-------------
21,1
-------------
上津文 二十一の綴り
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合四代
彦の命 先に 御妃の命を 召されたまイき
そハ 恵美津火明の命の御娘 五十鈴姫の
命と申す また 上達活津根の命の御娘 玉
敷姫の命を 御妾に召さし 別雷産巣日の命
の御娘 八坂姫の命を 次の御妾に召さし
長道秋薄の命の御娘 種姫の命を 続きの御
妾に召さしたまイき 時に 御妃の命 御妊
みたまイて 大土 小土に取りなし 神冴ゑ
に 霊熟き 斎熟きますからに 臼杵の国
大の島の海辺に 八窓の産屋を作りて 御輿
入りに 御子産みまさに時に 産室守りの長
鵜草の屋根葺き 未だに果てなき状を 眞
似びなす時に 産みませる御子の 生れまし
つれども 頭毛生エずで赤頭なす こを以て
御子の御名を 天地明成赤玉の命と申す
天津日嗣知ろし召す 御子にし在せば 大御
名を 日高日子波限建鵜葺草葺不合五代彦の
命と申す
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21,2
-------------
次に 御妾の命の御腹に 生れませる御子
の御名ハ 八千草姫の命とまをす 其次の御
妾の御腹に 生れませる御子の御名ハ 八坂
姫の命 次に 種姫の命
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21,3
-------------
ここに 天津御子の命 表春鹿島手の命
児屋八日田の命 下春玉里の命 下春富の命
思金田屋刀祢の命 八心金稚の命 太玉櫛
色の命 忌部柏持の命 大国傘立の命に告り
たまイつらく 現人の便め良さになさに 故
如何にしてか良けに と 告らしたまイき
故 国知りの任人を 臣の上たちに 告ら
したまゑ と申す
-------------
21,4
-------------
故 ここに 表春中臣御祖の命 太玉忌部
御祖の命 八心斎部御祖の命 天の祭り 国
の祭り 八百道の祭り統べに 八百萬の大司
の上を招かし 表春中臣の命 太玉忌部の命
八心斎部の命 下春若富の命 太玉柏部の
命 八心八百富の命 便めのよぎよぎの 助
けの上と招ぎ 科長道守男の命 奥疎農波彦
の命 奥津瑞垣の命 直毘玉濡彦の命 柏玉
集之男の命 御中天合の命 秋津太志男の命
甕久米指彦の命 山津見鳴鳥之男の命 高
淤迦美幸成の命 高淤迦美鷲形の命 闇戸奇
玉の命 苫彦浦安の命 水上若八河の命 活
津茎田の命 眞日之牧田の命 熊野桑名の命
味御布彦の命 形見額田の命 益城眞見道
彦の命 彦根谷間之男の命 御年玉松彦の命
年部熊飼の命 胸形道別の命 久須毘百別
の命 大隅国樫之男の命 笹津田安の命 稲
背荒男の命 大物主耳建彦の命 大国榊小枝
の命 床主世開の命 楮抄立岩の命 高日岩
叢の命 木俣矢尾枝の命 積羽八井立の命
肩手棹猛の命 平鳥弥凪の命 大瀬五十日建
之男の命 水分狭別根別の命 活津玉種の命
明玉雲覓の命 邇芸綾知の命 櫛玉楓の命
豊木白虫の命 活玉活玉彦の命 土師二見
の命 久々眞葛上の命 三降谷越の命 帚八
目の命 天熊戸別彦の命 无邪志豆手の命
これの上たちを 天の祭り 国の祭りの 任
人と定めたまイて 大宮の辺に 三田井 春
日のゆりすに 殿作りなさせたまイて 任人
のつゑりに 仕エまつらせましき
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21,5
-------------
日別瀬之上の命 海上垂穂の命 眞管国取
の命 厳新倉の命 厳三田井の命 背脛大鶴
の命 大雷馬術の命 雷戈術の命 鳴志太刀
術の命 八玉神足の命 眞浦奇柏速見の命
別五十日津益荒神の命 高神葛依の命 犬部
御崎別の命 石拆猛産巣日の命 根拆建道具
の命 布都萬太刀形の命 香取萬術守の命
河内剣帯の命 武乳眞白彦の命 疾風弓術の
命 額田矢作彦の命 甕槌鹿那芸の命 飾磨
棚臣の命 建布都足志男の命 豊布都物部の
命 雲根玉波の命 雲笠明戸彦の命 国形八
耳の命 球覃呑水の命 大土鬼柄の命 底度
久道走の命 都夫多都鬼拆の命 鳴海草刈の
命 明立鳥之男の命 御蔭牛飼の命 御名方
菜乃根の命 須須美幸別の命 天日出雲根の
命 手力神建彦の命 戸別中岳太刀男彦の命
五十別八重道之男の命 山代千千木立産巣
日の命 羽槌岩波の命 枳値可美金羅の命
御鉾八連の命 小汀車持の命 御楯千巻の命
羽玉道之琴の命 広鉾弥振の命 家巣石垣
の命 枳彌乳軍競辺の命 道之長守の命 こ
れの上たちを 物部の上と称エ 鉾術の上
剣術の上 鉈術の上 弓術の上 馬術の上
とと術の上 礫術の上 水術の上 むかまき
やままき 攘屋構ゑ 騒人構ゑ 鼓術 金
打ち 木打ち 伏せ打ち 千々の物部術を
訓り伝ての上と称エて 代わる代わるに 国
廻なさせて 国建の男 国々 島々の国主共
郷主共 戸主共 村主共 また添エて 大
御田族 工人 鍛人 商人 海漁人 山狩人
物部人 然を これの現人に 訓り伝てて
外津世の国人 襲エ来ば 一人も残り無に
逐ゑ 心屈み来ば 助けてもてなせ ちばや
ぶる長し 荒び 奸り荒びば逐ゑ 上直びせ
ば 助けて憩わせよ と 告りたまイき
-------------
21,6
-------------
事勝部領男の命 数屋狭熊の命 長道春開
の命 長道秋開の命 言解熊幸彦の命 こと
え歌開の命 とげ小玉の命 門家彦の命 煩
大野の命 数種衣の命 波限高松北彦の命
宇部道高鞆彦の命 八衢櫛の命 道之上櫛富
部の命 活千道具之男の命 八咫木工の命
八街守の命 弥谷衣手彦の命 活津千道の命
佐須良彦多々良彦の命 狭焼足之男の命
甲斐弁菅莚の命 甲斐弁羅鎌倉楯之男の命
底津国照眞立彦萬の命 木槌佐々羅の命 赤
津多々伎彦の命 磐津甲斐男の命 襲津神酒
瓮の命 菜摘糸男の命 宇都見多毛の命 大
屋二見の命 弥太根の命 少名大脛の命 久
米之原男の命 積羽八隅国明男の命 積羽兄
田太彦の命 積羽弟田太彦の命 天懸鳴志玉
の命 天懸手牛彦の命 国懸面勝の命 国懸
八十隈の命 香取戸力八十恵玉の命 御葉津
足入の命 都琴鉾玉の命 速玉若室の命 富
田滝男の命 菅間床戸之男の命 玉祖現世彦
の命 飽咋大臼萬の命 これの上たちを 文
人の上と称エて 神座長 現人長 千々道長
清み長 衣人長 幡人長 金人長 山人長
甘味長辛味長 船人長 海漁長 山狩長
計り長 歌ゐ長 鳴らし長 弦人長 薬人長
工長 となして 国廻なさしめ 神訓り
道訓りて 訓り伝てなせ と 告りたまイき
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21,7
-------------
波邇夜須千秋彦の命 千明眞走の命 大道
雲取の命 頬奈芸碗足彦の命 面波斎原之男
の命 久比奢毛智若建語の命 伊邪自棚室透
彦の命 草野朝玉の命 磯城之楮布彦の命
沼持綿津大守之男の命 狭土御祖の命 狭霧
国崎の命 闇戸押石宇麻乞の命 香山種放の
命 屋久伊勢海の命 香山戸富道の命 沫那
芸小夜明の命 淡海鴨立の命 水分田守之男
の命 瑞食稚足の命 豊食伊産巣の命 大食
津水田霊の命 久々智根雪の命 谷津長水の
命 宮道大津の命 山見八重窓の命 滝道矢
返漏水の命 丹羽五十日知の命 奥津樵彦の
命 阿須波飯別若滝の命 波比伎立間饗余の
命 これの上たちを 種津守の上と称エて
国廻なさしめて 大御田族の安けく 足らし
穂の厳し穂に 満ち足らわしめに と 告り
訓ちたまイき 然れば 高津上 明津上 清
津上 厳上 並上 各も各もの上たちに 大
須佐田 小須佐田を 広らに定め 天津御子
の命の 大須佐田 小須佐田を 定めまして
躬親からに 作らしたまゐて 五部の臣の
上たちも 親からに 田作りまして 耜掻き
鍬打ち 草取り 堆肥取り 御穂取り 箕
打ち 臼搗きなしたまイて 貧し現人に 満
て足らし
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21,8
-------------
また 臣の上たちに 告りたまイつらく
今の殿作りハ 狭き低きなす 故 こを新た
かになして 大殿に仕ゑよ 然もあらでハ
種津作りにことつけとならに 故 大殿内に
一つの高床をさつらゐて 天津御神 国津
御神を 招ぎまつりて 日並めしに 拝みま
つれ また 家敷く土ハ 太広に取りなせ
然あれど 平ら土ハ 種津作りなす 土にし
あれば 太山の峡辺羅 合辺羅 谷辺羅 岩
石の多なすの所を 家敷く土となせ と 告
りたまゐき 故 ここに 臣上たち 天津御
子の命の 詔りの隨になさに とて 直ちに
山狩人に仰せて 山合の木を伐らして 家
敷く土を求き 草生ゑ萌えぬ岩高なるを 岩
割り 石割りなして 平土なしき また 工
人に仰せて 殿建ちをなさしめ また 鍛し
人に仰せて 各もの得物を打たし くぬどき
を多々に 家の原を築き庭なして 勤しふる
故 大殿を御立て並めに 秀門屋 大秀門
屋 小秀門屋 木立湯屋 晒し湯屋 けみし
湯屋 焚木屋 草屋 母の屋 尿放り屋 屎
放り屋 醤油屋 未醤屋 濁酒清酒屋 淀屋
を建て並め 故 大殿ハ 弥窓を多なし 目
毎 粗編なし 自からの座間 妻の座間 客
人の座間 親族座間 家族座間 侍ら座間
穎足らし間 ゆたらし間 神の座間 拝座間
利鉋知らし また 前津の秀門屋の左右に
築地高立て これの大秀門屋の前に 門代
を高立て 大殿の梯板の外に 手摺り枠 足
摺り枠を小立て 大入り門 小入り門を小立
て これの家作り完エて 天津神毎に 仕ゑ
まつりて 標木をしめて完エぬ そハ 大殿
の身棟に 竹簀子を結イて その上に櫓置き
幾らなし 眞中向に 楮布以て裂ける檜木
の 玉串差し立て 其に 天津大神 国津大
神を 招ぎ奉りて 太御幣を 種々に弥なし
て 八幡を御立て 大眞海魚を 女男結びに
結ゐ垂らし 大弓 小弓を立て並めて 尻
久米縄を引き渡し そが所に それの家作り
の首 纏わして 神座を捧げに 御幣なす飯
餅を 大伴の長たち 秀斎の御幣料と 四方
に放ち撒かせて 禍津神の騒ゑて 悪じを逐
イの為に 眞桑の太弓に 梅の若枝の矢を填
めて 四方に 神事なして 引きめでて 放
たして 氷木 千木 鰹木を 屋棟に高ぶか
し 太木槌以て 三つの宝木を打ち 標め止
む また これの御幣に奉る白米と 沖津藻
菜とを 粥炊きなして 太柱ゆ 外柱ぬの柱
毎に 秀斎ぎて 歌ゐ噪かしまつる 其処に
渡坐す
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21,9
-------------
ここにまた 天津御子の命 太宮を御立て
たまイて 告りたまわく 宮の戸の外に出る
ものハ 風吹き 雨降りに気圧され 頓 朽
ちなす 故 これの大宮の戸の外に 立てる
柱 梯板 手摺り 足摺りの枠 屋根の下木
垂木 尽々に 漆以て塗らしめ また 木
口毎に 黄金 白金の板以て貼らさせ 御床
の上がり こハ 樟木以て 段なさせたまイ
て 天照らす 日之皇ら之大御神 小夜照月
読の大御神 国照建速之大御神 添エて 星
の御祖の神を祭る そハ 風精星志那都比古
の大神 風精星志那都毘売の大神 火精星燿
彦の大神 火精星燿姫の大神 水精星弥都波
能男の大神 水精星弥都波能売の大神 土精
星丹生津彦の大神 土精風丹生津姫の大神
これの大神を斎き祭りき またの大宮に 天
津大神 国津大神 星の御祖の大神 星の神
八百萬の大神 これの神たちを 斎き祭り
て 現しき青人草 千生きの長生に 御足ら
し 御千業の業事の業幸を 守らしたまイて
安国の穏び国と 日に異に かこります
大宮にしある 故 諸神たち 月の毎に こ
れの大宮に参イ出りて 祷きまつれ 日に異
にハ それの家の大床に 斎き拝め また
月の毎の祭りハ 十二つの月の毎の節になせ
と 告りたまイき こを以て 国守りの上
たち 任き人の長たちに 訓り伝てて 国主
郷自 刀自 村主ゆ 青人草に 訓り伝て
なせ と 告らしたまイき
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21,10
-------------
ここに 天津御子の命 五座の臣の上たち
共に 現人の業座の別目を議りて 告らし
たまイき 故 童男女ハ 慥しに育め 幼び
男女ハ 力招きを修せ 厳し男女ハ 生業を
修せ 逸り男女ハ 生業を勤労げ 益良男女
ハ 家主たれ 受家男女ハ 任ぎ人たれ 眞
受家男女ハ 郷自たれ 千努男女ハ 国主た
れ 眞千努男女ゆ 大宮仕ゑまつれ これの
如に 天津祭り 国津祭りハ 受家男女の上
にあり 無けば 勿 知らしそ 故 それの
それの現人 皆 斯くなせ また 翁主の日
並めに食さむ飯ハ 三つ実の木の実を 米和
ゐに 粥炊きて 朝毎に食せ こによりて
太山 小山の峡々に 三つ実の木を 多に樹
てよ と 告りたまイき
-------------
21,11
-------------
ここに 天津御子の命の 知ろしめす 五
十六の年とウ 秋のなよなの月 月円の四か
日に 越根の国の 頸城の国の いますの長
浜の水門に 夷の大船参ゐ来て 陸に上りて
現人に 障ゑ 幾言 物言き 故 国の建
剣荒熊の命の御子 剣若熊の命 国主 鳰
城の太郎 齢 百つ五つ 佐丹之吉士四郎
齢 百つ三 郷自 かゐらいきの七麿 齢
九十八 よさきの亀男 齢 八十八 もすが
の小依 齢 八十 出て向人なす 故 ここ
に 谷熊の三之男 齢 百二十二 これの翁
を 使主人の長となして 高千穂の大宮に
十三か日に参イ越して申す 外津世の遠流志
国の王主 あかすゐて の使主人 ゆてれ
と言者 参イ来て 食物を賜べ と 申す
如何になして良けにヤ と まをす 故 天
津御子の命 高津臣の上たち 共に 謀りて
告りたまわく 米 百五十斛 種津実 三百
斛 沖津藻菜 五十斛を遣れよ と 告らし
たまイき 故 越に帰りて 建に 然申す
直ちに 然の如に取りなして い遣りたまイ
き こによりて 遠流志の使主人 国帰りな
す また 三歳経て 使主人参イ来て 然々
まをす 故 高千穂の大宮に申す 今ハ 米
百斛 種津実 二十斛を 投げ遣りたまイ
き 故 使主人 国帰りなす
-------------
21,12
-------------
また 翌年に 大船を三十隻 厳めに並め
らし 罵らして参イ来 これ大船ハ 長さ三
十丈 乗り人 一隻に三千人余りなす 陸に
上りて 建に向人なす 故 日向の 高千穂
の大宮に 使主人の長を奉る ここに 天津
御子の命 五座の臣の命たち 使主人長 谷
熊の三之男 齢 百二十二を呼び出て 向人
の状ハ 如何にヤ と 問わしたまイき 使
主人申す 遠流志の国の大船 三十隻 それ
の長さ 三十丈なす こを 厳めに並めらし
て 船を 或ハ 水門前 或ハ 一里も離り
海原を 皆 横切りて泊たし 其が使主人
陸に上りて 建に向人なし言 吾が遠流志
の 太山のかりなす国柄なり これの国ハ
吾が国の枝国なり 故 今ゆ後 幾箇の御幣
なせ 御幣なさに状ハ 種津実以て奉れ 然
無くば これの王主を 絞り殺さに と 申
す また これの船毎に軍人二千余り その
国の王主 あかすゐてハ 中らの垣船に乗り
て 手配りなすと 使主人 ゆてれまをす
と申す 故 ここに 天津御子の命 五座の
臣の上たち 直ちに 使主人 谷熊の三之男
に告りたまわく 遠流志の夷 斯く 荒びば
国の建 現人 現人の物人 皆 出て 弥
撃ちに 殺し棄てよ また 此ゆ 軍人を出
さに と 告らしたまイき 故 使主人 速
く々々 越の国に帰りて 建 剣若熊の命
然々 と まをす
-------------
21,13
-------------
ここに 国主の頭 鳰の軽太郎 佐丹城の
四郎 熊手の鳥之男 坂道の生野 八戸の太
郎麿 栗隈の鶴子 弓削の毛志木 はまちの
鬼子 金倉の二郎 八束の佐多麿 由利の竪
州 益齢 百つを 前後になす 故 上津ハ
百八 下津ハ八十四 また郷自ハ よさきの
亀之手 もずかの二郎 このわけの数足 手
引の又六郎 さよの松萱 御崎の勝人 田伏
の川五郎 益齢 上津ハ八十歳 下津ハ六十
歳 これの頭共に現人を率かし 親族 家族
一千余り 纏めて 国建 御齢 百三十一
剣若熊の命 眞金丸割りの鉢を兜とし 銅
金の濃糸結びの 弥斎衣を鎧わし 小手にも
脚にも 引き込みの上に 金筋打たる巻き
籐を当てて 背平に 厳の靫を帯び 八握剣
を佩かし 白熊の毛皮を 尻鞘に差し 小鉈
を前帯に差し嵌めて 白馬の高背に跨がり
弓筈を振りて 雄誥びに 誥びて 遠流志の
国の使主人 ゆてるに向かして 告りたまわ
く 汝ハ 遠流志の王主 あかすゐてが使主
人にしあれば あかすゐてに 厳とに 向人
せむ 其足らずば 吾が弱弓の矢を 受けて
にヤ と 告らしさまに 放つ矢 王主が乗
りたる 海中の船の舳脇を 射貫きて 軍人
十人余りを 射殺しき
-------------
21,14
-------------
時に 越根の使主人の頭 谷熊の三之男
齢 百二十二 遠流志の使主人 ゆてるが首
を握み ふむ反らしに 彼が首を引き抜きて
竿先に立てけるを 王主 あかすゐて そ
を見て怒り 軍人を多なして 石礫を雨如す
毒を風上に燃やして煽る 故 御軍人倒れ
て伏す こを以て 得 進まず 故 眞水に
佐世葉を入れて 飲ましむるに 皆 活き立
ちぬ 直ちに 猟弓を雨なし 或ハ 刀以ち
斬る 種々挑みて 戦ウほど 十か日余りな
す 然れ然れど 御軍人 亡る者 二十に足
らず 傷つく人 二百余りなす 夷人 亡る
者 幾らに山なす
-------------
21,15
-------------
ここに 建 剣若熊の命ハ 謀り事を廻し
て 郷自 與謝の松萱郎に仰せて 双子島に
遣りて 小船を多出さしめて それの船に
焚木柴を山の如に 積み足らわして また
郷自 由良城の九郎を 能登の羽咋に遣りて
然々に 遠流志の船毎に それの柴に 火
焚き投げて その船々を 皆 焼き棄てよ
と 告り遣りたまイき
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21,16
-------------
ここに 高千穂の大宮に 越の国に軍人を
遣りてにと 甕土下薙の命 甕土威猛手名男
の命に 御軍萬人を賜ゐて 出立たしたまゐ
き 故 その軍人萬に 軍衣 金冠 身皮覆
八握太刀 幸剣 小刀 小手引込 小手覆
脛引込 脛覆 垂り幡 千幡 大銅鑼 小
銅鑼 金鼓 木鼓 法螺竹 また種々の軍道
具を賜びて 装わします 故 軍人ハ 垂り
幡を 立て垂らし 千幡を並ら立て 大銅鑼
小銅鑼 金鼓 木鼓を鳴らさし 萬の軍人
ハ 戦衣を着込まし 金脹ら冠を兜し 身皮
覆を 其の身によろわし 小手覆を当て 脛
覆を当て 八握太刀を佩かし 幸剣を反らか
し 小刀を帯びさし 勤労ぎ足らし 猛びて
出立たしますに 大分の門ゆ 船に召さして
遠津海の御馬屋の門に泊たし 直ちに 越
根の国 馳せまして その建 剣若熊の命に
事為しを問わせたまウに 然々
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21,17
-------------
故 頓に 国内の現人軍を挙げて 新手軍
人を代ゑ戦ウ時に 遠流志の王主 耐エで
船毎の軍の禍らゐ人を 陸に 尽々に上せて
戦ゐなす こを 小船に備ふる島人 窺見
て 厳とに 其を遠流志の船々に 寄せて見
たるに 船毎に残る禍らゐ人 僅かに十人余
り二十人なす 故 その船に乗りて 或ハ斬
り 或ハ海投げなして 焚木柴を投げ入れ
火鑚りなし 船々を皆 焼き棄てたりき
-------------
21,18
-------------
これの時ハ 陸道にハ 大に戦ウ時に 船
毎の火の手を見て 王主 太に怒り 面火照
りて 嫉妬り 打ち競ウ 時に 御軍君 甕
土下薙の命 甕土威猛手名男の命 今 善し
と言て 乗らイする御馬を 下り立たして
大伴の軍人に 然 告りまして 戦ウに
先に憩ゑる 現人の軍人を 剣若熊の命 告
らし言なしたまイて 戦ウ御軍の後辺ゆ 打
ち連れ と言て 御身も陸に立たして 御軍
の後辺なす ここに 御軍の君たち 威猛に
猛び 厳の嘖びを振り起こして 禍らイが屯
れたる眞中に 駆け入り 禍らゐらを 蹴エ
攘げき こに因りて 大伴の軍人 現人の軍
人 共に 眞駆け入りて 持たる得物振りて
嘖打ち殺して 御軍 また 禍らの軍人
共混みに乱して 戦ゐなすに 幾禍らゐを斬
り殺し 打ち殺して 亡る屍 山の如なす
御軍に 亡る者 三十人余りに僅かなす
-------------
21,19
-------------
こによりて 残れる禍らゐ 王主と共に
くりすの国に逃げ走す 故 追イ及けて 打
ち及くに そこの谷間に隠れて隠る 故 山
の上ゆ 転石を転ばして 皆 殺す また
その谷に 御軍人を入れて 王主を捕らゑて
節長蔓以て 王主が手足を括して そびき
及く 故 御軍の大君 甕土下薙の命 甕土
威猛手名男の命 剣若熊の命 大伴の長たち
大御田族 現人の百部たちの前津辺に 曳
き連らして 王主 あかすゐてに 告らした
まイつらく 汝 毛物に類ゆる身にて これ
の豊道の大御国に 禍らイ騒エて仇なす 故
汝が言葉の如に 今 汝を縊り殺さに と
怒り言告りたまイき
-------------
21,20
-------------
ここに 遠流志の国の王主 あかすゐて
震イ慄き 拝み願ぎ言申す 奴を生かし 国
に帰らしめまさば 吾が八十続きの 裔の子
までに 美しき豊道の大御国にさばエなす
悪じ業なさせず また 御国を祖国と 朝夜
さに 拝み斎き奉らに と 申す 此に因り
て 大船を造らしめて 残る禍らゐ 三千人
余りを 赦して 王主と共に 風の隨に放ち
国帰りなさしめたまイき 然して 高千穂
の大宮に 返り言まをしき
-------------
21,21
-------------
ここに 天津御子の命 高津上の命 明津
上の命 清津上の命 厳上の命 並ら上の命
殊に 表春中臣の命 下春富樫の命 太玉
忌部の命 忌部柏持の命 思金田谷刀禰の命
八心金若の命 諸々の上たちを 集エたま
イて 告りたまイつらく 汚きかも 悔しき
かも 外津世の国の禍らゐ人 吾が知る 秋
の瑞穂の千足る国に 窺き来て 現しき青人
草を犯し 掠めて悪じなす 故 今ゆ後に出
来ば 手に手に寄せ撃ち 斬り殺せ 故 宮
に訴わずで それの国内の拠りせよ 手にこ
ハば 宮訴イなせ 故 大国毎に攘屋を建て
に その攘に 現人 皆 寄り伏して計れ
と 告りたまイき ここに 五臣の上たち
あウ と 申す ここに 建日の国の建 秋
津大潮見の命 奇日の国の建 波邇夜須千秋
萬の命 速日の国の建 宗像国柄の命 白日
の国の建 宗像道之底湧の命 豊日の国の建
置楯豊日別の命 これの日向の国ハ 建を
置きて 攘屋を建てず 狭手依の国の 上津
の小国の神山に 攘屋建てて 建 狭土畑津
別の命 守りなす 愛媛の国の 桑の小国の
まがな山に 攘屋を建てて 建 山積渚鳥の
命 守りなす 飯依の国の 三木立の小国の
こもりに 攘屋を建てて 建 高淤迦美幸栄
の命 守りなす 建依の国の 高岡の小国
うまき山に 攘屋を建てて 建 水上若八川
の命 守りなす 大宜都の国の 美馬の小国
そめなすの山に 攘屋を建て 建 御年熊
樫之男の命 守りなす 穴門の国の 美禰の
小国 春日山に 攘屋を建て 建 大物主耳
猛の命 守りなす 出雲の国の 秋鹿の小国
繁山に 攘屋を建て 建 活津菊田の命
守りなす 吉備津根の国 下道の小国 道別
山に 攘屋を建て 建 大国弥那芸稲城の命
守りなす 丹波の国の 養父の小国 繁山
に 攘屋を建て 建 苫彦浦安の命 守りな
す 日下根の国の 猪名の小国 小俣の原に
攘屋を建て 建 活玉田立葦部の命 守り
なす 秋津根別の国の 吉野の小国 吉野山
に 攘屋を建て 建 活津言代の命 守りな
す 淡海の国の 浅井の小国 みづち山に
攘屋を建て 建 香立棹千丈の命 守りなす
伊勢津の国の 鈴鹿の小国 鈴鹿の山に
攘屋を建て 建 明玉雲毬の命 守りなす
狭依科の国の 高井の小国 たてす山に 攘
屋建て 建 三降谷間彦の命 守りなす 遠
津海の国の 田方の小国 てる山に 攘屋を
建て 建 天熊村人戸別の命 守りなす 无
邪津海の国の 大住の小国 こなり山に 攘
屋を建て 建 木之俣八百槇の命 守りなす
野陸の国の 佐伊の小国 佐伊山に 攘屋
を建て 建 積羽片手の命 守りなす 常陸
の国の 信太の小国 とむ山に 攘屋を建て
建 若年玉松の命 守りなす 陸奥の国の
桃生の小国 かむだて山 攘屋を建て 建
味額田彦の命 守りなす 越根の国の 能
美の小国 秀立山山 の上に 攘屋を建て
建 楮抄立岩乃男の命 守りなす 天之忍許
呂国の 海部の小国 あま山に 攘屋を建て
建 久々智種斎忌千持の命 守りなす 双
子の国の 加茂の小国 笠松山に 攘屋を建
て 建 丹羽八代門別の命 守りなす 蝦夷
の国の かかりのやのべに 大室を建てて
建 速日清持の命 大雷隠楯の命 守りなす
これの攘屋ハ 外津世の毛物人 参イ来て
荒びなす時に 現人 皆 攘屋に集イて
大議り 小議りて ちばやふり 荒びて 悪
じなさば 皆 殺し尽くせよ 其の手 足ら
ずば 大宮に訴イなせ と 告りたまイき
-------------
21,22
-------------
これの攘屋を 作り完エたる時に 丹波の
国の たかまどの国の郷自 速木麿が娘 花
