産みませる御
子の御名ハ 八束水臣津野の命 次に 簀狭
之八箇耳津野の命とまをす ここに 八束水
臣津野見の命ハ 布怒豆怒の命の御娘 布帝
耳戸喜姫の命に 御娶ゐまして 産みませる
御子の御名ハ 天之冬衣の命 またの御名ハ
天之葺根の命とまをす】次に 赤衾伊農岐
の命 次に 意保比古佐和気の命 三柱の神
を産みたまイき 次に 須賀之女の産みませ
る御子 三柱あり こハ 姫御子なり 次に
現人女の産みませる御子 四柱あり こも
姫御子なり
-------------
5,21
-------------
ここに 草木根の国の 国津頭 大軽彦の
頭 宮処に服ろわずて 奴が心の随に 国内
人の種津物を 取り奪ゐ 清女八十人を 寄
せて 共酒を喰らイて 国人に 性無き業を
なす 故 八束水臣津野美の命 八雲立日奴
の命 天之冬衣の命 赤衾伊農の命 意保須
美日別の命 並べに 八十伴の緒の長とち
家族の頭どち等に 告りまして 服ろわぬ頭
を 払イ平けね と 告り言ちて 天の逸駒
に召さし 千入の靫を負わせ 眞鹿児の行縢
に 十握剣を佩かし 高鞆着けに 伴緒の長
八十伴の緒の頭どち おのもおのも 国の
健駒に乗りて 八百の家族の頭を率きて 吉
備津根の小浜ゆ 駒に 鞭込まして 海波の
穂の上を翔りて 草木根の国に出ましき 時
に 大軽彦の頭 水分山の頂に 遮ぶして
八百千の禍らイに 弓を着らせ 木間の重城
の眞の上ゆ 転石を投げ棄て 強く 防き撃
りき 故 八束水臣津野美の命 いたく 御
怒りまして 彦舅の大神 国照大神に 奴が
禍さをまをして 神逐イを 祷ぎまをしき
故 時じくに い雪 頻並み降りなす ここ
に 禍頭どもハ 水分の頂ゆ 右手の低みの
暇谷の 棚岩洞に 屈みぬれども 叶わず
故 大軽彦の頭 禍らイに告げていウ これ
のい雪ハ 奴を援けの雪にあり 故 これの
雪に 天津神の寄人 寄せ込みに 物無し
こによりて 水分の裏山道ゆ 潜き逃れて
遠国に走して謀らに と いイて 八百千の
禍らイ人を 先立てなして 水分の裏山道ゆ
逃れ走しき ここに 八束水臣津野美の命
ハ 天之冬衣の命を召さして 告りたまわく
これの雪ハ 吾が御祖 国照大神の賜イ物
なり 禍奴等 これのい雪に 堪エずて 逃
げ馳せ往に 然あれども 吾が これに 屯
れなせば ここに来で 裏離れなさに 故
汝神ハ 赤衾伊農の命と共に 家族 半らを
率きて 裏なせ と 告りたまイき 故
天之冬衣の命 赤衾伊農の命ハ 家族の頭
半らを率き 水分山の裏道の 佐味の谷の
峡羽の木叢に 潜群なす ここに 大軽彦の
禍らイ人 水分山を潜き逃れて 佐味の谷に
走しり出るに 二柱の神 家族の長どち 皆
剣を抜かして 追ゐかけに 禍らゐを 皆
に皆に 殴り殺し 打ち斬りましき 故 大
軽彦ハ 禍らイ人 十人余りに 纏ばれて
また 水分に 逃げ帰るゆ 猶 追イ懲しま
すによりて 前道ゆ 走り往き ここに 大
神の屯れます所ゆ そを見て 八雲立日奴の
命ハ 眞駒に鞭て 大軽彦を 頭掴みに掴み
て 眞の上高に 差しつめまして 大地に
抛げなす 故 大軽彦の眼 飛ばし出て 失
せにき 故 国内 穏びて 祝ぎき
-------------
5,22
-------------
ここに 穴門の国の 国津長 門田の命
訴エけらく 奴が国中に 丈なる岩あり こ
れの岩 能く 言問イなす いと 怪し と
参イ来てまをす 故 八束水臣津野美の命
御親に い往きたまイて 見そなわします
に 国津長の言し如に 丈岩 言問ウ これ
の岩ハ 禍岩なり こハ 禍津日の 凝れる
巌なるかも と 告りたまイて 天窓の命
国窓の命に 依さして 告りたまわく 二柱
の長 並めに 割り裂けて 禍払イなせ と
告りたまイき 故 二柱の長 共に 神の
礼代に 仕エて 手拳以て 一と撃成すに
眞声成し 二た撃成すに 素声成す 三つ撃
成すに 八段に 割り裂きぬ 故 中らより
眞白の気 陽炎なし 攀ぢき 今 夕され
ば 彼の処に かぎろウハ これの本なり
故 其処処を 石見といウ
上津文 五の綴り完エ
-------------
6,1
-------------
上津文 六の綴り
【ここに 天之冬衣の命ハ 刺国大の命の御
娘 刺国若比売の命に 御娶ゐまして 産み
ませる御子 生れましながらに 御身を起こ
して 御立たしましき 故 これの御子の御
名を 大名牟遅の命とまをす またの御名
数多あり こハ それの 時々の御名なり
故 大国主の命 大穴牟遅の命 宇都志国
玉の命 葦原之色許男の命 八千矛の命 大
地主の命 大名牟遅の命 八千矛法吉主の命
大物主の命 櫛甕玉の命 大国玉の命 国
玉主の命 玉久美大地の命】
-------------
6,2
-------------
ここに 天之冬衣の命ハ 国々を御巡りま
して 陸奥の国に出ます時に 国の国主たち
御迎エに 迎エまつりて 米実粉を以て
団子を作り 茅萱に巻き以て 弥 蒸しに
蒸して 御饗エまつる 故 そこを 茅巻の
里といウ そより 越の国に出ます時に 国
主たち 最寄りて 清み酒を饗エまつる こ
ハ 現しき薬師なるかも 味なす薬御酒にあ
るかも 故 天の下に撒き修せ と 告りた
まゐき 時に 国主たち 眞木の磐船八十隻
を造りて 命召しに 伴召しに 乗らせまつ
りて 天之狭手依島に出ましき 島の国主た
ち 海魚の太物 海魚の狭物を多なし 御饗
エまつりき 命 これの島を 御巡りまして
告りたまわく これの島に 牛馬無くて
田作り適わず 故 穴門の牧山の 牛と馬と
を分かち 八百頭を これの島に 牧山なし
て移せよ と 告りたまイき 故 穴門の国
主たち 牛と馬と 八百頭を率きて 狭手依
の島に 参イ着けて 上津の縣の 唐洲山を
開きて 放ちやりて 現人の腕と なさせた
まイき ここに 天之冬衣の命ハ 筑紫の白
日の国に出まして 越の清み酒を 醸なさせ
たまイき 醸法の道訓りハ 人草の薬師と為
に と 告りまして 香山戸の命 羽山戸の
命 大山咋の命たちを 迎エまつりて 国主
どちに 醸法を訓り伝てなさしめき そより
豊日の由布の岳に 出まして 速 直入に
着かせたまウ時に 夕御餉の神穎に 仕エ
まつる国主たち 共に 麦の御粉以て 伸べ
切る棊子麺を 御饗エ 祝きまつりき ここ
より 須賀の宮処に 帰らせたまイき
-------------
6,3
-------------
弥 先に 天之冬衣の命 いと 若く 逸
り男なる時に 八十禍津日の神の裔 悪じ狂
男の頭の子 梟女ハ 眉目形ハ 諸人に勝れ
たれども 年長けて 益良女にありながら
御心悪じに在して これの命を 犯しまつり
て 生める御子ハ 祖父の神の御名に象せて
八十神の命とまをす これの御子 御年
七つと まをしし時に 天之冬衣の命 妃
召したまエるからに 梟女ハ いたく 嫉妬
りて 御子を掻きて 宮に参イ来て 髪衣
暴れに 執拗 罵らこして 幾代か 汝を
呪エましなす と 猛び 叫びて 御子を
門柱に括して そが身 眞向川に跳びて 死
去に亡せき 故 天之冬衣の命ハ 御子を目
見たまイて いたく 御胸を塞ぎましき こ
こに 刺国若比売の命ハ それの御子を 掻
き抱かせたまイて 告りたまわく これの御
子ハ 夫子が御子なり 夫子が御子ハ 全き
吾が子なり 故 吾 育まに と 告りま
して 人子の兄の子なり と 愛で囃したま
イき
-------------
6,4
-------------
【ここに 八十神の命ハ 因幡の八上比売
の命に 婚わにの心延エありて 因幡に徃き
ます時に 大穴牟遅の命に 袋を負ばせて
家族人となして 率で徃きまして 気多の埼
に到る時に 毛無き兎 臥し転びおりき 故
八十神の命 それの兎にいイけらく 汝ハ
何故も そこに転ぶ と 問イましき 兎
まをしけらく 奴ハ 淤岐の島にありて
これの陸に渡りなも と 欲りすれども 渡
らにに 因々無かりしからに 海なる鰐を欺
き 奴と其奴と 朋友の多き 少なきを比べ
てに 故 汝ハ その友垣ありの尽々 出来
て 波上現れに 亘りてよ 奴 その上を
踏み走しつつ 誦み渡らに と いイしかば
欺かエて 並み臥せりし時に 奴 その上
を 踏み渡り来て 地に降りて 汝ハ 奴に
欺かエつ と いイ完エば 最端に並める鰐
奴を捕らエ 尽々に 奴が毛を抜ぎき こ
によりて 転び居るとまをす 汝 為むハ
これの潮を浴みて 風の吹くに当たりて 臥
し居れ と いウ 御教エの随に 臥しき
それの 潮の乾くに 身痛みて 泣き臥しな
せれば 遅れ来ませる大穴牟遅の命 見そな
わしまして 何故も 汝ハ 音泣きて 転び
おるぞ と 問イたまエば 兎 まをしけら
く 然々なして 泣き在す と まをす こ
こに 大穴牟遅の命 汝ハ 穢き心延エなす
からに これの如に 罪なわる 今ゆ 明き
心持ちてよ と 教エたまわく これの水門
に徃きて 水以て 汝が身を洗イ 蒲の黄を
取り敷き散らして その上に転びて在せば
もとの肌膚とならに と 教エたまイき 故
教エの如なせしかば もとの肌膚になりて
熱れ止みき 故 兎 喜びて 大穴牟遅の
命の持たせる袋を負びて ひたふるに 後ろ
脚を持上げ 前脚を伸べて 御後辺に就きて
御伴に罷りき】
-------------
6,5
-------------
ここに 八十神の命ハ 因幡に出まして 八
上比売の命に 娶わなにと 言問イましき
故【八上比売の命 答エけらく 吾ハ 汝の
言を聞かじ 大穴牟遅の命に 娶わなに と
まをしき 故 八十神の命 怒りまして
大穴牟遅の命を 殺さにと 其 謀りて 告
りましき 伯岐の国の手間山に 赤き厳猪あ
り 吾 家族と共に 追ゐ下りなば 汝 待
ち獲れ と 言て 厳猪に似たる大岩を 火
以て焼きて 山の頂ゆ 転ばし落とし追イ下
りき 故 そを 手捕りなすに それの
火岩に焼き著かゑて 亡りましき 故 その
御祖 天之冬衣の命 刺国若比売の命 哭き
慨 みたまイて 天昇しなしまして 高御産
巣日の命 神御産巣日の命に 然々以て 祷
みまをしたまエば 蚶貝比売の命 蛤比売の
命に言依さしたまイて 息呼せなせと 告り
たまイき 故 二柱の神 天降りまして 息
呼せなさして 息呼せ呪訓りに 蚶貝比売の
命ハ 刮げ焦し 蛤比売の命ハ 水以て 母
の乳汁と塗りき 故 麗しき男になりき】こ
こにまた【八十神の命ハ そを 窺間見て
また 欺きて 山に率て入りて 大樹を伏せ
角矢を嵌めて その木に打ち立て それの
中に入らしめて その氷目矢を打ち放ちて
拷ち伏せに 殺し棄てき 故 また その御
祖の命 泣きつつ それの木を拆きて 取り
出て 息呼せなして もとの身に活かして
告りたまわく 汝 ここに在らば 終エには
腹異の兄 八十神の命に 殺さエなむ
-------------
6,6
-------------
故 久久能智の国の 大屋毘古の命の御許
辺に 急がし 遣りたまイき 故 八十神の
命ハ 求きつつも 追イ到りて 鹿児矢刺す
時に 木の俣ゆ漏き 間逃れて 久久能智に
走ら越しましき】ここに【大屋毘古の命 謀
り訓りに 告りたまわく 秋津高穂の熊成の
岳に 吾が御祖 国照大神 常座ます 故
そに 走りまをさば それの大神 謀りたま
イなに と 急がし 放ちましき 故 御言
の随に 曾祖父 国照大神の御許に参ゐ到り
まししかば 国照大神の御曾孫の御娘 須勢
理毘売の命ハ 出 窺間見て 目合せに 御
婚ゐまして 帰り入らしに その日子の御父
に いと麗しき神 参イ来ましつ と まを
したまイき 故 その大神 聞こし召して
告りたまイつらく こハ 吾が曾孫 葦原之
色許男の命といウ神なり と 告りたまイき
-------------
6,7
-------------
故 呼び入れまして それの蛇の室屋に
寝しめましき ここに その御妻 須勢理毘
売の命ハ 蛇の比礼を その夫に授けて 告
りたまわく 今夜に 蛇 喰わにとする時に
これの 比礼を 三度 振りて 打ち払イ
たまゑ と 御足しなしたまウ 故 教ゑの
如に 為したまイしかば 蛇 おのづから
うぐねせべりばイの 悪じ事 散り亡せき
故 安く寝て 出たまイき また 来る日の
夜に 百足手と蜂との室屋に 呼び入れたま
イしを また 百足手と蜂との比礼を授けて
先の如に 教ゑたまイし故に 然々 なし
て 安く 出たまイき また ここに 大神
鳴鏑を 大野の中に 射入れまして その
矢を 取らしめたまイき 故 それの野に入
ります時に それの野を 焼き廻らしつ こ
こに 大穴牟遅の命ハ 出ます処無くなりき
時に 鼠来て 物言 内ハほらほら 外ハ
ずぶずぶ 此く言故に 其処を踏みしかば
葎が下に 洞穴深めり そに 立ち入りて
隠りましし隙に 火ハ 風の随に 焼け過ぎ
ぬ 時に その鼠 鳴鏑矢を くわエて持ち
出り来て立て奉りき それの矢の羽ハ 鼠の
子共 喰イたりき】【ここにその御妻 須勢
理毘売の命ハ それの夫命ハ 大野が原に焼
かエて 亡ります と 悲しみ嘆かしまして
喪り津物を持ちて 泣きつつ出来まして
原中なる巌に 俯しましき これの時に そ
の 彦父の大神ハ それの日子ハ 活きたり
けるヤ 亡りたりけるヤ と 思ほさして
これの大野に 出立たしたまウ時に 色許男
の命ハ それの大野の 虚深の眞中ゆ ゆた
らゆたらに 立ち出て 其時の鏑矢を持ちて
奉るに 脇戸より 須勢理毘売の命ハ そ
を 窺見 いたく 喜びまして 八門の御殿
に 伴イ 斎きまつりき ここにまた 国照
大神 八田間の大室内に 呼び入れまして
命の御頭の虱を 取らせたまイき故 大穴牟
遅の命 ハ それの命の御頭を 見そなわし
まつるに 百足手 多かりき ここに 御妻
須勢理毘売の命ハ 椋の木の実と赤土とを
夫に授けたまエば そを 御頭の上に 注
ぎしかばその木の実を 咋イ破り 赤土を含
みて 唾きます時に 大神 百足を咋イ破り
唾出 すと思ほさして 御心に いと愛く
健気に思ほさしまして 御寝ましたまイき】
また翌日の夜 国照大神 八田間の大室屋に
【これの日子 大穴牟遅の命を押し入れて
寝なさしめて その髮を 椽毎に 結ゐ着け
五百引き岩を 室戸に取り塞エて】背面よ
り鳴鏑 を射込みまししかば 戸に触れて
地 鳴動ぎき 故 寝ませる大穴牟遅の命
聞き耳に 驚こして 出まさにとするに 椽
毎に結エる御髪に引かれて 由無し 故 手
以て 打ち切り 室戸の五百引岩を 蹶え散
げ 破り出ましき
-------------
6,8
-------------
故【国照大神 櫛名田毘売の命 其を目見
畏みて 告りたまイつらく 豊道之原の色許
男の命よ美し 吾が大道に来た請イの秘め事
心入れなしつるかも 畏し 諸々の訓り伝
て 汝が物なせと 告りたまイき 故 吾が
曾孫娘 須勢理姫の命を 汝が向妻となせ
と 告りたまイて 豊御酒 種津狭名津
広津海魚を 取り出りて 女子迎に 祝イま
つりて 天の斎鋤 天の斎鍬 生太刀 生弓
矢 天の沼琴を 引き出となして 歌を歌
イて大穴牟遅の命に告りたまイつらく 汝に
与エる天の斎鋤 天の斎鍬 此を以て 大須
佐田 小須佐田を成せ また 生太刀 生弓
矢以て 異腹の兄を 坂の御尾に追イ伏せ
川の瀬に追イ払イて殺うせ こハ 眞の兄な
らず 悪じ頭の子なり 兄ハ仮名なすゆ 此
く為せ また 禍津頭 服わぬ頭共ハ 現し
き青人草を 人取り喰ウ頭なれば 山々 谷
々の極み 川々の瀬々ろの極みまで 追イ払
イ 豊道之原に 一人も残り無に 殺し尽せ
よヤ 毛物類ウるも 人取りなすハ 此く殺
せよヤ 此奴よ 汝 大国玉の神なり と
告れ また 宇都志国玉の神なり と 告り
て 宇迦の山の山本に 底津石根に 宮柱太
知りて 高天之原に 氷椽高知りて 天の下
を 造り固めて 安国の穏に定めて 皇らが
御子に 顕わに事を授けて 汝ハ 幽り知ら
せの神と 称エなりて 現しき青人草の清御
心 忠心ハ 天の御座となせ 幽らば 星の
神と御座出 天昇して 天照大御神の御前に
斎かせよ また 醜め心 悪じ心ハ 天の罪
人に障れば 現世を逐ゑ 幽らば 魂掃きな
せ 此奴よ と 告りたまイき】
-------------
6,9
-------------
故 大穴牟遅の命ハ 大御言畏みて 須勢
理毘売の命と共に 出雲の国に 還り発たし
たまイき ここに 八十神の命ハ 穢き心延
エ 弥 益しになりて 現人を人取り喰イ
そがの上に 悪業 多なして 大穴牟遅の命
の還りますを 甚く 嫉びて 殺さむの心ば
エ 止まずであり 故 大穴牟遅の命に 山
猟の伴になさむと 其 謀りて 肥川に 脚
無し橋を掛けて その上に立たす時に 縄引
き 橋落としなして 川底にぶち嵌めましき
-------------
6,10
-------------
故 大穴牟遅の命ハ そを心得て 水底に
立たして 親族 家族に 合言ますに 八十
伴の緒共 高音なして 八十神の命を 取り
巻かすに 八十神の命ハ そを見て驚こして
高山に逃げ上りて 百の禍らゐ共に仰せて
射る矢 雨如す【故 大穴牟遅の命ハ 天
の生太刀 天の生弓矢を取り持たして 坂の
御尾に追イ伏せ 川の瀬に追イ及きて】禍ら
ゐ共を 尽々に斬り払イ 八十神の命を 左
右手取りに捕らエて 御祖の命 天之冬衣の
命の御前に 然々に言挙げまつる ここに
天之冬衣の命ハ 八十神の命を睨りまして
告りたまわく 汝ハ 悪き頭なり 故 これ
の国に な住みそ 遠く根の国に罷れと 御
佩か十握剣を抜かして 八十神の命を斬り打
ちに 殺しまし棄てたまイき ここに 天之
冬衣の命ハ 大穴牟遅の命を召さしたまイて
汝ハ 大曾祖父の命の訓り伝てを学びて
豊道之原を固め成せと 告り訓りたまイき
-------------
6,11
-------------
ここに 大穴牟遲の命ハ 須勢理毘売の命
またの御名ハ多紀玉比売の命に 御婚ゐま
して 生みたまエる御子の御名ハ 木之阿遅
鋤高日子根の命 またの御名ハ一言主の命
次に 下光比売の命 またの御名ハ高比売の
命 またハ大倉比売の命 またハ阿陀加夜主
多伎吉比売の命 と まをす 大神 また
八上比売の命に 御婚ゐまして 生みませる
御子の御名ハ 木之俣の命 次に 御井の命
とまをす 大神 また 高津姫の命 また
の御名ハ神屋楯比売の命に御婚ゐまして生ま
しめたまゑる御子の御名ハ 積羽八重言代主
の命 次に 高照姫の命とまをす 大神 ま
た 越の沼河比売の命に 御婚イたまイて
生ましめたまエる御子の御名ハ 建御名方の
命 またの御名ハ御穂須々美の命 次に
山代日子の命 次に 若経津主の命とまをす
大神 また 眞玉邑日女の命に御婚ゐまし
て 生ましめたまエる御子の御名ハ 八尋鉾
長依日子の命 次に 薦枕志都沼値の命 ま
たの御名ハ 天津枳値可美高彦の命 次に
蚶小貝比売の命とまをす 大神 また 著玉
比良姫の命に 御婚ゐまして 生ましめたま
エる御子の御名ハ 蛤小貝比売の命 次に
天之活玉の命 またの御名ハ 活玉の命 次
に 天之三降の命とまをす 大穴牟遅の命の
御子 全べハ 百八十一柱 在します
-------------
6,12
-------------
【ここに 阿遲鋤高日子根の命ハ 八束鬚
生イまするまで御言 通わせたまわず 故
大御祖の命 いたく 御哀れみまして
高屋を造りて 在さしめ 高椅を立て 登り
降りに 養育しまつりき また 小船に乗せ
て 八十島に出廻りつつ 楽したまエども
なを止まずて 泣きましき ここに 御祖の
大神 これの御子の泣く由をまをして 夢に
願ぎませれば 清らに御言通わすと見たまイ
て 寝 醒めにき 故 御子に言問イたまウ
に 項を上げて みつ と 答ゑますからに
何処を然言と問イたまエば 御祖の命の御
前を 立ち退き出まして 石川を渡り 坂の
上に至り留まりて 指差して 此処 とまを
したまイき こによりて それの津の水を汲
み出て 御禊ぎし】また 薬水の食し水と称
エなして 日にハ 七か日 夜にハ 六か夜
食し濯ぎませて 神訓りますに 御言 清
らに いと能く 通わせたまイき
-------------
6,13
-------------
これの神の御名ハ 阿遅鋤高日子根の命
妃神【天之御梶日女の命に 御婚ゐましき
これの妃神 御妊みて 産か月にならせたま
ウ時に 多伎の村に来まして 教ゑたまわく
汝が命の御祖の向かイ座イなり ここに産
まば吉けにと思イはにぶる と 告りましき
故 ☆神名樋の西に 高さ 一丈 迴り
一丈の岩あり また傍らに 百ちはかりの岩
あり これぞ 吾が御魂なり と 告りまし
て 産みませる御子の御名ハ 多伎都比古の
命 またの御名ハ 広岩弥立之男の命 次に
塩冶毘古の命 と まをす これの神の御
子を焼太刀火守大穂日子の命とまをす】
-------------
6,14
-------------
先に【大国主の命ハ 越の国の意支都久辰
為の命の御子 俾都久辰為の命の御娘 沼河
比売の命に婚イまして 行まして 其が家に
至ります時に歌イたまわく
八千矛の 神の命ヤ 八島国 妻
求ぎ難て 遠々し 越の国に
賢し女を 有り と 聞かして 麗
し女を 有り と 聞こして
狭婚ゐに 在り立たし 婚ゐに 在
り通わせ
太刀が緒も 未だ 解かずて 襲を
も 未だ 解かねば
少女の 寝すヤ 板戸を
押そぶらイ 吾が 立たせれば 引
こづらイ 吾が 立たせれば
青山に 鵺ハ鳴き 狭野津鳥 雉子
ハ 響む 庭津鳥 鶏ハ鳴く
慨くも 鳴くなる鳥か この鳥も
打ち止め こせね
急 飛ウヤ 天馳せ使ゐ 事の語り
言も 此をば
ここに 沼河比売の命ハ 未だ 大屋の戸
を 開きまさずて 内より 返して 歌イけ
八千矛の神の命
軟草の 女にし あれば 吾が心
浦渚の鳥ぞ
今こそハ 千鳥に あらめ 後ハ
汝鳥に あらむを
命ハ な死せたまイそ
青山に 日が 隠らば 烏羽玉の
夜ハ 出なむ
朝日の 咲み栄エ来て 栲綱の 白
き腕 沫雪の 若やる胸を
素手抱き 手抱き 眞長り 眞玉手
玉手 差し纏き
股長に 寝わ 宿さにを あやに
吾 恋イ聞こし
八千矛の神の命 事の 語り言も
故 それの夜ハ 娶ゐまさずて 翌日の夜
辺 御娶ゐましましたまイき】
-------------
6,15
-------------
【ここに大国主の命の大妃 須勢理毘売の
命ハ 日の毎に 甚く 慨み歎かせつつも
月並を送りましたまイき ここに 大国主の
命ハ 侘びまして 出雲より秋津根の国に
至りまさにと 御装イまして 片御手ハ 御
馬の鞍輪に掛け 片御足ハ 御鐙に踏み入れ
たまイて 歌イ
烏羽玉の 黒き御衣を 眞つぶさに
取り装イ 奥津鳥 胸 見る時
羽手抱きも これハ 良わず 辺津
波磯に 脱ぎ棄て
翡翠の 青き 御衣を 眞つぶさに
取り装イ 奥津鳥 胸 見る時
羽手抱きも こも 宜わず 辺津波
磯に 脱ぎ棄て
山縣に 蒔きし あたね 搗き 染
め木が汁に 染め衣を
眞つぶさに 取り装イ 奥津鳥 胸
見る時 羽手抱きも 此し宜し
いとこヤの 妹の命 群鳥の 吾が
群れ往なば
退け鳥の 吾が退け往なば 泣かじ
とハ 汝ハいウとも
山跡の 一本薄 項傾し 汝が泣か
朝雨の狭霧に 立たむぞ 若草の
妻の命
事の語り
言も 此をば
ここに 大妃 須勢理毘売の命ハ 御酒坏
を取らして 立ち寄り捧げて 歌イたまわく
