-------------
11,1
-------------
上津文 十一の綴り
ここに 千国根子大道神伊邪那伎の命 千
国根子大津神伊邪那美の命 撞賢木厳之大御
魂天疎日御像日女の命 またの御名ハ 天照
日之大御神 正勝吾勝勝速日天之忍穂耳の命
萬栲幡玉依比売の命 ともに 天津御子
天邇岐志国邇岐志天津日高日子火之邇々芸の
命に告りたまイつらく これの豊道之原の中
津国ハ 天津諸神たちの造り固めましつ 然
れど 造り完エざるもありき 故 汝 国の
国々 島の島々の完エざるを求きて 造り固
めよ また 青人草の便め良さなせ 汝ハ
大須佐田 小須佐田を極み 開かゐ作れ ま
た 人草の此くにある人草ハ 汝 撫でてよ
と 天之斎鋤 天之斎鍬を賜イて 言依さ
したまイき
-------------
11,2
-------------
ここに 天津御子 大須佐田 小須佐田を
極みなさにと 臣の神たちに 言依さしたま
イて 臼杵の平地 大分の平地を開かイて
水津田を固め また 直入の荒野 阿蘇の荒
野を開かイて 畑津田を固め 天津御子 並
べに 妃たち 御子たち 八百の臣たち 共
に 豊種津物を作り出まして 御食を定めた
まイき また その御種を 東の極 西の極
ぬ 賄わせたまイき
-------------
11,3
-------------
ここにまた 神直岐の命 神直美の命 金
山比古の命 金山比売の命 速秋津比古の命
速秋津比売の命 底筒之男の命 底巣比売
の命 中筒之男の命 赤巣比売の命 上筒之
男の命 石巣比売の命 大山津見の命 大山
比売の命 大年産巣日の命 大宮比売の命た
ち 天降りまして 大穴牟遅の命に告りたま
イつらく
いと麗し 汝神 此く懇ろに在さば 吾ハ
高天之原の東 西 南 北のさふたらの中ら
毎に 在座なして 汝の田 悠紀足らに 故
現しき青人草の神事執らしに 朝 夕べの
節々毎に 心伝てなし 隠りの神言 現しの
隠り言【高天之原の御綱 豊道之原の御綱】
【ととウこりのちウこり】賀言 悪言を 萬
撒きの神撒きに 千道訓ろなさに と 告り
たまイき
-------------
11,4
-------------
ここに 天津御子 国廻の御装イまして
二上りの大宮を 離りたまウ時に 猿田毘古
の命 天之宇受売の命ハ 御道前を 斎まわ
り 清まわりに 清守りたまわにとして 海
漁人の首 宇那葉四郎の頭 四郎女の頭 冴
太郎麿の頭 麿女の頭 蘆城の九郎の頭 九
郎女の頭 宅部の次郎五郎の頭 五郎女の頭
阿蘇道の八郎の頭 八郎女の頭 丹生の三
郎の頭 三郎女の頭共ハ 大分の速吸門の潮
を汲みて 曲の穢なを祓わせ 猿田毘古の命
ハ 天の笠沙駒に 鞍床輪を嵌めて乗らし
御手に 五百津小賀玉の木の枝に 五十鈴の
太玉を取り着け持たし 貴玉を胸に押し插め
天之宇受売の命ハ 天之益し牛の鞍床に
八目輪を張りて乗らし 御手に 千本の薄萱
を持たし 御胸に 檜の十二枚の扇を 押し
插めて 神の御伴の緒に副びて 縦笛 横笛
を鳴らしめ 太鼓 色鼓を 厳エ厳エ 音代
良く合わせ 過冒す穢れを 祓イまして 豊
日の大分の国に出ましき 故 御伴部の臣の
神たちハ おのもおのもに 天の眞斎木摩の
御輿に召さし 次の臣の神たちハ おのもお
のも 天の益駒に召さし 夫人 向妻たちハ
美花の御輿に召さし 次に 向妻たちハ
天の牧牛に召さし 八百の伴之緒ハ 太袖の
大御衣召さし 次の御伴部ハ 太繰り延の常
衣に 日向蔓を襷き 藤の薄咲きの木棉を
三尺に截り 四角に折り垂で 木棉の巻子巻
きに巻かして おのもに 被らせましき 故
国廻たまエる御装イ 豊日の大御田族 窺
間見て 嬉しと歌イけらく 天津御子 国廻
に 千萬御伴の御装イを見れば 美しかも
これの御君ハ 畏こかも【やむおれ やむお
れ】益人ヤ 歌イ歌エる業こそ 招きせめ
葦牙の芽出たヤ 愛でたる奴子産せ 栄にか
も
-------------
11,5
-------------
ここに 大分の郡 和那麿の頭 国主 小
屋田の三郎の頭 御宝山に 神籬の祟た宮を
造り 向き入らせまつりき 御食に小豆の強
蒸しの 火丹色飯を奉る 故 天津御子 告
りたまイつらく これの処ハ 現人 いと良
く集エる山にあるかも と 告りたまイき
故 此を 御宝山といイ また 小豆の強飯
を御食します時に 小豆の赤 栄にありつる
かも と 告りたまイき 故 そこを荏隈と
いウ 臣の神たちの 着かせたまエる所を
廻洲野といイ 御伴部の頭たちの 集イ越し
し所を 世利といイ 馬を繋ぎし所を 胡麻
津留といイ 牛を繋ぎし所を 塚野といイ
斯くて 大御田族を集エましし所を 市とい
ウ
-------------
11,6
-------------
天津御子の命 諸々の神たち 百千萬の頭
共に 告らしめて 国造り固め完エざる所を
固め完エさせて 千道の術をなも 御教エ
ける 故 大御田族 喜び 呼ばゐき ここ
に 神たち 告りたまイて 言霊の緒を授け
まして 山開かゐ 海辺開かゐ 山ハ木立ち
し 空野ハ道備エ栲緒を立て 水 川 岩
眞清掘り 海ハ 岩転がし 埴路築き 津配
り 水配り 澪ぶき 粗籠巻き 山 海 と
がイしくさぶれ 刈り巻き 刈り焼き 田之
津成り 畑津成り 石砕け 赫焼き ゆがの
松落葉焼き 味塩焼き 海魚取り 網引き
海魚釣らし 川魚取り 魚網巻き 魚釣り
掘り取り 田之津水放り 池掘り 水揚げ
眞木揚け 水分り 籾分り 種蒔き 早苗取
り 早植え 早苗上り 五月歌イ 五月草掘
り 穂含め 穂放 大風除け 大雨放き 籾
取り穂刈り 穂俵穂倉置き 秘め置き 畑津
幸蒔き 草切り 土打ち【凶祓り 斎祓り
長雨放き 炎伏せ取りづくゆぶらほたまがづ
たまきゆまちもる】稗諸手茅 畑津稲 故
皆に皆に 春蒔き 夏咲か 秋実り 冬秘め
なさしむ 然れと 御年の毎に 一度ハ 大
御田族の禍ら飢えなもにある 故 麦 八豆
の御種を 秋蒔き 冬咲か 春実り 夏秘め
なさば 吉けにと 宇迦之男の命 宇迦之女
の命に 仰せてたまイき 故 二柱の神 斯
く 法を定めて 然々に 斯く 訓り伝てた
まイき
-------------
11,7
-------------
故 ここに 大御田族 肥やす国栄エ 堅
木葉焼き焚かば 水知り 火知り 相口 擬
なイなり また 商人の商業 千萬の商品担
ゐ 持ち担ゐ 諸々の品の良さ 熟けさ 御
鳴らしに 鳴らし事を以ちて 市に室屋 多
建て 馬の背牛の背【此鳴らし 彼鳴らし】
【ぼぶり 強請り 寛り】
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11,8
-------------
また 山狩人ハ 毛の荒ら物 毛の柔き物
家禍津 里禍津 こ摧き 猛摧き 水津荒
び 畑津荒び 屯荒び 人荒び 頑狂れる荒
まの粗眞毛 柔の粗眞毛 蛟 大蛇 長の這
ウ物 細の這ウ物 前走り 後走り 諸々の
現身羽物 毛物 現し人のために 頑狂れな
す 現身物をば 猟弓 猟矢以て 射殺せ
また 石弓に粒打て殺せ また 竹之輪の矯
罠を結ゐて 弾き殺せ また 土穴を掘り
取罠をこまくり 転岩を上打ちして 落とし
殺せ 此く殺し果てば 奴が肉 な 食ら
イそ 奴が肉毎に毒あり 故 そが尸者を
大野の末に 持ち到りて 薄萱を多なし 大
朽木 小朽木 敷きたエて 肉叢を倒し耕し
生掛けに 穢れ火を放ち 焼き落ちに時に
息吹き 風付けして 潮を放ちて 清み取
りなしてハ 毒失せてに時に 水津 畑津
の田之土に 放ち掛けなば 大肥料となもな
る 故 埋もれ水を 成り凝らし垂らさば
それの 熟きの垂り穂 八束ならに 葉の穂
端ハ な 食ゐそ また 和端ハ 食ゑて吉
無し また山そもを全貫ぎ 眞金 素金採り
てハ 黄金 白銀 しづ金採らし訓り伝てま
しき
-------------
11,9
-------------
【海漁人に訓り決め 道具作り 網船 櫓
船 櫂船 巻き藻船 竹船 竹の長船 竹の
池船 海魚産竹船 櫂掬き船 櫂掻きの竹船
緒引き 繰る引き 大引き 小引き 栲縄
囲み栲縄 大目網 小目網 栲糸の小目網
やゐ袋 かゐ袋 組む手袋 八尋大目籠
大目駆り 網敷き 網布延エ 境延エ 水門
延エ 狭瀬延エ 瀬開き 瀬誘ゐ 瀬括り
瀬徙 簀曝れ 簀切れ 簀延エ 隠手 顕手
海魚込 海魚見 山見 山立て 岡立て
潮立て 小立て 走り立て 満ち立て 干り
立て 此く為して 海魚取りなせ】此ハ 天
津神 国津神の御饗ゑの あ供エに幣にあり
故 現しき青人草 食イて 御魂活けにな
りき 鱗なすハ和わし 故 薬なす 鱗無き
ハ羹し 故 少々ハ薬り 多ハ毒ず 故 御
饗の御回りになす また 鱗無き海魚に文な
して黴らなすハ な 食イそ 毒あり 故
鱗無き海魚 口女 くな 海蛟貝 食うな
こハ 毒なす 故 神たちに奉らず
-------------
11,10
-------------
また 大船の荷船に 商人の商品を載せて
その料なせ 故 遠所往かば 蔵船を 押
し並べなせ 近所往かば 棚船を 押し並べ
なせ また 現人に偶ウれて 乗らせ渡せ
また 味塩作人ハ 味塩焼かせ作り 此 多
為しに 訓り伝てせよ
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11,11
-------------
【山狩人の金工人[山ほエに二金なり]故
[山ハ並めしに 木立ち 黒暗に 木の葉
繁まき 萱篠薄 尽々に かこりて 黒暗土
黄土 朱土 青土 穴師倒し「體立ち赫ろ
かなす」]其山眞金有り 故 山太の尾尻
掻イ求きに 内掘り 堅成し岩を全貫き 手
越し取りして 弥突きに突き壊して[蹈鞴風
吹き][衝手 風吹きに]火進イして 繰り
水に凝らして がらだりを 柄実になし 衝
手風吹き 火進イて 埴土を 弥上 捏ねて
さ濾しに濾して 柄実埴根になし 取れる
金ハ黄金なりき また 衝手風吹きに 火進
イて 繰り水に凝らして がらだりを 柄実
になし 衝手風吹き 火進イて 埴土を 弥
上に捏で さ濾しに濾して 柄実埴根に取れ
る金の残るがらハ鉛金なりき また 貴石山
の平山の峯の上[くつねこたゆるべてあウこ
ろころろに]木の葉盛り知り 紫色斑らに
青色緩がに 玄ろかなす其山 銅金有り 故
山太の尾尻 埴土 岩土 掻イ刳り 内貫
き 眞砂岩土 雲母碯を取り 蹈鞴風吹きに
吹き足らかし 衝手風吹きに 火進イし
息吹き 眞吹き 水求きし 谷 半ば半ばに
繰り上げ繰りて 火進イして 繰り水に転
ろこし がらだり 小姆に成し また 衝手
風吹きに 火進イて 埴土を弥上に眞塗らし
さ濾して 柄実埴根に取れる金ハ 白銀な
り 残るハ 鉛金なり また 貴石山の尾の
上くつねに こたゆるべてあウころころろに
木の葉盛り代に 色斑らに 色緩がに
燿ろかなす其山 銅金あり 故 山太の尾尻
埴土 岩土 掻イ刳り 内貫き 黒眞砂
黒岩つ雲母碯を取り 蹈鞴風吹き 衝手風吹
き 火進イて 息吹き 眞吹き 水求きし
谷揺らり 繰り上げに繰りて 火進イ ここ
まはどろうどろに 大火樋に流しやり 黒金
みみほほとりこみの蹈鞴猛ち猛ちに 水底
泥にやぶせかりほりふらしきてとしれば焼イ
金なり また 弥に くまろ金を 蹈鞴風吹
きに 火進ゐ こましはどろうどろに 大火
樋 流し遣り くまろ金のみみほほとり 内
込み 蹈鞴猛ち猛ちに 水底泥にやぶせかり
ほりふらしきてとしれば銅金なり また 茨
込み 蹈鞴猛ち猛ちに 水底泥にやぶせやり
ほりふらしきてとしれば 銑鉄なり】
-------------
11,12
-------------
また 樵人の訓り決め 曲山 深山 大峡
小峡の多木立 直木根 打ち放ち 添エな
れに 身 測り合わせて 箆糸 引き張り
測り任せに 断ち そくり 横切り そくり
取りなし 弥道具に 道具道具に なららし
やくど訓り決め 道具慣れに 曲りに 円
めに 直ずの指し計 円指れ計 串指計 こ
こどの木切り 差し固め 弥結イ 固並べ
木結イ 固め計り 立梯 垂木楮を木結イて
強柵を貫かし結イて また 後尾貫かしに
結イ 細目腰縫イに結イ 臍結イ 孔固め床
し眞結イに 屋根結イなし 竹籠目を棧りし
埴土を塗らして 風除とし 栲襖を立ち
内の風除となし 木棉張り 床座に差して
風除の上け取りとし 鰹木を 風除覆ゐとし
千木を棟風除の茅草鎮となし 高山の清土
を取り 竈竈突として 火焚き竈掛けを作り
土捏ねて 食物炊きの 朝の贄持 眞昼の
贄持 夕べの贄持に 実吉着きの十四種津物
沸ら煮ゐるの道具になさしめ
-------------
11,13
-------------
水津物実を飯となし 畑津物実を飯となし
眞水津物実を 蒸し搗きて 餅むと(なし)
畑津物実を擂り込みて 餡となし 水津物実
を煎り粉擂りはねとなし 畑津物を煎り粉擂
りあれとなさしに 山菜 畑津菜 土玉菜
沖津海魚 辺津海魚 沖津藻菜 辺津藻菜
味塩の廻り炊き 未醤の廻り炊き 醤油の廻
り炊き 味菜の煮作らしの業法
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11,14
-------------
また 女子迎のさまりよイと 神とり 斎
とりを【庭中にたみとなしよそ神のこえもイ
はらたりおやおやまろかて】取りなし言依せ
して 婿出る 女子入るを呼ばハせ それの
足り日に 眞の膳に 酒杯平瓶を 三重畳み
に重ね 媒酌人ゆ 男女に飲ましめ 三注
ぎに九注ぎなし 納めて 隠処に起こさしめ
子取りなさしめ むすこハ 豊種津物作り
人となし むすめハ 男の偶となし 高津機
織りを知らしめ 衣作り 飯炊き 酒醸 未
醤醸 修め 商人の訓り決めの道ハ 千萬物
足りざるを足らし 余るを貯らし 豊種津物
の実の 其が粒を 匙以て計り 布類ウる長
短物を 指し計り以て計り 岩綿に類ウる
重 軽物を杠以て計り 彼方々々 此方々々
の 千萬の料の物 い寄せ 担イ来て 青人
草の分目良き道に 守りなせよ 故 千萬の
其が道を 司なします神の御直し 証しまつ
る と 告る 天津大神たちの神霊を被むり
て 現津神に 御魂代とまをす
上津文 十一の綴り 完エ
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12,1
-------------
上津文 十二の綴り
ここに 天之御柱の命 国之御柱の命 天
津火之御柱の命 国津火之御柱の命 天津水
之御柱の命 国津水之御柱の命 天津土之御
柱の命 国津土之御柱の命 これの八柱の神
ハ 現しき青人草の 千萬の業訓りを 魂配
ります神になもありき
-------------
12,2
-------------
また 金山毘古の命 金山毘売の命 伊都
之尾羽張彦の命 伊都之尾羽張姫の命 速玉
之男の命 速玉之女の命 岐之男の命 岐之
女の命 これの八柱の神ハ 現しき青人草の
幸魂 奇魂の神になもありき
-------------
12,3
-------------
また 八衢彦の命 八衢姫の命 飽咋之宇
斯の命 飽咋之衣自の命 煩累之宇斯の命
煩累之衣自の命 道之長乳男の命 道之長乳
女の命 これの八柱の神ハ 現しき青人草の
御躯を守る神になもある
-------------
12,4
-------------
また 速秋津日子の命 速秋津比売の命
大直毘の命 神直毘の命 底土之男の命 底
巣姫の命 赤土之男の命 赤巣姫の命 石土
之男の命 石巣比売の命 底津綿津見の命
底津綿姫の命 中津綿津見の命 中津綿姫の
命 上津綿津見の命 上津綿姫の命 速佐須
良彦の命 速佐須良姫の命 沖疎之男の命
沖疎之女の命 辺疎之男の命 辺疎之女の命
沖津那芸佐毘古の命 沖津那芸佐毘売の命
辺津那芸佐毘古の命 辺津那芸佐毘売の命
沖津甲斐辨羅の命 沖津甲斐辨微の命 辺
津甲斐辨羅の命 辺津甲斐辨微の命 これの
三十柱の神ハ 現しき青人草の隠り事を 修
め持ち分かちます神になもある
-------------
12,5
-------------
また 天之忍穂耳の命 天之萬幡姫の命
八心思量の命 八幡大幡姫の命 天之児屋の
命 許登能麻遅媛の命 天之太玉の命 天之
櫛玉姫の命 天之石門別之伊邪布都魂の命
千依比売の命 天之櫛明玉の命 羽玉毘売の
命 天之神立の命 著玉邑日女の命 天之御
桙の命 八重桙姫の命 天津枳値可美高日子
の命 天之狭依毘売の命 天之活玉の命 白
羽倭姫の命 天之三降の命 村笠姫の命 大
山津見の命 大山姫の命 天津日子根の命
足玉姫の命 活津日子根の命 魂産巣姫の命
熊野久須毘の命 戸明姫の命 天照国照彦
の命 天照国照姫の命 火須勢理の命 綾門
日女の命 大雷の命 明立姫の命 天之活玉
の命 活玉姫の命 天之三降の命 佐韋河姫
の命 天津枳値可美の命 高日子姫の命 天
之御衣持奇井の命 象潟姫の命 天之日別の
命 阿加留姫の命 天之鈴杵の命 鈴杵姫の
命 五十猛の命 大屋津姫の命 天懸の命
懸姫の命 国懸の命 速総姫の命 八島士奴
美の命 清之湯山姫の命 これの神たちハ
青人草の顕わに事を 治めます神になもある
-------------
12,6
-------------
天之事解之男の命 天之事解之女の命 顕
言魂之男の命 顕言魂之女の命 顕言配の命
言配豊姫の命 萬事解之男の命 事解明良
姫の命 許登麻遅透彦の命 許登麻遅透姫の
命 許登魂彦の命 許登魂姫の命 速玉之男
の命 速玉之女の命 建魂彦の命 建魂姫の
命 伊都之尾羽張の命 尾羽張姫の命 尾羽
張事勝の命 尾羽張事果の命 久那斗之男の
命 久那斗之女の命 荒魂の命 和魂の命
八衢言彦の命 八衢言姫の命 亦 一緒言の
命 数玉姫の命 二緒言の命 平瓮姫の命
三緒言の命 栄足姫の命 これの神たちハ
現しき青人草に 言霊を幸わゐます神になも
ある
-------------
12,7
-------------
また 天津御子の命の大御許に 侍ぶる神
たちハ 八雲の上の神なり 故 天の祭り
国の祭りを守りて 豊珍の大御田族の 八百
萬道を知り分けの神に在すからに 事業の訓
伝てます神になもありき
-------------
12,8
-------------
故 たぶりどに八百千の道々の事業 訓伝
てます神の御名ハ 大雷の命 明立姫の命
山雷之男の命 山雷之女の命 高淤迦美玉霊
の命 高女迦美玉女の命 別雷御祖の命 神
屋楯姫の命 根拆の命の御子 経津主の命
豊訓姫の命 大力韓楯の命 韓楯姫の命 樋
速日の命の御子 甕玉の命 姫甕之女の命
建御雷之男の命 建御雷之女の命 建布都之
男の命 姫布都之女の命 甕速日の命 豊日
姫の命 天之表春の命 萬春辺姫の命 天之
下春の命 下春姫の命 熊野久須毘の命 玉
生戸明女の命 火之須勢理彦の命 綾門日女
の命 大屋若建の命 櫛代女の命 猿田毘古
の命 天之宇受売の命 青幡佐草日子の命
八野若比売の命 天之冬衣の命 刺国若姫の
命 天日方奇日方の命 比売多多良伊須気余
理姫の命 阿遅鋤高日子根の命 高姫の命
塩冶井毘古の命 宇麻志高姫の命 御穂須須
美の命 櫛岐八百之女の命 山代日子の命
山代日女の命 若布都魂の命 清津姫の命
天之手力男の命 天之千依比売の命 天之鈴
杵根の命 天之鈴杵妹の命 天之櫛耳の命
著玉日女の命 天之迦久の命 天之活玉姫の
命 剣根太刀の命 剣依姫の命 八尋鉾長依
日子の命 長依日女の命 これの神たちハ
国の祭りの司を 守る神になもある
-------------
12,9
-------------
また 飽咋之宇斯の命 飽咋之衣自の命 大
直毘の命 神直毘の命 速秋津日子の命 速
秋津比売の命 沫那芸の命 沫那美の命 頬
那芸の命 頬那美の命 天之水分の命 国之
水分の命 天之久比奢母智の命 国之久比奢
母智の命 櫛八玉彦の命 櫛八玉姫の命 和
久産巣日の命 和久産巣姫の命 豊受彦の命
豊宇気毘売の命 天之稲依日子の命 天之
稲依日女の命 天之麦彦の命 天之穂玉之祖
の命 天之穂玉之女の命 伊都羽菰玉彦の命
伊都羽菰玉姫の命 柵結麻遅部の命 柵結
麻遅妹の命 穂守稗男の命 穂守稗女の命
若室大豆の命 若室志豆美の命 若山小豆の
命 若山阿豆美の命 十数弥豆の命 十数弥
豆美の命 笹実結部の命 笹実結妹の命 堅
棘彦の命 堅棘姫の命 天之諸茅萱の命 天
之諸茅鴨の命 畑津米別の命 畑津米姫の命
弥八玉之男の命 弥八玉之女の命 醤菜大
振部の命 醤菜大振女の命 葉之長芽伎の命
葉之長芽美の命 高水上御祖の命 水上姫
の命 低水上彦の命 低水足姫の命 国押別
の命 国押姫の命 磐坂日子の命 磐坂日女
の命 大年御祖の命 大市姫の命 御年豊足
の命 豊足姫の命 若年足の命 豊明姫の命
庭高津日子の命 庭高津日女の命 沖津日
子の命 沖津日女の命 豊阿須波彦の命 豊
阿須波姫の命 豊波比伎彦の命 豊波比伎姫
の命 事勝国勝長狭の命 玉照姫の命 塩人
振分根の命 大瓶伏妹姫の命 香山戸彦の命
香山戸姫の命 大山咋の命 山咋姫の命
羽山戸彦の命 羽山戸姫の命 若夏之男の命
若夏之女の命 若山咋の命 若秋毘売の命
久久年之男の命 若沙那売の命 久久紀若
室葛根の命 彌豆麻岐姫の命 笹津彦の命
笹津姫の命 大物主甕玉の命 櫛甕玉姫の命
多伎都彦の命 多伎都姫の命 積羽八重言
代主の命 溝咋比売の命 天之谷水彦の命
八規御祖之姫の命 海鰭萬津の命 天之鳥姫
の命 これの神たちハ 青人草の御生命を守
りなすからに 現人の埴種津実の 穂足らし
の事業 訓り伝てます神になもある
-------------
12,10
-------------
また 久久能智の命 久久姫の命 御木長
彦の命 萱負之女の命 鹿屋野日子の命 鹿
屋野比売の命 櫛八玉彦の命 鹿屋熊玉姫の
命 幸八玉主の命 熊玉姫の命 大山津見の
命 小多多良姫の命 足名椎の命 手名椎の
命 正鹿山津見の命 正鹿之御女の命 於縢
山津見の命 於縢之御女の命 奥山津見の命
奥之御女の命 闇山津見の命 闇之御女の
命 志芸山津見の命 志芸之御女の命 羽山
津見の命 前立姫の命 原山津見の命 近之
玉姫の命 戸山津見の命 幸香之乙女の命
天之目一箇明立の命 櫛御蔭姫の命 天津量
根の命 御量之女の命 天津量玉櫛の命 玉
櫛姫の命 天津量道俣の命 小道俣姫の命
天津量組置師の命 組溜姫の命 大屋若根の
命 大屋若女の命 手置帆負の命 栲津玉姫
の命 彦狭知の命 狭知姫の命 天之道根の
命 天之道女の命 天津御雲の命 天津依姫
の命 天津牟良雲の命 天津邑日女の命 天
之御桙の命 天之八重姫の命 これの神たち
ハ 木伐り技の千道を 事業訓り伝てて 水
隠り 風隠り 海走り 河走り 巧みなす神
になもある
-------------
12,11
-------------
また 泣沢之男の命 泣沢之女の命 天之
棚機彦の命 天之棚機姫の命 高津糸織根の
命 高津糸織女の命 天津綾絹の命 天津綾
綺妹の命 宇奈岐彦の命 宇奈岐姫の命
豊倭文男の命 豊倭文女の命 稚麻生彦の命
稚麻生姫の命 神楮生伎の命 神楮生美の
命 綿繰之宇斯の命 綿布之衣自の命 棚機
桜男の命 棚機桜女の命 木棉垂彦の命 木
棉垂姫の命 宗像建雄の命 田心島女の命
狭依彦の命 狭依姫の命 中津大衣の命 大
市姫の命 弥立衣手の命 辺津宮姫の命 鹿
野稚彦の命 鹿野稚姫の命 高照彦の命 高
照姫の命 三穂津彦の命 三穂津姫の命 大
綴根の命 大綴女の命 綾取彦の命 綾取姫
の命 これの神たちハ 木棉織らし 衣作り
の事業の訓伝てます神になもある
-------------
12,12
-------------
また 大穴牟遅の命 須勢理毘売の命 少
名牟遅の命 大久米姫の命 八島士奴美の命
清之湯山姫の命 木之俣の命 木之俣姫の
命 天之活玉の命 白羽倭姫の命 天熊之大
人の命 天之語姫の命 天津神訓八手の命
著玉邑日女の命 煩累之大人の命 煩累之衣
自の命 これの神たちハ 青人草の病の薬知
人に 八百千の道を 事業訓伝てます神にな
もある
-------------
12,13
-------------
また 伊都之尾羽張の命 伊都之女の命
道之長乳男の命 道之長乳女の命 熊野久須
毘の命 玉生姫の命 国忍別の命 国忍姫の
命 食笥足男の命 玉鍋姫の命 事代主の命
溝咋比売の命 これの神たちハ 現しき青
人草の 諸々の品を守り 足りぬを足らし
剰るを品換エ 谷山の尾 海原の尾の末まで
品足り無き在らせず 商の事業を 訓伝て
ます神になもある
-------------
12,14
-------------
斯く 豊葦原の中津国の 国内国内の 島
の島曲島曲の 現しき青人草に 神の禮代
臣の禮代の 祝ぎ代の 事業の訓伝て 人し
人しに 稚児稚児に 男々に 女々に 神訓
り心伝て 譲らして 天津御業を 学びまさ
しめ また 天津御宣りの高津大道を 高天
之原の御業の随に 被らさします 故 幼男
愛じ 逸男 勤労け 益良男 業励け 受
家男 神屋訓れ 眞受家 郷訓れ 千努男
国訓れ 眞千努男 神翳し 栄男 天訓れ
-------------
12,15
-------------
また 受家に成らば 柿と榧と椎と喰い
少の木の実を取りて 弥日に乾けして 俵な
して 米と麦とに和して喰エ 故 生命 八
百代経らに 直に 高山の中ら 低山の中ら
水守る莖ら 炎守る莖ら 北 西の繁処繁
処に 八重垣込めて 実成るを拾ひ 皮の毛
弾かし 水漬し三度なし 故 麗し実なす
を 穎炊き嘗めて 現しき大御田族 麗し実
を天掛け 国掛けて 愛じめ 天津御神に祷
ぎ 幸わゐ 受けしめ 畏き稜威を 八重重
ね 天津神の御手振り合ゐ 益足りに 身躯
い 隠りに 星の神と直りて 北の天の眞頭
の眞央に在す とむ星 火産霊の大御神に【
恵じたを受け垂れて】高天之原に 御足らゐ
ます 天照大御神の御許辺を 斎きまつれ
-------------
12,16
-------------
また 青人草の 其中辺に 己心の 悪じ
奸る禍除けと 蹴倒れみと これの七魂ハ
天津御神に告り上げまつれ 賤し 苦し 狂
わし 忌みし 腐ばれの禍事を与エよ 猶
足らずば 押さエ 威ぜ 捕らエ 逐らエの
誅エ
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12,17
-------------
また 青人草の衣ば 槇皮 眞深に掛け
木棉を 襟賄イ 眞小矜を取り付け 一尺の
幅木棉を四垂りに 縦縫イ 幅木棉縫イ 男
ば 一尺七寸 女ハ 二尺余り 二枚を合イ
垂れて 一枚となせ 男ハ 幅木棉一垂二尺
垂れ 女ハ 幅木棉一垂二尺三寸垂れ 物あ
らば 襷をたすけ 衣括し括し 男ハ三寸
女ハ六寸 上絹荒栲 男ハ眞袖二束 女も同
じ 垂らし袴ハ 差し貫かしに 大口なせ
夏ハ冷やく 冬ハ温く
-------------
12,18
-------------
男の頭髪ハ 央らを刷かし 口髯刷かし
面刷かし 二つ脇に輪なす元取に 結ゐ垂ら
し こを耳覆ゐになし 故 人の芳わしから
ぬハ 人の毛 皆黴ほる 故 木草実の油以
て 洗イ濯がば芳し 左右に櫛差せ また
女の頭髪ハ 垂元取に背垂らせ 末髪 花結
びて 油そそろし 右左の耳の 掻き垂れの
上の逆巻に 乙櫛と 小賀玉櫛と 片插しに
好かりの千木花千狭花插せ 男ハ 頭髪の
元取の上に 楮布の 矢篦なり袋なし 髻根
毛 栲紐の元取に着けて 冠なせ 女ハ 真
綿 狭綿を 網なし捏ね 頭毛の上に修せ
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12,19
-------------
また 男の陰茎隠ろイに 八尺木棉以て
尻割りに 孔隠ろイ 二条に腰辺括れ 女の
陰門隠ろイ 孔隠ろイ 八尺木棉 二並め縫
イに 節回しに 交に垂らし 綿木棉広に括
れ 六尺綿木棉を割り折らして 下衣の小紐
と繰る巻け 男女並めなせ
-------------
12,20
-------------
また 家毎の大土を掘り貫かし 天之眞名
井に在す 水精星の神の大水を 乞イ受け
また 埴土を捏りて 天の北に在す 火精星
の神の大御火を乞イて 大鍋 小鍋 大釜
小釜を掛けて 甘し食の 比好食しなせ ま
た 外所に厠を建て 糞尿放り所なせ また
馬飼イ 牛飼イハ 山々の谷の窪 大窪
小窪出る水所に 放ち飼イなせ
-------------
12,21
-------------
故 国内国内の大御田族の頭どち 現し御
代の顕わにの事業 尽々に 千萬の道々を
訓り伝てまして 豊日別大戸主の命 豊日姫
大戸主の命に 訓り伝て完エねと 告りたま
イて 御宝山の宮処に 残さしたまイき こ
こに 天津御子 豊日の宝山の大分の国に出
まし 御在して 大津道々の御祖 猿田毘古
の命 道々魂の御祖 天之宇受売の命 御子
塩土幸魂の命 花産巣日波依姫の命ハ 御
前払イして 彦ハ 馬輪 姫ハ牛輪を踏み鳴
らし
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12,22
-------------
豊日と穴門の海渡り出御在しの時に 渡広
主の命 渡守姫の命 ここに 大宮 八氷木
に設エて これの設エ並べに 大倉 小倉建
て並めて 三里四方なす 天津御子 御伴の
神たちに 饗エまつる これの渡りに 橋以
て為むハ長し 船以て為むハ短し 山迫山迫
の合わゐになれば 潮の息吹 いと速に 漲
りぬ 故 天之浮橋を造り建てて 天津御輿
臣津御輿 馬乗る神伴 牛乗る神伴 道往
く神伴 神伴之緒の神 共に持ち添え 千萬
の神 伴之長共たち 穴門辺に渡り 熊毛の
国に到ります 穴門建 穴門別の命 穴門姫
の命ハ 百合太郎と 熊二郎と 二郎六郎と
の三人を率きて 熊毛の佐奈伎山に迎ゑ宮を
太敷き建て 諸人の神楽まをして 御饗エ
まつる 天津御子 臣の神たち これの宮に
隠り 顕業在して 一歳を経たまイき
-------------
12,23
-------------
ここに その金山毘古の命 金山毘売の命
告りたまわく 天津二柱の大神 告りたまイ
つらくハ 嶽山の頭の上津嶺ハ 大山津見の
命 知らして 八十木立 生イ立たし 現し
き青人草の頭の御宝とせな また 嶽山の山
麓ハ 汝が知れ と 告りたまイき 故 山
狭実を 己人知れり 狭実 四有り 銑土有
り 玉土有り 捏土有り 砂土有り 八百萬
の神たちに 此を 知らせまく欲り と ま
をしき ここに天津御子の命 櫛山叢眞鳥の
命 妙山叢眞鳥の命 汝ハ 四の土別となれ
豊櫛萬種別の命 豊櫛萬種姫の命 豊代大
道別の命 豊代大道姫の命 息吹明座立の命
息吹明座姫の命 汝ハ 銑土を焼きて 勤
労く種取りとなれ 玉造彦御祖の命 玉造姫
御祖の命 石割彦の命 石割姫の命 斎槌玉
那芸の命 斎槌玉那美の命 汝ハ 山狭実の
土小戸の石割りして 燿玉 眞玉を取り勤し
宝の神宝取りとなれ 火別彦御祖の命 火
別姫御祖の命 斎処土持之男の命 斎処土持
之女の命 埴足玉火芸の命 埴足玉火美の命
五百足男の命 五百足女の命 汝ハ 山狭
実の涅土の 火焚き道を管て 山狭実の火取
りとなれ 八塩彦御祖の命 八塩姫御祖の命
道合坂手魂之男の命 道合坂手魂之女の命
息足彦の命 息足姫の命 汝ハ 山狭実の
砂土 木々焼きとなれ 事勝国勝彦の命に思
ハしめて 事勝之御子彦の命 事勝之御子姫
の命 汝ハ 山のせせくくの塩 掘り焼きて
山の味塩取りとなれ 青人草の便め 大よ
れなせ
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12,24
-------------
ここに 穴門の現人 皆 まをす 八種の
鍛冶 多あらずば 美し御代たらじ 故 呼
ばイて 連る来とまをす 故 金山毘古の命
金山毘売の命 櫛山叢眞鳥の命 妙山叢眞
鳥の命 共に 穴門の国内 山々に連り走し
登り 見そなわしたまウに 土幸 山にあ
り 故 国内の首頭を 八百人召さして 告
りたまわく これの国内山ハ 八種の金 尽
々に 多あり 汝と掘りて 焼きてにヤ 現
人 皆 宜べなウ 故 ここに 二柱の御子
豊奇萬種別の命 豊奇萬種姫の命 豊代大
道別の命 豊代大道姫の命 息吹明底立の命
姫明底立の命 息吹明倉立の命 姫明倉立
の命を呼ばイて 土幸山の麓を 南尻に全貫
かして 山狭実 貫き 打でつけて 銑土を
千萬 背に受け 背取り来て 小谷水の神
清水に 振り濯ぎて 底澱らなして 大峡
小峡の素木を伐り 大土の火を燧り出 頓燃
エに 燃やし 澱らし銑を 頓燃エに 眞鎖
りて 引き樋に流れ出るに 土 凝りに凝り
なす ここにまた 素木を多木伐りこくり
猿田毘古の大神の成したまエる 美訓りの道
訓りの燿炭を 賑さになして 大衝手 小衝
手の風吹き以て 大土を穴貫かし 燿炭を眞
鎖り 凝土を 磐杵 磐臼以て 弥砕きに
はだたき 燿りそかイに 揺蕩がし【土そも
ぎりて】風吹きに風吹かせ 眞火を 眞松木
に択り燃やし【さげにくりせきにとらして】
滴り出るハ銑鉄なりき しじみをくるる物ハ
銅なりき また 銑鉄を【さくづらになら
づらし】砕りに はだたり【くきりこになし
玄りそがイ】揺蕩がし 風吹きに 風吹か
せ 眞火を 眞松木に択りて燃やし 離土刳
り 塞土なし 滴る銑鉄 風吹せ 穴凝りな
るハ 焼利金なり 故 焼利金ハ焼刃なせ
銅ハ 千の道具なせ 銑鉄ハ 諸鍋なせ と
告りたまイき
-------------
12,25
-------------
故 天津大神 伊邪那伎の命 伊邪那美の
命の御子 天之御柱の命 国之御柱の命 火
之夜芸速男の命 火之夜芸速女の命 彌都波
之男の命 彌都波能売の命 埴山彦の命 埴
山姫の命 諸々の 八千萬 全の 訓り伝て
ます神 高津大御神になもある 現しき大御
田族の頭共 さエ集まりてハ これの命に祷
ぎて 恩頼を被り 誓ひ取らしな と 教エ
たまイき 故 穴門別足彦の命 穴門別足姫
の命 訓り伝ての神訓りまして 穴所の宮処
の隠り保イて 水戸の往き交ゐを守らし ま
た 多く益人を守らす 故 ここを穴門とい
ウ
-------------
12,26
-------------
故 そゆ 天津御子の命 御輿 御往かイ
まして 出雲の間 伊農国に出ます時に 出
雲の翁 楢九郎 また 翁 榧太郎 また
楫取麿 また 山路六郎の頭共 現人数々に
集イ 大根山に仮の宮を建てて 待ち迎きて
禮成しまつる ここに 大国 小国の翁
邑の現人 珍らかなる御饗奉らにと 口太川
魚 強飯に 丸籠 押し込みの海魚の活盛り
に 魚吸の斎瓮代に 打ち満たしの大汁 膳
五の据らかしハ 各も七種を含め のりため