咲女 面白く 歌イ歓らぎなす 故 天津御
子の命に 祝ぎ言申さに と言 故 建 苫
彦浦安の命 これの娘を率きて 参イ来て申
す ここに 表春中臣の命 それの娘を 目
見したまウに それの姿容を 見そなわすに
眞に雅びつれども その面 いと醜し 目
ハ 一つハ 明りあれど 一つハ 盲たり
鼻ハ 空方向きて 雨を入る 口ハ 横に遮
エて 歯並め均しからず 額と顎ハ 山なし
鼻ゆ 高くなす 然れど 頭毛ハ黒く艶な
し 長垂りて雅びなす 故 面頬 然なるか
らに 大前ハ 忌みなに と 建に 然と言
故 娘に然と言 娘 花咲女 応ウてまを
す 皆人 然と言からに 奴 面隠しを作る
故 檜木以て 内津を空貫て 面差しなす
これの面ハ 容美き 少女の 笑める如な
す こを着て出てに と 申して 木に彫れ
る面を 出して奉るに こハ 眞に賞でし面
なり これの面頬ハ 如何にして 木の縦目
の無くて 生ける人の如なす と 問わした
まゑば そハ白埴に 黒木の脂以て塗りたり
赤ハ赤埴 黒ハ欅の煙なり と申す ここ
に 表春中臣の命ハ 天津御子の命に 然々
を申す 宜べ そハ 面白こそあらめ と
告りたまイき ここに 鳴らし人を集ゑて
花咲女 御殿に往きて 俳優なすに その花
咲女 声 殊に優れて 清々しく 雅びなす
また 舞イ歓ぎの状ハ 天之宇受売も 斯
くこそあらめ とウ 御殿の内 手を拍ちて
褒めたまウ
-------------
21,23
-------------
時に 花咲女ハ うわ音 いを音 あう音
を張り 歌ゐけらく
外津世人の 悪じ業なす 越の国
これの大君と 建と 打ち殺しつつ
神逐ゐ 明きく在し 攘大屋を 国に御
建てて
攘屋を 外津人攘ら屋 攘ら屋の
禍事攘屋 攘屋の はらら 攘ら屋
眞栄なす 活道栄ゑに 日の御国
弥萬代の 眞栄を 今ぞ知るらに
眞栄攘屋の 祝き言まをす と歌イ歓ぎな
すに 皆人響みて 面白と楽しみなす 暫し
程 斯く 歓き完エぬ ここに 天津御子の
命 告りたまわく 良くぞ 吾が心を 慰め
て 斯く歓ぎなしぬ 喜ばしかも 賞てたく
なすとウて これの娘の父 速木麿に 花守
りの長 娘 花咲女に 面着姫の長といウ御
名を 下し賜イき
上津文 二十一の綴り 完エ
-------------
22,1
-------------
上津文 二十二の綴り
ここに 表春中臣の命 太玉忌部の命 思
金足禰の命 天津御子の命に申したまわく
先津御代に訓りたまエる 秋の足り穂の商事
現しき青人草の便め 弥宜し 然れど 一
種を一種に 商せば 便めず 故 一種を十
種 二十種になさでは良わず 故 国々に
商人屋を 建て並めて 市なして 商人 工
人 鍛人を住ましめ【大土の神の 物なした
まゑる神宝の 八尺勾玉を以て 商なさしめ
て その神宝を 外の種々物に 交換なさし
また 工人 商人の交エにも これの神宝
以てらし また 海漁人の物する 山狩人の
物する物どもに 然なさせなば 現人の便め
弥良さにならめ】故 これの市ハ 国々の
種津物の 生ゑ生ゑぬ常処になして 人皆の
商の道となりて 便め良さになりてに と
申す ここに 天津御子の命 然良けに 頓
に そを勤労げ と 告りたまイき ここに
表春中臣の命 太玉忌部の命 思金足禰の
命 これの訓り告りを 守らしたまイて 直
ちに 天之目一箇加茂鵜の命 香具山岩作の
命 目一箇宮主の命 彦指大楯の命 正鹿狭
播磨積の命 小門八道別の命 奥木伐隅の命
倉上鉈手の命 磯城斧楯の命 原屋滝大人
の命 原野葛羅の命 戸□崎子忍の命 手置
柏家作の命たち 然言を告らしたまイて 疾
く疾く 国廻なして それの国の それの所
に 家作りを 国の工人 鍛人 山狩人に仰
せて 作りなせ と 告りたまイき また
積羽種秋の命 積羽網知主の命 恵美須鉾立
の命 恵美須八隅別の命 八重言安良守の命
谷玉豊櫛の命 谷玉櫛栄富の命 八重言玉
井守の命 長道春開の命 長道秋開の命 煩
大屋越主の命 これの上たち 然の様事を
告らしたまイ 司上と称ゑて 国廻なさしめ
商人の道を 訓り伝てなせ 故 神宝をば
先津御代の 理以て計り こを本津となし
て 萬の物ハ これの八尺の勾玉に 交換な
せ これの太きと 小きとハ 重以て計りて
修せ
-------------
22,2
-------------
そハ稲穂籾 一つを 一つま と定めたま
イしゆ 起こる 故 一つま これの十を
一ゆど これの十を 一たな これの十を
一て これの十を 一もも これの十を 一
かた これの十を 十かた 二十を 二十か
た 百を 百かた 千を 千かた 萬を 萬
かた となす また 広物ハ 広計り 広計
り以て修せ 故 稲穂籾一つを 一つつ と
定めたまイしゆ 起こる そハ 一つつ こ
を十を 一寸 こを十を 一尺 こを十を
一丈 これの十を 十丈 二十を 二十丈
然々 また 実物ハ 実物計り以て計れ こ
ハ 稲穂籾四百を以て 一勺と定めたまイし
ゆ 起こる 故 一勺 これの十を 一合
これの十を 一升 これの十を 一斗 これ
の十を 一斛 これの十を 十斛 二十を
二十斛 然々
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22,3
-------------
これの三つ計りを 計りなさむに これの
指計りを 角並めて計れ そハ 盛計りを
三つ作りて 一つハ 縦に置き 一つハ 横
に置き 一つハ 手持ちなして これの目を
数ゑて 横計りに修して それ 目と目を合
ゐ所なして その上に持たる計りを 縦横の
目と目を指して 斜めに置きて計れ 故 幾
つえり 上津修せ 重ねハ 下津ゆ修せ ま
た 幾つえりハ 一つとなせ 重ね一つを
十となせ 皆 こを以て修さば 違ウことあ
らじ と 告らしたまイき また これの指
計りに 分成しハ 一 二 三 四 五 六
七 八 九 十 こを 一分となし こを
幾つも重ね 分して こを 心覚ゑて 百
千萬を 心に定めて修せ その訓りハ 一つ
を 一つ合わせて 二つなり 二つを 二つ
合わせて 四つなり 四つを 四つ合わせて
十六つなり 十六つを 十六つ合わせて
二百五十六つなり 二百五十六つを 二百五
十六つ合わせて 六萬五千五百三十六つなり
故 こを以て 種々を計れ また 幾つえ
りの計りハ 十を十にえれば 一つなり 十
一つを十一つにえれば 一つなり 十二つを
十二つにえれば 一つなり 十三つを十三つ
にえれば 一つなり 百つを百つにえれば
一つなり 千を千にえれば 一つなり 萬
を萬にえれば 一つなり 故 こを以て修せ
平らなるハ えりつけにえらし 立てなる
ハ こを畳みてえれ 遠ハ 間限りに進めて
えれ 近ハ 糸計りにえれ また 遠と近
との 高み低みも こを以て 計り修せよ
と 告りたまイき
-------------
22,4
-------------
ここに 天津御子の命 五臣の上たちに
告りたまイつらく 日嗣の御子として 吾が
天の下を知りぬるに 外津世の けなめる
現人ゆ これの国に 騒ばエて 悪じなすハ
吾が罪にこそあらめ 故 その罪を 贖ウ
祓イのために これの建日の霧島山に 大宮
を太敷き立てて 神伊邪那岐の命 神伊邪那
美の命を 招ぎまつりて また 霧島の麓に
大宮を太敷き立てて 薦枕高御産巣日の命
薦枕神御産巣日の命 招ぎまつりて 吾が
罪の科を 祓わに と 告りたまイき ここ
に 五臣の上たち あう と 申す
-------------
22,5
-------------
また 躬自からの 宮の辺の大宮に 招き
まつる神の御名ハ 撞賢木厳之大御魂天疎日
御象日女の命 またの大御名ハ 天照大御神
眞夜楫干厳之明玉月弓之男の命 またの大
御名ハ 恵美照大御神 天開国開天津日高建
速須佐之男の命 またの大御名ハ 国照大御
神 高千穂の二上り山に 斎ゐまつる
-------------
22,6
-------------
天渡国渡襲百座科津産巣日の命 またの御
名ハ 風精星御祖の高津神 天津座高津座置
清見魂瑞之火産巣日の命 またの御名ハ 火
精星御祖の高津神 天冴流豊道辺神御魂弥都
波産巣日の命 またの御名ハ 水精星御祖の
高津神 天津座立萬正哉威美活立埴産巣日の
命 またの御名ハ 土精星御祖の高津神 天
御魂国御魂宇気神常座成金山産巣日の命 ま
たの御名ハ 常星御祖の明津神 天之大土国
之大土大御守山津見産巣日の命 またの御名
ハ 高知星御祖の明津神 神御魂別国津清見
魂直毘産巣日の命 またの御名ハ 清星御祖
の明津神 厳之幸守眞心床辺速秋津産巣日の
命 またの御名ハ 彦星御祖の明津神 天足
国足潮津清見底土産巣日の命 またの御名ハ
底星御祖の明津神 天足国足潮津清見赤土
産巣日の命 またの御名ハ 赤星御祖の明津
神 天足国足潮津清見岩土御祖の明津神
これの神たちハ 天の御議ります大神なり
故 阿蘇の御岳に斎ゐまつり 皇らが過ち
犯す罪の 贖つ物代に 大宮を太敷き立てて
神の禮代 臣の禮代 斎きたまイき
-------------
22,7
-------------
また 泣澤之男の命 泣澤之女の命 厳之
尾羽張之男の命 厳之尾羽張之女の命 速玉
之男の命 速玉之女の命 天之言解の命 国
之言解の命 道之長道男の命 道之長道女の
命 煩累之大人の命 煩累之兄自の命 天之
久那戸之男の命 天之久那戸之女の命 八衢
彦の命 八衢姫の命 飽咋之大人の命 飽咋
之兄自の命 国之秋津彦の命 国之秋津姫の
命 奥疎彦の命 奥疎姫の命 奥津渚彦の命
奥津渚姫の命 速佐須良彦の命 速佐須良
姫の命 奥津甲斐弁羅の命 辺津甲斐弁羅の
命 息吹戸主の命 息吹戸兄自の命 これの
神たちハ 国の計りを守りて 現人に幸わイ
ます神 故 豊日の白山に 斎きまつりて
吾が過ち犯す罪の 贖つ物と奉り 神の禮代
に 宮代に 仕ゑまつりたまゐき
-------------
22,8
-------------
ここにまた 国の国々 島の島々の現人
童男 童女に 生業立ての 道の訓りを 細
けく訓り伝てを それの国守る神に伝ゑて
外津世の悪じ人 参イ来ば 尽々に 打ち殺
し 失せなさせよ 千づの外津人ハ 悪じ心
なす者にしあれば 此れ人に 勿 言与みな
しそ 故 その逐らわにの術ハ 幼びに在り
こにゆ 幼びに 神訓り 道訓りの伝てを
なせ と 告りたまイき 故 国々を守る上
に 告りたまわく 美し道の訓りハ 童の時
し そが體身の毒を 解き棄てなすハ 眞薬
にあり また 體身を健ぎなすハ 砂煎りな
り こを 間無くなし 齢七つゆ 力招きな
さして 齢十三つゆ 生業と物之部術とを
勤労げ その生業ハ 己が適き適きに 取り
なせ また 物之部術ハ 剣術 太刀術 鉾
術 鉈術 小鉈術 弓術 石弓術 石投げ術
こ投げ術 走り術 跳び術 水潜り術 火
潜り術 木隠り術 馬術 牛術 岩割り 木
割り 活津食物術 これの術を学ばして 外
津世の国の 悪じ備エとなせ また 生業ハ
生命備ゑとなせ こを確めば 長生なす ま
た 種津道業ハ 草切り おもの取り 灰焼
き 土焼き 田打ち 畑打ち 鋤掻き うわ
掻き 草切り 畔切り 土耕ゐ 中耕ゐ 馬
使ゐ 牛使ゐ 水向か 水掛け 水津実具エ
畑津実具エ 大俵 小俵 秀倉成す こを
潔く学びてば 家栄なし 長生なす また
女の業訓りハ 臼搗き 臼擦り 箕取り
粒取り 水晒し 日晒し 飯炊き 菜炊き
綿引き 糸引き 機織り 棚織り 縫張り
布張り 酒醸み 未醤醸み 清酒濾し 未醤
濾し 味塩折り 飴塩折り 餅搗き 餡搗き
これの道を 勤労ぎてハ 家栄なす 然々
の如に 天津御子の命 表春中臣の命 太玉
忌部の命 思金足禰の命 国守る神に 現人
毎に 訓り伝て告らして 外津世の禍人祓イ
の 天津祭りを なさしめたまイき
-------------
22,9
-------------
ここに 高天豊道明千国根子大霊神伊邪那
岐の命 眞燿幻千国根子大津神伊邪那美の命
天之沼矛を目指したまイて 告りたまイつ
らく 嬉しきかも 喜ばしかも 吾が御孫の
斯く 現人恵じて 外津世の五月蠅なし
疎ふり悪じ業成す 異物人を逐わに と 天
津罪 過ち犯する罪を 逐ゑの祓イ言の隨に
国御宝なすを 訓り伝てなさに と 告り
たまイき 故【奥津鏡 一つ 輝き鉾 一つ
十握剣 一つ 活勾玉 一つ 息呼ぶせ玉
一つ 足る産巣玉 一つ 靈産巣玉 一つ
這ウ虫の比礼 一つ 羽虫の比礼 一つ
比礼眞弓矢 一つ】こを以て 禍津物を治せ
また 現しき青人草を 幸わエて 天之益
人なさし 長生なさしめに為 国の要なして
に と 御手に持たせる 天之沼矛を 投げ
下ろしたまエば【その沼矛 天より逆さまに
降り落ちて 霧島の山の頂に 掛かりに立
ちたりき】こハ 天之益人 喜ばして 長生
けを 守らしたまエる大神なり
-------------
22,10
-------------
ここにまた 天津御子の命の 懇ろに 罪
科祓ゑの告り言を 聞こし召して 風精星御
祖の命 火精星御祖の命 水精星御祖の命
土精星御祖の命 大宮に在座たまイ 告りた
まわく 吾ハ天津原 国津原を 日に異に
年の毎を守りなす 故 吾が御子 多あり
こを 年月の訓りなす神と称ゑに また 現
し御国に 禍事あらむ時に 其の眞徴を 顕
わさに こを以て 太占の占業に仕ゑ 眞添
エの神言なしたまゑ と 告らしたまイき
故 火精星の神ハ 北に座なし 水精星の神
ハ 南に座なし 土精星の神ハ 東に座なし
風精星の神ハ 西に座なす また むつ魂
星の神 けく魂星の神 いや魂星の神 うた
魂星の神 さな魂星の神 みな魂星の神 ふ
く魂星の神 はや魂星の神 なよ魂星の神
かむ魂星の神 これの神たちハ 年の毎 月
の毎を 守らす神なり また これの星の神
の御子 多なす星の神ハ 皆 年々の守りな
す神なり 御名ハ 楯星の神 窓星の神 訓
星の神 秋星の神 糸星の神 清星の神 糧
星の神 槍星の神 琴星の神 宇賀星の神
水門星の神 杣星の神 笹星の神 人星の神
須佐星の神 御手星の神 戸丹星の神 鳥
星の神 伏星の神 太星の神 苫星の神 輿
星の神 春星の神 鉢星の神 宣星の神 七
星の神 波星の神 崖星の神 潟星の神 森
星の神 敷星の神 依星の神 眞男星の神
小座星の神 於呂星の神 阿須星の神 田井
星の神 中星の神 澪星の神 滝星の神 浮
星の神 泉星の神 山星の神 田屋星の神
冬星の神 風星の神 国星の神 薄星の神
瓜星の神 児屋星の神 乳星の神 原星の神
小夜星の神 暁星の神 織星の神 数星の
神 陰所星の神 祷星の神 鶏星の神 松星
の神 豆星の神 垂星の神 夏星の神 心星
の神 群星の神 た□星の神 瀬星の神 雪
星の神 雨星の神 阿須星の神 高星の神
低星の神 日子星の神 日女星の神 沢星の
神 坂星の神 霜星の神 露星の神 霧星の
神 霞星の神 郷星の神 よき星の神 よか
星の神 谷星の神 岸星の神 赤星の神 闇
星の神 青星の神 これの星の神たちハ 大
御年の 年の毎を守り 年の月の毎を守り
月の日の毎を守り 日の時の毎を守り 時の
時の毎を守り 禍津事有らせず 守らす神に
しあれば 現人 禍津祓ゐなして 家栄に
長生なさしよ と 告り訓ちたまイき
-------------
22,11
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 四
代彦の命 久しく 御身悩みたまウ時に 告
りたまわく 吾ハ 久しく 天の下を知らす
に 事完エぬ 故 日嗣ぎの御子に 天の下
を知らさしめに と 告りたまイて 三種神
宝を 取り出たまイて 先の例 敬言を並べ
たまイて 日高日子波限建鵜葺草葺不合 五
代彦の命 またの御名ハ 天地明成赤玉の命
に 知ろしめさせたまイき そより 益々
御稜威退かしたまウ時 告りたまわく 吾ハ
今 神隠りて 高天之原に 返り言申さに
故 これの宮に 五臣の上を集ゑて 歌わ
しめて 現人に 神楽を なさしめてよ と
告りたまイき ここに 上たち 集イたま
イて 現人を召さして 種々の鳴らし物を
奏座して 歌イ 舞イ 歓ぎて 神楽をなし
八か日に完エぬ 故 先の天津御子の命
太らに 喜ばしたまイて 告りたまわく 吾
ハ 既に 事完エぬ 故 高天之原に帰らに
とウて 直ちに 速吸の水門の 潮を汲ま
せて 禊きなしたまイて 奥津喪屋を 作ら
しめて 大御身に 黄金燿玉御冠を召さし
禮衣を新たなして 躬親らに これの喪屋に
高座坐して 告りたまわく 迎斎き天降ら
む隙に 神座を学べ と 告りたまイき 時
ハ 大御齢 三百八十六なりき ここに 五
座の臣たち罷りて 面白物の神楽を奉る 故
暫しありて 白雲天降りて また 大空な
す時に 喪屋を拝みまつるに 天津御子の命
ハ 頓に神避りましまし こに因りて 先の
敬言の隨に 集わしめて 大御軆を いざの
御宝の山の上に 葬りまつる ここに 日高
日子波限建鵜葺草葺不合五代彦の命 またの
御名ハ 天地明成赤玉彦の命 天の下知ろし
めしたまイき
-------------
22,12
-------------
先に 天照国照彦火之背手の命の御孫 火
勢理幸魂別の命の御孫 火勢理栄魂彦の命の
御娘 八耳姫の命を 召さしたまイて 産み
ませる御子の御名ハ 鶏冠人彦の命と申す
また 後に 御妃の命 御孕みたまイて 大
土 小土に取りなし 神冴ゑに 霊熟き 斎
熟きましますゆ 臼杵の佐賀の浜に 産室御
立て 御輿入りまつり 産むか月に 在らす
れども 御子生れまさずで また 月日経に
けらしまして 速く 八つか月経て 十余り
八つか月なして 産むか気無く こハ 常な
らぬ曲事もヤ と 臣の上たち 共に嘆かし
ます 故 天津御子の命 告りたまわく こ
ハ 常ならぬ事かも 故 天津神に 太占の
御占言に 仕エに と言て 神の敬言に 仕
エまつりて 太占の占言を 祷き回みまをす
故 天津神の太占 叶わして 告りたまわ
く これの産室良わず 故 吾が それの処
を諭さに そハ 吾が 常世に持たる 天之
磐矛を 海中に落とし立てむ そを見て そ
れの処に往きて 産ましめよ と 告りたま
イき こによりて 大伴の長に それの海中
を 求めさせたまウに 速吸の水門の海中に
立てり 故 その速吸門の小浜に 産室を
御立て 御輿入りたまイき ここに 産屋守
る上たち ま問イます時に 御妃の命 御腹
耐ゑ難くもあらで 易々と 御子産ましめた
まイき これの御子 生れましながら 御歯
並めし生ゑて 独り立ちたまイき 故 御子
の御名を 磐矛歯並独立の命と申す これの
御子 天津日嗣ぎ知らす御子に 在しますか
らに 大御名を 日高日子波限建鵜葺草葺不
合 六代彦の命とまをす また 天津五百玉
の命の御娘 水上姫の命を 御妾に召さしき
故 これの御妾の御腹に 生れませる御子
の御名ハ 千足箆姫の命 これの御妾 水上
姫の命を 後に 神賞めの事しありて 天津
国魂の命の御裔 国魂野之道之男の命の夫人
に 賜イましたまイき また 火別彦の命の
御娘 瑞玉姫の命を 御妾に召さしたまゑど
も 御子生れまさす ここに 天の祭り 国
の祭りを 先津天津御子の命の 訓り伝ての
隨に 祭らしたまイて 思金足尼の命 表春
中臣の命 太玉忌部の命たちを 大高津上と
称ゑたまイて 児屋臼杵の命 思金八百富部
の命 太玉八束穂の命 表春千幸の命 下春
若鳥の命 明玉綾門之男の命 岩拆天之木鳴
の命 御戈八重連の命 御年小松主の命 大
雷磯別の命 甕土陸臣の命 根拆武市彦の命
八衢柏井の命たちを始めて 明津上たち
清津上たち 厳上たち 並上たち 先の如に
定めたまイき
-------------
22,13
-------------
ここに 加羅支那の国の王主 せむき と
言者の使主人 はかるウて 月日経 山野経
て 新羅の国に越して 狭手依に渡り そゆ
速日の天草の門に 参イて たけのおぢと
に在す 建日建 秋津大潮百人彦の命に 申
す 加羅支那ハ 御国辺の木末国となさして
物乞わしたまエ と 申す 故 その使主
人を 伴イて 高千穂の大宮に 斯く申す
故 表春中臣の命 太玉忌部の命 思金足尼
の命 大宮の外津御殿に 出保ゐます時に
加羅支那の王主の使主人 はかるウて 御殿
辺の足摺り下に 参イ出き 時に 事問イた
まウに 御答エまをしけらく 奴が国の王主
申す 国内に商無し 訓り伝てたまエ ま
た 今の衣 毛物の皮以て 作り着れど現人
ハ 皆 木の皮以て着る そハ 繭 麻 綿
條等の 布織りの道無し 故 訓り伝てた
まエ と まをす 先に 五の種津物の 実
種下しまししゆ 食物多なすからに 今に
五柱の神と斎イまつる こを以て 大御国の
木末国とならに と まをす ここに 三柱
の上たち 大宮に参イ出て 天津御子の命に
然々 申したまウに 諾べ告りたまイき
故 ここに 三柱の上 上訓りの御訓りを以
ちて 棚機手織牛飼の命 妹 棚機手置姫の
命 これの上たちに 然々に 告らしたまイ
て 布作りの道を 尽々に 訓り伝てなせよ
と 告りたまイき また 使主人 はかる
ウて まをす 船造りの道も無くで 事放る
故 これの道も 訓り伝てたまエ と 申
す 故 また 三柱の上たち これの道別な
す上に 然々 告らしたまエば 船別の神の
御名ハ 金山朝隈の命 狭知隈滝の命 奥津
狭依建の命 目一箇清手之男の命 これの四
柱の上たちに 大御言告らしたまイて 船道
造りの訓り伝てなせ と 告りたまゐき ま
た 積羽八尋手守の命 言代棚男建の命 夷
彦俣の命 これの上たちに 加羅支那の国に
往きて 商なさむヤ と 告りたまエば 御
答ゑまをしけらく 彼の国に往きて 然なす
べも侍らわし 口伝てなさば良けに とウ
-------------
22,14
-------------
加羅支那の使主人に 然 告らしたまウに
分かたずで 返し言多なすからに 二見手
を書きて見せね とウて これの使主人 は
かるウて に 五十言の込し事を 詳らに
教ゑ事なしたまエば 日ならずで 覚えぬ
故 三柱の命 ここに 條の商の其の道を
間細けく論わして 使主人に與ゑたまゑば
そを見て 空様に仰ぎ拝みて 此ぞ 眞の国
宝なる こを 吾が国辺に 言蒔きなさに
と まをして これの二見手を 頭に頂き
こを見ば 王主も畏みて 嬉うさにと 甚に
喜ばゐて 掌底拝みて 六柱の上たち 共に
加羅支那に 国帰りなす それの後に 五
年余り過ぐる御年に また 加羅支那の使主
人 ころむき 参イ来て 種々物を奉りて
先に賜るの報イなし こゆ後にハ 幾年並み
に 報イまつらに と 申す 故 その船の
着きし所を 唐津城の国と言
-------------
22,15
-------------
ここにまた 越の羽咋の国に 遠流志の国
の現人 くりくの 革船に乗りて 一隻参イ
来て 新磯の門に泊たして 夜さ毎に 陸に
上りて 秋の垂り穂の 種津実をすくぎて
船に取り入る 故 幾日か 斯くなす 故
その現人言らく 一日 二日なせば 傍観な
さまくに 斯く幾日か 禍なす とウて 村
の逸り男 出見て睨れば その一隻の禍ら人
五十人余りなす 然なれど その逸りハ
十を足らずあれども それの禍らゐ人の 眞
中に駆け入りて 素拳以て 打ちかなくりた
るに 遠流志人 或ハ腹這イ 或ハ腰抜かし
て 皆 蹌踉イて 乗たる船に駆けりて 船
を掻イたてしも 逃げ失せぬ 然なれども
また 翌る年に 三隻参イ来 故 然々に
其より年々に 船を増やし 参イ来て 悪じ
事ぶる 斯く 八年経にけらすに また翌る
年に 遠流志の王主 きかざゆづてれ 己れ
が将軍となりて 大船百余り隻 月籠もりの
夜に たちまちに 参イ越して 双子島に上
りて 現人の家毎に 手礫石を投げ撃つに
それの石 尽々に火となりて 家毎 燃エ上
りて 木草に付きて 山野 火になりて燃ゑ
ぬ 故 双子島の建 庭弥白門守の命 島内
の現人と共に 小船 網船に乗りて 逃げ退
かしましき 故 遠流志の国の王主 きかざ
ゆづてれ ハ 百余りの船に乗れる 五萬の
現人を これの島にぞびきて 彼奴が禍らイ
人の 居所と定め 新磯の門浜に上せて 種
津実を徴る こを窺きて見するに 皆 得物
を持たり 障エば 礫石を投げ みほたりな
す 故 越の国建 楮抄立岩の命ハ 国主
天城年麿 佐枝倉の太郎 はエかりの太郎五
郎 これの三男 頓に 高千穂の大宮に 称
エ挙げにき
-------------
22,16
-------------
ここに 天津御子の命 表春中臣の命 思
金足尼の命 太玉忌部の命 共に 図りたま
イて 直ちに 布都村棚の命 手力毛建彦の
命 甕土狭依の命 大雷八雲根の命 日鷲国
建の命 これの五柱の上を 将軍と称エて
大伴の長を集ゑて 直入の国ゆ 戦人を出し
て 速見 宇佐 中津 宮都を往きて 穴門
の端門ゆ 大船五隻に乗らし 御出ます時に
-------------
22,17
-------------
穴門のくウりなかの 松室国の現人 佐脇
太太郎 これが編める 楫浮とウもの有り
こハ 船の如に作り その眞中に孔貫きて
その孔に 腰ぬ填めて 脚以て 楫取りて勤
労ぐに 進みなす 故 海の戦あらば 此を
以て 防ぎたまエ と言に 諾べなゐて こ
れの物を 多に作りて 各もに背負わせるに
小さくで いと 便めり
-------------
22,18
-------------
ここに 戦の御船 越の若狭井のえしこの
門に 泊たしたまイて 直ちに 越の国の太
山の上に 御屯ろなしたまイき 故 こより
五群に 所並らせたまイき 布都村棚の命
ハ 千人を率ゐて 津軽に出まして 双子島
に発します 手力毛建彦の命ハ 越の東の大