八千矛の神の命ヤ 吾が大国主こそ
ハ 男にいませば
打ち見る 島の埼々 窺き見る 磯
の埼欠ちず 若草の妻 持たせらめ
吾ハもよ 女にしあれば 汝除きて
夫ハ無し
文垣の ふわヤが下に 蒸し被 柔
ヤが下に 栲被 さヤぐが下に
沫雪の 若やる胸を 栲綱の 白き
腕 そ手抱き 手抱き 眞長り
眞玉手 玉手 差し纏き 股長に
寝おしなせ
豊御酒 立て奉らせ 八千矛の神の
命
事の語り言も
此をば
と 歌イたまイて 盞結イなして 項懸け
りましたまイき】ここに【阿遅鋤高日子根の
命ハ 天之美多伎姫の命に 御婚ゐまして
生みませる御子の御名ハ 多伎都比古の命
次に 塩冶毘古の命とまをす これの 多伎
都比古の命ハ 久々年の命の御娘 多伎都比
売の命に 御婚ゐまして 生みませる御子の
御名ハ 焼太刀火守大穂日子の命とまをす】
-------------
6,16
-------------
ここに 速日別の国に 悪じに 祟る禍頭あ
り そが名ハ うじる時守頭といウ 故 こ
こに 大国主の命ハ 御子 阿遅鋤高日子根
の命に 告りたまわく 汝ハ 速日別の国に
罷りて 祟りなす禍頭共を窺間見て来ね と
告りたまイき 故 阿遅鋤高日子根の命
ハ 速日別の国に入りまして 返り言まをす
状ハ それの国の菊池の高みに 平地あり
そに うじる時守頭居りて 此所に騒エなす
その禍らイ共 千萬ありて おのもおのも
に 現人の女 また 若女を掠み取りて 奴
が妾となし 人草の作田の実物を 奪りて
分ぢなして 喰らイて 大御田族を悩ます
そが故由ハ 奴が軍舎の如に 大室を 岩以
て 結イ足らに時に 大御田族を 家使イな
し そに違エるハ 殺し喰らウ こによりて
皆 禍らイに賄ウ者ハ助け 然らすハ罪と
なして殺す こを 常時なすとまをす と
詳らに 告り挙げましき
-------------
6,17
-------------
【故 大国主の命ハ 国平けまさにとした
まウ時に 出雲の五十狭々の小汀に 御食し
まさす時に 海の上に 人声せれば 窺間見
求ぎたまウに 物も見えずてあり 間暫くあ
りて いと 小さき神 波の穂より 天の羅
摩の船に乗らして 鷦鷯の羽を 御衣に着て
潮の随に[弥々弥々に 歌イ越しつ]故
大国主の命ハ 懇ろに取りなし 掌中に据え
て 以て斎きたまエば 御衣之上に跳りて
掌中を蹶え跳びて 火明りに立たしましき
故 大神 こハ 尊き神ぞ と 思ほさして
その御名を問わすれども答ゑず 故 御伴
の長たちに問わすれども 御名を知らず と
まをす ここに 谷潜まをす こハ 久延
毘古の神こそ知るらめ と まをす 直に
久延毘古の神を召さして 問わす時に 久延
毘古の神まをす こハ 高御産巣日の命の
八十柱の末の御子 御名ハ 少名毘古那の命
またの御名ハ 少名牟遅の命とまをす神な
り】とまをす【故 ここに 使を遣して 高
御産巣日の命の御許に 告り上げたまイしか
ば 告りたまイつらく こハ 眞に 吾が御
子なり 吾が産める御子 全に 千五百柱有
り[そが中に いと 威猛くて 教エ事を嗜
みて清しき神なり]何思イてか 吾が掌俣よ
り 漏き抜けて 出る御子なり 愛み養し
て 葦原之色許男の命と 弟兄となりて 青
人草に悪じなす頭共を 逐イ また 漂エる
国を 造り固めて】現しき青人草の便め良さ
に 愛で平けて 楽し世に 幸わゑなせよ
と 告りたまイき 故 大穴牟遅の命 少名
牟遅の命 二柱の神 合イ並わして 御心を
睦び 力を合わせて 大須佐田 小須佐田を
定めたまイて
-------------
6,18
-------------
また みたあイのはしとに 筑紫の速日別に
もじる時守頭 禍らイ 多なすと聞こしめ
して そを 逐わにとて 阿遅鋤高日子根の
命 木之俣比古の命 御井の命 積羽八重言
代主の命 御穂須々美の命 山代日子の命
若経津主の命 八尋鉾の命 高日子の命 活
玉の命 三降の命たち 八百萬の家族の長ど
ちを 率き連りましき ここに 大穴牟遲の
命 少名牟遅の命ハ 八十の伴の緒と共に
天の健駒に召さしたまゐ また 八百萬の家
族の長どちハ 天の藤葛の足駄を踏み 小羽
黒弓に烏羽の矢を取り おのもに 八十の得
物を取り持たし 波の穂の上を ゆくらゆく
らに 踏み猛び 速日別の菊池の郷中に出ま
しき ここに もじる時守頭 並べ伴の禍ら
イども 岩礫を撃ち 磐弓をもがり 風招ぎ
なして 枷ぎにき ここに 少名牟遅の命ハ
大穴牟遅の命に 告りたまイけらく もじ
る時守頭 八百の禍らイ共ハ 強く防きなす
からに 合イ向き撃つも いと 煩し 故
雲翔りて 逐イてによ と 告る 大穴牟遅
の命ハ あウ と まをしき 故 二柱の神
ハ 天の狭霧を召さして 空翔りて 神の伴
の八百千の家族を 誘き入れまして 高天之
原の中空ゆ 高音なしき ここに もじる時
守頭 伴の禍らイども そを 窺聞き見て
震イかららき 其が身縮凝りき 故 神伴の
緒どち 家族の八百ち人たち 狭霧中に現わ
れて 禍らイ一つに 蹶え散らし 蹴殺しま
して そが体を 野薦と共に 焼き棄てまし
き 故 そこを佐嘉那といウ
-------------
6,19
-------------
高天豊道明萬根子大津根子神伊邪那岐の命
眞燿幻厳之狭威玄神立神伊邪那美の命 これ
の二柱の大神の愛子にます 熊野加夫呂伎櫛
御食野の命ハ 五百津鋤の神鋤取らして 千
焼鍬の神鍬取らして 大穴牟遅の命 少名牟
遅の命 二柱の神に言依さしたまイき 故
二柱の神 天の下を御廻りまして 水月なす
浮き漂ゆたウ国処に 葦 菰 菅を 植ゑ
生ふせに 生せ作り固め 山野岩を蘯まきな
して 稲田広らになさして 神訓りましき
-------------
6,20
-------------
ここに 天津神たちの 諸々の大御言を以ち
て 天照大御神 夜見照大御神 国照大御神
八十星御祖の神たちの前津辺に 共に 国
津神 天昇しなす 大穴牟遅の命 少名牟遅
の命に 告りたまイつらく 現しき青人草ハ
天の御秀木 国の御秀木 天の木々立 国
の木々立にしあれば 慈しみて 天の座置
国の座置に斎かせ おのもおのもに 清みに
心なし 人多々に 星の神となさしめて 高
天之原に天昇して 大神たちの御許辺に 和
霊なし 保イに 仕エまつらしめよ 然にあ
れども 人草の生命永からなくば 天の座置
に仕エざらまし 故 高御産巣日の命 神御
産巣日の命 神伊邪那岐の命 神伊邪那美の
命の撒かしたまエる千々 幾萬々の青人草
幼死 逸死 益ら死 受家死 眞受家死 千
努死 眞千努死なすハ 天津罪にゆ 故 そ
を 祓イ清めて 呪じ訓道 薬師道を開きて
国内の青人草を 生命永からしめよ 故
呪じ訓ハ 神訓なして修せ また薬道ハ 山
野 海川に生ゆるものハ 皆に皆に 薬とな
る 然あれど 中らに毒あり 食わす勿かれ
また 薬掘り人ハ 馬人に訓伝てよ 呪じ
訓人ハ 牛人に訓伝てよ また 薬の其が初
道ハ 木実
木根 木立 狭茅 狭根 狭実 笹津根
狭比知 狭桃なり 故 然すかに 薬と毒と
有り 木立依て 露き 隠るあり そハ 己
が随なすハ 毒覆ウあり 乳苣も枯れに 一
並べなす と 告りたまイき 故 二柱の神
天降りまして 千木立の木根を 根掘しな
し 千草をも 根掘しなして ころ障ゑを量
らにとて 猿千匹 狆千匹 犬千匹に これ
の木草を 種々に 取りなして 代わる代わ
るに 食物 さくまに 食わせて こ探り
神探りましき 故 食ゑ飽きて 生く獣も二
千五百匹あり 然々に 食イ斃る獣も 五百
匹あり また 先の如に 然々に こ探り
神探りましき 故 食エ飽きて 生く獣も
二千七百匹 斃る獣も 三百匹あり また
然々に こ探り 神探りましき ここに 生
く獣も 三千匹ありて 足らしぬ 故 筑紫
の禍頭の禍らイ人の囚人 五百人余あり 彼
奴どもを 引き出て こ探り 神探りましき
この中に 建人 二百五十あり 弱人 二
百あり 亡る人 五十ありき 故 こを以ち
て それの柾 おゆ木 左支木 須々久佐
よち草 波利草を薬となし 己波木 うばき
止禰木 己波草 うば草 止禰草を 毒と
なし【また 薬も そが臥しにゆ 毒となり
毒も そが臥しにゆ 薬となる 故 薬ハ
衰エるに 毒なす 毒ハ 衰エるに 薬な
す 衰エて臥すハ 人毎の体組によりて 並
べならず 衰エるも 臥すも 同じ如すに
おのもおのもの体組に 関りなすもの故 三
十歳をころばエずてハ治し難にぞある 故
これの薬を 衰エるに試ばイ 臥すにも試ば
イて 重の量に治しなして】かかと飲ましめ
ここと飲ましめば 幾 健け 幾 肥よと
生めかしなさしめにとて 薬道 毒道を千
別きて 国の馬人 国の牛人に 御教エたま
-------------
6,21
-------------
ここに 大穴牟遅の命 少名牟遅の命の二
柱の神ハ 天昇しなしたまイて 高天の大宮
天照大御神の御前に まをしけらく
吾が二柱以て 国造りなすに 人草の食物
成れるところあり 成らぬところあり こハ
自賄イに 自食飢ず 故 いける神たちを
美し道の訓伝てませと 太祝詞の願ぎ言を
まをしき 故 ここに 天照大御神 国照大
神を 召さしたまイ 然々の言を告りたまイ
き ここに 国照大神 あウ と 告りたま
イて 直ちに その御子 大年の命に 然々
に 告り言ちたまイて 並べに 大年の命の
御子 御年の命 若年の命たちに 告り言ち
たまイて 種津稔の実らしの神 と 称ゑて
また 御孫の御子 奥津日子の命 奥津比
売の命ハ 竈知らせの神 と 称ゑ 御孫の
御子 庭高津日の命 天津阿須波の命 天津
波比岐の命ハ 天津火 天津水 豊種津物
青菜 海魚を 火炊き道知らせの神と称ゑ
御孫御子 香山戸の命 羽山戸の命 大山咋
の命ハ 酒醸を知らせの神 と 称ゑ 御孫
の御子 稲依日女の命 千依比売の命 佐々
津比古の命ハ 未醤醸を知らせの神 と 称
ゑ 事勝国勝長狭の命 底度久御魂の命ハ
味塩を取り作りの神 と 称ゑ 若山咋の命
若沙那売の命ハ 種津物を知らせの神 と
称ゑ 弥豆麻岐の命ハ 水田津に水分りを
知らせの神と称ゑ 夏之売の命ハ 畑津の熟
きを知らせの神と称ゑ 秋毘売の命ハ 水田
津の熟きを知らせの神と称ゑ 久々年の命ハ
熟々の御狭田を知らせの神と称ゑ 久々紀
若室葛根の命ハ 豊種津実を生す成るを知ら
せの神と称ゑ また 年守星神 雨守星神
風守星神 雲守星神 露守星神 霜守星神
かし守星神 霧守星神 弥畑守星神 野山守
星神 田之土守星神 おのもおのもに それ
の毎々に天降りて 司知らす星の神たち 魂
分り知らせの神と称ゑ 現しき青人草に 幸
わゐなして 安らけく 奇し御世に守れ と
告りたまイき ここに 天照大御神 大穴
牟遅の命 少名牟遅の命に 告りたまイつら
く 汝が命 天降りせば 吾が襲を長め裁ち
に 取らしてに と 祝きたまイき また
天照大神ハ 木綿以て截れる 黒穂の冠を
取り出まして 大穴牟遅の命 少名牟遅の命
に 祝ぎたまイき 故 こを 宮下げといウ
ここに 二柱の神 天降りまして 天の祭
り 国の祭りに 仕エまつりて 活津食物
秀津食物 国固め 海固め 泥成り固め 潟
成り固めなさしめたまイき
上津文 六綴り完エ
-------------
7,1
-------------
上津文 七の綴り
【ここに 大穴牟遅の命 衰ゑて臥しし時に
少名毘古那の命 生かさまく 思ほさして
大分 速見の出湯を 下樋より 持ち渡り
来まして 隠り濯ぎに 御身浴み 濯ぎまし
しかば 間暫し程ありて 活き起ちまして
間暫し い寝るかも と 告りたまイて 踏
み健び】これの湯ハ 頓の薬なるかも と
告りたまイて 大分の国 速見の国に 出ら
し往きまして 火鳴りの岳に登りて 火鳴り
健びの煮泉湯を 底つ岩根の下刳る樋に 押
しなして 汲みやりまししを 厳の神湯とな
もいウ 故 大穴牟遅の命の御妾 高津姫の
命 月経 久に目見ずて 病みます時に 速
見湯に濯ぎたまエば 忽ちに 癒えましき
-------------
7,2
-------------
【ここに 少名毘古那の命 寒の小浜の砂子
を採り 潮以て 焚き散らし 木綿巻きに
巻き円め 大背を和ましつ 故 直ちに 癒
エましき】故 そこを 燒き砂子の国といウ
今 八坂といウハ 訛りなり 出雲の文に
いえらく 火鳴りの煮泉を置き伏せて 潮湯
となし 日にハ七か日 癒エたりとウ
-------------
7,3
-------------
【ここに 二柱の神 現しき青人草 また
水津毛物 畑津毛物のために その病を薬す
るの大道を定め また 鳥 獣 蛇の災を払
わにとして 呪訓りなイの神言を 定めたま
イき】御子だち 御孫たち 御曾孫たち 御
眞曾孫たちに おのもおのもに 御業成りを
知らせたまイき 此に因りて おのも毎に
大須佐田 小須佐田を依さして 天の斎鍬
天の斎鋤を 取らして 種蒔きに 豊御酒取
らし 早苗出らして 水田津 苗伏せに 槽
伏せて 肥田に歌わして 轟ろこし 水田津
歌イに 声転し風に 揺り足らしに 揃エて
並べて 処廻り 田廻り 苗配らしに 生す
や生すやに 広ら水田津に 瑞し瑞しに 豊
ら豊らに 熟きの垂り穂の八束穂畔廻に 種
津実収めに 生業なさせましき こハ 御子
の諸神の生業なり
-------------
7,4
-------------
また 副ゑて 二柱の大神 阿遅鋤高日子
根の命に 告りたまイつらく 天津神の言依
さしの随に 天の祭りを ここらに 斎き
敬イ畏みて 国の祭りハ 青人草の千足る天
の茅巣なさせ 朝夕べに 楽しに 仕エなさ
しめ 八百の便吉さ吉さなさしめて 神の禮
代に 仕エまつらしめよ と 告りたまイき
故 此処に 阿遅鋤高日子根の命 積羽八
重言代主の命と共に 国の国々の翁ども 島
曲の翁ども また ところところの老どもを
神集エ集エまして 村の村人の長老を 定
めましき 故 国の翁よりはじめて 村老
村毎に 茅巣 間蕩め 大御田族の楽し座な
さしめき 故 陸 狭手依 恵美の野の極み
まで 豊種津 木の実 香の実 麻布 綿布
蚕飼イ 蚕布を作り 家毎家毎に 満ち足
らわしき
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7,5
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故 天之活玉の命 天之三降の命ハ 国の
祭りの神首とならしめて 朝夕べに 賀詞を
撒かし 凶事を逐イ 八十伴の緒に任なイて
種々 取り栄さしたまイき また 木の俣
の命 天之御井の命に 依さして 天の祭り
の神斎ゐの祝ぎ言に 仕ゑまつりて 高天之
原の神たちに 斎きまつれ と 言依さした
まイき
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7,6
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故 二柱の神 議りまして 天の岩屋戸の
祭りの状を真似びて 言訓りましき 故 天
之鏡津之男の命に 御像鏡を作らし 拆鳴主
の命に 拆鈴 五十鈴を作らし 檍鳴主の命
に 合莵鼓 五十莵鼓を作らし 叢立男の命
に 天の羽斬の十握剣を鍛たし 鳥守彦の命
鳥守姫の命に 青和幣 白和幣を作らし
玉之緒の命に 八尺の勾玉を作らし 管形手
持の命に 笛妙を作らし 吹羽足の命に 法
螺竹を作らし 大乳言の命 小乳言女の命に
大き鼓 小き鼓を作らし 天之和琴姫の命
天之吉琴姫の命 天之鳴琴姫の命 天之音
琴姫の命たちに 天の爪掻の瓊琴 副琴【八
弦琴 六弦琴 四弦琴 二弦琴 一弦琴 ま
た 膝据えの七弦竹琴 五弦竹琴 三弦竹琴
一弦竹琴】を作らし手技し 裳取緒姫の命
天之倭文姫の命 和棚機姫の命 荒棚機姫
の命 狭綿棚機姫の命たちに 繭 麻 楮
綿 狭断ちて 九つの色の布を織らしめて
火丹色 紫色を幡となし 青色 黄色 赤色
を垂れ被となし 白色 黒色を 頓垂れとな
し 萌色 づ色を 折敷となし 天之御楮貴
の命に 御笠を作らし 天之葉木立の命に
股立を作らし 国之膳の命 膳姫の命に 食
立ての種々の膳に仕エまつらしめ 故 膳に
柏葉を八重敷き 高秀瓦イ 白汁秀瓦イ 甘
汁秀瓦 生秀瓦 塩折秀瓦 かぬ秀瓦 千根
秀瓦 ぬぬ秀瓦 混み汁秀瓦 削秀瓦 と椀
実椀 焼椀 乾椀を 色数に作り供エまつ
りまさし 天之豊種別の命 国之豊種別の命
ハ 十四の種津物を 千塚 萬塚を設げまつ
らし 国之中津男の命 中津実別姫の命に
甘菜 辛菜 沖津藻菜 辺津藻菜を 千萬結
イを 設げまつらし 海津魚取男の命 海津
魚取女の命に 鰭の広海魚 鰭の狭海魚 百
千の荷の緒を 設げまつらし 山口之木守の
命 木守足火の命 祓火之男の命に【大峡
小峡の麓の木】を伐らして 斎庭火焚き 八
十熱れなさしめ 海星之男の命 御凝姫の命
ハ 大海の眞中の早瀬の騒潮を 汲み持たせ
て 祭り庭場の斎庭と 斎まわり 清まわり
なさしめ 甕速日の命の御子 甕武市持の命
岩拆の命の御子 岩奇富の命 二柱の神
八十の神に祭り 此を添エて 天津祝詞の太
祝詞言を告らしめ また 添エて 祈り言を
尊みまつらしめ 畏みて 天津大神たちの詔
りの随に ちばやぶる荒ぶる 祟る頭を払イ
逐ゐて 現しき青人草 安く穏びて 千足る
茅巣 千足る豊種津実を 取り収めて 年食
イに 欠ぐこと無くして 楽し 歓ぎに 御
代斎みなす 此よ後に 祟る禍頭在らせず
幸エたまゑ と 祈り言に 言込みに 八平
手まつり 祈りまつる
-------------
7,7
-------------
阿遅鋤高日子根の命ハ 親らに 天之活玉
の命 天之三降の命と共に 国の祭りの訓り
なる 現しき青人草に 豊種津作り道を定め
て 勤労きなさしましき 此処に 東 南
北 西の国々の極みまでの現人 参ゐ来て
荷前奉る 故 阿遅鋤高日子根の命 怒り
面火照りて 穢らわしきかも 何故も 吾を
祟る頭に 准らウぞ と いイて 返し放
ちましき 故 国の国々の現人 哭きつつ
得帰らずてあり 此処に 三柱の神ハ 物部
人を率て 国の国々 島の島々に 祟る禍頭
有らば 逐わにとて 出歩きき また 処々
の長老を定め 家継ぎ道を定め 子取り女を
定めましき 先に 積羽八重言代主の命ハ
天の八百熊矛を打ち振り 禍の祟る禍らイの
疾奴を斬り払イ 国の極み 島の極みに
追イ及き斬りて 国平け完ゑまして 告りた
まわく
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7,8
-------------
【現しき青人草の 得手に作り ここきに
作りたてる 豊の種津物ハ 得手るハ多あり
得手ずハ少にあり 故 得手るもの 得手
じものを 物換エ事なさして 勤労ぎなさば
現人の便めにあり と 告りたまイて 国
配りまさめとて 国の国々の長老に告り伝て
まして 草木根の三林に 室屋を建てて そ
の八百室に その秋の垂穂を担わせ 直に直
に 種津実の千足穂を 三十の秋の熟の尽々
に担わせて 田競べなしましき 故 大国の
人草 思イ出り入りに持ち来て 田競べにな
して 換ゑ換ゑ事なさしめき 故 大御田族
無き物有る 避れり 多有るも 無からし
並べて 所々に 押し並みき 故 国々
島々 大御田族 甚く 喜び合エり 此を以
ちて 国の国々 島の島々の長老に 換ゑ事
の道訓りを 訓り伝てまして 所々に そが
道を学びて 換エ事の熟担イに 仕エまつら
しめたまイき
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7,9
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また 積羽八重言代主の命ハ 薦枕代主の
命と共に 勾鈎に 餌刺して 海幸を楽しみ
ます時に 積羽八重言代主の命 思イ謀りて
告りたまわく 豊道之原の現し人 皆 海
魚を食わば 手力勝り 生命永からしめにと
ウて 思イ謀りて 千尋の栲縄を以て 百尋
の網を編ませ 桐木を着けて 浮子となし
麻布を編みて 海魚込みとし 八重蔓を縄な
して 引き手となし 鉄を着けて 錘となし
また 鉄を尖らして 太海魚の背込みとな
し また 八尋の網を以ちて 小海魚迫々ら
となして 海漁人を多々に 大海魚 小海魚
多なし 山なし 秋の垂穂の換エ事賄わし
ましき 故 また 勾鈎を 多に作らしめて
栲の細糸を着け 引き手となし 銅を錘と
なし 沖津辺津に 小舟を流して 釣りなさ
しましき】故 歌イたまわく
沖中の 網引く 海漁人 海漁人ら
勤し網引き なすかヤ 海魚 多なすかヤ
勤しきか 海魚 さ寄るか 勤労げば
こそ 海魚も 寄らめ
海魚 い寄りこそ 勤労ぎもしめ こ
れの海漁 天晴
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7,10
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ここに 積羽八重事代主の命 告りたまわ
く 天照大御神の告言の随に 土に生る 木
草実 海川に 居せる 海魚 川魚 多 卵
なすもの 食エば 薬なす 少に 卵なすを
食エば 毒み 長虫 這虫ば 類ゑず ま
た 諸々の神たちに 告りたまわく 吾と汝
たちと共に 国々に 参イ出り往きて 大御
田族の便め良さに なさしめにとて その伊
勢津国 遠津海国 常陸国 陸奥国 越国
出雲国 吉備津根国 建依国 豊日国 白日
国 それの国々の巣構き所に 市なして 此
の市に 室屋ここばく 建て並べ 商人を
住ましめ 商の換エ事を 学び伝てなさしめ
き 故 その司守る神の御名ハ種津見の命
種津津見の命 豊酒の命 荒酒の命 金工
之男の命 八十工之男の命 各々 八十の家
族の長共を 伴なイて 国配りて 商の換道
を詳らなします
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7,11
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ここに 阿遅鋤高日子根の命 積羽八重事
代主の命 二柱の神 御祖 大穴牟遅の命
御伯父 少名牟遅の命 二柱の大神の御依
の随に 御習エを乞イまして 建御名方の命
ハ 手力の強き益荒男になもあるからに 試
みまし と 告りて 建御名方の命を召さし
て 汝の手力を見ま欲し と 告りたまイき
故 建御名方の命 あウ と まをして
丹波の国の江崎の大巌の巌を 御手振らしに
海波の深みに 投げ放らしましき 故 島
となも成る 竹島といウ ここに 二柱の大
神 兄弟二柱の神共に そを見そなわして
御名方の命に 告りたまわく 汝ハ いと
強き益荒男なり 故 无邪津海の国に よた
ま白熊 きたけ白熊といウ 禍の兄弟長あり
そに 八十の禍らイありて 耕さずて 奪
り 厳りて食ウ これの二人頭共ハ 力 常
の現人に勝り 一尋木を根掘じなす 故 そ
の禍を逐イ来ね と 告りたまイき ここに
【建御名方の命 またの御名ハ 御穂須々美
の命】八十伴の緒を率て 无邪津海の痔の岳
に出ましき 長老罷りて 禍物悪し業をまを
しき 故 建御名方の命 詳ら聞こして 出