の菓子盛りなしつれども 学び長れる人の
新秀瓮 平瓮無からまじかハ 良わじといく
エなれてききえせず と まをす また 疎
みな と いウ
-------------
12,27
-------------
故 伊都之尾羽張之男の命 伊都之尾羽張
之女の命の御子 尾羽張事勝彦の命 尾羽張
事勝姫の命 平瓮彦舅別の命 平瓮姫道別の
命 小埴弥平瓮男の命 小埴弥平瓮女の命
道守活之男の命 道守活之女の命 大国 小
国の翁 若人の八百人を伴なべ 八重垣山の
岩土を取らし 総取り杵に やきはすの木以
て作り 受け眞臼に 欅の木以て作り 岩土
を水潤びに 潤ばして 八搗きに搗き打ち
揺がし 瑞の大津に 泥根差し 上津水を
除き水なし 下津水を 幸水となし 浮き澄
みに 澄み凝ろし 大搗き打たし 大丸木
串差し 横吊り 穴差しに立て並め 切り口
平に 萌エ埴を擡げ あけ回しに 鵠色の秀
串に 打ち猛らす 八十眞平瓮 こを 大木
小木 竹に 屋態を作り 茅萱以て 丸め
に 角差し 埴以で 弥々に塗り 型貫きて
乾ける八十の平瓮の 弥瓦の上に 並み入
れて 下窯眞場に 爪木枌の 乾ける 火焚
か木を投げ入れて 火起草に 火燧り起て
下燃エに 焦がらし立てて 高天之原に 焚
き凝らして 火気絶エて 成れる器に 岩眞
実の眞中の透玉を 身砕の粉となし 眞水に
揺らに 上津水を流じ 下津水を流し 捨
てなして 上津の水澄ましになるを 逆はさ
に抉じりて 器のかなづの揺らかしを 入れ
込みて 八十平瓮 器を 眞濃くに 塗りて
窯の上津に 並べ入れ 下窯に火燧りて
眞白平瓮成りき 故 持て成ウ料なしまつる
ここに 天津御子の命 八百千の道々を
国内の大御田族頭どもに 神訓りの訓り伝て
まして 祝ぎまつりの豊年神 出雲別神立彦
の命 出雲別神立姫の命を 大根山の仮宮に
遺しまして 国内の国公と称エましき
-------------
12,28
-------------
ここに 天津御子の命 吉備に 御輿出ま
しまさにとウて 宮開きたまイき これの時
に 吉備の翁 熊太郎 菊雪郎 共に 国内
の翁どもと議りて 笠の国の八木山に 八窓
の大室屋を造りて 待ちまつる 天津御子の
命 八百萬の神立を 眞儻入りて 八木山の
大室に高座ましき 国内のみつまの大御田族
老も 若子も 姥も 若女も 尽々に集イ
て 参ゐ来て 己が向き向きの 饗津物を奉
る また 海漁人の贄持に 鮫の海魚の一尋
物を奉る これの時に 山野 海 川 開か
らの神たちを 二十ち神を据えて 大御田族
の頭ともに 訓り伝てましき また 国人の
互便めに 市を建てて 村の便め 家の便め
さゆさゆ成さしめますからに 国内の大御
田族 楽しと歌ゐ 笑まイつつ 天津御子の
命の 大座の前津辺に寄ささせに 最寄り最
寄りに 大榧に孔一連貫きの 笛吹き 鼓打
ち 琴糸を弾き歓ぎて 天津御子の命 臣の
上立 の命たちに 祝ぎ言奉る 故 天津御
子の命 臣の上立の命たち いたく 御喜ば
したまイて 亦 国内の現人に応エて 共に
歓ぎ楽しみましき 時に 吉備津根別の命
吉備津根姫の命たちも 竹輪笥の太広に
大藤の葛木を 巻き剥きに剥かして それの
竹輪笥に 打ち張りて 枝木の末を扱ぎて
打ち鳴らすに そが音 いと太くで重もかり
けり 故 こを重鼓となもいウ
-------------
12,29
-------------
ここに 天津御子の命ハ 座賜の臣の神立
の命たちと共に 丹波の国に出ましき 丹波
の国内の翁 由良四郎 ことり八郎ども 何
鹿の国の みなたびの山に 茅萱敷き取りの
八田間の室を築き 前向に 清御門代を
八重広に建て 御迎エまつりて 饗津物に
米餅 白茅餅 胡桃 一つ木綿の太幣を奉る
また 赤飯 白飯 黒飯を 蒸しとなし
白茅巻く腹子海魚を 蒸し身となし 眞海魚
を焼きて 骨抜きとなし 鯨を乾して 蒸し
入れとなし 大口海魚を割きて 醤油入れ膾
となし 故 此を以て 諸々の神たちに 天
津清まりの神贄と 手之仕経る 逸り男 逸
り少女ハ 神の禮代に 仕エまつらにとて
男ハ 輪成し元取に結イ 輪之巻き端も 毛
を甚出らし 阿額に煤水点し 八重裾の袴
袖成しの禮衣の袂 太長垂れ 背持有りなさ
し 常衣の袂ば 膝垂れ 合襟を左手伏せ
平帯 四重巻き 端込み また 少女ハ 統
べし元取 懸けイ垂らし 花如に結ゐ 浮橋
を 横倒エに括し着け 斎津櫛を 四枚挿さ
しに 天津千道野の草花を 髪挿し飾り 傾
草の実の 眞実を並し 頬面に 火丹以て点
し 阿額に 煤水以て 眉を点し 蚕布の袖
成しの 振り長垂らしの 袂の衣の常衣に
火丹染の 袴一尋引きの 神衣を打ち掛け
男女の禮代に仕エまつり 膳の禮代 酒手の
禮代 清酒手の禮代 客人の禮代 禮人の禮
代に 拆く鈴を打ち 五十鈴を鳴らし 笛吹
き 鼓打ちて 歌イ 歓き 神楽まをす 丹
波別建之男の命 丹波別建之女の命 これの
神に 千道の訓り伝て 道の大訓り 神の大
訓りたまイき
-------------
12,30
-------------
ここに 天津御子 八百萬の神たちを率き
て 越の国に 御輿出ましき 国の長老 主
木八郎 眞摺四郎 鶴之巣郎 向き立ちて
砺波の国 まきの山に 建て込みの大宮を
太敷きて 天津御子 臣の神たちを 招ぎま
つらにとて そが合 一里内の一町の毎に
檜以ち造る 宮入門代を建て 根木に 楸木
を瑞垣と結イ固め また 宮入門代の前津辺
に 千萱を輪なし結イに 結イ立て 現人
身の穢れ祓わしに 各も各もに 衣潜れの清
まりなさせき 故 大御田族 天津御子の命
臣の神たちの御前を 先廻みの拝み道なす
ここに 天津御子の命 臣の神たち これ
の所に在座ます 国内の大御田族 尽々に
集イ来て 昼 夜 分別めず 手拍ち 歌イ
舞イ 笛吹き 鼓打ち 拆く鈴を打たし
散らげ 五十鈴を転かし 昼ハ 幡立て 夜
ハ 手火伏せ 神在座に 仕エまつる
-------------
12,31
-------------
ここに 臣の神 百千の手風 萬の手風の
神訓りの 御訓り伝てましき ここに 天
津表春之男の命 天津萬春姫の命 能美瀬の
国に 御輿出ます時に 神代山のそのみの亙
に 走ります時に 現人 老も 童も 逸速
に 御輿 追イなす 故 これの道 狭く
迫けりき こを以て 現人三人 千尋の険し
谷に 落ち入りき そを 御輿辺に見そなイ
たまイて 弥々に 跳び入りまして 抱かエ
伏さしたまウに 息切れてげり ここに 天
津表春之男の命 喪屋ならまし と 息呼ぶ
せなしますに 益良二人ハ 蘇りぬ されど
翁ハ覚めずなり 故 板挙骸を挙げて 親
族を集エて 喪屋を作らし 小門の潮を汲ま
せて 冷め湯となし 板挙骸を 清まりなさ
せ 御瑞召しの衣を 板挙骸に斎袴冠を 着
さしめて 手にハ 貴玉を持たし 静かに
座隠したまイて 召し輿に収らして 宇ノ気
山の眞洞に 葬らしましき
-------------
12,32
-------------
ここに 村の毎の翁自 皆申す これの国
内の現人 多有りて 八百道の事業ハ 賢し
かれど 稲作り良わずて その実上らず こ
ハ 常寒の国柄かもか 神の訓り伝てに 上
らしませ と まをす 故 天津御子の命
豊宇迦之男の命 豊宇迦能売の命に 事依せ
の神訓りなせ と 告りたまイき 故 豊宇
迦之男の命 豊宇迦能売の命 越のけぬ山に
立たして 天之稲依日子の命 天之稲依日女
の命に 告りたまイき これの国ハ い雪
多降るの国なり 故 けさり月の朔に 水津
作りなし 木の枝を焼き 灰曝け 早稲なす
稲実に包塗し 水津界に けさり蒔きの 種
津蒔きに 苗立てして 水津常田に【はるみ
つつきたて】みなつの十か日に 一日 水放
ち 秋されば 速 水放ちなば 眞実取り
美からにと また畔蒔き 苗取り 苗伏せ
水掛け 草取り 肥撒き 端取り 崩求き
堰取り 尿撒き 芥子取り 刈り卷き 眞実
取り 乾し撒き 搗き取り 尽々に 教ゑ訓
り伝てましき また 水津水ハ 冷や凍りて
稲生イに良わず 故 水口を 堰 塞きて
細土樋を 甚 長掘りに 掘り通らし貫き
に 堰越ゆ水を 細道で入れ 流れ水の湯水
なすを 早苗田に 頓掛けて 漏れる水を
熟しに掛けよ と 訓り伝てましき 故 教
エの随に 事放りなすに 秋の垂り穂 一尺
半ばに 満ち満ちて 国内 穏びなす ここ
に 国内の現人 大山 小山の黄金 白銀を
求きて 玉如の八千玉に 火丹色の繭蚕紐に
八重房を 結イ垂らしまつる 越根別立山
彦の命 越根別立山姫の命 砺波眞木山の宮
に 残り留り 八千道の訓り伝てと 仰きま
しき
上津文 十二の綴り 完エ
-------------
13,1
-------------
上津文 十三 綴り
ここに 天津御子 八百の神たち一群 陸
の国に 御輿出まします時に 陸建の頭 翁
自 敷山白蚕の頭 沢二郎の頭ども 刈田の
国 あうゐ山に 新宮を建て 国内首の緒
五十人 参イ迎きまつりき
-------------
13,2
-------------
これの宮に 国内の御田族の頭どもを 長
集イに 集イまして あらゆる 八千道の訓
り伝てましき 道々品 いと多なれども 八
玉 石玉 作らエず と まをす 故 金山
毘古の命 金山毘売の命の御子 奇山叢鳥の
命 妙山叢鳥の命 豊櫛萬種別の命 豊櫛萬
種姫の命 豊代大道別の命 豊代大道姫の命
息吹明底立姫の命 彦明座立の命 姫明座
立の命たちを 誘き 神山に出まして 山本
の大麓の 厳し岩を 全貫かし 山狭身の眞
狭身に 空け 山頭を押し開るし ここだく
に 小割り 狭並めて 銑土を 八百萬肩を
取り出て 小山の峡辺らに 八尺穴掘り抜が
し 大峡 小峡の素木を切り こ手繰りに
八尺穴に間鏈りて 銑土を 散らに撒かし
幾重嵩に重ね 鎚火を燧りて 高天に焚き上
せ 弥焚き蕩して 燃エ完エて はくねに成
り 此を 磐杵 磐臼に千搗き 百搗きに
小砂なす 流し槽にやゐらかし くりこくり
こに 揺らなし 衝手風吹きの風壺に 赫り
やゐらし はくね砂をやゐらし 八重嵩に重
ね 眞木伐り 鎚火を燧り 衝手風吹きに
八雲開けに 吹き垂らし 北に流れ出るハ眞
金なり 南に淀み出るハ黄金なり また 小
田山 然々に 白銀 鉛金 小田山の尾尻
然々に 錫金 水金なり
-------------
13,3
-------------
羽山之男の命 羽山之女の命の御子 建玉
彦の命 建玉姫の命 細小彦の命 細小姫の
命 桜彦の命 桜姫の命 別玉霊彦の命 別
玉霊姫の命たちを誘き 中山に至り立たして
山麓の頭さを 全抜かし 銑土の転げ岩を
拆く割りに 割らし 藤縄を 八丈 引き
繰る巻かせて 大巻手 小巻手に掛け 岩下
に 大竹を櫛並めに 並めさせ その上に
拆く割り持上げ 巻手掛に 藤縄を包め包め
に 脆石を ころろころろに 引き揺らし
其皮を千剥きに 焼銅の滑さ滑さに はり取
らし 抽ける玉ハ 勾玉なり 故 然々に抽
ける玉ハ 明玉なり 故 然々に抽ける玉ハ
面照玉なり 故 然々に抽ける玉ハ 産巣
沙玉なり 故 然々に抽ける玉ハ 清み玉な
り 故 然々に抽ける玉ハ 秀玉なり 故
然々に 抽ける玉ハ 秀丹玉なり 故 然々
に抽ける玉ハ 揺らく玉なり これの玉枯実
を取りて 目粗石磨り 小石磨り 男女石磨
り 滑さ石磨り 黄金石磨り まとめて 金
磨り 木磨り 綿磨りなして 綺羅び玉なす
国内人 金世延イ 玉の世延イなりき 故
天津御子の命 国内の現人に 告りたまイ
つらく 産の子の八百裔に 道別ゐに言伝て
て 陸の大国に 軽姫の命を 刈田の国の合
山の宮に遺し 国内の人草の 便め良さに
道々の訓り伝てなせ と 告りたまゐき
-------------
13,4
-------------
ここに 鹿具島の国 松子山の宮に 常陸
彦の命 常陸姫の命を遺しましき ここに
常陸の国の翁自 丸子の小太郎 まをす 並
木山の谷方に谷蟆有り 奴が躯 小山なす
目ハ磨り臼 手ハさウがたに 小山谷の峡
一跨なす 折々 これの辺り出るに 人草を
害ウ また 木倒し 草倒しなして 荒びな
す と まをす 故 ここに 天津御子の命
八心思金の命 天之児屋の命 天之太玉の
命 思イ議りたまゐて 手力男の命の御子
天之日鷲の命に告りたまイつらく 並木山に
向きて 大谷蟆を逐エ また 副頭八十を率
きてよ と 告りたまイき ここに 天之日
鷲の命 御答エまをさく 吾ハ 手力之鬼神
の御子なり 谷蟆を逐わに と 八十頭を率
き連るべくも 思イ侍らず 吾妹ハ 岩拆根
拆の神の御子 天之日鷲之女の命 共並べ往
かに と まをすに 諾ウ ここに 天之日
鷲の命 天之日鷲之女の命 ここに 男神ハ
黄金巻かさの 焼太刀を佩き 女神ハ 樫
柄の眞鉈を振らして 並木山に出らましき
小山なす谷蟆 躍り跳びて 命を 奴が腹下
に 乗り敷き 動振る 故 命 動振れなが
らに 奴が咽喉節を左手に握み また 右手
に 太腹節を握みまして 奴が脚支を 引き
ししぐり いやをの声掛けに 頭持上げに
空投げたまエば 一岳飛ばしに落ち 暫し
て 眼を怒らし 向き返らに状なすを 姫御
子走して 鉈柄の後付きに 掛け打でたまエ
ば 高そに 昇せ落ちて 御谷 岩転に落ち
うじて 奴躯 八に裂けて失せき 故 その
谷を鷲谷といウ 今 南志谷といウハ訛りな
り また おなまこでの里といイ 谷蟆の棲
みし辺を 九谷といウ
-------------
13,5
-------------
ここに 常陸の国人 名ハ 魚釣兄の頭
魚釣弟の頭 新治の国の河内山に 軍営宮を
建て 天津御子の命 八百頭たて 一群 神
求ぎまつり ここに 国内の大御田族の頭ど
もを 一集イに集イまして 八百千の千道を
訓り伝てましき ここに 猿田毘古の命
天之宇受売の命 告りたまわく 八ぐり国と
海辺国ハ 味塩の凝りなす所なり と 告り
たまイて 塩椎之老翁の命 長狭姫の命に【
此く疫ハ せまじ】と まをしたまイき 故
事勝国勝長狭の命 長狭姫玉諸味塩の命
並めに御子 潮大別の命 大別姫の命 陸奥
の小円の海に 出まして 男女を集エて 訓
り伝てまさにと 弥並の浮洲埴以て 狭を築
かし これの狹に 潮戸開き放ち 潮引き
平地掻き 斎地掻き 竹括りの木板並を 底
嵌めて 其に 潮掻イ掬イ 担わせて 潮配
り 散らかし 浮撒き 垂撒き 三か日に散
らけ 八重境に砂取らしに 内抜き水を 陸
浜地に 埴土を 八尋まぶさに 対なし 素
木を 横手繰り 茅萱並め敷き 埴土を秀並
めに 転石をぶち込まして 抜き水を流し動
まし 竈より火燧りて これハ味塩なりき
-------------
13,6
-------------
ここに 天津御子の命 八心思金の命 天
之児屋の命 天之太玉の命の神たてに 告り
言なしたまイつらく これの太曰理の国道ハ
人草多なれど 畑津 水田津 並め枯れな
し また 野津 山津を見れば いと 麗し
くて 水田津 畑津 多に作り 固めば成れ
る と こそ聚める 八百土柄なるかも と
告りたまイき 故 三柱の神まをしけらく
諾 御詔違わじ 然あれど 毛物多なすか
らに 陸道 山狩る者 偶に偶にハ 毛物た
めに 冐さる 故 毛の荒物 毛の柔物 毛
無物 柔物 羽津虫 這ウ虫を 逐イ 田逐
イに 逐イ放ちて 大御田族のために 水田
津 畑津 弥誘び開かゐてなも良けに と
まをす ここに 天津御子の命 宜なウ 故
三柱の神たて 御議りの言割りまして 悪
なす 毛物類る物を 殺し尽くして 田之土
開かイなさしめにとて 更に 神たてに告ら
しき 故 その悪き禍物逐イたまウ神の御名
ハ 山雷之男の命 高淤迦美の命 神若雷の
命 磐筒之男の命 大力體立の命 樋速日の
命 建御雷御祖の命 建布都の命 天之穂日
の命 御熊野の命 五十猛の命 大屋若武の
命 大屋富辺の命 八島士奴美の命 青幡佐
草日子の命 都留伎比古の命 天之冬衣の命
衝桙等乎留日子の命 積羽八重事代主の命
阿遅鋤高日子根の命 加夜奈留美の命 建
御名方の命 山代日子の命 若布都の命 天
之手力男の命 天之日鷲の命 天之鈴桙の命
天之日別の命 天之羽音の命 長白羽の命
天之羽槌男の命 天之櫛耳の命 天之神立
の命 天之櫛明玉の命 天之御桙の命 八尋
鉾長依日子の命 天之三降の命 天之栲丈の
命 御子 豊木日子の命 豊鋤日子の命 天
熊之大人の命 御子 国之玉敷の命 萬八建
男の命 己も己もに 大伴の八百千長 担ウ
て 手配り撒きに 国内 越国 陸 狭依科
常陸の大国 小国 郷 村の益良 逸りの
現人 勢子して 毛物 毛無物の 悪災ゐる
禍物を逐イせな と 現人に 猛矛 八鉈
を持たしめ 大伴の八百人ハ 太木弓の高張
りに 四羽に結ゑる矢を持たし 八幡の太刀
を佩かし 袖成しの衣に 太襷を掛け 頭き
を締めて 髻を放らして 一身の内裳を着さ
して 各々に 眞添び また 現人ば 一尋
の猛弓 猛矢を持たさせ また 各も各も
得物持有り 彼方来ば 矢射れ 此方来ば
猛矛に殺せ 得物殴れ 此を言流せ と 告
りたまイき
-------------
13,7
-------------
ここに 高津神たち 厳つに 御装イまし
て 御手配りに 陸の国の守上 越の国の守
上 野陸の国の守上 常陸の国の守上 狭依
科の国の守上 四方 八方 配り出まして
国内の現人 大伴の長共 勢子 迫出る 山
野 入るの時に 猛音を散らかし 銅羅打ち
猛放き 猛曝しに散らかし 竹法螺吹き
太鼓 小鼓を打ち鳴らして 莵 獺 狩りな
すに 栗山ゆ 熊とおみと 百千 騒エに向
き出る 故 明津神たての御前に 厳出る神
たてを 眞当に 猛り跳び 散ぎなす 神た
て えよやに 右 左手の拳以て 打ち殺し
騒エ礫に投げ殺し 尽々に 打ち殺したま
ウ時に 其が身 三尋を横たエ 一嵩に 縮
れ毛伸延エたる大熊 幾匹がら怒らしに
怒り とゆやゆ 疾く 跳び走すに 跳び来
ここに 山雷の命 高淤迦美の命の御前に
喰み掛けに たくじ掛かる 奴が姿を見れ
ば 特牛二つを 並めたるが如なす 故 二
柱の神 左右手上げに 引き掴み 眞嵩高に
岩輔に 手繰り投げに うつぶち打つに
奴朋の羆 各がこちこちなるを 二柱の神
走して 奴が面を 踏み倒せれば 尽々に
眼 口 耳 鼻 尻孔ゆ 衣魚出りて 川な
すに 死去にて失せき 続きに 大狼 幾頭
跳び来 奴が形ハ馬なす 挑み暴きて 齧
ろ噛みてほたき参よ来 故 経津主の命ハ
ゆらに揺らがし 此に衝ける手槌 羆 尽々
にたりまに 打ち殺しなす かけばエ山の峡
より 子勢子に急かれて 百千萬の羆 荒熊
罷出る 故 八島士奴美の命 青幡佐草日
子の命の御前に 跳び来 故 天の石弓以て
残り無に 射殺しましき
-------------
13,8
-------------
中に 甚 太き山如歯の荒熊八頭 身に
千條の矢を受けぬ 然れども きくイましに
威猛に唸りて 其が毛を 面に打ち垂れ
眼光りして 火を吹かきて 脚の爪深に 一
尋松を伐り折りなし 喰イさ齧り 木立つ山
に 荒び廻るに 大木立 小木立の分目無に
踏み倒し 噛み倒し 野山を響まして 命
の立てりますを窺ゐ見て 八頭並めに 頭先
喰わに とほだきに 眞向イ跳び来 ここに
命 天の石弓の 秀の弦掛けを鳴らして 大
歯の荒熊の眼に 下貫きに 突き入れますに
歯の荒熊 後退るを 弓尻以て 眞振きに
撥ね上げたまエば その身 岳羽根を越し
落ちて ふむぞり亡せき 八頭も斯くなす
神若雷の命 磐筒之男の命 大力の命ハ 眞
鹿妻の山の辺に在すに 幾らの羆 喘き喘き
に 転び跳び来 威猛弓に 威猛矢以て 尽
々に 射殺ましき
-------------
13,9
-------------
また 虎猪 八十頭ハ 洞隠りなすに 千
萬の子勢子人に 嘯かれて あやまたばれて
いきづる 其が形ハ 白猪にして 脚伸び
て 立ちて往き 手ハ七つに裂けて 能く物
を握み走るに 手足以て為す いち迅く為す
其の力強く 莵を二口に喰ウて 常猪を握
み裂く 丈ハ二尋なす 故 唸みて 眼を怒
らし 牙を剥きて 三柱の神を 八十頭に取
り巻きて 喰らにとするに 三柱神たてハ
先太の要高の斎鉈を振りて 或ハたてうたし
或ハ鉈し 或ハ打ち 或ハとウさかして
尽々の八十頭の虎猪を打ち殺しましき その
屍の唸る声 山に響き 動もす
-------------
13,10
-------------
五十猛の命 大屋若武の命 大屋富辺の命
八島士奴美の命 駒の山の尾の末に 狩巻
きなす 鼠犀幾らと無く 山出る 奴が形ハ
はイまの如なす 足ハ牛の如 尻尾ハ蛇の
如にて 曲毛あり その毛毎に針なす 頭ハ
鼠の如 頭の央らに 一つの角有り 口ハせ
せり裂け 利歯五有り 奴が角 いと利き
尻尾毛打ち振るに いさ刺す 一斛物を喰ウ
怒りて 命の御前をはくじり荒連りて 啀
み跳び捻じ来 故 四柱の神たち 一本の小
太刀 弓矢を 霰雨の降れる如くに 射ぬれ
ども 弥さまに 怒り吠ゑて 動めかし 悪
ず ここに 神たちハ 千引き岩を 眞嵩に
掛けて 群居る鼠犀の眞中に投げ 嵩たたみ
て 投げ棄でましかば 一時に 皆 打ち殺
したまイき 猶に 怒りうぐめくを 椎柴の
火以て 焼き亡さしましき
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13,11
-------------
青幡佐草日子の命 都留伎比古の命 天之
冬衣の命 七峰の奥に 群がしますに 山峡
の隈々ゆ 八百千のかつちおそ跳び出る 奴
が形 猫如に 其が丈ハ小牛なす 唸り声ハ
天に響き 其が毛 薄黒白斑あり からば
きにほをずく 奴 怒れば 山を潰す 荒岩
を蹴割り 眞実を蹴割る 猪を喰ゐて 外毛
物を喰わず 奴 命の神立てるを 睨らかし
て 群立ちて 奸り来 これの時に 三柱の
神たちハ 大伴長たちに 弓矢を捨てさせて
御佩かせる 頭椎の剣を抜かして 千々群
のかつちが 眞中に跳び入り 壤え散らけて
蹴殺し 斬り殺しますに 大伴の長たちも
得物を振り 逃げるを 漏れそ無くに 打
ち殺し 突き殺し 走すハ 勢子 射殺せ
赤ぬ子ぬ 殺し亡せたり
-------------
13,12
-------------
衝桙等乎留の命 積羽八重事代主の命 阿
遅鋤高日子根の命 加夜奈留美の命 天之門
渡の命 阿津賀志の戸の山辺に 屯ろします
牙獺 幾群と無く 参ゐ出る 命の前津辺
に 後辺に火焚きい燿す 故 五柱の神たち
小峡の素木を 根引きに引き抉らし 一殴
りに 十余り 二十匹余り 打ち 殺しまし
しかば 間暫に 幾らの牙獺を 皆に 殺し
ます 次に 山豸 八百匹出る 奴形ハ 土
龍の如 頭ハ挽臼の如 眼ハ団子の如 そが
口ハ【並めさに唇垂れ身を零エる】異歯並め
にして 口開け怒るに 牝牛頭含み 項を一
齧みなす 奴に当たる毛物 毛無物 有らじ
なむ 聞こエける 故 直ちに 五柱の神た
ちの屯を 目指し 怒り来 ここに 五柱の
神たち 弓弦を切りて 祓ゑとなして 跳び
来山豸が向走せに 弓弦の切れる素弓を以て
もゆらに高振り 手振り 千振ります 撥
ね嵩 高天之原嵩に 撥ねまくばりて 打ち
倒され 亡せたり 建御雷之男の命 天之日
鷲の命 天之鈴杵の命 山代日子の命 かた
なの山に出まして 御坐します時に 日折れ
山巻きなすゆ 千萬の鹿 走り出る 奴ハこ
ろさきなる柔物なり 殺さまく欲りせず と
言て 八陸に放ちます
-------------
13,13
-------------
続きて面火照る怒り急き狒々 嵩猛に唸り
声を 現人の如なす その数 四十匹余り
各も各も 嘘た吐き 怒らかし 打たれ出る
奴 形ハ 猿如に太らに逞す 故 そが声
ば 人模なす 狩る男の子 うらうらし と
口々にた吐く 命の足座を睨みて 唸りて
とと走るを 四柱の命 告りたまわく 汝
ハ ちばやぶる 悪し頭なり 一平けに 余
さず 打ち殺すべし と 告りたまイき こ
こに 其 狒々 弥々に 怒り猛び【散きに
そりみたし】四柱神を握み裂かにと 中心の
狒々 八百千匹を 眞鏈り うぶめかして
駆け掛かる 四柱の神たちハ 拳以て 右打
た伏し 左打た伏し 大伴の長も 得物を打
ち振りて しくらなす 一拳 しくらされる
狒々 尽々に 眼 鼻 口裂け 眼飛び出て
亡せき 逃け走すハ 石礫打ち碎き 八峡
八百峡に殺し 逐れ亡したまイき
-------------
13,14
-------------
天之手力男の命 若布都の命 天之日別の
命 天之はあとの命 天之羽槌の命 天之櫛
耳の命 おおむべ山とさに川とを 跨げ屯ろ
なすに さに川の上の 大峡の大隈の 深み
谷に 身尾次きの大蛇あり 奴形ハ 蛇の太
く長く逞なり 山川 挑み い猛る うつば
ウ状ハ 天雲を横切り 長さハ十余り半ら尋
なす 奴が怒れば 雨となり 緩らゑば 風
となす 堅屯ろなす神たちを 呑まわにとで
と這ゐで 屯営を頓巻く 故 六柱の神たち
躍り出るに 大蛇 頭尾振りて 手力男の
命の眼の上に向きしを 手疾くに 奴が頭を
左右手に握みて いやをの声に 大地に投
げ棄てて そが頭を 三足の深踏みに 大蛇
が眼飛び出て 息絶エたり 続きて 数多の
五尋 九尋の大蛇 嵩々に揺り合ゐ到るを
尽々に 踏み倒し 蹴倒しなす 数多大蛇
蛟蹌き 六柱の神たち 大伴の長たち 捲り
追イて 奴が尾先を 掻ゐしぬ繰りて 樫立
の山麓の 熱泉熱泉に 打ち嵌め ぶち込み
間暫しありて 見そなわすに 熱泉 俄に
熱れ沸り 魂起り 三丈 吹き上げて 大蛇
蛟が躯 ぐたぐたに ととろとなり 消え
て とくだなす 故 そこを ととろと言
煮方と言
-------------
13,15
-------------
疾くに 栂山を 拓きまさにとなす折りに
山響み 木立鳴る 風吹かねど 木の葉揺
る 故 神たち 疎けますに 天之手力男の
命 山本細石丘 睨りたまウ時に 眞黒なる
小波の如なるもの 其が眼 月輪の如に 口
広に 左右の牙剥き出 鼻許に 一丈の針毛
生イて 命を向きて襲ウ 故 その奴形を覧
すに 幾代経にけにかりむかなり 奴が八十
手 各もに 二尋余りなす それの身の長き
ハ 六村なす ここに 天之手力男の命 四
柱の神に 告りたまわく 吾ハ 左右手取り
して 太のかりむかを 殺さな 汝神たちハ
再度 かりむかの騒ゑなすを 殺しね と
告る ここに 手力男の大神 かりむかに
告りたまわく 汝ハ 幾年経にけに 畏こき
禍頭なり これの国の現人を 折々喰ウ頭な
るかも 故 吾 汝を殺さに と 大眼荒け
ますに 火吹きて怒る ここに 命ハ かり
むかが頭を 八裂きに 斬り割り 其が身を
寸々に斬り殺しましき 其の頭の八つの斬
り口より 生れたまエる姫を 手力御調姫の
命と申す 故 天之手力男の命 これの姫を
御妻となし 美斗の麻具波比して 生まし
めまつる御子の御名ハ 白山比古の命とまを
す これの御子 天之国懸の命の御娘 戸山
姫の命 次に 狭漏姫の命 次に 川守姫の
命 三柱の神に御婚イまして 生ましたまエ
る御子 三十二人 これの三十二人の御子
百十六人 故 皆に力有りて 今も 其の所
に 力 百人に勝れる人 出来るハ 大神の
御裔の標なり
-------------
13,16
-------------
天之神立の命 天之櫛明玉の命 天之明玉
の命 八尋鉾長依日子の命 重ねさす 山の
山の辺に 出ましつに これの山の頂の洞
繁木原の洞 裂く谷洞に 土蜘蛛有り 奴が
面 盛振き 尻孔広に 八田部喰ウ 吐糸を
放りて 八重 二十重に文なし 毛物を 其
が糸に 掻イ巻きて喰ウ 現人 得も往かじ
と 大伴の頭 子勢子 現人 皆申す 故
四柱の神 大伴の長 子勢子に告りたまわ
く 奴ハ 吐糸を文なし 火吹きを強なす
ちばやぶる 奸る頭なり 故 四方ゆ 火焚
き掛けば 吐糸 焼かエなば 躍り出らに
告る 故 斯く なしつれば 諸山 皆 火
山なす ここに 土蜘蛛 煙によぢれて 二
十余り 躍り出るに 半ばハ 火に悩みて
怒りずり 躍り来 四柱の神たち 向きまし
てころなる石礫して 打ち殺します
-------------
13,17
-------------
重ねて 外山を狩らすに 名無き大岳に
木立多なしき 此に 荒振る毛物有りヤと狩
す 一匹も見えずて 人通イなす細小の道有
り 此を過るに 田之土広らなり 奥津所
家有りヤ と 求むるに 得で いと 太逞
の岩岨に 太穴有りて その穴ゆ 大なる人
出て 子勢子を見遣る 奴形ハ 眼ハ梅核な
し 鼻ハ 高屈み 口広に 色 悪白に 丈
高に 手四つ有り 脚長に 髪毛暗らに 千
緒繰る これの禍人 子勢子の往けるを目見
て 猛し岩にかまちたるを見る時に 其俄に
黒雲出て 夜如す大雨頻る ここに 子勢
人 大伴の頭 皆 恪勤なす 時に 四柱の
神たち 遠方に在して 斯く事さり 知ろし
めさして 天津菅麻を 太高串に取りなし
各もの御手に 取り振らして 天津祝詞言の
ははヤ ままヤ ややヤ ららヤ ええヤ
と 左振らし 右 振らしに 揺らに揺ら
らに 揺らがしたまエば 雨消え 雲晴れき
ここに 四柱の大神たち 菅麻の小串に
荒びつる禍人を 尽々に 打ち倒し 大伴の
長たち 倭文蔓を以て括しき 故 雄八匹
雌十二匹 彼 怖々に 四柱神に 願ぎ言ま
をす 今ゆ 現人に 悪じまさじ 故 助け
たまゑ と まをす 四柱の神 告りたまわ
く 汝ハ 心泥なす頭なり 故 助けにに由
無し 然れど 願き言の随に 命取らまじ
遠く 外津世の国に 罷れ と いイて 大
伴の長に 禍人が頭のくくずり毛を 尽々に
引き剥かして 丸禿頭なして 神逐イに
外津世の国に逐ゐましき 逐イたまゑる状ハ
四柱の大神 告りたまわく 汝ハ 賎し人
なす 悪しき頭なり 今ゆ後ハ これの御秀
の国に な 来そ とウて 西向の峰に立た
して 外津世の国に 蹴逐イます
-------------
13,18
-------------
天之三降の命 御子 豊城日子の命 豊鋤
日子の命 天熊之大人の命 御子 国之玉敷
の命 萬八建男の命 なささめ山 丹生の原
に 屯ろますに 子勢子に荒振かれて 千萬
と無く 出る物ハ 狐 猿 狸 貉なり 故
大伴の頭 射てに と 威ふる ここに
六柱の神告りたまわく こハ 和き毛物にあ
り 故 狐ハ 現人の作る 種津物を守りて
味なせ また 猿ハ 薬掘りの助けとなれ
貉と狸ハ 種津田に這ウ虫 羽虫を取り食み
て 餌しもれ また 猿ハ 河童を見ば 殺
せ また 汝 山の峡谷の沈みに 俯して
現人道に な 出りそ と 告りたまイき
ここに 神たち 告りたまイつらく 現しき
青人草どち 毛物類ウる物を見ば 殺せよ
彼が態に毒ありて 穢れなす 奴が亡せばね
ば 火 焚き焼きて 眞黒こと成して 田之
津草の益なして 立草 肥エなす また 畑
津に奸りなす 賎の這ウ虫 目見せば こ殺
して 益と成せ と 告りたまゐき
-------------
13,19
-------------
ここに 天津御子の命の 眞座なす宮を
野陸の国のくらどの国 ぼくらど国の座山
その中本に 八尋の大戸宮を建て また 秀
門屋を建て また 前に門代を建てて 眞迎
ゑまつる ここに 天津御子の命【高津神立
明津神立 清津神立 厳神立 並神立 大
伴の長たち】大伴男 八十大伴之緒 家津子
伴子 脚子たちと共に これの宮に 八年
在して 国の隅廻を造り固め 開かイて 水
田津 畑津 工道 八百道 商道 八千萬道
を 尽々に 訓り伝てましき
-------------
13,20
-------------
无邪津海の国 御輿出ます時に 国の翁主
蜘蛛手太呂の頭 舞子麿の頭 久良門の国
の 大蔵山に 参イ来てまをす 奴が国ハ
専らに 神たちの御訓り伝ての千々の道を学
びまつれば 国内 甚 穏びなす 故 祝ぎ
まつらに とて 千萬の現人 こま人の俳優
まつる とて 笛吹き 鼓打ち向きに 祝ぎ
を歌イ 舞イて歓ぎ 日ハ十か日 夜ハ九か
夜に 楽しみまをす 遠津海の国の翁主 鳴
海彦の頭 烏三郎の頭 参イ来て 舞イまを
す 国内に 醸める濁酒と清酒と 樽なし
馬と牛とに負ウせ 五百ち頭率きに 祝ぎま
つる
-------------
13,21
-------------
ここに 天津御子の命 八百の神たち 大
伴の頭たち 伊勢津の国に 御越し出ましき
これの国の翁主 埴土の六郎 網引間の三
郎 渡会の国の飯高山に したたの八重宮を
高天之原に 振り建てて 寝所設けて こ
れの宮に 御輿入りまつりき ここに 国内
の現し大御田族を集エまして 道々訓りたま
ウ 此所の菅の高山の竹ハ 並しに いと
太かり 故 天之久比奢母智の命の御子 眞
楫五十玉の命 一尺五寸の大竹を切りて 七
節切りに 八並に貫かし 八筋の緒糸を 繰
り掛け締めて 据えの竹琴とし 一尺五寸竹
節と節とに切り 小竹を根掘し抜きて 歪
の根を 上態にして 歪根孔開けに 緒巻き
を差し 節と節と竹節に 間孔取り 歪根竹
を三尺なし 節毎に孔彫りなし 節と節と
角差し 四つの疣子緒小付けて 弾き鳴らし
になして 歪根を巻綜に 火丹緒の眞耀玉を
揺ら垂らし 中津竹棹に 黄金の括り輪を
揺ら垂らして 弾き鳴らしなす
-------------
13,22
-------------
科木山あり これの科木を 櫛八玉の命の
御子 櫛弥依姫の命 これの科木を 四尺に
小切りて 十四の糸緒を繰り巻きて 眞耀玉
の緒ハ 火丹と紫に成し摺らかし 黄金の括
り輪を垂ろし 引き鳴らしとなし 据琴とな
し また 科木を取り 糸繰りになし 左右
手持たしに 筬をなし 広処太八咫取りなし
糸緒を 五掛に取りなし 火紐 紫紐緒に
眞耀玉 黄金括り輪を垂らして 手琴の弾
き鳴らしとなし 故 棚琴 竹琴 手琴 据
琴 弾き奏でて 調子揃エに歌イ散らぎて
神楽なす 故 天津御子の命 天津神たち
八百千の神たち 面白と 御手を拍たす 此
所ゆ 国守る長を遣りてにとて 常陸の国守
る上の御名ハ 常陸彦の命 常陸姫の命 野
陸の国守る上の御名ハ 野陸彦の命 野陸姫
の命 无邪津海の国守る上の御名ハ 无邪津
彦の命 无邪津姫の命 狭依科の国守る上の
御名ハ 狭依科別の命 狭依科姫の命 これ
の伊勢津別国守る上の御名ハ 伊勢津彦の命
伊勢津姫の命
-------------
13,23
-------------
ここに 天津御子の命 天津神立 国津神
立 大伴の長たち 八百の伴之緒の頭たち
淡海の国 御越し出ますに これの翁主 靫
群呂の頭 石の六郎 坂田の国 米山に 八
棟の刈菰の宮を造りて 御饗エまつる また
大御田族 湖の一尋の鯉魚を取り 膾に奉
る
-------------
13,24
-------------
ここに 滋賀の国の現人まをす 国内に