野手に 向かゐ発たします 大雷八雲根の命
ハ 越の西の 熊田の国に 向かゐ発たしま
す 日鷲国建の命ハ さわのべの加賀山のた
ぬに 向かゐ発たします ここに 布都村棚
の命ハ 双子島に 乗り渡りますに 遠流志
の王主 きかざゆづてれ 聞きて 禍らゐ共
を手配り 礫石を投げ放つに 山野 皆 火
になり こを以て 弓放ち 得物を振りて
防ぎなせば 為む術も有らぬに 将軍 告り
たまわく 海辺に込みて 禍らが纏エる火
無き所に 打ち入り出よ と言に 斯くなし
て 込み入るに 禍ら人 得物以てなすに
御戦人ハ 皆 金鉢を兜なし 金衣を鎧ゐた
れば 禍らゐ共 当たり得ずで 多に撃ち殺
さゑき
-------------
22,19
-------------
故 王主も居ら得ずで 船に乗り逃げて
越に駆けりて 越に構ウる八十船の 戦人を
率きて 陸の御軍と 挑みなす 四柱の上た
ち 四方ゆ掛かりて 打ち殺し 蹴え殺し
投げ殺しますに 居らエずて 海辺に逃げ出
るに 双子に罷る将軍 海辺に渡り来て 逃
げ来禍らゐを 遮ゑき 此に依りて 船に乗
らむとて 海中に渡る時に 御戦人 穴門に
編める楫浮に乗りて 海に入る禍らゐ 尽々
に打ち殺しき こによりて 陸の禍らイ共
尽々に亡せたり また その王主を 煮泉に
打ち込みしを わすの煮泉と言 その禍らを
打ち込みし二つを がらほの煮泉と言
上津文 二十二 完エ
-------------
23,1
-------------
上津文 二十三の綴り
★故 六代の天津御子の命の 大分の宝の山
の頂に 葬りまつりて 日嗣ぎの御子の命
また 御身近に仕エまつる 臣の上たち 御
妃の命 御妾の命たち 侍女の長たち 共に
百五十か日に 祝りの頂に集イたまイて
朝の御食 夕べの御食に 仕エて 昼ハ 幡
立て 神楽をなし 夜ハ 火焚きて 神楽に
仕エて 舞イ遊びたまイき
-------------
23,2
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 七
代姫の命 またの御名ハ 奇豊姫の命と申す
御齢八十三とまをすに 天の下を知ろしめ
したまイき 先に 高津上たち 天津御子
七代姫の命に 進びまつらにと 高天之原の
天の祭りに仕エ 太占の告らし言を 告り
挙げたまイき 故 御占業叶わして 告りた
まイつらく 彼の天津姫御子にハ 先の天津
御子の曾孫を以て 手取りの男となして 天
津日嗣ぎの御子を 産なさせ と 告り言た
まイき
-------------
23,3
-------------
ここに 高津上たち 議りたまイて 天津
三代の御子 天津国魂の命の御子 天之八平
手活明彦の命を 弥嚮男となして 共に 天
の下を知ろしめしたまイき ここに 天津御
子の命 御齢三十四に ならせたまイて 初
めて御孕みたまイて 大土 小土に取りなし
神冴エに 霊熟き 斎熟きまします 故
大分の黒の小浜に 八窓の産室を御立てて
禮言の去にし言以て 産ませる御子 生れま
しながら 御身ゆ 光透らして その泣きた
まゑる御声 笑わせたまゑる如なす 故 此
を御名に負わせまつりて まをす御名ハ 光
透笑波瀬姫の命と申す 天の下知らす大御名
ハ 日高日子波限建鵜葺草葺不合 八代姫の
命と申す またの御名ハ 神弥立姫の命とま
をす ここに 忌部玉櫛之男の命 足尼俣星
の命 中臣若日之宮の命 表春木伐の命 太
玉笠倉の命 思金金人大人の命 下春名越の
命 御鉾曽我之部の命 御歳小野道の命 大
之狭身之実の命 戸別笠鳴の命 甕土物之部
の命 高津上たち 明津上たち 清津上たち
厳上たち 並上たち 八百上たち 共に
天の祭り 国の祭りに 仕エまつらしめたま
イき ここに 五臣の上たちの 夫人の姫た
ちを 尽々に 其の男の御位に従ウて 大宮
姫の命に仕ゑまつれ と 告りたまイき
-------------
23,4
-------------
ここに 御歳小野道の命 日鷲鳴瀬彦の命
と共に 丹波の国の鷹貫の国に 到りまして
其の所を見そなわすに いとうるさし 水
田津の狭き国柄かも 現しき青人草の食物
少なき国柄かも 故 水田津広らに 作りな
さに と 告りたまイて 現人知らしに 大
峡 小峡の太木を伐らして 尽々に 入り水
の広らの 御底に打ち入れ 大山の尾の 山
如す土 掻イ立てに 取りなし 粗目籠 抜
き取り入れて 礫柱 幾立てなし 道具の籠
くり足らして 御底の木の上に 撒き散ら
して 大竹 小竹を根切りなし 入り水の広
面に 敷き立て並めて 目篩を奉して その
目の篩に 土掻き 外端を四方擦りなして
葦芽を取らして その根の多なす 敷き蒔き
足らして あウる葦の芽 かウる葦茎に 山
尾の小山の土 掻ゐ振らして 本の葦芽に
然々に 再の葦芽に 然々に 三度 四度に
五度なし 六度に 岸打ち 土固め 七度
に 稗蒔き取らして 作り固めて 水田津田
成れり
-------------
23,5
-------------
ここに 御歳小野道の命 吉備津根の国に
出ます時に 国の建 日鷲初若彦の命 大
伴の頭共に 告らしたまイて 種幸の御饗エ
なせ と 告りたまイき 故 大伴の頭 滝
道田之男 里向八郎 種々の御饗エ 奉らす
時に 或る日の膳の眞供ゑに 味料秀瓦を
右の先津物と置き はらし秀瓦を 右の前津
物と置き 生酢平瓶を 左の先津物と置き
またの膳にハ 料秀瓦を供ゑずて 焼き海魚
を 大秀瓦に取りなして 山野玉菜煮を 小
角平瓶に取りなし 朝の御食奉らに とウて
少女の脛上げ衣を着さして 飯秀瓦に 高
盛り果して 胸挈きなして奉る ここに 御
歳小野道の命 その供エつる膳を 見そなわ
したまイて 御怒りて【頭毛の元巻きを切ら
して】逆さまにいらだて 面火照りて 罵ら
せたまイて 如何にそもヤ これの膳ヤもハ
何とて 吾を罪人に類ゆ とウて 其の供
ふる膳を 目上に蹴え撒げたまイき 故 其
所を膳山 といウ
-------------
23,6
-------------
ここに 天津五代の命の 弟の君 天津五
百玉の命 遠津海の国に出ますに 川の辺に
衣を濯ぎて 清まりなす少女 いと 雅び
たりき 故 汝ハ誰が子ぞ と 問わしたま
ウに 吾ハ国津上の御子 富知守姫と申す
と 申しき 故 吾ハ 先津日嗣の御子 天
津五代の御子の命の弟の 天津五百玉の命と
ハ吾なり 汝の父の御名を 顕わさにヤ と
まをしたまエば 少女 御答ゑまをしけら
く 吾が父ハ 天照国忍彦火之背手の命の
六代の御孫 照国富知主の命と申す また
吾が母ハ 豊玉姫の命の朋族 宇津志金柝の
命の御子 若玉姫の命の御孫 藤主之女の命
と申す 故 天津日高の命ヤ 吾が室所に入
らせたまエ と まをす ここに 天津五百
玉の命を 照国富知主の命 妹 富知主之女
の命ハ これの君を 室所に斎きまつりて
御饗エましたまイき 時に 日高の御子ハ
如何に思ほさして 国廻ましたまウぞ 吾ハ
国内の現しき青人草の 幸わゐを祈り 長
生に守らに と 思ゐて国経る と 申しま
しき 故 吾が娘を 日高の命に 立て奉ら
りてに と 申して 奉りて 告りけらく
命ハ 今ゆ後に これの娘と共に 豊日の藤
布の山の頂に 在座まして 半ら西の現人の
長生の守り神とならせたまゑ また 吾ハ
これの富士山の頂に 在座なして 半ら東
の現人の 生命の長生の守り神とならに 現
人足らしに 現し事に仕ゑね と 告りまし
き 故 其所を有度といウ また その時々
に 田鶴を御使ゐたまイし始めに その田鶴
を見そなわしたまウ山を 鶴見の岳と言 そ
の田鶴の帰りて 口に 高千穂の大水田津の
八束の稲穂を 嘴に咬みて 落ちたる所を
美保山と言
-------------
23,7
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 七
代姫の命 御齢 二百九十ぢ余り かたひら
ほ野に祝り奉る 故 其に祈みて 御齢負わ
せたまイて 起き寝も 健に在らせたまわず
任き祈みも 得たまわずからに 宮隠りし
たまわに と 日嗣の御子 日高日子波限建
鵜葺草葺不合 八代姫の命 またの御名ハ
光透笑波瀬姫の命ハ 天津六代御子の御孫
国照建玉彦の命を 召さしたまイて 天の下
を知ろしめしたまイき
-------------
23,8
-------------
これの八代姫の命に 御子生れませずで
御代知らすハ八十ぢ余り 大御齢 百六十八
に 神避りたまイき 御遺体ハ 相良と日向
との境に 葬りまつる 六代彦の命の 初め
の御子におわします 千草姫の命に 天の下
を知らしたまイて それの大御名を 日高日
子波限建鵜葺草葺不合 九代姫の命と申す
-------------
23,9
-------------
ここに 五臣の上たち 天津御子の命に
神進びに 進びて 秀嚮男召さしたまエども
御齢長けさしたまエば 黙しましき 御齢
長に 神完エたまイて 百二十ぢの秋の月円
日に 静かに天帰りたまイき 御陵ハ 直入
の三宅 とな山に在り★
日嗣の御子と仰ぎたまイて 日高日子波限
建鵜葺草葺不合足十代姫の命 産御名ハ 千
足志姫の命 秀嚮男ハ 天津御子 三代彦の
命の御子 瀬之上彦の命の御孫 国明磯城沢
之男の命を 召さしたまイき これの秀嚮男
ハ 御齢二十八 また 天津御子の姫御子ハ
御齢 四十九にならせたまゐき
-------------
23,10
-------------
また 御秀嚮男の命ハ 童に在しし時ゆ
いと逞しくあらせたまイて 並び過ぎます
御齢 十六の御時に 山野を経巡りたまイて
速日のしかまの谷間に 御遊びたまイける
に 外山ゆ 大太の蛟 渡り来て 山麓穴を
窺見なすに その麓穴ゆ 躯太の荒熊 飛び
出て これの蛟を取らにと挑む また 蛟も
荒熊を取らにと 然をなす 暫しありて
猛振りに い猛けて 熊ハ 蛟が咽喉に 咬
じ喰ウ 蛟ハ 熊を直巻きなして 共に転び
共に起こりて迫く 故 御秀嚮男に成らせ
たまエる御子 国明磯城沢之男の命 その闘
イを見そなわして 告りたまわく 奴々ハ
何以て 斯く闘ウぞ 吾 奴々を助けに と
言て 蛟が頭と熊の頭とを 左右の御手に掴
みて 引き離したまエば 熊ハ 何地にか
往きけり 蛟ハ そを怒りて 命の眞脛に
尻先の尾 打ち掛けて 巻かにとなす 彼
奴 憎き禍物かも と言て 直ちに 蛟が咽
喉脹らを 捕まエて 猛る頭を 右拳で以て
三つ 四つも殴らしたまエば 目を閉ぢて
緩めく 故 御佩かせる五握剣を 抜かして
段々に切り放ち棄てたまイき 故 其の蛟
を 斬りたまえる御佩刀を 八張の剣と申し
しを 蛇斬りの剣と言
-------------
23,11
-------------
天津御子の命 日嗣の御子の 生れまささ
るを 御嘆きたまイて 天津神に 祷ぎ祈み
まをしたまウに 何時しかに 御孕みたまイ
て 大土 小土に取りなし 神冴エに 霊熟
き 斎熟きますからに 神言の随に 大分の
黒の小浜に 産室を御立てたまイて 天津御
子の命を 御輿辺に揺らかし奉りて 産みま
せる御子の御名ハ 禍斬剣彦の命とまをす
こハ 日嗣の御子に在すゆ 大御名ハ 日高
日子波限建鵜葺草葺不合 十一代彦の命と申
す
-------------
23,12
-------------
これの天津御子の命 自づからに 御身
弱躯に在したまイて 常世に 国津祭りも
聞こし召さずで 大方ハ 弥嚮男の任かなわ
せたまイき 或る日に 御椅に出らしまして
庭の表面に 草花の咲きけるを 見そなわ
したまイて 御心を慰めましける時に その
庭の面に 火丹鶴の番 降り来て 物言時に
弥嚮男の命 その火丹鶴に告りたまわく
汝ハ 何とウ物いウ 答エけらく 吾ハ 天
津大神の使主人なり 今もヤ 天津御子の命
すがらに 御心穏びまさぬハ 天津大神の
御心辺にあり 故 諭してに 召し来よ と
の 神告り言なりと申す そハ何方に召さす
ヤ とウに 応エず また 問わしたまエば
奴が迎つきまつらに と 申す 故 ここ
に 弥嚮男 磯城沢之男の命ハ 高津上たち
に 然を告りたまイて 日嗣の御子 剣彦の
命を 背抱きまつり また 天津御子の命を
手引きたまイて その火丹鶴の道引く隨に
出ましたまイき
-------------
23,13
-------------
故 こゆ能登に出ます時に 大海原を煽り
て 太亀寄り来 其の形を見そなわすに そ
れの頭ハ臼如す それの背 広らに平らなし
その背に 海底の柴玉を以て 八重柴垣を
纏イ立て その柴垣内 童四人 並み居て
天津御子の命 日嗣御子の命 弥嚮男の命を
神迎つきに 迎斎きまつる 故 三柱の命
その亀の背の柴垣内に 御入らしまつる時
四人の童 八平手を拍ちて 称エ言申す時
に 海中 海波を蹴押して 数多に 磯すさ
り 波頭を踏み参イ出 斎きまつりて申す
奴々ハ 海原を知れるからに 雨降り 風吹
きすとも 必じしも けむか 勿 なしたま
イそ 亀船の御伴に 仕エまつらに と ま
をす
-------------
23,14
-------------
時に 火丹鶴 御空に舞イて 東に翔ける
こによりて 太亀 また 東に泳ぐ 亀の
泳ぎ往く随に 磯さすり 歌イ歓ぎて 口女
の腹袋を叩きて 鼓となして 技招ぎて 海
原を駆けりつつ 陸奥海を離り 遙か 海波
を越して 恵美の国の江刺山の 須浜の水門
に 泊たしまつる ここに 四人の童 三柱
の上を 江刺山の頂に 迎斎きまつりき
-------------
23,15
-------------
ここに 白毛逆巻きたるに 元結ゐて 引
き垂らせる頭に 布巻きの冠を召さし 袂長
らの 袖垂りの禮衣を 着さしたまエる 奇
し翁の 棘岩の上に 瑞の木の葉を散らし
その上 居なすの 八節菰を敷きて 高座な
すに足座たまイて 告りたまわく 吾が裔よ
宜しく ここに参イ越しつ 身近く 此処
な と言 ここに 弥嚮男の命 先立ちて
身近なす ここに 奇し翁 告りたまわく
汝たち 相見にと欲りして 四人の上を遣り
き 天津御子の命ハ 日並めに健ず 故 瑞
葉湯を 日の時の毎に食せ 然せば 健立ち
なす 日嗣の御子 弥嚮男に物言 汝命の天
の下を 百千萬に 天の下を 幸国の安国養
ウ状ハ 幸魂奇魂にこそあれ 故 其の奇魂
ハ 天昇しの御魂 奥津城の御魂 家継ぎの
御魂なり 幸魂ハ 顕わの御魂 訓りの御魂
業りの御魂なり また 御目と耳と腹と背
とハ 奇魂に仕エまつりて修せ 口と鼻と手
と足とハ幸魂に仕エまつりて修せ また 禍
津魂ハ 風吹きの随に 全躰の毛の孔ゆ内入
る かくらば 神逐ゐなせ これの禍津魂ハ
魂気の座 災気の座 躰気の座なすからに
病もウも こゆ入る 故 生命短くて 長
生あらず なをなをに 太津本なすハ 天の
在り言 国の割り言なり 故 これの在り言
に仕エまつりて 割り言以て修せ と 告り
たまイき 故 三柱の上たち 大宮帰りたま
イき
-------------
23,16
-------------
故 ここに 天津御子の命ハ 御齢久に
天の下知ろしたまウに 日嗣の御子の命 速
くも 御齢 六十ぢ足らずに 長けたまイま
しつれば 天津御子の命 弥嚮男の命と共に
三種神宝を捧げたまイて 久原の太田に
宮隠ります 日高日子波限建鵜葺草葺不合
十一代彦の命 またの御名ハ 禍斬剣彦の命
と まをす 先に 高津上たちの進びまし
て 積羽八百貝千貝の命の 六代の御孫 積
羽安立の命の御娘 玉垂貝依姫の命を 妃に
召さしたまイて 産みたまゑる御子の御名ハ
豊櫛姫の命 また 大屋狭男の命の御娘
桜姫の命を 向妻に召したまイて これの御
腹に 生れませる御子の御名ハ 春姫の命
また 御妃の命 御孕みたまイて 大土 小
土に 取りなし 神冴エに 霊熟き 斎熟き
ましたまエば 玉津の大浜に 産室を 八尋
に御立てて 産みませる御子の御名ハ 八尋
殿造の命と申す こハ 天津日嗣の御子にし
在しまつれば 大御名ハ 日高日子波限建
鵜葺草葺不合 十二代彦の命とまをす また
太玉国津忌部の命の御娘 八束姫の命を
御妾に召さして これの御腹に 生れませる
御子の御名ハ 稲飯の命 またの御名ハ 沖
玉の命 次に 富姫の命 また 御鉾曽我之
部の命の御娘 五木姫の命を召したまイて
これの御腹に生れませる 御子の御名ハ 七
背脛之男の命 次に 若玉姫の命 次に 大
綱手彦の命 また 香山伊勢海の命の御娘
潮戸姫の命を召さしたまイて これの御腹に
生れませる 御子の御名ハ 活玉姫の命 次
に 萬姫の命 次に 棹舁彦の命 次に 垂
玉姫の命
-------------
23,17
-------------
ここに 天津御子の命 恵美の国の 江刺
の岳に在す 蛭子の大御神の 御言依ざしを
被りたまイて 日の毎 絶エなくに 勤しみ
たまイて 天の下を知らせたまイけるゆ こ
れの大御言を 国中に 漏らしまほしく 思
ほエたまゑば 高津上たちに 然々を 宣ら
しましき ここに 高津上たち 諸共に 然
こそ良けれ と 申したまイき
-------------
23,18
-------------
故 天津御子の命 高津上たち 共に 神
訓りの訓り言を 漏らしまさに と 更に
八百萬の神に告らしたまウ それの神の御名
ハ 天之児屋の命の十五代ましの御子 守山
主の命 若臼杵の命 中臣の命 鋤耕の命
天津中海の命 雲樫の命 若那賀の命 富高
師の命 天之太玉の命の十六代の御子 高津
葛沢の命 天津家連の命 狭間彦の命 若忌
部の命 翁部の命 翁美の命 八心思金の命
の十七代の裔 八島彦の命 磐之男の命 鳥
玉之男の命 岩滝の命 佐間彦の命 堅石使
主人の命 天懸の命の十四代の裔 鳴志玉の
命 豊照彦の命 豊知の命 狭霧美の命 国
懸の命の十九代の裔 大雁の命 面堅石の命
鶴代の命 八十久久智の命 科長千鳥彦の
命の十三代の裔 底鳥の命 上窓の命 狭男
鹿の命 長原の命 沖玉彦の命 秋子の命
金山彦の命の四代の御子 金山真似知の命の
十三代の裔 畝火の命 久久根の命 鴨底の
命 国根彦の命 的外禰の命 知禰二見道の
命 田之部の命 大屋彦の命の三代の御子
大屋五十言別の命の十二代の裔 八重太の命
鳴岳之男の命 藤戸の命 文字理之男の命
眞名形志時守の命 時安之男の命 積羽八
重言代主の命 三代の御子 積羽市持の命の
十一代の裔 棚明の命 八百千の命 足宝の
命 御綱の命 祭部の命 天之日鷲の命の五
代の御子 日鷲日岳の命の十二代の裔 言矢
道の命 狭名取の命 弥都波能男の命の六代
の御子 弥都波千々井の命の十五代の裔 国
覓の命 配の命 長塩床の命 波邇夜須毘古
の命の六代の御子 波邇夜須千秋の命 十七
代の裔 大兄の命 眞走の命 丹敷部内禰の
命 雲取の命 来栖彦の命 稚産巣日の命の
三代の御子 稚産巣日燿玉之男の命の 十四
代の裔 燿玉主の命 木散彦の命 天麻遅之
男の命 天津明玉の命の五代の御子 明玉木
之枝の命の 十二代の裔 木之旅子の命 橋
彦の命 雨木の命 群木之男の命 木之国の
命 天津御鉾の命の七代の御子 御鉾曽我足
の命の十三代の裔 建部の命 曽我彦の命
高篠の命 事勝の命の四代御子 事勝佐久間
の命の九代の裔 宮根の命 足彦の命 布木
之男の命 御年の命の六代の御子 御年小野
の命の十四代の裔 神酒造の命 秋守彦の命
甘栗の命 田練の命 霜取彦の命 塩土之
老翁の命の五代の御子 塩土垂水の命の十六
代の裔 網屋の命 味塩の命 砂垂の命 速
玉之緒の命の六代の御子 速玉床戸の命の十
三代の裔 神須磨日の命 垂垣彦の命 玉知
の命 火須勢理の命の三代の御子 須勢理日
下大刀自の命の十二代の裔 蜂人の命 高松
の命 高島之男の命 蜂熊彦の命 天津神立
の命の四代の御子 楫立棹代の命の十二代の
裔 豊津の命 谷配の命 笠引の命 若棹代
の命 八玉彦の命の五代の御子 八玉阿部村
の命の十二代の裔 面明手釣の命 世開彦の
命 谷伴の命 宇賀之御魂の命の五代の御子
宇気足の命 物巻の命 布巻の命 棚機彦
の命の四代の御子 棚機倭文の命の十代の裔
神篠麻の命 綾衣の命 原田彦の命 伊都
之男の命の三代の御子 伊都之御田井の命の
十五代の裔 田井主の命 田井代の命 言解
男の命の五代の御子 言解隈幸の命の十二代
の裔 春田の命 原野主の命 玉言の命 久
那斗の命の四代の御子 久那斗橋脇の命の十
一代の裔 戸依の命 木間屋主の命 狭夜伎
彦の命 萬道守の命 岩熊の命 八衢彦の命
の四代の御子 八衢生石千道の命の十三代の
裔 大道彦の命 町立の命 一俣目の命 道
之長道の命の五代の御子 長道春日の命の十
五代の裔 池尻男の命 紫の命 煩累之大人
の命の三代の御子 煩種衣の命の十四代の裔
大野火の命 科木主の命 明戸之男の命
明種の命 阿多守の命 飽咋之大人の命の四
代の御子 飽咋之大臼の命の十四代の裔 大
杵の命 日照の命 石上兄自の命 鐸彦の命
布取之男の命 奥疎彦の命の二代の御子
奥疎瑞垣の命の十七代の裔 小島彦の命 岩
立彦の命 沫那芸の命の五代の御子 那芸佐
高鞆の命の十四代の裔 船木の命 伊摩彦の
命 建羽鞠の命 奥津甲斐弁羅の命の六代の
御子 甲斐弁鎌組の命の九代の裔 倉峰の命
倉梯之男の命 磯名彦の命 大直毘の命の
六代の御子 直毘魂主の命の十四代の裔 天
相の命 貫穴彦の命 赤玉の命 清見刀自の
命 秋津彦の命の三代の御子 秋津久米の命
の十七代の裔 指別の命 田御野之男の命
田溜彦の命 速佐須良彦の命の四代の御子
佐須良緊見の命の十三代の裔 鳥脇彦の命
流葦の命 速彦の命 久那彦の命 底筒男の
命の四代の御子 底土国明の命の十四代の裔
小楯彦の命 須美建彦の命 今来の命 千
豊之男の命 千々峡男の命 長谷男の命 中
筒男の命の四代の御子 赤土開男の命の十五
代の裔 多々岐主の命 道間主の命 江原野
の命 底筒男の命の四代の御子 岩土潮騒の
命の十五代の裔 八百佐韋の命 萬窓男の命
幸潮の命 大綿津見の命の三代の御子 綿
津見振魂の命の十七代の裔 揚巻の命 鯨彦
の命 五十取玉の命 坂見大人の命 那芸佐
彦の命の五代の御子 那芸佐夜明の命の十二
代の裔 若彦の命 座置兄自の命 別間彦の
命 頬那芸の命の四代の裔 頬那芸若水の命
の十四代の裔 水主の命 道守彦の命 白楯
の命 棚代の命 天之水分の命の五代の御子
水分狭毛知の命の十三代の裔 闇峰の命
八十殿男の命 谷滝の命 日垂の命 天之久
比奢母智の命 三代の御子 久比奢母智萬透
の命の十七代の裔 棚室の命 鳥飼彦の命
棚彦の命 小張男の命 香山戸の命の五代の
御子 香山速見の命の十四代の裔 樫葉彦の
命 依建の命 楽々森の命 草野姫の命の五
代の御子 草野朝玉の命の十五代の裔 白鳥
の命 燿子別の命 若松浦之男の命 大山津
見の命の六代の御子 山津見名戸切玉の命の
十五代の裔 御木立大人の命 木割の命 山
刀自之男の命 舊床の命 鷲羽彦の命 招居
玉の命 清之八箇耳の命の十代の御子 八箇
耳清玉の命の十二代の裔 出雲兄自の命 道
足の命 戸隠彦の命 天狭土の命の六代の御
子 眞狭土高津別の命の十三代の裔 狭土御
祖の命 四郎の命 土之男の命 久々能智の
命の七代の裔 大窓の命の十四代の裔 若屋
置の命 山広之男の命 惑子の命 兄弓削男
の命 小窓根の命 堅石男の命 活津彦根の
命の三代の御子 活津久々田の命の十九代の
裔 大幣彦の命 眞浦主の命 熊野久須毘の
命の四代の御子 熊野桑名井の命の十三代の
裔 三枝の命 天津闇窓の命の五代の裔 味
訓彦の命 大峰尾の命 外凝の命 天之目一
箇の命の三代の御子 目一箇蒲生の命の十三
代の裔 飛鳥部値の命 利根志倉彦の命 眞
百合押の命 志斗之富の命 尻組之緒の命
高水上の命の六代の御子 水上若屋川の命の
十三代の裔 渡良富子の命 戸締の命 苫彦
の命の御子 苫彦鋤安の命の十九代の裔 天
岸の命 天之狭霧の命の五代の御子 萬埴男
の命 飛鳥部之男の命 朝伝の命 天之香山
の命の四代の御子 香山国建の命 十一代の
裔 阿刀之曽尼の命 馬御野の命 高師船の
命 内兄自の命 味間見の命の五代御子 味
御野方の命の十一代の裔 高師の命 彦内禰
の命 天之押雲根の命 四代御子 押雲踏道
の命の十五代の裔 神嘗の命 常目の命 天
津活玉の命 四代の御子 活玉巻田の命の十
四代の裔 玉主の命 火上彦の命 雄勝之男
の命 手琴彦の命 矢野直の命 薄之男の命
の三代の御子 薄中岳の命 十六代の裔 八
千思の命 八千草の命 手置帆負の命の五代
の御子 手置柏屋の命 十四代の裔 若笑彦
の命 松枝之男の命 種栄の命 広戸大人の
命 勝烏の命 少名牟遅の命の五代の御子
少名大原の命の十五代の裔 少名奇建の命
富樫男の命 小背脛の命 上牝鹿之男の命
大国主の命の四代の御子 国主日方の命 十
五代の裔 奇日方の命 金刺の命 苔菜大人
の命 積羽事代の命の四代の御子 積羽撓蔓
の命の十三代の裔 薙原の命 事知男の命
田葉目兄自の命 大国魂の命の四代の御子
国魂三輪津子の命の十四代の裔 魂迎无恵の
命 太敷男の命 迎主の命 大物兄自の命の
三代の御子 大物樫耳の命の十三代の裔 耳
名の命 佐々津彦の命の四代の御子 佐々津
剣根の命の十五代の裔 田屋戸之男の命 占
座の命 田部金彦の命 大土の命の六代の裔
大土鬼木菟の命の十三代の裔 滝布彦の命
藤豊男の命 藤守の命 梯立の命 柴笠彦
の命 鬼狩の命 鬼掻の命 磐坂日子の命の
五代の御子 磐坂蓮葉の命の十四代の裔 伊
賀尻男の命 上水彦の命 由比手富の命 庭
高津日の命の四代の御子 庭竈守の命の十五
代の裔 菅生臣の命 矢部鞠の命 戸吉彦の
命 磐間屋の命
上津文 二十三の綴り 完エ
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24,1