ましながらに 山の尾を跨げ 猛びて 禍頭
に告りたまわく 奴の頭共ハ 力 強き と
聞けり 故 その力の強き手力の試すかを
吾に見せよ と 告りたまイき ここに
その よたま白熊 きたけ白熊 答エけらく
国津神 此く告りまさば 奴ハまをすべし
奴 力 これの豊道之原の中津国に有られ
まして 外津世の国にも無きなり そが故ハ
百萬の枝栄木を 根掘じになす 故 奴
国津命に 手力を見せまつらにと 右の掌に
馬挙げなし 左の掌に 牛挙げなして 目
之高に抬げ 足摺りて 命に立て奉るといイ
き 故 御穂須々美の命 右の御手以て 牛
と馬とを 一つに ひむだくり うも得いわ
ずに 御岳の高処に放り上げましき よたま
白熊 きたけ白熊 そを 見畏みて やよ
国津命よ いと強し 然れど 二人を手引く
ヤ 如何に 力競べせにとウ 故 国津御子
うう と 告りて 踏み猛び 狭岳に立ち
ましき ここに 禍頭二人 亦 まをす 命
此く為させば 奴ば赤肌に剥きて 当らに
と まをして 大土を散らげ建びき 故
御穂須々美の命も 赤肌にならして 踏み凝
ろに 建びましき 御穂須々美の命 出向き
たまイき 故 よたま白熊 きだけ白熊 二
人並びて 向き立ち出りき 故 奴共ハ い
と巧みなり 二た並べに罷れ と 告り言ち
て 搆エにき 故 禍頭二人 一と向きに
いち立ち向きて 命を握み殺さに と い猛
ぶり 荒れ盛健びに 健び 繁しく括りに
命の御赤肌に 這ウ蔦の如に纒ばれせせらし
き 故 御穂須々美の命ハ 両手振りに 振
り上げ 右の御手に よたま白熊の頸を握み
左の御手に きだけ白熊の頭を握み おお
ヤ おおヤ と言て 引き避かさまに 離り
まして 見そなわしますに 息急ぎになして
脚肩垂れになりき 故 命 右手を振り
左手振りて 千引き岩に投けつけましき 故
二人の禍頭共の躯骨ぬ 砂子なす粉になり
て失せき これの躯骨飛びて 尽々に 大腰
細 小腰細になりき
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7,12
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阿遅鋤高日子根の命 積羽八重言代主の命
ハ 御祖の大神の御言以ちて 山代日子の命
に 告りたまわく 汝ハ 弓矢の術を 天昇
し出て 天の学びをなして 国の物部の首と
なりて 国内の益荒男なして 術伝てなせ
と 告りたまイき また 若経津主の命ハ
天昇し出て 神馬の術 また 神馬矛立て
剣立て 弓立ての術を 天の学び 国の学び
まして 国の益荒男なして 術伝てなせ と
告りたまイき また 八尋矛長依日子の命
ハ 剣 太刀 矛 大鉈 長鉈の八十術を
天昇し出て 天の学びなして 国の学びに
益荒男なして 術伝てなさせ と 告りたま
イき 故 ここに 三柱の神ハ 天昇しなし
たまイて これの術を学びまして 三歳の日
に 天降りまして 御祖の命に 返り言をま
をしたまイき ここに 御祖 大穴牟遅の命
伯父 少名牟遅の命 山代日子の命ハ 汝
神ハ天昇して 天津神の弓術 矢術遂げまし
つ 故 吾が前辺に試みまさね また 若経
津主の命ハ 天昇して 天津神の神馬術 遂
げましつ 故 吾が前辺に試みまさね また
八尋矛長依彦の命ハ天昇して 天津神の剣
術 太刀術 遂げましき 故 吾が前辺に試
みまさね と 告りたまイき 故 ここに
山代日子の命ハ 槇の高弓を 御羽黒々色の
糸の弦緒を打ち掛け 樫木の四羽矢を嵌めて
出雲岳に跨げて 東の天に向かして 射離
けまししかば その矢 陸奥の杉山を射貫き
岩芥 海原に飛び落ちて 島となる 八津
島といウ また 西に向かして 射離けまし
しかば 速日の古々山を射貫きて 岩塵 海
に飛び落ちて 島となる こを 硫黄島とウ
また 若経津主の命ハ 大御田族に 牧山
の太駒を 引き来に召し来さし 八柔の腰鞍
を負ばせ 八尋葛を手綱となし 鞍上に跨げ
あウの掛け声を眞澄まし 八平手を拍ちて
もゆらに 軍所に擬ゐて 一日に 天翔り
一日に 海原翔りなして 遂に 二日に
恵美の国に到りまして 伯父 蛭子の命に
目見エまつりて 還りまして 翌日に 国翔
り 海翔りて 天一津国に到りまして 祖母
多岐都姫の命に 目見エまつりて 還りた
まイき 翌日に 大桐木を伐らしめ 工人
仰せて 眞駒の像を彫らしめて 御板鞍を置
かし 八尋葛を 手綱に取らして これの
木彫り駒に 打ち乘らし 告りたまわく 吾
が国駆らに と 告りたまイて その木彫り
駒を駆らすに 一日 十七里を経走りて 草
木根の大祖父の大神 国照大神に 目見エに
立てまつりき ここに 国照大神 目見畏み
て 美し 若経津主の神 此く 馬術に苦し
みなすからに 上げ鞍の術を 訓り伝てにと
て 立ち蹴に 御鐙を 蹴え散らしませば
逆さまに 俯したりき 故 国照大神 如何
にか為つる と 室屋に入りて 寝ましき
ここに 若経津主の命 立ち到りて 夢に
い往きなすかも とウて 御室の大戸を叩き
上げ鞍の術を得たりと 木彫り駒に打ち乘
りて【湯津於賀玉の木のかたな 上りて あ
をぶせき】ここに 国照大神 告りたまイつ
らく 諾宜し 布都の術言 と 告りたまイ
き 故 其より 国還りますに 一日に 還
りたまイき
-------------
7,13
-------------
また 八尋矛長依日子の命ハ 薄峯の十握
剣を抜かして 天に向かして 太刀斬りなす
に 鷲の黒鳥 胸喘きて 大地に落ちき 故
この鷲の鳥を見るに 片羽 八丈 頭ゆ咽
喉の合ゐ 四丈あり 眼ハ大玉なす 奴 手
ハ 三俣有りて 大鈎の如なす 嘴ハ跼まり
て 眞熊の如に 広くかかじり 鼻端垂りて
未た 息ありて 時に 声訛ます その訛
む声 雷の裂く如なりき また 八握の御太
刀の厚峯を抜かして 八尋木に向き立たして
横状に薙らせまししかば 八尋木の本を
眞直ぐに斬り通し 引こさまに返りき また
八尋矛を 国平けに 太刀払エに 払エた
まエば くくたに と なりき また 樫の
木の眞中木に作れる太刀以て 御岳上の立ち
巌を 眞つ被しに 斬り打ちませば その巌
二つになりき 故 この巌を 女男岩とい
ウ
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7,14
-------------
ここに 大穴牟遅の命 少名牟遅の命
越の国の今戸の岳に 軍舎なす 禍津頭 十
二人あり 奴ハ 親二人 子十人 奴が身ハ
二丈あり 現しき青人草の作れる種津物を
己が物となし 理屈重ねて その傍国郡持
たせ 親族 家族に分ち遣りて おのもおの
もに 衣驕り 食イ驕り 家驕りなす 奸る
頭 また その種津物足らずあれば 理屈
を設げなす そを悖るあれば その現人を殺
し食ウ 奴が家ハ 高さ三丈 八尋になす
布襖に合イ切りて 八重畳を敷き おのもお
のもの服にハ 八雲織りの絹を衣なす 一人
毎に 種津実二升 食イ また 濁酒と清酒
とを 一日に三升を飲み 毛物の肉を食イて
海魚ハ な基無に食イ 若女 貌美きを集
エて 淫け戯ぶりなす ちばやぶる 荒び猜
びなす 故 平わにとて 二柱の神 共に謀
りたまイて 阿遅鋤高日子根の命 またの御
名ハ 一言主の命 国津木之俣の命 国津三
井の命 積羽八重言代主の命 建御名方の命
山代日子の命 若経津主の命 八尋矛長依
日子の命 薦枕白主の命 天之活玉の命 天
之三降の命をはじめて 八百ちの伴の緒 八
百ちの家族の長を率て 越の熊戸の御岳の麓
に到りて 見そなわしたまウに 山の傍層に
洞を貫き それに屈みて 禍らイ共ハ 大
室に在りて 種々の奸る業なす こを詳らに
隠りの使主人を遣り その出る入るの道を
分明たしめましき ここに 使主人 返り
言まをす 奴が状ハ 命の慮りの如 手ハ四
尺余りなす 頭に毛無くして 滑べの身に
縮毛なす 鳥の腹の如にて 目ハ円く 猿目
の如 口広く 牙 鱗に垂り 人草を締りな
す と まをす また そが道ハ 北通り
一筋の道なす と まをしき
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7,15
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ここに 少名牟遅の命 吾 往きて 脅し
来ね と 告りたまイて 空翔り往きまして
層洞に立たして 禍頭の頭に 跳び上がり
て 立ち蹴に 散げたまエば 彼の禍頭の頭
破れて 黒血 流れ出りき 故 禍頭 怒
り 手取りにせに と 睨る時に また 重
ねて 眼を 蹴破りますに 禍頭 慄イて
反けさまに 返り倒れき 故 命ハ 志都戸
に還りましき ここに 大穴牟遅の命 御子
たちに 告らして 得物 向かわせて 禍ら
イ共を 尽々に 殺し尽さしめき 故 禍頭
十二人 怒りて 己も己も 手にハ 一尺
の樫の丸木を 取りて 弥 振りに 打ち振
り 口より 炎を息吹き散らしき 大穴牟遅
の命 少名牟遅の命 二柱の神を 目当てて
飛び来て 罵す時に 二柱の神 矛を振り
つつ 彼の禍頭の 十二人の眞中に 駆け入
りて 矛尻に 撥ね返したまゑば 十二人の
禍頭 山 一尾羽根 谷 二谷を越して 撥
ね遣られき ここに 禍頭の十二人 敵わじ
とウて 无邪津海の 新納の山に逃げき
故 諸神たち 无邪津海の新納山に 追ゐ及
きましき ここに 十二人の禍らの頭 泣き
つつ 生命乞イてまをしけらく 奴ら これ
より後に 豊道之原に禍まし 故 生命賜べ
に と まをしき 故 二柱の大神 今ゆ後
にも これの国に な住みそ とウて 遠く
南の外津世の国に罷れ と 素木の丸木の
片素船に入れて 神逐イに 逐イたまイき
-------------
7,16
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ここに 大穴牟遅の命 少名彦名の命 共
に 国造りまして 今 宜し と 告りたま
イき 故 ここに 神語りたまわく【吾がと
汝と 造れりし国 いなでかも 良くこそ
成せりとせめヤ と 告りたまエば 大穴牟
遅の命 告りたまわく 或ハ 成れる所あり
或ハ 成らさる所あり と 告りたまイき
故 少名毘古那の命 告りたまわく 然に
あれども 汝神 これの国に 汝大神在さば
速くに 国成り完エに 吾ハ 今ゆ 外津
世に罷らに由ハ 御祖の大御神の 蒔かした
まイし 外津世の他し千萬の島国の諸国を
国固め完エて 帰りなに と 告りたまイて
島中の島に 到りまして 実れる玉粟茎に
上りまして 弾かゑて 玉粟の葉実を 船術
なして 外津世の国に 渡り到らしましき
故 ここを 粟島といウ】
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7,17
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【ここに大国主の命 いたく 慨みたまイ
て告りたまわく 未だ 国造り敢エず いま
まだ 国造り完エたる所 十足らず七つにあ
り 吾独りして 如何でかも 国造り完エ
に と 悲しみましき 直に大穴牟遅の命
昼ハ 八か日 夜ハ 八か夜 虚り虚りに
楽しまずて 足掻きましき これの時に 沖
中に 忽に 彩なす光 起こりて 海原を
そそり照らして 参イ来る神 一柱ハ 頭に
銀の冠を着 後髪長垂れ 身にハ 白色の
太袖の御衣を纏イ 白色の袴を穿き込み 白
色の衽を打ち掛け 千草に編める 足板掛け
緒ハ 白色の倭文緒踏み またの一柱ハ 頭
に金の冠の下ゆ 髷食み出り 後髪 耳着ら
し 身にハ 火丹色の長袂の御衣を纒ゐ 火
丹色袴を穿き込み 火丹色の衽を打ち掛け
藺並の機織に編める足板 火丹色の掛け緒を
眞嵩に踏み 双神共に 右手にハ 玉鈴
拆鈴を持ち 左の御手に 於賀玉の小枝を持
ち 頭椎の素反りの太刀を佩かして 波の穂
の上を 神立てして ゆくらゆくらに 弛き
弛きに 寄り越して 眞面合イなします時に
大穴牟遅の命 告りたまわく 汝ハ 誰そ
も 何事為すぞ と 問イたまエば 彼の二
柱の神 告りたまわく 汝 吾が御前を祭ら
ば 吾 共に 力となりて 豊道之原の国々
を 造り固めなに と 告りたまイき
ここに 大神まをしけらく 汝たち 誰そ
神ぞ 答エけらく 吾ハ 汝の幸魂奇魂なり
故 大神 思ほさしけらく これの神ハ
吾が奇魂幸魂なり 諾べ然り[眞世求 此世
越来
御世見来]と 直ちに知る 現しき青人
草 如何にぞも なせる 答エけらく 現人
哀しく 事為すハ 心平めず 言吐くハ
真心せず 天津神ハ御身穏びず 現人屈しな
す 故 大神 あウ と まをして 御手を
八取らしに拍ち 玉篶を振りて 告りたま
わく 汝ハ 秋津の青垣の東の山の上に居れ
吾ハ 神衣 杵築の宮に居らに と 告り
たまイき】
-------------
7,18
-------------
【ここに阿遅須伎高日子根の命の軍大舎に
国々の翁主参イ来て 訴げまをしけらく
現人の助けとなす 陸津毛物 牧山の馬牛
衰イて亡ぬべき時ハ 荒男ら その皮を剥ぎ
て 敷物とし その肉を食イて 豊種実の補
けなさに と まをす 故 阿遅鋤高日子根
の命 御祖 大穴牟遅の命の御前にまをす
国々の大御田族 然々に訴ぐ と まをしま
しき ここに 大穴牟遅の命 諾と告りたま
イき 故 おきし御言貴なイて 畏みき こ
こに 大年の大神ハ 御年の命 若年の命に
告りたまイき 皇之御子の知らす国の 朝の
神穎 夕べの神穎も いと 悪くて 醜めき
ぬ と 告りたまいき 故 二柱神 面火照
り 怒りまして 称ゑ言完エまつり こハ
大国主の神の心なり 現人に毛物の肉を食わ
して 作れる豊種津物なり 故 いと 穢わ
し こに因りて 穂に弱なす と 告り言ち
て 田毎 畑毎に 唾きましき ここに 大
年の命ハ 焔盛上げ 雄猛びに 猛びまして
大国主の命ハ いと 穢し 天の大神の朝
夕べの御食津物を作る大御田族に 毛物の
肉を食わしつること 良す 故 種津実 一
穂も与エじ とて 御眞草の茅穂を 立ち蹴
に 蹴え散らかししかば 蝗となりて その
作田に 繁雲なし 飛び入る 故 水津田
畑津田 尽々に 食イ枯らしき ここに 大
国主の命ハ 水津田 畑津田 尽々に 枯れ
萎み 羽虫多なすを知るに 怪し と 思ほ
して 阿遅須伎高日子根の命 積羽八重言代
主の命に仰せて 天津木之俣の命を 片巫と
し 天津膳御井の命を 肱巫として 告りた
まわく 汝 二柱ハ 太占なして 天津神に
占問イの太祝詞を奉りて 天津神の大御言
を乞イまつれ ここに 二柱の神ハ 出雲の
熊野山の五百箇の[眞男樫の片枝を切りて
桜の皮を焼きて]男之樫の片枝の葉並び
を 秀前に散らして和楽男四人 和楽女四人
に 歌節を歓らかして 葉の文出りの火以て
太占に 眞心澄ましに 祷ぎまつりしかば
こハ 天津神の御怒りなり そハ 大御田
族に 毛物の腐肉を 食わしし罪なり 故
そを 和めにとせば 大年の神にまをせ と
占挙がりき
-------------
7,19
-------------
故 大国主の命 深く驚かしたまイて 吾
が罪を贖わにと 自づからに 千座の置戸を
負ばして 蚕布 麻布 綿布 百張 山野玉
菜 甘菜 辛菜 沖津藻菜 辺津藻菜 鰭の
広物 鰭の狭物[白き眞駒の活物 白き特牛
の活物 白き鶏の活物 白き猿の活物 白き
犬の活物]種々 取り設げ供エて 伊那佐の
小汀に 御肌を剥かして 潮の満ち前 七度
央ら 七度 日後に 七度 御濯ぎまして
御髪を狭櫛に梳らし包み 油を八重塗□し
太元結ゐを 高さに結ばし 麻布の固め作
りの細冠を着 垂り緒 紫色を 頤結びに長
垂らし 右りの御手の御袖 太身垂らしに
八尺の勾玉に 菊花の太き黄なる花を 縫ゐ
付け 左の御袖の 太身垂らしに 彼の菊の
勾玉に 白色の菊花の 太萼縫ゐ付け 香藺
の火丹麻の 朱き掛け緒の木空の足板 大太
刀 小太刀 前太刀を佩かし 御手に 楮布
の御和幣を翳し また 天津木之俣の命 天
津柏葉御井の命 目前に侍べらし 阿遅須伎
高日子根の命 積羽八重言代主の命 天津高
棹の命 天津国高の命 国津幸守の命 庭高
津日の命 奥津日子の命 奥津比売の命 天
津阿須波の命 天津波比岐の命 大物主櫛甕
玉の命 大国御魂の命 加夜奈留美の命 天
之大分の命 国之辭代之男の命 御穂須々美
の命 山代日子の命 若経都主の命 香山戸
の命 羽山戸の命 大山咋の命 若山咋の命
若沙那売の命 弥豆麻岐の命 夏之売の命
秋毘売の命 久久年の命 葛根の命 大土
御祖の命 各も各もの神とち また 胞族
家族 八百千の頭たち 共に神和しの天津祝
詞の太宣りの眞言 一連ねに連ね告りて 百
手を拍ち 拆鈴を打ちて 和しの祷ぎ言をま
をし また 八十人の少女の 髪の花結ゐを
結イ垂らし 前津髪にハ 菊花の赤 白を結
ゐき 統める玉の髪刺 面にハ 摘み草の白
粉を 遣り水に脂抜きて 塗らしめ 躯身に
も 右左の手にも塗らし また 面の眉の上
の開かしにハ 烏羽玉を描き 虚木綿を御衣
とし 白木綿を 下着となし 御襟散きに
着馴らし 火丹塗らし木綿以て 袴に穿き込
み 御足を白木綿に包み 足板高に結び固め
右の手にハ 玉篶を振り 左手にハ 榊の
小枝に 楮布を裂り垂らし 歌イて神憑りな
す また 拆鳴主の命 合木鳴主の命 管音
持の命 吹緒持の命 大柱琴の命 小柱琴の
命 天之合莵鼓の命たちを 和楽の男となし
て 八百千の人共を集めて 手鳴らしを供エ
ましき 故 槽八十 鈴八十 拆鈴八十 合
莵鼓八十 横笛八十 縦笛八十 打笛八十
金竹笛八十 瓊琴八十 檜琴八十 短琴八十
小鼓八十 太鼓八十 鈴簓 打簓八十 打
ち木割れ八十 種々の鳴らし物 色音ハ[あ
う音 えわ音 いを音]これの三つの音に和
して 和楽澄まし 千萬の音 足らしましき
ここに その色音 和し合イて 妙に い
といと 奇しかりけりて 冴らに 尊く 冴
エ冴エに朗らにあり これに和して 歓らき
揺らく少女の袖 香わしくて 耳離れず
目離れず いと 多なしき 故 天津御空に
聞こエ上げて 八百萬の神たち 振るべに
揺らがし 御手を拍たし[あな 清け あな
面白 あな 楽しとて]歌イたまイき
-------------
7,20
-------------
ここに 阿遅須岐高日子根の命 積羽八重
言代主の命 二柱の神ハ 天に昇したまイて
天津御穂国津御穂幸照大年御祖の命 また
天に在す時の御名ハ 年幸星御祖の命 御
年の命 若年の命 三柱の大神の御前に侍り
畏みて 祷言の太宣りを宣り 罪科和しの
祓イの太宣に 神祝さぎに 在したまイき
故 ここに 大神告りたまイつらく 大国主
の命 自づからに 千座の置戸を負び その
罪科を贖わにと 千萬の贖津物に 神誇ぎの
和楽色音を設けて 二柱の神 ここに天昇
して 太誇きまをし 国中にハ 千人を集エ
て 罪科の太宣りを揃エ 和楽色を振るべな
す こハ 慥にあるかも 故 吾が御心麗し
天津神たちも 宜に麗しく在さに と 天
にまをすに 皆麗し ここに 天津罪 国津
罪を赦さしたまイて 告りたまイつらく
-------------
7,21
-------------
田之津毛物ハ 大御田族の助けとなす毛物
にあり 故 慥に取りなして 亡らば そが
皮ハ 全剥きになして 七瀬の水に晒し 現
しき馬と牛との道具なせ また これの毛物
の肉ハ いといと 穢れなすものにしあれば
骨と肉とハ 土深に埋めて 現人の如に葬
れ 田之津草物に付ける羽虫ハ 吾が心魂な
り 故 今日より 草物を食わせまじ 彼の
口塞ぎせに また その虫逐わに 汝ハ 現
人に仰せて[麻の木と 天の押草とを以て押
せ 烏扇を以て煽げ また それの溝口に
一つ生りの於賀玉の木の実と 男茎の形代
太逞しく作り供エて]豊年歌を作り歌わし
鼓打ち 法螺吹き 笛吹きて[その畦毎を巡
り 大野に追ゐ及きて 四方ゆ 柴の木にな
る椒 呉桃の実 苦参根を叩き 水混せに
撒き散らせ]此くなさば 田之津草 尽々に
本に戻りて 豊年ならに と 告りたまイき
故 二柱の神 天降りまして 八百の伴の
緒に訓り伝てましき 故 こを 国配りまさ
と 国翔る神たち 伴の緒共多なす ここに
国の国々の大御田族 訓り伝ての随に 生
業に仕エまつりき 故 田之津草叢みて 太
繁渡り 八握穂の厳し穂に 幸栄エて 豊年
なす】
上津文 七の綴り 完エ
-------------
8,1
-------------
上津文 八の綴り
【ここに 大年の命の御子 久久紀若室葛根
の命ハ 産巣日の命の御娘 封貝比売の命を
向妻になしませる時に 葛根の命の持ち越
せる 黄金の弓矢 失せたりき これの時に
封貝比売の命 妊みたまイて 生みませる
御子の御名ハ 猿田彦の命 またの御名ハ
大土之御祖の命 またハ 佐太の大神 また
ハ 大土の命とまをす 時に 久久紀若室葛
根の命ハ 封貝比売に告りたまわく こハ
吾が御子ならじ 失イつる弓矢 持て越す御
子こそ 吾が御子にあるらめ と 告りまし
き ここに 封貝比売の命 悲しみ泣かせつ
つ これの御子に言語りて 御身ハ 川の瀬
毎に滌かし 御失せたる弓矢 出来せね と
祷ぎまをしましき その時に 角の弓矢
川の流れの随に 浮かれ来にけり ここに
生れましつる御子 未だ二百か日にも 足ら
せたまわざる 赤御児の そを立ち見たまイ
て こハ 吾が弓矢ならじ と 投げ棄てま
しき こにゆ 母の御祖の命 また 祷ぎま
をす時に 黄金の弓矢 川の瀬に浮かみて
浮き越し来つ 故 生れませる御子 待ちに
取りて こハ 吾が弓矢なり 母の命 憂く
な思イましそとて その弓矢を取らして
告りたまわく ここハ 暗き巖なるかも と
告りつつも 弓矢 彎き擬イて その巖を
射通しましし時に こちこち 照り輝けり
故 そこを 加賀といウ】
-------------
8,2
-------------
先に 国照大御神 天昇したまイて 天照
大御神に 称エ言 完エまつりけらく 豊葦
原の 千秋の五百津長秋の 瑞穂の国ハ 吾
が裔の 知るべき国ならじ 吾が裔ら 国
作り固め 国平けなせば 天照日之皇ら命の
御子の 継ぎ継ぎに 知らす国なり 故 皇
ら之御子を 天降りなさしめて 天の下の
底津岩根に 宮柱 太知り立てて 現しき青
人草を 安国の安らけくなさしめて 天津日
之御子の 弥 継ぎ継ぎに 知ろしめさしめ
たまわば 吾ハ 大神門の山に隠りて 幸わ
ゐてに と まをす ここに 高御産巣日の
命 神産巣日の命 共に 掌を拍ち 宜 あ
な清け あな祝け あな畏こ と 告りたま
イて 八百萬の神たちを 神集エに集エまし
て 此く状を 告らしたまイき 故【ここに
天照大御神 御子の命に 天の下に天降り
ませと 告りたまイき
-------------
8,3
-------------
[ここに 正勝吾勝勝速日天之忍穂耳の命
まをしたまわく 先づ 豊道之原を試みて
まをさに とて 天之浮橋に反り立たし 睨
りまして 天の下ハ 未たし 穏びならず
甚く 騒ぎてありけり 不須也頗傾 醜めき
国かも と 告りたまイて 還らしたまイき
]ここに 高御産巣日の命 大御神の御言以
ちて 重ねて 天之安之河の河原に 八百萬
の神を 神集エに 集エまして 告りたまわ