種綿無し と言て 乞ウ ここに 国押別の
命の御子 清綿玉剥男の命 清綿玉剥女の命
筑紫木棉の綿種を 豊日の綿田の小国ゆ
取り渡り来て 山田 迫田に 植エさせ 綿
作りの訓り伝てましき 故 秋の初秋に 八
百千穂満ちて い雪状成す その綿子をもが
きて 縒り子とし 竹と竹とに 車なし【お
おしくるめに核抜かしてば】さらたかさに巻
き放らこして 内廻るめに取りなし さき竹
輪なし 車績に遣り 緒掻イ巻かして 紡が
せ糸績がしに 引き出るハ 綿糸なり 故
これの糸を 八百千条に取りて 天の御衣機
に 引き張りて 縦糸となし また 糸を梭
に巻きて 横差し貫かして織れる物ハ 綿布
になもある
-------------
13,25
-------------
ここに 淡津水男伎の命 淡津水女伎の命
淡津海の国守る上と申す 秋津根の国の翁
主 登彦の頭 はななりの頭 八目児の五郎
崎守四郎 そしべの九郎 二郎の三郎 や
よたか三郎 別翁主 また 八百の現人 家
出るに立ちて 相良の国の大道の眞中に 太
き高き 清み門代を 松 柏 檜木に 瑞篠
を結イ 茅草青萠エを 千草結イ垂らし 大
門 小門の 椎の実の眞赤を 結イ副エつつ
の実の眞赤を 傍に差し並め 大木を以て
根差しとして清敷き 節々と太知りて 清床
なす 続く大道の一里に 高み八尋の門代を
立てて 赤丹に塗らして 瑞垣を結イ締め
長道の道の辺に 端出縄を引き渡し 吉野の
国の吉野山に 大宮を太敷き 八十棟に並め
棟毎に 氷木 鰹木を重しになし 前に
太く高き 秀門津土家に 小津土家に 四戸
大津土家に三戸を造る 故 造り供エて神
迎イ 八重代に保ウ ここに 天津御子の命
天津神 国津神 大伴の長 御輿入りまし
て 盞結イて 世知りよさります
-------------
13,26
-------------
ここに 神たち 国の現人の翁主に告りた
まわく これの 国内に 繭蚕の道有りヤと
ウ 御答ゑまをしけらく 無しとまをす 故
泣沢之男の命の御子 天之棚機彦の命 天
之棚機姫の命 高津糸織根の命 高津糸織女
の命 国津綾伎主の命 国津綾美主の命 国
津紡彦の命 国津紡姫の命 豊倭文男の命
豊倭文女の命 これの十柱神ハ 国の太し翁
主の結びつる頭を呼ばゐ 小玉の繭蚕道を開
かゐまさに と 愛宕の国に 御齢経る二百
余りなす婦夫 年麻呂 年麻呂が妻 高市の
国に 御齢経る二百余りなす婦夫 はかゑと
四郎 四郎が妻 若江の国に 御齢経る三百
被ける婦夫 柾の樵六郎 六郎が妻 これの
翁主の子 孫 曾孫 曾曾孫 玄孫共 三百
八十人 故 愛でたしとウて 豊宇迦之男之
女の命の 蒔かしたまエる御種を 狭依科の
国の眞阿礼山の頂の岩並に 稜の洞なるを
すくイ取らして これの愛宕の国に 和繭を
飼わし 高市の国に 荒繭を飼わさしめて
若江の国に 双児繭を飼わさしめき 故 和
繭ハ 桑木以て餌とし 荒繭ハ 堅柴以て餌
とし 双児繭ハ 桜木以て餌とし 餌食み終
エに時に 濁酒と神酒と 息吹き散らし 一
夜 二夜に 口ゆ 糸子を吐かば 柴枝に放
ち 故 湯屋を作らに 蚕茹で晒し 吐きな
すと 糸蚕の口開きてにを 広りて巻き取れ
ば 眞蚕糸なり 此を十余り撚れるハ 経糸
なり 五余り撚れるハ 緯糸なり 故 天津
宮機に引きて 貫き差し織れるハ絹なり 故
綾ハ足板取になせ 糸繰ハ 手取りになせ
と 訓り伝てます
-------------
13,27
-------------
ここに 天津御子の命 けさりの月の 月
円日の五か日に 野山を覽なわし 御出まし
ますに 山の小峡に立てる 波々迦木の木末
に 花多に咲きたり いと宜べに 目細しか
りき 故 御歌イたまイき
これの 波々迦ヤ 薄火丹著き
萬家の上に 花咲くハ
栄きくに 咲くらむ
祝ぎくに 咲くらむ
現し花かもなりに
故 これの御歌ゆ 波々迦花を 桜花とぞ
いウなる
-------------
13,28
-------------
秋津根別の命 秋津根姫の命 秋津根の国
守る上と申す 御殿ハ 吉野山の深谷間にあ
り ここに 天津御子の命 草木根の国 御
越し出ますに 国の翁主の待ち受けに 伊都
の国のおえめの大道に 八百尋の垣を作り
斎木の門を建て 野道原に 清御門代を建て
また これの道脇に 太門代を建て 大棟
木を横たエ 下棟木貫き通し 並める柱の本
方に 八つの小柱を建てて 八脚綰みを切り
込め 端出の太縄 高垣に結イ締め 住吉の
国の小山に 大室を建て 明かり籠を弥並め
庭前に 桜を積み 火焚きなし 待ちまつ
る
-------------
13,29
-------------
ここに 天津御子の命 天津上 国津上
大伴の上たち 共に 御輿に坐す時に 安良
木戸の小浜の海漁の翁主 また 粟門辺の浜
の海漁の翁主 願ぎまをしけらく これの浜
ゆ伝エる 浜々の魚釣る船 網引く船 日々
に多なす 然なれども 折々の時に 一隻
二隻 漁人 三人 五人も 往き方も弁別で
船ハ 尽々に 弾けて 流離りて 波際に
打ち上ぼせて 人ハ見エず 斯くなすこと
年に一度 また二度なす 十余り 去年ゆ
起これりとウ 故 考むるに それの時にハ
それの海原に 形 小島なる物有り 東
西 南 北に 揺ら往きなすと申す 故 火
之須勢理の命 言代主の命 思イ議りたまイ
告りたまわく 此ハ 荒鱶の悪業にあらに
故 措くへにもあらず と 一尋鰐を 粟
門に召さしまし 故 一尋鰐 参ゐ来て 並
べ伏し拝みなす ここに 二柱の命 鰐に告
りたまわく 汝ハ 津次の浦人を 取り喰ウ
と聞こゆ 故 吾 汝が朋族を 殺し捨てに
と 告りたまエば 中なる太鰐 御答エけ
らく 吾が朋垣ハ 並べて 得知らず 此ハ
おがしと申す海魚さぶらイつれ 奴形の身
の長さハ 八十余り尋あり 口広らに 歯ハ
長く 剣を並める如 眼ハ 細く長く 向面
にも 太く丸き眼あり 左右の掻き鰭ハ 円
く 太く折れ 囲みあり 手尾の先ハ 現人
の手の如に 頭ハ 円く 縮れ毛あり 奴
走しること 一日に千里なす 彼 人を喰ウ
に 一口 三人なす 大船 小船を見て 勤
労きて 船を小き小きに 囓み砕き 荒振る
なり と 申す そハ何処に棲む と 問イ
たまエば 棲み所知らず と 答ウ 汝 其
のおがし海魚を 引き来たらにヤ と 告り
たまエば そハ 吾が業ならず と 申す
ここに 二柱の神 藻の莖を引き抜かして
御幣の和幣と 打ち振り 呪訓ります
【うずぶうずぶよ よぎるが さかこ
ウば てまさに ちどはまぬ】
斯く 八度告りたまイ 四身四身に 掛
くり帯きに 眞糸掛けに 繰る巻き寄せませ
ば おがし海魚 雄雌 並めて 波の上端
を 大転けにうづま寄りに 寄り来るを 目
見たまイて 告りたまわく 汝ハ 悪じなる
頭なるかも 皇孫の命の知ろしめす 本津国
の現人を 取り喰ウ 故 由無し 然らずば
これの矢を受けね と言て 天の猟弓に
天の四羽矢を掛けて 二柱の上 並しに 引
き擬イ 諸共に 切り放ちたまエば 奴が眞
向の眼ゆ 射通して 尾尻に貫けき 故 お
がし海魚ハ 大波 弥成すを打たし 腹返ゑ
に 亡せたりき これの亡せ骸 潮の隨に流
れ 西風 南西風に吹かれて 恵美門に 参
イ込みて 島と成る 今 蝦夷道の雄鹿島
これなり
上津文 十三綴り 完エ
-------------
14,1
-------------
上津文 十四の綴り
ここに 大土御祖の命 天之宇受売の命の
御子 潮星幸魂の命 幸魂名依姫の命ハ 天
津御子の命の 愛媛の国に 御輿出まさに設
けに 天の磐船を造り 訓り伝でます ここ
に 山狩人に仰せて 大峡 小峡の 小賀玉
の燻むる樹を 伐り切らして 厚さ板 差一
尺 こ手繰り 美籠を項被さとなし 三尺に
こ手繰り 背尾被さとし 二尺長に梁とな
し 八尋木を波切となし 八尋割木を艫の門
代となし 八尋割木を舳の門代となし 五寸
木を被さ翳とし 二尋木を掛柱とし 舳の門
代の間建柱を屋掛けとし 艫の門代の間建て
肌理木の柱を大掛として 八尋かしきを波
寄せに 並座しめて 道向けとし 故 各も
の並座ハ 銅に締め結イ その柄毎に 松塊
を切り結イ 手掛けに 藤布を多垂り 鋳金
の腹子に 銅の端を 五腹突きにして 五十
櫂として 樺皮縄以て 連るりの縄とし 掛
け縄を栲縄にし 大板を引きて 禮座とし
御眞座ハ央らに 下ゆ 衾ヲ引き置かし 御
手道具を立て並め 八百の眞名船を造り 櫂
打ち 水羽根押し掻き 船掻き いく手 捩
じ手 揺り手を 眞名船毎に置きて 眞名船
ハ二帆取り 小船ハ一帆取りにし 後背を眞
帆舵とし 横左切りを面舵とし 横右切りを
取舵とし 故 各も各もの船子共に 御船曳
きの術を 教エたまイき
-------------
14,2
-------------
ここに 天津御子の命 天津上たち 国津
上たち 大伴の長たち 共に御輿入れまつり
て 曳き船曳き連るに 船子共 皆に皆に
上げ声の調子節して 歌イて 舵取りはねぶ
りなす
水緒逆に 眞祝ぎ 弥祝ぎ
忠誠々々に 神たてえ越せ
こめこめに 奴だち 延イ連れ
忠誠々々に 眞舵 面舵 取舵
ゆたら ゆたらに
宵に 呼ばエ 呼ばゐ 眞舵 ゆ
くらに 泊たせ
斯くして 愛媛の国のさわつの国の さわ
の水門に 御船 八百船泊たしましき ここ
に 新居の国のいわかきの山に 眞高の高室
を建てて 天津御子の命 天津上 国津上
大伴の長たちを迎エましき 故 国内の現し
き青人草に 萬道を訓り伝てまします
-------------
14,3
-------------
ここに 愛媛の外津御端の波多の国の 鯨
江の小浜の海漁人の翁父 日刺の斎二郎 御
館の四郎 屋隅太郎 参イ来て申す これの
小浜の奥津に 大なる海魚多なし 海の上を
ちちらす集べをまをす と 申す 故 海魚
の部を知らす大上たち 此ハ魚取りの神 火
之須勢理の命 事代主の命に申せと 告りた
まイき 故 然 申す ここに二柱の神 御
鰭萬の命 魚取広網の命 餌散迫網の命に告
らしたまイて 大海魚荒びそば 八十尋の栲
縄を 三身に撚りなし 一尋毎に 大なる釣
鈎を括し 芒毛と鈎を 括本に連なして 黄
牛の股懸の角を拵りなして 本鈎毎に結イ垂
らし 海原に流し捨てよ 斯くせば 其を喰
イて 鈎に掛からに時に 藁の弥引き目の網
を 幾尋なし 迸りして 遠巻きに置き 潜
き引きて 海魚寄せに 麻網袋に追イこてに
縄鏈りして 掛手を打ちて 引き上げて
大海魚を取れ 其ハ人草の喰イ能き海魚なり
故 これの海魚を取るに 肉鈎に釣れるか
らに これの海魚をしし魚といウ 今ハ鮪と
ウ 故 訓り訓りの道なす これ国の守上と
愛媛別の命 愛媛之姫の命 国守る上と称
エましき
-------------
14,4
-------------
ここに 天津御子の命 筑紫の国に 大御
渡りまさにとて うごの穴門の国の 長狭の
浜に出まし 御船に乗らしまして 豊の中津
の沖辺らを 過きたまウ時に はやれの月の
月籠り 四日の夜に 御雨 甚く降りて 文
目 得分かで 甚 暗かりき 故 思金の命
天之児屋の命 天之太玉の命 船の舳に反
り立たしたまイて 告りたまわく これの海
原を 天津御子の命の御船出の道なり 然れ
ども 月籠る夜なれば 文無くて暗し 故
天之細雨男の神 天之細雨女の神 沫那芸の
神 沫那美の神 頬那芸の神 頬那美の神
これの細雨を止めてよ と 告りたまイき
故 細雨止みぬ また 今夜 甚 暗きハ
海津見の神の故にこそあらめ と 大海津見
彦の神 大海津見姫の神に告りたまわく
今夜 暗きハ 月籠れるゆ 汝神 何故も
天津御子の命の大祓ゐを 斎きまつらで 海
面 斯く暗きぞ と 告りたまイき ここに
宇都志日金拆彦の命 宇都志日金拆姫の命
八平手拍ち擬なイ 吾が御祖の神の使主人
宇賀槌の頭の頭火を これの海原に 火焚
き上げよ と 告らす 故【海原の奥津火
眞火 一連 出来て 闇破りなすに 次き
て 次々に 眞火なす 暫し間に 千萬の眞
火 出来て 昼の如 なす】故 穴門の門
豊の門の息吹門を 越ゑ渡りまして 白日の
和珥門に泊たしたまイき
-------------
14,5
-------------
故 上座の国のたちみ山の 大宮戸のよま
室を 御建てて 下座の国に か門代を建て
下津辺に 大秀門屋を造り 道の長道々に
槇の黒柴垣を結イ 尻久米縄に布垂りを取
り付け 幾道長に そ引き渡しき ここに
天津御子の命 天津神 国津神 大伴の長
宮入ります ここに 白日別の命 白日姫の
命を 国守る上と称エましき 時に 怡土の
国の御輿翁 田麻呂の八郎 これの中津浜に
海ゆあけべる者あり 奴形ハ 幼人なす
面ハ猿の如に 指ハ五つ有れども 鳥の指の
如に 藻の殻を以て 衣となし 蔓を以て
帯となす 頭毛ハ短く濃く 顔赤く白く 眼
ハ細く長く 鼻と口とハ 優しく 何時も笑
面にて 足方にハ 何時も牡蠣纏イ着きたり
これを呼ばウに みそすさり と 呼ばエ
ば 出来 一人して呼ばエば 一匹出来 二
人して呼ばエば 二匹出来 三人 呼ばエば
三匹出来 益良男女 呼ばエば 出来ず
眞受家男女 呼ばエば 出来て 歓く 歌エ
ば奏づる 鼓と笛とを鳴らせば 俳優なす
金鼓打ちてば 尽々に走り御入る いと 愛
じなる者なり 故 呼び出て 御覧じませ
と 申す 故 天津神たち 国津神たち申す
天津御子の命の 御祝ぎの御遊びに 面白
き物にあるかな 故 呼ばイてよ と 告り
たまイき ここに 怡土国の眞受家男女 千
努男女 眞千努男女たちを しすみとなし
栄男女 眞千努男女緒 百余り人を呼ばイ人
となしき 故 天津御子の命 天津神たち
国津神たち 大伴の長 共に 中津浜に競イ
ましき ここに 栄男女 六十人 眞千努男
女 百二十人 端割竹を 転き音に打ち鳴ら
して 呼ばエたるに 百八十匹参イ出到る
故 天津御子の命の御言告りに 食物を賜べ
らる 諾べく また 濁酒と清酒とを賜べら
る 此も諾べ受 また柿の木の実 椎の実を
賜べぬれば 頬笑まイて歓く 故 御足しの
翁主 笛吹き 鼓打ちて 歌イ散らかせば
みそすさり 尽々に 奏でて 色々に芸なす
こを 真昼時ゆ 夕暮れ時ぬに止みぬ 天
津御子の命 八百の神たち 皆に手を拍ち
笑イ楽しみたまイき
-------------
14,6
-------------
ここに 日之御孫の命 告りたまイつらく
速日の国ハ 吾が宮処に近き国かも 故
直ちに 狭手依 一津根国ハ 吾が御子の国
廻まさに と 告りたまイて 上座の宮を
御輿出まして 白日ゆ 速日の国の えさと
の仮宮に 御輿入りましたまイき ここに
阿々蘇の国 直入の国 臼杵の国の大御田族
天津御子の命 天津神たち 国津神たち
大伴の長たち 御輿還エしまさにと 八百千
に
祝ゐ斎きまつらにの 待ち設けの御幣為さに
とウて 各も各もの家毎に 清み門代を建て
並め 宮処の眞門辺 秀門屋の前津に 小賀
玉の幾広木を 柱となし 桂の広木を雨避け
となし 檜の広木を下重となし 棚木を叩き
健切らかし 朱に塗らして 太敷き建て
檜以ち 八重垣を結イ固め 其の前津辺に
清み門代を高建て 尻久米縄を引き渡して
清まりて 清地と成しき また 家毎々々に
飯を蒸し搗きて 搗餅と成し 鏡型成しに
七つ嵩盛りて 其の上に 椎の実 赤成り
瑞葉の常木を結イて 鰭の広鰭を 女男結び
に 初葉を巻きて 待ち設けなす ここに
天津御子の命 しはつ月のひよぞぎのび閏日
に 速日の国 えさとの宮を 御輿入りたま
イき 直ちに 御輿還りす 明けば むつび
月の初め日にぞありける 故 神の禮代に仕
ゑまつる これ時に 阿々蘇の国 まゐしの
国 いイほぐら国 みづせとの国 ひかりの
国 あがちの国 直入の国 臼杵の国の そ
れの家毎に 清み門代を建てたるを 見そな
わし 聞こし召さして いと愛じく 清に
御喜びたまウ節に 御国の現人 尽々に 鏡
型に据エる搗餅を 七つ嵩盛りの上に 瑞葉
の椎の実の赤ら気を以て 五百津玉代の御幣
とし 鰭の広物 沖津藻菜も 礼代となして
奉る 故 小山なす 日之御孫の命 告りた
まイつらく これの御幣ハ 御年の初めに
祝ぎの礼なす 美し物にこそあれ 愛でるか
も と 諾べなイたまイき これの御年の始
めの祝ぎに 東の国ゆ 大海魚 小海魚 味
塩を奉り 央ら国ゆ 種々の燿玉を奉り 下
津国ゆ 沖津藻菜を奉り 伊豫島ゆ 干海魚
を奉り これの筑紫ゆ 燿り炭を奉り 八十
の島々ゆ 種々の沖津物を奉る
-------------
14,7
-------------
ここに 天津御子の命 火須勢理の命 火
遠理の命に 告りたまイつらく 汝一柱 天
の下を知ろしめせ と 告りたまイき ここ
に 火須勢理の命 奴ハ物性無し 故 弟こ
そ 知ろしめせ ここに 火遠理の命 奴ハ
弟にこそあれ 兄を措きて 何故も 天の下
を知らに と 申して 相向かに 御譲りま
すからに 日継の知ろし 定めならず
-------------
14,8
-------------
【ここに 日之御孫の命 二柱の御子に告
りたまイつらく 兄ハ海幸を知れ 弟ハ山幸
を知れ と 言依さしたまイて 天の銅鈎の
幸鈎と 天の黄金眞竿とを 火須勢理の命に
授けたまイき また 天の眞鹿児弓と 天
の眞鹿児矢を 火遠理の命に 授けたまイき
ここに 火須勢理の命ハ 海幸に知るし得
まして 大海魚 小海魚を採らして 現しき
青人草を 恵まイたまイき 火遠理の命ハ
山幸に知るし得まして 荒びて 畑津悪じな
す毛物を 射殺し 灰焼きの形なして 畑津
の御物として 水田津畑津に 幸わイまして
現しき青人草を 幸わゐたまイき ここに
二柱の神 相向かに語らイたまイて 幸代
エまして 兄の命の暫の用に 天の眞鹿児弓
を任せ 弟の命の暫の用に 天の銅鈎の眞幸
鈎を任せたまイき 然すかに 或る日の黄昏
に 火遠理の命「海中に投げ打つる釣鈎を
海原に失わして 求ぐ由無くて 空手づに
あけりて 帰りたまイき」】【故火遠理の命
御心慨くまして 思ほさしたまウハ 大分
の国の速吸門に往まして魚釣りに一つ海魚も
得ずて 遂に 釣鈎をさエに 海に失イつ
と 夜ハ九か夜 昼ハ十か日 食物も召さず
て 御嘆きたまイき 故 火須勢理の命 こ
れの弟の命の御嘆きを聞こし召さしたまイて
往きて 弟の命に告りたまわく 斯く 御
嘆きます故ハ 釣鈎を失わしたまイつる御嘆
きにこそ 吾ハ 釣鈎 幾らも有れ 其を
な 嘆きたまイそ 本より 釣鈎ハ多あり
と 新鈎を作り見せたまゑども なを 憂イ
ます 故[御佩かせる剣を破りて 八千ちの
鈎を鍛して 一箕に盛りて 易ゐ見せたまゑ
ども]兄の命の真心を諾なイて なを 御心
に恥じさせたまイて】また【速吸門ゆ 瓜生
の小浜に至ります時に[川鴈の 罠に掛かり
て 窘むを見そなわして 吾 兄の釣鈎を失
イて 罪の有るを 兄の命の恵じまゐに 救
けますから 其の功しを 報イまつらに と
此処に来つ 汝 罠に掛かりて 窘む 故
兄の命の 吾を助けし如 吾 汝を助けに
とウて 罠 捲らし 放ちたまエば]これの
川鴈 童と成りて 西の山の辺に走しき】こ
こに 童 麓山に消して 斯く申す
-------------
14,9
-------------
故【塩椎の翁の命 これの浜に参イ来て
まをしけらく 何にぞも虚空津日高の御子の
神の 嘆かす故ハ如何にそも と 問イ申せ
ば 答エたまわく 兄の命と 幸代ゑ為しつ
るに 其の釣鈎を 海に失イき 故 兄の命
告りたまわく 吾ハ 釣鈎ハ多に有り 必
ず な 嘆きそ と 慈みます 然れど 心
萎エ 奉らずハ 兄の命 天津御祖の神に
如何に 返り事申さめ と 思イて 哭き悲
しむ と 告りたまイき ここに 塩椎の翁
の命 然 な 嘆きましそ とウて[袋内ゆ
眞黒の九十九髪櫛を 取り出て 其の生ウ
る土を見そなわすに 三つの尾先の山ハ 甚
宜しとて 其の土に投げ抛たしまししかば
五百箇竹叢と成りき]故 此所を竹生山と
いウ その竹 素斧を取り 八つ割りに 取
り割き 間無き籠の小船を作り 其の船に乗
せまつり 教ゑ申さく 奴 これの船を押し
流してに やや暫し 往ませなば 美し道有
らに 直ちに 其が道を乗りて 往まさば
湯津香木の樹有らに その内に 大室有り
これ 海津見の宮なり ここに 安らわせた
まエ それの宮の娘 窺間見て 謀りなさに
と 教エまつりて 押し放ち遣りませば
自づからに流れて 沖津に流れ到りて 小海
なる 深み所に沈みにき 故 塩椎の翁の教
ゑの隨に 少し往まししかば 美し小浜あり
直ちに 籠の小船を捨てて 浜の隨に 往
ませば 鱗の如に造れる宮有り 其の宮の前
に 秀門屋有り 其の殿戸の傍エに 湯津桂
木あり 枝葉 繁く翳せり 其の木の許に
隠り伏せてまします】【ここに海津見の神
豊玉毘古の命の御娘 豊玉毘売の命の侍女
玉碗を以て 前なる玉井の水を 汲めど汲め
ど 玉碗に得充たず 俯して 井の内を見れ
ば 水底に 人の笑める影あり 奇しとて
仰き見れば 甚 麗しき男子 桂の木の許に
隠り立たします 貴なり と 漫に思イ
ここに 火遠理の命 其の侍女に 水を乞イ
たまエば 侍女 水を汲みて 玉碗に入れて
献る これの水をば 得 飲みまさずして
御頸に掛かせる勾玉を脱かして 御口に含ま
せ 其の玉碗に唾き入れましき 直ろに 其
の玉碗に着きて離れ得ず 故 其の玉の碗に
着きながらに 豊玉毘売の命に奉りき 故
其の侍女に 門の外に 人有りヤ と 問イ
たまエば 御答エ申す 殿戸の前の傍ゑ 桂
の木の許に 甚 麗しき男子 居ます 醜女
ハ 君のみ勝れて麗し と 思エりしに 君
に勝りて いと 貴し これの男子 水乞わ
せの隨に 献りしに 然々に 玉着きながら
に 持ち参イ来て侍らウ と まをす】【こ
こに豊玉毘売の命 奇し と 思ほエて そ
の玉碗に着ける玉を 御手以て 取らしたま
エば 事無くて 御手に留まれるを 目見ま
せハ やごとなき眞燿玉なり 懐かしとて
直ちに 門の外に立ち出まして 御愛で 目
合イなして 還り入りまして 其の御祖 大
海津見の命に 申したまわく 吾が門に い
と畏き 雅び男居ます 常所に在らず[天よ
り降らば 天の垢有るべし 地より来たらば
地の垢有るべし 眞事に目細し]故 虚空
津日高とウ神に在らに と 申したまイき
-------------
14,10
-------------
ここに 大海津見の命 己づからに 出見
て これの君ハ 天津日高の御子 虚空津日
高に在せる神なりとて 直ちに 宮内に率て
入らせまつり[稲茎の八重畳を敷き また
蚕糸繭の布敷きの八重畳を 其の上に 敷き
並め それの上に坐せまつり かたし敬イま
つりて 百取の机代の物を供エ 御饗ゑまつ
り]厳とに その御娘 豊玉毘売の命を婚せ
まつり 目合の礼を了エて 斎きまつりき
ここに 大海津見の命 天津神の御子の命に
問イまをしけらく 美し御子 ここに 出
来ませる故ハ 如何にそもヤ 詳らかに 此
処に 物侍らイね と 申しましき 故 其
の火遠理の命 告りたまわく 兄の命の眞心
以て 吾を慈しみ愛でます状を 然々と 詳
さに 語りたまイて また 兄の命の厚き御
心を 報いまつらく 思ほゆ と 告りたま
エば 大海津見の命 美し畏こし 吾議りて
に と申す】
-------------
14,11
-------------
【ここに 大海魚 小海魚を集エまして
釣り鈎を 問わせたまウに 皆知らず と
申す 中に 眞海魚 申さく 此ハしも 速
吸口女 久に 口切りて 咽喉に 刺有りて
物 得食らわず と 申す 故 口女を召
して 咽喉を探りしかば 果して 釣り鈎有
りき 故 これの海魚を神に奉らず】【ここ
に 火遠理の命ハ 豊玉毘売の命に 其の宮
に 神留きまつりまして 睦まかに親しみて
三年を経たまイき】ここに 天津御子の命
御妃 木之花咲耶姫の命ハ 火遠理の命の
久しく還りまさぬを 甚く 御嘆きに御食
進めずて 大御身 穏びませずありき
-------------
14,12
-------------
ここに 火之須勢理の命ハ 天之思金の命
天之児屋の命 天之太玉の命に 願ぎ告り
たまイき 故 三柱の神たち 議りたまイて
猿田毘古の命 またの御名ハ 大土御祖の
命 天之宇受売の命 またの御名ハ 天之豊
尾迦比売の命に 御迎ゑまつらにヤ と 問
わしたまエハ 諾べ と 告りたまイき こ
こに 二柱の神 豊国の国東の浜に出まして
姫奈米の高津の澪前に 立たしまして 告
りたまわく 吾ハ 天津日高の使主人の神な
り 海中を 道引く魚有りヤ と 告らした
まイき ここに 比良夫貝 多に出来て 山
成す 故 磯辺ゆ 上り見ます時に 大きな
る海魚 参イ来て 奴に 背らせたまゑ と
まをす 故 これの大海魚の背に乗りたま
イて 汝ハ 吾を 海津宮に 誘イ往かウヤ
と 告りたまエハ 奴ハ 海津宮の迎斎き
なり と 申す 故 これの海魚を 鯨とい
ウ ここに 火遠理の命ハ 海津宮に在して
豊玉毘売の命と 親し楽しみます 然ハあ
れども 御祖の命の 吾を思イたまイて 悶
がらしたまわに と 憂ぶれ嘆きます御心止
まずて【大きなる嘆息 一つ なしたまイき
】
-------------
14,13
-------------
故 ここに 豊玉毘売の命 其の御父に
然 申すに 大海津見の命 御婿の命に 問
わしけらく 火遠理の命 然然に 嘆きぬ
と申しき ここに 海津見御祖の命 海津見
姫の命 祖困まし 兄敬ゐます御婿の君 虚
空津日高に 還しまつらに とて 彼の口女
の含みたる釣り鈎を 取り出て また 金の
三筋の新鈎を 多なし 持ち捧げて 申しけ
らく 吾君 良き幸を 願ぎまさに時ば 密
かに これの鈎以て 左手にま翳し【吉々鈎
幸鈎 厳鈎 美鈎】と 呪訓りて 打ち頂
きて 其が所も狭に 撒き敷きまさば 三年
経で 貴し また 禍心なすものに 与ゑに
時に 密かに【これの鈎を 右手にくざし
貧鈎 淤煩鈎 須々鈎 宇流鈎 と 手拍ち
呪訓り 三度唾き 後手に投げ棄でまさば
】【その人三年経ずで 貧しからに】と 秘
め言の訓り伝てましき
-------------
14,14
-------------
ここに【大土御祖の命 豊尾迦比売の命ハ
鯨に乗らして 海中に沈みたまウ時の御名
を 都夫多都御魂彦の命 都夫多都御魂姫の
命 その水底に 沈みたまウ時の御名を 底
度久彦の命 底度久姫の命 また 陸に着か
せたまウ時の御名を 阿和佐久男子の命 阿
和佐久女子の命と申す】故 然して 美し浜
に出上りまして 美し道を往きますに 秀門
屋の前に 清み井有り ここに 女男二柱の
神 これの井の水を 茅萱に振り注ぎて 手
打ち 八祓しましき ここに 大海津見の命
天の高津の小室津に 至りますと知らして
親ら 出迎ゑ 宮内に伴イ 高座に招ぎま
つり 八階の机に 種々の物を以て 御饗エ
ましき
-------------
14,15
-------------
ここに 外津御父の命 伴脚の高膳に 火
丹の堅し江浦草を 掻イ敷きて 潮満るの燿
玉を持ち出 また 外津御母の命 伴脚の高
膳に 紫の堅し江浦草を 掻ゐ敷きて 潮干
るの燿玉を持ち出 目高に抬げまつる ここ
に 大海津見の命申す 今 吾が捧げまつる
ハ 潮の満ち来る玉なり 妹が捧げまつるハ
潮の退き入るの玉なり 玉振る術慣みハ
火丹玉を 潮に浸しまさば 潮 自づから
忽ちに起こらに また 紫玉を浸しまさば
潮 自づから 忽ちに退かに こハ 現し国
の祭り振る玉なり 故 天津日継知ろしめす
御子の命に 荒ぶる禍事なす者ハ これの二
つの玉以て 溺ぼし逐イませ また 兄の命
の告りたまエる事の如くに 汝神ハ天の下知
ろしめせ 吾子よ と申す ここに 猿田毘
古の命 宇受売の命に申しけらく これの
捧げまつる燿玉ハ 皇御祖の命の 幾代か経
まさに 寿ぎの御幣物なり 故 事立ちたま
ゐね と 申す
-------------
14,16
-------------
ここにまた 大海津見の命 八尋宇賀椎を
召さしたまイて 告りたまわく 天津日高の
御子 今日の足り日に 豊道之原の宮に 御
還ゑります故に 汝頭ハ 天の使主人 国の
使主人 海辺の使主人を知れる頭なり 故
婿御子を送りまつれとウて 彼の八尋宇賀
椎の頭背に 日子御子の命と 豊玉毘売の命
とを 乗らせまつり 眞尋なる 宇賀椎雌雄
を副エとなし またの宇賀椎に 阿和佐久男
子の命 阿和佐久女子の命とを 乗らせまつ
り 宇賀椎雌雄を副エ また 屯宇賀椎ハ
潮満つる玉を 頭頂に戴かせ また 宇賀椎
女にハ 潮干る玉を 頭頂に戴かせて 競わ
しましき ここに 三番の宇賀椎 海路翔り
雲翔りて 豊の眞永山に着きし所を 八雲
山といイ また 日高御子の憩わします所を
彦の山といイ また 阿和佐久の神の控ゑ
たまイし 所を櫛山といイ また 宇賀椎の
顕ハなす所を椎見山といイ また 屯宇賀椎
の来たる所を宝山といウ ここに 屯宇賀椎
これの山ゆ 翁と媼とに成りき 故 これ
の御名 塩凝彦翁の命 塩凝媛媼の命と申す
二つの玉を 大宮に捧げまつりて 住みし
所を翁姥岳と言 また 八尋宇賀椎 淡海の
湖に留まりし島を 宇賀霊島と言 また 別
の宇賀椎 陸の国の白河の山に 住みし所を
宇賀霊野と言
-------------
14,17
-------------
ここに 天津火須佐理の命ハ 弟 火遠理
の命に 汝ハ常人ならず 天津神の心伝て
重き神にしあれば 天の下知らせ と 告り
たまゐき ここに 火遠理の命 諾べ告りま
せずて 言返し申す 兄 火須佐理の命に
天の下を知ろしめせ と 告りて 争イ止ま
ずて 二十余り年にならせたまイぬ 然れ然
れ 定まらずなむ ここに神たち 火遠理の
命の御姿を 窺わせますに 眞事に兄 火須
佐理の命 告りたまゑる如に 昼ハ 天の気
を帯ばしたまイ 夜ハ 御影燿して 御殿内
外の処辺 甚 明かかりき 故 天の下 知
ろしめさし賜め と 皆申しき ここに 天
之火須佐理の命ハ 弟の命の頻並みに 承諾
きまさぬを 甚く 悲しと思ほしまして こ
ハ 吾が世に経れる罪なり と 御嘆きの隨
に 豊道之原 高千穂の岩屋に 立て籠もり
て 緊の岩戸を 閉し固めたまイて 磐隠り
まします
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14,18
-------------
ここに 八百萬の神たち 神集イに集イま
して 高天之原の神業に仕エまつる 故 天
津思金の命ハ 太占の御占に仕ゑまつり 天
之児屋の命ハ 太祝詞言に仕エまつり 天
之太玉の命ハ 八十御幣に仕ゑまりき 故
天津神の御占叶わしまつりて 天津皇孫の命
の御子 火遠理の命に 天の下知ろしめせ
と 言依さしたまイて 天邇岐志国邇岐志天
津日高日子火火出見の命 といウ御名を下し
斎ゐたまイき ここに 八百萬の神たち
健気に喜ばゐ 御手を拍たし あウ と 申
す 時に 思金の命 天之児屋の命 天之太
玉の命ハ 磐屋戸に 頓 参イ立たしまして
此く然の太祝詞言 申す時に 兄の命ハ
磐屋戸を引き開かせたまイ あな 嬉し あ
な 貴と と 歌イて 出たまイき
-------------
14,19
-------------
ここにまた 天津皇御孫の命 火須佐理の
命に 告りたまイつらく 汝ハ 弟の命の
天の下知ろしめさに日知りを知らせ と 天
照国照日子火之背持の命 といウ御名を下し
たまイき
-------------
14,20
-------------
ここに 天邇岐志国邇岐志天津日高日子火
之邇邇杵の命 天津日高日女木之花咲耶日女
の命ハ 日の大御神の依さしたまゑる 大八
咫日八咫の御鏡 天之叢雲御剣を 天津高御
座の敬座の上に 斎きまつり 表辺に 高座
なして また 大海津見の命 捧げ物の潮満
る玉 潮干る玉ハ 美し敬玉の 国知る玉な
り とウて 天の下知らせる御子 火火出見
の命に 三種の神宝として 依さしたまイき
また 天照国照日子火之背持の命 妹 彩
門日女の命ハ 天の下を便めを 知ろしめさ
に御子の 眞副エの神となれ と 八尋鉾を
賜イき
-------------
14,21
-------------
御妾 岩長姫の命の御子 宇摩志眞知部の
命 眞知部姫の命ハ 国代の神となれ ここ
に 其の天之児屋の命 許登能麻遅媛の命に
御婚イまして 産みませる御子の御名ハ
天津表春の命 次に 天津下春の命 また
言代姫に御婚イまして 産みませる御子の御
名ハ 櫛玉八隅の命 次に 大淀姫の命 次
に 天手萬の命 これの 天津表春の命 八
島士奴美の命の 御孫の御娘 萬春姫の命に
御婚イまして 産みませる御子の御名ハ
萬祥持の命 次に 弥依姫の命 次に 糸姫
の命 次に 鉾楯彦の命 四柱の御子を 産
ましめたまイき 天之下春の命ハ 和久産巣
日の命の御子 武乳速彦の命の御子 豊帯日
蔭の命 御娘 建春姫の命に御婚イまして
産みませる御子の御名ハ 玉敷彦の命 これ
の御子 天津日子根の命の御孫 羽戸辺姫の
命に 御婚イまして 産みませる御子の御名
ハ 和久玉敷の命 次に 雁戸姫の命 次に
鶴姫の命 次に 棚機置姫の命 次に 伊
夜比古の命 次に 冴日子の命 次に 小国
知幸依彦の命 これの御子たちも 天津祝詞
の神なり また 八心思金の命 妹 八幡大
幡姫の命に 御婚イまして 産みませる御子
の御名ハ 神武彦の命 これの御子 天之水
分の命の御子 田守の命の御孫 玉屋戸姫の
命に 御婚イまして 産みませる御子の御名
ハ 深宮彦の命 次に 宮岳の命 深江鐸の
命 御柄の命 これの深宮彦の命 天之久比
奢母智の命の曾孫御子の御子にます 弥生姫
の命に御婚イまして 産みませる御子の御名
ハ 夕笠之男の命 次に 里姫の命 また
御妾 鐸若姫の命に御婚イまして 産みませ
る御子四人 またの御妾 砺波姫の命に御婚
イまして 産みませる御子六人 合わして十
二人ます これの御子の神たちハ 太占の神
なり また 天之太玉の命 櫛玉姫の命に御
婚イまして 産み成せる御子の御名 玉櫛耳
の命 次に 玉香耳の命 玉之祖彦の命 ま
た 御妾 桜刀自姫の命に御婚イまして 産
みませる御子の御名ハ 倭之男の命 次に
倭代の命 次に 小夜姫の命 またの御妾
夕之女の命に御婚イまして 産みませる御子
の御名ハ 宗像姫の命 これの御子の神たち
も 御幣の神なり
-------------
14,22
-------------
ここゆ後に記せるハ 高津神たち 系の神
なり 本を正すの標なり 懸けまくも 志那
都比古の命 志那都比売の命の御子 豊神秀
起の命 妹 多々那姫の命 秋津秀起の命
弓削之日守の命 迦具土の命 火之燿姫の命
の御子 和久産巣日の命 妹 建依姫の命の
御子 樋速日の命 妹 萬豊姫の命の御子