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上津文 二十四の綴り
奥津那芸佐毘古の命の四代の御子 奥津毛
足の命の二十代の裔 五奥の命 斎走の命
厳手彦の命 奥津日子の命の六代の御子 奥
津竈守の命の十五代の裔 五百戸彦の命 戸
之男の命 高良石伊佐吉の命 御食盛彦の命
戸足男の命 阿須波日子の命の五代の御子
阿須波栂守の命の十五代の裔 安隈彦の命
戸入人男の命 斎廻の命 波比岐主の命の
三代の御子 波比岐若宇治の命の十五代の裔
楯霊彦の命 伴根大人の命 伴取兄自の命
香山戸の命の四代の御子 香山伊勢海の命
の十六代の裔 釀の命 金楯之男の命 大山
咋の命の四代の御子 山咋屋高の命の十五代
の裔 栗栖彦の命 大守の命 太田主の命
釀建の命 羽山戸の命の四代の御子 羽山戸
若栄の命の十五代の裔 檜原木の命 檜之子
彦の命 大樽越子の命 帯仲の命 那芸佐毘
古の命の五代の裔 那芸佐高鞆の命の十四代
の裔 船別男の命 磯摺彦の命 伊邪奈の命
建御雷の命の五代の御子 御雷陸臣の命の
十四代の裔 建多良の命 陸部主の命 志刀
守之男の命 物部の命 物足之男の命 岩柝
の命の五代の御子 岩柝建大角の命の十四代
の裔 大橋の命 牛人押の命 小建の命 大
雷の命の六代の裔 大雷建主の命の十四代の
裔 羽刈建の命 鬼越の命 夕晴の命 天術
の命 天之小量の命 国術の命 国之量の命
萬術の命 萬佐々良の命 高淤迦美の命の
六代の御子 高淤迦美奇魂の命の十三代の裔
木根断の命 外根刀自の命 掃部男の命
別雷の命の七代の御子 別雷眞白髪彦の命の
十二代の裔 弓取若男の命 境部の命 群鳥
男の命 高戸産巣日の命 御帯の命 衝鉾透
の命の三代の御子 衝鉾吹島の命の十六代の
裔 埴縁の命 小高の命 楯縫の命 楮抄高
彦根の命の四代の御子 楮抄石村の命の十六
代の裔 高雄手の命 熱海手之男の命 道前
魂の命 商部之男の命 萩原の命 天之葦垣
の命 木之俣彦の命の三代の御子 木之俣八
百枝の命 十三代の裔 牟戸部彦の命 鷲鷹
の命 阿刀鷲鷹の命 野道鷲鷹の命 建御名
方の命の四代御子 御名方科野別の命の十三
代の裔 力男の命 剣玉の命 斎楯彦の命
松木彦の命 天之日鷲の命の五代の御子 日
鷲大伴伎の命の十五代の裔 小市大人の命
足立狭別の命 風吹志の命 澤滝の命 鳥越
彦の命 山代日子の命の三代の御子 山代大
国主の命の十五代の裔 眞門持の命 深宮の
命 若経津主の命の四代の御子 若経津御吉
耳の命の十三代の裔 這葉大人の命 湯戸人
別の命 風呂木之男の命 箒持根の命 加夜
奈留美の命の四代の御子 奈留美奇高倉之男
の命の十四代の裔 秋足彦の命 足道根彦の
命 若虫之男の命 床深志之男の命 萌彦の
命 天之三穂の命の六代の御子 御桙天之樫
日之男の命の十六代の裔 味刀自の命 江尻
彦の命 天之鳥根の命 八尋鉾の命の七代の
御子 広鉾三穂津彦の命の十六代の裔 燿玉
彦の命 傾之男の命 天之薄の命の五代の御
子 薄別安の命の十六代の裔 負手玉の命
薄主の命 木棉伊岐之男の命 天津枳値可美
の命の七代の御子 枳値可美天津村招主の命
の十八代の裔 天津乳の命 梅守之大人の命
天之香立の命の六代の御子 香立鶏鳥の命
の十五代の裔 松香垣の命 斎鶏彦の命 天
津牟良雲の命の五代の御子 牟良雲底田の命
の十四代の裔 贄神の命 秀土の命 戸樋の
命 天之波招の命の三代の御子 波招疾風の
命の十一代の裔 機織の命 千戸足根の命
天之明玉の命の五代の御子 明玉霜隈の命の
十四代の裔 楓彦の命 瀬々多良の命 頭刈
玉の命 果贏玉の命 天之三降の命の五代の
御子 三降直越の命の十一代の裔 夜芸速の
命 斎之屋之兄自の命 嘗知の命 天熊之大
人の命の四代の御子 天熊人任種根の命の十
四代の裔 磯良石彦の命 多芸玉召彦の命
磯石熊の命
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24,2
-------------
また 八百萬の上たち それの本津の御祖
神を 招ぎまつらせて 天の祭りに 仕エま
つらしめて 天津言の神訓りに 合ゐ貴なわ
せたまイて 国の祭りに仕エまつりて 青人
草を 幸わイまつれと 大躬親らに 天津鋤
の神鍬を 取り振らして 各もの 国生りの
田耡き掻きの 斎わりの業道 清まり足ら
して 天津祭りの布垂らし 朝の御食 夕べ
の御食に 仕ゑまつらしめて 国の祭りの心
足らし 朝勤し 夕べ勤しの 服ろイに仕ゑ
て 祟る神しハ逐らゑて 安国の直々に 満
たらし 幸わゐて 現しき青人草に 業足ら
しなさせて 健人を育みてハ 今ゆの後に
外津世の悪じ 祟るの異人共 参イ来らに時
の 備びとなさせて 歳の遊び 月の遊びに
歌ゐ 歓かせよ と 告り訓りたまイき
こを以て 五臣の命たち 御躬づからの 斎
まわり道を 作らしたまイて 向き向きの
国の国々 島の島々に 訓り伝ての上と 御
躬探りたまイき
-------------
24,3
-------------
ここに 天津御子 十一代の命 四十七年
の春 けさりの月の 月籠もりの四か日に
高千穂の直入の宮に 野陸の国の現人 八十
人 无邪津海の国の現人 八十人 丹波の国
の現人 八十人 参イ来て申す 奴が国々ハ
天津御子の命の 愛じますからに いと
麗しく 業幸ありて 月にハ余り 年にハ殖
ゆ 故 天津祭りを 敬立て 日にハ 国知
る上を敬立て 隠り 遠津 近津の祖神を敬
立て 朝な夕なに 産みの子の 八千続きの
世内を 敬立て 現し子 孫 曾孫ぬ 敬立
てて 或ハ 歌イ 或ハ 歓ぎて 嬉し御世
の 楽し御世に 室ハ太く 高葺かし 間異
多し 冬ハ 綿衣温め 夏ハ 麻衣に冷やき
て ゆたらゆたらに 睦びなす 故 天津御
子の命 臣の上たち 招ぎ祭りの 天の祭り
国の祭りの寿き言の大祭りに 仕エまつら
に と 遙ろ遙ろに参イて 祈ぎまつるとま
をす ここに 告りたまイつらく 然あらじ
ヤ せずヤあらじヤとウ 故 臣の上たち
請わしふる随に 然 坐せ と まをしき
-------------
24,4
-------------
故 ここに 天津御子の命 国廻装イたま
イて 若宮の命に 大躬の言代ふらしたまイ
て 中臣若臼の命 表春雲形の命 忌部門輪
沢根の命たちを始めて 五臣の上たちに 委
ねまして また 御伴ます上たち 表春菅兄
自の命 下春向田の命 太玉狭間の命 思金
指多良の命 大国田族足の命 これの上たち
を 祭り任けの上と称エて 御輿座なすの上
なり 御伴部の五臣の命たちハ 馬座なすの
上なり 大伴の長たちハ 歩エ道為すなり
-------------
24,5
-------------
ここに 天津御子の命 檜の赭目の階戸に
御柱を 眞朱の漆に塗れる 眞黒のえもエ
足摺枠に 滑め塗りの階板に 玉柱 燿玉帯
イの木端尻に 黄金白銀の木合を打ち 四屋
根帳に 燿玉 二重ね畳み立て 四所の屋根
締みに 堅葉 常葉を立て 肩手棹 太く長
く 蜘蛛手なす御輿に 在座ましたまイて
御輿出ます 並めに 御輿に座なす 高津上
五柱 牧山馬に眞鞍填めて 乗らせる上たち
五臣の上 十五人 大伴の長たち 二十人
全べ合ゐ 四十余人 ここに 天津御子の
命の在座ませる 御輿屋の持ち棹を 大伴の
長たて 背肩に担ぎ出ます時に 国内人八百
人 走し来て 奴々に放下してねとウ 大伴
の長たちを せせらして担ぎ 臣の上たちの
座ます 然々に また 馬鞍ます神たちの
御馬口取り 手取り 太刀取りなす
-------------
24,6
-------------
ここに 直入 大分に出ましの時に これ
の五日の国の現人 千萬出来て 国の風以て
鳴らしを鳴らし あう音 あわ音 いを音
合所なして その歌イに揃エて 並めして
耳尋まして 参イ来 それ 御幣奉る と
申す 白日の国 裹みにハ 立て幡なすも
のなり 其の広幡 流し幡 瑞幡 伊吹き幡
吹かし幡 流離幡 小矧ぎ幡 伴並め幡
故 広幡ハ 布三垂り 乳代ハ 上に横貫き
並め 竪つ乳代ハ 縦並め 流し幡ハ 上に
竹縫イ その上に 乳代二つ並めて 瑞幡ハ
布二垂り 上に 乳代並め横し 竪つに
縦並め 竿笠に 瑞の木の葉を差し垂らし
伊吹き幡ハ 布七垂り 底無袋なし 中ら垂
りの布を 緒なし並め 上の乳代並め 其の
乳代並めに 竹輪を嵌め輪なし 竿垂りなす
吹かし幡ハ 布三垂り 短かに 上に乳代
並め 竪つ乳代なし 流離幡ハ 布四垂り
中ら布を緒なし並め 上に乳代並め 其乳代
に 竹弓を嵌めて 竿提げ垂らし 小矧ぎ幡
ハ 流し幡の如に 三重に重ねて 竿垂り
伴並め幡ハ 広幡の如に せき幡二つ 上の
横貫き乳代ハ 異に 下津の乳代ハ二つ 伴
並め竿差し これの八色の幡を 二人持ち
或ハ三人 五人 七人人持て往き 歓ぎ 御
幣代なしまつる 豊日の国裹みにハ 弓飾り
なすものなり 其ハ 一つ弓矢 二つ弓矢
三つ弓矢 四つ弓矢 五つ弓矢 六つ弓矢
七つ弓矢 八つ弓矢 故 此ハ 常世の太御
弓矢なり 一つ弓矢ハ木置を作り その上に
嵌め 弦掛けになし その弦央に 靱を嵌め
二條矢を顕わし 弓上に 蚕布の七色布を
切り裂き垂らして 時に 木立 草立の種
々花を取り付け 二つ弓矢 然々に 後 皆
然々に 持て往き歓き 御幣なしまつる
奇日の国 裹みにハ 鉾立てなすものなり
其ハ 竪鉾 はま鉾 斎鉾 木斎鉾 木小鉾
越鉾 木吉鉾 瓊鉾 これの八箇鉾ハ 皆
御秀鞘に飾りなす 故 竪鉾ハ 常世の秀
鞘なり はま鉾ハ 秀鞘に はゐまの毛付き
革以て飾る 斎鉾ハ 布の八色を切り裂きて
飾る 木斎鉾ハ 木の皮を白取りて飾る 木
小鉾ハ 木と木と並めし 種々の形なす 越
鉾ハ 鶏の尾の羽に 雉子野主の 尾の羽以
て飾る 木吉鉾ハ 松と柏との瑞葉以て飾る
瓊鉾ハ 八十連玉を垂らして飾る これの
八つ鉾を持て往きて 歓ぎて 御幣代なし奉
る 建日の国 裹みにハ 飾り剣なすものな
り そハ 一つ剣 二つ剣 三つ剣 四つ剣
五つ剣 六つ剣 七つ剣 八つ剣 これの
八箇の剣ハ 常世無き大剣なり これの飾り
ハ 弓矢の如なす 皆 然々に 持て往きて
歓ぎて 御幣代に奉る 速日の国 裹みに
ハ 海魚飾り 手にハ底津吉玉以てなす こ
れの海魚飾りハ 御海魚を形なし そを被り
てなり 手に持つ物ハ 底津吉玉なり こ
れのうらだきなして 出往き歓ぎて 御幣代
に奉る ここに 天津子の命の御輿屋 高津
上たちの御輿屋 大伴の長たちの足摺らし
共に 現人の御幣代 各も各も 持て出て
直入の宮の辺に集イて そゆ 御幸の道並め
に 道装イなし 皆 国々の風以て 歓ぎ
鼓打ち 銅鑼打ち 笛吹き 法螺吹き 歌
イて あう音 えわ音 いを音 和ゐらし
清まりなして 晴々なす
-------------
24,7
-------------
故 直入の大宮ゆ 大分の丹生の門に出ま
すに ここに 丹生津谷間彦の命 丹生津谷
間姫の命 これの門に 一宮船を造りて 天
津御子の命 高津臣の上たちを迎エて 一宮
船に招きまつりて 南風に帆上げて 速吸沖
津に 船出ます時に 愛媛の四つ国 穴門の
四つ国ゆ 八百千船を 漕ぎ廻みて 昼ハ幡
立て 夜ハ火焚きて 斎きまつりて 鳴らし
に船子歌イて 揺らがし 送りまつるに 出
雲の秋の国に 泊たしまつりて 丹波にはな
むけまつらに 装イたまゐき
-------------
24,8
-------------
ここに 直入の大宮に 中臣臼杵の命ハ
日に異に 参イ侍ゑて 御妃の命 御妾の命
たちに 合言申す 未だ日数経たまわずに
甚く弱らしたまイて 御殿も こよなく 移
ろイ足らしにき 故 太玉葛沢の命 思金種
伎の命 忌部葛輪沢根の命 表春雲形の命た
ち 告りけらく 然々なすハ 天津御子の命
を 慕わしたまウ御心にこそあらめ 故 御
妃の命を 間添イまつりそもヤとウ
-------------
24,9
-------------
ここに 臣たち 宜べとウ 故 御妃の命
御妾の姫たちに 然すかにと言 故 いた
く喜ばしたまイて 装イます 故 中臣若臼
の命 天津若御子の命に申して 更に 御伴
部を集エたまゐき 御妃 玉垂貝依姫の命
向妻 桜姫の命 御妾 八束姫の命 側の御
妾 伊都岐姫の命 次の御妾 八十島潮戸姫
の命 これの姫御子たちハ 御輿屋に召され
また 御伴部の上たちの御名ハ 中臣守山
の命 忌部葛沢の命 思金八島彦の命 これ
の上たちハ 馬召しまします また 臣の夫
人たちの御名ハ 中臣守山の命の夫人 八十
貝姫の命 忌部葛沢の命の夫人 狭霧姫の命
思金八島彦の命の夫人 八十間姫の命 天
懸奈良志玉の命の夫人 湯浅依姫の命 科長
底取の命の夫人 蝦毛姫の命 御鉾建部の命
の夫人 背荷代姫の命 八玉面明の命の夫人
富鳥姫の命 久那戸豊佐の命の夫人 瀬高
姫の命 飽咋大杵の命の夫人 伊都仲姫の命
底筒小楯彦の命の夫人 金依姫の命 これ
の十柱の夫人の姫の命たちの侍女 二十余り
なす 御妃の命 御妾の命たちの侍女 二十
余りなす 大伴の長たち 三十余りなす 故
全べ合ゐらして 百足らず 故 御夫人た
ち 御輿屋に召さし 侍女ハ牛乗りなさせて
大伴の長たち 迎つきまつりて 御輿出ま
す
-------------
24,10
-------------
時に 五日の国現人参イ来て 然々なして
丹生の門に出ましたまイき ここに 丹生
津谷間彦 谷間姫の命 大宮船に迎つきまつ
りてまをす 此度 姫たち 御船召さし 畏
こければ 吾 御伴部に仕エまつりて 楫取
りなして 清国に迎ゑに と言て 眞帆上げ
に 日下根の浪速の門に泊たしたまイき
-------------
24,11
-------------
故 ここに 御妃の命 丹生の門ゆ 御輿
出ますと聞きて 佐伯の海漁人の女 また
女童 また 国東の海漁人の女 また 女童
八百の海漁船に 櫓櫂立てて 鳴らし物を
鳴らし 簀板を踏み轟きて 歌を歌イて 宮
船を漕ぎ立てて 大海にもゆらしし時に 其
の船毎に 三人の若女 髪ハ統べし髻なして
頭に 草の太花を被り 面に 素白草実を
塗り 面に 火丹草花の汁以て 月形して
大振らしの袂に袖成して 田藁編み垂りを
腰に纏イて 腰蓑となし 手にハ 櫂を持て
目の上高に打ち振り 船の艫の上に立ち
簀板を踏み轟ろぎて 歌イ 櫂振り 腰振り
面振りなして歓く
其の歌イハ
やむさ やむさヤ へむやむさ
えいやゑ えいやゑ へむえいや
ひひ ふふ みみ よよ いい むむ
なな やや ここ とと もも ちち よ
よ
ひふみよいむなやこともちろ
もちろもちろヤ えいやゑ へむえいや
と 声を共に歌ウ 御妃の命 いと愛づら
かに 面著るかり と 笑わせたまイき 故
その歓く女の 翳す草の大花ハ そが髪
きらびて秀なす と 告りたまゐき こを以
て これの花を 顔吉花と言
-------------
24,12
-------------
ここに 愛媛 飯依 建依 大宜都の国の
美し現人 八百の小船に 櫓櫂し そが中
広間の並ら船を 三隻を率きて 御幣代なす
と言 これの三隻の その大宮船のおもべ
たに 繋ぎ並めて 逸り女を多なし 頭ハ
掛けし髻 毛垂らし 千草花を翳し 面に
白みづらを塗り 袖成しの袂太の衣を着て
衣締めハ広くなし 裾引き垂らして 蚕布の
粗目布を 袖垂りを 打ち掛け衣となして
四人の組踊りなす 脇女ハ 竹琴を弾く こ
れの竹琴の 其の緒ハ 五緒なし 四緒なし
三緒なす こを あう音 えわ音 いを音
の調めを 歌イに和いらして 歓ぎなす時
海底なる磯すさり これの調めに 浮かれ参
イ出て 海原に立て 踊り歓ぎなす 故 御
妃の命 御妾の姫たち 皆に皆に 手を拍ち
て 褒めたまイき
-------------
24,13
-------------
それの歓ぎ歌
八千草の 草の色 色の火丹色 紫色
黄葉色 黄菜色 多に 赤と水との 色訓
りヤ
眞白に黒の 色隈に 土と萌とハ 小撫で
色
藍色 青色 多々に 道饗エの為か
天津日の 世繼きまします 天地
この 愛くじ思ほす 御妃と 向妻 御妾
たたら御妾 高津の上の 御夫人
国廻道の おぼぼしくぞ あるらに
女らしく と言て 道饗エなす
高も御祖 作れりし 竹琴弾き拍ち
八衢神 声の奇しを そ真似び
猿女の祖の 技事をなし
饗エ代と 眞々饗ゑ 御々饗ゑ
萬世幸に これの饗代 火焚ぎ 火焚きも
と 声揃わして 開き 窄みて 和幣を振
りて 船漕ぎ 櫓櫂なす
-------------
24,14
-------------
ここに 天津御子の命 臣の上たち 共に
出雲の国の久米の小国に 出ましたまイき
先に 此所に 出雲建 沖津五百岐の命
沖津五百美の命 これの楢山に 大宮代を建
てて 向つきまつりて 大嘗まつりき 時ハ
いやよの月の 顕る月の円らかなる夜さり
に 御酒饗エの御酒に 酔わしたまイて 暫
し微睡みたまイぬに 頓くも しぬのめに
醒めたまイ 甚 心浮きますに 臣の上たち
も 参イ出て 木葉湯を進めます時に 神楽
の音 遙かに聞こゑて いと 面白く 御心
良かれたまイて 告りたまわく 今の神座ハ
何処ヤ 故 往きて見らまく欲し と 告り
たまイて 足駄を履かせたまイき
-------------
24,15
-------------
故 表春清兄自の命 大国宝足の命 思金
差足の命 太玉狭間の命 下春向田の命 こ
れの五柱の上も 御伴に仕エて 大宮を下が
りて 聞こし召すに 大山の頂にしあれば
これの山坂を攀ぢたまイて その音に従りて
訪ねたまウに 一つの巖あり その上に
大きなる松の木 いと 栄に枝し満て足れり
これの木の下に その音有りて 歌ウ声聞
こゆ 故 その巖に上らにとするに 道無し
その辺に 大樹 年経りて その枝 少な
くで その巖に凭れ斜めなす 故 天津御子
の命 こゆ上りてにとウ 攀ぢたまイき 故
五柱の上 続きて 攀ぢ上り 見そなわす
に いと きらびに 畏き室屋ありて その
戸の内に声あり 故 その内を 窺き見たま
ウに 翁と嫗と 向かつ座なし また 益良
男八人ハ 翁並べに座なし また 撓や女八
人ハ 嫗並べに座なして並めして 鼓打ち
笛吹き 柝く鈴を打ち 五十鈴を鳴らして
神座なす ここに 忌部狭間の命ハ 其の戸
の外に 立たしたまイて 告りけらく 汝上
たちの神楽音 いと奇しく 妙にして清々し
故 其の音を聞かまほしくて 参イ上り来
今ヤ 一調め遊ばして 聞かしたまゑ と
まをす 故 童 出来て いざ させたま
ゑ と まをす
-------------
24,16
-------------
ここに 天津御子の命 五柱の上たち 共
に 宮室に入らせたまイき ここに 老爺と
嫗とハ 天津御子の命 五柱の臣たちを 天
津高御座に 招ぎまつり 坐せまつりて 斎
きまつりて 申しけらく 今の神座ハ 国廻
たまウ と 聞こゆからに 千足りの御幣代
に奉るなり 故 今 一奏で奏づらして 種
々に慰めまをさに また 天津御子の命の
畏くも 此処に来ませるからに 長生ませ
と 祈みまをす 禍津物の比礼神座を 称エ
まをさに とウて 少男と少女とに 柝く鈴
を打たし 少女と少男とに 笛を吹かして
老爺と嫗と 少男と少女とハ 比礼言を告ら
す また 少男と少男とに 鼓を打たし 少
女と少女とに 鈴を振らし また 少女と少
女に 青和幣を持たし 舞わしめ また 少
女と少女 青和幣を持たして 後辺に座なす
また 少男と少男とに 白和幣を持たし
舞わしめ
-------------
24,17
-------------
また 少男と少男とに 白和幣を持たし
目辺津辺に座なして 禍津物の比礼祈り言申
す
敬祝詞
させやすにさちそし
御日祝詞
ぬしたさしきぬほゐなヤ
かやたさウゆさぬみえほ
さゐ
かやぬわつおもさゐ
御月祝詞
やらさもつきぬほかさウ
なやぬするイほこほさゐ
やろねうぬすろイほおも
さゐ
御神祝詞
かエみわしすひみわしか
やぬみなさなせまやつた
ほこほさゐ
御星祝詞
かえいなやすひいなヤく
せさゆなやになヤゆつみ
ほさゐ
さはらヤみそゑほさゐ
御風祝詞
かえあなちすひあなちと
よよすわゆつみほさゐ
ちはぬみそみゑほさゐ
御火祝詞
かえぬすわなさぬすわ
こししろゐもゆつみほ
さゐ
さすぬにほこゑほさゐ
御水祝詞
かえたらウのろにめい
ぬまゆつみほさゐ
いぬまこゑほさゐ
御道祝詞
かえぬすなにろをぬや
たさりまひゆつみほさ
ゐ
まひらヤこエほさゐ
神遣祝詞
かやぬさゐなさぬさゐ
いゑすイこすなちなヤ
かねぬウしのさやもそ
はなやるゐにつちらこ
ほほいぬにぬしまそゑ
ほそゑほそすたほさゆ
なさわよねろほぬほや
ざよほこしイつねぬし
つねくにつねねらわき
らわき
種々祝詞
そゑほよイさあひその
そのひそちもとませろ
すたすたほそちもとほ
きしゑねまへむゐなね
ねのまちこそちねたま
れはたちねやさよほら
わきこもしにりたしそ
ちもとちもとときねし
きねしまやひそちたま
ちねやざらわりはての
なさぬさゐほほいその
みのさあろぬそちもと
はね
これの祝詞言を告りて 神座なす 故 調
め合ゐて完エぬ
-------------
24,18
-------------
故 天津御子の命 告りたまイき 斯く懇
ろに 禍津物の比礼祝詞を 賜イ寄す神の御
名を 明かさしたまゑ と言 応答エずで
唯 これの山守る神なり とウ 故 臣の上
たち 訓り告りの大祓イなして また 直に
問わしたまウに あら辱しヤ かけまくも畏
き天津御子の命の 斯く問わしましたまウに
吾が名を顕わさずで 得 あらじ とウて
吾ハ 大山津見の神の御子にて 国照大神
の妹 奇稲田姫の神の祖 名ハ 清之八箇耳
の神なり 妻が名ハ 清之八箇耳之女の神
と まをす
-------------
24,19
-------------
また これの子ハ 吾が子なり そハ こ
れの子と共に 現人に禍津言なす者を逐イて
息長きなさしめに と 国守りなす神なり
名ハ 勲玉垣の神 妹が名ハ 玉垣姫の神
次の子の名ハ 幸玉詰之男の神 妹が名ハ
足依姫の神 次の子の名ハ 眞差乳之緒の
神 妹が名ハ 乳之緒之姫の神 次の子の名
ハ 建比礼子彦の神 妹が名ハ 窓形姫の神
次の子の名ハ 弥良志玉の神 妹が名ハ
玉留姫の神 次の子の名ハ 和魂詰之男の神
妹が名ハ 伴分姫の神 次の子の名ハ 天
乳玉之緒の神 妹が名ハ 愛姫の神 次の子
の名ハ 眞子玉幸彦の神 妹が名ハ 世束心
姫の神とまをす
-------------
24,20
-------------
ここにまた 天津御子の命 それの翌くる
日に 昨日の老爺に 会ゐ見まく思ほさして
また 大山に攀ぢて 在りし所を見そなわ
したまウに その巌の上の室屋ハ 見エなく
で そハ 原となり 八重葎生イ繁みて 唯
道に風のみ吹きて 物寂び渡りて いと
疎々しくで その文無かりき
-------------
24,21
-------------
ここに 天津御子の命 吉備津根の国に
出ましし時に 吉備津彦の命 吉備津姫の命
ハ 三上の神山に 宮代を建てて 斎きまつ
りて 此ゆ 御輿出たまイて 原中に出見そ
なわすに 鶸鳥騒げり こハ いと まめ鳥
なり 故 取りて 参イらせよ と 告りた
まイき 故 大伴の長たち その野立ち細木
魚取り網を 作り ヤ空に張り渡して 下草
を刈らす その鶸鳥 尽々に 原道立ちて
その網に掛かりき 故 そを取り生かして
小目籠を作りて そに入れて 玉粟実を餌ば
となして 奉る 故 御喜ばしたまイて 告
りたまわく 吾ハ これの野に 暫し宿らに
と 告りたまイて 仮宮を建てし所を 三
野と言
-------------
24,22
-------------
こを御輿出たまイて 道往きたまウ時 山
越ゑの谷間に来鳴く 小鳥のその声 うらら
に 囀りなす 故 天津御子の命 それの音
を聞かしたまイて あれの鳥を取り 生かし
越しまつれ と 告りたまイき ここに 大
伴の長たち その谷間に往きて 網を以て
木の枝毎に張りて取らに と 一ひしらに
追イ及きしかど その網に掛からで 空翔り
なす 故 ここに 思金八島彦の命 これの
木立ち山に 登らし こたまなす 谷隈の立
ち木を伐らしめ その皮を剥ぎて 臼杵以て
弥砕きに 叩き搗かめて その柔なす木皮
を 狭水に浸して その柔皮を 左右手に揉
み取りて 木の皮を流し捨てて 左右の手に
残れる物ハ 飯餅の如の粘なり 故 こを黐
といウ これの黐を 木の枝毎に着け置きて
間暫し 憩わせたまウ時に その木の枝に
参イ来て囀りなす これの時に 大伴の長
騒め往くに それの鳥 逃げ翔けらに と
すれども 得ずで なをなをに 羽搏ちなす
に その羽 また その黐に着きて 得 動
きず こによりて 大伴の長 その木に登り
て その鳥を捕りて 参イらすれども その
羽に 黐着きて 得 動きず 故 また 思
金八島彦の命 榧の実を煎りて そを搗きて
その搗き実の泥なすを 羽足に塗り擦らし
て 楮布以て 拭ゐ取らせて 小目籠に放つ
に いと 麗し 故 餌を与ゑに とウて
玉粟 稗実を撒かすに その餌を喰わず 故
一日ありて 病める状なす と せに か
く せに と言に 術知らず ここに その
国人 小田部熊猿 細割り竹以て 目並め籠
を作り 持ち出て 参イまをす これの鳥ハ
全べに 谷間に棲みて 木蔭の梢を好み
また 水を喰イて 能く 短か手の蜘蛛と言
虫を喰イ 喜ぶものなり 故 奴が作れる籠
に 木の枝を挿し その下に 水溜めを作り
置けり また 蜘蛛虫も取りて 持ち越しぬ
故 これの籠に その鳥を呼び越しまさに
と 籠に 蜘蛛虫を 五つ六つも 投げ入
るて これの籠の戸を開きて その籠を差し