く[天の下ハ ちばやぶる 荒ぶる頭 蛍如
輝く神 磐根 言問イ 草根 言問イ 昼
ハ 雲霧を降らし 夜ハ 火上げて 患ゐな
す頭 また 疾走りの頭矢走りの頭 これ
の現人を殺る頭どもを 言平けむ神ハ いづ
れの神ぞ 善けむ]
-------------
8,4
-------------
ここに思金の命 八百萬の神たち 皆 ま
をさく 天之菩比の命ハ 勝れて 勝健の神
なり 遣わしてに と まをしき こにより
て 天之菩比の命に 宣り下しましき ここ
に 天之菩比の命ハ 八十伴の緒を率て 天
降りまして 八束水臣津野見の命 天之冬衣
の命たちの 御心辺を 問わすに 単つなり
しかば これの神と共に 大穴牟遅の命に
事依さしまして 天翔り 国翔りて 五月蠅
なす 荒ぶる頭を 鎮めます時に 御子 武
三熊野の命ハ 御祖の命 天降りまして 三
年になれども 返り言 まをささりしかば
天降りまして 国平けましき】
-------------
8,5
-------------
ここに高御産巣日の命 天之菩比の命 武
三熊野の命 二柱の神に 告りたまわく
瑞穂の国ハ ちばヤぶる 荒ぶる頭 大方
逐イ平けし と 見ゆれともに 残る悪し
き神 逐わに 汝 謀りありヤ 答エけらく
こハ 天津国玉の命のこそハ 益良健男に
あり 故 遣わすべし と まをしき 時に
【高御産巣日の命 天津国玉の命を召さして
告りたまわく 汝 中津国に天降りて 事
為さむヤ と 告りたまイき ここに 天津
国玉の命 まをしけらく 美し 畏し 御言
宣りに 仕エまつらに 然れども 吾ハ 久
しく 脚の病に悩みたり 然あれども 御言
宣りの畏ければ 吾が子[十足らずあれども
これ 遣わすべし]構エて 遣わしめたま
エ と まをす ここに 八百萬の神たち
然良けに と まウしき 故 高御産巣日の
命 天の加久弓 天の加久矢を取らして 告
りたまわく これの弓矢ハ 神実の弓矢なり
汝 忠誠ならずば これの弓矢 汝を逐ら
わに 故 眞心 な 怠りそ とて 遣わし
たまイき ここに 天若日子 天降りなせし
めども 忠誠ならずで 大国主の命の御娘
下照比売を婚ばイて 終に 下照比売の命を
御妻として 道速振る 荒ぶる頭逐らイも
疎くて 八年になるまでも 返り言まをさ
さりき】
-------------
8,6
-------------
故 高御産巣日の命 思金の命に 告りた
まわく【天若日子 久しく 返り言まをさぬ
ハ忠誠心ならじ 故 逐らわにヤ と 告り
ましき 故 思金の命 まをしけらく 天若
日子ハ 国津神の姫に気圧されて 忠誠なら
じ 故 天昇しの使を遣りなば 必ず 其に
災わわに時に 逐らイませ と まをしき
故 名鳴雄雉子を 遣わし放ちましつれば
玉粟田豆田に留まりて 帰らず 故 名
鳴女雉子を 遣りつれば】【天若日子が門な
る湯津楓の木の末に居りて 天津神の御言宣
詞を鳴きき 故 天之佐具女 この鳥の鳴く
を 聞きて 天若日子に 此く告げまをす
故 天若日子 天津神の賜エる 天之櫨弓
天之羽々矢を以ちて その雉子を射殺しつ
その矢 雉子の胸より通りて 逆さまに 射
上げて 天に至りき 時に 高御産巣日の命
その矢を取らして 告りたまわく
天若日子ハ 使鳥を射つる矢なり これの
矢ハ 吾が 天若日子に 千箭備けて 遣わ
しし矢なり そを以て 此く為すこと 忠誠
ならじ 許べすに 道無し とて その矢を
取らして 突き返したまイしかば 天若日
子が 胡床に寝たる 高胸坂に貫ぬき 立ち
所に 亡りき こハ 天若日子 新嘗して
昼寝なす時なり】
-------------
8,7
-------------
【故 天若日子が妻 下照比売の命の泣か
せる声 風の共に 天に至りき ここに 天
津国魂の命 こハ 吾が罪なり 此く忠誠な
らまじ とハ 思イ量らで 天津使主人に奉
れることハ 多くの罪あり
故 天津神に 吾が罪科を祓エの 贖津物な
さにとウて 手の爪 足の爪 口の歯
尽々に 活け抜きに 抜きて 贖津物に供エ
たまイき ここに 国玉の命の妹 その小屋
から 立ち聞きて 天若日子亡れるを知りて
その妻 高依比売の命ハ 泣きつつ 吾妹
子 天之国玉の命に 如何なることに 亡れ
る と 問イたまエば 答エけらく 吾が子
天若日子ハ いと憎き長なり 祖の教エ言
に 順わずて 天津大神たちの御怒りに遇イ
て 既に 神逐らイに 逐らわれつ 故 吾
が多子ども 必ずに 眞心を離たず在れ と
まをしたまゐき 故 ここに 高依比売の
命ハ[疾風を遣りて 天に 屍を吹き越して
]喪屋を作りて 殯して 河雁を岐佐理持ち
とし 鷺を掃持ちとし 雀を碓女とし 鷦鷯
を哭女としそびを尸者とし 鵄を綿作りとし
翆を御食人とし 烏を宍人として 諸々の
鳥に 言依さして 日にハ 八か日 夜にハ
七か夜 偲びたりき】
-------------
8,8
-------------
【これの時に阿遅須岐高日子根の命ハ 天
昇しまして 天若日子が喪を 弔イます時に
その父の御妻 高依比売の命 並べに 童
子四人 吾が子かヤ 吾が夫かヤ 胞族なる
かヤ 未た死なずで在すかヤ とウて 手足
に纒イて 喜びつ 惑イつ 揺りなしき そ
の 誤てる故ハ これの阿遅須岐高日子根の
命ハ 天若日子が容貌の 殊に いと良く
似たりけり こを以ちて 誤てるなり 故
阿遅須岐高日子根の命 甚く悔ゐて 面火照
りて 吾ハ 麗しき 朋輩なれこそ 弔イ来
つれ 何とかも 吾を 死人に准ウるハ 汚
きかも 穢らわしきかも 故 その穢れを祓
イなさに とウて 御佩かせる 十握の大眞
量の剣を 抜かして その喪屋を 斬り散ら
ぎ 脚以て 蹴ゑ離ち遣りき これ 落ちて
山となる 淡海の喪山なり】【これの阿遅
須岐高日子根の命ハ その顔形 とどに秀れ
て 麗しくて 二岳 二谷に照り渡りき そ
の面火照り 飛び去ります時に 妹 下照姫
の命 御名を顕さにと 思ほして 歌イけら
く
天なるヤ 大棚機の 嬰がせる 玉の
御統 御統に
孔玉はや 御谷 二渡らす 阿遅鋤高日
子根の神ぞヤ
故 歌イます間に 高日子根の命ハ 天降
りて 遙かに 離りましつれば また 重ね
て 歌イけらく
[天離る 夷津女の い渡らす 瀬戸石川
片渕 片渕に 網 張り渡し
目ろ 美しに 美し 寄り来ね 石川
片渕]
この二歌ハ夷曲なり】
-------------
8,9
-------------
【ここに高御産巣日の命 諸々の神たちを
神集イに 集イて 豊道之原の中津国に
遣わす神ハ いづれ良けに と 告りたまイ
き ここに 天之思金の命 天之児屋の命
天之太玉の命 共に まをさく こハ 石拆
根拆の神の御子 岩筒之男の命 岩筒之女
の命の御子 経津主の命こそ 賢しき神にあ
れ これ 良けに と まをす】故 高御産
巣日の命 神産巣日の命 経津主の命を 召
さして 告りたまわく
汝 豊道之原の中津国に天降りて 大国主
の命に 然々に告りて 天昇し 返り言なせ
と 告りたまイき【ここに 経津主の命ハ
出雲の国に天降りまして 大国主の命に
問イたまわく】この 豊道之原の中津国ハ
如何になる と 問イましき
-------------
8,10
-------------
大国主の命 答エけらく 吾が大御祖 国
照大神 吾に 御教エ事ありき 汝 忠誠心
心伝てて 国造り 国平け完エなば 皇ら
が御子に 避りまつりて 顕わに事 現し事
現し業伝て 神訓りの心伝て奉りて後 安
宮の安けくも 永く隠りて 皇らが御子の
八百千継ぎの 萬継ぎの極み無く 守り幸わ
イ また 日継ぎ御子 大き御子 臣 連の
足尼 刀祢の 神たちの 八百続きの末まで
の守神となり また 全る 青人草の隠り後
に 星の神と神直びて 天津大御神の 御前
津辺を 斎きまつらせ 悪人ハ 心魂を 逐
らエ と 告り言の随に 仕エまつらに と
告りましき
故【天津日継ぎの知ろしめさに 千足る天の
御巣なし 底津磐根に 宮柱太知り 高天之
原に 氷木高知りて 治めたまわば 吾ハ
百足らず八十隈手に 隠り侍らイなに】吾が
子 多なれども 大御祖の告り言に 違ウ神
ハ有らじ と まをす 此に此くに 吾が宮
に 手向けまさね と まをす 故 阿遅須
岐高日子根の命 天津木之俣の命 天津膳御
井の命 山代日子の命 若経津主の命 八尋
矛長依日子の命 薦枕白主の命 天之生玉の
命 天之三降の命 八十胞族の神たち 出来
まして 御答エを祝ぎき ここに 積羽八重
事代主の命ハ 鳥の遊び 海魚の遊びに 三
津の山 三津の崎にあり また 建御名方の
命ハ 越の国の禍頭を 平イ 逐らわに と
出ましつれば 出来ずあれども 吾が心に
違わじ と まをす 時に 経津主の命ハ【
稲背脛の命を召さして 諸船に乗らせて 三
津の崎に出ましき
-------------
8,11
-------------
ここに 積羽八重事代主の命ハ 小船に召
さして 海魚取りのつり垂れましけるに 稲
背脛の命 積羽八重事代主の命にまをしけら
く こハ 天津大神の使主人の神 これまで
越しき 汝ハ 如何にあるヤ と 告りまし
き ここに 事代主の命 恥じて 面朱に答
ゑけらく 吾ハ 父の命の まをしたまウに
少しも違ウことあらじ 此く 天津神の
穢き所に来まして 懇ろに 訴げますこそ
面映ゆあれ 故 吾が心魂を 目見エまつら
に とウて 海の棚無し船 乗り 海中なる
天の逆手を 八重の青柴垣に 拍ちなし
足座に垂らし 舳の片削ぎに足踏み その船
を 踏み離なして 潮の八百路に 落ち入り
て 隠りましき】故 経津主の命 甚く 驚
かして 直ちに 天之鳥船の命に仰せて 天
津神に これの事を まをすべしとて 天昇
しなさしめき ここに 高御産巣日の命 神
産巣日の命 知ろしめして 天之伊豆能売の
命に仰せて 天降りなさしめて 積羽八重事
代主の命の尸を 八重の潮路ゆ 取り出て
息呼ぶせましき 故 亊代主の命 厳つに
活き立ちまして 御祖の御殿に 立ち出まし
き ここに 経津主の命ハ 天に帰りまして
返り言まをしたまイき
-------------
8,12
-------------
ここに 大国主の命ハ 建御名方の命の 越
の国に平イに 未だし帰りまさねば 阿遅須
岐高日子根の命 積羽八重事代主の命 天之
木之俣の命 天津膳御井の命 山代日子の命
若経津主の命 八尋矛長依日子の命 薦枕
白主の命 天之活玉の命 天之三降の命 並
べに 百八十柱の御子たちを率て 天昇しな
したまイき ここに 天照大御神 高御産巣
日の命 神産巣日の命の御前に
畏みまをす 吾が大御祖 国照大神の御諭し
の随に 豊道之原の千秋の瑞穂の国ハ 甚く
騒ぎてありしを 大御祖の命 継ぎ継ぎの
代々の彦舅の御祖 国作り 鎮め平けて 皇
之日の御子に離りまつれと 御代々の父宣り
畏みまをす 皇之御子 天降りましたまハ
ば 吾が子ども 親族 家族 皆に 天津御
子の御手代に 仕エまつりてに と まをす
また ここに 国照大神 八島士奴美の命
布波能母遅久奴須奴の命 深渕水夜礼花の
命 八束臣豆奴の命 天之冬衣の命たちを率
て 天昇して 共に 神祝さきに 祝ぎま
つりき
-------------
8,13
-------------
故 高御産巣日の命 神産巣日の命ハ 突
清畏稜威之大御魂天疎日御像姫の命 またの
御名は 天照大御神 天開国開天津日高建速
須佐之男の命 またの御名は 国照大神に
神語りなしたまイて 高天豊道明萬根子大津
根子伊邪那岐の命 眞燿幻稜威之狭威玄神立
伊邪那美の命 眞夜柯干厳之明玉月弓之男の
命 またの御名ハ 夜見照大神 天渡国渡十
百座成科津産巣日の命 また 高天之原座の
御名ハ 風精星御祖の神 天津座高津座置清
御魂瑞之火産巣日の命 また 高天之原座の
御名ハ 火精星御祖の神 天避豊道辺神御魂
弥都波産巣日の命 また 高天之原座の御名
ハ 水精星御祖の神 天津降萬眞栄威美威降
埴産巣日の命 また 高天之原座の御名ハ
土精星御祖の神 天御魂国御魂穿神常座金山
産巣日の命 また 高天之原座の御名ハ 常
星御祖の命 神御魂別国津清御魂直毘産巣日
の命 また 高天之原座の御名ハ 彦星御祖
の神 厳之幸守眞心常辺速秋津産巣日の命
また 高天之原座の御名ハ 清星御祖の神
天足国足潮津清見底土産巣日の命 また
高天之原座の御名ハ 底星御祖の神 天足国
足潮津清見赤土御祖の命 また 高天之原座
の御名ハ 赤星御祖の神 天足国足潮津清見
岩土御祖の命 また 高天之原座の御名ハ
岩星御祖の命 天之大土国之大土大御守山津
見御祖の命 また 高天之原座の御名ハ 形
代星御祖の神 天津御穂国津御穂幸照大年御
祖の命 また 高天之原座の御名ハ 年幸星
御祖の命 神訓りの 神語りの論を定めたま
イて 天の高室の 大八棟の宮の殿所の辺に
思金の命 天之児屋の命 天之太玉の命
並べに 八百萬の神たちを 集エまして 神
議りなしたまイて 天津日継ぎの御子 正勝
吾勝勝速日天之忍穂耳の命に告りたまわく
豊道之原の中津国ハ 国平け完エぬ 故 言
依さしの随に 知ろしめせ と 告りたまイ
き
-------------
8,14
-------------
故 皇日之大御子 告りたまイつらく 吾
ハ 降りなむ装イせし間に 御子生れましつ
御名ハ 天邇岐志国邇岐志天津日高日子火
之邇邇芸の命 と まをす これの御子を
降すべし と まをしたまイき 故 この御
子ハ 高御産巣日の命の御娘 萬幡豊秋津姫
の命の御子 玉依豊栄姫の命に 御娶ゐまし
て 生れませる御子に在すなり ここに 天
津大神たち 共に 議りて 神定めに 定め
極みたまイて 顕事知ろしめす 天津日継の
御子 天邇岐志国邇岐志天津日高日子火之邇
邇芸の命に 豊葦原の千秋の 長五百秋の
瑞穂の国を 安国の足る国と 知ろしめせ
と 告りたまイき
-------------
8,15
-------------
ここに高御産巣日の命 神産巣日の命ハ
国照大神 八島士奴美の命 布波能母遅久奴
須奴の命 深渕水夜礼花の命 八束水臣津野
の命 天之冬衣の命たちに 祝ぎ宣りの寿言
を 告りたまわく
汝 神たちハ 忠誠心の功の神なり 故
天に在座を敷きて 夜の食国の祭りの司とな
れ また 御子たちハ 天照大御神の御前に
斎きまつれ また 大国主の命ハ 隠り事
の祭りの司となりて 御子たちハ 皆に皆に
それの御祝さきの神となして 現しき青人
草の 神帰りの道を開き 隠りの宣り訓りな
し 忠誠心ハ 神事に帰らして 星の神と
高天座なし 天津大神に斎きまつらし 禍津
心ハ逐ゑ また 天の管らイ 国の管らイの
神と称エてよ また 八百萬の 国の神たち
に おのもおのもに 神語りの神長と定めて
現し事 顕に事に 幸わゐまつれ
-------------
8,16
-------------
【また 汝の新巣ハ 出雲の入海ハ 浅瀬
なす 故 此に 海の砂子と 山の土とを以
て 築き固めて 其がの上に 千足る 天の
日隅の宮を 造らして 現し事ゆ 隠り事の
守りの宮と 太敷く宮ハ 縦横の御量に
任かイ 縦ハ 五十邑 横ハ 五十町 柱ハ
三丈半 垂木ハ 一尺を角め 棟木多々に
五丈を丸め 敷木多々に 二尺を角め 板
の広さ 一丈に尺足りなし 千尋の栲縄以て
百結びに 結び 八十結びに 結び提げて
端垣ハ高垣なし 門代ハ 柱の栄エを尽く
し 御殿棟 十三棟に作らし 蚕屋 川屋
繭屋 灰屋 篠屋 並べの屋ハ 二十作りな
さしめに また[汝の 海に遊ばに備ゑに
高椅を八丈 鳥船を八十隻]山に遊ばに具エ
に 草履足板八十履 徒駒料を八十机 斎し
き多に作らしめたまイき また 隠り知りの
神祭り者ハ天の御祭りに准らゑて 和楽女
百人 和楽男百人 斎き使主代の客人三百人
客人代三百人嗜ひに 天照大御神 高御産
巣日の命 神産巣日の命 天之穂日の命に告
りたまわく
汝 豊道之原の中津国の 八雲立つ出雲の
国に 天降りなして 大国主の命の鎮まりま
さに 八百丹築杵の宮主となり これの大神
を 斎きまつれ と 百八十縫の白楯を副ゑ
て 天の栄弓 百引 天の栄矢を千五百條を
足らして 言依さしたまイき】ここに 二
柱の大神 大国主の命の御子 阿遅須岐高日
子根の命 積羽八重事代主の命 天之木之俣
の命 天津膳御井の命 山代日子の命 若経
津主の命 八尋矛長依日子の命 薦枕白主の
命 天之活玉の命 天之三降の命たち また
諸々の御子たちを召さして 告りたまわく
汝 弟日男たちハ 皇御孫の命の手足とな
りて 現しき顕事に仕エまつり 神隠りせば
御祖の命の手足となりて 神事に仕エまつ
れ と 告りたまイき
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8,17
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また ここに 二柱の大神 直に 諸々の
神たちを 神集エに 集エたまイて 豊道之
原の中津国の 北の越の国ハ 未た 穏びな
らず 故【いづれの神を 遣わして善けに
と 告りたまイき 故 思金の命 御答エま
をしけらく 天之安之河の河上の 天の岩屋
に在す神 伊都之尾羽張の命 これ 善けに
また[其の神の子 甕速日の命の子 樋速
日の命の子 建御雷之男の命]これ 遣わす
べし 然故ハ 其の天之尾羽張の命ハ 天之
安之河の水を 逆さまに 堰き上げて 道を
塞き居れば 他神ハ 得往かじ こハ 天之
迦久の命を遣わして 問ウべし と まをす
故 天之迦久の命ハ 出往きて 天之尾羽
張の命に問ウ時に 答ゑけらく 畏こし 仕
エまつらに 然れど この道ハ 吾が曾孫
建御雷の命を遣わすべし と まをしき】故
建御雷の命 またの御名ハ 豊布都の命と
まをす
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8,18
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時に【建御雷之男の命ハ 八十伴之緒を率
て 越の国の斎の河原に降りて 十握剣を抜
きて 波の秀の上に 逆さに差し立てて 其
の剣の先に足組み 伴之緒に 鼓を烏滸打ち
に 打たせ 高音を散らかしき】故【建御名
方の命 千引岩を 手之末に持上げて いイ
けらく 誰そヤ 吾が 平ばイなす処に来て
忍び忍びに 此く物言 然ハ 力競べせな
と言て 彼の 千引岩を差し翳して】汝
此を 受けてにヤ 受け得ずば 貴なエ と
いイき 故 建御雷の命 告りたまわく
畏こし 汝ハ 手力 常人ゆ 少し勝れりヤ
己が力 有りの随に 吾に当たれよ 吾が
力 目見エなさに と いイき 故 眼辺に
建御名方の命 苛らげて 汝ハ 賢しき奴
かな と言て 持たる千引岩を 思イの随に
投げ棄てしかば 建御雷之男の命 その岩
を 双手和しに 受け張りて 遠津海の瀬合
に 投げ放ちたまイき 故 島と成る 建神
の成しませる島なる故 蛸島と言 ここに
二柱の神 御手御手に 挑み 強請りて 建
御名方の命を 建御雷之男の命 仰寝せに
足下なす時に 建御名方の命 項をねくさし
て畏こみ恐れ 汝ハ 何処より 参イ来る神
ぞヤ 恐らくば 御名を明かしたまエ 吾ハ
天津大神の使主人の神 建御雷之男の命な
り 故 建御名方の命 まをしけらく 吾を
な 殺したまイそ まをすべきあり 故
建御雷之男の命ハ 建御名方の命の項を緩し
足下なすを解きて 如何にまをすヤ と
問イたまイき
ここに 建御名方の命 まをしけらく 吾ハ
これの国津神 大穴牟遅の命の御子なり
ここにあるハ 越の白岳の大野に ちばやぶ
る 荒ぶる頭 名ハ 大谷熊と言 禍なす状
ば 昼ハ 端山処の大室を作りて 潜み 禍
らイ寝をし寐に 五百人を率きて 夜ハ 蛍
なすに すがらに 東雲に亙り 濁酒清酒を
時じくに食らイ 海魚ハ さらに 毛物
這ウ虫の肉に 戯れ 越の国道の 面榮の女
を唆こし 奴が須佐田ハ野荒れなし 常に
蚕布を衣なし ちばヤぶり 荒びなし 国内
の作物を奪りなす 然を争ウハ 殺し 其を
よさ事なすハ 同じ並みなす また 五百
六百の禍らイ 尽々に並べなす こにより
て 平ばわにと 御祖の宣り言の随に 参イ
来て 神逐らイに 払イ平けたりしい間に
汝 参イ来つるからに ちばやぶる頭そと侍
りぬ 故 吾ハ 汚き心ならじ 故 赦した
まイねとまをす【ここに 建御雷之男の命
宜べ 畏こし 天津神に 返り言に仕エまつ
らにとて 常陸国の 香島山の頂に上りまし
て 御身に鎧イたまエる 黒金の御衣を そ
の頂の岩洞の中に入れ置きて 八百伴之緒を
率て 天昇したまイ 返りまをしたまイき】
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8,19
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これの時に 建御雷の命ハ 国駆りたまイて
荒ぶる頭どもを 逐らイ平け 服ろわぬ頭
を 斬り屠り 芳賀の頭ハ 神和しに 和し
たまイて 国廻ます時に【遠津海の国 富士
の岳に 服ろわぬ星の長 その名ハ 香香背
星之男の長といウ この長を平らげむと 建
御雷の命の伴之緒 倭文男の長を副ゑて 建
葉槌の命に告らして 出往かしめて 香香背
星之男の長を 神和しに 和したまイて 共
に 返り言まをしましき】
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8,20
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ここに 建御名方の命ハ 狭依科の国の諏
訪山に出まし 水足の湖に 川魚の大口の長
太を取らして 御饗エまして 神宣りを興し
て 持たる八尋矛を その川の辺に差し立て
その矛先に 白鷹鳥となりて 上らして
天昇しなしたまイき
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8,21
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ここに 高御産巣日の命 大国主の命に
告りたまイつらく 汝が忠誠し心 愛づるか
も 故 吾が御子 三穂津姫の命を 汝が妻
に 婚せに と 告りたまイき 今ゆ 天降
りて 御孫の命の 天の下知ろしめさに 千
足る天の御巣なせ と 告りたまイき ここ
に 大国主の命 御子たちを率て 天降りま
しき ここに 天津御子の瑞の御殿に 仕エ
まつらにと 内日刺す宮所を定めにとて 八
十伴之緒に 東の極み 南の極み 西の極み
北の極みに 乞イ求きらしき ここに 西
の使主人 国之魂別の命 返り言まをす 筑
紫の日向の国の 高千穂の櫛触の岳ハ 内日
刺すかも 朝日の輝ぐ 夕日の落ちぬ 高岳
の眞中顕わに 外垣に岩を立て並み 秀懸け
たる奇し山並べ 殿根の土の城負イて 清ら
けく 清に 明き 弥々に 吉き宮所にある
かも 八百の臣の神 殿所の継峰経あり ま
た 天津御子遊びます 天の大須佐田 国の
大須佐田 また 臣 連 八百萬神須佐田ハ
国の植月あり また 国の碵田あり また
これの山の頂と 麓と 腰とに 黄金 白
銀 多なし 瓊石 立て並みき 故 ここぞ