建御雷の命 妹 多岐玉之女の命の御子 建
佐別の命 妹 佐別姫の命 弥都波能男の命
弥都波能女の命の御子 塩椎之男の命 妹
玉碗姫の命の御子 塩戸別の命 妹 塩戸
姫の命の御子 玉屋根の命 妹 狭依姫の命
のみこ 国知彦の命 埴山彦の命 埴山姫の
命の御子 野椎彦の命 妹 野椎姫の命の御
子 豊道原の命 妹 道原姫の命の御子 高
座起の命 妹 多伎之女の命の御子 千秋彦
の命 妹 千秋姫の命 金山毘古の命 金山
毘売の命の御子 天之香の命 妹 名戸依姫
の命の御子 櫛山群鳥の命 妹 邑日女の命
の御子 手鞠金心の命 妹 玉津鳴姫の命の
御子 金櫛萬種別の命 次に 金代大道別の
命 次に 金吹秋津底立の命 次に 金吹秋
津倉立の命 伊都之尾羽張の命 伊都之女の
命の御子 天之懸の命 妹 天之邑日女の命
の御子 事勝の命 妹 事勝姫の命の御子
伊都之平上の命 次に 八枚方の命 妹 道
守姫の命 速目之男の命 速目之女の命 御
子 速玉別の命 妹 速玉姫の命の御子 伊
狭良彦の命 伊狭良姫の命の御子 速俣彦の
命 妹 速俣姫の命 桜彦の命 若眞蟹守の
命 久那斗之男の命 久那斗之女の命の御子
荒魂の命 和魂の命 山塩別の命 乳合坂
手玉の命 奥津帯別の命 八衢比古の命 八
衢比売の命の御子 一之緒の命 二之緒の命
三之緒の命 天熊之大人の命 邑依姫の命
の御子 国之玉敷の命 萬弥猛の命 木々玉
彦の命 天之三降の命 三降姫の命の御子
豊木彦の命 豊鋤の命 大物主櫛甕玉の命
大忌春日玉之女の命の御子 大物主朝目の命
大物主夕目の命 大国御魂の命 国豊姫の
命の御子 湯津小賀玉の命 深屋奥の命 天
津富樫之男の命 阿遅鋤高日子根の命 眞高
日女の命の御子 塩冶毘古の命 妹 宇摩志
高姫の命の御子 帯若男の命 登陀流軍舎の
命 鹿屋野彦の命 鹿屋野姫の命の御子 若
麻生の命 麻凝玉の命 金地浮の命 楮木別
富の命 若前彦の命 狭綿乳群の命 豊宇気
彦の命 豊宇気毘売の命の御子 瑞稲依米杵
の命 斎守麦結の命 秋津畑津根の命 伊都
之朱実根の命 玉粟太男の命 菰玉須々美の
命 八帯黍根の命 晴稗守の命 稲目菰実の
命 大豆白豆の命 若江小豆の命 生津八豆
の命 八十百手の命 伊都笹実守の命 野之
久々能智の命 妹 野之久々之戸の命の御子
帯玉菜の命 帯根菜の命 麻弥帯花の命
弥帯実菜の命 大雷の命 火之括姫の命の御
子 火明玉の命 妹 花紫姫の命の御子 火
分御祖の命 斎楮持の命 波乾彦の命 五百
帯男の命 庭高津日子の命 庭高津日女の命
の御子 豊室幸魂の命 湯幸峰の命 奥津日
子の命 奥津比売の命の御子 前戸持の命
湯津室之男の命 竈戸帯根の命 竈戸屋千足
彦の命 竈戸厳道根の命 竈戸厳守の命 阿
須波彦の命 阿須波姫の命の御子 御門守の
命 清知男の命 種藻彦の命 波比伎彦の命
波比伎姫の命の御子 内雲の命 雲嵩依の
命 朝開の命 日中時の命 黄昏の命 積羽
八重言代主の命 溝咋姫の命の御子 文字理
忌名の命 文手闇津彦の命 天之再見の命
天之商人守の命 海漁比理の命 宅巣持の命
斎手知大人の命 彦狭知の命 姫狭知の命
の御子 天之指守の命 木工知居の命 道根
の命 大刀自根の命
上津文 十四綴り 完エ
-------------
15,1
-------------
上津文 十五綴り
こハ 御田狭秋部守る御神の名ハ 大年御
産巣日の命 妹 大年姫産巣日の命の御子
天津御年御祖彦の命 八束足御祖姫の命の御
子 若年吉分の命 道別姫の命 若年弥咋の
命 道活之女の命 木立春日之男の命 実成
秋日之女の命 日熾夏日之男の命 根差冬日
之女の命 これの御祖の御子 若年吉分の命
妹 道別姫の命の御子【睦弥積の命 去葉
弥積の命 弥吉弥積の命 歌恵足の命 狭苗
足の命 水夏足の命 含実成の命 葉破実成
の命 長夜那実成の命 神嘗底盛の命 年旧
底盛の命 年極底盛の命】御祖の命の御子
若年弥咋の命 妹 道活之姫の命の御子 千
足栄毘々彦の命 足相代姫の命 御時日大人
の命 御時日衣自の命 御時朝入男の命 小
夜時之女の命 御時日守男の命 眞夜時之女
の命 御時夕入男の命 覚夜時之女の命 活
津日子根の命 妹 玉津見姫の命の御子 天
津量玉の命の御子 活津量根の命 量八百千
の命 熊野奇霊の命 瑞之戸明姫の命の御子
量大隅の命 量小隅の命 退持祟の命 抜
込之男の命 屋根逆揺の命 饒速日の命 妹
饒速女の命の御子 天之香具山の命の御子
宇摩志間見の命 香山戸彦の命 妹 香山
戸姫の命の御子 火別之男の命 八百作の命
萬持分の命 香山奈留美の命 妹 神八坂
姫の命の御子 相櫛耳の命 牛飼の命 高倉
の命 御穂須々美五十建の命 妹 櫛玉八百
之女の命の御子 御名方磐鳥の命 鉈取彦の
命 馬取彦の命 天之太刀太良男の命 妹
千依比売の命の御子 天津日鷲の命 妹 日
鷲姫の命の御子 天之日別の命 天津鈴杵の
命 建太柄の命 中猛男の命 またの御子
天之三雲の命 妹 天津牟良雲の命の御子
弥延力男の命 上土之男の命 底土之男の命
の御子 日之臣人の命の御子 国照小楯の命
赤土之男の命 妹 赤巣姫の命の御子 朝
熊の命 磯城開の命 石土之男の命 妹 石
巣姫の命の御子 下稚彦の命 世開彦の命
海辺守の命 海魚招之男の命 速佐須良比古
の命 妹 速佐須良比売の命の御子 清御像
の命 果贏根の命 息吹戸主の命の御子 種
別御祖の命の御子 数松狭別の命 吹男の命
厳之男の命 妹 厳之女の命の御子 天之
富辺の命 大久米の命 房垣の命 鐸の命
五十猛の命 妹 曽富理姫の命の御子 大屋
若武の命 刀自之占部の命 言之緒の命 言
魂五十別守の命 五十分の命 文字理根の命
田心姫の命の御子 宗像武の命 宗像弥陸
の命 市寸島姫の命の御子 中津大差根の命
高津姫の命の御子 屋足心知の命 天干枯
の命 国干枯の命 天之懸の命 妹 懸姫の
命の御子 大地丈の命 海松藻の命 国之懸
の命 妹 日別姫の命の御子 面勝の命 天
之羽槌の命 天之守女の命の御子 岩波の命
金津耳の命 道之長乳歯の命 妹 長乳佐
須良女の命の御子 春部篶部の命 飽咋之大
人の命 妹 花泣姫の命の御子 天津鴨垣の
命 篶張彦の命 高淤迦美の命 妹 葉立女
の命の御子 天津八重雲の命 別雷の命 妹
狭屋城姫の命の御子 天津御尾別の命 天
津日子根の命 妹 神屋楯姫の命の御子 目
一箇量武の命 天玉置の命 山代日子の命
妹 山代日女の命の御子 眞差楠御祖の命
大力磐の命 稚経津主の命 妹 清津姫の命
の御子 稚太刀振の命 天津櫛明玉の命 妹
豊明姫の命の御子 神道明の命 八雲根彦
の命 白雲の命 天之御桙の命 妹 伊豫桙
姫の命の御子 大御田之男の命 撓矢之男の
命 隼人之男の命 富成別の命 八尋鉾長依
日子の命 妹 長依日女の命の御子 豊津田
振彦の命 代々奇安曇の命 大山咋之命 妹
山咋姫の命の御子 差分の命 走男の命
大久米彦の命【羽山戸の命 妹 羽山戸姫の
命の御子 若山咋の命 夏之女の命 秋姫之
首の命 久々年の命 綱根彦の命 若室の命
】山部之男の命 山水の命 大土御祖の命
妹 豊岡姫の命の御子 塩椎幸玉の命 道広
彦の命 船守之男の命 橋足彦の命 鬼神之
男の命 笹津彦の命 妹 笹津姫の命の御子
手染之刀自の命 手振別の命 石拆之男の
命 妹 根拆之女の命の御子 手根掘の命
眞力富の命 太柄彦の命 大礫の命 経津主
の命 妹 豊凝姫の命の御子 玉滝別の命
建棚臣の命 斎玉の命 天之久比奢母智の命
妹 国之久比奢母智の命の御子 目勝糸玉
の命 五百身形石の命 櫛八玉彦の命 妹
櫛八玉姫の命の御子 斎主の命 八百穎別の
命 沖津那芸佐毘古の命 妹 沖津那芸佐毘
売の命の御子 疾風男の命 眞男鹿立風の命
沖津甲斐弁羅の命 妹 辺津甲斐弁羅の命
の御子 秋津愛栄の命 赤水之揺の命 辺韓
川島の命 沖離彦の命 妹 辺離姫の命の御
子 韓神之男の命 建鴨倭文の命 建鴨石姫
の命 天之言解男の命 妹 国之言解女の命
の御子 顕言魂の命 言配の命 事異言魂の
命 言魂姫の命 事異萬の命 妹 明姫の命
事異麻遅之透の命 泣澤之男の命 妹 泣
澤之女の命の御子 宇奈岐比古の命 宇奈岐
比売の命 豊倭文男の命 豊倭文女の命 棚
機彦の命 妹 棚機姫の命の御子 糸吹の命
合糸之衣の命 手機時去の命 建日槌之男
の命の御子 建夏実の命 建御雷之男の命
妹 豊明玉姫の命の御子 剣降垂の命 立鉾
の命 武乳速彦の命 妹 武乳速姫の命の御
子 豊足日向の命 武市床手の命 天之忍雲
根の命 妹 笠紗姫の命の御子 天津多泥古
別の命 雲根揺笠の命 衣手の命 高水上の
命 妹 水波瀬々姫の命の御子 乎別の命
茅萱於岐の命 出間石手の命 天之闇戸の命
妹 闇戸女之手染の命の御子 童形の命
矢竹直の命 闇戸忍根の命 大戸間日子の命
妹 大戸間日女の命の御子 受樋穂倉の命
都留伎比古の命 妹 双太刀姫の命の御子
大熊の命 小熊の命 国押別の命 妹 国
押姫の命の御子 沢木玉萩の命 玉萩木棉女
の命 調屋彦の命 磐坂日子の命 妹 磐坂
日女の命の御子 鷲久味の命 衝桙等乎留日
子の命 妹 天合露姫の命の御子 小夜那芸
の命 桙立宮主の命 大戸主の命 天津枳値
可美高日子の命 妹 天之手依姫の命の御子
薦枕の命 神鋤邑彦の命 天之活玉彦の命
妹 白羽倭姫の命の御子 狭織の命 長石
男の命 老若返の命 魂留之男の命 珍の御
座離きまして 青人草の弥塚を 幸わゐの神
なり
-------------
15,2
-------------
ここに 先の天津御子 天邇岐志国邇岐志
天津日高日子火之邇邇芸の命 御齢 四百八
十六 顕事完エたまイ 日の若宮に 御還り
返り言申したまわに と 神隠り事 知ろ
し召さしたまイき 故 御骸を 奥津喪屋に
在座招ぎまつりて 八重敷きの笠御輿に
乗らせまつり 神坐す如に取り成して 御食
津物ハ 大瓜子 小瓜子 稲津米 畑津麦
十四種津 畑津菜 玉津菜 山津菜 山津玉
菜 沖津藻菜 辺津藻菜 御衣物ハ 蚕糸布
色 火丹色 青色 黄色 赤色 水色 土
色 白色 黒色 空濃色 黄金 銀織り 雲
形 千千形の和妙帯し 麻綿 栲條の布 色
千々 千花 萬狭葉 木葉 弥摺り 荒妙
燿玉 多々に 黄金押泥 銀押泥 高山 低
焼山の素木を切り積みて 高天之原に焚き昇
し 大川 小川の水 巻き上げて 清み足ら
し 斎き道並めに 榊 小賀玉 桂 千草花
千木花を 植エ渡し並め 現し人哭きに
鼓打ち 笛吹き 八幡 長幡 数添ゑに 御
大伴の神 大土道守の命 大土鬼神の命 大
土鬼武の命を 御先人とし 明津富辺の命
古垣姫の命 明津大久米の命 明津鐸の命を
御衣人とし 直毘種別御祖の命 直毘数玉
狭別の命 直毘吹男の命を 清み人とし 佐
須良果瀛男の命 佐須良清御魂の命を 斎き
人とし 綿津見若彦の命 白玉姫の命を 八
雲離れ人とし 厳柏木彦の命 厳柏木姫の命
を 花守り人とし 豊食稲依彦の命 豊食稲
依姫の命を 御食し人とし 積羽若津幸言の
命 棚機萬の命 天之鳥姫の命 積羽勾玉萬
の命 萬姫の命を 海魚尸人とし 手置大戸
自の命 利根姫の命を 食先人とし 明玉神
立の命 神立姫の命 明玉八雲の命 八雲姫
の命 明玉白雲の命 白雲狭萩姫の命を 布
先人とし 八玉櫛糸撚姫の命 八玉斎主の命
八玉八百穎の命を 造綿人とし 茅野麻凝
玉の命 茅野楮木別の命 茅野狭綿乳の命を
輿巻き人とし 大富辺の命 大屋形代の命
水分豊城の命 三降豊鋤の命 剣大熊の命
剣小熊の命を 後辺人として 高津神たち
八百萬の神たち 輿巻き 火輿取りて 高
千穂の荏隈の 山岳の横腹に 和びに 葬り
まつる 百五十か日足らし 神凝らして 斎
き祝ゐき 日進めハ 十か日以て祀る
-------------
15,3
-------------
【先に 妃 豊玉毘売の命 天津御子の命
に 申したまイけらく 何時しかに 吾ハ妊
めり 翌 なよなハ 産むか月なり 故 御
子産みの装イに 海津宮に還りて 御子祝ぎ
の幸 イを学びて 御子産みの時に還りて
火焚ぎまつらに 故 波風の荒からむ日に
海辺 産屋を造り 待ちたまイね と 申
して 大分の水門に 立たしたまイて 呼ば
イた ウ時に 尾千々亀 出来つ 故 その
亀に乗らしまして 海津宮 還りたまウ】故
そこを佐賀といウ
先に 天津御子 建角身の命の御娘 三穂
津姫の命を 御妾として 産ましめたまウ御
子の御名ハ 猛矢彦の命 次に 穿頬姫の命
二柱 生れましき また 沖津那芸佐毘古
の命の御娘 鐸姫の命を召さして 産ましめ
たまエる 御子の御名ハ 恵美津火明の命
一柱 生れましき これの二柱の御子 生れ
ますに因りて 妃の命 嫉妬りましし と
思ほゑまつらして 御恨みますに【妃も嫉妬
り思イつつも 歌なも歌イて 其の弟 玉依
毘売の命に持たせ 称エ言申す と 奉る
赤玉の 光ハありと 人ハ言ゑど
君が装イし 尊くありけり
故 天津御子の命 御応ゑ歌ゐに
沖津鳥 鴨著く島に 我が寝ねし
妹 ハ 忘れじ 世の尽々に】
ここに 天津御子の命 沫那芸浮屋建の命
の妹 安姫の命 沫那芸玉主の命の妹 活姫
の命 頬那芸逆潮の命の妹 湯掛姫の命 頬
那芸瑞玉彦の命の妹 瑞玉姫の命 頬那芸攘
生太刀光緒の命の妹 敷重之女の命 これの
姫神たちに仰せたまイて 大分の国の海辺に
産屋を建てて待ちてよ と 告りたまイき
故 五柱の姫神たち 大分の海の辺離り島
に 出迎ゑまつらにと 籠もりましし所を無
垢島といウ ここに 足り日に 波風旋す時
に 豊玉毘売の命 八尋宇賀槌に乗らして
海道之原を退らして 参イ越しましき これ
の時に【御腹 耐ゑ難くましまして 建てる
産屋の女柱 未た葺き合エぬに 待たせませ
ずで 産屋に入らせたまイき その 産みま
さにとする時に 天津御子の命に申したまわ
く 吾 御子産みまつらに時に 吾を な
見たまゐそ と 申しましき ここに 天津
御子の命 それの言を 怪しと思ほして 窺
き見ましつれば 妃の御姿 姫御子にませど
頂に 角の如成す有り 背平に大なる鱗
多に生エ 口広くして 白歯並めしに 剥き
出 黒髪 五月蠅垂らし 御脚 鱗並めて
御眉ハ太く 目隠しなす それ乱れ おどろ
おどろにありき 天津御子 窺き目見 然や
に驚こし 憂々に思ほさしますを】【御妃迅
くに知らせたまイて 甚く恥じさしたまイて
産ぶ籠みの神たちに 告りたまイき 吾が
産屋ハ 葺き合エずて明るし 故 怪しき姿
を 天津御子の命 覧そなわしつれば 愛で
ぞ 尽かさしたまわに と 恥ぢて 泣かし
つ 悔ゐつ面朱けます 厭しきかも 此所
眞闇となれ と 御嘆きます 故 これの海
辺 砂 大石 小石 尽々に黒くなる 故
これの所を 黒の小浜といウ ここに 御妃
御腹 頻りに悩みまして 眞玉なす御子
生れましき 故 産籠みの神たち 火鳴岳に
在す 火之男の命 火之女の命に祷ぎまして
言依さしまして 温泉湯を取り来て 沸ら
遣して 御子を洗イまつりし所を 丹生と言
妃の命 恥づかしと 逃げ還りまさにと
隠ります所を 国東と言 産籠みの神たち
御妃を留めまつりし所を 姫島と言 天津御
子の命 御妃を 恋イ慕イましし所を 小鼻
と言 御子の胞衣を 鎮めし所を 荏隈と言
ここに 産籠もりの神の御名ハ 沫那芸浮
建の命 安姫の命 沫那芸玉主の命 活姫の
命 頬那芸逆潮の命 湯掛姫の命 頬那芸瑞
玉の命 瑞玉姫の命 頬那芸攘生太刀光緒の
命 敷重之女の命 これの神たち 御妃の命
の 海津に逃げ還りまさに と 申すを 直
ちに 止めて 種々に 諌めまつりて 御身
頂にふかし綿を帯ばしまつりて これの井
の水に 御歯を染めて 眞黒なし 御眉を刷
かし 御眉 墨に画き その背の比礼の 掻
きの上の 禮衣の上に 禮衣を打ち掛けき
天津御子の命 新宮を太敷きまして 御仲直
らイたまゑる所を 直入といウ ここに
天津御子の命 その妃の命に 告りたまイつ
らく これの生れませる御子の名ハ 何と名
付けなば 良けに と 申したまゑば 妃の
命 申しけらく 吾ハ申さじ 彦舅ぞ 名付
けらく と 申す 彦舅 自らの御名を 賜
べせばなり と 申す ここに 妃の命申す
天邇岐志国邇岐志天津日高日子波限建鵜葺
草葺不合の命と 御名付けませ と 申す】
-------------
15,4
-------------
【ここに大海津見布留多摩の命の御子 天之
忍人の命 産宮に仕ゑまつり 箒以て 蟹払
イ 敷物を知りて 仕ゑまつる これの神の
住み在したまウ所を 蟹座といウ】
-------------
15,5
-------------
ここに 大禍津日の命の四世の御孫 禍津
夜須勢理の命 草木根の国の哮に在す 馬部
蔓の命を 天の狭弓以て 射殺し 国食奪り
徴る 牧山の馬牛を取りて 己が饗物となす
禍らイ頭 三千人 五月蠅なし 荒ぶる
ここに 天津御子の命 児屋天之表春の命
児屋天之下春の命 児屋櫛玉八隅の命 思金
神武の命 思金鳴眞弓の命 太玉天之櫛耳の
命 太玉天之迦久の命 諸共に 議りたまイ
て 速玉細彦の命 速玉桜彦の命 速玉別玉
持の命 八十伴の緒を率きて 荒ぶる頭ども
を 逐らエ と 放ちましき ここに 思金
神武の命 速玉三柱の神に 教エたまイき
汝神たち 草木根に 禍津逐らイまさむ時に
これの釣針を持ちて 往きませ 禍津頭ど
も 屯ろなさば それの海端に 釣り垂りま
せば 海魚 多に 上がりてに そを見ば
夜須勢理の命 これの釣針を請イなば【この
針ハ 貧鈎 淤煩鈎 須須鈎 宇留鈎 と
呪言して 三度 唾きて 後手に 投げ棄て
て與ゑよ 向かイて 勿 遣りましそ】また
夜須勢理の命 海に遊びなば 呪言に【う
う風 ここ風 いら風】と 風招ぎなせ そ
の時ハ 疾風起きらに 故 斯くせば 服ろ
わに 直に 服わずば 奴 貧しくならに
と 告りたまイき 直ちに 三柱の神たち
草木根の国に出まして いさむらたかイます
時に それの隙に 高津神の御教エの如なす
に 夜須勢理の命 こを見て 釣針を請わす
時に 呪言して 三度 唾きて 後手に放ち
遣りましき 故 夜須勢理の命 出来て 彼
の針以て 海魚釣りき 故 三柱の命 告り
たまわく 汝長ハ 天津御子の命に 服ろわ
ぬ長なり 今ゆ 服ろイてにヤ と 告りた
まエば 夜須勢理の命 答エけらく 奴ハ
禍らイ頭 千人なす 故 奴が心の随に 遣
らぐ と 応エながらに 釣針を 海に投げ
て 海魚釣りて 余事 応エずて黙す
故 三柱の命【風招きの呪言為たまエば
疾風起きり来て 荒び浪立ちて 夜須勢理の
命 溺ぼし 悩まさエき 甚くに 惚苦めら
れて 生命 生く由無し 故 救みて 奴を
生かしまさば 往く先 天津御子の許に 夜
昼の守り人となりまさに また 吠エ狗とな
りて 仕エまつらに と 申す】故 赦しま
して 高千穂の宮に 返り言申したまイき
-------------
15,6
-------------
ここに 夜須勢理の命ハ 天津神たちを 偽
り欺しまつりて 常陸の国に 走せ逃げ往き
て 常陸の国主 夏木弟の長 綱百合一郎の
頭の首を撚じて 三千人の禍らイを呼びて
騒エなし 牧の馬 牧の牛を殺し 奴が食に
饗なし 現人を殺りて 千速ぶる業を為し
顔美き若女を召して戯く 故 奴々 皆 然
為す こをもれば 皆 殺し棄てつ 故 国
内屈み喚きき ここに 陸の国に 禍津長
夜須勢理の命 騒エなし 荒び猛ふと 高千
穂の大宮に 聞こし召して 更に 逐エの神
たちを 称エたまイき 故 甕槌剣術の命
甕槌楯桙佐別の命 布都建手之男の命 布都
斎玉の命 手力日別の命 手力神建太體の命
手力中建太體の命 手力下建太體の命 八
柱の神に 大伴の長 八百人を副エて 国平
けの神と称エます これの神たちハ 濃組み
糸に縅せる 眞金衣を鎧ゐ 頂に 金冠を被
らし 金巻かしの脛当 金巻きの脚当 各も
各も 高鞍輪を 馬背に挟み 鞍嵩に乗らし
百入の靱を負ばせ さねどこを起こし 絹
の黄金織りを 御幡にし 銀の垂れ緒の軍配
を持たし 檜結イの扇を腰着けて 大剣の尻
鞘ハ 白熊毛を着け栄し 小剣を帯て 首刎
ね鉈を 御腰に差し 大鼓を鳴らさしめて
後人となし 金鼓を打ち 斎端となし 法螺
笛を吹かして 剣合イとし 小幡を振りて
返し人とし 押し進イ 斎進イ人して 狭依
科別の国に出ましき ここに 夜須勢理の命
ハ 常陸のいづ山に 軍営を造り 五も山に
射人を放ちて 弓 引き擬イて 防ぐ 故
八柱の神たち 弓受けして 手に手に 剣
抜かして 斬り手繰りまして 国内の屈みを
平らげます 然れと 荒ぶる禍頭ども い
づ山を免る方無きゆ 深ぶ御谷を前となし
その山穴に 隠りて匿エき 八柱の大神 議
ります 前 深ぶ御谷 後方 険し巌山に
出るに所無く 入るに所無く 故 こを頼み
なす禍らイ 千人と聞こエき 故 八柱の大
神 八百の大伴の長に議りたまイて 告りた
まわく 汝長ハ 高山の末 低山の末に上り
て ちばやぶる 奸る頭出来ば 殺せ と
告りまして 放ち遣りましき【ここに 八柱
の神たち 共に 呪言まして 潮満る玉を
浸したまエば その山に登り 禍らゐ共 千
人溺ぼる 故 憂イ泣きて 奴々ども 大宮
言に 背きまつらじ 故 生命 賜べね と
申す 故 御赦しまして 潮乾る玉を 浸
しませば 潮 自づに 少々め少々めと 退
きて 本なす 然れど 彼の夜須勢理の命ハ
猶し 苛らげて 如何にそもヤ 奴ハ 伊
邪那岐の大神 伊邪那美の大神の御子の神
大禍津日の命の裔の神なり 何とてそも 天
津御子の命ヤ 吾を惚苦むと言 走り逃げま
す時に また 潮満つる玉を 浸したまゑば
潮 秀起ら秀起らに 忽ちに起きりき 故
夜須勢理の命 禍らイども 山に逃げ登る
に 潮 山に上る なたかやまに逃げ登るに
大伴の長たち 立て塞ぎて 禍らゐども
尽々に 打ち殺し 棄てつ ここに 夜須
理の命 喚き叫びて 如何に救イませ 奴を
生かしまさば 草木根の契りに違わじ 故
誓ゐて願ぐと申す と 言て[牛鼻褌着け
赭土を 面に塗り 頓に 天津御子の命の
俳優人とならに と 言て 足を挙げ 踏み
往きつつ その溺れ苦しむ状を真似び 潮満
ちて 足に至れば 足占し 膝に至れば 足
挙げし 股に至れば 股分けし 腰に至れば
捫りし 腋に至れば 胸手にし 首に至れ
ば 手挙げなし 幾つ 手飄かせ手飄かせる
状を為し 先に契りし 吠エ狗になりて 呻
ゑる状なしき]故 赦したまイまして 高千
穂の宮に 返り言申したまイき】
-------------
15,7
-------------
ここに 天津御子の命 豊玉毘売の命 御
心解げたまイて 産みませる御子の御名ハ
天津直入の命 また 臼杵の武位島の宮に
産みませる御子の御名ハ 天津臼杵根の命
次に 天津武位起の命と申す 故 御妃の産
みませる御子 四柱 こハ 彦御子にます
御妾 御穂津姫の命の産みませる御子 二柱
彦御子 一柱 姫御子 一柱 またの御妾
鐸姫の命の産みませる御子 一柱 こハ
彦御子にます 合わせて七柱の御子在す
-------------
15,8
-------------
ここにまた 豊受彦の命 豊受姫の命 こ
れの男女二柱の神を 豊宇迦之御魂の神と申
す これの神の御子 十四の神たちハ 豊種
津物 幸わゐたまイて 種蒔き 草刈り 実
収め 地返し とヤ撒き 水掛け 種々の神
訓りの神なり 佐須良清美玉の命 佐須良果
贏男の命 二柱ば 大御田族の道具の神なり
久久八玉の命 久久溝直振の命 久久大振
の命 三柱の神ハ 野山開かイの神なり 雲
根揺笠の命 雲根衣手の命 二柱の神ハ 五
種の臼守り神なり 香山火別の命 山杙差別
の命 羽山若山杙の命 三柱の神ハ 濁酒と
清酒とを守る神なり 事勝玉祖根の命 事勝
国知の命 二柱の神ハ 未醤と醤油を守る神
なり 別高木の命 別杉居の命 二柱の神ハ
大山の檜と杉とを伐り 八皮に打ち割きて
割き木を立て並め 立て木とし 割き木
平ら並み 眞素木として 竹縄に結ゐ固めて
大桶 小桶を作り 水桶となして 多に吊
り立てます神なり 倉戸藁若田の命 こハ
俵なす神なり 剣大熊の命 磐境鷲雲の命
二柱の神ハ 牛と馬との 鞍置きの神なり
棚機高津道具の命 棚機桜姫の命 棚機綾衣
の命 棚機秋姫の命 四柱の神ハ 絹布 麻
布 綿布 栲布 楮布 葉眞布 羽布の織り
断ての神なり 金山村鳥の命 こハ 金造り
の神なり 溜金心の命 こハ 鋳金の神なり
金山櫛萬の命 こハ 眞金の神なり 金山
大道別の命 こハ 黒金 白金の神なり 明
底立の命 こハ 銅 焼金の神なり 目一箇
計建の命 目一箇玉彦の命 活津計玉根の命
活津斎作の命 四柱の神ハ 家造りの神な
り 故 国の国々 島の島々 に訓り伝ての
神なり
-------------
15,9
-------------
ここに 国毎の翳に 市を建てて 商なさ
ば 現人の便め良さに ありなに と 大神
たちに 言依さしたまイき 故 積羽八重事
代主の命の御子 積羽物忌那伎の命 物忌那
美の命 積羽天之谷水の命 谷君祖媛の命
積羽牛建男の命 牛建姫の命 これの神たち
粒計り 商計りを 細けく 始めたまゐき
そハ 指し計り訓りハ 稲穂の籾以て 計
りなす 一粒を 一分とし 十粒を 一寸と
し 百粒を 一尺とし 千粒を 一丈とし
また 積計り 稲穂籾以て計り 四百粒を
一勺とし 四千粒を 一合とし 四萬粒を
一升とし 四十萬粒を 一斗とし 四百萬粒
を 一斛とし 故 積計りハ 板以て 角身
に作り 指し計り 黄金白金以て作れ また
秤計り 稲穂籾以て 計り 一粒を 一厘
とし 十粒を一分とし 百粒を 一匁とし
千粒を 一手とし 萬粒を 一もとし 十萬
粒を 一貫とし 秤計りハ 樫以て 円枝に
作れ 故 指し計りハ 金座 角鉤に打ちな
し 指し円型に置き作らして 籾粒を置きて
一つ一つに 目打ちなして 或ハ一尺 或
ハ二尺 三尺 四尺 五尺に作りて こを指
し当てて計れ 数先掛け 数寄せ 統べ積み
野山 海川の計り 黄金白金山の 大の計
りの道具なせ また 積計りハ 板囲に作
れ 一勺匙ハ 口広 七分 深み 八分 合
匙ハ 口広 一寸二分 深み 七分 升匙ハ
口広 五寸 深み 一寸六分 斗匙ハ 口
広 一尺 深み 一尺 此 入れて計れ 秤
計りハ 樫木枝以て作れ 長さ 二尺 眞中
に 栲縄以て 括し下げ 端と端とに 栲縄
に括し 板を四囲に 取りなし下げて 片方
に籾入れて 片方に物入れよ 大秤も 斯く
なして 彼方此方に 掛けの太梁 連繰りて
籾と 某物と 掛け吊りて 計れ
-------------
15,10
-------------
ここに 国の市に商なす物ハ 水田津実
畑津実 海津魚 海藻菜 萬道具 金道具
木道具 海路ハ 大船 小船 陸路ハ 馬と
牛と 益良男ハ 背担イ 益良女ハ 頭頂
背負わば 利成さず 御年の春熟き 夏熟き
秋熟き 冬熟きに 出れる商になさしめき
故 現しき青人草の便め 弥吉になりて
祝ゐ世の 楽し世に 美しかりき ここに
天津御子の命の 豊道之原の 現しき青人草
を 安らけくなしたまわに と 国々に 市
を建てさせたまウ時に 天津 高津の大神た
て 御現れまして 言諭したまイき それの
大神の御名ハ 迦具土の命 香香背女の命
天之御柱の命 国之御柱の命 彌都波能男の
命 彌都波能女の命 丹生都彦の命 丹生都
比売の命 金之山彦の命 金之山姫の命 少
名牟遅の命 大久米姫の命 底土の命 底巣
姫の命 赤土の命 赤巣姫の命 石土の命
石巣姫の命 生れませる大神たち 告りたま
イつらく 現しき青人草ハ 珍の業 勤労ぐ
あわれ
-------------
15,11
-------------
また 受家ハ 家執れ 眞受家ハ 国執れ
千努ハ 宮執れ また 翁 受家 千努
幸取りハ 椎木実 楢木実 柿木実 榧木実
栗木実 粥炊き 食らエて 生命延ばゑよ
と 告りたまイき
-------------
15,12
-------------
ここに 神速国照大神 須勢理毘売の命
大市姫の命 告りたまイつらく ちばやぶる
奸る長 また 毛物 毛無物 這ウ虫 羽
虫 嘴曲鳥の 人草の為に 荒び悪じなす物
尽々に 逐イ尽せ
-------------
15,13
-------------
また 衝桙透の命 衝桙武深山主の命 衝桙
大戸主の命 布都建手之男の命 布都祝玉の
命 甕槌剣術の命 甕槌手桙佐別の命 汝神
たちハ 物之部の術を守れ 故 剣 矛 鉈
長鉈 射鉈 突鉈 弓 石弓 金弓 四弓
三弓 蹴跳び こしび走す 頓走す 馬
速馬 緩馬 間隠り 木隠り 岩隠り 水隠
り 眞細けく 詳らなせ と 告りたまイき
-------------
15,14
-------------
ここに 天津御子の命 妃の命 御妾の命
速日の国に遊び 出ましし所を 阿蘇とい
イ 国巡りますに 稲穂八束垂らしき 故
ここハ 御米の熟きの垂るる国かも と 告
りたまイて 御歌をなも 歌イたまイき
水津 熟き 八束穂 垂るる
国内 斎々し 現人 斎々しかも
これの 秀田原ヤ 弥果て
美し 美し国かも
故 此所を 飽田といウ 天津御子の命に
斎き 供なしまつる神の御名ハ 児屋表春の
命 思金神武の命 太玉櫛耳の命 また 道
先の神の御名ハ 大土道守の命 並べに 大
伴の長たち 共に 一年在して 大御祖の告
りたまゑる隨に 天之一根の島に 御渡りま
さに装イましましき
上津文 十五の綴り 完エ
-------------
16,1
-------------
上津文 十六の綴り
ここに 天津御子の命 御妃の命 児屋表
春の命 思金神武の命 布刀玉櫛耳の命 大
土道守の命 大伴の長たち 共に 天之一柱
の国に 渡らせたまイき これの島人の翁主
眞赤なる太瓜を奉る 故 御食しますに
そが味 甘かりき 故 其所を甘利といイ
また 太き眞魚を奉るに そが味 美味しく
あり と 宣エる所を 石田といウ これの
沖津に 御船に乗らして 遊びます時に 魚
釣る船 多にあり 故 御歌わしましに
これの 沖津に 海魚釣る小船
多々 魚釣る 海魚 秀起つヤ
海人 秀起つヤ
知らまく 欲しき
これの釣りする少男 少女に 喫き濁酒を
樽桶に入れて 賜わりき 故 こを喜ばイ
て 釣り船一並めて 御船を中に包みて 樽
鼓を打ちて 声々に歌イ 奏づり 歓ぎなす
故 此を 樽桶の浦といウ
-------------
16,2
-------------
ここに 狭手依の国に出ましき 故 国の
翁主 はやたの太郎 くまのを四郎 海の潮
水を汲みて 眞濾して 清水となしたる水以
て 醸める白濁酒を奉る 故 味わイたまウ
に 常所の白濁酒と 甚く異なりて 甚 美
わし味わゆにありき と 褒めたまイて は
やたの太郎に はやた酒の頭 くまのを四郎
に 白くまの男の頭といウ名を 下したまイ
き
-------------
16,3
-------------
ここに 縣の国 鰐村の益良男 さし四郎
と 同じ国の 鰐村の兄の益良男 わしもイ
三郎と 上縣少女 そが名ハまろき兄女に
呼ばイて 一年満れども 争イ止まず 故
児屋表春の命 聞こしめしたまイて 二人の
男を召さして 告りたまわく これの国に
女子迎の禮有りヤ と 問わしたまエば 有
り と申す 故 物を語れ と 告りたまエ
ば 御答エ申しけらく 外の女を 奴が妻に
なさなと 欲りすれば 己が足板を 片足
女の家内に投げ入る その女 婚わむ と思
エば その女が足板を 片足 投げ出て 男
の足板と 女の足板とを 合わせて 足履ぎ
て 去にぬる 故【女男結び合ゑる眞証なり
】しかすかに 奴と女と 足板合わせき 故
その女 畏みて 足板を取り また 一人
の足板を取れり 故 剣向かゑて その女と
その男とを殺さに といウ 彼も然に言
こを争ゐて 一年 満つれど 完エず と申
す 故 児屋表春の命 告りたまわく そハ
女子迎の禮ならず 吾 汝に 訓り伝てせ
むに こハ 上臈 先に あろいろに表わし
て 諾べなハば 女男結びなせ それの状ハ
平甕を 三つに畳みて 座置きの膳部に
瑞葉 交イ敷きて 酒貯めを 長手になし
女の酒貯めとして 濁酒を盛り また 酒貯
めを 本手になし 男の酒貯めとして 清み
酒を盛り 天の稲実置きに 瑞枝の御木枝を
差し立て 海魚の大鰭を盛りて 肴として
上臈ゆ 平甕 分け飲みて 女子迎の礼な
す 故 斯くなせ と 訓り伝てたまイき
これの島に また 一年 経たまイて 国帰
りなしたまわに と 御船に召さしたまウ時
に 海漁人 櫓立てて 歌イけらく
天津御子 船祝ゐ 妃御子 船祝ゐ
高津の御臣 船祝ゐ 弥々 吉しに
世足れ 世足れにこそ 幸わゐ 益さめ
と歌イつ 帆上げに 天之忍許呂別の国に
泊たしましき
-------------
16,4
-------------
ここに 国内の翁主 隱地の国見岳に 仮
宮を建て また 門代を建てて 天津御子の
命 高津神たち 大伴長たちを 齊きまつり
て 御遊びの 目晴らしとて 海漁人 多
出来て 赤裸になりて 海に飛び入りて 大
海魚 小海魚を 手取りて奉る所を 知夫里
といウ 太玉櫛耳の命 告りたまわく これ
の島に 曳き網無くてハあらじ と言て 栲
を糸に紡がせて 網を抄かせましし所を 阿
周吉といウ ここに 天津御子 船出ます時
に 船子共 櫓櫂以て 船漕ぎなすに 眞風
吹き来て 船速く泊します所を 福浦といウ
-------------
16,5
-------------
天津御子の命 双児別の国に出ましき こ
れの国人 加茂の国 杉山に 美し宮建て
秀門屋に庭なして 門代を並めて 迎ゑまつ
る
-------------
16,6
-------------
ここに 海漁人 尻捩じの太貝を 取りて
奉る 故 思金神武の命 これの貝の身を取
り 捩じる尻の奥間を 空貫かしまして そ
の尻孔ゆ 口当てに 息吹きます音色 洞吹
く風の音なす 故 こを 法螺貝 といウ
故 こを吹きて 大伴長を集イするに 良し
とウて 道具となす 天津御子の命の 躬
親らに 海魚釣り遊ばしし所を みたつり
と 言 思金神武の命の 営りて 住みまし
し所を かねびぬ と 言 大土道別の命の
海遊びましし所を さるかけ と いイ
児屋表春の命の 出ましの室屋の所を 春日
と言 ここに 杉岳の眞裾を 覧わしたま
イて 御歌を歌わせたまウ
これの 眞中に 水秀滾り
幾夜 経にけむか 幾坂 経るヤ
激ち 滾りて 幸ほたき
と 歌イたまイき
-------------
16,7
-------------
ここに 羽茂の女の若人 八十人集エて
参イ越す 故 髪を 統べし元取りて その
上に 色々草花を挿頭して 面にハ 素白草
の実を遊ふり 火丹草の 花水を掃き 綿布
の袖長衣を 着飾り 眞広帯を 腰巻きに引
き締め 脛を乱し 粗目肩籠に 干海魚を積