出すに 籠なる鳥 籠なる蜘蛛虫を見て 飛
び入り 喰イて 間暫しありて 活き立ちて
籠中を跳び歩きて勤しむ 故 天津御子の
命 甚く喜ばしたまイて 小田部熊猿に 国
の籠屋の長 と言名を 下し賜イき 故 此
所を 賀古の里 と 言 大伴の長 日毎に
蜘蛛虫を取りて 餌となしたる所を くむ
え といウ
-------------
24,23
-------------
天津御子の命 これの鳥の 囀りを聞かす
に 其の音 いと 畏き音色かも そハ ほ
ほぎききよウ と 歌イなすからに この頃
餌も喰わぬ憂き事なも 喰イずであるかも
も と 告りたまイき 故 これの鳥を 鶯
と言
上津文 二十四の完エ
-------------
25,1
-------------
上津文 二十五の綴り
ここに 天津御子の命 臣の上たち 大伴
の長たち 共に 吉備根の賀古の里を 御発
たしたまイて 日下根の国に 御輿出ます時
に 日下根の建 香山日下彦の命 妹 日下
姫の命 兎原の大野に 太宮代を建て 前津
辺に 秀門屋を建て また 門代建て構エて
斎きまつる ここに 御妃の命 御妾の上
たち 侍女たち 高津上たち 大伴の長たち
共に 日下根の浪速の門に 御船泊たした
まイて これの大御田族の家に入らせたまイ
き 故 天津御子の命 兎原の宮代に 入ら
せたまイぬ と 聞こし召したまイて そゆ
御輿出なしたまイて 兎原の小国に 急が
しまして 然々を 詳らかに 告らしたまイ
き
-------------
25,2
-------------
ここに 天津御子の命 御妃の命 高津上
たち 御妾の上たち 臣の上たち 大伴の上
たち 共に 御輿出たまイて 淡海の国の
栗栖の小国の 国津上の 淡水之男の命 淡
水之女の命の家に 入らせたまイき 国の現
人 千萬 参イ来て 歌イ歓ぎまつる
-------------
25,3
-------------
こを 御輿出たまイて 伊勢津の国に至り
たまウに 国の覇精高の上の御名ハ 伊勢津
彦の命 伊勢津姫の命 員弁の山に 宮代を
太敷き建て 秀門屋 門代を建て並めて 迎
斎きまつる また 国の建 石柝御帯玉の命
妹 御帯姫の命 こも 門代の前に 清み
門代 幾らも建て並めて 迎斎き 斎きまつ
りて 朝の御食 夕べの御食に 仕ゑまつる
これの国柄も 人の国柄如にて 現しき青
人草 多々に参イ出て 鳴らし物を鳴らし
歌イ 歓ぎなす
-------------
25,4
-------------
これの内に 英虞の小国の現人の翁 老爺
歌麿 嫗 歌女 これの二人ハ 齢 百越
す翁なり これの子 二人 名ハ 歌三郎
歌四郎 これの孫 四人 名ハ 歌孫太郎
歌孫二郎 歌孫三郎 歌孫四郎 これの曾孫
二人 名ハ 歌曾孫麿 歌曾孫二郎を伴ね
て参イ申す 奴が業ハ 木伐り業なすからに
子 孫 曾孫 共に 高木に昇り 種々の
状なす 故 此所の宮代の四方八方に 清み
門代を建て並めあれば そに昇らしめて 鳥
の翔り 鳥の遊び 鳥の餌食みの 真似びを
なさせて 大君たちの御目の御饗エと料なし
まつらに と まをす ここに 子 孫 曾
孫の六人ハ 赤裸になりて 檜葉色の男子隠
しを 引き締め 火丹色の蚕布の行騰を履き
て 勇み猛びて 清み門代の上に 逆さまに
立ち 飛び鳥 翔り あちこち そちやち
と 渡らイさかぬり 腹据ゑ 尻ずみ あな
もち 種々に 技なすからに 猿ものかハ
空翔る鳥の如なす 故 千萬の現人 そを見
て 高音を上げ 鳴らし物を打ち鳴らして
挑む 大君たちも 御手を拍たし 御褒めま
して ああわわ と 笑イいざまし 面白ヤ
と 可笑しみたまイき
-------------
25,5
-------------
ここに 遠津海の国の 浜名の浜の小門に
外津世の国の 大きなる船に 人多に乗り
たる船 三隻泊だしき これの者共 夜さり
に 村に出来て 種津物を取りて その船に
隠し盗みなす禍らゐなり 故 こを 現人の
男たち 国建 大雷羽鳥の命に 然なす大
人国の禍ゐどもを 打ち殺し棄てに と ま
をす
-------------
25,6
-------------
故 建 言らく 然ならず 奴が心の随に
なさせておかば 弥益さに 故 現人ハ
偽り怖ぢてもてなせ 斯く募らかし置きて
天津御子の命の 御目の御慰みになさに と
ウて 直ちに 伊勢津の員弁の宮に 使主人
の長を走しらして 遠津海に 迅く 御輿入
りたまエ 珍らかなる 面白き事の侍らイつ
御輿入りまさば 忍び忍び出に 浜名の小
国の須賀山に出ましたまエ と まをす こ
こに 建 大雷羽鳥の命 国の益良男の緒た
ちを 百余り人を集エて 告りたまわく 今
天津御子の命の御慰めに 外津世の大人国
の禍ら共を これの えふの野原に誘きて
殴り据ゑて 殺してハ 穢らわし 故 頓殴
りに 手かなわむ足かなわずに 打ちなして
奴が盗める種津物を取り返し 奴が持たる
道具 取り上げ 一隻の船に乗らせて 二隻
船をき払ゐて 国返しなさにと思ほゑぬ 如
何にヤも と 告りたまイき 故 大御田族
の 緒たち 諾べとウ 故 益良男たちを
幾つに分かれて 一群に出て 戦エ 半ら
ならば 逃げよ そを見て 一群 また戦エ
然して 殴るに拒む人あらば 殺せ 故
その【打ち出り打ち入り】大構り 小構りハ
鼓 鉦鼓 法螺 幡以て 一つ一つに 吾
ハ 小山に屯れて知らさに と 手配りまく
りを 定めたまイき
-------------
25,7
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 十
一代彦の命 御妃 玉帯貝依姫の命 向妻
桜姫の命 御妾 八束姫の命 伊都城姫の命
側禰御妾 十二人 侍女 幾人 臣の上の
御夫人 八十貝姫の命 狭霧姫の命 八島姫
の命 湯浅依姫の命 江池姫の命 背荷代姫
の命 飛鳥姫の命 精高姫の命 伊都長姫の
命 金依姫の命 高津上たち 明津上たち
清津上たち 厳上たち 並上たち 大伴の長
たち 遠津海の宮を過ぎて 須賀の山本に至
りまして 御輿舎を降りさせたまイき ここ
に 建が使主人 加茂の近津八郎 まをす
明日の夙めゆ 浜名山の野原に 禍津事なす
大人国の禍らゐ人を 尽々に逐わにからに
東雲に これの山に 忍びて 御立たした
まゑ と 申す 故 教エの如 なしたまウ
ここに 遠津海建 大雷羽鳥の命ハ 頭の
髻を切りて 鉢巻を後ろに結ゐ締め 軍衣
を着込みて 袂袖無しの羽織を着て 櫨木の
畳腰掛けに 尻をうたして 左の御手に 弓
矢を掻ゐ込み 右の御手に 布の緒垂りの
円目和幣を持たして 靭を背に負わせて 布
幕を打ち延エ 繰り留めの斎幡を 四流りに
差し立て また 黄幡を 四流り差し立て
大鼓人八人 金鼓人八人 法螺人八人 幡人
八人を 前津辺に備エて申す 頓に朝餉過き
ぬ 故 戦を始めに と 申しき 大御田族
ハ 皆の装ゐ 然々に 金笠を兜なし 鉄の
下衣を鎧イて 幾つ幾つに 屯ろなす ここ
に建 持たる和幣を振らす時に 鼓人受けて
鼓を打つに 前に屯れる御軍 浜の水際に立
ちて 高音を上げにとウ 矢を雨なす時に
三隻の船ゆ 矢を放ち 石礫を打つ 故 御
軍 鉾を横たエ 弓を捨てて逃げ走す 故
浮かれたる禍らゐ 三隻の船より 皆 陸に
上がりて 御軍を追ウ 故 また 一群の御
軍出て 矢を放つに 禍らゐ人 また 矢を
放ち 石礫を打つ また 御軍 鉾を捨て
弓を捨てて走す 禍らゐ人 また 追イ掛
け来 斯くなして 須賀の野原 誘き寄せて
また 一群出て戦ゐ走す 故 禍らゐ人
追イ掛け来 今度ば 御軍 背ゆ斯くなす
また 振り返りて戦ウ 御軍 また走す 故
禍らゐ人 追イ掛く また 御軍 後ゆ戦
ゐ 斯くなすこと 朝餉ゆ 夕餉に至る 御
軍ハ 代わる代わるに 憩エぬれど 禍らゐ
人ハ 息も継ぎ敢えずて 日後時ゆ 目も得
見エて 奴 己が持たる得物さゑに 打ち落
とされて 足腰も立たて 沼田の泥の如
になりて よろほイぬ 故 建出て 御軍人
に 奴が乗り越す船に 大御田族の種津物を
取り積みたるを 取り返して その一隻船
に 泥如禍らゐ人 追イ込みて 潮の早瀬に
追ゐ放ちて 二隻船に 火燧りて 燒き捨
てたまイき
-------------
25,8
-------------
ここに 天津御子の命 御妃の命 御妾の
命 側禰女の命 高津上たち 臣の上たち
共に 御輿出まして 野陸の国に出ます時に
野陸の現人 千萬参イ来て 鼓打ち 笛吹
き 歌イ歓ぎて 迎つきまつりて 吾妻の宮
代に在座まして 越の国の 頸城の宮代に
暫し 座なしたまイ 出湯に 日の毎に召さ
したまイて 告りたまわく これの出湯ハ
眞薬にこそあらめ 吾ハ 弥に晴々たり と
告らしたまイき 故 その所を 波礼の里
と 言
-------------
25,9
-------------
ここに 新の門の現人 狭矢之猿見太郎
奴が母ハ 疾く亡りて 父に 後の妻ありき
また 父も亡りて その継母 若くて 齢
三十余り いと 眉目美き女にあり また
猿見太郎ハ 齢 二十五 故 継母に痴げ
て 百箇夜になるまで 母の寝屋に 湯津合
ゐ櫛を 落とし入るれど その母 応エず
また後に 玉津挿頭を 落とし入るれど そ
をも挙げず 故 或る夜に忍びて 寝屋に入
りて 呆れなすに 女 魂消て 外方に駆り
て 縊れ死去にき 故 けるハ 猿見太郎
いと 恥づかしとて 外川の早瀬に 身を遣
りて亡せぬ 然れど 早瀬にしあれば 川の
尻の浮洲に懸りて 生き返りき こを 国建
大土藤野の命聞かし その猿見太郎を捕ら
エて 頭毛を刷かして 丸頭なさしめて 韮
を喰わし 新門の離り島に 放ち遣りたまイ
き 故 その島を 丸子島 と 言
-------------
25,10
-------------
ここに 大君たち 臣たち 共に 越の国
を御出たまウ時に 陸奥の国の現人 五月蝿
なし 法螺吹き 鼓打ち 笛吹き 歌イ 迎
斎きまつる ここに 陸奥の建 大土鬼神の
命 大沼に宮代を建てて 斎きまつる時に
うまきの九郎 うまきの佐九郎 これの胞族
ありて 毛呂手の実を 弥臼に搗きて 粗目
布以て 篩ゐて 粉なし 頓打ちに打ち延べ
平なすを畳みて 小鉈以て 間細に切り
茹で晒し 醤油を掛けて 棊子麺となしま
つる ここに 天御子の命 告りたまわく
これのきしめハ 何そも と言 建 御答ゑ
けらく こハ 毛呂手の実以て 醸せるきし
め と 申す こハ いと味良ききしめにこ
そあれ またの日にも 戯エてに と 告ら
したまイき これのきしめを そばエのきし
め と 言
-------------
25,11
-------------
ここに 陸奥の国の建 大土鬼神の命 天
津御子の命にまをしけらく これの国ハ 国
の広らなすハ 宮処の豊日の十延エなす ま
た 現しき青人草の 幾かに少なし 故 吾
が豊日に慮るに 現人ハ これの国少なし
ここに 益人の訓り在せ と申す 故 中臣
鋤返の命 太玉狭間彦の命 下春富高の命
思金額田の命 天懸豊照彦の命 国懸八十久
久智の命たちを 集エたまイて 告りたまわ
く 然々ハ 如何にヤも 各もに 論ゐてよ
と 告りたまイき こハ 太占の御占業に
仕ゑまつらに とウ
-------------
25,12
-------------
故 臣の上たちハ 大峡 小峡の木立の眞
中なる 眞男樫の堅枝を内抜かして 波々迦
の木皮を燒きて 火先取りに 文なすを 五
十言の七十二箇のもじりに 合ゐ言なししか
ば 占事畏く 天津大御神たち 告りたまイ
つらく 天の益人足らしば 現しき青人草ハ
日に異に 吾に祷きよ 然なさば 吾れ
御種を降し与エに そハ 東 南 北 西に
向きて 吾が御名を招きて 八平手を拍ちて
拝め 故 東 南に向きてハ 少男を産さし
めに 西 北を向きてハ 少女を産さしめに
それの祝詞言に 火燿秀之霊 眞燿眞之霊
励み足し 小児余り足らし めみため と
祈り言を告れ 吾ハ これ 天之底立の命
国之底立の命 高御産巣日の命 神御産巣
日の命 神魯岐の命 神魯美の命 伊邪那岐
の命 伊邪那美の命の神也 と 告りたまイ
き 掛けまくも畏き 天津大御神たちの御詔
りの随に 国内に蒔き散らして 天の益人を
楽しまに と 告らしたまイき
-------------
25,13
-------------
また 天津御子の命 臣の上たち 共に論
ゐて 告りたまわく 現しき青人草ハ 男女
共に 海魚を喰ゑば 児生すものなり 故
海 近なるハ 海魚を喰ゑ 海 遠なるハ
川魚を喰ゑ 川無きハ 泉の所を 深く掘り
て 水堰をなして 川魚を活かして そを取
り喰ゑ また 山の小谷の尾毎に 築地を高
並めて 泉 雨水をつつみ置き 夏されば
田水となして 川魚を活かして 取り喰ゑ
との添エ言を告らしたまイき 後に 建 十
年余りに計りなすに 年比の一つ延ゑ 人増
ゑたり と 申す
-------------
25,14
-------------
ここに 天津御子の命 諸上たち 共に
国帰りまさに とウて 桃生の国に 出まし
て 御船を造りを 待たせたまイて 三か日
四か日も在座ます これの現人 参イ来ず
故 天津御子の命 甚く嘆かせたまイて
告りたまわく 吾れ ここに来ますからに
現人 皆 うらぶれてに 迅く 別国に出ら
に と 告りたまウ時に 宇津の統べの益良
男の 小田見麿 走せ来て申す 天津御子の
命 御妃の命 臣の上たちに 御神座代を奉
らに と 申す
-------------
25,15
-------------
故 如何なる神座代ヤ と言 答エけらく
これの 牡鹿の浜の 入り海の中に 網代
を幾つ 下げ並め置けり 故 これの所に
御出まして 船遊びたまイて 大海魚 小海
魚の遊びなす状 御覧じたまエ と まをす
故 ここに出まして 小船に召さし 彼方
此方の海中を 見そなわすに 大き 小さき
の海魚 多々に 群れ立ち遊びき これの海
魚を 御手に取らして 膾となして 御食し
たまウ所を 御手の浜 と 言
-------------
25,16
-------------
ここに 国内の現し
覇精高の上 金山陸奥の命の妹 金山陸奥姫
の命を 祝りまつりし所を 妹座の山 と言
これの山の山麓の黄金を 現人 千萬往き
て 掘り取りて 天津御子の命に 御幣代な
しまつる 故 その黄金を これの島に 投
げ置きたまイき 其所を 黄金島 と言
-------------
25,17
-------------
そゆ 御船を出したまイて 西座の沖津を
渡らしたまウ時に 夜なすからに いと
暗かりき 故 国懸八十久久智の命 御船の
舳に立たしたまイて 今夜ハ暗し 天津御子
の命の御船 出ましたまウからに 海津見の
神たて 火焚き上げて 迎つきまつれ とウ
ここに 海の原中に 大き 小きなる火焚
き 多に満ちて 海の原ハ 火原如篝 明り
て 直ちに 鹿島浜に泊たしたまイき
-------------
25,18
-------------
ここに 一人の翁 出て申す ここゆ 无
邪津海ハ 船路遠くで 勤しあらぬ海原にぞ
ある 故 吾が迎つきまつらに とウて 御
身ハ鷲鳥となりて 海原を翔ります時に 八
尋鰐参イ来て 御船の舳中に取り付きて 帆
風を眞切らして走すに 常陸の鹿島ゆ 无邪
津海の安房門に 間暫しに 泊たしたまイき
天津御子の命の大御船 安房門に泊たした
まエると 聞こエて 遠津海 伊勢津の国々
に 百船千船 帆上げなして 鼓打ち 笛吹
き 法螺吹きて 伴船奉り 御船を漕ぎ廻み
き 故 日下根の千船も 然々に 安房門ゆ
日下根の在田の門に 泊たしますに 幾ら
船なす 故 在田ゆ中ら海を 越したまイて
飯依の小豆島に 泊たしたまイて 愛媛の
和気の門に 泊たしましき ここに 国建
明玉谷主の命 大宮代を建てて 斎きまつる
御妃の命の御船ハ これの門に 泊たした
まわずで 風の随に 大海原乗り越したまイ
て 丹生の門に泊たして 直ちに 直入の大
宮に 帰りたまイき
-------------
25,19
-------------
ここに 中臣守山主の命 表春臼杵の命
忌部葛沢の命 太玉家連の命 科長底鳥の命
金山畝火の命 大屋八重太の命 積羽棚明
彦の命 日鷲言谷男の命 彌都波国覓の命
波邇夜須大兄の命 これの上たち 五臣の上
たち 共に 御妃の命の 久しく国廻まして
宮帰りますからに 御喜び称えたまイき
時に 御妾たち 皆 並め居ます 故 高津
上たち 御妃の命 御妾の姫たちに 申しけ
らく 久に 旅疲れますゆ 御姿 いと 鄙
びて 由無し 天津御子の命を 迎エまつら
しに 礼無くで 良わず 故 御髪を油絆き
に 統べしに本取らして 楮布の秀切りに取
り 毛末を 足下に長垂らし 御眉を刷かし
御歯を眞金黄金のだし湯に黒まし 白草の
実の粉 火丹草の花汁に溶かして 御面に薄
らし 欅の煙煤を 額に点なし並め 玉以て
結ゑる 高插頭を被らし 礼衣を襟重に着さ
し 袂織りの袖太の 衽を打ち掛け 垂らし
分けの襲を 帯し 火丹色の御袴を 長垂ら
して 礼為しに 大宮の神奈備殿に 出迎エ
たまゑ 御向妻 御妾たち共に 然なしたま
エ と まをす
-------------
25,20
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 十
一代彦の命ハ 御子 八尋殿造の命に 天の
下を知ろしめさせて 桑野の豊の中山に 新
宮を建てて 家隠りまさに と 天津高御座
に みづりたまイて 神眞の大御宝 八咫の
御鏡 一箇 叢雲剣 一箇 潮満潮干玉 一
箇 持ち渡し 授けたまイて 天の下を知ろ
しめせ と 日高日子波限建鵜葺草葺不合
十二代彦の命と 大御名を称ゑて 言依さし
たまイき
-------------
25,21
-------------
十一代彦の天津御子の命 御宝山の大宮に
宮隠りなしたまイて後 五年余り経たまイ
て 神隠りまして 高天之原の日之若宮に
帰りたまイき 御陵ハ 御宝の山の上に在り
-------------
25,22
-------------
先に 日高日子波限建鵜葺草葺不合 十二
代彦の命ハ 妃 玉照若姫の命を 召さした
まイき これの妃の御祖ハ 三代彦の天津御
子の命の御子 玉照姫の命の御孫 天之玉垣
彦の命の御子也 また 向妻ハ 思金額田の
命 夫人 田之面姫の命の御子 額田姫の命
を召さしたまイき また 草野若松浦の命の
御子 鳥姫の命を 召さしたまイて 御妾と
なしましき また 大物主耳長の命の御子
立簀姫の命を 召さしたまイて 側の御妾と
なしましき 故 御妃の命 御妊みたまイて
大御身 大土 小土に取りなし 神塞ゑに
霊熟き 斎熟きましますからに 大分の黒
の小浜に 産屋を御立てて 御輿召さしに入
りたまイて 産みませる 御子の御名ハ 豊
明国押の命と申す これの御子の大御名ハ
日高日子波限建鵜葺草葺不合十三代彦の命と
申す
-------------
25,23
-------------
また 御向妻 額田姫の命の産みませる
御子の御名ハ 幸玉姫の命 次に 八草姫の
命 次に 鳥飼姫の命 と まをす また
御妾 鳥姫の命 側の御妾 楯姫の命に 御
子生れませず また 側女 田霧依姫の命
朝木高師戸売姫の命 鐸姫の命 味間見姫の
命 田凝姫の命 数姫の命 斎霧足之女の命
伴廻之女之炊姫の命 刀姫の命 沖沢姫の
命 黄菜井姫の命 田近之女の命 これの十
二柱の御腹に 生れませる御子 三十八人在
す これ内に 二十人ハ 狭依科の国の大御
田族に ならせたまイき 故 佐久の国に六
人 更生の国に六人 埴生の国に四人 荒城
の国に四人 また 十八人ハ 陸奥の国の大
御田族に ならせたまイき 黒川に二人 小
田に二人 大沼に二人 磐城に二人 名取に
二人 久慈 二人 色麻に二人 伊具に二人
これの国ハ 現し人少なきからに その国
に放ち遣りたまゐき
-------------
25,24
-------------
また 十一代の命 御齢永 二百余りに
神隠ります 十二代の天津御子の命 御祖の
命の 天の下を知らしたまイし随に これの
豊道之原の 現しき青人草の 国栄に 益人
を楽しみたまウからに 五臣の上たちを集エ
たまイて 告りたまイつらく 吾が御祖の命
の 天の益人を図りまします
多児あれ 病もず 老イず 生息長足り
これの三つの訓りを 学びなさせて 楽し
まに 臣たちハ 如何そもヤ と 問わせた
まイき 故 五臣の命たち 御答エまをしけ
らく 天津御子の命の 御心辺の随に 思ほ
エさもらイき 故 その訓りを申さに
夫無き女を 子取り女とし
妻無き男を 子取り男とし
厄無き女を 育て女とし
厄無き男を 薬掘りとし
翁自を 薬人とし
これの訓りを定めて 国内に蒔ぎしかば
青人草多なさに また 此を蒔き敷くハ 五
臣の上 皆 代わる代わるに 国廻なして
蒔き散らさに とウ 天津御子の命 諾べ
臣の上たち 然すかならば 吾も 頓もに隠
りて 一人して 然なさに 臣の上たちも
頓もに隠りなせ と 告りたまイき
-------------
25,25
-------------
ここに 天津御子の命の 天の下知ろしめ
す年並み 二百四十余りなるに これの年ゆ
一年も欠ぎ無く 年の毎の春ゆ 夏避りぬ
歩き 国廻なしたまイき 臣の上たちも
然なすからに 何処の国々も 上たち満ちて
楽しみなす 豊御代にこそあれ 故 豊茅
之原の青人草 多足り 益良男 い健に 翁
自 満ち足らり 足らり
-------------
25,26
-------------
また ここに 薬人の上を 国の薬人の嚮
導 となして 然々の訓りを諭して 尽々に
国廻なしてよ と 告りたまイき 嚮導の
上の御名ハ 少那毘古那の命の 四代の御孫
少名大脛の命の 十四代の裔 神足笠の命
少名大原之男の命の 十三代の裔 大原今
男の命 大穴牟遅の命の五代の御子 大物主
耳建の命の十三代の裔 大名狭別の命 大国
弥開の命の十五代の裔 狭丹熊の命 大国深
谷招の命の十四代の裔 嵐玉の命 これの上
たちを 嚮導上と称エて 国廻なさしめたま
イき
-------------
25,27
-------------
ここに 太玉勝葛沢の命 御齢 甚く老け
させたまゑば 吾平の山許に 室屋を太敷き
て 家隠りなしたまイて これの室の戸の外
に 秀立て岩の合イゆ 細出水を取り囲みて
下間に 転石以て 水堰を造らし そこに
水を湛ゑて 川魚を放ちたまイき 故 斯く
なすものを 活津 と言 これの所に 岩石
並めしければ その岩石を反ゑ反ゑにし 風
流石を岩並め積まして けせる小山如になし
腰並めしに 石組みて 和山如に枯れなし
前津辺ハ並地となし 砂を散らし 浜磯の
如なし 岩と岩との合わゐ毎に 堅柴草を植
エ立て 池津水の真中に 岩垣を積みて そ
の上並地なさしめて 海原の島の如なし そ
の池中に 組に作れる小さ船を浮かめ その
船中に 手打ち網を入れて 天津御子の命を
招きまつりて これの池津に 共に遊びたま
イ 或ハ船に乗らして 網を打ち 或ハ山に
登りて 弓を射らし 或ハ並地に 十節菰を
延エ敷き 在座まして 歌イを歌イ 舞ゐを
舞わして 楽しみたまイて 告りたまわく
吾も斯くなして 家族の楽しみなさばヤ と
ウて 大宮の戸の所の 殿の庭に築き立てさ
せて 大御楽しみの斎庭となしたまイき 大
宮に 斯くしつらゐたまウからに 臣の上た
ち 厳屋敷 屋地に 各も各もに 築き立て
たまイて 天津御子の命を招きまつりて 年
の斎きとぞなる
-------------
25,28
-------------
ここに 十二代日子の天津御子の命 或る
日に ふとして 御病ゐたまエど 然に熱か
ゐも在ささりしかど 五か日ほどありて 大
御子の命を召さしたまイて 告りたまわく
汝 明日より 天の下を知ろしめせよ 吾ハ
明日の真昼に 高天之原に帰りて 天津神
たちに 返り言申さにとて 翌日の真昼 静
かに神避りましたまイき 故 妃の命 御妾
の姫たち 側禰女たち 御子の神たち 皆
御枕辺に打ち臥し 嘆かせたまイて 大釜小
釜に 簀湯を沸らし 冷まし取りて 御身洗
イに汲み湛ゑて 大御身を濯ぎ清まり 新衣
奉り 衽を纒わし 八尺の冠を着せまつり
奥津喪家に 八重畳を敷き 在座まさせまつ
りて 御簾竹巻きて 麻條と綿とに 御骸
背に負せまつりて 高しの弥座置に 据えま
つりて 大贄津 小贄津 鰭の広海魚 鰭の
狭海魚 奥津藻菜 辺津藻菜 山野広菜 種
津広菜 山野玉菜 種津玉菜を 御幣と奉り
き 時に 妃の命を始めて 御妾たち 側禰
女たち 侍女たち 五臣の上たち 大伴の長
たち 司々の緒たち 共に 御避りの御食
御酒を賜イて また 大御田族の統べし人
大膳夫に 御避りの 礼言告らしの御食 御
酒を寿かイて 臣の上たち 礼言をなさしめ
了エて 神祝りに仕エまつりて 然々に 阿
蘇の国の 衣尻の富山に葬りまつりき 時に
御陵の外の所に 喪家を太く広らになして
次の天津御子の命を始めて 妃の命 御妾
の姫たち 側禰たち 侍女たち 親族 家族
の人たち ここに 日の毎に神楽をなして
百五十か日に 遊び嘆かしたまイき
-------------
25,29
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 十
三代彦の命 産御名ハ豊明国押彦の命 御妃
ハ豊狭姫の命 迎エたまゐき こハ十一代の
天津御子の命の御子 大綱手の命 綱帯姫の
命の御子に在す 豊咲姫の命を 向妻に召さ
します こハ 十二代の天津御子の命の御子
沖玉彦の命の御子にます狭依姫の命を 御
妾に召さします 此も同じ姉妹にます また