良き 天の新巣の大宮所にこそあれ と
まをす これの筑紫ハ 日の神の生れませる
清々しき国なり と まをす ここに 大
国主の命 八百の御子たち 八百の伴之緒を
率て 見そなわすに 朝日の直刺す 夕日の
照らす 雄々しき国なり 故 ここを 宮所
と定めましき こにゆ 大国主の命を 称エ
まつりて 大地主の神とまをす ここに 高
御産巣日の命 神産巣日の命 更に 神たち
を定めて 告りたまわく 大山津見の命の御
子たちを率て 大峡 小峡の木を伐り 野草
を刈らし 手置帆負の命ハ 山の根工なし
彦狭知の命ハ 家工なし 天之目一箇の命ハ
金工なし 金山毘古の命ハ 黄金 白銀の
吹かイの首となり 八柱の御子たちハ 金
座となり 櫛明玉の命ハ 玉磨りとなり 大
山津見の命の御庭にハ 樵男二百五十人を
御手代となし 手置帆負の命の御庭にハ量
工の男緒 百五十人を 御手代となし 彦狭
知の命の御庭にハ 工男緒 百五十人を 御
手代となし 鹿屋野比古の命の御庭にハ 草
刈りの男緒百人を 御手代となし 天之目一
箇の命の御庭にハ 金切りの男緒百五十人を
御手代となし 金山毘古の命の御庭にハ 吹
かイ男緒三百五十人を御手代となし 天之日
鷲の命の御庭にハ 糸女 織女緒百人を 御
手代となし 櫛明玉の命の御庭にハ 磨り男
緒百人を御手代となし ここに これの神た
ち ともに 天の円指 天の角指 天の直指
天の折指に 区分を裁り並めて 大木の萬
太料を量り また 小さ木ハ 藪伐り分け
眞手に量りなす 黄金 白銀の四指に おど
ろかして 櫛触岳の 岳の頂 岳の中腹 岳
の尾 岳の峡 岳の谷の闇 熊襲の山岳 阿
蘇の海辺の端山 直入の御岳 臼杵の海辺も
然々に 櫛触岳の頂 及び 中腹ぬに 八尋
の大宮を 太敷き立て 高天之原に 弥尺の
木を取り掛け 氷木高知らせ 十八棟に支エ
て 棟毎に 蘿草を植エ並べ 海原の波畝な
さし 大御門ハ 右のゆ 一里を隔りに 白
尾花の堅木を植ゑ並め 小御門ハ 八所して
おのもおのもにも 白尾花の堅木を 植エ
並め 宮の裏代 十八の宮毎に 柏湯の濯ぎ
殿なし また 放らしの厠をなし 新の御贄
の殿に 十二水樋を掛け 清まりなす 御門
の戸前毎に 流れ出る水を 土穿ちに流さし
め 末に 大御門辺に放ちて 川魚を蒔き
殖ゑ足らし また 大君 臣たちの御殿を
大宮の便め 五百萬に仕エ これの大御殿
大室屋の所に おのも毎に 御門を作らしめ
その門毎の辺に 眞赭笹を植エ並め また
群室 伴之緒室 家族室 交イたしなさし
め その室毎に 氷木 堅魚木を敷き 尋毎
の座置に立て並め【高天之原に 尾の花の
ゆくらゆくらに 風寄りの海原の 沫立つ穂
波の 沫こ沫こに 木立ち原の 宅巣宅巣に
間良く手並め合エり】ここに 大穴牟遅の
命 五百箇の秀倉を作らせ 作り 千萬斛の
豊種津実を 俵なし 秀倉に蔵しき また
蚕布 麻布 栲布 綿布を 千萬丈を織らし
めて 室蔵しなし また 繭子糸以て 黄金
白銀の糸 撚り以ち 種々の倭文を 織り
貫かせて 紫 赤 火丹 白の色々に 摺り
色を澁き 現し色の御衣の御栲となし 青
黒 緑 黄 土 萌 藍色 種々に 飾り色
の御衣の御栲となし また 楮の漉き布を
御幣とし 大室 小室 床の間 眞高のたウ
たウに置き蔵し また 一群ゆ 十群毎に
八百千の神宝を 置き照らし また 大御田
族緒 千萬人を招きて 豊之種津物を作らし
め また 大宮所の遠方此方辺に 六の珍琴
を置き 鳴ら緒毎の縒れ縒れにぞ 爪掻きに
ける 故 あら音の 舌作りハ 賑び賑びに
久方の天の辺ハ 栄び栄びに いと 豊け
くこそ 聞こゆれ
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8,22
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ここに 天津日継の御子 正勝吾勝勝速日
天之忍穂耳の命 高御産巣日の命の御娘 萬
幡豊秋津比売の命にの御子 玉依豊栄姫の命
に 御婚イまして 生れませる日継の御子
天邇岐志国邇岐志天津日高日子火之邇邇芸の
命ハ 天照大御神 高御産巣日の命の御言の
随に 天津高御座に坐せまつりて これの
豊道之原の瑞穂の国ハ 汝の知らさに国なり
と 依さしの随に 思金の命 天之児屋の
命 天之太玉の命 伊斯許理度売の命 玉之
祖の命 天之忍日の命 天之表春の命 天之
下春の命 活津日子根の命 天之火照の命
天之香山の命 宇摩志眞知の命 都留伎比古
の命 青幡佐草日子の命 国之押別の命 磐
坂日子の命 衝杵等乎留の命 八野之若比売
の命 天之宇受売の命 豊遠加比売の命 天
之邑日女の命 八束穂垂の命 香山戸の命
大山咋の命 若山咋の命 羽山戸の命 若沙
那売の命 久久年日子の命 久久紀若室葛根
の命 天之弥豆麻岐の命 稲依日子の命 稲
依日女の命 耜魂の命 斎主の命 佐佐津比
古の命 佐佐津比売の命 世開主の命 天津
枳値可美の命 八尋鉾長依日子の命 綾門日
女の命 天之活玉の命 天之三降の命 天之
別日の命 また 諸々の神たち 八十伴之緒
の長たち 百三十の大伴の頭たち 装ゐまし
き ここに 天照大御神 右の御手に 剣を
持たし 左の御手に 鏡を差し持たして 言
祝ぎ 告りたまイつらく 大八洲豊道之原の
千秋の千萬葉の 瑞穂の国ハ 吾が御子の
継々 君と在すべき国なり 皇之珍の御孫の
命 天降りて 天津高御座に坐しまして 安
国と護らしめ 天津日継の瑞穂を 天津御食
の長御食と 萬千秋の長五百の萬秋に 安ら
けく 斎庭に知ろしめせ これの鏡ハ 吾が
御魂代となして 吾が前津辺を 斎く如に
一殿 一床に坐さしめて 斎きまつれよ 天
地の眞幸在さにことハ 天地の共 永久如在
さにあり と 告りたまイき 故【大御神の
御像代の八咫鏡 また 天之叢雲の太刀 二
種の神宝以て 永久に 天津日継の御璽とな
さしめて また 彼の招ぎし 八尺の勾玉
国平け日矛を副エて 天之常世之思金の命】
天之櫛眞智児屋の命 天之神魂太玉の命ハ
大山津見の命 金山毘古の命にまをして 天
津星の神たちに 心配り 祷き祈り事し 天
津手力之男の命 稚産巣日の命 甕速日の命
建御雷の命 経津主の命 天之懸の命 国
之懸の命たちハ 八十伴之緒を率て 後方人
となし 高天之原の斎庭以 天津日之御孫の
命に 任わせまつる と 告りたまイき
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8,23
-------------
また 天之思金の命 天之児屋の命 天之
太玉の命たちに 告りたまイつらく 汝 三
柱の神たちハ 同じ宮内に 侍らイて 足尼
なして 天の祭り 国の祭りを 高天之原の
訓り宣りに 宣らせ 皇孫の命の須佐田 臣
たちの須佐田を極み 現しき青人草の作田を
平らさし 安国の足らし国と 愛じて 奸
る神 在らせ 奸る現人 在らせず 御子た
ち 臣たち 遠津裔ぬ ちはやぶり 荒び
奸ること無くして 仕ゑまつらば 八百萬の
諸々の天津大神たち 共に 八十続き 護り
なさせに と 告り言たまイき【ここに 神
魯岐の命 神魯美の命の御言以ちて 高天之
原に 言始めて 天津祝詞の太祝詞言に 言
依さしたまイて 天津神の家代 国津神の家
代 称エ言完ゑまつらしめて 天津磐境を作
り 天津神籬を起こし立て 天津御子の天の
下を 安らけく 楽しましめにと 斎イまつ
らにとて 天津神籬を以ちて 豊道之原の中
津国に降りて 斎イまつれと 諸伴之緒の長
を率きて 司々に仕えまつることハ 天の御
業の如 為な と 告りたまイて 諸々の神
を 伴に添ゑ 従わしめたまイき】
-------------
8,24
-------------
【ここに天津諸神たちハ 天津御子を
眞床追衾に包みまつり 神籠に載らせまつり
き 故 天邇岐志国邇岐志天津日高日子火之
邇々芸の命[天の磐座を離ち 天の磐戸を引
き開けて 天降りまさにとて 座出たまイき
][時に天之忍日の命ハ 伴緒を取りなして
各も各もの背平に 天の石靫を取り負ばし
肱に 厳の高鞆を着け 手に 天の羽々弓
を執り 天の羽々矢を靫差し 八目の鳴り鏑
矢を手挾み 頭椎の太刀を取り佩き 大久米
部緒 二十余人を率て御前に立ちまつり][
天之牟良雲の命 太玉串を取り][天之忍雲
根の命天津祝詞に仕ゑ]】【天之都留岐日子
の命八十伴之緒の神中に 八十足らし矛を取
り持たしめ 磐坂日子の命ハ 天の霊幡 国
の霊幡を 八重担きに担き差し 翳させて
御添ゐなす ここに 大国主の命 御孫の命
の天降り道の道迎けに 黄金 白銀の清みの
五百津眞木柱結イの 厳の勾玉の挿頭しに
作れる 八百秀木の眞燿輿の 厳の清みの八
重輿に 火丹衣を掻イ賄ゐ 藤の花鎖を 弥
々に巻き 五百の伴緒ハ 八丈幡をかざし
厳の焼矛を 千々余の緒に揺かせ 阿遅須伎
高日子根の命 積羽八重事代主の命を 道迎
け司とし 建御名方の命 若経津主の命を道
饗人となし 山代日子の命 八尋鉾長依日子
の命 薦枕白主の命を 道別き 並べ別きと
し 下照比売の命 高照比売の命を 道遊び
人となし 天之活玉の命 天之三降の命を
近津臣人となし 音鳴らの和楽の緒となし
木乃俣の命 御井の命を 殿司として 天の
浮橋の 其の本津辺に 道迎けまさしめき】
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8,25
-------------
【ここに天邇岐志国邇岐志天津日高日子火之
邇々芸の命 天降りなさにと なしませる時
に[御前祓イ神 帰りまをす 天の八千俣の
道俣に 怪しき神 御一人立てり そが状ハ
上ハ高天之原迄に 照り渡り 下ハ中津国
迄 照らし渡り 鼻の長さ 七寸 背平の長
さ 七尺余り そが眼ハ 梅実の如に円り]
腰に太袴を穿き込み 右の御手に 木矛を持
たし 左の御手にハ 楮布に作れる御和幣に
五十鈴を帯ばし持たしたりき 故 御伴長
に 其の名を問わすれども 目勝ちて答エず
と まをす
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8,26
-------------
故 天照大御神 高御産巣日の命 神産巣
日の命 告りたまイつらく
そハ 大年の神の子 久久木若室葛根の命の
子 猿田毘古の命ならに 故[天之宇受売の
命ハ 手弱女なれども い向かウ神と 面勝
つ神なり 故 汝 往きて 汝 道引きまつ
らに と 潔くも 此に来れりと 問イて
越し来ね と 告りたまイき 直に 天之宇
受売の命 速く往きて 八衢に立てる神に向
かして告りけらく 吾が皇御孫の命の 天降
りなさにと なしまつる大道を 誰そヤ そ
こに遮る と 告り言ちき ここに 彼の神
まをさく 吾ハ 国津神 大年の命の眞孫
此に 名ハ 猿田毘古の命なり 此に跨かる
故は 天津大神の御孫の命 天降りまします
と聞きつるからに 参イ迎エ 大道引きまつ
らに とまをす][故 天之宇受売の命 ま
た 問イけらく 汝 前立ち往かにヤ 吾
前立ち往かにか 答ゑまをさく 吾 前立ち
て 御前祓わに 汝ハ 何処にか 道引きな
すヤ 吾ハ 大国主の命の定めたまエる 西
の高千穂の櫛触岳に 迎ゑまつらに]吾ハ
道別神となもなりて 祓イ平けまさに と
まをしき 故 天之宇受売の命ハ 帰り参り
て その論をまをしたまイき】
-------------
8,27
-------------
ここに 皇御孫の命ハ 天の岩座を離ち
天の岩戸を引き開き 天の八重棚雲を押し別
け 天の八衢を 厳の道別きに道別きて【天
の浮橋に 宇岐士摩理 蘇理多多斯て】眞那
県に在座たまイき 故 大穴牟遅の命 迎エ
まつりて 皇御孫の命を 八百秀木の眞燿輿
に 載せ入れまつり 直に 一日 一夜 歓
らぎて 翌日の朝開きに 天の八百伴之緒
国の八百伴之緒 笠広の弛たに 高千穂の二
上りの【峰よ日の瑞の新宮に】御輿入れまし
ましき これの天降りましましによりて 豊
道之原の現し人 皆 睦び合エり 故 これ
の月を 睦月と言 これの日を 始めの日と
なも言ける そが故ハ 天照大御神 東の六
の殿ゆ 朝開きに 現れたまえるからに 睦
日とぞ言ける
上津文 八の綴り完エ
-------------
9,1
-------------
上津文 九の綴り
ここに 天邇岐志国邇岐志天津日高日子火
之邇々芸の命 二上りの新宮に天降りまして
顕わに事 知ろしめさして 天の祭り
国の祭りの言祝ぎたまイき ここに常世之八
心思金の命 天之児屋櫛眞智の命 天之太玉
神玉の命 天津大神の御言依さしの随に 一
箇岳の大宮に 同じ座なし 天の御業の学び
に 仕エたまイき 伊斯許理度之男の命 伊
斯許理度之売の命 玉之祖日子の命 玉之祖
日女の命 天之忍日日子の命 御殿の東の大
殿に入らせ 大山津見の命 大山比売の命
金山毘古の命 金山毘売の命 和久産巣日の
命 和久産巣日比売垣の命 御殿の北の大殿
に入らせ 天之手力男の命 天之忍雲根の命
天之忍日の命 天之牟良雲の命 天之都留
伎比古の命 天之嗣桙の命 天之鈴桙の命
天之御雲の命 御殿の西の大室に入らせ 阿
遅鋤高日子根の命 積羽八重事代主の命 天
之木之俣の命 天之御井の命 三穂須々美の
命 八尋鉾の命 若経津主の命 八尋鉾長依
日子の命 薦枕白主の命 天之活玉の命 天
之三降の命 御殿の南の大室に入らせ また
八百の臣の神たちハ 外山野の大室に入ら
せ 伴之緒 また 家族の人たち 諸々の御
殿に 渡り立たし 一群の谷々の極みまでに
込ませましき
-------------
9,2
-------------
【ここに 思金の命 天之児屋の命 天之
太玉の命 共に議りたまイて 歳の訓り法
月の訓り法 日の訓り法 四の季 四の間の
訓り法を定めましき 皇孫の命の天降りまし
ますの年を 大御歳と定め 萬人の天降り着
く月を 始めの月と定め 萬人の天降り着く
日を 始めの日と定め 故 始めの月を む
つび月とウ 次ハ けさり いやよ うべこ
さなゑ みなつ ふくみ はやれ なよな
かなめ しふる しはつ これの十二の月
を 三十か日の間と定め 月の三十か日を
三旬となし 始めの十か日 中の十か日 完
エの十か日の 月読の神の 円かなる日を以
て それの十か日を 月円日と定め 後の十
か日を 月籠りと定め 後の十か日を 月立
てと定めて 大御年を 三百六十ぢと定めて
しはつゆ むつびの央 三か日 四か日を
置き隔りて 始め日なす 故 むつび月 け
さり月 いやよ月を 木の芽張ると定め う
べこ月 さなエ月 みなつ月を 国暑と定め
ふくみ月 はやれ月 なよな月を 種津熟
きと定め かなめ月 しふる月 しはつ月を
木根の殖ゆと定め これの四の季を置かし
たまイき
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9,3
-------------
天照大御神のみあしで 天大神の大御座を
天昇し出 問わせたまイき ここに 高御産
巣日の命 告りたまイつらく それの高天之
原ハ 天照大神の知らす処にしあれば 高天
之原 豊道之原の其方 此方を定めてに と
告りたまイて 萬国を照り渡らす 奇霊の
御子の立たしたまウ所を 東となし 其方に
入りたまウ所を 西となし 高天之原の央ら
道を避きて 御星の神に向きて 道往きます
からに 日央となし 其に向きし背方を 南
となせ また 天之御中主の命ハ 高天之原
の真中の空高に 常座なす大御星の神とまを
す それの南に 吾が常座なして 産巣日星
の神と言 神産巣日の命を 北に常座なさせ
て 御産巣星の神と言 宇麻志阿斯訶備比古
遅の命ハ 南の夏に在座なして 宇麻志星の
神とまをす 天之底立の命ハ 眞中の東に
常座なして 天津星のの神とまをす 国之底
立の命ハ 眞中の西に 常座なして 国津星
の神とまをす 豊雲野の命ハ 東の殿の前津
に 常座なして 豊雲星の神とまをす 葉木
国野の命ハ 西の殿辺に 常座なして 葉久
々星の神とまをす 故 こを以 修せて 萬
国に撒きて 吾が食国の 青人草の便めなせ
-------------
9,4
-------------
また四方に皆 神在す それの殿 各も各
もに十八あり 故 此を以て修せ と 告り
たまイき 故 三柱の神 天降りまして 天
邇岐志国邇岐志天津日高日子火之邇々芸の命
の 豊葦原の中津国に天降りまししハ 天照
大御神 六の殿ゆ あし出ます 故 此をむ
つびの月といイ その宮に入らせたまウ日を
始めの日といイ 次の日を明津日といイ
こハ 諸神たち 祝ぎなすからの名なり 次
の日を 厳し日といイ こも 然々に 次の
日を天津日といイ こハ 御親に天津神を祝
ぎたまウ 次の日を国津日といイ こハ 国
津神を祝ぎたまウ 次の日を八百萬日といゐ
こハ 八百萬の神を祝ぎたまウ 次の日を
精高日といイ こハ 覇精高の神を祝ぎたま
ウ 次の日を現人日といウ こハ 現しき青
人草を祝ぎたまウ 次を 九か日 十か日と
次々なす 故[天照大御神 それの六の殿
前にあし出ますからに 昼内ハ 七時半 夜
十時半 中五か日ハ 昼八時 夜ハ十時
けさりハ 七殿にあし出ます 昼八時半 夜
九時半 中五か日 昼九時 夜九時 いやよ
ハ 九の殿に遊出ます 昼九時半 夜九時半
中五か日 昼十時 夜八時 うべこハ 十
一の殿ゆ遊出ます 昼十時半 夜七時半 中
五か日 昼十一時 夜七時 さなゑハ 十三
の殿に遊出まし 中五か日に 十二殿の後
御立たす 故 昼十一時半 夜六時半 中五
か日 昼十二時 夜六時 みなつハ 十二殿
の後に 遊出ます 昼十一時半 夜六時半
中五か日 昼十一時 夜七時 ふくみハ 十
殿の後 遊出ます 昼十時半 夜七時半 中
五か日 昼十時 夜八時 はやれハ 八殿の
後に 遊出ます 昼九時半 夜八時半 中五
か日 昼九時 夜九時 なよなハ 六殿の後
に 遊出ます 昼八時半 夜九時半 中五か
日 昼八時 夜十時 かなめハ 四殿の後ゆ
遊出ます 昼七時半 夜十時半 中五か日
昼七時 夜十一時 しふるハ 二殿の後ゆ
遊出まし 中五か日に 一の殿に渡らして
詰まる 昼六時半 夜十一時半 中五か日
昼六時 夜十二時 しはつハ 四殿の前に
遊出ます 昼六時半 夜十一時半 中五か日
昼七時 夜十一時 こを以て 大御年の季
間と定め]
-------------
9,5
-------------
日の毎の間ハ 一日を三時 九時に盛り
一夜を三時 九時に盛り 故 一日 一夜の
時ハ 朝時 昼時 夕時 宵時 眞夜時 暁
時 故 朝時内に 朝開き時 朝な時 朝じ
時 昼時内に 日前時 真昼時 日後時 夕
時内に 夕げ時 夕な時 夕暮れ時 宵時内
に 黄昏時 宵方時 小夜時 眞夜時内に
夜さ時 眞夜時 夜後時 暁時内に 寝る時
目覚時 東雲時
-------------
9,6
-------------
故 夜見照大御神ハ 天照大御神に 日に
異に 一時を後方なして 高天之原を出る
故 けさり はやれに 七 八の御殿に
遊出まして 夜見照大神ハ 一時隔りて 後
方に入る また 火精星御祖の神ハ高天之原
の北の眞上に 常座まして 御子の神たちハ
その在座の宮の殿所を 二十重に巡り 宮
異なす星の神ハ[むつ魂星 きさ魂星 いや
魂星 うた魂星 さな魂星 みな魂星 ふく
魂星 はや魂星 なか魂星 かむ魂星 しひ
魂星 しつ魂星]これの神たちハ 現世の守
りなして 御殿に入らず これの神の御子の
星たちも 真上の殿所を巡り 火守りなす
風精星御祖の神ハ 天照大御神の御前 一時
八 九の殿中らゆ 遊出ます 故 夜ハ
眼見エず 四の季も 其なす 故 風星の神
ハ 黄昏に 四殿に出りまして 巡らす 風
女星ハ 黄昏中ら出る 風男星ハ 宵方に
六の殿ゆ出る 気霧星ハ 眞夜に八殿 ゆ出
る あかゆ星ハ 小夜に九殿ゆ 出る あか
ゐ星ハ ぬるに 十殿ゆ出る 露風星ハ
夜後に 十一殿ゆ出る め霜星ハ 目覚めに
十二殿ゆ出る い雪星ハ 東雲に六殿ゆ出
る 吹雪星ハ 夜さに 二の殿ゆ出る 大雨
星ハ 宵辺に 七殿ゆ出る 大息守星ハ 夕
なに 六殿ゆ出る これの星の神ハ 風治ゐ
の星の神なり また 水精星御祖の神ハ 日
の毎に 天照大御神のこゆウの南を 翔け巡
り 御一日に 一巡り 一夜に 一巡りなす
故 天照大御神の御乳守る星の神なり
また 御子の神たちハ あれぬ星ハ 朝開
きに 二殿ゆ出り 日一巡 夜一巡なす あ
れほ星ハ 朝なに 三殿に出り 日一巡 夜
一巡なす いどみ星ハ 朝じに 四殿に出り
日一巡 夜一巡なす うるき星ハ 日前に
五殿に出り 日一巡 夜一巡なす とぢ星
ハ 日前に 一殿に出り 日一巡 夜一巡な
す うほヤ星ハ 朝じに 二殿に出り 日一
巡 夜一巡なす 八百星ハ 朝なに 三殿に
出り 日一巡 夜一巡なす うみ星ハ 朝開
きに 四殿に出り 日一巡 夜一巡なす と
み星ハ 東雲に 五殿に出り 日一巡 夜一
巡なす 彦星ハ 目覚めに 六殿に出り 日
一巡 夜一巡なす これの星の神たちハ 真
水治ゐなす星の神なり また 土精星御祖の
神ハ 天照大御神の 七殿に遊出ます時に
続きて 七殿に出り治ゐて 遅く巡り 秋の
七殿に また 天照大御神の遊出ますに 続
きて出る 故 一年に 二巡なす また 御
子の星の神たちハ す星ハ 真昼に 六の殿
に 天照大御神の 徐に出らしたまウ時に出
りて 遅く治ゐて 一年に元なす やみ星ハ
然々に 八の殿に出り 寛に 治ゐて 一
年半らに元なす とみ星ハ 然々に九殿に
出り 寛に治ゐて 二年に元なす つゐ星ハ
然々に 十殿に出り 寛に治ゐて 三年に
元なす なこ星ハ 然々に 十一殿に出り
寛に治ゐて 四年に元なす なか星ハ 然々
に 十二殿に出り 寛に治ゐて 五年に元な
す あれ星ハ 然々に 十一 十二の合いに
出り 寛に治ゐて 六年に元なす つま星ハ
然々に 十一 十の合ゐに出り 寛に た
ゆたに 治ゐて 七年に元なす みつぼ星ハ
然々にとうり 九の合ゐに出り ゆたに
たゆたに 治ゐて 八年に元なす たたら星
ハ 然々に 九 八の合ゐに出り 大ゆたに
たゆたに 治ゐて 十年を元なす とろ星
ハ 然々に 八の殿に出り 大ゆた 大たゆ
たに 治ゐて 十八年を元なす かき星ハ
然々に 九の殿に出り おおゆた おおたゆ
たに へばゐて 三十六年に元なす たかを
星ハ 前 かき星の神と並べなす とい星ハ
前 とろ星の神と並べなす 故 八百萬の
星の神も こを以て修せ また 現人の星の
神とならハ これの元津に修せ また 上津
高天原 中津高之原 下津高天之原[故 御
祖星の神たちハ]中津にあり 次々の星の神
たちハ 皆 下津にあり 然れど 上 中津
にも在す星ハ 皆 それそれの御子の星の神
なり また 萬国までに 日に異を 守りな
し 任きなす星の神たちハ 皆 下津にあり
天照大御神ハ 上津高天原に治ゐます 夜
見照大御神ハ 下津高天之原に治ゐます ま
た 上津の大星の神たちも 皆に皆に 治ゐ
て 高天之原を知らせなす また 中津の星
の神たち 皆に皆に 治ゐて 豊道之原 ま
た 外津の萬国を守り知らせて 高天之原の
言問ゐ 天津御手振りば これの豊道之原に
訓り伝てて 八百萬の神たち 共に これ