みて 頂きて 喧め歌を歌イ 歓らぎ率 舞
イ来
千鳥の 八十鳥の
群れ立つ鳥の 百千鳥
幸き千鳥 八百番千鳥
と 歌イ踊りてまつる 故 天津御子の命
御妃の命 甚と 愛でたまイて 日久しく
此所に 留めまして 楽しみ 遊びたまイき
故 里座少女とて 今に 大宮に むづき
の九か日に 里座の礼あるハ これの源なり
-------------
16,8
-------------
ここに 天津御子の命 日向の高千穂の宮
に 帰りまさむ と 御船に召さしたまウ時
に 大雨繁きて 西風 太く吹き来て 御船
出 由無かりき 故 大波 山なす如に 大
吠イす これの波に 浮かれ来る八尋鰐 幾
ら競イて【御船を八重 二十重に 取り巻き
包みて】一日に 大分の 黒の小浜に 送り
泊たしまつる
-------------
16,9
-------------
ここに 都夫多都御魂の命の詔以て 大土
道守の命 大土船守の命 大土橋守の命 大
土鬼神の命 大土鬼建の命 千々の道訓り宣
りを 分けたまわく 現人の一足踏みに 稲
籾 二百粒あり 指し計り 二尺なり 故
こを以て 道訓りの法となす
一踏み節
一股 一踏み十長 二丈
一町 一股十長 二十丈
一村 一町十長 二百丈
一里 一村十長 二千丈
こを 道訓り法と定めたまイき
-------------
16,10
-------------
故 白日の国 速日の国 建日の国ハ 大
宮の本代の国なり 奇日の国 豊日の国ハ
大宮の本津国なり 故 高千穂の 二上り山
の西ゆ 国境の道訓りて 踏み分けたまイき
また 愛媛の国 飯依の国 建依の国 大
宜津の国 愛媛の国の 大内山の東ゆ 国境
の道訓りて 踏み分けたまイき また 吉備
津根の国 丹波の国 出雲の国 穴門の国
出雲の国の きのをの山の南ゆ 国境の道訓
りて 踏み分けたまイき また 越根の国
これの国の 越山の南ゆ 国境の道訓りて
踏み分けたまイき また 野陸の国 常陸の
国 陸奥の国 野陸の国の 利根岳の北ゆ
国境の道訓りて 踏み分けたまイき また
无邪津海の国 遠津海の国 狭依科の国 遠
津海の国 富士山の西ゆ 国境の道訓りて
踏み分けたまイき また 伊勢津の国 淡海
根の国 草木根の国 秋津根の国 秋津根の
国の たねかち山ゆ 国境の道訓りて 踏み
分けたまイき
-------------
16,11
-------------
ここに 天之御柱の命 国之御柱の命の御
子 天之火丹鶴に 乗りたまイて 国の国々
島の島々を御巡り 現人の幸わゐを 撒か
します時に 鶴羽 少し 悩めり 故 駿河
の大岳に 憩イまして 在座ます所を 臥し
山と言を 今 富士山といウハ訛りなり ま
た そこゆ 見放けます山を 三保山といウ
-------------
16,12
-------------
ここに 天津御虚空に保ゐます 星之御祖
の大神たち 外津世の国々 一つ一つの国々
に 八千萬の人草の御種 蒔かしたまイし随
に 八千国に 夷人 多なす と 聞こゆ
故 志那都比古の命 志那津比売の命 天
の常座の大御名ハ たせ星御祖の大神の御子
豊神幸立の命 迦具土の命 燿姫の命 天
の常座の大御名ハ とむ星御祖の大神の御子
大雷の命 弥都波之男の命 弥都波之女の
命 天の常座の大御名ハ いみ星御祖の大神
の御子 天之彌津見の命 波邇夜須彦の命
波邇夜須姫の命 天の常座の大御名ハ 吉道
星御祖の大神の御子 豊道原の命 ここに
天津御子の命 これの四柱の神に 告りたま
イつらく 汝神たちハ 八百の外津国ハ 汝
御祖の神の 人草の御種を蒔かしたまイし国
なり 故 八百の外津国に往きて それの状
を 窺見て 来ましヤ と 告りたまイき
四柱の神 諾べ と申す 故 大船を造り乗
らして 往きね と 告りたまウに 答エけ
らく 吾が乗れる船ハ 造れる船に 得乗ら
じ 産せる 船に乗りて 往きてむ と 申
して 四柱の神 直ちに 熊襲山に登りて
大なる 八尋の屈嘴鳥に 告りたまわく 吾
ハ 外津世の国に往かむ 汝ハ 吾が乗る船
になりて 伴なイ往かむヤ と 告りたまウ
に 畏みなす 故 豊神幸立の命ハ 白斑鳥
に召され 大雷の命ハ 眞朱の朱鳥に召され
天之彌津見の命ハ 素白津鳥に召され 豊
道原の命ハ なまさきの黒鳥に召されて 一
日に 千里 三千里も走らかして 八百国の
隈々を 御巡りたまイて 八十か日余りに
返り言申す 故 天津御子の命 告りたまイ
つらく それの国 人草 如何になれる と
問イたまエば 答エけらく 人草 多有れ
ども 這ウ虫の如に 土穴を穿ち跼む 食物
得ずで 蠢らなす と 申す 故 生イ立
ちてむヤ と言に そが随になさば 生イ道
道有らじ 故 こに 食物與ゑば 生イ立
たに と 申す
-------------
16,13
-------------
故 天津御子の命の 告りたまイつらく
汝神たちハ 八百の国人草に これの豊道之
原の 食物を与エて 人草を生り立たせてよ
と 告りたまイき ここに 四柱の神たち
また 嘴屈の大鳥に乗り 走らかして 外
津世の国々に往きて 天の豊種津実を さ囓
みに 囓みて 吹き棄つるに い雪の味雪に
降り積みき こを 皆 嘗めるに 生き立
ちき また 木の実 香の実の御種を 振り
蒔かしたまエば 木立ちて 実成る 故 こ
を取り食まし 勤し人草となりき 故 八百
の外津人を 根蛆人と言 また 屈嘴の大鳥
の 疾く走りなすからに 鷲鳥と言
-------------
16,14
-------------
ここに 思金鳴眞弓の命ハ 天津御子の命
と 御妃の命と 並め座まして 新嘗め 聞
こし召さむ状を 描きてむ と 楮麻を叩き
断切りて 清水に浸して 竹簀以て抄かし
て 板取りて 楮布とし 煤水に 黒木の油
を 濾し入れて 眞煤の水とし 火丹鶴の胸
羽を求きて 筆とし 白埴を 白水とし 赤
埴を 赤水とし 大角豆を叩きて 黄水とし
渋蔓木を叩き 眞萌ゆ水とし 火丹花を絞
りて 火丹水とし だらか埴を 滴水とし
百木を絞りて 色水とし 草葉を絞りて 草
水とし こを 楮布に 煤水以て描き その
上に これの色水以て 隈に取らせて 細け
く画き完エぬ 故 天津御子の命に奉る こ
れの時に 諸神たち 御手を拍たして 賞で
たりき 故 天津御子の命 御歌詠みて 歌
イたまわく
吾が食せる新嘗めハ
その画きにゆ
千代も 食らわに
これの新御食を
-------------
16,15
-------------
ここに 天津御子の命 御妃の命と共に
東の国に 国廻まし 現人を恵みたまわに
と 御装イなしたまイき 故 思金鳴眞弓の
命 児屋下春の命 児屋櫛玉八隅の命 太玉
天之香神の命 神立弦音の命 阿遅鋤鰐男の
命 積羽牛毛帯の命 磐坂鷲久味の命 大土
船守の命 大土鬼建の命 大雷火明玉の命
山津見子成竹宿の命 別雷建産巣日の命 大
伴の長たち 共に 大宮を御輿出まして 直
入の宮に 高座まして 此より 宇佐 の国
に出まし 御船に召さして 出ます時に
海漁人 八百の小船を率で 綱引きに 漕
き廻みて 船子の歌イを 散らぎ 南風に
帆を取らして 日下根の国に 泊たしましき
-------------
16,16
-------------
ここに 秋津根別の命の御子 秋津笠穂の
命 日下根の国に 待ち迎エまつりて 秋津
の国の宇陀山に 迎斎きまつり 手配りの御
饗ゑ奉る 故 国内の大御田族 多なして
翁主の先人として 濁酒 清酒を奉らに と
白濁酒 赤濁酒 甘濁酒 辛濁酒 清酒
祝ぎ清酒 端清酒 くり清酒を 天の稲実置
きに 於賀玉の瑞枝を挿し 天の麦置きに
榊の瑞枝を挿し 天の八豆置きに 桂の瑞枝
を挿し 天の平瓮を膳に 三つ伏せ 大広の
膳に 種々の瑞枝を交イ敷き 大海魚 小海
魚 沖津藻菜 山津菜 玉菜 野津菜 玉菜
故 平瓮を冷瓮とし 秀瓦を温瓮とし 弥
盛りまつる また 金山櫛群鳥の命の作れる
濁酒貯めの諸手吉葛に 御濁酒を入れ
柄長の吉葛に 御清酒を入れて 八十の少女
髪 油掛けの統べし元取り 小花を括り 白
色衣に火丹色の 垂り袴を着て 眞白の足袋
を こ履きて 袂を 足に摺らかして 棚仕
ゑまつる
-------------
16,17
-------------
ここに 翁 媼 若き少男少女 多なして
天津御子の命 妃の命の広庭に 参イ出て
斎琴 据え琴 手琴 膝琴の枚 弾き鳴ら
し 鼓打ち 拆鈴打ち 五十鈴を振らし 笛
吹き 法螺吹き 流しに歌イを 揺すらして
歓き踊りて 神座なす
-------------
16,18
-------------
また ここに 三百歳余りなす翁 三人出
て 吾も神座せむ と 若人の如に 清らに
歓ぎ 持たる貴玉を 伸す紐以て 結ゑる扇
を 翳し 歌イ 祝ウ
【とウとウ 足らり】たらり
千々ヤ 足らり たらり
十四ヤ 十四ヤ と足らり たらり
百千萬代ヤ と足らり たらり
現人 足らりヤ 種津足らりヤ
御代栄 足らり たらりら
と 歌イ歓く状 いと 雅にき ここに
天津御子の命 何処の翁かも と 告りたま
エば 吾ハ 統めらぎ世を斎く 住吉の翁
とウて 紫雲に乗らし 飛び去りき 故 こ
れの翁の 歌を歌イますによりて 其所を
宇陀といウ
-------------
16,19
-------------
ここに 天津御子の命 高津神たち 大伴
の神たち 共に 御輿出まして 狭依科の国
の 駒山のにやり室に高座ましき ここに
国内現人 多に並めして 鳴らし物を取りて
夜となく 昼となく 神座をなす 故 天
津御子の命も 共々に 歓ぎ 踊りて 楽し
世なす
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16,20
-------------
ここに 御妃 豊玉毘売の命 御妾 美保
津姫の命 側の御妾 鐸姫の命ハ 宇陀の宮
に 在します時に 三人の女童 参イて申す
天津御子の命 駒山の宮に在して 国内人
と共に 歓ぎて いと 楽します 故 その
宮に伴イまつらむ と 申す ここに 御妃
の命 告りたまわく 汝たちハ 誰が娘ぞ
と 問わしたまエば 吾ハ 淡海の多景島に
隠りなす 宇賀槌なり 故 背負イて往かむ
と 申して 三人の姫御子を 三人の女童
の 背に負イて 出ます 朝開き時ゆ 御発
たしまして あさり時に 駒山の宮に 着か
したまイき 故 国内の現人 皆 弥々に喜
びて 弥が上に 神座なして歌ウ
宜しみに 喜ばイなす 姫御子よ
参イ越し入るゆ 鶴の鳥 弥鳥 弥鳥
百千萬に 御栄益しらに 御栄栄き
とウとウ 千足る 千足る 美し
愛でたもの これの
と 歌イ歓ぎ 招きまつる
-------------
16,21
-------------
ここに 天津御子の命 姫神たち 高津神
たち 大伴の長たち 陸奥の国の 雄勝山の
宮に在しまして 国内を服イます【ここに
出羽の国の大御田族 かに四郎 と さわき
七郎 と 争イありて 天津御子の命の御庭
に 参イ来て 申す そハ かに四郎の 己
が作れる御田ハ 広くて 肥ゑ土なす 故
稲津実 多なす さわき七郎の作れる御田津
ハ 狭く 瘠せ土なす 故 稲津実 少なな
す 故 かに四郎の言けらく さわき七郎が
持たる御田津ハ 奴が御田津に隣れり 御田
津狭きて 土弱し 稲実上らず 故 奴が持
たる水津を 汝 作れ 奴ハ 汝が持たる畑
津を作らに とウに さわき七郎 面火照り
怒りて 答ゑけらく 汝ハ 奴と 腹族別
けなり 然に 奴が持たる御田津ハ不祥し
汝が持たる御田津 祥なり そを代えて 奴
に 恥見せに と 欲りするハ 礼無し と
怒りて 振るゐいななく かに四郎 申す
こを與ゑずば 奴が天津罪にこそあれ さ
わき七郎 申す こを随にせば 奴が国津罪
にこそあれ とウて 相争イき ここに 児
屋下春の命 かに四郎に 榊枝に 八咫鏡を
作らしめ また さわき七郎に 榊枝に 勾
玉を作らしめて 千座の置き戸代と 負わし
て 天津罪 国津罪を 神祓イに 祓イたま
イき】
-------------
16,22
-------------
ここに 天津御子の命の詔以ちて 高津神
たち 神留めの神に 告りたまわく これの
奥津の国ハ 山の屈くなす国なり 故 味塩
乏しき国なり 現人の便め 弱くあるらじ
故 事勝玉祖根の命 事勝国知の命 事勝塩
人別の命 闇戸童形の命 闇戸弥猛直の命
大土武熊の命 大土狭織の命 これの神たち
に 仰せて 御山辺に 味塩を求き取りて
現人の便め吉さになせ と 告り言ちたまイ
き 故 七柱の神たち 現人を集エまして
山野をここら 求きたまイ これの山道ハ
味塩の出来所なり と 告りましし所を 塩
陰といウ ここに 現人に 山野を伐り 丹
精平らしにして 堅せ 堅凝り壺を全抜かし
その上に 丸竹を切り並め 屋根となして
麓峡の土を 掘り取りて 凝り壺に刮げ込
み また 山峡の素木を伐り 焼きて 灰と
なし こをも また 凝り壺に刮げ込み 山
水を多に汲みて 八混ぜに転めて 一夜に
眞澄し また 平らし土の上に また 麓峡
の土撒き その上に また 凝り壺の水を眞
掛けて 日晒し また 然なす 八度に 彼
の土を刮げ寄せて 垂らし壺の上に積みて
その上に 眞凝り壺の水を 晒し掛けなば
その水 壺に 上ゆ 水滴るを取り 口広の
金瓮に注きて 弥々 焚き凝らし 成れる物
ハ 味塩にあり また 七柱の神 野陸の国
出まして 大宅之辺に然々に 故 此所を
塩山といウ また 狭依科の国に出ましき
ここに 狭依科彦の命 山の味塩を 訓り伝
てまし 三所に取らせたまイき
-------------
16,23
-------------
ここに 天津御子の命 高津神たち 大伴
の長たち 共に 津軽の国に 御遊びたまイ
そこゆ 胆沢の国に出まし 菅根山の岩を
割らして 玉を取らせたまウ 直毘種別の命
直毘数玉の命 直毘吹男の命の 玉造りた
まウ所を 玉造といウ また 北の遠山に出
まして 玉摩りましし所を すり といウ
-------------
16,24
-------------
ここゆ 皇神 高津神 大伴の長たち 越
の国に 御輿出ます時に 天津御子の命 江
沼の国に 悶熱悩みたまイき 故 少名大久
米の命 大国湯津於賀玉の命 天之鐸弓に
天之鐸矢を篏めて 引き擬イて 小山の丘を
射させたまエば その穴より 泥埴吹き上り
て ころろころろに 鳴り出る清水ハ 暖り
し 出湯なり 故 天津御子の命を 入らし
めまつるに 七か日ありて 御病ゐ癒ゑにき
故 其所を ゐゆ と言
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16,25
-------------
ここに 御輿出まして 丹波の国に至りま
しき 故 丹波別の命 小野山に宮造りして
六つ の秀門屋を御建て 秀門毎に 門代
を建てて 迎エまつる また 諸手の実の三
統の粒の 黒皮を砕き去り 白粉となして
基子麺を打ちて 奉りき これの日ハ みな
つの月なり 故 暑さ 弥増しなす されば
豊神幸立の命の御子 科長明幸立の命 科
長藤戸辺の命 現人の為に 風招ぎを作らに
と 野辺に往きて 眞直の太竹を切り 手
結イて 竹末を 弥割きに 割きて 本編み
て 楮布を 表裏に張りて 風招ぎなす 故
こを 打ち扇といウ ここに 天津神たち
出雲の国にみこし出ます時 ふくみの月の
月立て日になる いと 暑さ去らずあり
故 二柱の神に告りたまイて 如何に 扇ハ
手元良さたらむヤ と 告らしたまイ 諾
べ とウて 竹を眞割き 御本に穴貫きて
目差しなして 楮布以て 末広こり 張りな
して 八重に畳みて 引き開きに作りて 天
津御子の命に奉る 御畏みたまイて こハ
末に広これる 愛でたき物かな 天津神を招
きまつるに いと 宜し と 告りたまイき
故 これの物を 扇 といウ
-------------
16,26
-------------
ここに 穴門の国主 穴門別の命 天津御
子の命 御妃の命 御妾姫の命 高津神たち
大伴の長たち 共に 出雲の国ゆ これの
国に出まさむ と 迎エまつらにとて 鹿足
の国 佐比売山に 仮宮を 太敷き建て 秀
門屋連ね 門代を立てて 待ち迎エまつる
ここに 天津御子の命 宮入りたまウ時に
黄昏時になりぬ 故 庭火を 高天之原に焚
き上せり 故 天津御子の命 高津神たちに
告りたまイつらく 吾 大宮に在り 庭火
多なせば 宮内 いと 明りて 斎々し
然れど 現しき青人草の家内 暗からに 故
こを 如何にしてか 家毎に 明り見せて
む と 告りたまエば 久久智大惑子の命
久久智稚苫の命 久久智首の命 答エけらく
そハ 吾が理りの徴あり 故 生く日に
並めしまつらに とウて 山野に 現人を入
れて 眞赤に熟れる 木の実を取らして 弥
日に当てて 乾し固めて 金瓮に 火煎り
に 煎り蒸しにし 細粉に砕らし 秀桶を取
らして 栲縄の細引き輪に 緒袋とし 桶取
る細粉を投り入れ 大木を断ち裂き 醜串嵌
めて 弥足らに 打ち立て 掻ゐ緊めて 滴
る物 油なり 故 並平瓮に 此を満たし
菅藺の筋身を内抜かして 油差しに火灯して
天津臥間 高津臥間 姫の臥間に 以て火
挙げなすに いと 明りて 昼如す 故 天
津御子の命 高津神たち 賞てましたまイて
二柱の神に 告りたまわく こハ 国の国
々 島の島々の家毎に 斯く為すの 訓り伝
てなしてよ と 告りたまイき 故 この油
を取りし所を 油差 とぞいウ
-------------
16,27
-------------
ここに 天津神たち 共に 豊国に帰りた
まイ 彦の山の宮に 入らしめます ここに
白日の国の国守 白日別の命 八十少男
八十少女を 率き連れて 参イ来て 申しけ
らく 年久に 東の国に 出まして 今日ハ
足り日か 宮帰ります と 聞こゆ 故 栄
迎エに 和楽を称エてに と 申す 故 大
土吾娥津姫の命 大土吾娥津姫の命 産巣日
綾門姫の命 産巣日美保津姫の命 これの四
柱の姫神たちを 神座の長となして 大野が
原に 埃の宮を建てて 八十男ハ 管の音
綾なし 拆く鈴を打ち合わせ 輪金を散らき
大かりの張り銅鑼を打ち 鼓を鳴らし 葉
新竹を緊み こは柄を擦り 法螺竹を鳴かし
桶伏せて 轟ろこし 少女ハ 髪結イ垂ら
して 千花を飾り 素白草実を 面に塗らし
火丹の袴を着流し 左手に 千草 小賀玉
榊 桂木を 手に手に取らし 右手に 五
十鈴を持たせ 楮の抄き布を 八切りに 切
り裂き 和幣取らしにながせに翳さし あう
音 えわ音 いを音の調子に合わせて歌イ
歓ぎ 舞イ跳みます 故 天津神たち 御手
を拍たして 可笑し 可笑しヤ とウて 共
に 神憑りて 楽しみ 勇みたまイき ここ
に 天津神たち 共に 天津御子の命 御妃
の命 御妾 三柱の姫神たち 高津神たち
大伴の長たち 伴の緒 八十伴部ら 尽々に
高千穂の大宮に 帰りたまイき
-------------
16,28
-------------
故 これの御年の 熟き熟きの 八束穂の
垂らし穂に 撓エて 幾年の毎も 斯くあり
て 安御世の楽し御世と 幸わゐき ここに
国の国々 島の島々ゆ 千船 百船に 稲
穂実を俵なして 眞帆上げに 参イ来 故
奇日の臼杵の門ゆ 大分の門ぬ 浦毎に 船
競イ並めて 弁別めず 各も各もに 宮内入
らせの荷の前 祝きまつらに と 申す
-------------
16,29
-------------
ここに 天津御子の命 大御心悩ましたま
イて 高津神たちに訪ウ 応答エまして 然
申す 故 思金鳴志眞弓の命 議りたまイ
一つ一つに 称エ言申しけらく 天津御子の
命ヤ 如何に思ほしたまウ とウに 御答ゑ
告りたまわく 大御田族 窮しに 荷の前奉
るに 得ずヤ あらまじなむ 然ハあれと
受け得なば 千足るまじ 故 諾べならまじ
と 告らしたまイましき 故 また 高津
神たちに 問イたまゑば これの荷の前を
受け得なば 大御田族苦みて 安からずあら
に 故 諾べならじ と 告りたまイき 故
また 大伴の長たちに 問わせたまゑば
こを受け得ば 大御田族の幸わゐ 失イてに
故 神津御心にあらじ と 申す 故 ま
た 伴緒 八十伴の男に問わせたまゑば こ
れの荷の前ハ 大御田族の汗なすものなり
故 受け得ば 天津大道に 背きまつらに
と まをす
-------------
16,30
-------------
ここに 思金鳴志眞弓の命 天津御子の命
の御詔を以て 八百萬の神たちを 神集ゐに
集ゐまして 然の然々を告らしたまイき
故 思金神建の命 児屋表春の命 児屋下春
の命 児屋櫛玉八隅の命 太玉櫛耳の命 太
玉香の命 共に 神議りに議りたまイて 天
津神の太占に 仕ゑまつらに と 告りたま
イき 故 ここに 思金鳴志眞弓の命 思金
神建の命 太占の御占業に 仕エまつりて
霧島の大峡に立てる 眞男樫の片秀枝を切り
内抜きに 抜きて 天の波々迦を焼き 眞
赤松をこ切り裂きて 山なしに 高天之原に
燃やし上げて 太占の御占に仕ゑまつる
児屋表春の命 児屋下春の命 児屋櫛玉八隅
の命 太祝詞言に仕ゑまつる 故 麓の檜を
取り伐り 弥広の玉串に取り裂き 楮布を
幾十枚を 弥垂だきに 刃手裂き 神招ぎの
招手となし また 幾枚 楮布を刃手裂き
て 吉形刺して 清み和幣となし また 貴
玉に 清招ぎの楮布を 取り垂てて 大伴の
長に 拆く鈴を打たし 五十鈴を振らし 鼓
を捶らして 礼爲しに仕ゑまつる 太玉櫛耳
の命 太玉香の命 太御幣に仕エまつる 故
阿蘇の榊切りて その枝に 八咫鏡を取り
着け また 御宝の桂木を切り その枝に蚕
布 麻布 綿布を取り掛け また 那須の小
賀玉の木を切り その枝に 眞燿玉を貫き下
げて 清み御幣と差し立て また 種々の沖
津海魚 辺津海魚 山菜 野菜 海菜 豊の
種津実の物を奉る ここに 荷の前奉らに
と 参イ越したる大御田族 得受けたまわじ
と 聞きて 慨たみ 腹掻きて あふさきる
状 いととに哀れ ここに 太占の御占適イ
天津神の御詔りに 翌の年ゆ 荷の前の心
遣エ な 為しそ と 告りたまイき ここ
に 大宮ゆ 千萬の濁酒と肴とを 宮下げま
したまイき 故 現し人 皆に皆に 喜び
歌イて 国帰りなす
-------------
16,31
-------------
ここに 天津御子 天邇岐志国邇岐志天津
日高日子火火出見の命ハ 大御子に 天津日
嗣知ろしめさしめにと 八百萬の神たちに
告り言ちて 太占の御占業に 仕エまつりて
豊道之原に 太柱敷き立て 高天之原に
鰹木高知らし 天津高御座を置き 榊 小賀
玉 桂を折り敷き 裂き楮布を 太玉串に取
りなし 神宝ハ 八咫御鏡 叢雲御剣 御潮
燿玉を 手置柏屋の命の作れる 檜以て結ゑ
る型取りの 明日はの檜の 清み置きに 尻
久米縄を 掻ゐ敷きて 並めしに 連ね上げ
まつりて 天照国照日子火之後方持の命 ま
たの御名ハ 火須勢理の命 持ち出 眞高に
奉る 故 思金鳴志眞弓の命 思金神建の命
児屋表春の命 児屋下春の命 児屋櫛玉八
隅の命 太玉櫛耳の命 太玉香の命たち 大
御子の命を 眞床覆衾に被みまつりて 天津
高御座に昇せまつりて 大御名を 天邇岐志
国邇岐志天津日高日子波限建鵜葺草葺不合の
命と 仰ぎまつりき
-------------
16,32
-------------
ここに 天津大御子の命 新御子の命に
告りたまイつらく 汝命ハ 臣の神たちの
久に 御齢経る翁の 座置きを定めて 天の
祭り 国の祭りを知らせ また 思金 児屋
太玉ハ 日之大御神の 御父の命に 眞添
わしの神なり
故 汝の御坐の神となせ と 言依さした
まイき 故 ここに 天津御子の命 座置き
を御定めまして 告りたまわく 高津神 此
ハ 四百余りなす神なり 明津神 此ハ 三
百余りなす神なり 清津神 此ハ 二百余り
なす神なり 厳神 此ハ 百余りなす神なり
並神 此ハ 六十余りなす神なり これの
御座置きを定めて 尽々に 司らしたまイき
故 ここに 齢 四百余りなす神の御名ハ
児屋表春の命 齢 三百余りなす神の御名
ハ 太玉櫛耳の命 八玉八百穎の命 齢 二
百余りなす神の御名ハ 大土鬼神の命 科長
明津幸立彦の命 金山群鳥の命 広桙豊津世
彦の命 齢 百余りなす神の御名ハ 弥都波
事勝国知の命 波邇夜須高倉の命 言解言霊
の命 布都武種男の命 甕土剣術の命 金山
麻取の命 高水上茅草の命 活津量玉の命
剣大熊の命 足羽御門守の命 山咋差別の命
大間湯津小賀玉の命 大国深谷置の命 稚
明立の命 明玉神立の命 活玉狭織の命 雲
根揺風の命 闇戸童形の命 六十余りなす神
の御名ハ 幾ちか有りけに 故 天の祭り
国の祭りハ 五十ゆ 仕エまつる 稚子 な
仕エそ ここに 先の天津御子の命 御妃
豊玉毘売の命 御妾 美保津姫の命 側の
御妾 天之鐸姫の命 直入の宮 また 御宝
山の宮に けさり月に出まし 遊ばせたまウ
時に 諸神の歌イけらく
吾が御君 高天の御祖に斎く
先の大御子
顕ハ守り 今ハ 隠ろイ
顕わに 吾が御子 知るしめしこそ
愛でしけれ
幾幸わゐてに 君し 代の尽々に
-------------
16,33
-------------
ここに 天邇岐志国邇岐志天津日高日子火
火出見の命 かなめ月の 月円の六か日に
御齢 五百歳余りに 高天之原の 日之若宮
に 神帰りましたまイき 故 御骸ハ 高千
穂の高日山の西 米良に 葬りまつる 故
これの祭りの 道の理りの訓りなす 御先人
を おおづみとし 御衣人を 眞人とし 清
み人を 連とし 斎き人を 臣とし 八雲除
け人を 足尼とし 花持ち人を 外禰とし
御食し人を 造とし ひのうな人を えじと
し 傾頭人を づみ人とし 布幸人を いも
り人とし 種津物人を 主税人とし 塩放り
人を 主水人とし 馬引き人を 主馬人とし
幡人を 縫ゐ人とし 箒持ち人を 掃部人
とし 御輿方を 建人とし 輿守りを 引き
人とし 火灯しを 手火人とし 故 大道の
神座 祝り部の神座 拆く鈴 笛吹き 鼓打
ちて 御輿辺の高津神 先道の清津神 眞先
道の命 明津神 後方人の厳神 祝り部の並
神たち 御伴なし 現人ハ 高山の上 低山
の上 野辺 道辺に 満ち足らわして 昼ハ
幡上げ 緒幡吹かし 夜ハ 山野 幾らに
火焚きて 葬り時の 翌々の 八か日ぬに
嘆き 楽して 夜伴をぞなしき
上津文 十六の綴り 完エ
-------------
17,1
-------------
上津文 十七綴り
ここに 天邇岐志国邇岐志天津日高日子波
限建鵜葺草葺不合の命 天の下を 知ろしめ
さしたまイて 天の祭り 国の祭りに 斎か
せたまイき 先に 大穴牟遅の命 神顕れに
御顕れたまイて 天津御子の命に 告りた
まイつらく 如何でかも 御妻を迎ゑまつら
で 斯く 疎みます 今 御妃を迎エまつら
に と 告りたまゑば 諾べ と 告りたま
イき 故 ここに 大国御魂の命 直ちに
速吸門に御立たしたまイて 大海なる 宇賀
槌を召さしたまゑば かなめ月の月籠もれる
三か日に 黒雲を起こし 荒波を欹て 速
吸小端に 参イ越しき 故 大神 これの宇
賀槌に 召さしたまイて 波の穂分けに 潔
き小浜に 至りましき 故 その小浜に上り
て 大道 往きます時に 海の宮の侍女に
出合イましき 故 窺間見て 急がし魂乱ぎ
走し帰りて 豊玉毘古の命の御子 海津振
魂の命に 申しけらく 虚空津日高の大神
その御丈 八尺余りなす大神 御手に 火丹
の貴玉と 打ち扇とを持たし 八尺の眞燿玉
を巻かし 頭椎の剣を佩かし 衽の太袖に
褄高の御袴 召し 棹 手抱きたまイ 斎言
得 宣わず 斯く来なり と 告りたまイ
き と 申す 時に 振魂の命 言問イけら
く
-------------
17,2
-------------
その大神の御姿ハ 如何なるぞ と 問イ
たまゑば 答エけらく それの大神の御頭ハ
懸し元取りに輪なし 結イ垂らし 御目細
く長く 御眉長く 僅山なし 御鼻円らかに
穏び 御口広らに 御歯隠り 御耳厚く太く
御朶豊らに 御額円く太出り 御顎太く平
らに 御頬脹らかに 御口鬚八拳に 其 御
身ハ 御肥エたまイ 御腹太く 斯くの如
在します神なり と 申す ここに 振魂彦
の命 そハ 宇都志国玉の大神なり と 頓
に立ち 参イ迎ゑまして 宮内に仰ぎ入れま
つりて 御饗代の物 捧げまつり 饗応す
ここに 大神 海津神に告りたまイき 汝が
御娘 玉依毘売の命を 天津御子の命の妃に
立て奉らにヤ と 告りたまイき 故 振
魂彦の命 御答エ申しけらく 吾が娘 甚
拙し 然れど これの女の御伯母 豊玉毘売
の命の御言畏み 黙も 得あらず 故 大神
の御詔りの随に あな畏こも献奉らに と
申したまイき 故 振魂の命の夫人 海藻姫
の命ハ 濁酒と清酒とを以て 御饗ゑまつる
故 十余り 侍女 楽仕エまして 斎琴
膝琴を奏で 歌イ歓ぎまつる ここに 宇都
志国玉の大神 告りたまわく これの 女子
迎ハ 幾日に 送り献奉らにヤ 答ゑ申しけ
らく いやよ月の月立ての足り日 送りてむ
故 月立ての日に 疾風吹き 隆ろ波起こ
りなば 出雲の日碕の浜に 待たせたまハば
吾と妻と 姫を伴イまつらに と 誓ひ申
しき 故 宇都志国玉の大神 出雲の国に
御帰りましき
-------------
17,3
-------------
ここに 豊葦原之醜男の命 天津隠りの宮
に 帰り入らせたまイて 猿田毘古の命 天
之宇受売の命に 告りたまわく 天津日嗣の
御子の命に 妃 召します 故 汝たち 船
迎エまつらにヤ と 告りたまイき 故 こ
こに 猿田毘古の命 天之宇受売の命の御子
の神に 告りたまイき 大土道守の命 大土
橋船の命 御妃を迎エ奉る 麗し船を造れ
と 言依さしたまイき ここに 二柱の神
大峡 小峽 眞吉木を伐らしめ 千斛の宮代
船を造り 眞燿装イて 黄金布織りの 衾
並めて 八重引き渡し 清眞楯を御立て 艫
舳に 日幡 月幡を 八丈長に 立て吹かし
星幡 幾らに 取りなし 鉾鞘に 白金巻
かしに 玉垂らし 幾らに 立て添エ 五百
鈴を 竿差して 艫舳中らに 帆立し 伊吹
き幡を 差し立て 故 伊吹の長み 一丈
横 八尺を円め その緒に 八百布を垂らし
て 差し立て 的目を立て 斎棹を立て こ
れの道具を並めし立てて 船装イて 銅鑼打
ち 笛吹き 板とろ 踏み轟ろかして 大土
鬼神の命を 舵取りとなさし また 大土鬼
建の命を 眞向かの舵取り 棹術なさしめて
底土国男建の命 赤土砕拓の命 石土左右
守之男の命を 面風 取風の大物の上として
八十の船子を乗らせて 船足らしに 迎ゑ
まつる
-------------
17,4
-------------
ここに 海津見振魂彦の命 海津妹 海藻
姫の命ハ 御子 若玉依姫の命を率きて 侍
女 八十女を 伴ゐて 八尋の雌雄宇賀椎の
背に 乗らせたまイて 疾風波を起こして
出雲の日碕の浜に 出立たしたまイき ここ
に 都夫多都御魂の命 都夫多都御魂姫の命
豊日の御宝山に 神顕れに 顕れましたま
イて 国の守 豊日別の命に 告りたまイつ
らく 天津御子の命の御妃を 海津宮ゆ 女
子迎ますからに 翌々の日に これの丹生門
に 船泊たします 故 迎斎きまつれ と
告らしたまイき ここに 豊日別の命ハ 御
宝山の麓なる大宮に 門代を立て 前に 千
草門代を立てて 待ち迎きまつる ここに
迎斎く神 大土鬼神の命 迎求きまして 直
ちに 御船に乗らせまつり 東風に 御帆上
げ 北東風に 走らし 北風に 櫂走し 北
風に 走らして 丹生門に 泊たしましき
故 豊日別の命 迎斎きまして 大分の御宝
山の宮に 斎きまつり 御輿装イまして 大
伴の神共を率て 直入の宮に出まし 其より
高千穂の二上りの宮に 御輿入りましたま
イき
-------------
17,5
-------------
ここに 手名椎の命 足名椎の命 女男結
びの仲保ちの神と称エ これの神の御齢 三
千歳経ます神なり 太玉天之櫛耳の命 妹
月玉姫の命 科長明幸立の命 妹 明藤戸姫
の命 こハ 御歳久に 五百経ます神なり
故 栄向神と称エ 山津見建宿の命 妹 鳥
島姫の命 別雷建産巣日の命 妹 田鶴姫の
命 弥都波事勝国知の命 妹 宝玉姫の命
此も 御歳久しく 老ゆる神なり 故 添人
の神と称エ 豊食の神の御子 十四種津の神
たちを 御食津知り人となし 積羽の神の御
子たちを 海魚物知りの神となし 沖津の神
の御子の神たちを 御饗エ知りの神となし
山咋三柱の神を 酒食の神となし 夏之売の
命 秋毘売の命 若沙那売の命 弥豆麻岐姫
の命を 楽仕ゑの神となし 大土鬼建の命の
御子 仲手姫の命 物由良姫の命 色香姫の
命 色勝姫の命 また 笹津添理速男の命
妹 若之江姫の命の御子 道守之女の命 花
木之女の命 布留部姫の命 波留部姫の命た
ちを 神座の歌舞人となし 女男向の事成り
御祝ぎ完エまつりき 故 八百萬神たち
神の禮代 臣の禮代に仕エまつり 祝イ楽し
みき
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17,6
-------------
ここに 御妃 若玉依姫の命 御妊みまし
て 産みませる御子の御名ハ 豊島姫の命と
申す 御齢 四つと申すに 神避りまします
御妾 多多良姫の命の御腹に 生れませる
御子の御名ハ 豊貝姫の命 これの御子も
御齢 十一つと申すに 神避りまします 次
に 火別彦の命 こも 御齢 二つと申す神
避ります また 御妃の命の産みませる御子
の御名ハ 玉島姫の命 こも 御齢 四つと
申すに 神避りまします 故 天津御子の命
妃の命 朝夕の食物も 得召さずて 泣き
悲しみ 悩ましたまイき 思金深宮彦の命
思金弓手置の命 児屋萬津幸持の命 児屋鉾
立彦の命 児屋足立谷村の命 太玉柏山守の
命 太玉櫛玉之男の命 太玉八重幡の命たち
天津御子の命に 称エ言申す 皇ら命の御
嘆きハ 豊道之原の萬の 現し人の煩ゐなり
故 御子の生イ立ちまさぬハ 皇らが御心
に有らせぬ 過ち犯す罪有らに 故 天津神
に祷ぎて 太占の占業に 仕エまつらば 証
し有りてに と 称エ申す 故 天津御子の
命 諾べなイたまイて 高津神たちに 告ら
したまイて 直ちに 諸神たちに 言依さし
たまイき 故 太占の占業 叶わせたまイ
神魯岐の命 神魯美の命 神顕れまして 告
りたまイつらく 高津に 禮無し 底津に
愛で無し 故 由無し と 告りたまイき
故 誓ひて 天津日嗣知らさむ御子 妊みな
ば そが身 忽ちに【大土 小土に 神冴エ
に 霊熟き 斎熟きなさば】それの御子 天
津日嗣知らさむ眞徴にあり その時に 御祖
の命の例に 事依せて 海辺に 産室を建て
て 御子産みまつれ と 言依さしたまイて