側禰女 十二人まします 時に 御妃 向
妻 共に 御子在しませず 御妾 狭依姫の
命の御腹に 生れませる御子の御名ハ 世栄
姫の命 次に 橋姫の命 二柱ます
-------------
25,30
-------------
ここに 側禰女内に 其の名ハ 奇乙女と
ウ 側禰女妊みて 大土 小土に 取りなし
神さエに 霊熟き 齊熟きなす 故 高津
上たち 共に常世ならずとウて 其の少女の
系を 尋ねたまウに 少女答ゑけらく 奴ハ
賤しき山賎の子なり と 申す ここに
高津上たち告りたまわく 汝の御腹に 天津
日嗣の御子 御宿らせまつれば その系を
包まず明かしね とウに 吾ハ 得申さじ
父に問わせたまエ とまをしき 故 高津上
たち その父 覇精高の上 豊日別の命 豊
日姫の命に 然々に 告りたまイき 故 答
エけらく 吾が遠津祖ハ 火之須勢理の命の
これの覇精高の上の娘 小百合姫の命に
通わせたまイて産める子 大熊の命 妹 熊
姫の命の子 直入若武の命 妹 柏姫の命の
十三代の子ハ 奴なり 名ハ 豊日別の命
妹が名ハ 豊日姫の命と申す また これの
娘ハ いと理りなる子なり そハ 奴ハ 齢
五十ぢ経ぬれど 子の一人だに 有らねば
嘆かしくて 神に祈りまつりしに 妹が
或る夜の夢に 大野原を歩きしに 其の野の
原に 厳めしき男の 焚木を多なし 火焚き
上げ 座なす 其処所を妹通ウを見て いと
怒れる状に その火を握みて 投げ棄てたま
ウに その火 妹が咽喉を通りて 口焼けた
り と 見て 夢寤めぬ こゆ妊みて 産む
か月経れど 生れず また三月経て 生れた
る子ハ 形 鳥の如なす 怪しければ 産衣
に包みて 外山に棄てつ 然なれど 見まく
欲りて 十か日余り経て その所に往きてみ
るに その子を 猿が 乳を飲ましめて 育
み また 雄猿ハ 蓬草を囓みて その汁を
飲まさしめて 撫で斎く 故 その子を 吾
に与エよ とウに 猿 首を垂れて その子
を抱きて 家なる妹に渡して その猿 二匹
ともに 火丹鶴となりて 空翔りて去にき
故 いと奇しき子なり とウて これの子の
名を 奇乙女と申す と まをす
-------------
25,31
-------------
故 ここに 其の奇乙女に 奇火鶴姫の
命 といウ名を賜イて 御妾に召さして 大
土 小土に 取りなして 神さエに 霊熟き
斎熟きますからに 大分の黒の小浜に 産
室を御建てて 御輿入りに 御生れたまエる
御子の御名ハ 御母の 生エ立ちの 神宣の
御言を 負わせまつりて 火之須勢理奇猿姫
の命 とまをす こハ 天津日嗣の御子に坐
したまエば 大御名を 日高日子波限建鵜葺
草葺不合 十四代姫の命 とまをす これの
御子 生まれながらに いと 男にも勝りて
御躯太く 逞しくましまして 手力 益良
男に勝らしたまイき 時に 御齢 十二と申
ししに 野山に遊びたまイて 大岩を積みて
御手慰みなしたまイき 故 その積みたま
エる岩 今に宮崎の国の 山の上に有り 里
人 それの岩を 姫屋の岩と言
-------------
25,32
-------------
また その御母も いと 力強く 猛くま
したまイき ここに その御母 故里に 年
帰りなしたまイける時に それの村の現人
梅田の鱶麿が子 鱶麿太郎 年ハ十三 これ
の子 田草刈りに その谷間に入りて 草刈
りなす折しも 大なる蛟 出来て その麿太
郎が背腰を くわゑて走す そを 御母の命
聞かして 御佩かしの剣を 掻ゐ込まして
速く速くに 走し往きて その蛟に告りた
まわく 汝ハ 良き喰イ物を得つれば 吾に
分け与エよ とウて 蛟が頸に 高股を取ら
せ 掻ゐ込みの剣を抜かし 頭ゆ 体割りに
割り下げたまエば 蛟 くたわる 故 其
の子を 左手の小脇に ひむ抱かエて 生か
し返したまイき
上津文 二十五の完エ
-------------
26,1
-------------
上津文 二十六の綴り
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 十四
代姫の命 またの御名ハ 火之須勢理奇猿姫
の命 天の御譲りに 三種の神宝を抱かせた
まイて 天の下を知ろしめしたまイき 故
臣の上たち 御稜威を拝みて 神議りなした
まイき 太玉明金の命 忌部二津根の命 中
臣烏鳴の命 表春登美夜彦の命 思金釣瓶の
命 足禰風沢之男の命 下春杵島の命 大屋
鴨別の命 明玉守主の命 事勝湯漉男の命た
ち 共に 神訓らしの訓り言以て 十二代の
天津御子の命の御子 帯玉の命 妹 玉賀姫
の命の御子 明立天之逆鉾の命を 申して
弥嚮男となしたまイき この時に 逆鉾の命
の物部の上 大年斎主の命 妹 大木姫の命
大土島田の命 妹 猿姫の命 飽咋斎指之
男の命 妹 棹姫の命 村雲千代見彦の命
妹 峡村姫の命 活津槌柄男の命 妹 久姫
の命 これの夫婦の上たち 抱きまつりて
大宮入りたまイて 千萬の禮事 然々に 神
楽し納めまつりき
-------------
26,2
-------------
ここに 天津御子姫の命 御孕みたまイて
産みたまエる御子の御名ハ 豊貝姫の命
次に 豊道姫の命 次に 活年生井彦の命
次に 年玉之男の命 次に 御孕みませるゆ
大土 小土に取りなしたまイて 神さエに
霊熟き 斎熟きます 故 臼杵の大の浜辺
に 産宮を御建てて 御輿入りに 産みたま
ゑる御子の御名ハ 臼杵根彦の命 こハ 天
津日嗣の御子に坐しませば 大御名を 日高
日子波限建鵜葺草葺不合 十五代彦の命とま
をす 次に 照井姫の命 次に 赤玉彦の命
合所に七柱在す 彦御子 四柱 姫御子
三柱 これの御子たちハ 皆 手力強くまし
ます中に 赤玉彦の命ハ 別きて 太力の上
にます
-------------
26,3
-------------
ここに 狭依科の国建の使主人参イ来て申
す 国の小国 年の毎に 現人 三人 四人
山に入れば失せぬ 去年ゆ 人 多に失せ
て 多く女なり 男ハ稀なり と まをす
ここに 天津御子姫の命 高津上たちに 議
りたまイて告りたまわく 狭依科の禍物を逐
イて 国平けなさめ その禍物 女を取れる
由 聞こエぬ 故 吾と母と二人往きて逐わ
に と 告りたまいき 故 高津上たちくぶ
らし 宜べじとウて 更に 臣たちの夫人の
手力女を集イて 往かしたまエ と申す 故
表春登美夜彦の命の夫人 登美夜姫の命ハ
男在しの十斗の手力なる姫上なり 太玉明
金の命の夫人 八雲姫の命 然々の姫上なり
直毘神秋の命の夫人 瓠姫の命 然々 御
鉾曽我部の命の夫人 玉置之入姫の命 然々
塩土宮根の命の夫人 夷姫の命 然々 活
玉矢直彦の命の夫人 矢直姫の命 然々 笹
津剣根の命の夫人 常山姫の命 然々 沫那
芸桜刀自の命の夫人 桜姫の命 然々 これ
の八柱の姫上の 常世の益良男に優れます上
を 逐イ手の主手の上となし また 弥嚮男
明立天之逆鉾の命 また 臣の上たち 広
鉾菅竹の命 枳値可美立の命 白羽萬手の命
羽槌石津の命 御雷許豆玉の命 磐裂御弓
彦の命 布都朝尻の命 雷沼吼の命 これの
八柱の上たちを 弥嚮男の命の真添エの上と
称ゑて 二十足らゐ上たち 共に 大宮を出
させたまイて 忍びて 狭依科の国の奥津の
三野道の 覇精高が室屋に入らせたまイき
故 覇精高の上 狭依彦の命 狭依姫の命
大御饗に斎きまつりき ここに 天津御子姫
の命 並めに 八柱の姫御子 共に並め及き
女の姿にならせたまイて 御手にハ 草刈
りの利鎌を取らし 御佩かせる剣を 竹小籠
の中に取り収めて 背肩小籠となして騒めき
山野に分け入りたまウに いと 雅びたる
男の来たりて物言 こゆ奥津に 厳草多なす
吾 迎つかにとウ 往く後ゆ従イ往き 見
そなわすに 深谷の彼方に太室あり その室
の内より 人出て招き 呼び入れき 故 そ
の内を見そなわすに 大なる人 真中に座な
し 他の人幾人 その下津辺に並めり ここ
に 其の大なる人 物言 汝 ここに来て
吾を斎け とウ 故 天津御子姫の命 面火
照り 怒らしたまイて 吾ハ天の下を知らす
天津日高の御子なり 吾が知る国の現人に
何とかも 仇なす とウて 大なる禍人が保
エる嵩みに 立たせたまイて 蹴え散らげま
せば 皆 尽々に 逃げ走す 間暫しありて
天降るが如 粘糸 空ゆ 降りて 木草共
に縮巻く 故 天津御子の命 おおむなはか
せゆ 火を燧り出ませハ 原草燃エて 火に
なりき 故 その粘糸 焼かエ失せて 洞峡
の眞洞ゆ 山如す土蜘蛛 参イ出てくぞぐる
故 命 剣を抜かし 段々 斬り離し越し
たまエば これの禍累 牛如す土蜘蛛 多
参イ出てくぞぐる 故 姫御子 夫人たち
戦ゐたまウ時に 弥嚮男の命 八柱の上たち
共に戦イまして 皆に打ち殺し 棄てたま
イて その屍を深谷に 尽々 投げ入れたま
イき 故 その屍 一夜に 蠢きて上がりて
山となる くむ山これなり
-------------
26,4
-------------
ここに 十四代の天津御子姫の命 御齢負
わせたまウからに 大分の御宝山 に 大宮
造りたまイて うつみヤかくりたまイき 故
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合十五
代彦の命 産御名ハ 臼杵根彦の命 妃 玉
依姫の命を召さしたまゐき こハ 十二代の
天津御子の御娘 緒色幸玉姫の命の御子なり
向妻 山津見之女の命 こハ 御鉾曽我立
之男の命の御子なり 側妾 高姫の命ハ 金
山田之部の命の御子なり 鳥声姫の命 こハ
大屋稚武の命の御子なり 長姫の命 こハ奥
疎渡島彦の命の御子なり 小鮫姫の命 こハ
八玉依武の命の御子なり 瑞弟姫の命 こ
ハ大土八重垣の命の御子なり 筆緒姫の命
こハ事勝宮木の命の御子なり 苔姫の命 こ
ハ奥津五百木主の命の御子なり 御那芸産霊
姫の命 こは葉山檜原木の命の御子なり 狭
那手姫の命 こハ 国押松彦の命の御子なり
静狭名依姫の命 厳津姫の命 これの二柱
ハ 笹津剣根の命の御子なり 与保土代姫の
命 八衢田虫の命の御子なり ここに 側妾
姫の命の腹に 御宿らせ生れませる御子の御
名ハ 八十木入野彦の命 次に 大島姫の命
次に 花姫の命 次に 小夜姫の命 次に
棚縣姫の命 次に 十六夜姫の命 こハ
御向妻 山津見之女の命の 御腹に
生れませる御子に坐す 次に 鹿姫の命 然
々に 次に 年姫の命 こハ 側妾の御腹に
生れませる御子にます 次に 帯姫の命 こ
ハ みきの命の産みませる御子なり 次に
彦御子の命 こハ 側妾の御腹に生れませる
御子にます 次に 御妃 緒色幸玉姫の命
御孕みたまイて 大土 小土に取りなし 神
さエに 霊熟き 斎熟きまします 故 宮崎
の国の三宅の小浜に 大宮を御建てて 御輿
屋に召さし 御入りまして 御子産みまさに
と 頻なみまつれど 産れませず 故 産
守の上 天懸戸櫛彦の命 太占に占なさせた
まゑば 天津神 告りたまわく 其所 然に
良はず と 告りたまイき 故 臼杵の大の
浜 また 大分の黒の浜を 占合たまゑば
其の占 良イ叶イき 故 臼杵の大の浜に
産室を御建てて 御輿入りに 御産したまゑ
る御子の御名ハ 産戸眞幸の命と申す こハ
天津日嗣知ろしめします 御子にし坐しま
すゆ 大御名を 日高日子波限建鵜葺草葺不
合 十六代彦の命 次に 春姫の命 こハ
側妾の御腹に生れませる御子なり 次に 夏
姫の命 次に 雲根三枝の命 次に 狭橋道
之辺の命 こハ 側妾の御腹に生れませる御
子なり 次に 秋姫の命 こハ 御妃の産し
たまゑる御子なり 次に 冬姫の命 次に
浦姫の命 こハ 向妻の御腹に 生れませる
御子なり 次に 安達彦の命 安達堅石之男
の命 こハ 側妾の御腹に 生れませる御子
なり
-------------
26,5
-------------
ここに 十五代の天津御子の命の 天の下
知ろしめす八年とウ 秋のはやれ月に 狭手
依の国に 三韓国の禍人 船に乗りて 現人
家を侵す 故 狭手依建 香山太刀雄熊の命
現人と共に 打ち逐イましき また 明る
年の秋 大船三隻に 戦の将三人 乗り渡り
来て 国内を侵す 故 建 また 現人を率
き 打ち放つ また それの明る年の 夏の
みなつの月に 大船八十隻余り 多なす禍ら
ゐ人 来 萬帆上げ来て 狭手依島を囲む
故 建 香山太刀雄熊の命 使主人たしの国
主 秋田麿を 頓船に乗らせ走して 大宮に
然々訴ウ
-------------
26,6
-------------
斯在れとてしかば 十五代の天津御子の命
高津上 臣の上たち 集エます 中臣葦別
の命 斎部大殿守の命 側禰手量の命 表春
建鎌之男の命 下春笠取の命 児屋藤村別の
命 太玉物取の命 太玉竹祖の命 思金生田
木の命 思金百合手彦の命 日別八鎌の命
天懸豊照彦の命 御鉾若組の命たちに 然々
に告らしたまイて 軍出したまわに とウて
稲飯の命を 将軍と称エ こハ 十二代の
天津御子の御孫なり 事代穂俵の命 鳴海楯
縫の命を 軍師と称エ 久久智高鞆の命 雷
拆井の命 磐拆千鷲の命 活津靱織之男の命
穂日刷苫の命 剣大原の命 国押合綯の命
磐坂平坂彦の命 衝鉾内禰の命 大土組垣
の命 大土小間谷の命 木俣速瀬の命 これ
の上たちを 戦勤しの上と称エて 白日 速
日の現人を率かせて 軍船を多なしらに乗ら
して 其の船毎に 布幕を張り それの標に
幡 伊吹を立て並め 法螺吹き 銅鑼打ち
鼓 金鼓を鳴らし 高音を上げて 千萬人
に 戦衣を鎧わし 金丸の笠を兜なさして
猛立ちて 眞帆上げに 狭手依島門に泊たし
き
-------------
26,7
-------------
先に 天津上たちの戦の習エる 神訓りの
術伝ての論ゑに 外津世の禍らゐの 合わし
戦ゐなさに状ハ 譲れよ 仰げよ 褒めよ
捕らエよ 與エよ 押せよ 殺せよ 活かせ
よ 皆 鼓鳴らしに 此宣り聞け 鼓打たハ
進め 金鼓ハ 退け 幡ハ 真標とせよ
八幡ハ 敵の勤し劣るの真標なす 幕ハ 矢
除けに張れ 楯ハ 矢受けに立て 軍に進む
人ハ懲ろせ 懈む人ハ助け 禍人の弛りを見
て為せ 御国人一人に 禍人三人に当たれ
戦士戦う 暫して憩エ 此が時 鼓て 新人
を替エよ こハ 軍師勤励げ 御国人一人も
殺さずなせ 危きハ逃げよ 堅きハ進め 禍
人逃げば 勿 追イそ 来ば撃て 御酒と食
とハ 間を見て そを間与れ 中ら時 戦ゐ
せば 中ら時 憩エ また【真風に弓放ち
向風に石放て】と 告り訓りの如なしてよ
これの戦ハ 船漕きならめ 故 こを以て修
せよ 事ハ静かに 業ハ激しに と 告りた
まイき
-------------
26,8
-------------
ここに 外津世の三韓の国の 八十船を並
めて 日に異に 狭手依を侵す 故 御軍船
泊たす と 聞きて 船の尽々の禍ら出来て
御軍 頓頻き並みに戦ウ 禍らゐ人 幾そ
許 討たれ死にき こを以て 皆 己が 乗
り越す船に 逃げ入りき ここに 大君 稲
飯の命ハ 大分の速吸門の現人 江子のさま
四郎 これが子孫 四郎太郎 四郎二郎 四
郎三郎 四郎四郎 これの五人を召さして
今ぞ 良き時にあれ 故 彼の大船にこそ
それの将ハあるらめ これの船を仕まつれ
と言に これの五人の親兄弟 赤裸になりて
得物を持ち これの御船の艫越しゆ 大海
中に 逆さま落ち入りき 人毎に 奴を救け
にと騒ぐ 故 こハ 然に非ずとウに 止み
ぬ 故 暫しありて 三韓の国の将が乗れる
船の禍ら人 楽なして 皆 脇船に 乗り
移りなすとし その船の真底ゆ 潮込み入り
て 水浸しなし 残る禍らゐ 水に溺れて
皆 死にき こハ 速吸の現人が 水潜術な
して 彼が船底を 断ち貫きたればなり こ
を見て 三韓の船々 恐れて 帆上げて 逃
げ走す 故 御軍 追イ討ちなさにと勤労ぐ
-------------
26,9
-------------
ここに 軍師告りたまイつらく 今夜の東
雲に 必ずしもに 東風吹かに 故 其より
船出なさば良けに とウて それの東雲ゆ
帆上げなすに 東風 真帆らにい吹きて
それの夜の小夜時に 三韓国の加那阿禮門に
泊たしたまイき 故 陸に上りまして 幾
つの陣邑の屋を建てて 凝りなして 高音
低音を放ち 銅鑼打ち 法螺吹き 幡立て
寄せき
-------------
26,10
-------------
ここに 三韓の国の王主 さゐてにき 皇
ら大御国の戦の上たち 越しますと聞きて
俄に 五萬の禍らゐ人を 五分けになして
山沿イして 弓掛け 射散る矢 雨如す 故
御軍を半らハ 阿利那の大河辺に廻らして
弓掛け出にき 故 禍らゐ人 黙も得あら
で 崩れて走す 故 御軍 しぐら追イ来
故 禍らゐ人 新羅の深山に 逃げ隠りき
故 御軍 阿利那河を前になし 陣屯なす
-------------
26,11
-------------
ここに 加羅支那の国ゆ 三韓を救イなさ
に と 千萬の戦人 参イ来て 新羅に屯る
故 久久智高鞆の命 雷橋掛の命 将軍に
然々申す ここに 上たち 甚 手易すか
らず と言 御軍を八分けになして それの
加羅支那の軍に向かわし また 高麗 百済
の軍に手配りて 明る日に雨頻るに 軍出ま
して 八所 一時に戦ゐなすに 御軍人の死
にたるハ 僅かなるに 禍らゐ人の罷るハ山
如す
-------------
26,12
-------------
故 外津世人恐れて 得 進まず こを以
て 御軍 また 追イ及きて 三韓の国の王
主 さゐてにき 救くウる加羅支那のぐしが
使主人 よなしむき 二人の将を 生け捕り
の縛捕りて 将軍に奉る ここに 高麗の王
主 としうど 百済の王主 まりとゆり 参
イ来て祈みまをす 今ゆ後に 日の御国に暴
かしまつらで 祖国の本津大御国と 斎きま
つりて これ国の将 尽々に 美し御国の牧
山の馬飼 牛飼の首とならに 故 加羅支那
のぐしが使主人 これの王主二人を助けませ
と 申す 故 赦し遣りたまイて平らぐ
戦守の上たち 返り言申したまイき
-------------
26,13
-------------
ここに 高麗の王主 新羅の王主 百済の
王主 加羅支那の使主人 御軍の君に副イま
つり 種々の御幣を 大宮に捧げまつりて申
す 新羅の王主 さゐてにき申す 奴にハ
児一人有れど 娘なれば ゐゐかウなし 故
稲飯の命を 吾が娘 もそしろふに婚せて
三韓の国を知ろしめさしたまエ と 申す
-------------
26,14
-------------
ここに 天津御子の命 八百の上たち 共
に諾なイたまイて ここに 稲飯の命を 王
主が婿となさして それの側禰の上の御名ハ
大雷八分の命 御祝蹌彦の命 日鷲岸結の
命 これの三柱の上 側立てになして 八十
の大伴の長を放ちて 御輿屋に召さして 速
日の山に至りますに その山 呻み鳴る声
雷如す 故 真添ゑの上 大伴の上たて 御
輿を持上げて 進みますに 山揺す凝らして
並め木を倒し 巌を転ばし 大土裂けて
地震なす 後向けば 地震止む 故 御輿を
大宮に還したまイき ここに 天津御子の命
臣の上たち 共に 太占の占事に仕エまつ
りたまウに 国照大神 天津高御座に 御顕
れたまイて 御髪を打ち羽振き 面火照り
い猛びに 猛びて 告りたまイつらく 天津
日の御胤なる稲飯の命を 外津世の夷に放ち
て 御胤を下すこと良わず 故 止めぬ と
告りたまイき
-------------
26,15
-------------
ここにまた 天津御子の命 八百萬の上た
ち 集イたまイて 鈴木岩室の命を 稲飯の
命の御子代と称エて 然々に 送りたまイき
ここに 三韓の新羅に 天津日之御子の命
の臣の上 王主の真婿とならせたまイぬ と
聞きて 高麗 百済の王主 訪まイ来て
拝みまつりて申す 吾ハ 日之御孫御子の命
の 天の下知ろしめさす 豊道之原の 霊熟
きの千萬熟きの 十足る瑞穂の大御国 牧山
の牛飼人となり 故 これの王主ヤ 日之御
子の命 真秀の臣の命の これの夷の賤しき
国の王主 御身貶しまつることの いと 尊
し 故 今ゆ後 君の臣の上となりて 永く
仕エまつらにとウて 御幣多なして 親族成
りまをすと申す
-------------
26,16
-------------
ここに 天津日之御子の命 国廻ましたま
イて 狭手依の国に往ませる時に 国の覇精
高の上 狭手依彦の命 狭手依姫の命 御饗
代に奉らにとウ釣船を 多なして 船遊びま
つりて 斎きまつる ここに 大土佐多守の
命ハ 天津日之御子の命を 御船に乗らせま
つりて その海魚を釣れる 見そなわしたま
ウに いと面白く 海魚 餌を喰らイて あ
がらぬれば 天津日之御子の命 御歌 歌わ
したまイき
これの海 釣りする海人が
先駆けに 勝を取るらし
多なす餌 海魚ハ
と 歌イたまイて 故 これの海魚を 鰹
海魚 と言 佐多守の命 歌イたまわく
沖津海原 釣りする人が 多なすか
餌食ウ海魚が 多なすか
その魚釣人 さヤ
また 国建が室屋に至り 告りたまわく
これの国ハ いと明かくして かかまく国か
も と 告りたまイき 故 此所を 鏡の小
国 といウ
-------------
26,17
-------------
また 愛媛の国山に往ましき 時ハ はや
れ月の月円か日の宵に 四方を見退げたまイ
て 今夜ハ 夜見照大神の命の御影 いと麗
しく 面著くで 弥妙に 山の朗らに 月の
隈なすかも と 告りたまイき 故 これの
山を久万山と言 また 此処ハ 吾が隠ら場
処なり 故 これの所に 宮建てて 屋隠り
所なさね と 告りたまイき
-------------
26,18
-------------
ここに 天津日之御子の命 御齢二百二十
ち三にならせたまイ 大御代 知ろしめす隙
ハ 百三十ぢ余り歳 知らしたまイて 産戸
眞幸の命に 三種の神宝を帯わせまつりて
天の下を知ろしめさしめたまイ 御身ハ 愛
媛の久万山の宮に 宮隠りたまイて後に 神
避りたまイき 大御骸ハ 久万山の頂に葬り
まつる 故 これの山ハ 十五代の天津日之
御子の命の 大御魂の隠ら場にぞありける
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 十六
代彦の命 天の下を知ろしまさしたまイて
十三代の命の御子 幸玉彦の命 幸玉姫の命
の御子 玉桜姫の命を 妃に召さしたまゐ
活津揺織彦の命 妹 佐竹姫の命の御子 活
津姫の命を 向妻に召さしたまゐ 側禰女
十二人を召上げまし これの大伴の姫と八十
人の局女を 召上げたまイき ここに 児屋
系子の上 太玉系子の上 思金系子の上 こ
れの上たちを 高津上と称エ 彦御子の系子
の上 大孫子の系子の上 産巣日子の系子の
上 これの上たちを 明津上と称エ とかこ
の系子の上を清津上と称エ とまこの系子の
上を並上と称エ 建子の系子の上を厳上と称
エ 各も各もの夫人だちを 姫訓りの上と称
エて 大宮の家族人に 日の毎 仕奉りの任
ぎ守らせ と言 故 科長長原の命 天懸真
彦の命 金山畝傍の命 弥都波国覓の命 波
邇夜須大兄彦の命 大屋八捩の命 積羽幹足
男の命 直毘之道宇賀之男の命 御歳小野日
の命 大土戸主の命 これの上たち 此を見
定めたまイ 天津日之御子の命 諾なゐまし
たまイき ここに 中臣吹男の命 表春櫛高
男の命 忌部曽根時彦の命 思金中村の命
思金田無の命 太玉汐入の命 下春秩父の命
忌部田安刀自の命 太玉全の命 これの上
たちを 天津日之御子代の上に坐せば 天津
祝詞 国津祝詞言を告らしたまイき ここに
側禰女の御腹に 生れませる御子の御名ハ
顕大津の命 次に 沢姫の命
-------------
26,19
-------------
ここに 御妃 玉桜姫の命 御妊みたまイ
て 大土 小土に 取りなし 神さエに 霊
熟き 斎熟きますからに 大分の黒の小浜に
産室を御建てて 御輿入りに 御産しめた
まウ御子 いと麗しくまして 朝日昇らした
まエる如に 在したまゑば 御名に負わせま
つりて 上照明姫の命と申す 大御名ハ 日
高日子波限建鵜葺草葺不合十七代姫の命と申
す
-------------
26,20
-------------
続きて また 御妃の命 御妊みたまイて
大土 小土に 取りなし 神さエに 霊熟
ぎ 斎熟きますからに 臼杵の大の浜に 産
室を御建て 御輿入りに 産みたまエる御子
の御名ハ 依網里姫の命と申す 大御名ハ
日高日子波限建鵜葺草葺不合 十八代姫の命
と申す
-------------
26,21
-------------
ここにまた 御妃の命 御妊みたまイて
大土 小土に取りなして 神さエに 霊熟き
斎熟きますからに 大分の黒の小浜に 産
室を御建てて 御輿入りに 産ませる御子
生れましながら いと小さく坐します 故
皆 少名牟遅の神こそ 生れましに 斯く在
らめ と 皆申す こゆ 御子の御名を 少
名形男の命 と 申す 大御名ハ 日高日子
波限建鵜葺草葺不合 十九代彦の命 と 申
す
-------------
26,22
-------------
次に 側禰女十二人の御腹に 生れませる
御子の御名ハ 溜姫の命 こハ 側禰女 若
姫の命の御腹に 生れませる御子なり 立傘
之男の命 芥子濃姫の命 こハ 側禰女 静
姫の命の御腹なり 揺玉姫の命 こハ 側禰
女 国開姫の命の御腹なり 綺羅樫姫の命
厳矢之男の命 こハ 側禰女 園部の君の御
腹なり 猿目彦の命 玉垂彦の命 生駒岳の
命 八箇御手男の命 こハ 側禰女 瑞柏井
姫の命の御腹なり 御妃の命の産みたまゑる
御子 御向女の命の御腹に生れませる御子
側禰女の御腹に 生れませる御子 局女六人
の御腹に 生れませる御子 合わして 五十
ぢ二柱 生れましき
-------------