の中津国ハ 吾が悦むか国なれとウて 食国
と定めたまイき】
-------------
9,7
-------------
故 天照大御神の御教ゑの如 草木 山
海 全に 現しき青人草 食イて 良き物ハ
一年に その子多なす物ハ 食ゑ 子少な
なすハ な 食わしそ 毒なす毛物 這ウ虫
ば これに類ウならじ 故 こを以て 天津
訓を修せ これの天津訓ハ 国津訓なり 故
天津星の神たちハ 御怒りハ 高天之原を
轟こし 神魂を飛ばず 国津神の御怒りハ
天地に震イなす とむ星御祖の神の御怒りハ
国に 穢れ火を放ち たせ星御祖の神の御
怒りハ 国に穢れ風を放ち いみ星御祖の神
の御怒りハ 国に 穢れ水を放ち よち星御
祖の神の御怒りハ 国に 穢れ津虫を放つ
故 こを以て 高天之原の運びゆ 国の運び
なることを修せ また 天津宣り訓りハ 阿
遅須伎高日子根の命 積羽八重言代主の命に
神訓りの訓り伝てなせば これの裔こそ
知りつらめ
-------------
9,8
-------------
【ここに はやれ月の月円日の八かの日ゆ
御空暗くして 夜昼 分かたずて 青人草
道惑イにき 諸々の色 弁別エ難かりき
ここに 三柱の神 樫占を求きて 告りたま
わく こハ 禍物の仕業なり 故 八百米の
抜き穂を以て 四方に打ち払イ 投げ擬イた
まエば 空 明り晴れたりき 故 高千穂と
言 ここに 禍物あり 大鉗 小鉗といウ土
蜘蛛 山峡の下辺に 潜み 喘ぎ喘ぎ合ゑり
三柱の大神 そを 見そなわしたまイて
告りたまわく 皇孫の命の知ろしめす国に
何どて 此く 頑狂なす と 告りたまイて
御搦りに取りなし 神逐イに 逐イたまイ
き】【ここに 三柱の神 斎庭の瑞穂を 五
百つの眞男樫の片枝を 桜に焼きて 太占の
占業に仕ゑまつりて 悠紀 主基の国を 斎
イ定め 国に長老を定め 御瑞穎を 国の国
々に満たし また 造酒子 酒波 灰焼き
鎌切りを定め 奥津日子の命の御子 天之門
主の命 庭高津日の命の御子 天之柏国懸の
命 阿須波の命の御子 天之波主の命 波比
伎の命の御子 天之並立足彦の命 大贄の斎
庭に 持ち斎り 斎知り 厳知りに仕ゑまつ
らしめ 大山咋の命の御子 天之酒依醸人の
命 大神酒を 天津御食の長御食に 遠津御
食に 斎知り 厳知り 清まわりて 汁にも
穎にも 赤丹の穂に 聞し食して 豊明か
りと 神の賀詞 称エ詞定めましき】
-------------
9,9
-------------
ここに 皇孫の命 諸々の大臣の神たちに
告りたまイつらく 猿田毘古の神ハ 如何
になる と 告りたまイき
故 天之児屋の命 まをしけらく これの
神まをす 天之宇受売の命ハ 専ら 吾を
顕わせる神になもある 故 吾に賜イてにヤ
と 請わる と まをす 故 皇孫の命
告りたまイつらく 猿田毘古の命ハ 吾が御
前に立ちて 道引きなせる神にありけり 請
わしの随に 御妾に任して 饒しき また
皇命 猿田毘古の命に告りたまイつらく 汝
吾を道引くが如 現しき青人草の国ゆ国ゆ
に通わに時の 道引きなし 川 海を道引き
なして 萬の便りの良さ事を 知らせ と
告りたまイき 故 ここに 猿田毘古の命
天之宇受売の命 大御言畏みて 日向の襲岳
の頂上に昇りまして 八十の現し人に 告ら
したまわく 榊 小賀玉 桂の木ハ 秀れて
清煤の木なれば 得伐らて 天津神に奉り
また 直木ハ家の柱木となれば 得伐らず
て 諸家の神に奉り【素木 粗木 斎木 諸
々の木々群なす 木立を伐りて 七尺となし
て 山土の朱埴を 七尺穿て 九の樽に 彫
り貫ぎ これ木を押し立てに 間無くになし
埴以て この上を 八重畳に殊塗り 大窓
小窓を作り 上の小窓を掻い繰りに その
上毎に 木を取り 西風の吹か振らをきらわ
し 小の窓上に 木鑚一束に 清鑚りの火を
鑚りて 窓上ゆ 投げ入れに 打ち入り 間
暫し程に 火熱りて 入火萎ゑして 荒火足
りなす 三か日ありて 埴以て 火塞きなす
[みつまかびにかむずらす つちまかびにか
むずらす]故の燿り炭となも成る】此く為す
所 八十六所なりき 故 玄り炭五百籠 こ
を 先づ 馬と牛とに背負ゐて 大宮に奉り
き ここに天津御子 甚に御喜びまして 直
ちに 百方に告らしたまイき ここに 猿田
毘古の命 天之宇受売の命ハ 東の国に渡ら
に と 告りまして 歩ませる時に 川谷過
ければ いと 現人の便悪かりき 故 道引
き石を 眞中切りに割りて 水門の浮橋を作
りき また 直入の国に 出ます時に 雨降
りて 小止みせず 十余り三か日に至るに
山水多しく 現人の通び道断ちて 便めず
故 猿田毘古の命 東の菅生山に登りて 見
そなわすに 岩重ねの山なす 故 頂に登り
まして 彼の巌山を 猛びて 蹴ゑ散げます
に これの山 飛び散りて 落ちし所を 千
引といウ また 大分の国の竹沢の山に出ま
し 筋方の速見に出ますに 由布水の深江谷
あり 故 現人に仰せて 大木を伐り倒して
これの谷に 丸木木を橋となす 故 そこ
を 猿の渡りといウ ここハ 木立多なる合
らかも と 告りましき 故 阿比良といウ
ここに 仮殿建てて在しし所を 神楽女と
いウ ここにまた 猿田毘古の命 天之宇受
売の命 共に 熊襲の国に出まして 浮橋を
渡しし所を 川辺といウ【空国頓丘より 国
求き通らしし所を 満家野といウ 阿多の笠
沙の碕に至りまして 長屋竹島に登りまして
国処を御巡りて 見ましける時に 国津神
事勝国勝長狭の命 またの御名ハ 塩椎の
翁の命 こハ 伊邪那岐の命 伊邪那美の命
の御子にぞありける】
-------------
9,10
-------------
故 猿田毘古の命 長狭の命に問わしけら
く これの国に 奸る頭あるべし 汝 知り
てにヤ と 問わすに よく知れり そが名
ハすがるといウ 天津御子に参イ来ぬ頭なり
襲之崎の小都萬に居る頭なり 汝 往きて
逐イませ と いウ 故 猿田毘古の命
まをしけらく 吾ハ 襲之崎の小都萬の国に
往きて 禍る頭を逐イて 速日別ゆ 白日別
に至り 穴門辺ゆ 国求ぎて往かに と ま
をしき 故 事勝国勝長狭の命 告りけらく
汝 国求ぎて 大道を 厳の道別きに 道
別き往きなば 吾ハ 島の島々を求ぎて 海
潮を味塩になさに と 神語らイなしましき
ここに 猿田毘古の命 天之宇受売の命ハ
崎小都萬の国なる 奸る頭すがるに 出向
き立たして 告りたまわく 汝ハ 天津御子
の臣なり 奴も然なり 今 参来ぬこそ 悪
じにあれ 故 吾が厳の竹矢を 汝に取らす
とウて 眞樫弓に 厳羽矢を掛けて 引き
擬ウに 果贏泣きて 暫し待たせたまエ ま
をす事あり とウて 隠せる大張の弓に 鏑
矢を嵌めたるを持ち 相言なせるに 隠りつ
る禍ら男 八人して 笹並内ゆ 猿田毘古の
命を 目懸けなし 八筋の矢を 放ち掛けた
る時に 猿田毘古の命 手速くに 八筋の矢
を 一握に取りなして 奴ハ 憎き 荒ぶる
頭なり 故 得助けじ 禍らイも 助けじ
と 告りたまイて その八筋の矢を 逆さま
に取りなし 突き返したまイしかば 彼の禍
頭 並べに 禍らイ共 尽々に その返し矢
に貫かエて亡せき 故 残れる禍らイども
畏みて座上げまをしき
-------------
9,11
-------------
ここに 猿田毘古の命 天之宇受売の命 速
日の国に出まして 道別きます時に その背
平 太く逞しき男の如なす女 深渕の上に
八重の高梁を敷き並み 足座なしき その大
神の来ませるを見て 到り迎エて まをしけ
らく 吾ハ 国津神 天之国懸の命の娘 名
ハ懸差姫とまをす 大神 国求きの道別きま
さば 吾ハ 御伴に仕ゑて 岩切り人となら
に と まをす 故 天之宇受売の命 告り
たまわく 汝ハ 女にしあれども いと強き
長なり 吾が伴垣とせむ 手力 幾らなす
と 告りましき ここに 彼の懸差姫 引き
方の巌を手割りき また 汝ハ 機作りに
仕エまつらヤ と 告りますに 宜とまをし
き 白日の上妻所に出ます時に 待てる女の
麻の色の明くして 太く優しき衣の下裳を
長垂らして 猿田毘古の命 天之宇受売の
命 懸差姫の命の 至りけるを侘びて 門な
る太松を横垂りに 引き倒して 其に 大神
を置きて 告りけらく 国々に 道別きます
ゆ 出ましの道知りの神となりて 御伴に仕
エまつらに と まをす 故 天之宇受売の
命 告りたまわく 汝 手力 いと 強し
木棉縫イに仕ゑまつらにヤ と まをすに
諾 と まをす ここに 猿田毘古の命 三
人の姫神を率て 穴門の国に渡り そこより
国廻まし 道別きましき 故 三柱の姫神
たちを 豊甕姫とも 申し また 御神楽姫
ともまをし また 八重積猿女の神ともまを
す
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9,12
-------------
ここに 八心思金の命 天之児屋の命
天之太玉の命 国廻まして 国の祭りを任イ
たまわにとて 国々の翁と媼とを集エて 天
の眞狭琴を取り 木棉御幣に 黄金の五十鈴
を賄ゐ 眞榊に取り付け 青御幣に 白銀の
拆鈴を取り付け 檜の扇に 貴玉を取り添ゑ
持たして 翁媼に告りたまわく 現しき青人
草の家ハ 千足る倉置きて 豊種津物 八塚
足らしに 屋満しに屋工み また 道具工ま
し 大御田族 其が道畏み 天の下 安く穏
びに 禍津の奸る頭あらば 宮所に訴わしめ
て 神の禮代に 仕ゑなさしめたまイき
-------------
9,13
-------------
ここに 陸の国に至ります時に 国の翁ま
をす 阿尺の野に 大猿子 小猿子とて 兄
弟の現人あり 奴が生まるるの時 その母の
枕辺に 猿来て歌ウ 故 これの子の名を
大猿子といイ また弟を生む時に また 猿
来て歌ウ 彼の子の名を 小猿子となも名付
ける と まをす 手力強くで よく 木立
を抜く 故 小夜岳に大岩あり こを手取り
て 抜くに 水捲くり出て 川となる こを
猿川と言とまをす 故 三柱の命 愛でた
まイて 大力猿の命といウ御名を賜イき
-------------
9,14
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【ここに 三柱の神 天之押雲の命に告り
たまわく 天津御子に立て奉る 御食津の水
ハ[現し国の狭水ハ 荒らまくりて適わず
故 天津水の祝ぎ水を 乞イて来ね]と 告
りたまイき ここに 天之押雲の命ハ 二上
りの岳より 天昇しまして 神漏岐の命 神
漏美の命 然々に まをしましき ここに
二柱の大御神 天の五百千篶の 千立の玉串
を依さしたまイて 告りたまイつらく これ
の玉串を差立てて 夕日より 朝日の豊栄昇
ります また 朝日の豊栄昇りゆ 夕日の降
ちぬ 及く及くに 天津祝詞太祝詞を宣り待
ち居れ 然なさば 朝 夕べに 厳し岩中ゆ
清みの足らし水 出来に そハ 天之眞名
井の水なり こを以て 天津水と受けしめ
朝の御食 夕べの御食に 此を聞こしめせ
と 言依さしたまイき】
-------------
9,15
-------------
ここに 事勝国勝長狭の命 天津御子の
朝夕べの御食津 幸の菜物の味わゑに 海津
潮を味塩になさに と まをして 穴門内海
の辺津島に出まして 告りたまわく ここハ
潮満つ 潮干るの内海 いと 清けく 潔
き潮の騒なす 潮見の良き 味塩の立ち凝れ
る所にぞありける 故 海族人に告りて【潮
の満ち来る中ら 潮の騒なす潮を汲ませ 砂
子 諸砂子の上に 放ち撒かし 乾き撒かし
に 八重敷き放ちて 砂子塩成すを 掻イ寄
せに寄せ足らし その上に 潮 注ぎに注ぎ
垂らし 朝日の直射す 夕日の隠りに 凝ら
し上げ 凝壺に受け満たし 潮漏らしてに
漏らして 水成し取りて 平地を空穿き そ
がの上に 横木を渡し 素木を横倒しに 倒
し 礫石を撒き散らし 埴以て塗らし固めに
なし 垂り木枝を多に掻き入れ 火を鑚り
塗り埴の中に 潮水を捲くり込みて 弥焚き
に厳し立て 潮水凝りる時に 引上げ 籠受
けなさして 成れる物ハ 味塩なり】故 滓
素水を刮げて 雪如味塩 菜食ゐと定めまし
き
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9,16
-------------
ここに また 事勝国勝長狭の命ハ 大原
野の国に到りまして 白豆彦の命 白豆姫の
命に 大豆を作らし 稲彦の命 稲姫の命に
種津稲を作らし 麦彦の命 麦姫の命に
麦を作らし これの実を 天の斎かし火を鑚
らし立て 熟き蒸しに 狭柔凝し 国津土竈
に 百足る八節薦を敷き 内撒きに散らさし
て 一日 二夜蒸して 糀立ちなるを 豆炊
きの中に 打ち嵌めて 八重蒸しの室洞に
またに 糀立ちぬ 楊木を臼とし 樫木を杵
とし 弥叩きに 砕き和して 潮水にまぶし
味塩に和らイ 百か日を過ぎて成るものハ
未醤にぞありける また そを圧して そ
の上に浮かめる水を汲みて成るものハ 蒸し
醤にこそあれ
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9,17
-------------
ここに 積羽八重言代主の命ハ 海鰭萬彦
の命 天之鳥姫の命 二柱の神に告りて 海
辺の御崎に 小船を幾ら造りて 麻の皮を全
抜き 狭糸に紡がせさし 高計りに 樫梁に
巻き 大目 小目に目差し引かりに 網結き
ならして 大袋料なし 小袋料なして 海魚
込みとし 栲縄を千尋に綯わせ こに 一尺
の目張りを 編み結きて 引き手とし 欅の
皮を引き綱とし 綱毎に 空木を結イつけ
そに 引き手結びに取りなし 下辺に 銅の
錘を着け その引き手の眞中に 大袋料 小
袋料を結イ固めて その袋料の上に 空木結
イなし また 下辺に 銅の錘を着けて 海
魚取りの網 垂り囲として 海族人を小船に
打たせ おのもおのもの船に 彼の垂り垣を
載せ持て 海魚の網上の端縁を 乗り込まさ
しめて 御縄 共に 海に投げ入れ 速く速
くに船馳せして 経廻りて 中らゆ 海魚の
もじるを 船廻ぶに こ廻ぶして 八十人に
綱引き引かせて 重垂の袋料に 海魚 込
み委蛇ウを引き揚げて 大海魚小海魚多々に
引き揚げ取らして天の眞魚咋に奉る 故 こ
を 国撒きたまイき
-------------
9,18
-------------
ここに 大山咋の命の御子 若山咋の命の
御子 豊山咋の命 香山戸の命の御子 若香
山戸の命 羽山戸の命の御子 志芸若室押の
命 三柱の神たち 白飯を糀となし 白飯五
斛 糀一斗 天の眞名井の水を 一斛以て
弥盛り置きになし 白飯五斛五斗 糀三斗
天の眞清水一斛 酵し立てに酵し また
その上に 弥盛り 酵し立てて 幾日経て
泡立なすものハ 凝り濁酒なり こを 櫂振
りに 振り熟すものハ濁酒なり こを 木棉
以て 搾り濾すものハ清酒なり こを 弥に
清みて 絹醸ますものハ神酒なり
-------------
9,19
-------------
ここに 正鹿山津見の命ハ 天津御子の御
命の永く なりま欲しとて 久波木 久枯木
宇古木 左支木 蒲葵木の 瑞々しの香若
の瑞葉を取りて 釜平を 空焼きに焼きて
瑞葉を焦がし枯らかして 火鑚り臼以て 眞
々粉となし 天の遣り水を 弥焚きに沸り和
して 眞々粉に注ぎて 木葉粉湯となし 朝
の御食の禮口 夕べの御食の禮口に 飲み物
の禮代と定めて 天津御子の膳の副物とて奉
る ここに 伊斯許理度売の命ハ 百千木立
になれる花弁と 百千草になれる花弁とを取
らして 多々に 天津御子に奉る こハ御濯
ぎ湯聞こしめさに時に これの花弁を 湯沸
り蒸かして 白湯 赤湯に冷めなし そを以
て 御濯ぎまさば 肌滑べ 弥栄き 御身ハ
御肥エまして い健く在さに 肌清め 身清
め 肌厳らし 身厳らし 面足る天の眞栄湯
なれば 御禊ぎませ と 称エまをしき こ
こにまた 天津忍日の命ハ 松の瑞針の葉
杉の瑞弥列の葉 檜の瑞弥集の葉を 小切り
粉に 弥叩きに すかくり如叩き 薬らし
て 天津御子に奉る こハ 湯沸らし 禊ぎ
湯に わかととれ 禊ぎまさば 五十歳ゆ後
に 御身の姿 褪すること無く 眞湿の出る
こと無く 手足の弛むこと無く 目涸れず
口歯涸れず 御身涸れず 甚に御身の鍛しと
なる 故 そを 千花と共に 禊ぎ湯となし
たまエ と まをす
-------------
9,20
-------------
ここに 少名牟遅の命の御子 医道之臣の
命 またの御名ハ大久米の命 大穴牟遅の命
の御子 若経津主の命 またの御名ハ医人守
の命 二柱の神 共に 議りたまイて 現し
き青人草の病を 御祖の命の助けたまエるま
にまに そを継きて 病の薬の道を 八十道
開きて 現人毎に 病あらせず 永及きなさ
にとウて 思イ謀らせ それの病の態 変わ
る毎に 薬の用ちなさしめにとウて 告り訓
りの道別に 熱病 洟垂 くさみ 大熱 疫
熱 手熱 寒気 身萎 熱気 腫物 冷イ熱
物言わず た吐き 頻糞放り 尿放らず
気失せ 飲み腹 食イ腹 腹痛 腹膨り 弥
疲れ 咳 をみづ 涸ら水 胸くれ 涎繰り
そこすわ 目眩み 目廻り 気乱り くら
くくり 腹膨 怪の気 胸さが 糞溜り 尿
溜り 骨痛 腰痛 目痛 耳痛 口痛 咽喉
痛 背身痛 手痛 足痛 眠寝ず 長眠 昼
眠 糞血 尿放り血 疱瘡 輪疱瘡 まさ疱
瘡 腹疱瘡 膿疱 手疱 背疱 臓疱 胸疱
背身疱 男根疱 女陰疱 種々の病 神訓
りに知らせ 神術に心伝てたまイき 天津
御子 日受けの御子たち 卿たち 臣たちを
始めて 現しき青人草 諸々の病あらせず
薬守りなさしめ と まをしき
-------------
9,21
-------------
【ここに 八心思金の命 天之児屋の命
天之太玉の命 三柱の神たち 笠紗の御崎に
出ましし時に いと その貌の麗しき少女に
ぞ遇エりける これの上臈ハ 誰が娘ぞ と
言問わせるに 答エけらく 吾ハ 大山津
見の命の娘 名ハ木之花佐久夜毘売の命 ま
たの名ハ 神吾田津比売の命 と まをした
まイき また 問イけらく 上臈君に 姉妹
ありヤ 吾が姉に 石長比売の命といウ神あ
り とまをしたまイき 故 三柱の神 告り
ためけらく 天津日之御孫の命に 仕ゑまつ
らにヤ と まをしたまエば 吾ハ 得まを
さじ 父母の御議り有らに と まをしたま
イき 三柱の神 あウ と まをす 故 天
邇岐志国邇岐志天津日高日子火之邇々芸の命
に参まをしけらく 大山津見の命の御子娘
いと 麗しき上臈にあり 故 御孫の命の御
妃に 召上げまさにヤ と まをしたまイて
直ちに 三柱の神 大山津見の命の宮処に
立ち渡りまして 然々に 語らイ請わしま
しき これの時に 大山津見の命 甚く 喜
びて 畏し 諾べなわに と まをす】
-------------
9,22
-------------
ここに【御依さしの随に 太占の占業に
仕エまつりて 公卿たち 臣たち 伴之緒た
ち 女子迎い仕エまつりて 食配りの道別に
膳の座 濁酒 清酒の座 粉走持ちの座
菜焼き 菜炊きの座 和作り 小作りの 大
贄の斎庭以ち 斎まわりに 斎知り 厳知り
清まわりに 仕エまつらしき】ここに 大
山津見の命ハ いたく喜びまして その 木
之花佐久夜毘売の命を 湯津爪櫛に取りなし
八尺の勾玉 手捲き 八重雲の襲を纏わし
御袴に 火丹色の眞眩し 美し奇しの【衣
色御帯とし】蚕布の粗目布を 紫なし 御冠
ハ 黄金の木花 連なし 御面に 香草実取
り着け 御眉 八拳煤の 眞煤を 月形に画
きつけ 御髪毛に 小賀玉の実の鈍を摺らし
御衣ハ 千足る蚕布の截り断ち垂らし 太
袖の長衣の 斎イ足し垂れハ 八十重に着並
らして 窓閉じの 方四輿に 二羽の眞鶴を
立たして 女子迎を寿ぎ 足摺に 眞鉄の椀
を押し並め 白木棉巻き纒イてき また 汝
姉の娘 石長比売の命も 同じ状に装イ 御
仕ゑまつらすなれども これの姫子ハ 顔
姿 いと 醜けれと 奉る由ハ 天津日継ぎ
の御子の御命 永久に在さに と 御祝ぎを
呼ばイて奉る と まをしき ここに 天邇
岐志国邇岐志天津日高日子火之邇々芸の命
けさり月の その月円か日の 五か日に 黄
金の御冠に 御迎エに 松火の衽 黄の衽を
背羽とし 御袴ハ 八靡の綾倭文を厳敷き
御帯を八重垂らし 八重の眞菅の畳 斎まわ
り 清まりて 天津高座に 在座たまイき
ここに 天之児屋の命 天之思金の命 天之
太玉の命 各も各もに 天津日の御子の 御
祝ぎの神足らしに 白銀の冠 御裳 八重敷
き 火の衽 黄の衽の清衣を着さし 御袴千
草の画きの 截らし垂りの帯を 五垂に垂ら
し 並座にまします 故 大山津見の命 高
淤迦美の命 若雷の命 太の黄の冠 八出し
の衽掛の衽 御袴着さしに並座ましき 故
木之花佐久夜毘売の命 石長比売の命 瓊丹
の眞玉輿を もゆらに 交イ入れ 並座まし
き ここに 天之櫛耳の命 御食の八十伴の
男と女とに 告り言ちて 白飯の八百玉 米
を搗かさしめき 故 こを餅といウ 天之表
春の命 天之下春の命 酒手の伴の男と女と
に 八百の濁酒樽 清酒樽に仕ゑまつらしめ
おのもおのも 百足らし 千足らしと 神
祝さき 祝さきに 仕ゑまつらしめき ここ
に 積羽八重言代主の命 大峽 小峡の正木
を 八十束ね 束ねて 百八十人 宮内に
火燧り燧りに 高天之原に焚き散らして 殿
根の地の裾に 真昼如明篝の火群 顕けき
ここに 八十ましの衽なす 御物緒たち 手
に手に 小礫石を持ち 一 二 三
四 五 六 七 八 九 十 百 千 萬
こともちろ ほけ ほけ とウ とウ よ
ろび よろび と 天地を 響ましに 投げ
散らし 撒き散らしましき
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9,23
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天之櫛耳の命 並み添に 吾娥津姫の命
天之忍雲の命 並み添に 稲依日女の命 大
物主の命 並み添に 千依比売の命 天津御
子の御前津辺 妃御子の御前津辺 持ち斎ま
わり 清まわりに 取り揺らかして 眞膳に
酒坏 平瓮を 三重盛り重し 眞魚を 弥
盛り 山の味菜 野の味菜を 弥盛りゆらが
し据えき 故 矢之波々伎姫の命 溝咋比売
の命 若沙那売春姫の命 夏比売の命 秋毘
売の命 冬衣玉姫の命 また 足尼 天之神
立の命 天之表春の命 天之下春の命 大国
玉の命 阿遅志貴高日子根の命 積羽八重言
代主の命 加夜奈留美の命 御穂須々美の命
たち 足尼の姫神と共に 天の稲実置き 国
の豊種津置きを持ち また 菘持ち 蒸し和
を甘料秀瓦に 繁積みに盛り 前津物とし
鰭の狭物 弥盛りて 先津物にし 弥々の太
箸を横手繰り 天津御子の御妃姫の親神 吾
兄の神 三柱の弟神 御食しね と まをし
き 故 天之児屋の命 眞膳の酒坏平瓮を取
ります時に 天之宇受売の命 溝咋比売の命
木長杯 瓠杯に仕ゑて 天之児屋の命の持
たる平瓮に 濁酒と清酒とを 女男結びに
神結びなす 故 天津御子 御妃 八十度に
誠実めかしき時に 膳に饗エまつる 直ち
に 左の前津物 固粥秀瓦 右の前津物 甘
料秀瓦 右の先津物 七平瓮 左の先津物
斎秀瓦 眞中津物 葛菜平瓮 真木の太箸
横手に打ち置き 大御器を 小御器に取りな