天津御空に 昇しましたまイき 直ちに
天津御子の命 高津神たち 諸神たち 天の
祭りの 礼代を定め 国の祭りの 愛じ人を
定めたまイき
-------------
17,7
-------------
ここに 思金鳴志眞弓の命の御娘 先に
大宮 仕エましき これの御妾 富津姫の命
御妊みたまイ 大土 小土に 霊熟き 斎
熟きます 故 大分の黒の小浜に 産室を建
てて 生れませる 御子の御名ハ 日子波限
建鵜葺草葺不合二代彦の命 と 申す 次に
大宮内に 生れませる御子の御名ハ 軽島
彦の命 二柱の御子生れます 側の御妾 此
ハ 大物主麻目木棉目の命の御子 木棉多多
良姫の命の御腹に 生れませる 御子の御名
ハ 豊光姫の命 次に
-------------
17,8
-------------
御妃の命 御妊みまし 御身 自づからに
熟り立ちて 大土 小土に 霊熟き 斎熟
きまします 故 皆 訝ります 然れど 御
身 自づからますにより 黒の小浜に 産宮
を御建て 鵜草の屋根を 葺かしめる時に
産みませる御子 眞玉如す御子なり 生れま
しながら 御身輝きて 白玉如ますからに
産御名を 眞白玉眞燿彦の命 と 申す こ
ハ 天津日嗣知らしたまゑる御子 在せば
大御名を 日子波限建鵜葺草葺不合三代彦の
命と 申す 次に 産屋を離りまして 産み
ませる御子の御名ハ 照姫の命 と 申す
二柱の神を 産みたまイき
-------------
17,9
-------------
故 天津御子の命 高津神たち 明津神た
ち 清津神たち 厳神たち 並神たち 共に
議りたまイて 天の禮代の神事に 仕ゑた
まイき 故 むつびの月の 始めの日に 天
津大神 大御祖の大神を 招ぎ祭り 二か日
に 遠津御祖神を祭り 三か日に 八百萬の
大神たちを 祭り 四か日に 躬親らを祭り
五か日に 大伴の神を祭り 六か日に 大
御田族を祭り 七か日に 便め現人を祭り
八か日に 物部人を祭り 九か日に 馬と牛
とを祭り 十か日に 山を祭り 十一か日に
川を祭り 十二か日に 海を祭る 故 こ
れの御幣に 濁酒 清酒 飯餅 餡 味塩
かこり海魚 塩海菜 山菜 清み草門代建て
て 奉る 故 皆 歌イ 歓ぎまつる
-------------
17,10
-------------
月の毎に 祭れるものハ けさりの月ハ
初めの二か日に 桂 柳の門代を建て 蓬の
餅以て祭り いやよの月ハ 初めの三か日に
桃花 桜花の門代を建て 母子の餅以て祭
る うたゑの月ハ 初めの四か日に 瑞葉
五加花の門代を建て 樺葉の餅以て祭り さ
なエの月ハ 初めの五か日に 白膠木 菖蒲
の門代を建て 茅草の をたり餅以て祭り
みなつの月ハ 初めの六か日に 柊かに花の
門代を 建て 蓮葉の餅以て祭り ふくみの
月ハ 初めの七か日に 千榊 楓の門代を建
て 神桑葉餅以て祭り はやれの月ハ 初め
の八か日に 杜松木 荻花 草花の門代を立
て 稲葉餅 若藻 焼き以て祭り なよなの
月ハ 初めの九か日に 蔓木 菊花の門代を
立て 柿餅以て祭り かなめの月ハ 初めの
十か日に 堅葉 常葉の門代を立てて 種津
新物 米を白飯とし 粟を黄色飯とし 木実
実飯とし 黍を萌飯とし 稗を色飯とし
かそはを黒飯とし 赤稲を赤飯とし 畑稲を
青飯とし 小豆を火丹飯とし 大豆を白飯と
し これの十種の飯を以て祭り しふるの月
ハ 中らの初めの日に 山椿 柏の門代立て
眞菰餅以て祭り しはつの月ハ 中らの二
か日に 梅 冬狭花の門代を立て 玉粟餅以
て祭る 故 月の毎に 成り熟きに出る物
また 海津海魚 畑津 水津の種津物 また
海津藻菜 濁酒 清酒 甘濁酒 辛濁酒以
て祭れ 故 現しき青人草ハ 天津祭り 国
津祭り 己が家 遠津御祖 近津御祖の祭り
足らせ と 告りたまイき
-------------
17,11
-------------
ここに 天津御子の命 大御齢負わせ 珍
の神たち 告りたまわく 美し豊道之原の国
々 大国内 小国無からにヤ 汝神たち 思
イ議りてむヤ と 告りたまイき 故 ここ
に 御齢負わせる 神の御名ハ 児屋表春の
命 思金神建の命 太玉香の命 明玉神立の
命 広鉾豊津世彦の命 活玉狭織の命 大国
深谷置の命 稚明立男の命 阿須波御門守の
命 山咋差分彦の命 大土鬼神の命 剣鬼神
の命 活津量玉の命 高水上千草の命 闇戸
童形の命 雲根木棉笠の命 甕椎剣術の命
布都建棚男の命 八玉弥弥貝の命 言解言霊
彦の命 埴山高倉木の命 弥都波事勝国知の
命 科長明幸立の命 思金深宮置の命 これ
の神たち 神事に仕エたまイて 各も各もの
国内 小国なにとの分目ましき 故 言代玉
代萬の命 言代不老の命 並べに 御子 言
代八隅国明の命に 告らしたまイき 言代の
二見なさしめたまイき 故 大国を大国とし
て そが内に 郡国を小国と 詳らに 二見
手ましき ここにまた それそれの御名 付
けたまイき 大国司を建とし 小国の司を国
主とし 郷国の司を 郷主とし 邑国の司を
戸主とし 小邑司を村主とし 各も各も 司
人ハ 御齢長け男を以て 座置きなせ と
告りたまイき
-------------
17,12
-------------
故 天津枳値可美高日子の命の御孫 枳値
可美抄村彦の命 御齢百十六 故 奇日の国
の建 と 言 御名を賜イき 小国辺の司人
ハ 翁主を奉れ と 告りたまイき 天之活
玉の命の御子 活玉玉留之男の命 御齢百八
十二 故 建日の国の建 然々に 小国辺
然々 大土御祖の命の御曾孫 大土鬼拆の命
御齢百二十一 速日の国の建 然々に 小
国辺 然々 天之香具山の命の御曾孫 香具
山国持の命 御齢九十三 故 狭手依の国の
建 然々に 小国辺 然々 大山咋の命の御
曾孫 山咋大国主の命 御齢百一 故 天之
一津柱の国の建 然々に 小国辺 然々 石
拆根拆の命の御玄孫 石拆立岩別の命 御齢
百十八 故 白日国の建 然々に 小国辺
然々 武乳速日の命の御孫 建豊足北の命
御齢百十八 故 豊日国の建 然々に 小国
辺 然々 天之水分の命の御曾孫 水分豊伊
岐彦の命 御齢百六十四 故 穴門国の建
然々に 小国辺 然々 若経津主の命の御曾
孫 若太刀振の命 御齢八十八 故 天之忍
許呂国の建 然々に 小国辺 然々 久久能
智の命の御玄孫 久久幸八玉の命 御齢九十
八 故 吉備津根国の建 然々に 小国辺
然々 御穂須須美の命の御孫 御名方岩鳥の
命 御齢百つ 故 出雲国の建 然々に 小
国辺 然々 天之久比奢母智の命の御曾孫
久比奢母智五百村の命 御齢百七十余り 故
丹波国の建 然々に 小国辺 然々 磐坂
日子の命の御曾孫 磐坂鷲久味之男の命 御
齢九十五 故 愛媛の国の建 然々に 小国
辺 然々 国押別の命の御玄孫 国押衝矢彦
の命 御齢百四十三 故 飯依の国の建 然
々に 小国辺 然々 天之波比岐彦の命の御
孫 波比岐国押彦の命 御齢八十六 故 大
宜津国の建 然々に 小国辺 然々 天熊之
大人の命の御曾孫の御子 天熊国之玉敷の命
御齢百八十一 故 建依国の建 然々に
小国辺 然々 頬那芸頬那美の命の御孫 坂
押男の命の御子 瑞玉彦の命の御子 那芸原
気光男の命 御齢八十七 故 草木根国の建
然々に 小国辺 然々 加夜奈留美の命の
御孫 櫛耳の命の御子の御子 奈留美牛飼の
命 御齢九十九 故秋津根国の建 然々に
小国辺 然々 笹津彦の命の御孫 添理速
男の命の御子 笹津玉宿の命 御齢百八 故
淡海根国の建 然々に 小国辺 然々 級
長戸辺の命の御孫 明神幸立の命の御孫 級
長狭岡の命 御齢百八十六 故 伊勢津国の
建 然々に 小国辺 然々 御穂須須美の命
の御孫 御名方馬取の命 御齢九十じ 故
狭依科国の建 然々に 小国辺 然々 経津
主の命の御孫 建手刃男の命の御子 経津斎
魂の命 御齢百二十じ 故 遠津海国の建
然々に 小国辺 然々 大雷の命の御子 火
之明彦の命の御孫 大雷帯手纒の命 御齢八
十九 故 无邪津海の建 然々に 小国辺
然々 恵美津火明の命の御子 恵美津国形八
耳の命 御齢二百つ二 故 野陸の建 然々
に 小国辺 然々 金山彦の命の御孫 玉入
金心の命の御孫 金山惑の命 御齢百十一
故 陸奥の国の建 然々に 小国辺 然々
都留伎比古の命の御孫 小熊の命の御子 剣
荒熊の命 御齢百つ八 故 越根の国の建
然々に 小国辺 然々 建御雷の命の御曾孫
楯鉾狭別の命の御孫 御雷飾磨の命 御齢
百二十六 故 常陸国の建 然々に 小国辺
然々 天之櫛明玉の命の御子 青雲の命の
御曾孫 明玉雲巻の命 御齢八十八 故 両
児国の建 然々に 小国辺 然々 斯くの如
国々 島々に 臣の上たちを 建と称エて
先に 司どれる 国々の上たちを 斎きの
上となして 御子の上たちハ 大造となして
国主 郷主 戸主 村主を任かなわせ 現
人の物之部に 馬牧 牛牧を任かなわせて
彼毎の国を 幸わイなさしめて 慈しみ 外
国ゆ 彼国と 勤労きなせ と 告りたまイ
き
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17,13
-------------
ここに 天津御子の命 臣の上たち 共に
大須佐田 小須佐田を定めて 親ら 種作
ります 然れと 熟き秋の 現人の荷の前
多々に満ちて 八百萬の神たち 共に 憂ゐ
たまイて 此ハ 良しからず と 告りたま
イて 国毎の建に 告りたまイて 荷の前を
止めたまエども 年の毎に多なす 故 臣
らが罪なり と言て 宮内参イ来る船を 止
めたまイき こに因りて 国々の老翁 媼
受家男女 益良男女 逸り男女 幼び男女
共に 朝に哭き 夕べに泣ちて 建にえらウ
故 建の上 答エけらく 汝 荷の前を
多なさば 皆 貧しくならに と 天津御子
の命 並べに 臣の上たち 共に 国津罪を
犯せるなり と 忌みたまゑるなり 故 今
ゆ後ハ 愼みて 荷の前を 勿 多に せそ
と 告りたまイき
-------------
17,14
-------------
ここに 国津祭りの禮事を 天津神の広御
前に 称エ言なしたまイ 国の国々に 告ら
したまイき 豊道之原の現しき青人草 各も
各もに 光満ち足らし 千足る 天の家なさ
しめて 朝餉 夕餉を 満ち足らし 生命も
長に 満ち足らし 熟き秋の実を 満ち足ら
し 益人 満ち足らし 牧山の牛と馬とを
満ち足らし 山野の千木を 満ち足らし 厳
の分ちの禮事を 満ち足らして 夜の分ち
昼の分ちに 楽しみなして また 歌イ歓ぎ
て 楽し世に 幸わゐなせ と 告りたまイ
き
-------------
17,15
-------------
ここに 八衢彦の命 八衢姫の命の御孫
一津緒の命の御子 八衢心衣手の命 八衢伊
忍乳の命 同じ大神の御孫 二津緒の命の御
子 八衢逞の命 八衢櫛富の命 同じ大神の
御孫 三津緒の命の御子 八衢道具の命 八
衢萬木工の命 八衢萬守の命 道之長乳男の
命 道之長乳女の命の御孫 春鈴の命の御子
長乳春平の命 長乳冬平の命 武乳速彦の
命 玉祖速姫の命の御孫 豊足北の命の御子
武乳白楯の命 武乳豊楯の命 味間見の命
阿加留姫の命の御孫 間味之礼別の命の御
子 間味萬礼知の命 間味種飼の命 火須勢
理の命 綾門日女の命の御孫 稚武の命の御
子 火須勢理幸玉配の命 大土の命 宇受女
の命の御孫 鬼建の命の御子 大土長手姫の
命 大土長由良姫の命 大土色香姫の命 大
土玉姫の命 笹津彦の命 笹津姫の命の御孫
袖振速男の命の御子 笹津道守姫の命 笹
津花咲之女の命 笹津振部之女の命 笹津花
部姫の命 天懸の命 国懸の命の御孫 大床
益良男の命の御子 懸玉石姫の命 懸手牛女
の命 懸諸根姫の命 懸瀬越姫の命 天之御
鉾の命 仮屋姫の命の御孫 大手刃光男の命
の御子 御桙千巻姫の命 御桙手負姫の命
御桙種依姫の命 これの神たち 神集イに
集イまして 天の祭りに 仕エまつらに と
神の禮代を修めて 神の座置を あましめ
たまイて 天津大神たちの御前の 禍津祓イ
に 囁め言の禮に仕ゑて 国内穏び 昼守り
夜守りに 諾べなイませ と 祷き言に
清げに 潔げに 歓る可笑しみ 笑わせ事に
謡を歌ウ
-------------
17,16
-------------
鄙びの歌詠み
豊御座 歌わし
水田津も 八束に とをたらり 畑津も
八束に とをたらり
山津も 玉菜 庭たらり 野津も 菜高張
りたらり
沖津の海魚 網満ちたらり 沖津藻菜 多
たらり
菜幸 千足りに 足り熟がり 現人 笑イ
き 楽し明がり
風ハ 日並らし 東風 東南風 実成るハ
日並らし 南風 南西風
実取るハ 日並らし 西風 西北風 収め
ハ 日並らし 北風 北東風
収めハ 折 良々 時足らり 天の益人
稔足らし
豊道之原に 千足る 足らしに あなに
畏も すさゐ すさゐ
また 歌わし
山野木立 峡木立 瑞葉木末 栄々に 弥
栄花実も とウとウに
花以て 歓ぎ 祝らしに 実以て 歓ぎ
挿頭 常振る
振るべに萌る 山野辺ら 生れ継く草よ
草葉もよ
種々花もよ 其色 勿 失せそ 久し 見
らまく 長世 見らまく
忠誠座 歌わし
八隅知ろす 大君の御身 照る御玉 顕わ
御魂よ 眞降す 世毎 幸世毎
現人たれ 恵まゐ 依さし 畏こ あな
散ら 異に異に
十百ち 八千代 依しけらし【てこね 翳
すべ】萬 一つ君
御座舞ゐ 舞イら 舞イらに そこ坐すに
在り聞こしつめ
臣の神 現し 現人屋も まめ道 まめ道
に 眞まめ道たかゑ
礼事たかゑ まめ事らしし 此 眞事 緩
らし
足し座 歌わし
大御祖 厳去にし辺の 八百千代の 幸青
稲実の 月々 益し越し 青稲実
御青稲実ゆ これの 青稲実 息の道気
息長斎ませ
毛し刈るに 実 比み豊に 子成り立て
麗し 勤し
御実笑まぬ 笑まぬ穂足らし 現子刈る
現子に 訓り伝て
和斎く 天津振る神 神もに ちばやぶる
なす 神もに 奸振る 荒ぶる
禍津物 逐ゐ 祓ゑて 幣取りに 打たし
打ち 青稲実に 仕ゑて
天津振る神 祷き廻みてば 和しめまさに
緩べ振るべに
張るべ 足らしに坐せ
をたしの歌わし
【八千矛の 神の命ヤ 吾が大国主こそハ
男にいませれば
打ち廻る 島の岬々 窺き廻る 磯の岬
欠ちず 若草の 妻持たせらめ
吾ハもよ 女にしあれば 汝を除て 男ハ
無し 汝を除て 夫無くに
綾垣の ふわヤが下に 蒸し被 柔ヤが下
に 栲被 さやぐが下に
沫雪の 若やる胸を 綱の 白き腕 そ叩
き(叩きまながり)
眞玉手 玉手差し纏き 股長に 寝おし寝
せ 豊御酒 立て奉らせ
八千矛の 神の命 事の語言も 此をば】
伴座 歌わし
伴神の 神朋友 神伴 親族 家族ゐ 同
輩児らゐ
御玉蔓 長らイ 業訓りましよ い往きな
せ
吾が玉の 瑞鳥の 麗しみせな 越ゆる処
の 宜べなあれヤ
あやかしの 高津御神の【ほに ほに す
す垂れませ】
高津神 あなに 恵まイ 百鳥の 羽叩き
し尾に 厳の稜威 弥栄上り
【のぼらしめかみ】
愛で座 歌わし
やら児らの童 同輩児ら とをとをに【勤
さかこゑよ】
その上に【勤し やちから】眞白鳥 飛ぶ
しもころまに
鶏の子 道ハ鳴くあれど 嘴掻きし めま
もさかにづり
たわたわに 現世 生れなす 厳者の奴子
現し産
奴女ら 産 生れなす現し人 神道の あ
なに畏み
現人なす 夜無く 昼無く 愛じがり に
イたちまろに
やれ 愛し 走す くくたく やれ 愛じ
真似び人走り
やれ あなよ かことこらし やれ 嬉し
あやに 心覚ゑて
進ます 八百事の 息長なれや
現人座 歌わし
千萬の 青人草 弥幸に 栄服ろイ 水田
津 畑津 海 川之辺に
東西 北南の 四方の表面 豊道之原の
現人ヤも
慨みなさば 逐れ替ゑに 慨み逐エ 神言
以て 逐イ払わせ
其が現人 弥 愛でなせよ 其が現人 喜
ばイして 諾べなゐよ
全祝ぎ足らし やれ 心も 千代 栄幸成
し 吉し 弥吉ろし
明り 明らかに あわれあわれな 美し世
の御代かな
と 歌わしたまイき
-------------
17,17
-------------
また 管の音色ハ 風吹きの 滾き風の水
辺なる 滾きせ吹きせる そが音色に 勝て
美けれ 故 其が色音を 取り訓ちてぞ
色音となしき
豊御座の管音
ああむふるイ かるふとろイ
ととるちちイ ふるとるろイ
はイイふぼイ とろとろちイ
ふるちるりイ
おな座の管音
わるどどううえ かるふらとるえ
きくらむるるえ とをるろとるえ
るうゐとるろえ ううイほとろえ
忠義座の管音
まをとるあ りつりとあ
とをらろあ ほりりつあ
たあちとあ ひるゐろあ
あかるろあ とところあ
たし座の管音
たあたろう たあふるりとる
でらむきう とをるとらしう
ぶウきよう ちらるるゐよう
ほとろきう
をたし座の管音
ささきむとろを わりかりわつを
わつからりとを つるりからりを
きとろかほほを きとろりきろを
きとらりるとを さころらるとを
伴座の管音
ほちらわむほどわ かろちわゆづちわ
ろろとわをびやわ とかろわかかりわ
さそるわほかわわ
めで座の管音
すすか よほか とろか はひか くろか
ゆほか さこか とろか とかか ゆるか
ろるか りとか
現人座の管音
すぶしとるりとを ほうほうたあろを
おへゐびこたらを やうらうからりを
りやうかうららを かあろかあろゐを
ふららりとろりを
と 管の音を編まして また 八管笛を作
らせたまイき
故 はた笛 管笛 横笛 腰笛 竪笛 小
音笛 二管笛 三管笛を作りまして 三つの
音色を分け 歌わしの こ色をなし こまわ
し 弥置きなし 奏じの音を 置き定めまし
て あう音 えわ音 いを音なり
-------------
17,18
-------------
また 五琴を作る 長琴 斎琴 高琴 五
十琴 まみ琴 据え琴 膝琴 故 斎琴 六
弦 二つハ あう音 とし 中ら 二弦を
えわ音 とし 下の二弦を いを音 とす
故 こを以て為せ 長琴ハ 十三弦 高琴ハ
八弦 五十琴ハ 七弦 まみ琴ハ 五弦
据え琴ハ 四弦 こを 手琴と言 膝琴ハ
三弦 こも手琴 そが音 笛音に和まして
色なす
上津文 十七綴り 完エ
-------------
18,1
-------------
上津文 十八の綴り
ここにまた 四つの鈴を作りたまウ 故
拆く鈴 五十鈴 手之鈴 栄鈴 こを作らし
まして 拆く鈴を あう音とし 手之鈴を
えわ音とし 五十鈴を いを音とし 栄鈴ハ
調子に率きゆものからに 初め 終エに
凝り振る また 拆く鈴を 黄金以て作りて
相兎鼓の手打ちとなし 手之鈴を 白金以
て作りて 振らし鳴らしとなし 五十鈴を
眞金以て作りて 御手振りの立て振りとなし
栄鈴を 狭金以て作り 御栄手振りとなす
故 利鈴のあう音ハ あう音し えわ音ハ
えわ音し いを音ハ いを音なせ
-------------
18,2
-------------
また 八つの鼓を作らせたまウ 故 手鼓
轟鼓 転鼓 木巻き鼓 諸鼓 板鼓 黄金
鼓 白金鼓 故 手鼓 轟鼓を あう音とし
転鼓 木巻き鼓を ゑわ音とし 諸鼓 板
鼓を いを音とし 黄金鼓 白金鼓を 三つ
の調め音となす こハ 尽々に まをり 大
木伐り 小木伐りて そを全貫かし 槽太に
中ら細にすすぬき 藤蔓の中皮を 引き鉈
して 叩きて黒き油を水取りなし それの眞
水身 打ち入れ 抄き取り 孔木にふら張り
栲縄以て 弥巻きに 巻きて 打ち桴 打
ちなせ また 板鼓ハ 板嵌めなして 樫桴
以て打て また 金鼓ハ 三つ桴なせ 故
あう音ハ桐桴 えわ音ハ槇桴 いを音ハ樫桴
となしたまイき 大胴ハ 一切りに 一咫
か入れ槽ハ 楠木をかとなし 中ら 全貫き
欅を板とし 櫟木打ちに 表裏なせ あう
音ハ 大声 えわ音ハ 小声 いを音ハ 素
声
-------------
18,3
-------------
また 天津神 国津神 臣の神たち 御冠
奥津冠ハ 太山の上に 瓊鉾立て 丹鉾を
長垂り 眞燿玉以て作り 眞見冠ハ 山成す
の上に 瓊鉾立て 丹鉾を長ら垂り 黄金以
て作り 頭冠ハ 然なしに 鉾を 短きたり
白金作り また 現しき青人草のハ 凝り
烏帽子 巻き烏帽子 留め烏帽子 立て房
前房 後房 鉢房 巻き房 平房 此 麻布
栲布 楮布以て作り また 花頭構き 月
花頭構き 眞燿玉 黄金 白金に花如し き
らびに作り 玉花頭構き 然々 此ハ 妃の
命 臣たちの夫人の召さる 女冠なり また
現しき青人草の女冠 小綿 狭綿以て 種
々に作る 故 突帽子 揺ら帽子 緩ら帽子
巻き帽子 目辺帽子 置帽子 締め帽子
囃帽子
-------------
18,4
-------------
また 禮衣ハ 蚕布の綾なし以て 麻布以
て 綿布以て 禮衣なす 火の生着 黄の生
着 纏生着 きり生着 とも生着 とし生着
かよ生着 こハ 蚕布に美し綾なすを以て
目辺と背辺とに 垂らし下り 其上に 首
入れを貫き 目辺二垂りに 上重になし 袂
をかぬき 斎長垂れ袖もしなしにたいたおり
の袴 或るハ括し あるつぬすに作り 皆
八十色なす こハ 天津神 国津神 臣の神
たちの禮衣なり また 着料ハ 大襲 よた
ゐ 小襲 太襲 こハ 常衣の禮衣なり 各
もハ 斎肌の太締びを 八重に巻かず また
青人草の禮衣 すほゆ大着 郷主大着 こ
たみ大着 愛でし大着 眞夜着大着 ささ大
着 夜さ着大着 こハ 麻布以て作り 種々
の色なす 故 麻布 目辺二垂り 背辺一垂
りに 首孔ゆ右手 相垂り 袂と袖とハ 同
じ並めに 足摺りなす また 袴を布以て作
る 故 蚕布以て作れるハ 大御袴 綿布以
て作れるハ 現人袴 片袴 長織り袴 中津
袴 かそゑ袴 手持つ袴 垂る袴 みみり袴
みとり袴 丸袴 弥層袴 床袴 此ハ 蚕
布 綿布に 幾色なす 皆 彼れ此れに 大
条 小条を織り入る
-------------
18,5
-------------
また 御手持つ物を作る 榊 小賀玉 桂
柳草 薄草 ほこし草 楮布和幣 布和幣
白楮和幣 青楮和幣 麻和幣 栲和幣 柏
和幣 松和幣 丸吉葛 割吉葛 玉鉾 齊鉾
片身剣 よざか剣 よやエ剣 反らし剣
こもり鉈 払エ鉈 薙刀直ぐ鉈 差し斧 提
げ斧 拊り斧 長斧 檜の扇 開き扇 莟み
扇 畳み扇 中津扇 内扇 ことめ貴玉 よ
き貴玉 差し貴玉 とり貴玉 擦り竹 割き
竹 振る竹 打ち竹 これの道具も 五百足
らします
-------------
18,6
-------------
ここに 然の上たち 高千穂の大野之原に
立たしまして 天津神 国津神 八百萬の神
たち これの太御幣に 招き手に祭りて 神
の御幣物と 水田津実 畑津実 海魚 川魚
海津藻菜 畑津菜 種々の物を 太山の横
山なす如に 積み足らわして 天津祭りの礼
事に 仕エまつる 故 天津御子の命 高津
上 明津上 清津上 厳上 並上 並べに
大伴の長たち 共に 大野之原 参イ出て
天津祭りの礼事に 仕ゑまつる 故 然の上
たち あう音 えわ音 いを音の調子を揃ゑ
て 鳴らしを鳴らし 歌を歌イて 大野之原
を 轟こして ゆらに もゆらに 歓ぎ 踊
らしたまウに 天津神 八百萬の神たち 火
丹雲の上に 跨がりて 斎々しとぞ 笑わし
たまイき 故 夜ハ 庭火を焚きて 大野之
原 明りなして 八百の上たち 上遊びに
遊びたまイき
-------------
18,7
-------------
ここに 白日の国の 生葉の国の戸主の子
帆足四郎 帆足六郎 これの兄弟 木工なし
て 山に入りて 木工むに 何故かに 持た
る鉋の 板割れたりき 異しとて 其所 目
見するに 腰細の羽虫 咋ゐ持て来て 奴が
巣作り本なす 故 何処ゆ 咋イ持て来と思
イて 奴が往き先を 従ゐて見るに 黄櫨の
木の脂を 銜イ来て本なす 然ぞ とウて
鉋板の割れ穴に その脂を取り 摺りて 接
ぐに いと 確かに接きたり その摺れる脂
外の物着けるに 色 輝ぎあり 故 兄弟
工みて 天の膳を 槇以て作りて 黄櫨の
木の脂を 弥摺りに 摺り着けて 一夜さに
空室に置きて 出らし見るに 輝き光りて
美し 故 奇日の高千穂の大宮に 御幣物ま
をす時に 児屋萬鋤持の命 児屋八村の命
思金弓手招の命 太玉八重幡の命 天津御子
の命に言告り 称ゑ申す 故 甚く 喜ばし
たまイ 告りたまわく 此ハ 麗しく塗れる
膳にこそあれ と 告りたまイき 故 黄
櫨の木の脂を 漆といウ また これの兄弟
を 褒めたまイ 兄麗の長 弟麗の長 とい
ウ名を賜イき
-------------
18,8
-------------
ここに 陸奥の国の現人 河内の国の値麻
呂 斎瓮之屋四郎 牧川二郎 菜花木 百合
手 里三郎 川波太郎 これの翁 諸々の若
人を集エて 大宮船を造り こ粗け縄を 千
尋にま繰りなわせて 岩碇 砂碇 土碇を
銅に作らし 曳き緒となして 綿布の粗目布
を 眞帆となし 弥帆となし 端帆となして
船開かにとて 先づ 船魂の神を招ぎまつ
る そハ 底津海津見の命 中津海津見の命
上津海津見の命 底土の命 赤土の命 石
土の命 底着く御魂の命 底着く魂姫の命を
招ぎまつり また 船守りの神を招ぎまつる
そハ 伊都之尾羽張の命 伊都之女の命
天之目一箇の命 目一箇姫の命 彦狹知の命
幸延姫の命 手置帆負の命 多久豆玉姫の
命を招ぎまつり 船御柱の眞中に 坐せまつ
る 艫舳に門代を立て 八幡を立てて 輝船
なす 故 現人 御名を申す
-------------
18,9
-------------
ここに 陸奥の国建 金山惑の命 国内の
海漁人と共にて 屋船に 櫓櫂を立てて 西
の日向の国に 船走しらし 東風に帆上げて
豊日の大分の瓜小門に みなつの月の 月
籠もる三か日に 泊たしき 宝宮に申す こ
こに 豊の国建 高市豊足北の命 牧山の月
毛駒を求かせて 大馬鞍を興し 走しらし
櫛触の大宮に参ゐ出る 高津上たちに 然申
す
-------------
18,10
-------------
ここに 天津御子の命 東の国しりに 遊
びたまわにともてつきなしたまイき 故 思
金深宮彦の命 児屋井幸持の命 太玉剣立の
命 目一箇量武の命 科長眞力の命 狭霧柏
の命 阿遅鋤鰐男の命 久比奢母智目勝の命
速玉伊狭良彦の命 言解透の命 金山息吹
明の命 赤土佐久間の命 底土日之臣人の命
岩土礫彦の命 一つ辺に 大伴の長 伴之
緒の長 幾人 御妃の命 並べに 夫人の命
幾人 大伴の上の女の長 ふたらの女の長
侍女の女の長 現人女の頭 幾人 また
玉成すの 掛かり御輿ハ 天津御子の命の
御坐しの座なす 金成すの 笠御輿ハ 高津
上の 御坐しの座なす 花なすの 掛かり御
輿ハ 妃の命の 御坐しの伴座なす 備なす
の笠御輿ハ 夫人の上の 御坐し所の 居り
座なす また 馬人の上 幾人 牛人の姫
幾人 また 大分 臼杵に繋げる 大宮船
四隻 御輿と馬と牛と載る船三隻 装イまし
き
-------------
18,11
-------------
ここに 天津御子の命 高千穂の大宮ゆ
御輿出まして 大分の宮に入ります時に 国
々の現人 大宮に 潮嚮の餞 せに とて
各も各もに 参イ来て 風招きの新瓮壺を奉
る こハ 志那都比古の命 志那都比売の命
白日の現人の女に 神憑りましたまイて
告りたまイつらく これの日向の国の 現し
き青人草に 物告りせに 吾が 今 現せる
八百土壺取りて 天津御子の命の 船出ま
す餞となせ 故 その八百土壺を 栄さむ状
ハ 赤土壺 二つの 濃き土瓮を開かば 南
風吹きとならに また 薄土瓮を開きなば
南西風吹きとならに 白土壺 二つの 濃き
土瓮を開きなば 北風吹きとならに また
薄土瓮を開きなば 北東風吹きとならに 黄
之土壺 二つの 濃き土瓮を開きなば 西風
吹きとならに また 薄土瓮を開きなば 西
北風吹きとならに 青土壺 二つの 濃き土
瓮を開きなば 東風吹きとならに また 薄
土瓮を開きなば 東南風吹きとならに と
告りて 神昇します ここに 国々に その
御風壺を求ぐに 白日の国の大野に 白土壺
を求く 故 其所を 御笠と言 速日の国に
求ぐハ 赤土壺なり 故 其所を神埼と言
豊日の国に求ぐハ 黄之土壺なり 故 其所
を挿頂花と言 建日の国に求ぐハ 青土壺な
り 故 其所を長狭と言
-------------
18,12
-------------
ここに 豊日の国の現し人 楮柄八郎 宍
之御簾之男 小牧栂麻呂 藤の木の実を取り
て 油となすに 其油 凝きて堅し 故 火
点す時 成らず 故 三人 思ほエて 花木
立草の中らの 藺を取りて そを 細くに
巻き立てて これの凝き油を 火に焚きて
その巻き立てる藺に 注き掛けて 火を燧れ
るに いと明るし ここ 掲げ持つに斎々し
故 楮布を 丸めに抄きて 火立を作りて
火点して 夜さに 便めなす 故 天津御
子の命 船路の 夜さりの篝とて 奉る こ
を覧わしたまイて 能く明る火ヤなす と
告りたまイき 故 その凝る油以て 作れる
物を 小燿といイ また 火立ての楮布以て
作れる物を ほヤ といウ
-------------
18,13
-------------
ここに 天津御子の命 妃の命 臣の上た
ち 夫人の上たち 大伴の長たち 八十伴の
緒 船乗りなす 天津御子の命 妃の命の
召さしの大宮船 底津磯貝の命 舵取りまつ
る 櫓立て 小帆上げて 皆に皆に 船子歌
を歌イ その音 高吹かし 櫓声に合わして
銅鑼打ち 中鼓を打ち ゆらに もゆらに
揺がして 漕き廻みて ゆくら ゆくらに
相回なす ここに 国内の海漁人 小船
多なし 御船毎に 綱打ち掛けて 速吸門の
沖津に 船出なします 此を 穴門の現人聞
きて 大船 小船を多なし 艫舳に 榊 小
賀玉 桂木を 門代辺に立て並め 上津枝に
連玉を打ち掛け 中津枝に 鏡を取り付け
下枝に 白布 青布を取り垂でて 向面に
幡立て 伊吹き立て 夜ハ篝焚きて 豊日
津の灘中に 迎ゑまつる また 愛媛の国
ききたの浜ゆ 越して 国々の現人 大船
小船を 多々に 船毎に 清み門代を立て
大幡を差し 小幡を並め 大伊吹きを 間差
し 昼の飾り 夜の飾り火を照らし 板鼓を
鳴らし 櫓声清らに 散らげて 此も 豊日
の灘中に 迎ゑまつる
-------------
18,14
-------------
ここに 大御船 沖津の海中に 渡らす時
に 穴門の多船 迎エて 急に 引き越しま
つらに と 漕ぎ廻む時に 愛媛の諸船 窺
間見て 船凝り来て 穴門の掛けぬる幅縄を
打ち切りて 愛媛の方に そびきまつらに
となす 故 穴門現人 耐ゑずで 直に
愛媛の緒 引き縄を 打ち切りて 穴門に
獲込まに と言 愛媛の現人ハ 愛媛に 込
まに と 言て 争イ止まずで 遂にハ 水
棹 櫓 櫂以て 挑み戦ゐなす
-------------
18,15
-------------
然すかに 手力上建の命 鉾立中建の命
御雷鹿島の命 大雷手刃男の命 布都伊賀津
彦の命 岩柝勝男の命 大土中彦の命 甕建
屋戸之男の命 これの上たち 頓に 彼の争
エる 穴門 愛媛の現し人の船々に 跳び廻
りたまイて 持たる貴玉を 大振らしに 打
ち振らしたまイて すゐすゐ と 告りたま
イて 鎮めましき 故 皆 穏びて 及きな
す 故 穴門に 寄せたまイき ここに 八
百萬の現人 老ゆも【若磯児 海部共】皆申
す 懸けまくも 畏き 明津上たちの 御す
ゐ告り 皆人に賜べに と申す ここに 明
津上たち 訝りまし 告りたまわく 御すゐ
告りとハ 何事そも 答ゑけらく 船の上に
出ましの時に 言依せたまイし宣りなり
と 申す 故 明津上たち 黙だも 得 在
らで 陸に 出立たしたまイて 人毎に 持
たせる貴玉を以て 現人の頭を 手摺らして
すゐすゐ と 告りたまイき 故 穴門の
皆の現人 参イ来て 喜び合ゑり ここゆ
愛媛の国に 船向けたまイき 故 愛媛の国
人 皆 参ゐ出て 御すゐ宣りを 求き願ぎ
まつる 故 明津上たち 共に 天津御子の
命の 御手の貴玉を 乞わしたまイ 御妃の
命の御手の 檜の扇を 乞わしたまイて 陸
屯探りまして 国内の 栄男女 眞千努男
女 千努男女 眞受家男女 受家男女 益良
男女 逸り男女 幼び男女 千萬の現人 頭
撫でて すゐすゐ と 告りたまイき
-------------
18,16
-------------
故 歓ら歓ら 喜びつ 平手を拍ちて 畏
みて 御祝ぎの御幣を奉らに と 申して
海之物 野之物を 多に 御船毎に 拝み入
れき 故 明津上たち 甚く 御怒りまして
告りたまわく 如何に思イてヤ 禍津長を
饗エするが如 吾を贖ウ と 告らしまし
て 其 拝み入るる御幣の 多なすを 尽々
に 浜の辺に返し 満たらしましき 故 其
所の浜を 三津の浜と言 ここに 吉備津に
泊たしますに 然々 また 吉備津根 飯依
大宜都 草木根の国々の 大き 小さき船
幾らと無く 棹立て 参イ来て 申す こ
ゆ 大海の原なり これの船々 迎斎きに
参イ来
-------------
18,17
-------------
陸奥の国 御伴しまつらに と 八百千の
船毎に 帆上げ 櫓立てして 御船曳きて
先人しまつる 其より 伊勢津の海辺に 泊
たしまさに と どろろ とろろに 寄せま
せる所を いろし と 言 また 遠津海の
沖津を 過ります時に その夜 いと 暗し
故 海津見の神 火挙げまつる その火
海の原 幾千か有りけに 昼の如なす 故
其所を みまかかさき と 言 また 无邪
津海の門に 泊たしたまイし所を 三浦門
と 言 また 常陸の浦に 泊たしたまウ所
を 海上 と 言 また 陸奥の国 よほく
らの門に 泊たしますに 海の神 罷りて
海中ゆ 数々の御燈しを 上せまつる所を
日立 と 言
-------------
18,18
-------------
はやれの月の 月立てる十か日に 石川の
大宮に 御輿入れまつりき 故 国内の青人
草 皆に皆に 寄り集エて 天津御子の命
御妃の命 臣の上たち 夫人の上 大伴の長
伴の緒の頭たちの 美し遊びの神座を 奉
らに と 鳴らし物を多なし 歌イ歓きまつ
る ここに 海漁人 棚無し小船を多なし
清浜に 宮代を建てて 招ぎまつりて それ
の海原に 小船を立て並めて 海幸をかゐふ
りなさにと 大目網 小目網を 海面に 繰
り巻きて 網引きなすに 北風 荒く吹きて
海魚少なし 故 饗応悪しとて 海漁人
皆 心忌みなす ここに 海面波 太揺らし
て そが波に 揺すりて 浜の上に 浸み撓
るハ 大海魚 多々に 跳ねき ここに 海
漁人 頬笑まイて 浜走しりし 手に手に
これの海魚を取りて 海原を見れば 童児
いまだに 海物 参イらせむヤ と言 故
海漁 海魚 多なせりと言
-------------
18,19
-------------
故 海なる童児 三人並めに いくらと無
く 藻の殻を衣として 口女の腹膨らを 鼓