26,23
-------------
ここに 十六代の天津日之御子の命 二十
ち八柱の彦御子たちを 集エたまイて 汝た
ちハ 薬掘りとなりて 現しき青人草の為に
なせ また 二十ち一柱の姫御子たち 繭蚕
道を学びて 現しき青人草の為に 蚕布織り
となりて 翁自の衣となして助けよ 故 各
も各も 皆 国廻なして 真心 労ゑ と
告りたまゐき 故 御子たち 共に 天津祭
り 国津祭りの 太占の占業を祷みまつる
ここに 大穴牟遅の命 少名牟遅の命 高名
牟遅の命の 神訓りの心訓り伝て 然々に
人草の生命脆きハ 神戒めの奇しきなり 神
訓り 忠誠で 困めなす 故 脆くであり
ここに 御衣織若彦の命 御衣織若姫の命
棚機彦の命 棚機姫の命 宇奈岐彦の命 宇
奈岐姫の命 これの上たち 姫御子の命たち
諭し言告りたまイて 桑の御蒔き 苗田の
床なし 桑葉の諸取り 択取り 繭蚕の種蒔
き 繭蚕の梳き取り とだうら糸巻ぎ うな
ぎ 績む取り 綿取り 糸綜 機上げ 貫指
し 槽指し 梁立て 梁縫イ 種々に 神訓
りの心伝てましき ここに 薬掘りなさしめ
たまウ彦御子 機織りなさしめたまウ姫御子
国廻なさしたまイて 国の覇精高の上と
ならせたまウ上の御名ハ 穴門の国に薬掘り
ますを 穴門日の命 妹 穴門姫の命 と
申す また 機織ます上を 穴門日機姫の
命 夫ハ 穴門機之男の命 とまをす 次に
出雲の国に薬掘ります上を 出雲日の命
妹 出雲之女の命 また 機織ます上を 出
雲日機姫の命 夫ハ 出雲機之男の命 と
申す 次に 吉備津の国に薬掘ります上を
吉備津日の命 妹 吉備津之女の命 また
機織ます上を 吉備津日機姫の命 夫ハ 吉
備津機之男の命 次に 丹波の国に薬掘りま
す上を 丹波日の命 妹 丹波之女の命 ま
た 機織ます上を 丹波日機姫の命 夫ハ
丹波機之男の命 次に 愛媛の国に薬掘りま
す上を 愛媛日の命 妹 愛媛之女の命 ま
た機織ます上を 愛媛日機姫の命 夫ハ 愛
媛機之男の命 次に 飯依国に薬掘ります上
を 飯依日の命 妹 飯依之女の命 また
機織ます上を 飯依日機姫の命 夫ハ 飯依
機之男の命 次に 建依国に薬掘ります上を
建依日の命 妹 建依之女の命 また 機
織ます上を 建依日機姫の命 夫ハ 建依機
之男の命 次に 大宜都に薬掘ります上を大
宜都日の命 妹 大宜都之女の命 また機織
ます上を 大宜都日機姫の命 夫ハ 大宜都
機之男の命 次に 草木根国に薬掘ります上
を 草木根日の命 妹 草木根之女の命 ま
た 機織ます上を 草木根日機姫の命 夫ハ
草木根機之男の命 次に 秋津根国に薬掘
ります上を 秋津根日の命 妹 秋津根之女
の命 また 機織ます上を 秋津根日機姫の
命 夫ハ 秋津根機之男の命 次に 淡海国
に薬掘ります上を 淡海日の命 妹 淡海之
女の命 また 機織ます上を 淡海日機姫の
命 夫ハ 淡海機之男の命 次に 伊勢国に
薬掘ります上を 伊勢日の命 妹 伊勢之女
の命 また 機織ます上を 伊勢日機姫の命
夫ハ 伊勢機之男の命 次に 狭依科国に
薬掘ります上を 狭依科日の命 妹 狭依科
之女の命 また 機織ます上を 狭依科日機
姫の命 夫ハ 狭依科機之男の命 次に 遠
津海国に薬掘ります上を 遠津海日の命 妹
遠津海之女の命 また 機織ます上を 遠
津海日機姫の命 夫ハ 遠津海機之男の命
次に 无邪津海国に薬掘ります上を 无邪津
海日の命 妹 无邪津海之女の命 また 機
織ます上を 无邪津海日機姫の命 夫ハ 无
邪津海機之男の命 次に 野陸国に薬掘りま
す上を 野陸日の命 妹 野陸之女の命 ま
た 機織ます上を 野陸日機姫の命 夫ハ
野陸機之男の命 次に 常陸国に薬掘ります
上を 常陸日の命 妹 常陸之女の命 また
機織ます上 常陸日機姫の命 夫ハ 常
陸機之男の命 次に 陸奥国に薬掘ります上
を 陸奥日の命 妹 陸奥之女の命 また
機織ます上を 陸奥日機姫の命 夫ハ 陸奥
機之男の命 次に 越根国に薬掘ります上を
越根日の命 妹 越根之女の命 また 機
織ます上を 越根日機姫の命 夫ハ 越根機
之男の命 次に 白日 豊日 速日 奇日
建日 此ハ 天津日之御子の命の臣の上たち
の 代わる代わるに勤労きます国なり 故
これの上たちハ 国覇精高の上なり ここに
天津日之御子の命 御齢負イたまイて 御
孫も 殆ど坐しまさざれば 大分の御宝山に
御殿を太敷き立て 宮隠りたまイき
上津文 二十六の完エ
-------------
27,1
-------------
上津文 二十七の綴り
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 十
七代姫の命 御産御名ハ 上照明姫の命 天
の下を知ろしめしたまイて 日に異に 天の
益人を御楽しみたまイて 天津神事の自から
なる 天津訓りの神訓り以て 天の下に神知
るしましたまイき ここに 臣の上迎エにま
す日高十四代の天津御子の命の御名ハ 斎杭
の命の御子 天津馬鞍之男の命 久に訪イ無
きゆ 十七代の天津姫御子の命 天津馬鞍の
命の室家に 出往きたまイて 訪イたまウに
馬鞍の命 まをしけらく 吾こそ 速みに
訪イ侍らずで 天津御子の命の訪イ いと畏
し 故 吾が萎る状を申さに と言
-------------
27,2
-------------
故 御子の上たち 御名ハ 矢之上彦の命
伊佐伎彦の命 椎依之男の命 祥鳥之男の
命 小町姫の命 玉姫の命 松枝姫の命 吉
宣姫の命 これの彦御子 四人 姫御子 四
人 合わして八人有りて いと楽しみべかる
に 八人共に 皆 躯弱くてくるに病もイす
故 いと萎れなす と まをす
-------------
27,3
-------------
ここに 天津御子の命 告りたまわく 幼
び如何そもとウ【あれむそしいまはエにむそ
しとウ】故 天津御子の命 息嘯の風賜イて
告りたまわく 吾ハ 進田二段を作きて
熟き招ばウ 故 御軆清しくで 病もず 故
御子たち 斯く在して 彦御子ハ 斎健の
神訓りを学びませ 姫御子ハ 麻取り 綿取
り 繭取り 機織道を学びませ また 彦御
子ハ 月の毎 三里を歩きませ 姫御子ハ
二里を歩きませ 今ぬ 神訓りまささりしか
らに 天津罪なウ と 告らしたまイき こ
こに 天津馬鞍之男の命 天津罪を和したま
わに と言て 八衢萬守の命 妹 棹矢姫の
命 然々を問わしたまエば 御答ゑ申しけら
く 斯く在さば 病もイあらませず 長生ま
さに
-------------
27,4
-------------
また 田乃土のもぞハ 一踏みハ 足の左
右の足以 踏みたる広さなり 故 左の足以
て踏めるハ三尺 右の足以て踏めるも三尺な
り 横六尺 縦も六尺 故 此を申す また
此を重ねて 其の名なす 一踏 縦六尺
横六尺 一植エ 一踏を十を言名 横六尺
縦六丈 一段 一植エを十をいウ名 横六丈
縦六丈 一町 一段を十をいウ名 横六丈
縦六十丈 一平 一町 十をいウ名 横六
十丈 縦六十丈 また 道訓り 一踏 こハ
六尺 一巷 こハ 六十丈 一町 こハ
六百丈 一村 こハ 六千丈 一里 こハ
六萬丈 故 御告り言に従わしたまエば 皆
活き立ちたまイて
-------------
27,5
-------------
ここに 神魯岐の命 神魯美の命 天降り
なしたまイて 十七代の天津姫御子の命に告
りたまイつらく 汝命ハ これの豊道之原の
中津国ハ 嗣ぎの天津御子の命に 知らせた
まイて 汝命ハ天昇して 天照大御神の命の
道の大伴の上とならせたまイて 春の整イ
秋の整イ 夏の足らし 冬の根配りを知ら
せて 萬国にちばエて 斎きまつらしめたま
ゑ と 告りたまイき 故 天照大御神の命
に 先辺に御殿ゆ出りて大伴ます 故 十七
代姫 世開き星の神と申す
-------------
27,6
-------------
ここに 十七代の天津姫御子の命ハ 三種
の神宝を 十八代の天津姫御子の命に 授け
たまイて かなめ月の月籠もりの日に 禮衣
に御身を纏わしたまイて 衽の上に襲を長知
り 袖長垂りの清澄み緒 火丹色の御袴 肌
巻きの緒垂らし 黄金に作れる 眞花の勾玉
結エる插頭しを 冠らせて 左の御手にハ
御身守りの鏡を抱かせ 右の御手にハ 檜以
て結エる 清み扇を取らして 装イたまエば
十八代の天津姫御子の命 十九代の天津彦
御子の命 大贄を奉る 故 膳 六つ置きに
種々物を取り足らわして 真海魚の腹合ゐ
を 彌足りなし 御酒辺の御菜ど奉る 故
臣の上 中臣富道辺の命 表春鈴木彦の命
斎部弓削伏見の命 太玉弥宇賀の命 思金金
木の命 側禰足振足駄の命を始めて 八百萬
の上たち 集びたまイて 庭火を火迫らして
神座をなし 歌イ 歓ぎまつりき 時に
暁の東雲時なりけらしに 火丹鶴舞イ来て申
す 奴を御輿屋に召さしたまエ と言 故
十七代天津姫御子の命 これの火丹鶴 召さ
したまエば 迎つきまつる 瑞雲垂れ済りて
大御身を覆みまつりて 風凪ぎに 日高日
子波限建鵜葺草葺不合 十七代姫の命 天昇
しなしたまイき 故 高天之原に在座たまエ
る御名ハ 世開き星の神と申す
-------------
27,7
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 十
八代姫の命 産御名ハ 依網里姫の命 天津
高御座に 神宝を抱かせたまイて 天の下を
知ろしめしたまイて 更に臣の上たちを唱エ
たまイき 太玉弓削伏見の命 斎部門原の命
斎部波除の命 思金金木の命 側禰足振足
駄の命 中臣富辺の命 表春幡鈴木男の命
表春日田部の命 下春藤鷹の命 天津見生玉
の命 科長若底鳥の命 科長棹楫若彦の命
科長若木玉の命 金山中伴の命 金山久々田
根の命 天懸火別の命 天懸佐韋群の命 弥
都波若井の命 弥都波玉幸の命 御鉾弄及の
命 波邇夜須若彦の命 波邇夜須滝凝の命
大屋厳琴の命 積羽五十峡の命 渚宅巣兄自
の命 水分田田主の命 久比奢若兄彦の命
鳴海文垣の命 日別建磐の命 国懸綾取の命
八玉明踏の命 これの上たち また よつ
べの上たち 共に 天の下を知ろしめしたま
イき
-------------
27,8
-------------
ここに 高津上 明津上たちの進びに 十
五代の御子の命の御子 天津佐波知の命を
弥嚮男に召さしたまイて 御齢経たまイませ
ど 御子生れまさず
-------------
27,9
-------------
ここに これの天津佐波知の命 太玉弓削
伏見の命と共に 无邪津海のかけきの山の辺
を通わせたまウ時に いと 嫋かなる女姉妹
泣きつつ 山の籠りに伏して 北頭瘁立ち
なしおりき 故 二柱の上 その女に告りた
まわく 汝ハ 何処の者ぞ また 泣く故ハ
如何そもヤ と言 御答エまをしけらく 奴
ハ これの奥辺の者なり 吾が住処に 日毎
に腰細の利蜂参イ来て 吾が家を侵して 一
昨日に 奴が母を喰イ 殺されて 今日ハ
吾が父を喰わにと 黒雲なす 故 姉妹 こ
こに逃げ来つ 故 救けたまエ と 泣き詫
つ 二柱の上 哀れと思ほしまして その所
問わしたまウに 彼の山の頂のふくらなり
と言 出見て 助け得させに と言て 二
人の女に迎つかして 出往きたまウに 道の
辺の石群に 一人の翁 御立たしたまイて
二柱の上に告りたまわく 汝 天津日高の御
子 並めに高津臣の上 何処に在します と
言 然々に申す 故 翁告りたまわく こハ
吾が御心なり 必ずしも 御手を 勿 下
ろしたまイそ 吾ハ これ 国の覇精高の上
名ハ 无邪津海彦の命 とハ 吾也 今
此に迎つく女ハ蛟なり 奴が親 二匹 子二
匹ありて これの山狩る現人を 取り喰ウ
故 赦しべくあらず こゆ 吾が御心以て
羽虫を放ちて 奴を殺す 故 親ハ二匹殺し
棄てつ また 子の二匹ハ 今 命たちに迎
つきまつる 其の女にこそあれ これの者ハ
五か日経で 殺し棄てに と 告りたまイ
き ここに女 泣きつつ申す 奴が生命を助
けたまイさもらハば 奴 それの報イに こ
れの山内に 悪しき物を攘ゐて 人草に 奴
が身体を目見エずで 禍事なさずで 穴隠り
なさに 斯く誓ひ申して後に もしもに こ
れの山内に禍事あらば そハ 奴が罪也 そ
れのときハ 奴を殺したまゑ と申す ここ
に覇精高の上 諾なウ 故 二柱の上 その
頂に到り 見そなわしたまウに 眞に 覇精
高の上の告りたまゑる如に 大きな蛟 二匹
穴の外の辺にくたばりき 故 その羽群蜂
蛟が血を吸ゐたる血を 吐きたれ所を 蜂
血吐の郡と言 ここに 大御子の命を山の上
に斎イまつらしし所を 堤の御岳といイ そ
の御鏡を斎イましし所を 鏡の御岳といウ
-------------
27,10
-------------
ここに 十八代天津姫御子の命 八十年余
り 天の下を知ろしめしたまイて 神避りた
まイき 故 御骸ハ 大分の御宝の山の上に
斎きまつる ここに 日高日子波限建鵜葺
草葺不合 十九代彦の命 産御名ハ 少名形
男彦の命 三種の神宝を被りたまイて 天の
下を知ろしめしたまイき
-------------
27,11
-------------
先に 十五代天津御子の命の御子 天津葦
立彦の命の御孫 天津秋田の命 妹 秋田姫
の命 御齢長けたまイぬれど 御子在さず
或る夜に 御産霊の命 枕の上に御立たした
まイて 告りたまイつらく 吾が御心以て
汝に姫御子を産ましめに 故 その姫御子を
天津日嗣の御子に 婚せまつれ と 告ら
しませるに 夢覚めにき そゆ妊みたまイて
産みたまゑる御子ハ 姫御子にありき
-------------
27,12
-------------
これの御子 御齢十八とウに 其の身の丈
七尺余り 身躯太く 御面らぼたい 御頬
脹らに 御鼻低く 放髪並めらに荒及き こ
こに 中臣夕里彦の命 天津御子の命に 妃
を迎エまつらに とウて 天津秋田の命に告
りて 汝御子の姫御子を 妃に奉らにヤ と
言 答エけらく 先の夢の御告げの随に 然
々を語りて 御妃に奉らまく欲りすれど こ
れの姫 常女にあらで 背太く 面醜し 故
天津御子の命の その状を見そなわしまさ
ば めでずかしまさめ と言 故 中臣夕里
彦の命 天津御子の命 然々を 詳らし申し
けらく 命 その姫を見そなイたまイて 此
に此く 定めたまエ と申す 天津御子の命
告りたまイつらく 高御産霊 神産霊の命
の 天津宣りの太宣り言を 吾が御心以てな
さば罪也 故 それの姫を迎エてよ と 告
りたまイき ここに 中臣夕里彦の命 斎部
姉男の命 思金水隈の命 八百の臣たち 敬
事に仕エまつりて 科長長原の命 御齢 百
六十四 妹 長姫の命 御齢 百五十八 埴
安大兄彦の命 御齢 二百一 妹 湯取之女
の命 御齢 百八十八 大土戸主の命 御齢
百四十三 妹 戸鳴姫の命 御齢 百四十
三 これの御齢負わせる 御妻夫の上たちを
御妃迎つきの上と称エ 直に 覇精高の上
豊日別の命 豊日姫の命 奇日別の命 奇
日姫の命 建日別の命 建日姫の命 速日別
の命 速日姫の命 白日別の命 白日姫の命
これの覇精高の上に 女子迎の千足る結び
の上と称エて 敬事 然々をなします ここ
に 天津秋田の命 妹 秋田姫の命 その姫
御子を装わしたまイて 告りたまわく いと
太く逞しき少女にこそあれ 斯く大国主の命
ぞ 斯く在しつらめ と言て 姫の御名に負
わして 大穴形男姫の命 と 御名付けたま
イき 故 十九代天津御子の命 御妃 大穴
形男姫の命 召さしたまイて いと睦まじか
ります 天津御子の命ハ 御身の丈低く 小
さく 二尺に足らず在す 御妃の命ハ 御身
の丈高く 太く 七尺余りに在すからに 天
津御子を斎きまつるに 朝な夕なにハ 天津
御子の命を 御膝に掻き抱かせたまイ また
山遊び 海遊びなしたまウ時ハ 左の御手
に 胸抱きまし 出往きたまイき 故 時の
人歌イけらく
男ハ小さ 女ハ太らかに
子守り人の 堅葉 常葉木
かこ如 常滑の
玉鉾の道あるみよし
輝く 堅葉常葉木
男ハ小なす 女ハ大らなし
みむしなり 十足らし代
十足らし代 今も千代も
-------------
27,13
-------------
ここに 御妃の命 御妊みたまイて 産み
たまゑる御子の御名ハ 秋津日の命 次に
滝玉之男の命 次に御孕みたまイて 大土
小土に取りなし 神さえに 千熟き 斎熟き
ましますからに 大分の黒の小浜に 産室を
御建てて 御輿入りに 産みまつる御子の御
名ハ 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二十代
彦の命 産御名を 天津御宣り 御父の命
御母の命 これの三つ訓りを 御名に負わし
まつりて 天津明少名大穴彦の命 と 申す
次に 天合姫の命 次に 彦足の命 次に
阿蘇姫の命
-------------
27,14
-------------
ここに 天津御子の命 御妃の命と共に
国の国々 島の島々に 国廻まさに とウて
更に 臣の上たちに 事依せたまゐて 国
廻なしたまイき ここに 国々の現人 然々
に 宮船に乗らしたまイて 日下根に泊たし
たまゐて 日下根建 高橋外禰の命 斎きま
つる 故 国内の現人 皆 参イ来て 鳴ら
し物を鳴らし 歌イ 舞ウて 御饗エまつる
また 秋津根の国に到りまして 国建 山
背金安の命の家に 在座ましき 現人然々
淡海根の国建 手置神原之男の命 家に在座
まして 然々 伊勢津海の国建 日走佐韋曽
禰の命 家に然々に 狭依科の国建 水上日
之隈の命の家に 在座ましたまウ時に 三か
日在せども 現人 一人だに 神楽まをさざ
りしかば 天津御子の命 妃の命と共に 甚
く慨みたまイて 建の奉る御贄も 進びたま
わずで 疎ぶらしたまウ
-------------
27,15
-------------
ここに 国内の現人 覇精高の上の御言以
て 太く逞まなる男根を作りて 笠となし
また 広く緩くまなる女陰を作りて 笠とな
し そを各も毎に 深くに被ぶりて 鳴らし
を鳴らし 歌イ散らげ 戯れ歓きなす 故
天津御子の命 御妃の命 臣の上たち 大伴
の長たち 共に 大に喜ばしたまイ 御心も
浮かれさせたまイて こにわに 大伴の長に
告らして 綿布以て 眞袋を作らし 高ほり
に 御親らも 御妃の命も 臣の上たちも
長たちも 皆 此を深々と 被りたまイて
共に 手叩き 戯れ 歓きましたまを所を
佐久の郡と言 また その戯れの起こり所を
おこ と言 また その歓ぎなりし所を
ほだちの郡と言
-------------
27,16
-------------
こゆ 无邪津海の建 村雲雲垂の命の家に
入りまして 然々 野陸の波招立橋の命の
家に 然々 常陸の白羽白峰の命の家に 然
々 また 野山を歩きて その大沼に 躬親
らに川楊を差したまイ 御妃の命 これの山
の埴を運び 御水津 畑津を造り固めましし
所を 筑波郡と言 陸奥の国の羽槌佐久間の
命の家に 然々 また 越根の楫立太刀太の
命の家に 然々 ここに 山の井の水を汲み
ます そハ 湯にあれば これの湯に湯浴み
ましし所を 出湯の郡と言 こゆ 丹波の楫
立名作の命の家に 然々 こゆ 出雲の明玉
任馬の命の家に 然々 こゆ 穴門の御鉾太
刀振男の命の家に 然々 こゆ 吉備津根の
広幌楠部の命の家に 然々
-------------
27,17
-------------
こゆ 大宜都に出ませに御船に 召さした
まわにとするに 覇精高の上 参イ来て申す
天津御子の命 これの海原を渡りまさば
祷み申してに と言 そハ これの海底に
悪じなす 人喰ウ大魚ありて 船の通イ路を
こぶる状ハ その船底に跼みて鰭と尾鰭とを
撥ねて 海波巻かせて 船抱きなして乗れる
人を 尽々に喰ウ 故 現人恐れて 此に船
を向けじ 風に流されて 此の海に侍れば
皆 然に遭ゐて 助かる人無し 故 命 こ
の海を放たば 必ず その大海魚出来て 然
なさに 申す ここに 天津御子の命 御妃
の命に告りたまわく 汝と吾と これの海原
に出往きて 人殺る海魚を平らげずば 青人
草の由々しき曲事にあり とウ ここに 御
妃の命 御答ゑ申しけらく 宜べ 急がした
ゑ と言 ここに 臣の上 明玉明立の命
申す 吾も御伴に召さたまゑ と申す 天
津御子の命 告りたまわく 然らず 吾が船
遠みて その船破れむ時に 汝が船を漕け来
ね と 告らしたまイて 小船に召さしたま
ゑハ 御妃の命ハ 水櫂を諸手なさして 波
払イ漕き廻みましき 故 覇精高の上の言し
が如 大きなる人殺り海魚 海底ゆ浮き来て
船底を砕りて 乗らせる船 覆エさに と
する時に 天津御子の命 告りたまわく 汝
ハ畏き海魚なるかも 此ぬ現し人を殺りて
汝が饗す 故 今 汝を殺りて 吾が饗とな
さに と言て 御妃の命と共に 大海魚の背
に跳び乗らしたまイて 天津御子の命の諸御
手を 其の海魚の左 右の眼之子に通して
弥握に握み 引抜きますに これの海魚 弥
狂ゐて 水底に沈み 水上に浮きて荒ぶる
また それの時に 御妃の命ハ 御佩かせる
八尺剣を抜かして 海魚の太鰭腹ゆ 刺し通
し 鍔に抉りに抉らしますに 逆さまに 腹
掻き唸る 故 二柱の上 其の腹に上らして
腹裂き 腸割りますに 海原浮きて 死去
にき 故 明玉明の命 船以 迎イまつり
磯座まつる時に 覇精高の上 喜び参イ来て
申す 懸けまくも天津御子の命 これの人殺
り大海魚を 平らぎたまウからに 今ゆ後
船路明るくあらに と言 故 これの海原を
灘と言 また その所を明石郡と言 また其
の死去ぬる大海魚 流れ漂いて 一つの島と
なる 故 此を しいぬの島となも言
-------------
27,18
-------------
ここに 天津御子の命 御妃の命 臣の上
たち 大伴の長たち 宮船に召さしたまイて
大宜都の国に渡りたまイて 国の建 三降
橋部の命の家に 入らせたまイき 現人 皆
参イ来て 然々に こゆ 建依の活玉輿組
の命の家に 然々 飯依の稚産霊湯沢彦の命
の家に 然々 愛媛の枳値可美苫岡の命の家
に 然々 ここゆ 宮船に召さしたまウ時に
国 島の現人 皆 イき曳き船に幡立て
鼓打ち 歌を歌イて 漕ぎ廻む 故 穴門
豊日ゆ 皆 参イ出て 然々 白日の鰐門に
泊たしたまイて 天熊白津見の命の家に
然々 こゆ 速日の速日小井戸の命の家に
然々に こゆ 建日の山咋加茂曽根の命の家
に 然々に こゆ 高千穂の大宮に 御輿還
りましたまイき
-------------
27,19
-------------
ここに 秋津根の国の葛郡の現人 狭村の
鵜六郎 これが妻 鵜六郎女 木六郎 これ
が妻 木六郎女 これの二夫婦 繭蚕の糸以
て 綺羅蚕布の倭文を織り 火丹色の並地に
眞赫垂りに 千草を織り浮かし 綾垂りを
織りて 天津御子の命に奉る 故 甚く御喜
び 賞めましたまイて これの二人の現人に
誉田鵜六郎 誉田木六郎 といウ御名を下
したまイき
-------------
27,20
-------------
先に 宮還りに 愛媛の国ゆ 穴門に渡り
ます海路の島々に 上り見そなわすに その
土 美くあれば 中臣香久川主の命 表春竹
吹の命 下春藤沢の命 斎部沢木の命 太玉
添神の命 思金気高の命たちに 告りたまイ
つらく これの島ハ 人住むべき土なり 吾
これの島に 人草を育てに と 思ほゆ
故 如何にヤも と告りたまイき ここに
上たち 然あらまほし とウ 故 覇精高の
上 穴門彦の命 愛媛彦の命に 天津御子の
命の 思イ所を告りたまエば 覇精高二柱の
上 然良けに と 申す ここに 息長彦の
命 甲斐辺高久の命 佐須良数玉の命 磐土
春彦の命 頬那芸瑞垣の命 萱野国白の命た
ちに 然々に 守り上と称エまをしき 所々
に 穴門 愛媛の工人を集エて 現人家を造
らしたまイて 現人を渡在さしめにと 国道
問ウに 工人申す 人有れど 水無し 水無
けば 憩わずと言
-------------
27,21
-------------
覇精高の上 告りたまわく 吾 高天之原
の天之眞名井の水を 飲みまをさに とウて
島山のもくらに 井を堀りて その上に
柴 薪を多なし 火を燧りて 高天之原に焚
き散らして 天津祝詞に祷みまをす
【させやすよさちそし
ゐぬまこエほさゐ
みづをきさせやすよ
さちそしかエたらウ
のろにめイぬま
ゆづみほさゐみぶけ
みなでみづおぎさゐ】
これの文言以て 日にハ八か日 夜にハ七
か夜 祷きまつるに その井に 水自づから
に 溢れぬ ここに 上たち 穴門 愛媛の
現人の その子 多なすを分かち 島の新屋
に移らしめ 魚取りの道具 網船の道具を撒
き遣りて 種津を作り固めて 業訓らしに
楽し道を開きて 護らします ここに 天津
御子の命 御妃の命 共に 島々を作り定め
たまイて 告りたまわく これの島ハ いと
大きなる島かも と 告りたまイき 故 此
を 大島と言 また次の島に 出往きますに
いと長足りき 故 長島といイ 穴門崎の
島に 出往きて こハ 木立多なして 暗か
りき 故 こを くら島 と言 次の島に出
ますに 多に田之土有りて 緩けくなす と
告りたまイき 故 此を かとよ島と言
次の島ハ遠き と告りたまイき 故 これの
島を大崎と言
-------------
27,22
-------------
ここに 天津御子の命 御妃の命 並べに
佐須良玉戸玉の命 共に 愛媛に出まして
島巡りましたまウ時に 御齢負わせる翁
石村に保イて 謡を歌わして 貴玉と扇とを
左右の御手に持たし 調子を打ちて 緩べ
るに 一人の童ハ神憑りして 茅草を払垂れ
斎鈴を振らして 歓きて 心遊みます こ
こに 天津御子の命 御妃の命 暫し躊躇ゐ
ますに 彼の翁 告りたまイつらく 天津日