し また 膳に 真中前津に 汁秀瓦 眞中
散ららぎ秀瓦 中津 前津 まから秀瓦
瓊鐸平瓮 右の先津に 金平瓮 右の前津に
入籠秀瓦 左の先津 茅渟魚秀瓦 左の前
津に 魚綴じの八重平瓮 またの膳に 香料
秀瓦 見透けの平瓮 弥濃イの火赫御器 甘
食平瓮と碗秀瓦 削ぎ秀瓦に 煮付物平瓮
奥津平瓦 種々に設げ供ゑて また 鰭の広
海魚 鰭の狭海魚 沖津藻菜 辺津藻菜 水
床採り菜 陸菜 多々求きて 眞膳に堆盛り
並めしまつりき これの供ゑ津物を 濁酒料
清酒料の菜食イなして 伴平瓦 小玉秀瓦
八十並みに奉りき 長杯吉葛に 清まわり
に 御酒なし注ぎ 瓠杯 吉葛杯召し 酒ハ
瓦坏注ぎなす また 吉葛の長杯に 眞白の
酒注ぎとし 吉葛坏に清み酒注ぎとなし 瓠
杯に赤き酒注ぎとなし 瓦坏に黒き酒注ぎと
なし 手取り杯に黄色の酒注ぎとなし また
天の稲実置き 国の豊種津置き 天の眞鰭
置き 国の眞鰭置き 天の卵種置き 国の卵
種置き 天の穂盛置き 国の穂盛置き 天の
眞魚厳身置き 国の眞魚厳身置き 鰭物置き
藻菜物置き 山野味菜置き これの豊御座
の机を 種々に 味菜の豊年祝かイと奉る
-------------
9,24
-------------
ここに 天津日之御孫の命 御歌イたまわ
く
【はれおしとべかひつきにややわかゑらく
ろうづときこそたせてこらさね】
大山津見の命 歌ゐけらく
【やろづそハのぞちせよみことイにゑにし
へさゐきわなぞやへてあイすましき】
高淤迦美命
【わをりかけさとみぬにうけあなころよし
にとしせながまくさがみいこみき】
若雷の命
【こぶたろヤやエやせほかウいれたれるヤ
にハこびやせたとふかたうろに】
天之児屋の命
【とウけさくいまがのかヤにわきやすにひ
あとウかかぐひらくしまこよ】
思金の命
【あな畏こ はひよヤとなめいもしみづい
たらしひせせぞたこでひをらに】
天之布刀玉の命
【神楽なす いうぬみつぢしなしきてぞた
てしこつかハあやろよながへに】
ここに 足尼たち 姫たち 八十伴之緒た
ち 共に歓らぎて 和楽なして 鼓拍ち 笛
吹き 鈴揺らし 琴奏でて 歌節に 手拍ら
しを 揃エて 並べて 歌イけらく
この御子ハ 高千穂宮に 神ながら 阿
比良屋宮に 神ながら 豊宝宮に 神ながら
阿蘇道宮に 神ながら 臼杵宮に 神な
がら 日継の此の子 御世継ぎに 木之花姫
を御妃と 千秋百秋 百千萬に いつべらく
えまほぎめらし 其が吉しに 萬こだだよや
ちさよ 各も各もよ 腰太のはしきほぐら
しなり 神朗ら 朗ら愛で 弥楽し こヤ楽
し 天晴れ御世
と歌イて 眞榊の上津枝に 厳の生勾玉を
掛け 瑞松の中津枝に 五百長の節玉を 貫
き掛け 桂の下枝に 揺り吊りの勾玉を掛け
また 榊の上津枝に 八咫鏡を掛け 中津
枝に 黄金鏡を掛け 下枝に 白銀鏡を掛け
小賀玉の上津枝に 白木棉を掛け 中津枝
に 火丹木棉を掛け 下枝に黄木棉を掛け
桂の上津枝に 火丹垂を掛け 中津枝に 白
垂を掛け 下枝に 赤垂を掛けて 御幣なし
て 笛吹き 鼓拍ち 眞鈴を揺らし 拆く鈴
を打ち 八色琴を奏すり 張竹を鳴らし 手
吹きを吹かし 手琴を彈かせて歓きき ここ
に 天之宇受売の命 玉依毘売の命 許登能
麻遅媛の命 溝咋比売の命 表春姫の命 高
照媛の命 下光姫の命 吾娥津姫の命 稲依
日女の命 国之春姫の命 国之夏姫の命 国
之秋毘売の命 国之冬姫の命たち 面に水玉
を塗らし 御眉に煤水を落とさし 薄火丹面
に 和幣 白衣の上に 眞黒ほのかに 女の
衽を取り掛け 紫色の袴の長料を引き込み
太袖の衣を 蚕布の白紐に手繦かして 右の
掌面に五十鈴を取らし 左の掌面に 檜の木
枝の堅枝を 玉串なして 菅麻を 八重料に
束ね垂らして 青和幣 白和幣に奉り持たし
て 厳らに歌わし 鳴らしのまにまに 足踏
み 轟ろこし 項上下四方に転ばし【豊よ豊
よに明かり立ち】 神懸り如業招き 歓き
き ここに 天津神ハ 天より降り国津神ハ
国より昇して 女子迎祝ぎに 昼ハ八か日
夜ハ七か夜 歓き遊び 豊道之原の国内国
内も 一並めに 祝き楽しに歓ぎなす
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9,25
-------------
【これの時に 大山津見の命 甚く喜びて
祝き吉しの宣詞言称ゑけらく 吾が娘 二
人並べて献る故由ハ 木之花佐久夜毘売を奉
りて 大御許に仕エ掲がば い雪にも け押
されなくに 木の花の栄ゆるが如 在さに
また 石長比売を奉りて 大御許に仕エ掲が
ば 大御命ハ 雨降り 風吹けども 常永に
岩の如に 堅磐に常磐に 道々長く 弥千
経まさに と 誓ひまつる と 称エまをし
き 故 三柱の神 誂エまをしけらく 木之
花佐久夜毘売の命ハ 眉目美き上臈になもあ
りき 故 御妃と召上げ また 石長比売の
命ハ 面勝たぬ上臈になもありき 故 向妻
と召上げましき】
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9,26
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【時に木之花佐久夜毘売の命 まをしたま
わく 吾 妊めるを 今 産むか月なり 天
津御子の御子 易く 産みまつるべにあらず
如何になして 産みまつらに と まをし
たまイき ここに 天津御子 嘲けまして
言挙げ告りたまイつらく 汝 上臈ハ 一夜
に姙めば 吾が御子ならじ 辿ろに 他し神
の子にこそあらめ と 告りたまエば 御妃
甚く羞ぢて 告り返し言 まをしたまわく
吾ハ 御子のために 誓ひまをさに もし
もに 国津神の子にぞあるなれば 産まに御
子 幸くあらまじ と まをして 直ちに
戸無き八重の敷室を作り その室内に入りま
して 埴以て 殿戸を塗り塞ぎで 御子産ま
す時になりて その虚室に火燧りてなも 内
込みませる 故 その火のすせり上がりし時
に 生れませる御子の御名ハ 火須勢理の命
とまをす またの御名ハ 天照国押日子背持
の命 次に 炎鎮まり 火熱を避ける時に
生れませる御子の御名ハ 火遠理の命 また
の御名ハ 天邇岐志国邇岐志天津日高日子火
火出見の命 二柱の火の御子の神 生れまし
き】次に 向妻の御腹に 生れませる御子の
御名ハ 宇麻志麻治部の命 またの御名ハ
宇摩志麻治見の命 とまをす 【ここに 木
之花佐久夜毘売の命 誓言験しありて 合言
なさせたまわずてぞ 在しけるからに 天津
御子 御歌イたまわく
[沖藻ハ 辺にハ 寄れども 狭寝床も
あたわぬかもよ 浜津鳥よさ]】
と歌イたまウに 御妃の命 甚く 羞じま
して 御面 火に照らさして 御答エて 歌
イたまウ その御歌
【沖津藻ハ 辺にハ 寄れとも そね津鳥
憩わか居りヤ 浜寄木遇い】
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9,27
-------------
ここに 大国主の命 天津日継之御子 天
の下を知らに 八千萬と極み無く 眞幸く在
さに 故 吾が知れりし顕わに事ハ 天津日
継之御子の命の知ろしめさに 天の祭り 国
の祭りを知ろしめせば 吾ハ 天津大神たち
の 依さしのまにまに 隠り事を守り知りて
天津御子の知らさに祭り辺を守りて 天津
日継の弥遠永に 天地の共 常しに 御栄厳
しに 現しき青人草の 厳まわり 清まわり
に 知らしめ その人その人の幸魂を 奥津
城に栄エしめ 奇魂を 高天之原なる萬の国
の隈々に 御照り輝さしまします 天照らし
ます日の大御神 撞賢木厳之大御魂天疎日像
日女の命の 大御前津辺に 星の神と称エて
斎き祭らせ奉りて 祝きまつらに また
禍津心魂ハ 断ち蹴に 蹴押し捨てに と
まをしき
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9,28
-------------
神漏伎の命 神漏美の命 二柱の大神 天
之穂日の命に 御言宣らしたまイつらく 天
降りて 出雲の杵築に 大宮を飾り造り建て
て 大穴牟遅の神を 斎き奉れ と 言依さ
したまイき 故 天之穂日の命 諸々の神を
集エて 出雲に天降りまして 宮処を求きて
大峡 小峡の眞千木 眞木を取らしめて
柱ハ 太く 高く 板ハ 広く 厚く 殿根
の岩ハ 重く 太く 堅く 宮木の締目締目
に 孔穿け 臍差し 釘差し 揚げさしめ
萱を 萱一巻きに 束ね結イに 緊め凝らし
千尋の太栲縄を 弥重に結び 虚留めに
茨の小草を巻き固め 高天辺に 千木高知ら
せ 戸の木 二丈差し 戸の板 一丈広の眞
板 横し釘り 赤槇を足摺り枠成し 眞千木
を 門作りして 横し釘り 上がり端成し
太戸 太扉作り 各も各もに 黄金の足房
白銀の足房 並打ちして 野陸の国の 伊奈
山の眞中に出る湯津玉を 天之香語山の命の
厳し奉る新玉を 太柱の尽々に結イ纏イ 樫
板の並み下に 木棉の垂りに反らし 足摺り
枠の外の所に 木棉襖を引き開かし 御座の
脇辺に 清ま楯 斎ま楯を置き 花瓶に 菊
花 二十日花を 愛づらに 挿し置き 萬年
青 八千草の清花を 幾らに立て 榊 小賀
玉 桂を 御垣辺に植エ並らし また 神遊
びの道具物に 五十鈴 拆く鈴 貴玉 斎琴
八重琴 大鼓 小鼓 手之琴 色琴 大音
鼓 小音鼓 大笛 小笛 立つ笛 浜笛 竹
法螺 大鳴囂 小鳴囂 清宣り莵 斎宣り莵
鳰 種々設げ供ゑて 日向の北の鏡の岳
に 天之懸の命 国之懸の命 八十伴之緒を
率て 大穴牟遅の命を迎エまつりき
-------------
9,29
-------------
ここに 天津日之御子の御言以ちて 迦具
土の命の御子 火之燿昇の命の御子 天津屋
作の命 また 屋船の命の御子 天津御合の
命 八苫の太御輿を 黄金結ゐに 結ゐ差し
固め 大神子 小神子を八十遣し 和楽女子
八十遣し 和楽男子 八十遣し 輿火手
輿舁き 合火手 合舁き 八百の伴垣 打ち
満ち 重き装ウ 故 ここに 大穴牟遅の命
出雲の国に隠りまさにと 為したまウ時に
天津屋作の命 天津御合の命 黄金結イの
八苫の太御輿を差し立て 御神子たち 和
楽の女男たち その鏡岳に参イ越しき ここ
に 大穴牟遅の大神 御輿召しに 二柱の神
共に 道饗料と 垂り幡幾らに 千幡幾らに
木棉執らし いくらに ほだゐ 幾らに
豊種津実 ゆららに 海魚 川魚 撓ウ撓ウ
に 野菜 山菜 多わに 楮布招幣 三垂に
各も各もハ 和幣を施ざす 故 大神子
小神子 和楽男 和楽女たち 道饗料と ほ
たぎて 大鼓 小鼓 諸笛 諸鈴に亙らし
千座小道往き饗料と称エき 故 豊国を出ま
して 穴門にい往き 豊浦の国を ふくみ月
の月の月立ての七か日より 月籠りの四か日
まで 在座ましき ここに 穴門の翁共 立
ちて 珍らが物を 御饗エ奉らにと 麦を粉
なして 海水に手捏ねて 広板に軋らして
八鉈に切り裂き 未醤を水なし 打ち茹てに
沸ら起して 御贄奉る 故 こを きしほ
ぎ と いウ ここに 大穴牟遅の命 はや
れ月の月円日の二か日に ややまさに 出雲
の宮に 神帰りまして これの宮ハ 諸神た
ちの 心魂に勤労き【八百丹吉く 築きつる
かも】と 告りたまイき 故 此所を杵築と
いウ また かむなめ月の 月立ての八か日
に 御親らに 瑞の八尺の眞眩の太玉を 抱
かしまして 永久に 隠り事を知らさして
吉の道引きに神なり また 現しき青人草の
病を 薬するの道を定め 禍津頭の為さに禍
事を 払イ平らげにと 国照大神の依さした
まゑりし 呪じ訓り 神訓りの宣り言を定め
たまイて 天地の共 堅磐 常磐に 神事知
らしたまイき これの時に 八百萬の神たち
神集ゐに 集ゐまして 御厨を建て並め
濁酒と清酒とを醸みて 大海魚 小海魚 野
の太菜 野の狭菜 奥津藻菜 辺津藻菜 未
醤 醤油の菜炊き 菜焼きに 神の神料に
節和楽 歌和楽 鳴り和楽 吹き和楽なして
百五十か日に 歓ぎ 遊び 戯れましき
上津文 九綴り 完エ
-------------
10,1
-------------
上津文 十の綴り
ここに 綿津見の宮主 底津綿津見の命
中津綿津見の命 上津綿津見の命 海津諸海
魚を 多々なして 杵築の宮所に 御幣如
大穴牟遅の命に 用充てましき これの時に
綿津見の神 祝き言告らしけらく 美し命
知らせの顕わに以て 天津日之御子に依ざ
せて 隠り就かせ 参を出る 諾 然あり
故 斎ゐ祝ぎまつる 故 天津御孫の命の
弥 継々に 眞栄守りと称エ 朝 夕べの天
の祭り 国の祭り 幸あふ御守りなし 諸神
たちの裔の継々 現しき青人草の継々を守り
なし 慈しみを 千萬に息吹き放たし 全る
人草の幸わゐを知らし 隠り事を設えて 星
神立たし 高天之原に 返り言の迎斎き称エ
の 受持ち分けませば 吾も 御跡辺に 斎
きまつらに 故 吾が産みの子の継々 永久
に 大神に 斎きまつりて 神事の大道に仕
ゑまつらに 故 綿津隠りの神言の頭 清み
神の 宇賀椎形代頭を 年の毎に かなめ
の月の月円日に 大神の御手代に奉り 斎か
せにとまをす 故 宇賀椎の宮入なす時に
御神子に 清まりの御幣を負ばせて 待ち迎
かせまさば 吾ハ 海原を翔りて 大宮内に
侍ゐて 千々萬道を知るべて 天津御子の弥
御子の 御日の御裔に 事示めまつらに ま
た これの宮を斎きまつる日の御裔の 天之
穂日の命の 産の子の継々を守り 日子御子
の聟かに家と称エに と まをしたまイき
-------------
10,2
-------------
ここにまた 志那都比古の命 志那都比売の
命 火之燿毘古の命 火之玄比売の命 弥都
波能男の命 弥都波能売の命 波邇夜須毘古
の命 波邇夜須毘売の命 杵築の宮に天降り
まして 大穴牟遅の命に告りたまイつらく
汝 此く美し心なめば 吾ハ 汝を守りて
天翔り 国駆りて 千萬の国を祝がむ また
豊道之原の中津国を 幸わゐなさに 現し
事 吾が心に 霊侘らば 吾が高天之原ゆ
荒び知らさしめに 狭事 禍事ハ逐わに 故
彼を知るべなせと告りたまイき
-------------
10,3
-------------
ここにまた 神直岐の命 神直美の命 金
山比古の命 金山比売の命 速秋津比古の命
速秋津比売の命 底筒之男の命 底巣比売
の命 中筒之男の命 赤巣比売の命 上筒之
男の命 石巣比売の命 大山津見の命 大山
比売の命 大年産巣日の命 大宮比売の命た
ち 天降りまして 大穴牟遅の命に告りたま
イつらく
いと麗し 汝神 此く懇ろに在さば 吾ハ
高天之原の東 西 南 北のさふたらの中ら
毎に 在座なして 汝の田 悠紀足らに 故
現しき青人草の神事執らしに 朝 夕べの
節々毎に 心伝てなし 隠りの神言 現しの
隠り言【高天之原の御綱 豊道之原の御綱】
【ととウこりのちウこり】賀言 悪言を 萬
撒きの神撒きに 千道訓ろなさに と 告り
たまイき
-------------
10,4
-------------
ここに 天津神 国津神たちハ かなめ月
の月立てに 疾風を放ち 地震響しめて 天
の班駒に跨げ また天の特牛に足組み こ馳
け 八重雲の八重帆に翔り 各も各もに天降
りて 杵築の宮所に 参イ越しましき ここ
に 天之穂日の命 天之夷鳥の命 高山の末
低山の末に登らして 諸神たちを 眼迎エ
まつる時に 眞木の室を建て 眞木の皮を雨
避となし 照る日に掲げまししかば 諸々の
神たた 佐世の木末の木末を その室に差し
立てたまイき 故 木末の室と言て 今に至
るまて 出雲の神祭りに これの式あるハ
これの本なり ここに 天津日子根の命 天
之目一箇の命 天照国照日子明玉の命 角凝
魂の命 天之手力男の命 天之櫛耳の命 天
之神立の命 天之言解男の命 国之言解女の
命 久那斗之男の命 久那斗之女の命 剣根
の命 天之櫛明玉の命 天之御桙の命 手置
帆負の命 彦狭知の命 八尋鉾長依日子の命
薦枕志都沼値の命 天之活玉の命 天之御
守の命 武乳速日の命 興台産巣日の命 天
之表春の命 天之下春の命 天之忍雲根の命
櫛八玉の命 大日子の命 都留伎比古の命
国押別の命 磐坂日子の命 衝杵透日子の
命 高津日の命 阿須波の命 波比伎の命
香山戸の命 大山咋の命 御年の命 奥津日
子の命 奥津日女の命 大炊叺の命 天之奇
樋速日の命 速玉之男の命 八衢比古の命
八衢比売の命 道之長道の命 天津道之長乳
歯の命 煩累之大人の命 飽咋之大人の命
天之奥疎の命 天之辺疎の命 奥津那芸佐毘
古の命 奥津甲斐弁羅の命 辺津甲斐弁羅の
命 速秋津日子の命 速秋津比売の命 速佐
須良彦の命 速佐須良比売の命 空沫那芸の
命 空沫那美の命 海立頬那芸の命 海立頬
那美の命 天之水分の命 国之水分の命 天
之久比奢母智の命 国之久比奢母智の命 足
名椎の命 手名椎の命 かゐど泣沢之男の命
かゐど泣沢之女の命 伊都之尾羽張の命
稜威之雄走の命 湯津石拆の命 湯津根拆の
命 湯津石筒之男の命 湯津石筒之女の命
天津甕速日の命 国津甕知日の命 千生和久
産巣日の命 千生和久産巣日多々良比売の命
天津大雷の命 国津大雷の命 賀茂大雷の
命 別大雷の命 高淤迦美の命 遠迦津久々
能智の命 遠迦津久々能手の命 神原之鹿屋
野比古の命 神原之鹿屋野比売の命 天之狭
土の命 国之狭土の命 天之狭霧の命 国之
狭霧の命 天之闇戸の命 国之闇戸の命 大
戸摩比古の命 大戸摩比売の命 高水上の命
棚機彦の命 棚機姫の命たち 八百萬の神
たち 共に天降りまさして 大穴牟遅の命の
【君忠誠に 祖確に】神言に仕エまつれる事
の功しを 愛じけく 知ろして 神集エに
集エまして 杵築の宮に 栂の木の 弥 継
ぎ継ぎに 高色まして 功選イを 神知らし
に 神議り 愛くしみの道別にまします 神
論げの 論げつなしたまエる 太御稜威の玉
敷きたまエる 神訓りの告り言なしたまイき
-------------
10,5
-------------
ここに 火之邇々芸の命 天之児屋の命
天之太玉の命 八心思金の命に告りたまイつ
らく これの豊道之原の 千秋の瑞穂の国の
青人草の言問ゐハ 大御祖の大神 これの
豊道之原に 振り撒かしたまイましつれど
未たに 噪ぎてありけり 故 高天之原の神
の言問イを 天の下に触らして 麗し言に成
さまく欲り と 告りたまイき
-------------
10,6
-------------
故 ここに 三柱の神 議りたまイて 天之
亊解男の命 天之事解女の命の御子 顕言霊
の命の御子 顕言配於伎の命 顕言配於美の
命 言霊彦の命 言霊姫の命 萬言解彦の命
萬言解姫の命 許登麻遅等乎留男の命 許
登麻遅等乎留女の命 八柱の神に告り言ちて
国の国々 島の島々を翔りて 青人草に
高天之原の亊の語り言を 訓り伝てて 美し
言に告り直しなせと 告りたまイき 故 こ
こに 秋津根別 草木根別 淡海根別 大宜
都姫 建依彦 飯依愛媛 現言配於伎の命
現言配於美の命 これの二柱の神ハ これの
国々に 言訓りましたまイ 故 於伎於美の
触らし言を以て 二並びの言配りとまをす
伊勢津日女 狭依科 遠津海別 无邪津海別
野陸彦 常陸姫 陸奥 萬言解彦の命 萬
言解姫の命 これの二柱の神ハ これの国々
に 言訓り 然々に 越根別 丹波別 吉備
津根別 天之忍許呂 両児別 穴門別 出雲
別 豊日別 奇日別 言霊彦の命 言霊姫の
命 これの二柱の神ハ これの国々に 言訓
り 然々に 白日別 速日別 建日別 天比
登都柱 狭手依 天之忍許呂 許登麻遅等乎
留の命 許登麻遅等乎留比売の命 これの二
柱の神ハ これの国々に 言訓り 然々
-------------
10,7
-------------
ここに 八心天之思金の命 告りたまわく
高天之原の言問イ いと 滑しに 清ら言
にあり 故 吾が天の御言を 人草毎に お
のづから 湧き出る 心伝ての神たちの 天
の教エ訓り伝てにあり こによりて それの
言霊の緒を画きてに と まをして 直に
口を絵に画きまして 五言の声を別ち 口づ
から 自から 鳴り出るものハ ア なり
唇引くハ イ なり 押すハ ウ なり 開
ぐハ ヱ なり 円ハ ヲ なり 故 (口
を表わす絵文字「序文」参照) こハ 口な
り こに 物添エて 五言なす (上紀古体
文字アイウヱヲ「序文」図版参照) こを画
きて 五言と定めたまイき
-------------
10,8
-------------
これの時に 国照大御神の御子 大屋毘古
の命 これの五言の言霊の緒を別ちて 神言
の緒を十連なして 五十連ねを御作りまして
それの形を画き 千萬言の言別と定めたま
イき 故 この大神を 五十猛の命とまをす
またハ 五十言猛の命 また 五十音猛の
命 また 五十連の命ともまをす
(以下絵文字)
こハ 象成すハ 象成し 象無きハ 仮成
して 描きたまイき
-------------
10,9
-------------
ここに 大国白鐸の命ハ これの五十連を
以て 種々の語り言を書き綴らして 天津御
子に称えまつる 故 これの大国白鐸の命ハ
此く言代をなして 天津御子に立て奉るか
らに 積羽八重言代主の命といウ名を賜イき
-------------
10,10
-------------
これの御子ハ 大国主の命の御子なり 故
【大神 神屋楯比売の命に御娶イて 生れま
せる時に 白鐸 屋の棟に 天より落ちたり
き 故 白鐸の命とまをす また 事の語り
言の言代を 画き綴らせたまウからに 祝ぎ
たまイて 御名を 此くハ 賜ウとまをす
この神 八島牟遅の命の御娘 鳥耳姫の命に
御娶イまして 産みませる御子の御名ハ
鳥鳴海の命 この神 日名照額田毘道男伊許
知邇の命に御婚イまして産みませる御子の御
名ハ 国忍富の命 この神 葦那陀迦の命
またの御名ハ 八河兄姫の命に御婚イまして
産みませる御子の御名ハ 速甕之多気佐波
夜遅奴美の命 またの御名ハ 甕多良斯我気
の命 これの神 天之甕主の命の御娘 前玉
櫛比売の命に 御婚イまして 生みませる御
子の御名ハ 甕主日子の命 またの御名ハ
天之言代二見手の命 これの神 淤迦美形生
の命の御娘 比那良志毘売の命に御婚イまし
て 生みませる御子の御名ハ 多比理岐志麻
流美頬の命 これの神 比比羅木乃其花麻豆
美の命の御娘 活玉前玉比売の命に御婚イま
して 生みませる御子の御名ハ 海路原美呂
浪那の命 これの神 敷山主の命の御娘 青
沼馬押比売の命に御婚イまして 生みませる
御子の御名ハ 忍御鳥鳴海の命 これの神
若布都主の命の御娘 若昼中姫の命に御婚イ
まして 生みませる御子の御名ハ 天日腹大
科度美の命 これの神 天之狭霧毘道男の命
の御娘 遠待姫の命に御婚イまして 生みま
せる御子の御名ハ 遠津山岬多良斯の命】
-------------
10,11
-------------
これの神 天之日鷲高圓の命の御娘 中足
新室姫の命に御婚イまして 生みませる御子
の御名ハ 国津兄田太の命 またの御名ハ
二見文字理主の命 その弟 国津弟田太の命
またの御名ハ 子多二見麻呂の命 これの
二柱の神を二見の神とまをす 今 渡会に斎
く神 これなり ここに 積羽八重言代主の
命 五十猛の命の編みたまエる 五十連音の
画書き以ちて 書ける言代を 天津御子の命
に 祝き捧げまつりき 故 ここに 天津御