となして ざざめかし歌イ踊りて 天津神た
ちに 御祝きのかたし奉る と言 歓ら歓ら
に 踊り奏でなす 故 天津御子の命 汝ハ
如何なる者ぞ と 問わしたまイき ここ
に 児屋萬鋤持の命 御答エ申しけらく こ
ハ 沖津に棲める海豹 と 申す 海魚守る
者な 奴ハ 美し御世にハ 陸辺によく遊ぶ
と 申す 天津御子の命 奴に 何物を賜
びてむ と 告らすに 答ゑ申さく 奴ハ
種津実を喰わす また 濁酒 清酒も呑まず
只 椎の実を求む と 申す 故 天津御
子の命 告りたまイつらく 椎の実を 多々
に 奴に 与ゑよ と 告リたまイき 故
その海豹 昼の七か日 天津御子の命の 逍
遙まします限りに 優遇りて 海揺らしまつ
る
-------------
18,20
-------------
これの所に 御廻びますも 速く 一年余
りに 御輿出まさむ と する時に 津賀の
国の現人 千萬 出来て 天津御子の命 御
妃の命 臣の上たち 夫人の上たちの 乗ら
しませる御輿を 得も応エずて 舁き持て
彼が国に 舁き廻みまつらに と言て 砂を
蹴ゑ散らげて 一里 走らして 急越し来
故 石川辺の現人 千萬 出来て 怒り荒び
て 駆け越しに あぶさきる 故 彼と此と
然ならなくぞ と言て 挑み争ウ 故 明
津上たち 現人を 撫で愛ぐまイまして 御
すゐ宣りに 告り訓ちたまイて 津賀の国に
御輿出ましき
-------------
18,21
-------------
先に 恵美の国ゆ 渡り越す 恵美人魚取
男 と言る男の子 齢 三十余り そが丈
八尺なす これの現人に 力競べなさに と
言 面激る 此を止めてき 今ハさにやまに
あり 此ハ 天津御子の命の 逍遙に奉らに
とて 其を引き出て まじまの川の上に在る
まじま太郎の二郎 これ 手力強し 彼と
此と 合わして良けに と言て 彼も此も
赤肌となさしめ 男根の上に 褌を 弥巻き
に 包めかして 圧の緒を 粗目に結ゐて
東 西ゆ 組みて 力尽くして 挑む まじ
ま太郎の二郎 力勝りてにヤ 恵美人魚取男
の背褌と 頭束を握みて 頭上に差し上せて
大地 とウとウに 投け放つに 暫し躊躇
イて 大地を腹這ゐて 東所に跼みき 故
千萬の上た 皆 声震らしに 笑イき
-------------
18,22
-------------
ここに 越の国に 御輿出ましき 故 新
川の宮に 御輿入れまし 久しく 国遊びま
しき こゆ 丹波の国に 迎斎きまつりて
御饗エまつりて 現人の御栄りを 覧わした
まイて 御歌イます
吾が世ハ 栄しかも かも
御田族 現人 栄しかも かも
御田族 斎々し
と 歌イたまゑば 現人の翁
八束穂 繁に 繁まく 稲よ
穂垂らし 訪へる 天津御子 天翔ぶ
愛でしかも
ここに 出雲の国に 出まして 杵築の宮
に 坐します 故 国建 御名方岩鳥の命
安芸の海辺に 大宮船を遣して 迎斎きまつ
る 此より 御船召されて 御船出まつるに
出雲 穴門 豊日の国々ゆ 御船遊びの船
千萬 漕がし来て 船歌なして 漕き廻む
ここに 峡の早瀬の漲りを湛めて 参イ出
る海豹 幾頭とも分かで 多々に 海の上に
腰嵩を出らして 船板を叩きて 歌イ 歓
ぎて 御船の頭津棚差して 押し張り往くに
御船 伴船言で 引く手船も 其にそびこ
れて 大眞風の吹ける如に 走るに 朝餉ゆ
昼餉に 豊日の瓜子の門に泊たしまして む
つびの月の 月円の始めの日に 臼杵の二上
りの大宮に 御輿入れましたまイき
-------------
18,23
-------------
ここに 天津御子の命 高津上たち 明津
上たち 清津上たち 厳上たち 並上たち
御饗エの訓りを 定めまつらに と 更に
上たちを集イまして 告り分けたまイき【瑞
稲依彦の命 瑞稲依姫の命の御子 稲依堀彦
の命 稲依堀姫の命 秋津畑津根の命 畑津
女の命の御子 畑津根富戸の命 妹 富姫の
命 厳熟実根彦の命 妹 熟実根姫の命の御
子 熟実足日之男の命 妹 足日之女の命
斎守麦結の命 妹 麦姫の命の御子 麦敷玉
の命 妹 敷姫の命 眞玉粟太之男の命 妹
太之女の命の御子 玉粟千鳥彦の命 妹
千鳥姫の命 数玉細石男の命 妹 細石女の
命の御子 数玉櫛岐の命 妹 櫛美の命 八
垂黍根の命 妹 黍兄の命の御子 黍根遠津
の命 妹 遠津姫の命 墾稗守の命 妹 稗
守の命の御子 稗守長手男の命 妹 長手女
の命 稲目菰実之男の命 妹 菰実之女の命
の御子 大豆白豆彦の命 妹 白豆姫の命の
御子 白豆八玉彦の命 妹 八玉姫の命 若
枝小豆男の命 妹 小豆女の命の御子 小豆
戸依彦の命 妹 戸依姫の命 八十諸手彦の
命 妹 諸手姫の命の御子 諸手烏玉の命
妹 烏姫の命 網豆笹実男の命 妹 笹実女
の命の御子 笹実根刺彦の命 妹 根刺姫の
命 活津八豆彦の命 妹 八豆姫の命の御子
八豆沢科の命 妹 沢志女の命 籠足玉菜
之男の命 妹 玉菜之女の命の御子 玉菜根
太岐の命 妹 根太美の命 伊足根菜彦の命
妹 根菜姫の命の御子 根菜作成之男の命
妹 作成之女の命 麻谷足花之男の命 妹
花之女の命の御子 花之高葉枝の命 妹
高葉尾の命 弥足実菜彦の命 妹 実菜姫の
命の御子 実菜之成長男の命 妹 成長女の
命】これの神たち 遠津の天津神を 祝イま
つる 故 大御火産巣日の神を 南に斎きま
つりて 夏となし 大御風産巣日の神を 西
に斎きまつりて 秋とし 大御水産巣日の神
を 北に斎きまつりて 冬とし 大御土産巣
日の神を 東に斎きまつりて 春となす ま
た 豊宇気彦の命 豊宇気姫の命 鹿屋野比
古の命 鹿屋野比売の命 沫那芸の命 沫那
美の命 沙那芸の命 沙那美の命 奥津彦の
命 奥津姫の命 庭高津彦の命 庭高津姫の
命 阿須波彦の命 阿須波姫の命 波比伎彦
の命 波比伎姫の命 御井之男の命 御井之
女の命 氷鹿土之男の命 氷鹿土之女の命
板男の命 板女の命 これの神たちを 斎き
まつりて 大贄を奉りて 此を 天津御子の
命 臣の上たちの 大贄となして 御食津の
訓りなす 故 大御前の御物膳に 満てるも
のハ 左の目辺に 飯秀瓦 右の目辺に 味
噌入り秀瓦 左右の向津に 高盛り飯秀瓦
此ハ 赤飯 白飯 黒飯 目見ゑなり 左の
膳に満てるものハ 前津の眞中に 醤油料秀
瓦 左の御立てに 並めるものハ 前津に
平秀瓦 央らにハ 立て秀瓦 先に 伏し秀
瓦 右の御立てに 並めるものハ 前津に
並平甕 中津に 立て平甕 先津に 伏し平
甕 眞中に 壺平甕 右の膳に 満てるもの
ハ 前津の眞中に 味塩料秀瓦 左の御立て
に 並めるものハ 前津に 立て平甕 先津
に 伏し秀瓦 眞中に 房平甕 左の膳の
先津に 置くものハ 八座置きに 物足り
右の膳の 先津に 置くものハ 四座置きに
物足らして 祝イまつる また 濁酒坏ハ
あはらすすでもつくる 出し口 蓋掛け
蔓手に 取りなし 清酒坏ハ あはらゆわ
でもつくり 出し口 蓋掛け 先高長手に
取りなし 酒魚手ハ 鰭広の 八雲置きに
松の瑞葉枝 檜の瑞葉枝 杉の瑞葉枝 根差
しハ 折々の木花 狭花を 掻ゐ敷きとなし
て 並めるものハ 椎の実 沖藻菜 乾海魚
狭海魚 ゆずりこ 穂俵 時魚 川魚 膾
魚 味塩 温り蒸し 此を 山如に盛り 肴
となし 葉立て湯ハ 桑 枸杞 五加 空木
これの木の瑞葉を 乾し焙りて 湯足らに
葉足らして 細粉に 取りなして 湯立て
食しとし 葉立て湯菜ハ しばね料の秀凝り
餅 餡なり 木立て湯浴みハ 常盤の木の
葉を 衝き料となし 湯立ちに 濾し入れ
眞躯の 浴みものとなし 斯く 手之仕ゑの
上たち 禮なして 斎きまつれ と 訓り伝
てたまイき
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18,24
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然て後に 天の祭り 国の祭りを 御年久
に 仕ゑたまイ 完エまして 天邇岐志国邇
岐志天津日高日子波限建鵜葺草葺不合の命
日向の奇日の高千穂の 二上りの大宮に 神
崩り 日の若宮に 御帰りたまイき 故 高
津上 明津上 清津上 厳上 並上たち 集
イたまイて 大御體を 天津清着の 覆せま
つりて 天の眞名井の水を 白湯水となして
御注ぎまつりて 常世の御衣を 八重に取
りなし 麻帯を負わせ 蚕布 弥繰りの御袴
を 履かせまつり 紫色の八千草の 黄金入
の生着を 召さしまつり その上に 火丹の
襲を 纒わしまつり 燿玉の御冠 頂かせま
つり 左右の御手に 太袖内に 膝合わせな
して 奥津喪屋に 斎きまつりて 前津辺に
貴玉と 檜の扇を 右津辺に置き 左津辺
に 常世に佩かせる 十握の剣を置き 喪屋
に 竹御簾を 面隠れ垂らして 御食 御酒
を奉りて 諸上たちの栄りとて 御食と御酒
とを賜イき ここに 八百萬の上たち 上集
イに集イて それの喪屋を 御輿に置きまつ
りて 那の吾平の山の上に 葬りまつる ち
神座を称エて 家内毎に火焚き 花掲き以て
幾十か日か 斎きまつる これの天津御子
の命 御齢 六百余り 御世知りまささりし
ば百余り 御世知りの時 三百余り 御世隠
り時 百余り
上津文 十八綴り 完エ
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19,1
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上津文 十九の綴り
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二
代日子の命 先に 味間見の命の御孫 味萬
礼知の命の御子 味佐和気彦の命 佐和気姫
の命の御子 梯立姫の命を 妃になしたまゑ
ども 御子 一柱も 生れまさず【其ハ 天
津御子の命 只管に 大御身 勝ちも在さず
で おわしまつれと 臣の上たちを 定めた
まイき】故 思金深宮招の命 弥生小姫の命
の御子 思金蚕之布栄彦の命 思金斎田招の
命 思金櫛形の命の御子 玉屋主の命 思金
神建彦の命 玉屋戸姫の命の御子 稚神建の
命 児屋足立八村の命 川之上姫の命の御子
眞木足の命 児屋萬幸持の命 八玉姫の命
の御子 八島手の命 児屋鉾立彦の命 活玉
姫の命の御子 八幡之男の命 児屋玉敷の命
阿須戸姫の命の御子 稚玉敷の命 太玉柏
山守の命 櫛玉姫の命の御子 眞柏之男の命
太玉櫛玉之男の命 櫛姫の命の御子 八束
穂垂の命 玉屋彦の命 太玉八重幡巻の命
八重幡間見の命の御子 雲笠の命 手力天之
日別の命 明姫の命の御子 小日別の命 手
力神建の命の御子 八力の命 甕土立鉾佐和
気の命の御子 八島彦の命 甕土手刃之男の
命の御子 阿遅村鰐男の命 味鋤八晒の命の
御子 楯岩の命 彼此の上たちを 高津上ち
と定め 明津上 清津上 厳上 並上 これ
の五座の上たち 卿の上と 定めたまイて
大伴の長たち 伴之緒の長の翁主を 定めま
しき
-------------
19,2
-------------
ここに 先に 天津八心思金の命の 描き
たまゑる 五声ハ 天地の共 自づからなる
現しき青人草の 言の葉の始めなる 此れ
の描き状以て 五十言建の命 またの御名ハ
五十猛の命 思金命の 五つの声音の
a i u e oの仮字に装ゐて 天地の
おのづからなる 言葉の 有りてに限りを
象有るハ 形画とし 無きハ 仮画となして
五十字画と なしたまイけるを 積羽八重
言代主の命 これの五十声音の 描き以て
諸々の言霊を写して それの言の趣きを書き
て 文なしたまイき
-------------
19,3
-------------
故 此を描かむに 企み 滞々し 然れば
積羽八重言代主の命 妹 天之葉々姫の命
の御孫 言代玉代萬の命の御子 言代八隅国
明の命 明津姫の命の御子 言代兄田太の命
言代弟田太の命 汝 これのもじり 描き
易すからしめよ と 告りたまイき 故 二
柱の神 吾が兄弟 二人して 書き宥めなさ
むに 適わじ 天津神言を 祷きて為さむに
易し と 告りて 大分の速吸門の 向津島
の 国の御柱石の辺に 棚支くの小船に 乗
らして 日の毎 三度の御濯ぎの 神訓りの
潮垢離て 八つ 九つの平手を 三度拍たし
て 火を鑚り以ち その海に漁る鰭物 御幣
代に奉りて 左手に 青和幣 右手に 白和
幣 打ち振らして 祷き言の太宣りに 仕エ
まつりて 太占の御占を 天津神たちに 仕
エまつる 故 昼ハ 十一つ日 夜ハ 十つ
夜 像代の神楽を 称エまつる ここに 太
占の御占 叶わしたまイて 天津神の詔 御
現れたまイ 告りたまわく 汝 精励なり
五十声音のもじりハ 然そかに 書き連らゑ
斯く連らゑなば 書き易すにこそあらめ
また 清み濁るもじりと 添ゑもじりとを
編み弥足らして 作り足らせ と 告りたま
イき 故 ここに 言代兄田太の命 言代弟
田太の命 天津神の告り言の随に これのも
じりを和して
☆あ行~わ行
添エて 濁るもじり
☆が行~ば行
また 添エたるもじり
○ こハ 上の ヤもじりの如
○ こハ 上の ワもじりの如
これの形と仮名とのもじり 斯ぐ 懸りま
して その上に 濁り二十ち 添ゑ二つを合
ゐらしまして 七十二つもじりを 天津神の
弥宣りに 仕ゑまつりて これのもじり以て
文まさむに
-------------
19,4
-------------
【先津御代に 楮抄高彦根の命 またの御
名ハ 味鋤高日子根の命の 天津神に 青和
幣 白和幣の御幣 奉らしし時に 楮の堅木
を 本末 打ち切らして その皮を 全剥き
叩き 狭水に漉して 竹簀を編みて 弥
抄き足らして 楮布を作らしめます 神訓り
の楮布に 御穂須々美の命の 編ませたまゑ
る欅木の 火焚き燻しの 煙葉の煤を取らし
て 黒木の油を取りて 混ぜ合ゐらして ま
た 去年に立つ大竹を 八寸 取りなし 灰
水の粉揺ら水に 籠に浸して それの眞先
叩きて 筆となして 言の葉の状 綴りて
料なす】故 臣上たち 大伴の長たち 諸共
に 平手を拍たして したり と 笑イまし
き
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19,5
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二
代日子の命 大御身 不和みたまイて 常所
に穏びまさずて 天の下 知ろしめしも 覚
ほゑたまわずて 遜らしに 室隠りなさに
と 告りたまて やがて 弟の命に告りたま
イつらく 汝の命 天津日嗣知ろしめせ と
三種神宝を授けたまイて 大御身 十四年
御代知りたまイて 大御齢 僅かに 百六
と申すに 御室隠りまししたまイき
-------------
19,6
-------------
故 ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合
三代日子の命 またの御名ハ 眞白玉燿彦
の命 兄の命の御譲りを 受け継がしたまイ
て 五座の上たち 先に定めの随に 座成し
たまイて 豊道之原の 萬秋の 瑞穂の国の
現しき青人草を 安らけく 撫でたまイき
先に 児屋八島手の命 児屋八幡彦の命
天津御子の命に 御妃を召さしたまゑ と
申して 御稔穂満足の命 妹 若姫の命の
御娘 上照姫の命を 目迎ゑて 御輿入れ
ましたまイき ここに 奇日 速日 豊日の
国の現人 参イ来て 神楽を鳴らし うたて
日ハ八か日 夜ハ七か夜 昼夜の分目も分か
で 喜び 歓らきまつる
-------------
19,7
-------------
ここに 御妃 上照姫の命の産みませる
御子の御名ハ 歓姫の命と申す 次に 御妾
片山姫の命の御腹に 生れませる御子の御
名ハ 瀬之上彦の命 次に 御妃 御孕みて
産むか月に ならせたまエども 御子 生
れませずて 五月を経たまイき 故 不審か
にあれば 告り訓りを以て 天津神に 太占
の御占に 仕ゑまつりき ここに 天津神
告りたまイき こハ 妃の命 大土 小土に
霊熟き 斎熟きなすを 去にし訓りに 違
ゑるからに 良わず 故 改め 然なせ と
告りたまイき 故 臼杵の狭野の小浜に
産宮を御建てて 御妃の命 御輿入りまして
産みたまゑる 御子の御名ハ 玉神の命と
申す これの御子ぞ 天津日嗣知らす御子に
坐しますからに 本津の大御名ハ 日高日
子波限建鵜葺草葺不合 四代日子の命と申す
次に 御妾の命の御腹に 生れませる 御
子の御名ハ 天津五百玉彦の命 次に 御妃
の御腹に 産みませる 御子の御名ハ 天津
国魂の命 彦御子 三柱 姫御子 一柱 生
れましき
【是ハ二十三代ニ可入か年代不合 信舜】
【右信舜トハ大友家選者ノ隨一 朝倉
入道信舜也】
-------------
19,8
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ここに 加羅支那の外津国の王主 けえに
の使主人 しゐな 伴人八人 率きて 山
野遙々に 月日経て 新羅の国に来て 船に
棹上げして 狭手依島に 参イ上がり来て
それの建 香山国守の命に 窺目見て 申す
王主 けえに 申す【奴が国 加羅支那ハ
国争ゐ止まずて 今 高麗の王主 かむぬ
り と 奴の国の王主 けえに と 国争ゐ
て 戦ゐ止まずて 奴が王主 けえに 軍
物尽きて 高麗の王主 かむぬり に 負け
む状なすからに】王主 けえに 天に祈りし
に 或る夜 夢に 鳥の羽を 着物に着たる
一人の翁 大空より 飛び降りて 王主が
肩上に立ちて 座なすからに その名を 問
ゑども 答エず また 重ね問ウに 高木に
留まる神 奴が祷き事 畏ければ 言伝てせ
に こゆ 東方に 萬国の本なる国 天照日
之大御神の あれませる 高天原の豊道国あ
り これの中津国とウハ 専ら 奴等が斎き
まつらでハ 叶わざめる国なり これの萬国
の祖国を 長秋の瑞穂の御宝国となも 言
故 その大御国に 奴等往きて それの国の
食物を乞イて 奴等が朋輩 皆 食エ 然せ
ば 皆に皆に 力増ゑてば 高麗が王主 か
むぬり を 討たむに 事無し と言に 夢
覚めにき 故 此を以て しゐな を 使主
人となして 萬国の祖の御宝国に 参イ越し
来つる と 申す 故 香山国守の命 船装
イて 使主人 しゐな共らを乗せ 迎斎きて
白日の和珥門に泊たして 高千穂の直入の
宮に 迎つき 櫛触大宮に 斯く申す 故
五座の臣上 並めしますに 香山国守の命
加羅支那の王主 けえに の使主人 しゐな
参イ来て 然々を詳らなす
-------------
19,9
-------------
故 児屋八島手の命 児屋八幡の命 児屋
稚玉敷の命 児屋槇足の命 思金布笠彦の命
思金櫛形の命 太玉眞柏の命 太玉八束穂
の命 太玉祖主の命 積羽八隅国明の命 阿
須波御葛野の命 香山種持の命たちに 天津
御子の命 告りたまイつらく 此を 如何に
坐さば 良けに と 告りたまイき こハ
種津実種を下しませ と 申す 天津御子の
命 諾べ と 告りたまイき 故 奇日の宮
崎の国の沖所に 堅し船を造りて あ稲の実
種 百斛 麦の実種 百斛 粟の実種 百斛
稗の実種 百斛 豆の実種 百斛 これの
五の種津物の 実種を賜い こを産み成す上
を遣りて それの道訓りを 教ゑにとて 其
か守る上の御名ハ 豊食天津諸手の命 豊食
天津幸種の命 豊食豊種の命 豊食八百穎の
命 豊食千穎の命 これの五柱の神を 種作
りの導師となして 加羅支那に 放ち遣りま
す
-------------
19,10
-------------
故 煩累之大人の命の御曾孫 煩炊之男の
命の御子 煩言分の命 煩言別の命 これの
二柱の上 御殿に 足摺り所近に 御到る
暫して 加羅支那の使主人 しゐな を 召
さしたまイき ここに 使主人 しゐな 殿
根に屈む時に 足摺り近に 召したまゑども
みがち振イて得ず 二柱神 然々に告らし
て 眞帆の堅し船に 召して 帰れ と 告
らしたまイき 故 その船を ま使ゐなす
上の御名ハ 沫那芸魂主の命 沫那芸速津彦
の命 沫那芸波別の命 船の舵取りの 訓り
伝ての神に 船就きとなして 放ち遣りたま
イき 故 八柱の上 加羅支那に 向き発た
して 四年の むつびの 月円の十一か日に
国着かして 返り言 申したまイき
-------------
19,11
-------------
ここに 天津二代御子の命 先に 室隠り
なしまつれども 大御身の不平み 穏びま
さずで 日に毎に 御身悩ましたまゑば 薬
知神 高淤迦美八重雲の命の御子彦 高淤迦
美八玉幸祝の命 少名毘古那の命 妹 大久
米の命の御孫 大久米彦の命の御子 少名大
芥の命 妹 多米姫の命の御子 少名大原の
命 少名逢瀬脛の命 大穴牟遅の命 須勢理
毘売の命の御孫 天日方国日方の命 妹 日
方姫の命の御子彦 大物主耳猛の命 同じ神
の御子 大国御魂の命の御孫彦 大国湯津小
賀玉の命 妹 木々里名姫の命の御子 大国
世開の命 同じ神の御子 山代主の命の御孫
山代大国主御祖の命の御子 山代千々木立
の命 山代茅立の命 同じ神の御子 楮抄高
彦根の命の御孫 楮抄和珥男の命の御子 楮
抄石村之男の命 これの八柱の上たちの 大
御祖の神 大穴牟遅の命 少名牟遲の命 高
男牟遅の命の広目辺に 恐れみの祷き言を以
て 天津祝詞の太祝詞言を 告らして 室隠
ります 先の天津二代御子の命の あやにね
づしき病を 逐イの祷ぎ言 申したまイき
-------------
19,12
-------------
ここに 三柱神 柏原の刀主が祖の 百済
が妻の種津女に 神憑りまして 物言 故
八柱の上 これの百済が妻の種津女を 召さ
したまイて 相向かに 言問イませば 三柱
の大神 告りたまイつらく 先御子の命 病
灼然なり とウて 故 眞薬ハ 吾が二上
りの 小賀玉の許に 蒔き置けり 故 そを
取りて 土水以て 沸り出して 奉れ と
告りたまイき 故 八柱の上 其の木の許に
立ち出で 目見ますに 真に 告りたまゑ
る随に つまや と 眞保止 と 椎の実
と有り 故 此を持ちて 帰さまに 三柱の
大神 此ハ 青人草の喰イなさば 生命 永
く 生きなに と 教ゑましたまイき 故
八柱の上 先の天津二代御子の命に これの
砂なす薬を奉るに 神進びに 進びたまイて
二年に足らずに 御身の不平み 癒ゑたま
イて 益良健けたまイき
-------------
19,13
-------------
故 ここに 先津代の 天津二代御子の命
少名大久米の命 少名逢瀬脛の命 大物主
耳猛の命 大国世開の命 楮抄石村の命 山
代千々木立の命 高淤迦美八玉幸祝の命 山
代茅立の命たちに 告りたまイつらく 大穴
牟遅の命 少名牟遅の命 高男牟遅の命 神
斎きに 招きまつりて 八百の言 八百芝草
の薬 毒の病の種々の 癒ゆ道の訓り伝て
詳らなして 現しき青人草の 助けとならに
道を 術なせ と 告らしたまイき ここに
八柱の命 天津神言を以て 大野之原に
斎きの宮を建て並めて 三柱の神を 祝イま
つりて 言祷きまをしき ここに 三柱の神
たち 共に 斎きの宮に 神現れたまイて
癒ゑし道の 訓り伝てまさに と 告りたま
イて これの那須山に 引き入れたまイき
故 一年経にけぬれども 八柱の上たち 一
柱も 帰り来まさずからに 人毎に 捜し見
すれど 得 見ゑたまわず 故 日向の国の
隅々まで 求めたまゑども 得 見ゑたまわ
ず せむ術有らで 止みぬ
-------------
19,14
-------------
ここに 八柱の上たち これの日向の国ゆ
北の国 東の国 南の国の 日下根ゆ 伊
予の国の山々を 経巡りたまイ 四年なも
経にけらしき 帰りたまゑる時ハ なよな月
の 月立ての八か日に 返り言 申したまイ
き 故 この実かの実 木 草 葉 枝
根を 知り分けて 然知りなすハ 薬 此
知りなすハ 毒なり それの訓り伝てたま
ゑるを 文字り以て 文なす こハ 八柱の
命の文手にぞある
伊奴久古の草ハ 大毒 少な 喰エば良し
喰わぬに良し その葉ハ 葛如 搗きて
汁になして 物気人に塗る良し
袁支奈冠の草ハ その根 大毒す 喰エば
薬 寒気 物気 痙攣 かさまき脹れ 爛れ
はそけ よたみ 風邪攣 良し
ききぼの草根 肺詰まり 滞り 腑脹れ
虫気 腹下げ ちくれ 多糞 水糞 腹垂れ
良し
いごすきの草根 小毒 脹れ 腰痛 物気
良し
おふるまるこの草根 細小毒 多糞 腹痛
尿放り 良し
おおそひの草根 眞毒 小と喰エ こやみ
熱かゐ 滞り ひきつり 背張り 良し
比止左志の草 大毒 これを喰エば ど吐
く
多智万知草 身皮の熱かゐ 物気 湯に焚
きで 浴みば良し
之々乃久比の草根 細小毒 虫気 咳 啖
糞漏る 風邪気 物気 良し
庭柳の草根 大毒 頭凝り 咳 滞り 物
気 腹気 耳鳴り まがす 良し
かきつりの草 小毒 物気 脹ら 底痛
脂痛
田芥子の草 根 葉 実ハ毒 悪し物気
脹ら 痛みるに これの草を搗き 汁以て塗
る
くさにの草 細小毒 悪寒 熱かゐ 気屈
み た吐き 物気 糞放り 緊巻き蔓 良し
也万奈須比草根 腰痛 滞り いけまし
良し
宇美豆利草根 細小毒 気悪 熱かゐ 物
気 良し
猿拳草 細小毒 物気 脹ら 砕き摩り
良し
かウかし草 細小毒 物気 薬る多食し
良し
へそく草根 細小毒 熱かゐ 胸張り 咽
喉脹ら けしこ滞り 糞放りて良し
青木草根 細小毒 気逆り 熱かゐ 咳
涎り おみち おみなつくち まかかり 良
し
木川々自草 細小毒 臓弱り 寒気 物気
熱かゐ 脹ら 底痛 良し
仁比万草根 細小毒 瘡破れ あくもし
膿 黒血 洟涎り 熱かゐ 良し
波夜比登草根 細小毒 虫 腹張り 滞り
皮喰イ 首凝わり 尿詰り 屎詰まり 水
屎放りて 良し
波末左々介草実 屎涎り もエ毒に痛む胆
凝り 物気 身膿 良し
しらみはそ草根 さく毒 気削げ 頭びし
ひた脹ら 熱かゐ びくら 大脹ら 生身
を喰らイて良し
奴波乃美草根 虫 悪気 千々毒 胸痛
頭痛 歯痛 目痛 良し
大実草根実 歯痛 身軽に良し
迩波曽草根 細小毒 腹痛 物気 百の病
少と喰らゐて 尿放り 屎放りなす
ぬうる草茎 肌痩せ 熱かゐ 目脹ら 水
気 手足腹脹ら 尿放り 屎放りなす 良し
松木の葉脂 萬病 物気 風邪気 熱かゐ
良し
杉木 物気 熱かゐ これの木の皮 胆凝
り 良し これの木の実 目腐り こじり
良し
めらし木 むじり 滞り 悪気 洟涎り
口硬 気悪 良し
樟木 悪気 虫気 熱気 鼻赤 息撒き
良し
からみ桂木 細小毒 萬の病 良し
卷き桂木 萬の物気 良し
眞澄桂木 肌痩せ 熱れ 睾丸痛 手屈み
耳鳴り 良し
桐木 熱かゐ 腹痛 背痛 身破れ 水以
て喰わせ ど吐きて良し 亦 ものた 腰摺
り 口凝り また 馬牛の窘むに 雨水に浸
たして その汁を喰わせて 良し
血止め木 焼きて振り垂らさば良し また
幼児等 鼻欠き 良し
久奴岐 細小毒 切り所血止み 物気 痛
気良し
桂木の脂 物気種々なす 良し
檜木 葉 枝 根 焼きて尋常に喰エ
木波多木 口の病 腹の病 女血の病 良
し
保々木 細小毒 大熱かゐ 目眩み 気弱
り 気喉 良し
末由美木 腰痛 胆凝 良し
伊奴多羅理 左右手の病 良し
宇留波之木 御腹の病 尋常に良し
梓木 虫気 幼児物気 良し
楸 手足の物気 良し
みかめ木 細小毒 熱かゐ 洟涎り 良し
槐木実 悪気 涎り 熱かゐ 臓ぶれ 血
尿放り 血屎放り 良し
合歓木 臓爛れ うれたてな もで気 虫
気 脹ら 良し
さイ樫木 細小毒 目 鼻 耳 尻 臍
男根 女陰 また 首縮屈み 手屈み 足屈
み 良し また 湯焚き浴みて 弥 良
つつぶ木 目の病 良し。
団栗木実 腹の病 良し。
樫枯木 腹張り みどろ 腹凝り 胸痛
胸悪 胆悪 良し。
欅木皮 熱かゐ 良し。
おさむ木 葉搗き汁 火傷爛れ 物気爛れ
良し。
こまめ木 細小毒 頭 腹気 みどろ 虫
良し。
樫木 白樫 黒樫 赤樫 萬物気 良し。
之多利木 細小毒 水気 物気 萬物気
手足攣 口攣 目攣 良し。
桑木 萬病 尋常に喰エ 良し。
こあらけ木 女病萬血 良し。
からすうす木 脹ら 滞り 良し。
椋木 萬病 尋常に喰エ 良し。
以倍仁礼 尿屎凝り 良し。
禰須三毛知木 萬病 尋常に喰エ。
眞松木 然々。
柏木 然々。
久古木 然々。
たまなし木 然々。
あかみ木 然々。
ふウき 然々。
こづとり木 然々
たなつり木 然々
眞檜木 然々
ゆりで花木 然々
樺木 然々
桂木 然々
はとり木 然々
故 こハ 百一なすとのど木立ち 草立ち
ハ 然知りなすハ薬 此知りなすハ毒 こを
以て修せて 神言の如なして 現しき青人草
に 病有らせずで 生命長からしめよ と
告らしたまイき ここに 大穴牟遅の命 少
名牟遅の命 高男牟遅の命ハ 天津先御子の
命 少名逢背脛の命 少名大原の命 大物主
耳建の命 大国世開の命 楮抄石村の命 山
代道々木立の命 山代茅立の命 高淤迦美八
玉幸祝の命たち 告りたまイつらく これの
木草の 眞薬と毒とを 知り分けてハ 諸人
の病 幾らに料なすとも こを以て 為せば
違ウこと無くして 病 忽ちに晴れて 気
明りず また 毒も 薬となり 薬も 毒な
す 腹方に労しなせ
-------------
19,15
-------------
故 猿雄雌の躯態 臓ハ 現人の如なす
然れど 毛物類ウるハ 声有れど 声音成さ
ず こハ 胸臓の中らなすからにぞある 他
の毛物ハ 人軆の臓に違イて 現人並めず
猿ハ 現人に近なす 故 薬掘りなす人ハ
猿番を飼イ籠めて 奴に試みなさせて 測れ
また 死去る時にハ 此を全剥きて 躯
断ち割きて 十二つの臓 分けなして 頭こ
そり 眼のこそり 耳孔 口のたぶし 手足
肉筋 悉々に 目見分けて 薬 毒を知れる
ハ その汁を 奴が肉に 絞りて見ば 薬な
すハ 其の肉 散ら開ぐ また 毒なすハ
その肉 屈き曲ぐ こを以 修せ また 奴
が孕みなさば 薬以て 養ゐ足らし 子産み
の時に 薬を醂し 産みつらば 頓に 白き
葛葉を搗き 汁に注け 斯く注ぐハ 一日に
三 四 五度なせ 斯く 日八かに 後
八か日 一 二度 またの八か日ハ 一度
復の八か日ハ 日措き 復の八か日ハ 並め
て一度 故 此に 薬喰わす 然の如 為せ
斯く 此を 現人に取りなせ また 赤児
時ゆ 七日ぬに 死去ぬものなり 故 孕み
ば 薬以て治せ また 産出る児にも 薬以
て治さば 必ず 生ゆるものなり また そ
の児 八日満てば 砂 火温して 背の大骨
を 温かなせ と 告りたまイき
-------------
19,16
-------------
ここにまた 人軆に四つの柱有り 其ハ
息気と 火気と 水気と 土気と これの四
気の凝れるを 人の御魂とハいウ 故 息気
ハ 軆内 昼夜に配りて 言問イをなして
鼻口ゆ 天地の気を 出る入るなす 火気ハ
軆内を 昼夜に配りて 温みを運び 物蓄
イ保ちなす 水気ハ 昼夜に配りて 眞血を
運び 軆身全べに 動くものをはまふらしな
す 土気ハ 昼夜に配りて 軆肉を運び 軆
身全べに 動かざる物をはまふらしなす 此
ハ 天津神たち 配り 幸わゑますからに
これの象有らずで 勤労ぎ 栄わゑなす 故
これの四気を 惟みて 薬すれば 生命長
生なす 故 肉筋の気走を鑑みて 修せ 故
頭の耳眞辺なる 肉筋気走ハ 火気の気走
手首辺なる 肉筋脈拍ハ 息気の脈拍 胸
乳下辺なる 肉筋脈拍ハ 水気の脈拍 足首
なる 肉筋脈拍ハ 土気の脈拍
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19,17
-------------
また 腹内に 座なす物ハ 衣臓 胸臓
臼臓 卷子臓 瑞臓 血臓 長縄臓 水臓
脂臓 堰臓 まか臓 尿放臓 また 添ゑて
玉臓ハ 男に有りて 外に在り 袋臓ハ
女に有りて 内に在り 故 衣臓ハ 親族な
り 胸 背の中ら 肩 背 腰 尻 尻孔
毛 液 此に病みせば 衣臓の病 胸臓ハ主
なり 胸中に保ウ 頭 眼 向鼻 口 耳
歯 顎 咽喉 毛 孔 液 此に病みせば
胸臓の病 臼臓ハ 支族なり 胸下に保ウ
胸内 肋 乳 腹 臍 此に病みせば 臼臓
の病 卷子臓ハ 脚なり 腹脇に保ウ 股
大腿 膝 あささ 孔表 孔底 指 爪 此
に病みせば 巻子臓の病 瑞臓ハ 親族なり
下腹に保ウ 肩背 背平 太腰 眞尻 尻
孔 下の毛 此に病みせば 瑞臓の病 長縄
臓ハ 支族なり 腹の眞中に保ウ 食物を受
けまし 屎放りをはぼう 此に病みせば 長
縄臓の病 水臓ハ 支族なり 腹の眞中に
長縄臓と 並めしに保ウ 食物の水気を受け
美し尿放りをはぼウ 此に病みせば 水臓
の病 血臓ハ 御族なり 巻子臓と瑞臓との
眞中に保ウ 此ハ 巻子臓の漏りなす 息気
の香を配りなす 軆身の四気の長 と 喩ウ
復の名ハ 羽臓 脂臓ハ 巻子臓に並めて
保ウ 此ハ 四気を受けて しばしば 放
らして 食物を放りなす 堰臓ハ 胸臓下に
保ウ 此ハ 脂臓並めに 著るき 尿放臓
ハ 臍下に保ウ 此ハ 尿放り 屎放りを受
けて 間配りなす まか臓ハ 臓の尽々を掲
げ 保ウ 此ハ 其の臓の毎に 渫りて 四
気を はぼウて 色なす 玉臓ハ 男の子の
下に垂りてる 此ハ 女に無し これの臓ハ
臓毎の余りなすからに 此に病なせば 全
べの臓 尽々に 弱りとなりて 種々の病な
す 袋臓ハ 女の子の奥津に保ウ 此ハ 男
に無し これの臓ハ 臓毎の足らずに 成れ
るからに 此に病なせば 全べの臓 尽々に
溢れて 悪血 みぞぶる なだるあればさ
がなす 無きハ病ウ
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19,18
-------------
また 草ハ 病時に 頓に効はれなす
然れど眞薬に得 成らじ 木 枝 根ハ 病
時に 鈍に効れなす 然れば 薬成して 御
軆健なす また 現しき青人草の喰ゑて 気
活きなすものハ 多子なすものハ 喰ゑ
此ハ 年の毎に 弁別め また 年の毎に
細少子なすものハ 勿 喰イそ 喰イてハ
穢れなす 然知りなす木 枝 根を喰イてハ
軆身 健やき 長生なす 此知りなす木
枝 根を喰ゐてハ 軆身 弱やぎ 若くに
死去ぬる 故 椎の木を 山毎に 多なせ
これの木の実を喰ゑば 長生なす 故 其の
取らに状ハ 其の実を取りて 立臼の堅木臼
に 入れて 堅石の男杵以て 粗搗きなして
其の皮を 箕以て 簸らして 眞実なるを
一日一夜 水漬し晒して 其を曲箕に盛り
て 鍋の湯立てに 干火に 火焚きて 弥蒸
しに蒸し穿ちて 其を 稲筵に 取り平らし
て 幾日に乾して 俵なして 時に 粥炊き
なして 朝の御食なせ 故 長生なして 皆
に皆に 百年を 後ろなす また 橡の木を
山毎に多なせ これの木の実を喰ゑば 長
生なす 其の取らに状ハ 其の実を取りて
然々に 眞実なるを 八か日 八か夜に漬し
晒して 然々に また 柏木を 山毎に多な
せ これの木の実を喰ゑば 長生なす 其の
取らに状ハ 然々に 其の実を取りて 然々
に 眞実なるを 七か日 七か夜 漬し晒し
て 然々に これの 三つの木の実粥ハ 懸
けまくも 畏こき 国照大御神の 瑞の御崎
の 稲田の宮主 清之八箇耳の命 清之八箇
耳姫の命に 確に 訓り伝てまします 朝の
御食の 事の本なり
上津文 十九綴り 完エ
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20,1
-------------
上津文 二十の綴り
ここに 先の天津二代の命 天津御子の命
に 告りたまわく これの薬の 掘り取りの
道ハ 現しき青人草の 多に持て知るに非ず
故 これの道分きを 国の国々 島の島々
に 訓り伝てなさに と 思ほゆ 如何にヤ
も と 告りたまゑば 天津御子の命 宜べ
と 告りたまイき 故 先の二代日子の命
八柱の上たちに 告り訓ちて 汝たちハ
国の国々 島の島々の導師となりて 現しき
青人草に 病有らせず 御軆眞栄に 長生な
さしの薬道を 訓り伝てなせ 吾も 後ゆ
国廻なさに と 告りたまイき ここに 八
柱の上たち 猴猿を 求ぎて 雌雄一番を
取り飼わして そを率て 国廻まさにと 出
立ちたまイき 高淤迦美八玉幸祝の命 家族
に 猴猿を率かしたまイて 狭依科の国 遠
津海の国 无邪津海の国に 出ましたまイて
現人の翁主を兄子となして 各もに 猴猿
を飼わせて 木草の【さしりハ薬くしりハ毒
あれハ薬 かれハ毒なることを】眞細けく
諭し
-------------
20,2
-------------
また 四つの気の育むハ 海辺の石子砂を
火振りて 煎り砂となし 藤布に包み 眞
背の大骨を 弥々に温めよ また 手足の骨
毎を 斯くせよ こを常世なさハ 病といウ
病 有ら無くに 長生てに
-------------
20,3
-------------
また 翁のその状の 甚く異ならぬ眞薬ハ
常磐木 堅磐木 瑞葉桂 木草花 瑞草
彼を臼搗きて 搾りの眞汁を 小桶に濾し入
れ 清水濾し入れて 湯浴みなせ そを湯浴
みてハ 外より 触れ来る病無く 軆身の眞
薬なす
-------------
20,4
-------------
また 桑葉 知差葉 知知葉 茶葉 五加
葉 枸杞葉 久具葉 くし葉 榁葉 芽の葉
これの瑞葉を取り 弥砕きに砕ぎて 眞細
粉となし 沸り湯に摘まみて 木立て湯とな
して 時じくに喰ゑ 故 病を気押す
-------------
20,5
-------------
また 男ハ 四気の余れるものなり それ
の余るハ 毛なす 後に余るハ 病なす 故
【頭毛ハ 央らを削かして 外回る毛に 油
注きせば 四気の誘わしとなりて 病もず
故 外回る毛以て 掛けし元取りに結イて
輪なし垂れて 長毛となせば 病もず】少女
ハ 四つの気余るハ 月々に障りて 血とな
り 女陰ゆ出る 然れど 頭毛に油注きてハ
余れる気の 外の所の気の さまるあり
故 油を 頭毛に注きて 統べし元取り結イ
に 花形に結び垂らせば 病もず 故 男子
ハ 頭毛を 中削か削かし 際を 剪り剃ら
しなせ 少女ハ 頭毛の上に 百千の草花を
結イ着け垂らせ 彼の草花ハ 皆 熱かゐ
を 消やす眞薬なり また 男子ハ 火丹花
の汁を 面に塗れ 少女ハ 素白草実の中ら
実を 面に塗れ 病の本津ハ 四気ゆ成す
中津ハ 十三つの臓ゆ成す 煩津ハ 六つの
肉ゆ成す これの八千支の道を 導師となり
て 兄子たち 尽々に 詳らかに 訓り伝て
たまイましき
-------------
20,6
-------------
山代千萱の命ハ 親族に 猴猿 雄雌一番
を率かして 秋津根の国 日下根の国 淡海
根の国 伊勢津根の国 出往きたまイて 然
然に 訓り伝てましたまイき 楮抄石村の命
ハ 親族に 猴を率かして 出立たします
野陸の国 常陸の国 出往きたまイて 然々
山代千々木立の命ハ 親族に 猴猿 雄雌
一番を率かして 陸奥の国 出往きたまイて
然々 大物主耳建の命ハ 親族に 猴猿
雄雌一番を率かして 越根の国 出往きたま
イて 然々 大国世開の命ハ 親族に 猴猿
雄雌一番を率かして 丹波の国 出雲の国
出往きたまイて 然々 少名大原の命ハ
親族に 猴猿雄雌 一番を率かせて 愛媛の
国 建依の国 大宜都の国 飯依の国 出往
きたまイて 然々 少名大脛の命ハ 親族に
猴猿 雄雌一番を率かして 白日の国 速
日の国 奇日の国 出往きまして 然々
-------------
20,7
-------------
ここに 先の天津二代御子の命 天津御子
の命に 告り称エけらく 吾ハ 生れながら
も 弱軆なるを 大穴牟遅の神 少名牟遅の
神 高名牟遅の神の 御助けます眞薬を 多
なし喰ゐて いと健め立ち い猛り 故 豊
日の国に往きて 海遊び 山遊びせに と
思ほゑはにふる 故 如何にヤも と 告り
たまイき 故 天津御子の命 宜べ と 告
らして 八平手擬なウ ここに 先の天津御
子の命ハ 目一箇量長の命の御子 目一箇宮
主の命 目一箇大楯の命に 言依さしたまイ
て 豊日の国に 宮柱 太敷き立てて 高天
之原に 鰹木を高知りの御殿に 仕エまつる
故 先の天津御子の命 御妃の命と共に
直入の宮ゆ 大分の宮 速見の速玉が家に
入らしたまイて 宇佐川の川上の 仮宮に坐
して 毛の大野に 御往きて いやよ月の
月籠りの 五か日の東雲に 御立たしたまイ
五か日の小夜に 宮入りたまイき 故 現
人 皆 出来て 焚明しを以て 御輿辺 御
往きの 道辺 照らして 鼓打ち 笛吹きて
送りまつりて 御輿入りたまイき 故 そ
れの処を 宮処といウ 先の天津御子の命
これの大宮 隠りたまイて 海の漁りをなし
たまイて 歓き 楽しみなしたまウ 折々に
海漁人を召さしてハ 舟歌を歌イ 歓かせ
山狩人を召さしてハ 山歌を歌イ 歓かし
大御田族を召さしてハ 田歌を歌イ 歓か
せ また その日その日に 幼児らを集めて
ハ 餅を撒かせ 種々に 楽しみ合エります
-------------
20,8
-------------
ここに 或る日に 先の天津御子の命 大
御田族と 海漁 山狩人を 集エたまイて
告りたまイつらく 汝らの力 幾らなす と
告りたまゑども 応答ゑず 故 太玉玉祖
彦の命 武市白楯の命 児屋五百勝の命 山
津見鳴鳥の命 大雷五十足の命 八玉櫛萱速
見の命 直毘玉垂の命 伊都之大倉の命たち
宜べなりて 告りたまイき 現しき青人草
の 力試むハ 米以て 量り知れ 此により
て 米せじ量りなして うぼれ
故 米五斗を 目の上差しなすを 一人力
となす 故 大命の御問わしなり 故 汝た
ち 海漁人と山狩人と 片並め 大御田族を
片並めて 力競べなして 先の天津御子の命
の御前に 斎き 御慰めまつれ と 依さし
ます 斯くなさば 勝てる者ハ 手上げよ
負ける者ハ 手下げよ また 勝てる方ハ
八幡を振り 鼓 銅鑼打ち 高音を上げよ
また 負ける方ハ 金鼓を打て 屈め と
依さす 故 海漁人 山狩人ハ 東に 屯し
大御田族ハ 西に 屯なす ここに 各も
各も 立て代ゑに 出みて 力競ぶ 故 勝
てる人にハ 桑の眞弓と 瑞枝の矢とを賜ウ
左右の現人ハ 赤裸なして 男子帯を 掻
ゐ締めて 出るに 勝てるハ 緊巻き 負け
るハ 巻き解く 故 此を以て 八百萬の現
人 参イ来て 多に 楽しみなす こを 月
の毎に 統べ廻わしめき 故 こを 相撲と
言 ここにまた 或る日の時に 大御子の命
三つの現人を 集エたまゐて 汝たちの力
幾らなすヤ 計りてに と 告りたまイき
故 臣の神たち 米庭を形して 田藁の莚
を 敷き並めて構ウ ここに 三つの現人罷
りて 片並めす これの庭に 備ふる物ハ
米にぞありける 故 一斗 俵なし 二斗の
俵なし 三斗の俵なし 四斗の俵なし 五斗
の俵なし 故 此を 各も各もに 目の上差
しに 持たしむるに 一斗の俵なし 多なり
二斗の俵 次に多あり 三斗の俵差し 二
十人 四斗の俵差し 八人 五斗の俵差し
二人 故 四斗力人 白日の兼松 太身四郎
豊日の谷間の五郎 橋津六郎 砥上の常沢
湯守三郎 羽柴実之男 軽石の鞘木 五斗
の力人 八原狭夜三郎 名塚吉士麿 これの
十人の現人に 天の小弓 天の小矢を以て
賞めましたまイき ここに 十人の現人 喜
びて 言挙げて 奴 外の人ゆ 力強し と
ウ 歓く 故 厳之大倉の命 御身の丈 三
尺在して いと 小さき男子に坐せども こ
れの米庭に 御立たしまして 告りたまわく
汝ら 言挙げ 拙し 汝ら 嵩高なす男子
なり 吾ハ 小さき男子なれど 力競べなさ
に と 告りたまイて 五斗俵を 片掌に掻
き入れて 事無くで 目の上差しに 差し挙
げたまイき 故 現人 皆 魂消る 故 臣
の上たち 皆 米庭に罷り立たして 吾も吾
も 力競べなさに と言て 各も各も 五斗
俵を 目の上差しに 四振らし 五振らして
楽しみ合ゑたまイき 故 大御子の命も
米庭に御立たしたまイて 五斗俵を 片掌に
掻い入れまして 目の上差しに 差し挙げ
胸下ろしなて また 差し振らし 斯く 十
八度なさしまして 厳とに 御机に居り立た
し 楮布に 少女のかばか花に戯れたる状
描きたまイき
-------------
20,9
-------------
また 大御子の命 臣の上たち 共に 大
御田族に 問わしたまわく 田之土を打つに
焼き鍬以て 地底に 幾ら打ちなす また
一日に 幾尋終す と 問わせたまエば
御答エ申しけらく 鍬打ちハ 地底入る七寸
程に 尋ハ 片握と申す また 小道往きハ
幾らなす と 問イたまイき 小道駆る
野山路往きハ 十里往く と 申す また
いづれもの生命ハ 長生なすヤ せずヤ 人
皆の生命ハ 現人毎に 違ゆれど 押し並め
すに 四十 五十の間に亡る 五十過ごすハ
稀なり 六十なすハ 百を以ち数ウ 七十な
すハ 十を以て数ウ 然れば 性交ハ如何に
ヤ 奴がころべなす 食物ハ如何にヤ こも
心の隨になして 腹空かば 其に喰イて
腹を満たし ひだるければ また 喰イて
常なす 病せば 薬ハ如何にヤ 病なさば
薬ハ 五か日ハ喫ウ 五か日過ぎてハ 喫わ
ず 脚四つの物を喰ウヤ 此方海の者ハ 海
魚を喰イ 彼方海の者ハ 毛物を喰ウ
-------------
20,10
-------------
これの議論を 聞こし召しましたまイて
大御子の命 臣の上たち 御涙激ちなしたま
イて 御驚かしまして 大御身を悩まし 御
心憂ぶれ 己づからに 胸塞かして 押し晴
るきたまイて 告りたまわく 然れ然れ 現
人ハ賤き 拙きものかも そに故 力弱く
生命短し これぞ 天の下の太き病にこそあ
れ 頓に これの病を 安めずば 天津神
国津神 などて 返り言申さに と 直ちに
天津御子の命に 然々を 告らしてたまゑ
ば 天津御子の命 聞こし召したまイ 太く
驚きたまイて 告りたまわく こハ 由々し
き 豊道之原の中津国の 禍業にこそ と
更に 国知る上たちを 集ゑたまイき 児屋
八島手の命 児屋八幡の命 思金布笠の命
思金櫛形の命 太玉眞柏の命 太玉八束穂の
命 科長明幸立彦の命 科長明藤刀弁の命
火明狭夜那岐の命 火明富部の命 彌都波千
千道の命 彌都波千峡の命 波邇土高倉の命
波邇土中倉の命 伊都之事勝の命 伊都之
道別の命 速玉建玉の命 久那斗新玉の命
八衢市之男の命 長道春鈴彦の命 煩樫木之
男の命 飽咋鴨垣の命 奥疎若彦の命 波限
鹿立の命 甲弁川鳥の命 直毘数玉佐別の命
秋津若狭那彦の命 佐須良清御魂の命 底
土日之隈の命 赤土朝隈の命 石土垂水彦の
命 瑞水弥曇の命 沫那芸速津彦の命 頬那
芸険男の命 水分萬田守の命 また 八百千
の上たちを 集エたまイて 然々に 論ウ状
を告らしたまゑば 臣の上たち 共に あを
ぶして 皆 驚かして こハ 天津神の命の
御言告らし 国津神の命の 御言告らしを
祷ぎてに と言て 幸の禮成し 幸の訓り
成して 天津太占に 仕ゑまつりて 占業を
祷きましたまウに 天津神の命 国津神の命
の 告りたまイつらく
-------------
20,11
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こハ 口進り 常ならざるからに 良わず
故 口進 性交進り 躯進りを せじ以て
計り 重以て 計れ と 告りたまイき 故
ここに 大御子の命 天津御子の命 臣の
上たち 共に 議りて 告りたまわく 先に
御躯を健らし 然なすからに 手力強し
斯くせば 生命 長生なす 故 こをはかみ
りハ 天地の己づらに なれる業なり 故
こを以て計るに 一か日に 豊種津実 五合
食せ 食して 憩ゑ 憩エて業せ 稲実 あ
稲実 葉稲実 麦実 玉粟実 素玉実 黍実
稗実 菰実 大豆実 小豆実 蕎麦津実
笹津実 八豆実 こハ 飯炊きなり これの
御菜に 御菜二合 食せ こハ 山菜 玉菜
野菜 玉菜 海菜 海魚 こハ 味塩 未
醤 醤油以て 塩炊きなり これの量りを
三度中ら 食せ そハ 朝開き 眞昼 夕暮
れなり 中らハ 眞夜時 濁酒一合 日前時
食せ 菜 野山物 塩炊き 清酒ハ一合
小夜時 食せ 菜 沖津藻の塩炊き こハ
一日離りて 食せ
-------------
20,12
-------------
石子 骨温めハ 日の毎に 朝と宵とにな
せ こハ 沖辺の石子砂を 火煎りて 麻布
を 袋なして せよ 木立て湯ハ 四つ日離
りて 浴みよ こハ 常葉 片葉 瑞葉 瑞
草 木花 草花 折々の 瑞し葉花なせ こ
れの湯浴みば 五十ゆ後に 軆差し 面差し
違わじ これの食し物ハ 益良男の食しなす
益良女ハ 此に 七つ食せ また 童男女
ハ 先 五勺 後 一合 幼び男ハ二合 逸
り男ハ四合 益良男ハ五合 受家男ハ四合
眞受家男ハ三合 千努男ハ三合 眞千努男ハ
三合 栄男ハ三合 これの女も 男の四つを
食せ 躰弱ハ これの八つを食せ 御菜ば
先に並めらして喰ゑ また 童ゆ 逸り男女
ぬ 力招きなせ その童ハ 己が力の隨にあ
る 三勺 五勺と 米を俵なし 御目の上
差し持て 一町を往き 戻れ 斯くハ 朝食
夕食 昼食為しに 迅く 此をなせ そが
軆立ちを見て 折々に 増やして 逸り 後
益良男前ぬなせ 故 弱軆も 米五斗を持
たに 益良男後ハ 心の隨になせ また 受
家男ゆ 栄男ぬ 桑津枝を眞差して 斯くな
して 息つきに 鳴に物を打て 百も 二百
も 打てよ 斯くなして
-------------
20,13
-------------
粉立て湯を喰ゑ そハ 桑 枸杞 久具
五加 宇都 うば 知佐 茶 紫蘇 これの
瑞葉を取り 火煎りなして 眞粉になして
沸り湯に入れて 時じくに喰エ
-------------
20,14
-------------
また 性交ハ 厳男女ハ 性交有らじ 逸
り男女ハ 一日離りに 益良男女ハ 三日離
りに 受家男女ハ 五日離りに 眞受家男女
ハ 七日離りに 千努男女ハ 八日離りに
眞千努男女ハ 心の隨に 栄男女も 然々に
故 これの訓り以て 育まば 手力太らし
長生なさに と 告りたまイき
-------------
20,15
-------------
此によりて 大御子の命 天津御子の命
八百千の臣の命と共に たたならぬ世態 頓
に 訓り伝てなさま欲りす とて 先の天津
御子の 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三代
の命 共に 国廻まさに御装イましましき
故 須勢理且玉別の命 太玉雲形の命 少名
八束実の命 手置大富道の命 石凝稚楯彦の
命 太玉高市玉の命 秋津立年の命 草野千
之道の命 沖避手巻の命 別雷建産巣日の命
明玉八雲根の命 広戈櫛吉世の命 埴安中
座置の命 また 大伴の長たち 共に 大分
の速吸門に 御船並らして 出ましき ここ
に 穴門の国と 吉備の国との現人 千石船
に宮なして 小船 いくらに漕ぎ回みて 速
吸門に 迎エまつれども 御座まさずで 先
に 天津御子の命 前の天津御子の命と 小
船に棹上げたまイて 大船に隠りたまイて
日下根の国に泊たしたまイき ここに 二御
子の命 臣の上たちを 共に 日下根の生玉
門に 泊たしたまエば 日下根の建 鳴沢光
男の命 海辺に参イ迎つきぬ ここに 何処
ゆ 知りてに 八百の現人参イ来て 笛吹き
鼓打ち 歌ゐ 舞ゐて 八座置を竹編みに
取りなし 柔かの八重畳に 蚕布の火丹色に
黄金摺り花の節を結イて 高天之原立てに
なして 天津御子の命 先の大御子の命 臣
の上たち 共に 斎きまつりて 神座に仕ゑ
まつりて後に 平石の仮宮に 舁き入れまつ
りき
-------------
20,16
-------------
ここに 日下根 秋津根の国守る建 鳴沢
光男の命 鳴海牛飼の命に 仰せたまイて
日下根 秋津根の彼方此方の現人に 言問わ
したまウに 全る現人 皆 申す 齢ハ四十
五十に亡る そゆ 若くで亡る者 いと多
かり また 六十 七十になれる者 いと
稀くれなり また 手力ハ俵なし 稲実二斗
ハ押し並みて 三斗なすハ いと稀なり と
申す
-------------
20,17
-------------
ここに上の命 八十の上たち 告らしたま
わく こハ 食物飽咋ゐなすゆ 然あるべら
なり また 性交 夜常なすからに 良わず
故 人 皆に 病有らせず 長生なさにさ
まを 訓り伝てて 愛じなさめ と 告りた
まゐき そハ 人皆ハ 病 口ゆ入りて 軆
身に出る 故 童ゆ 食物を計れ 多子なす
ものハ 喰わせよ 皆 薬なす また 細小
子なすものハ 必ずしも 勿 喰わしそ 毒
なす これの毒 軆身にしじくり 逸り 益
良になりて 病ウて 死去ぬるものなり 現
しき青人草ハ 童なしてゆ 栄なすまでに
死去ぬるものにしあらず 故 童を 弥々に
心以て 育みなせ また 人 皆 手と脚
とを 勤労げば 長生なす 然難でなすハ
稚く亡る また 心養にになすハ 長生なす
心揉みななすハ 夭折る 故 業事に勤労
げ 故 事業ハ 然々なせ と 告りたまイ
き こを 郷毎の千萬人 聞き出て 弥々に
喜び 楽しみ合ゑき
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20,18
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ここに 天津御子の命 兄の命に申したま
イけらく こゆ 二俣に 道別き往きなば
如何にヤも 問わせたまエば 兄の命 宜べ
と 告らしたまイき 故 ここに 兄の命
ハ 西の方に出まし 天津御子の命ハ 東の
方に出ます 故 須勢理且玉の命 太玉八束
穂の命 思金神建の命 萱野狭綿の命 別
雷建産巣日の命 広戈櫛吉世男の命 並べに
大伴の長 東の国に 出ましたまイき 淡
海の国ゆ始めて 伊勢津の国 狭依科の国
遠津海の国 无邪津海の国 野陸の国 常陸
の国 陸奥の国 越根の国 双子島の国まで
往きたまイて 其ゆ 宮処に 帰り たま
イき
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20,19
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先に 常陸の国の 信太の国の 成木の村
の現人 鳥之尾郎 と言 翁主 天津御子の
命に 称エ言申し上げけらく 奴が齢ハ 百
六十四なり 妻が齢ハ 百五十七なり 奴
受家男なりし時に 或る日の夜の夢に 背高
き男の 襲を御身に纏わし 弥巻冠を着さし
また 背の低き 並めらしの男の 鳥の羽
を 御身に打ち掛けて 勾玉着ける 冠を着
さし 右の御手に 八雲末太の扇を持たし
また 背の中らなす 斎々し男ハ 太黒の衽
を 御身に纏わして 右の御手に 貴玉を持
たし 左の御手に 楮布の和幣を持たし 奴
に 告り言なしたまイき 汝 長生なさに
と 思ハば 活咋ゐを嗜め そハ その子多
なるを 喰ゐて 血となるを 勿 喰ゐそ
喰わむ状ハ 腹八つに取りなし喰エ と 告
りたまイき 故 その教ゑ事を聞きて 御名
を問イまつれども 御答エ有らずで 夢覚め
てき こによりて 夢の御教ゑの隨に 眞試
なせしに 斯く長生なす 故 奴ハ 子多な
す 皆 長生なす 故 奴が子ハ 鶴羽太郎
これが妻ハ 鶴羽女 百三十一 妻が齢
百二十六つ 孫の太郎麿 これが妻 麿女
齢ハ 百十八 妻が齢ハ 九十二 曾孫の麿
三郎 これが妻 三郎女 齢ハ八十三 妻が
齢 七十四 玄孫の亀子 これが妻 松乙女
齢ハ五十五 妻が齢 五十 来孫の三郎
これが妻 花女 齢ハ三十二 妻が齢 二十
七 昆孫の宮之木 齢ハ九 奴が子の兄弟
四人 これが子孫の継き継き腹族 いと 多
なす また 奴が子の孫 曾孫の継ぎ継ぎ
多なし 孫も 曾孫も 斯く 並めるからに
親族 合計に 二百三十六人あり と 申
す
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20,20
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ここに また 越根の国の 酒田の国 河
辺の村の現人の翁主 曲田の四郎 弓削の五
郎手名 参イて 称エ言まをさに と 天津
御子の命に申しけらく 奴が国ハ 国の北の
国にし在らば 冬されば 外国と 事 異に
して いと 寒く 冷たく冷ゑて 日毎に
い雪 打ち放りて 人の家の上に 高積みな
す 春さればこそ 消ぬれめ 故 現人 躯
冷ゑなして怨す こによりて 逸り男ハ い
雪掻き分き 聳り足板に 踏みしめて 雪積
みに 縮けて 穴中なす 故 牙猪猫 熊
狼 蛟 白熊 えま 獺 赤猪 黒猪 鹿
猿 狐 狸 兎 山小鼠 此を尽々に射殺て
そが肉を喰ウ 斯くなさざれば 寒さを凌
ぐ 便り無くて 直ちに 凍ぎに 死去ぬる
なるべし また そが皮を剥き持て 衣に着
たるに 風除ぎて 温くあり 故 御言告り
に悖る と 申す 斯く 悖ほらざれば 皆
人 寒みに 凍ぎに 亡らに と まをす
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20,21
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ここに 太玉雲笠の命 答エの告り言なし
たまわく 汝の言断 然ることにしあれど
其に 勿 靡きそね 全べの現し人の躰身ハ
四つの気以て 成れるものにあれば 天地
の己づからなるものなり 唯に 毛物ハ 陰
の気以て 生れ出るものなり そが故 縱ば
彼が腹臓ハ 八つ有り 四つの気も二つな
り これの息気のた孔に 塞臓のた走りて
災なすからに 声有りて 言問イをなさず
他の所の臓ハ その口横に 縮繰りて 気の
器に適わず また 塞臓の災なすからに そ
が身肉 赤み黒みなす 他の臓 縮繰るから
に 健ハ あれども 心に保たず こにより
て 奴が雌 奴が子の弁別め得ず 息と咳と
を以て 運びなすからに い猛なせども 和
し事知らず こハ 腹臓の縮繰る故なり 此
によりて い猛る毎に 腹臓に 毒生ゆる
毒生ゆる毎に 臓 縮繰るめく 臓 縮繰る
めくからに その毒 軆の肉に放きて 全体
骨に 毒漂ウ 故 それの肉を喰エば 穢れ
なす 必ずしも 勿 喰ゐそ また そうの
気 健なし 身軆を暖め 身軆肥ゆると言ハ
肉の毒の縮繰れば 気健成す 此くの溢る
れば 熱かゐなす 其くの含まエば 軆脹ら
なす また 毛物の中に 狐と猿と犬と こ
れの三つの 毛の柔物ハ 外の毛の荒物に
腹臓二つ 増ゑなすからに 少との弁別めあ
りて 異ぶる毛物なり 然あれど これの肉
も 勿 喰イそ 喰ゑば 躰身 縮けて 穢
れなす 全べに 脚四つの物 穴居物 這ウ
虫 羽虫に 類ゆる物 勿 喰ゐそ 皆 穢
れとなる
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20,22
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また 御軆の寒さを凌くの 眞薬なすハ 榧
木の実 椎木の実 橡木の実 これの三つの
木の実を取りて 外皮を 臼以て叩き 箕以
て 皮さるして 中ら実を 清水に浸し 十
か日に 水上げ揺すりに 白実となして 其
を 火焚き蒸しに 蒸し上げに 日晒しなし
て 俵して 朝な朝なに 粥炊きなして 喰
エ 故 躰身 温かなす と 告りたまイき
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20,23
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また ここに 先の天津御子の命 児屋山
曇の命 手置大戸道の命 太玉五百津勝玉の
命 沖疎玉置の命 明玉八重雲の命 波邇夜
須中座置の命 大伴の長たち 共に 丹波の
国に 出まして これの国の山許の 彼方
此方を 御巡りたまウに 山毎の太腹に 穴
貫きなして 千萬の現人 こを 奴が座屋と
なして 屈む現人 多なす 故 それの状ま
を 詳らに 問わせたまエば 現人 皆 申
す 奴が親ゆ これの穴屋に住みて 座なし
て 種津物を作りて食む と 申す 故 上
たち 告りたまわく 外に故有りヤ と言に
外に故無し と 申す 故 天津御子の命
告りたまイつらく 斯かる巌の穴ハ 陰の
気 絶エずで 皆人病まウ 故 力弱く 夭
逝りなす こを 自らに 覚ウヤ 現人御答
エまをす 大君のの告り言の如なす 現人の
生命幾らなす 五十になれる者 稀なり 各
も各も 四十経む前に 皆亡る と まをす
また 病もウ無き人 一人も侍らず 故
児屋山曇の命 こハ ぼるに国の 太き憂ぶ
れ事になもありて 悲しき事かも と言て
先の天津御子の命の 大御心を伺わせたまウ
に 御心穏びまさで 臣の上たちに 国の憂
ぶれ事の 御嘆きたまイて 告り訓ちたまイ
つらく 頓に 穴出なさしめに とて 日下
根の国の工人 山狩人を 直ちに 召上げた
まイて 然々を 告らしたまイき ここに
参イ越せる山狩人 二百人 工人 四百人
焼き人 二百人 それの岩穴を計り見るに
其が穴屋 六千七百三十二あり これの数に
田族屋を建ててに とて 焼人に告らして
焼金以て工み 山狩 大御田族の得物を
作らしめて 山狩人に 大山 小山の木を
伐ららしめて 大割 小割 取り割かして
躬自らに 臣の上たち 八百千の現人と共に
担ぎ 背なゐ寄せて 工人まかまわすに
また 焼鎌の利鎌を以 草切り 柴切りなし
て そが所に 担ぎ出したまイき 故 工人
ハ 昼夜弁別めずで 勤労ぐ こによりて
はやれの月ゆ かなめ月に 終エぬ 故 渡
坐しなせ と 告らせて 渡坐しの禮事以
仕エよ また 白米を 粥炊きて 柱毎に
祝かゑて 謡を歌わしたまイき
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20,24
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故
日下根の国の 幸太郎殿
家作り 足ろ足ろに
大き家作り 足ろ足ろに
これの 粥 啜り召せ
祝かゐ柱ハ 幸太郎殿
祝き 祝きヤ 幸太郎わ主
と 歌イて 禮事なす 故 天津御子の命
諸上たち 共に これの国内に 長生の訓り
伝て 然々に 訓り伝てたまイき ここに
先の天津御子の命 臣上たち 大伴の長たち
共に 吉備津根の国に 出たまイて 此ゆ
愛媛の国 飯依の国 建依の国 大宜津の
国に渡り出まして また中瀬を渡らして 出
雲の国 穴門の国 然々に 訓り伝てたまイ
き
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20,25
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故 天津御子の命ハ 翌年のみなつの月の
月立ての七か日に 高千穂の大宮に 御帰
りたまイき 先の天津御子の命ハ 翌年のふ
くみの月の 月籠もりの大日日に 豊日の大
宮に 帰りたまイき
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20,26
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ここに 白日の国 速日の国 豊日の国
奇日の国 建日の国の現人 五月蠅なして
高千穂の大宮に 参イ来て まをす 先の年
に 天津御子の命 先の天津御子の命 臣の
上たち 長生の言祝ぎに 国廻たまイて 訓
り伝てまししゆ 頓に 二十年経にき それ
の訓り伝てたまエる隨に 現人 皆 違わず
で 守りましつるに 今 米 五斗の俵なし
持ち差せる 逸り男 益良男 多なす 女
も 此に凖ゑて 灼然なす こを以て 考が
みるに 現人 百年を後になさに と 喜び
合エり あな畏こ と鼓打ち 歌イ 歓ぎ
奏づる事の由を 称エまをす と 申す
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20,27
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ここにまた 兄弟然る状を 願き待つ と
申す そハ 牧山の馬も牛も 仔産 少な
くで 亡る毛 多あり 生ウる毛あれど 足
らずで亡る 毛並めずて足らず 故 多にな
したまゑ と 申す 故 天津御子の命 児
屋八幡の命 児屋稚玉敷の命 太玉風勝の命
忌部玉祖主の命 表春八島手の命 表春五
百津玉の命 下春玉敷の命 思金屋主彦の命
思金斎吹の命 天懸大地の命 国懸照実の
命 手置戸道の命 積羽八水の命 国主日方
男の命 大津鳴神の命 剣大熊の命 磐坂鷲
久美の命 各も各もの御計り以て 告りたま
わく 馬と牛と 多なさずで きたりきたり
に 少なくなすハ 土訓りの良わぬからに
然あるなり 故 国々の 山量り 土量りな
して 良けに と 告りたまイて 直ちに
楮抄立岩の命に仰せて 日下根 淡海根 秋
津根 伊勢津の牧山の 配りの上と称ゑて
それの国に 下したまイき 久比奢母智糸玉
の命に仰せて 狭依科 遠津海 无邪津海の
国に 然々 速日五百村の命に仰せて 野陸
常陸 の国に 然々 八玉斎主の命に仰せ
て 陸奥の国に 然々 頬那芸賢男の命に仰
せて 越根の国に 然々 波限押方の命に仰
せて 丹波 出雲 吉備津根 穴門の国に
然々 棚機糸巻の命に仰せて 建依 飯依
愛媛 大宜津の国に 然々 衝鉾小夜鳴の命
仰せて 白日 速日 奇日 建日 豊日の
国に 然々 故 各もの上たち それの国々
に 出往きたまイて 牧山に木立多なれば
伐らしめ 水牧無ければ 山替ゑなし 川末
ハ 牧替ゑし また 外に 大山と 深山と
深み谷とハ 牧替エなし また 牧山に
岩と石とを多足らし 木立を伐らし 草田を
太し 端と端とに 竹叢を並めし 冬ハ 木
立毎に 雨受け 風除け いウ藁を繁き巻き
黍の穂莖 玉粟の穂莖 稗の穂莖を 折々
に 打ち巻きなせ かなめゆ いやよなるま
でに 斯くなせ と 尽々の詳らを 訓り伝
てたまイて 牧山の上たち 共に 三年を経
て 返り言申したまイき
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20,28
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ここに 天津御子の命の 天の下知ろしめ
す 百七十八とウ年に 天津御子の命 臣の
上たちに告りたまわく 国の国々 島の島々
に 使主人の上を放ちて 現しき青人草の勤
労き また 幾病 幾力 幾婚ゐなす事の由
を 知らまく欲りすれば 使主人の長を放ち
呼ばわしてよ と 告りたまイき 故 大
伴の長たちに 然 告らしたまイき ここに
大伴の長 三十四人を 国の国々 島の島
々に 放ち遣りましき 故 大伴の長たち
その国に往きて 詳らかに それの国の現人
の状 見まし聞きまして 返り言申しましき
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20,29
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時に 天津御子の命 臣の上たち 共に
使主人の長に 言問わしたまイき 故 使主
人の長 御答エまをしけらく それの国々
島々の現人 皆 安らきて豊けし また 現
人老エるハ 皆 百歳を後になす 七十 六
十の翁ハ 益良男の如なす 今 二百歳に満
てる者 多なり 病少なく 身軆健し こゆ
山野太く広らなす 秋の垂穂 八束穂に
禮言を進みて 楽しみ多なし 鼓打ち 笛吹
き 鈴振り 斎琴 据え琴 八琴を以て 歌
ゐ 歓ぎて 楽し御世と祝ぐ と まをす
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20,30
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さて後に 久しく在して 天津日嗣の御子
に 天の下知ろしめさしめに と 申して
高津上たちを 集えたまイて 天津高御座を
作らしめて 三種の神宝を 榊 小賀玉 桂
の木末 掻ゐ敷きなして まかでの脚高に置
かし 天津祝詞の 太祝詞言以て これの神
宝を 日嗣ぎに 授けまつりて 大御名を
日高日子波限建鵜葺草葺不合四代日子の命
またの御名ハ 恵美津火明の命 こば 産御
名なり と 斎かしたまイて 大御身ハ 直
入の宮に 屋隠りたまイき
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20,31
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弥後に 日高日子波限建鵜葺草葺不合三代
日子の命 またの御名ハ 眞白玉燿彦の命
高千穂の いさのなきりの宮に 神隠りまし
高天之原の日の若宮に 神帰りなしたまイ
き 故 大御軆を 奥津喪家に 御座坐さし
まつりて 御輿召さしに 常葉木片葉木を立
て並めて 御輿の上に 太傘を負ばしまつり
道の訓り 然々に なきりの襲の樫の山の
頂に 葬りまつる
上津文 二十の綴り 完エ