子の命 御畏みて 告りたまイつらく これ
の神訓りの言代ハ いと清らに 捩りつるか
も と 告りたまイき 故 これの画書きを
文字といウ また【過きにし言の葉を 再
度 ここに 見つるかも】と 告りたまイき
故 こを 再見といウ 天津御子の命の
大御言の遺るを以て 今 文字といイ 文と
いウハ 省き言なり ここに 八百萬の神た
ち そを目見したまイて 御手を 弥に拍た
して したり 美し と 褒めたまイき 故
文の降りを 垂りといウ【これの 再見の
文字を 弥搗きの楢皮に 綴りありしを 道
之長乳歯の命 沙羅木を噛み 狭綿なし 狭
糸に紡がせて 弥々に 繋かして 家の御田
に提げ置きましましき 故 こを田に提くと
なも言なる】今 高千穂の岩屋に斎きまつる
日の御像の前津辺の御短冊り これなり
-------------
10,12
-------------
ここに 八心思金の命 天之児屋の命 天
之太玉の命 三柱の神たち 高天之原を 御
議りまさにと 天昇しましき ここに 神漏
伎の命 神漏美の命 告りたまイつらく 天
照大御神の知り分けまします八百千萬の国の
国々 島の島々ぬ 照り輝かしたまイて 夜
見照大御神も 此れ並めに 御照り透らしま
す 大御言ハ 口連ハ直々に 奇しみの太く
かも高くかも ころにさゑえられえぬ 千萬
国の本津国と 天の八十玉串に 楮木棉の垂
らしを着け 神祝さきに 祝さきて 然に然
にと告りたまイき
-------------
10,13
-------------
ここに 思金の命 児屋の命 太玉の命
天降りまして また 然てに験かに 国の国
々 島の島々に 神訓りまさにとウて 御歳
の月と日と星と時とを定め また 雨の誘イ
雲の誘イ 暑さ 寒さの誘イ 尽々に取り
別けまして 歳並みを 四に分かつ 故 め
はる さなつ みあき ねふゆ と定め ま
た 三十か日に定め 十二の月と定めたまイ
き また 閏日を 年に四か日を置き 三年
経て 五か日を置く【むゆつひ月 けさりく
月 いやよろし月 うべかし月 さかしなゑ
月 みつなつ月 ほふくみ月 はやれみ月
たなよなみ月 かむなめ月 としふる月 と
しはつる月】これの月の左の側 三十か日の
月籠れる 下の十か日に 日々置きて 一年
に 三 四か日を 年の替ゑ置く 月の残り
て 始めて 西に現れますの日を 月立ての
日と定めまして こを 月立ての十か日と定
め また 月円かなる日を 月円の十か日と
定め また 月の籠れる日を 月籠りの十か
日と定め また 昼 夜の時と 時とを定め
たまイき
-------------
10,14
-------------
故 昼中に三時 朝 昼て 夕べ 夜中に
三時 夜べ 眞夜 暁 これの時内に また
三時を置かしたまイき 故 朝時に 朝開き
時 朝な時 朝後時 昼て時に 日前時 眞
昼時 日後時 夕べ時に 夕向け時 夕な時
夕暮れ時 宵時に 黄昏時 宵べ時 小宵
時 眞夜時に 夜さ時 眞夜時 夜後時 暁
時に 寝る時 眼覚め時 東雲時 と 定め
また 天照皇大御神 高天之原の東の 五
と六との御殿に 御立たしたまゑるに 御孫
の命の天降りなしたまイます時を以て 月の
始め 日の始めに定めて 天の理 地の理の
本津に立て 千萬道の訓りを 親からなる理
と あな畏こ 故 月の理の神津称の訓り
-------------
10,15
-------------
むゆつひの月ハ 日の大神 左の側に 五
の御殿を御立たし 右の側に 六の御殿を御
立たし 夜見の大神ハ これの むゆつの月
に 十の御殿に御立たし 右の側の九の御殿
に御立たす 故【昼ハ九時 夜ハ十時】左の
側 十五か日 右の側 十五か日 けさりな
の月 日の大神 七御殿に御立たし 右の側
の八の御殿に御立たす 夜見の大神 左の側
の八の殿に御立たし 右の側の七の御殿に御
立たす 故 昼ハ九時 夜ハ九時 左の側
十五か日 右の側 十五か日 いやよろしの
月ハ 日の大神 左の側 九の殿に御立たし
右の側 十つの殿に御立たす 夜見の大神
左の側 六の殿に御立たし 右の側 五の
殿に御立たす 昼ハ十時 夜ハ八時 左の側
十五か日 右の側 十五か日 うべかしの
月ハ 日の大神 左の側 十一の殿に御立た
し 右の側 十二の殿に御立たす 夜見の大
神 左の側 四の殿に御立たし 右の側 三
の殿に御立たす 昼ハ十一時 夜ハ七時 左
の側 十五か日 右の側 十五か日 さかし
なゑの月ハ 日の大神 左の側 十三の殿に
御立たし 右の側 十二の殿に御立たす 夜
見の大神 左の側 一の殿に御立たし 右の
側 二の殿に御立たす 昼ハ十二時 夜ハ六
時 左の側 十六か日 右の側 十五か日
みつなつの月ハ 日の大神 左の側 十一の
殿に御立たし 右の側 十つの殿に御立たす
これの月後に閏日をなす 夜見照大神 左
の側 二の殿に御立たし 右の側 三の殿に
御立たす 昼ハ十一時 夜ハ七時 左の側
十五か日 右の側 十五か日 ほふくみの月
日の大神 左の側 九の殿に御立たし 八
の殿に御立たす 夜見照大神 左の側 四の
殿に御立たし 右の側 五の殿に御立たす
昼ハ十時 夜ハ八時 左の側 十六か日 右
の側 十五か日 はやれみの月 日の大神
七の殿に御立たし 右の側 六の殿に御立た
す 夜見照大神 左の側 六の殿に御立たし
右の側 七の殿に御立たす 昼ハ九時 夜
ハ九時 左の側 十五か日 右の側 十五か
日 たなよなみの月 日の大神 左の側 五
の殿に御立たし 右の側 四の殿に御立たす
夜見照大神 左の側 八の殿に御立たし
右の側 九の殿に御立たす 昼ハ七時 夜ハ
十一時 左の側 十六か日 右の側 十五か
日 かむなめの月 日の大御神 左の側 三
の殿に御立たし 右の側 二の殿に御立たす
夜見照大神 左の側 十つの殿に御立たし
右の側 十一の殿に御立たす 昼ハ七時
夜ハ十一時 左の側 十五か日 右の側 十
五か日 としふるの月 日の大御神 左の側
一の殿に御立たし 右の側 二の殿に御立
たす 夜見照大神 左の側 十二の殿に御立
たし 右の側 十三の殿に御立たす 昼ハ六
時 夜ハ十二時 左の側 十六か日 右の側
十五か日 としはつるの月 日の大神 左
の側 三の殿に御立たし 右の側 四の殿に
御立たす 夜見照大神 左の側 十二の殿に
御立たし 右の側 十一の殿に御立たす こ
れの月後に閏日をなす 昼ハ七時 夜ハ十一
時 左の側 十五か日 右の側 十五か日
-------------
10,16
-------------
また 潮の訓りハ 大綿津見の命の持ち分
けませる 海の処の訓りませるからに 夜見
照大神の共なす 故 月の立てる日ハ 月日
の初め日なり 日々に一時 遅れ立たし こ
ゆ 月日の月立て日ハ 三日ハ朝開きに御出
る 夕べに御入る 五日ハ 朝後に御出る
小宵に御入る 七日ハ 日前に御出る 夜さ
に御入る 九日ハ 真昼に御出る 夜後に御
入る 月円の日ハ 一日ハ 日後に御出る
寐るに御入る 三日ハ 日向けに御出る 東
雲に御入る 五日ハ 夕方に 御出る 朝開
きに御入る 六日ハ 黄昏に御出る 東雲に
御入る 八日ハ 夕べに御出る 朝なに御入
る 十日ハ 小夜に御出る 昼前に御入る
月籠りの日ハ 二日ハ 夜さに御出る 昼前
に御入る 四日ハ 夜後に御出る 真昼に御
入る 六日ハ 寐るに御出る 昼後に御入る
八日ハ 東雲に御出る 夕向けに御入る
十日ハ 朝開きに御出る 夕べに御入る
-------------
10,17
-------------
また 御年の月の毎に 御巡り 知り分け
まします星の祖の神たちを 天津訓りの 神
訓り以ち知るに【此く 道に 栄さに設げ足
り 然り然らしに 眞頻くして】議りなす
故 一続きの 眞の上に知らる 故 その神
の御名ハ 大事忍乎伎の命 大事忍袁美の命
これの二柱の命は むつ魂星の神と称エて
天に翔りて 現しき青人草に幸わウ星の神
なり 石土毘古の命 石土毘売の命 これの
二柱の命も けく魂星の神と称エて 然々
大戸日別の命 大戸日姫の命 これの二柱の
命も いや魂星の神と称エて 然々 天之吹
男の命 天之吹女の命 これの二柱の命も
うた魂星の神と称エて 然々 大屋毘古の命
大屋毘売の命 これの二柱の命も さな魂
星の神と称エて 然々 風木津別之忍男の命
風木津別之忍女の命 これの二柱の命も
みな魂星の神と称エて 然々 磐津稚男の命
磐津稚女の命 これの二柱の命も ふく魂
星の神と称エて 然々 天津豊田の命 天津
豊田姫の命 これの二柱の命も はや魂星の
神と称エて 然々 大加士彦の命 大加士姫
の命 これの二柱の命も なか魂星の神と称
エて 然々【大加士彦の命 大加士姫の命】
これの二柱の命も かむ魂星の神と称エて
然々 故 これの二十柱の命ハ 天の星の大
神と 月の毎 日の毎に 此く道に 栄さに
然り然らしに 眞頻くして 事執りしなす
に 月ハ 皇孫の命の 天降る始め年のむつ
びハ むつ魂星の神ハ 日の大御神の御出る
に 同じ座なして御出るからに これの月守
りの神とまをす 故 月の毎の始めを守る神
とまをす けさりハ けく魂星の神ハ 日の
大御神の御出るに 同じ座なして 御出るか
らに これの月守りの神とまをす 故 月の
毎の始め日を守る神なり いやよハ いや魂
星の神ハ 日の大御神の御出るに 同じ座な
して 御出るからに これの月守りの神とま
をす 故 月の毎の始め日を守る神なり う
かれハ うか魂星の神ハ 日の大御神の御出
るに 同じ座なして 御出るからに これの
月守りの神とまをす 故 月の毎の始め日を
守る神なり さなエハ さな魂星の神ハ 日
の大御神の御出るに 同じ座なして 御出る
からに これの月守りの神とまをす 故 月
の毎の始め日を守る神なり みなつハ みな
魂星の神ハ 日の大御神の御出るに 同じ座
なして 御出るからに これの月守りの神と
まをす 故 月の毎の始め日を守る神なり
ふくみハ ふく魂星の神ハ 日の大御神の御
出るに 同じ座なして 御出るからに これ
の月守りの神とまをす 故 月の毎の始め日
を守る神なり はやれハ はや魂星の神ハ
日の大御神の御出るに 同じ座なして 御出
るからに これの月守りの神とまをす 故
月の毎の始め日を守る神なり よながハ な
か魂星の神ハ 日の大御神の御出るに 同じ
座なして 御出るからに これの月守りの神
とまをす 故 月の毎の始め日を守る神なり
かむなめハ かむ魂星の神ハ 日の大御神
の御出るに 同じ座なして 御出るからに
これの月守りの神とまをす 故 月の毎の始
め日を守る神なり
-------------
10,18
-------------
故 ここに 改め告りて 天渡国渡襲百座
志那都産巣日の命 妹 志那都比売の命 こ
れの二柱の神ハ 高天之原の西に 常世に保
イまして 神離けに在す たせ星御祖の神と
まをす これの星の神 御子の星の神の御名
ハ 息風星の神 息風女星の神 息海霧男
星の神 息気霧星の神 息赤斎星の神 息赤
忌星の神 息露星の神 息女霜星の神 息雪
星の神 息吹雪星の神 大息雨星の神 大息
守星の神 これの星の神たちハ むつびの始
めに 日の大御神の御出るに並びて いやよ
ろしの末に 日の神に 五こり 八時 先
立てて御入る 故 こを以て 春としもいウ
天津座高津座置清美魂瑞之火産巣日の命
妹 火之夜芸速女の命 これの二柱の神 高
天之原の北に 常世に在座なして とむ星御
祖の神とまをす これの星の神の御子の星の
神の御名ハ むつ火星の神 きさ火星の神
いや火星の神 うた火星の神 さ火星の神
み火星の神 ふく火星の神 はや火星の神
なか火星の神 か火星の神 し火星の神 し
つ火星 の神これの星の神たちハ 北の始め
に 日の大御神の御出るに並びて みなつの
末に 日の神に 五こり 八時 先立てて御
入る 故 こを以て 夏としもいウ 天津降
萬正哉威美活太刀埴産巣日の命 妹 波邇夜
須毘売の命 これの二柱の神 高天之原の東
に 常世に保イまして 神離けに在す よち
星御祖の神とまをす これの星の神の御子の
星の神の御名ハ す土星の神 やみ土星の神
なこ土星の神 とみ土星の神 つゐ土星の
神 なか土星の神 あれ土星の神 つまき土
星の神 みつぼ土星の神 たたら土星の神
とろ土星の神 かき土星の神 たたを土星の
神 とい土星の神 これの星の神たちハ ふ
くみの始めに 日の大御神の御出るに並びて
なよなの末に 日の神に 五こり 六時
先立てて御入る 故 こを以て 秋としもい
ウ 天清留豊道辺神御魂彌都波産巣日の命
妹 彌都波能売の命 これの二柱の神 高天
之原の南に 常世に保イまして 神離けに在
す いみ星御祖の神とまをす これの星の神
の御子の星の神の御名ハ ぬ水星の神 あれ
ほ水星の神 いとみ水星の神 うるき水星の
神 とみ水星の神 彦水星の神 八百水星の
神 うみ水星の神 とぢ水星の神 うほや星
の神 これの星の神たちハ かなめの始めに
日の大御神の御出るに並びて しはつの末
に 日の神に 五こり 六時 先立てて御入
る 故 こを以て 冬としもいウ 故 高天
之原の一年ハ 豊道之原の百年なす 故 現
人の己が齢も こを一と廻るなり これの神
訓り道を以て修せ
-------------
10,19
-------------
この星の神の巡り如 計り また 三十一
星の巡り 五年ゆ 五巡り遅し 十年をみた
す また 七十二星の巡りハ 五年ゆ 二年
早く 三年に巡り また 十六の巡りハ 五
年に八巡りなす また とむ星御祖の神の親
族の星の神ハ 高天之原の北の在座の 御殿
の所の巡りの外辺を 巡れる星の神たち 大
星の神 三十九 小星の神 四十九 外の所
の星の神 千三百の大星の神ハ 日に異に
日の神の御前辺に立ち 小星の五百千の神ハ
三時 後辺になす 片隅の五百の星の神
並べなす間 大星 小星の暖気の星の神 五
百十八星の神ハ 息星の神に並べなす 故
央らなす また 暑気の星の神ハ 三百三十
三の星の神ハ 火星の神に並べなす 故 暑
さなす また 涼気の星の神 五百十八星の
神ハ 土星の神に並べなす 故 央らなす
また 寒気の星の神 星の神に 三百三十三
の星の神ハ 水星の神に並べなす 故 寒さ
なす 故 息星 火星 土星 水星の巡りハ
目之界以て 修せ 許籠もりに 調め取り
て修す間 大 小に計りなせ 故 息星の諸
星 六の殿に移らば 暖かなす 火星の諸星
六の殿に移らば 暑□なす 土星の 六殿
に移らば 小寒なす 水星の 六殿に移らば
寒さなす 故 星の神 一年の巡り以て
神岳に計り 神訓りの水縄に はか計り 目
当てを頓に立たして 高むの神岳に修して
今日ハ冷えし 明日ハ雨 何時ハ地震 何時
ハ 雷 何時ハ水 何時ハ火 何時ハ日蝕く
何時ハ月蝕く 何時ハ苗取り 何時ハ収め
の種々 萬の高天之原 豊道之原 訓り訓り
の道修せ
-------------
10,20
-------------
ここに 大屋毘古の命の編みたまエる 形
仮名の文字以て 大穴牟遅の命の御子 建恵
美子の命ハ これの高天之原 豊道之原の御
書か料の訓り伝てを 詳らに 書き明かし
また 天之活玉の命の 天津御子に仕エまつ
る 在座を 定めましし事を 詳らに 書き
明かして 種々の事を 言代なして 再見手
なして 天津御子に奉る ここに 天津御子
打ち見 甚く 御喜びたまイて 直ちに褒
めたまイて 大屋毘古の命に 五十建曽の命
といウ御名を賜ゐ 天之活玉の命に 御倉板
挙之神の命といウ御名を賜ゐ 建恵美子の命
に 積羽八重言代主の命といウ御名を賜イき
-------------
10,21
-------------
故 御倉板挙之神の命 出極みたまエる
保ゐの座置ハ 高津大神立 高津神立 明津
神立 清津神立 斎津神立 並神立 こハ
天津皇大御神に 斎き奉る神にあり 顕わに
に仕エまつる 保イ座成しハ 大申 小申
大臣 小臣 薬知 内祢 外津祢 守祢 家
津子 伴子 秀手子 建 国主子 郷子 遣
子 使主人 戸自子 邑子 こハ 豊道之原
の顕わにを知る上なり 故 神事にそがそが
に屯れき
-------------
10,22
-------------
高津神立 天津彦根の命 明津神立 天之
目一箇の命 高津神立 手置帆負の命 明津
神立 彦狭知の命 四柱の神 指計りの業に
仕エまつりき 故 長さ 短さの指し業ハ
高天之原の御説き以て 法となし 天の稲
穂実 一ゆ起きり 元津計となし 稲穂実
一を 指の一元と定め 一元の十を 一寸と
定め 一寸の十を 一尺と定め 一尺の十を
一丈と定め こを 妹指とし また 兄指
ハ 稲穂実 縦になして 然々に 兄指を定
め これの道具を 作りなもと 青楊を切り
弥割りに割りて 鉋手に梳でて 稲穂実を
描き 一元ゆ十を画きて 一寸になし 寸を
十を画きて 一尺となしき 故 兄指も然
々に こを 四かに 型なして 測り修せ
-------------
10,23
-------------
枡粒立て計ハ 稲穂実 百を以て 一しか
と定め 千を以て 一かとと定め 萬を以て
一槽と定め 十萬を以て 一ひかと定め
百萬を以て 一小斛と定め また 杓兄粒計
ハ 稲穂実 四百を以て 一勺と定め 四千
を以て 一合と定め 四萬を以て 一升と定
め 四十萬を以て 一斗と定め 四百萬を以
て 一斛と定め 故 これの道具を作りてに
と 妹の型らしの数 その法を以て 小峡の
眞木を伐らしめて 縦割きに 断ち割きて
眞板となさしめ 小切り木以て 法訓りに当
てて 角指計り 此をなす 故 此を枡とい
イ また 兄計を杓といウ
-------------
10,24
-------------
また 軽さ 重さの計り訓りをなす 稲穂
実を以て 一元を一抓と定め 十元を一分と
定め 百元を一匁と定め 千元を一資と定め
十萬元を一貫と定め 兄重さ 軽さの計り
四元を一両と定め 四十元を一ふと定め
四百元を一りウと定め 四千元を一てこと定
め 四萬元を一えきと定め 四十萬元を一く
むと定め これの道具を作りてにと 柾山の
五百箇の眞男樫を伐り 貫き木となさし ま
た 松木を 門代の如に 切り嵌め 眞中に
栲縄に提げ垂らし 前後に 負ふ籠なし
緒 提げ垂らし 【阿蘇の埃岳の高千穂】の
実の稲穂実数の 重 軽を異らしてそを以て
標取らして その重 軽の物を 片畚に積
みて 片畚に 稲穂実を載げて 計りなさし
む 故 これの道具の形の氷木 家の氷木
鰹木に適ゑり こを以て これの道具を 千
木といイ 懸緒といウ 故 四柱の神を 合
わせ祀りて 御計魂之祖の神とまをす
-------------
10,25
-------------
ここに 天津御子 天津神 諸々の御言告
りを以て 天之豊宇気彦の命 天之豊宇気姫
の命に 告りたまイつらく 故 二柱の神
久々能智の命 鹿屋野比売の命に告りて 御
子の神たちに 言依さしたまイき 故 天之
稲依日子の命 天之稲依日女の命 大結彦の
命 大結姫の命 御田別足彦の命 御田別足
姫の命 明玉稲彦の命 明玉稲姫の命 津守
菰代彦の命 津守菰代姫の命 玉知之男の命
玉知之女の命【玉知之男の命 玉知之女の
命】天足之男の命 天足之女の命 種実守男
の命 種実守女の命 豆代彦の命 豆代姫の
命 豆照彦の命 豆照姫の命 豆汲彦の命
豆汲姫の命 御田道稚男の命 御田道稚女の
命 篠依之男の命 篠依之女の命 また 久
々能智の命 鹿屋野比売の命の御子の神 八
重玉之男の命 八重玉之女の命 実具大振の
命 実具大萌の命 葉長大振の命 葉長大萌
の命 神連ゐたまイて 各も各もに 知り別
けの道を定めましき 故 稲依日子の命 稲
依日女の命 これの神ハ 眞稲作り知り別け
の神となし 明玉稲彦の命 明玉稲姫の命
これの神ハ 栄稲作り知り別けの神となし
大結彦の命 大結姫の命 これの神ハ 稗作
り知り別けの神となし 御田別足彦の命 御
田別足姫の命 これの神ハ 菰実作り知り別
けの神となし 篠依之男の命 篠依之女の命
これの神ハ 笹実作り知り別けの神となし
これの十柱の神ハ 五の種津物を 知り別
けまして 水以て 生ゐ立てなす 故 こを
水成津物となす 津守菰代彦の命 津守菰
代姫の命 これの神ハ 麦作り知り別けの神
となし 玉知之男の命 玉知之女の命 これ
の神ハ 玉粟作り知り別けの神となし 天足
之男の命 天足之女の命 これの神ハ 玉篶
作り知り別けの神となし 種実守男の命 種
実守女の命 これの神ハ 黍作り知り別けの
神となし 豆代彦の命 豆代姫の命 豆照彦
の命 豆照姫の命 豆汲彦の命 豆汲姫の命
これの六柱の神ハ 諸大豆作り知り別けの
神となし 御田道稚男の命 御田道稚女の命
これの神ハ 菰穂伎作り知り別けの神とな
し 八弥玉之男の命 八弥玉之女の命 これ
の神ハ 諸玉菜作り知り別けの神となし 実
具大振の命 実具大萌の命 これの神ハ 太
根菜作り知り別けの神となし 葉長大振の命
葉長大萌の命 これの神ハ 諸葉菜作り知
り別けの神となし 此く 知り別けます神た
ちに 言依さしたまイき ここに 久々能智
之男の命 久々能智之女の命 鹿屋野日子の
命 鹿屋野日女の命ハ 千萬の木立 千萬堅
木 千萬草に その実 結ばせてにとして
天の御食清水を乞イ受け 養イ育てて 大掘
串を押し掛け 汝 物いわぬ神なり 然れど
心有りなば 吾が告り言に仕エて 青人草
の朝な 夕なの楽しみの 御食幸の為に 千
々の実を結びなせと 告りたまイき こにゆ
尽々 千々実 多々成りき
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故 これの味わゆるに 木々茎ハ毒なり
薬なすハ 十四の味わゐをなす 故 辛気
かわ気 甘気 あウ気 酢気 小酢気 比々
気 ひぶ気 苦気 にび気 渋気 しじ気
えぐ気 ゑが気 これの 十四味わウる木実
草実ハ 現人の八十栄ゆの道具に 食らウ
べき物なす 然れど 多に な食イそ 臓満
ちすれば良らず 少に食らエば薬なす
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ここにまた 四柱の神 御名ハ 久々能智
之男の命 久々能智之女の命 鹿屋野日子の
命 鹿屋野日女の命 八十の堅葉 常葉の木
の葉を取り また 木の花の眞赫なす花を取
り また 草花の眞赫なす花を取り また
木の実 香の実を取り 小山なすを 八脚の
間切りの広机に載せて 天津御子に奉りて
告りけらく これの物ハ 月立て日に 二日
月円か日に 二日 月籠もり日に 二日
これの物を 欅木の火燧臼に 八搗きに 搗
き足らし 其が汁を眞汁なし そが眞汁を
眞名井水に和し 七沸らし 中らに煮きしめ
て 湯冷めして 七乾きに湯浴みてハ 御生
命 幾百を重ねて 御身健立て 清勝ち 幾
代か若やかなさに 必ずしもに 皺なすを得
たまわず 故 天津御子 大御喜びまし そ
の道に勤励ぎ こを豊道之原の青人草に 及
き知らしめて 現人身栄エに 仕エまつらに
とて 直ちに 正鹿山津見の命 於縢山津見
の命 奥山津見の命 闇山津見の命 志芸山
津見の命 羽山津見の命 戸山津見の命 こ
れの八柱の神に 御言仰せて 道別けに 道
別きなせ と 告りたまイき
上津文 十綴りの完エ