之御子の命 ここに来ますことの畏ければ
吾 神楽して ここに待ちまつる ゐざ 弥
並みの鼓を打たして 御幣申さに と言
-------------
27,23
-------------
ここに天津御子の命 告りたまわく 斯く
吾を愛でたまウ大神の御名を 顕したまエ
と 申す 吾ハ 木之花の御祖 道の太知
りの神也 と申す 故 天津御子の命 これ
の島に 大宮を太敷き立てて 大山津見の神
を 斎きまつりたまイき 故 此を 大御三
島 といウ また それの童 鵜に化りて
崎島に飛びて 息嘯なしし島を 伊吹 と言
ここに 十九代 天津御子の命 直入の宮
に隠りたまわにと 日嗣の御子に 三種の神
宝を授けたまイて 宮隠りましたまイき
上津文 二十七 完エ
-------------
28,1
-------------
上津文 二十八の綴り
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二
十代彦の命の 産御名ハ 天津明少名名彦の
命 天の下を知ろしめしたまイて 秋姫の命
を妃となしたまイき こハ 十八代の天津御
子の命の御子 玉造の命の御娘なり 市井依
姫の命を 向妻に召さしたまウ こハ 中臣
弓手彦の命の御娘なり 志賀之棹姫の命を
御妾に召さしたまウ こハ 大路富樫彦の命
の御娘なり 朝霧姫の命を 側の御妾に召さ
したまウ こハ 狭霧朝伴彦の命の御娘 側
禰女十二人を召さしたまイき
-------------
28,2
-------------
ここに 向妻御妊みたまイて 大土 小土
に取りなし 神さエに 千熟き斎熟きましま
す 故 臼杵郡の大の浜に 産室を御建てて
御輿入りに 生れませる御子の御名ハ 天
邇岐志明の命 こハ 日嗣の御子に在すから
に 大御名ハ 日高日子波限建鵜葺草葺不合
二十一代彦の命と申す 次に 御妃の命の
産みたまエる 御子の御名ハ 河隈の命
次に 御妾 志賀之棹姫の命の御腹に 生れ
ませる御子の御名ハ 不知火彦の命 次に
御妃の命の産みたまエる御子の御名ハ 白楯
玉幸の命 次に 側禰女十二柱の姫たちの
御腹に生れませる御子 彦御子十人 姫御子
十四人 合わして二十九人生れたまイき
-------------
28,3
-------------
ここに 天津御子の命 御子たちを集エた
まイて 御食 御酒を饗エて 大御酒坏を挙
げさしたまイて 告りたまイつらく 汝 彦
御子たち 姫御子たち 世業ハ何なせて良け
に と告りたまイき ここに 御子 若熊の
命 妹 熊姫の命 不知火彦の命 妹 不知
火姫の命 白楯玉木の命 妹 玉木姫の命
申しけらく 吾ハ 現しき青人草の 長生守
りとなりて 国の国々 島の島々の 大山
小山 峡隅 谷蛙の隠らわ所に遊びて 守り
なさに と申す 天津日之御子の命 諾なイ
て 放ち遣りたまイき 次の御子 香白木彦
の命 妹 香白木姫の命 斎帯之男の命 妹
帯姫の命 鳥越彦の命 妹 鳥越姫の命
長杵の命 妹 長依姫の命 乳路之男の命
妹 乳路姫の命 猪木の命 妹 猪井姫の命
申しけらく 吾も 国の国々 島の島々の
隠らわ所に遊びて 現しき青人草に 種々の
悪じ事放つ禍神共を 逐イ攘わにの守りとな
り 現人を穏びなさしめに と 申したまゐ
き 故 天津日之御子の命 いと美し と言
て 放ち遣りたまイき また 次の御子 狭
長田彦の命 妹 狭長田姫の命 佐々木彦の
命 妹 佐々木姫の命 蟹熊の命 妹 蟹熊
姫の命 大木の命 妹 大木姫の命 小木の
命 妹 小木姫の命 まをしけらく 吾わ
潮の八百重の隠らわ所に遊びて 海原ゆ悪じ
なす 種々の禍事を設けなす 禍頭を逐イて
現しき青人草の扶けとならに と 申す
故 天津日之御子の命 然宜し と言て 放
ち遣りたまイき また 姫の御子たちに 告
りたまわく 汝たち 事業ハ如何そもにか思
イとウる と 告りたまイき 故 葦姫の命
垣姫の命 玉姫の命 藁姫の命 鳥根姫の
命 加賀原姫の命 夕衣乃女の命 伊勢姫の
命 揺姫の命 戸川姫の命 湯取姫の命 敷
依姫の命 霜依姫の命 白依姫の命 これの
姫たち 御答エまをしけらく 吾々も 国の
国々 島の島々の隠らわ所に遊びて 現しき
青人草の子持ちを守りて 多々に子産なさし
めに と申す 故 天津日之御子の命 いと
逞しく訓らしなす 故 諸姫の祷み給み 天
津大神たちの愛じまさに と言て 葦姫の命
を以て 科長狭節竹彦の命に婚わせ 垣姫の
命を以て 志那都米垂彦の命に婚わせ 玉姫
の命を以て 迦具土種緒の命に婚わせ 藁姫
の命を以て 迦具土太斧之男の命に婚わせ
鳥根姫の命を以ち 波邇夜須残国の命に婚わ
せ 加賀原姫の命を以て 波邇夜須八重祝男
の命に婚わせ 夕衣姫の命を以て 弥都波堤
主の命に婚わせ 伊勢姫の命を以て 弥都波
曲避の命に婚わせ 揺姫の命を以て 狭霧島
津州の命に婚わせ 戸川姫の命を以て 厳之
覚男の命に婚わせ 湯取姫の命を以て 速玉
柘植戸彦の命に婚わせ 敷依姫の命を以て
事解国武の命に婚わせ 霜依姫の命を以て
久那斗節柴の命に婚わせ 白依姫の命を以て
八衢水打石の命に婚わせて告りたまイつら
く 汝 妻夫の上たち 共に天翔り 国駆り
て 国曲 島曲の隠らわ所に遊びて それの
国内の現人 尽々に多児なし 産しめて 益
人を守れ と言寄ざしたまイて 放ち遣りた
まイき
-------------
28,4
-------------
ここに 天津御子の命 八百千の臣の上た
ちを 召さしたまイて 告りたまイつらく
吾ハ 近き年ゆ 御心疎しく 物事に進びず
こハ年の毎の天の祭りの 千足らぬ心惚り
なすからの罪にあり 今ゆ 去にし訓り伝て
のあちを 国々 島々に撒き散らし 各も各
もに 天の祭り 国の祭りを あち毎に言寿
き 祝ゐ斎かせて 楽し御世に幸わゐてに
と言 臣の上たち 弥ちゑ唱ウ
-------------
28,5
-------------
ここに うたエの四か日のあちに 仕エま
をさに と 大宮の御庭の眞中に 清み高御
座を新なして 天津神招ぎの御和幣にハ 楮
布の白布を 弥裂きに切り裂き 檜の玉串の
上末に 切り嵌めて 神招ぎて垂らして 御
幣を多なして 東 西 南 北の四世之面に
清み門代を立て並めて 斎ゐまつる
-------------
28,6
-------------
故 臣の上たち 神座を称エまつらに と
伊都鴨村の命 久那斗八雲根の命 長道馬
長の命 白羽佐賀組の命 押雲木綿佩の命
これの五柱の上たちハ 山峡の眞木を伐りて
そを 面頬に合わして全抜き 或ハ少女
或ハ少男 或ハ荒子 或ハ禍面 或ハ猿面
或ハ角面 或ハ醜面 種々の状変エの面頬を
彫り抜きて 面毎に白埴以て塗り固め 煤水
以て 眼と眉とを画きて 厳めなしき 故
科長冬名の命 弥都波更連の命 金山建猪心
の命 これの作り面頬に 御歌イの夷振り
生事 歌イたまイき ここに 大土門脇の命
楮梳眞内の命 積羽萬棚の命 熊野小月の
命 闇戸神安の命 苫彦泉の命 水上朝方の
命 国玉鋤小槽の命 これの上たち共に 作
り面頬を御面に着さして 頭にハ 麻緒を弥
裂きて 眞黒に染めなし 毛成し冠 御手に
ハ 扇 団扇 茅草 貴玉 弓矢 鉈 種々
の物を持たしき 目一箇信楽瀬之男の命 山
津見六路の命 久久智高円の命 金山東祖の
命 八俣村田の命 沫那芸小夜明の命 磐土
春日の命 奥疎倭文守の命 久比奢母智鳩飼
の命 水分綾道別の命 頬那芸瑞垣の命 磐
坂強田の命 衝立岩屋彦の命 御年笹原の命
羽曳鮪男の命 足羽笹鳥の命 庭左右部彦
の命 これの上たち 神遊びの神座を称エて
柝鈴を打ち 五十鈴を鳴らし 八琴を奏で
竹琴を弾き 鼓打ち 笛吹き 種々の鳴ら
し物を鳴らして あう音 えわ音 いを音の
調子を揃エて 鳴らし猛びに 面着の上たち
此に合ゐ所なして 様々に踊り歓ぎます
-------------
28,7
-------------
ここに 天津日之御子の命 国廻ます時に
遠津海の国に到りまして 建 三降善男の
命の家に入らせたまウに 現人参イ来で い
と静かし 故 その故を問わしたまウに 御
答ゑまをしけらく これ 国に 近きより
厳病イ流行りて 皆 病みゐす 故 薬人
状変エに訓りなせど 術 得通らで 病荒ぶ
りて 熱かゐに 三か日 四か日に亡れる人
多なり と言 ここに 天津御子の命 甚
く嘆かし哭きたまイき 故 中臣貞村の命
斎部道之長の命 足尼斎竹の命 申しけらく
こハ 天津神の御心辺なり 斯くに これ
の国内の現人過ち 天津罪事を犯し疎かるヤ
故 天津罪 国津罪 大祓イまさば 和し
てに と 申す
-------------
28,8
-------------
ここに 天津日之御子の命 三降善男の命
に告らしたまイ 国の大祓イを 家並めにな
させて 清み門代を建てさしめて それの下
を潜らしめて 病イの熱かゐを鎮めたまイき
-------------
28,9
-------------
ここに 天津御子の命 日下根に御越しま
しき 故 うたエ月にし在れハ 日毎に雨甚
く降り 甚 徒然に坐しまして 大御心穏び
まさずで 疎々ましき ここに 建 棚機岡
棹の命 参イ出まをす これの東の山許の小
川に 水嵩増さりて 広川の如なす 故 此
に 魚釣れる人 多ありて 各も各もに川魚
取る いと面白し 故 出まして見そなわせ
たまエ と言 天津御子の命 諾べなウ こ
こに 川船 高柴籬の上に屋根なして 櫓櫂
ゐ振らし 雨降り 風吹けども さらに溢
れませずに また 国内の現人の浮麻呂 浮
四郎 これの兄弟の工 出る雨除笠ハ 木
円かに工みて 竹輪を円かに嵌め並らし そ
れの破籠の形に 楮布を塗り着け その上に
型染みを摺りて 覆ゐなす 時に 雨 甚く
降りて止まず 故 天津御子の命 此所ハ
雨のいたく降れる国かも と 告りたまイき
故 此を古市 と言 また その水嵩の増
さりて 大広川なすを見そなわしたまイて
告りたまわく 此処ハ 皆 川内なるかも
と 告りたまイき 故 此処を河内 といウ
-------------
28,10
-------------
ここに 御年笹原の命 直入の片野に在し
ましき 御祖の上 御年笹竹彦の命 御齢ハ
二百二十にならせたまイき 或日に 御子
笹原の命 また 御孫 原緒浮の命 また
曾孫 足玉の命 三柱の御子の上たちを召さ
して 告りたまわく 吾ハ 顕わに事を 此
処に完やして 高天之原に返り言申さに 故
汝上たちハ 吾が隠り宮を 岩以て造れ
吾 それの宮に隠りて 現しき青人草の死去
にてハ そが御魂を 隠らわ所に招きて 千
萬の楽しみを 訓り伝てに また 天津日嗣
きの御子の御代を 幸わゐて 御生命永に
守りなさに と告りたまイき 故 御子の上
たち 申しけらく 然ならじ 時じくに亡り
まさば良わじ と言 頬笑まイたまイて 吾
ハ亡るならじ 汝が造れる宮に 宮隠りなす
なり 故 活日の足日に 吾をこれの宮に祝
りまつれ と言て 直ちに速吸之門に出たま
ゐて 潮騒の荒きに 御禊ぎましたまゐて
大御身の禮衣を 掻ゐ繕わしたまイて 勾玉
の黄金織りの冠を着させ 御手に貴玉を持た
し 檜の扇を取り 奥津喪家に八重畳を敷き
在座まして 御手添イを置き並めて 親族
家族に 御食 御酒を賜エて 御輿屋に召
さし 当座の神座に祝りて斎きまつる
-------------
28,11
-------------
故 御子の上たち 家族 親族集エて 百
か日祭る これの祝りまつるゆ五か日ぬハ
告り言 受け言もなしたまゑども 六か日に
死去にたまイき ここに 御子の上たち 家
族 親族の長たち 共に 大御嘆きたまイき
ここにまた 十か日余り経て これの岩宮
内に御声ありき 故 御子の上たち 頓に御
戸を開きますに 常世ますからに 然々申し
たまウ時に 御祖 笹竹の命告らしたまイつ
らく 吾ハ これの宮に死去になすにあらず
吾が息切れてなす時ハ 天翔り 国翔りて
現しき青人草の 隠らわ所を守りなす 故
吾ハ 十か日毎に これの宮に帰り 御子
たちの八十続きの裔ぬ守りてに 故 十か日
に顕わにを祈りて 汝たちと共に遊ばに と
告らしたまイき
-------------
28,12
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二
十一代彦の命 産御名ハ 天邇岐志明立の命
天津日嗣の御璽の 三種の神宝を被むらし
たまイて 天の下を知ろしめしたまイき 先
に 時依姫の命を妃に召さしたまイき こハ
十九代の天津日之御子の命の御子 楮之緒
の命の御子なり
-------------
28,13
-------------
ここに 御妃の命 御妊みたまイて 大土
小土に取りなし神さエに 千熟き斎熟きま
す 故 臼杵の大の浜に 産室を御立てて
御輿入りに産ませる御子の御名ハ 日高日子
波限建鵜葺草葺不合 二十二代彦の命 産御
名ハ 天押開神玉彦の命 と 申す
-------------
28,14
-------------
これの天津日之御子の命 御妃 二十代の
御子姫の命に御娶ゐまして 産まつる御子の
御名ハ 天邇岐志国邇岐志彦月の命 これの
御子 天津日嗣の御子に在すからに 大御名
を 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二十二代
彦の命の御子 日高日子波限建鵜葺草葺不合
二十三代彦の命 産御名ハ 天邇岐志狭松
別国足の命 これの命の御子 日高日子波限
建鵜葺草葺不合 二十四代彦の命 産御名を
天邇岐志黒浜子の命 と 申す 御妃ハ
十九代の天津御子の命の御曾孫 玉敷姫の命
これの御子 御妊みたまイて 然々に 産
まつる御子の御名ハ 千秋足中置の命 こハ
日嗣の御子に在すからに 大御名を 日高
日子波限建鵜葺草葺不合 二十五代彦の命
棚織姫の命を妃に召さしたまイて 然々に産
まつる御子の御名ハ 種樫彦の命 こハ 天
津日嗣の御子に在すからに 大御名を 日高
日子波限建鵜葺草葺不合 二十六代彦の命と
まをす 次に 神守の命 狭名井彦の命 奇
豊日女の命 韓崎姫の命 姫御子の命 これ
の御子たちハ 皆 側禰女の御腹に生れませ
る御子と申す ここに 二十六代彦の命の御
子 建玉の命 こハ 日嗣の御子也 故 大
御名を 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二十
七代彦の命 百合竹姫の命 妃に召さしたま
イき こハ 御伯父 鷲鳥畝傍の命の御子に
坐す 安達姫の命を向妻に召さします こハ
斎部力長の命の御子なり 和歌姫の命を御妻
に召さす こハ 底土苫田の命の御子なり
矢作姫の命を側の御妾に召さす こハ 手置
房麻呂の命の御子なり 玉鑓姫の命を側の御
妾に召さす こハ 八玉新金之男の命の御子
なり また 側禰女をそ 十六人を召さした
まゐき ここに 向妻の御腹に生れませる御
子の御名ハ 糸玉姫の命 次に 三人の御妾
の御腹に 生れませる御子の御名ハ 峡別彦
の命 津守姫の命 群鳥女の命 時代主の命
次に 御妃の命の産たまゑる御子の御名ハ
玉島之男の命
-------------
28,15
-------------
続きて 御妃 百合竹姫の命 御妊みたま
イて 大土 小土に取りなし 神さエに千熟
き斎熟きますからに 大分の黒の小浜に 産
室を御立てて 御輿入りに産まつらに と
する時に その海原に歓ぎの声 水の上にあ
りて 数多の磯すさり 幾匹浮かび出て 口
女の腹膨らを叩きて 天津御子の命の御子生
れを 祝ゐ寿きて 鰭の広物 鰭の狭物を多
々に 海辺磯に充たらし以ちて 天の真魚咋
イを奉りて 膨ら鼓を打ち 歓きまつりき
これ時に 御妃の命の産まつる御子の御名を
これの状を負わせまつりて 天之磯利歓之
男の命 こハ 日嗣の御子に坐しますからに
大御名を 日高日子波限建鵜葺草葺不合
二十八代彦の命と申す 次に 御妾 側禰女
たちの御腹に 生れませる御子 彦御子三柱
姫御子五柱 これの八柱の御子たちハ 各
も各もに 豊日 奇日の大御田族とならせた
まイき
-------------
28,16
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二
十八代彦の命 産御名ハ 天之磯利歓之男の
命 天の下を知ろしめさに と まをして
三種の神宝を抱かせたまイて 日嗣の御寿ぎ
に仕ゑたまイき 故 二十五代日之御子の命
の御子 小海の命の御娘 中津姫の命を 妃
に召さしたまイき 表春狭守主の命の御娘
中臣姫の命を向妻に召さしたまイき 側禰女
二人を召さしたまイき ここに 向妻 中臣
姫の命の御腹に 生れませる御子の御名ハ
島姫の命 次に 御妃の命の産ませる御子の
御名ハ 長浜姫の命 次に 向妻の御腹に
生れませる御子ハ 長島姫の命
-------------
28,17
-------------
次に また 中臣姫の命 御妊みたまイて
大土 小土に取りなし 神さエに千熟き
斎熟きますからに 臼杵の大の浜に 産室を
御立てて 御輿入りに 産まつる御子の御名
ハ 神豊海の命 こハ 日嗣の御子にあれば
大御名ハ 日高日子波限建鵜葺草葺不合
二十九代姫の命 次に 側禰女の御腹に 生
れまする御子の御名ハ 夏姫の命 次に 真
白木凪の命 次にここに 日高日子波限建
鵜葺草葺不合 二十九代姫の命 産御名ハ
神豊海姫の命【次に 側禰女の産ませる御子
の御名ハ 夏姫の命 次に 真白木凪の命と
申す
-------------
28,18
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 二
十九代姫の命ハ】二十七代天津御子の御子
津守飾磨彦の命の御子 建櫛黄楊彦の命を
弥嚮男に召さして 産ませる御子之御名ハ
田沼彦の命 次に 御妊みまして 神さエに
千熟き 斎熟きますからに 大分の黒の小
浜に産室を御立てて 産ませる御子 御身
円背にまします故に 円背之男の命と申す
これの御子 天津日嗣の御子に坐しますから
に 大御名を 日高日子波限建鵜葺草葺不合
三十代彦の命 と まをす 次に 岩木姫
の命 こハ 太玉別男の命の夫人とならせた
まイき ここに 甲斐弁羅御真木の命 妹
樫姫の命共 御齢負わしたまイき 御子の甲
斐弁羅梅田の命 妹 玉波姫の命に 直入郡
の家知りなせしめたまイき 故 御子 桜彦
の命 桜姫の命 二柱の御子在します
-------------
28,19
-------------
彼これの桜姫の命 御面 いと麗しく 御
姿 嫋ヤに雅みませり 故 人毎に 何方ゆ
見まつれどやも いと麗し と言 故 八方
津姫の命 と 称ウ こハ 生らましし時ゆ
御祖父御祖母の甲斐弁羅御真木の命 樫姫
の命 これの御孫 桜姫の命を いと 恵ま
ゐ 撫でて 睦びまして これの後の山に
南の窓室を建てて 告りたまわく これの室
ハ 四方を見離げる 面白き所かも と 告
りたまイき 故 これの山を四方路山 と言
これの室に 御祖父と御祖母と御孫姫の命
を抱きて 家隠りなしたまイき
-------------
28,20
-------------
ここに 大土鬼笠の命の御子 笠守の命
こハ 人形して麗しき男なりき 故 これの
御子 桜姫の命と深契りましき 或る夜 笠
守の命 通わせたまイて 言問イたまウに
その姫 泣きて言問イませず いざ 去にて
に と言て 御座を立たせたまウ時に 姫御
子 襲の御袖に縋らしたまイ 告りたまわく
一昨日 夜に 若き男参イ来て 吾を訪な
ウ 吾 聴かじ 彼の男 怒りて 明後日
夜に来て殺さに と云て 去ぬ 故 今夜
真夜後に来て 吾ハ殺されなむ 故 助けま
せ と云
-------------
28,21
-------------
ここに 大土笠守の命 忍びて 襖戸に隠
り立たしたまウに 彼の男参イ来て また
言問ウに聴かじ 故 男怒りて 姫を握みて
御座を蹴放ちて往く こを遣らじ と 後
辺ゆ 髪の元取りを握ませたまエば 彼の男
い猛て飛ぶに その身にハ姫を握み 背に
ハ彦を負イて 異気無に馳す ここに彦ハ
御佩かせる剣を 手速に抜かして その髻を
握みながらに その首を打ち落したまゑば
共に落ちき その首を見そなわすに 大な鷲
鳥にあり 故 その鷲の躰 谷間に蹴込みま
しし所を鷲谷 と 云 また これの山ハ
その鷲を斬りたる山なり と 告りたまイき
故 わしいぬ岳 と云 また 八方津姫の
活き立ちましし所を 築城 と云 また 彦
と共に御帰りまさにと 一夜 泊らせる山を
八方津山 と云
-------------
28,22
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三
十代彦の命 産御名ハ 円背之男の命ハ 懸
姫の命を御妃に召さしたまイき こハ 二十
六代彦の命の御孫 貝別津守室根の命の御子
村年彦の命の御娘なり 御妾 紫姫の命を
召さしたまイき こハ 八玉若太刀の命の御
子なり ここに 御妾 紫姫の命の御腹に生
れませる御子の御名ハ 襷姫の命 次に 御
妃の御腹に産ませる御子の御名ハ 神濡彦の
命 次に 御妾の御腹に生れませる御子の御
名ハ 友知姫の命 次に 御妃の命 御妊み
たまイて 大土 小土に取りなし 神さエに
千熟き 斎熟きますからに 臼杵の大の浜辺
に 産室を御建てて 御輿入りに産たまゑる
御子の御名ハ 立花姫の命 こハ 天津日嗣
の御子にますからに 大御名ハ 日高日子波
限建鵜葺草葺不合 三十一代彦の命 と 申
す 次に 青志の命 次に 牧姫の命
-------------
28,23
-------------
ここに 陸奥の国の雄勝郡の覇精高の上
雄勝彦の命 大御田族の作り成す 豊の種津
実を饗代 と云て 郡路を奪りて 己が禍ら
イと共に喰イて禍なす 故 陸奥の国建 鹿
立道反の命 聞かしたまイて 大伴の長を遣
ゐて それの状を見せしめたまを時に 皆人
の言る如に それの熟き熟きの種津実を 大
御田族に持ち越さしめて 己が禍らゐ人 二
千余りと共に分ち取りて 濁酒 清酒を多な
し また 海漁人の饗代 とウて 海魚を日
毎に多なさして 己が室屋を太く厳めて 攘
屋の物掠りとなし 衣ハ 蚕布を軽く着て
八十の嫋女に巻かれて 楽しみなし 禍らゐ
も 強きハ強き 弱きハ弱きに 其に準らウ
故 国 穏びずで 皆苦しむ 此に悖るハ
殺す 故 屈み世なす と申す 故 鹿立道
反の命 こハ安からず と云て 直ちに 国
の大御田族を二千余りに 戦衣を鎧わしたま
イて 雄勝の郡に徃往きたまイて 雄勝彦の
命 二千余りの禍らイ人を 攻め懲りたまゑ
ば 雄勝彦の命 国建 鹿立道反の命に祷
みまをしけらく 吾 高津彦の命に参イまを
してに事の侍イつ 故 吾を勿殺したまイそ
と云 そハ 如何そもヤ と云 答ゑけら
く くくつり々々ハ 日高の広目辺に明かさ
に 故 吾を召ざ連らゑたまエ と 申す
ここに 国建 鹿立道反の命 雄勝彦の命を
召ざ連らゑまして 日向の高千穂の大宮に徃
ましき ここに 天津日之御子の命 表春靱
男の命 太玉主玉の命 思金幸座の命 中臣
吉自の命 物部楮浜の命 斎部笠織之男の命
八百の上たち 共に 大御殿に纒イて並め
ます ここに 雄勝彦の命 まをしけらく
吾ハ 瀬織津彦の命の御裔の子なり 故 陸
奥の国の雄勝郡の覇精高の上なり 天津日之
御子の命ヤ 天照大御神の御子なれこそ 天
津日嗣知らして 天の下を知ろしめされて
現しき青人草を撫でたまウ 故 豊葦原の中
津国の国の国々 島の島々の家毎ハ 現人の
物にしあらず 天津日之御子の命の 斯く撫
でたまウからに 何くれの禍事無くで楽し家
なす 故 これの現人の作り人作る種津実を
荷の前事し奉らしめて 天津日之御子の命
並めに 臣の上たち 共に 御躬づからの
作りたまエる 大進田 御進田を留めたまイ
て 荷前を御足らして 天津御子の命も 臣
の上たちも 共に彼以て食し 彼以て着さし
て 親族 家族と共に 楽しみたまイて 御
身の苦しみをなしたまわずで 山に遊びたま
エ と まをす ここに八百の臣の上たち
共に御心進びませず これの覇精高の上ハ
厳速き悪じ心かも とウて 若き上たちハ
そに立ちて逐わに とウに 翁上たち止めて
大御子の御心辺問ウて並めす ここに天津
御子の命 大御怒り 面火照りたまイて 御
髪の髻を解かして 左の御手の貴玉を 右手
になして 腿 膝を聳てたまイて告りたまわ
く 吾ハ天照大御神の御子の神なり 然ある
に 祟ること以て 荒ぶりて 吾を辱めて
天津神の御言を畏まず 故 汝ハ禍津上なり
故 吾が目辺 いと 穢らわし 故 美し
上たち 奴を逐イてに と云 ここに 若上
たち 出て打ち殺さに と云 雄勝彦の命
吾が生命を助けたまハば 今ゆ 奸ること無
くで 現人を撫でに と云 ここに 雄勝彦
の命を助けて 国還したまイて 三年経ぬれ
ども その悪じ業止まずで祟る業なす 故
現人 そに悖るハ殺す 国奔るハ そに往き
て繋ぎ殺す 故 国内静まり 屈み世なす
-------------
28,24
-------------
ここに 天津御子の命 中臣之吉自の命
甕土高凪の命 大土垂男の命 手力火吹武の
命 三降鎌引の命 これの上たちと共に 陸
奥に出ましたまイて 雄勝野 御屯ろまして
覇精高の上に言問ウ ここに 雄勝彦の命
禍らゐ二千余り人を率きて 雄勝野の御屯
を目掛けて 弓矢を雨の如に射懸けて災なす
ここに御軍 弓を放ち 戦ゐなす時 大土
垂男の命ハ 馬に鞭を挙げき 樫の木の丸枝
を打ち振らして 五月蠅なす禍らが屯 打ち
入り勤励ぐに 禍らゐ急げにさわく ここに
天津御子の命 また馬を馳しらして 駆け入
りますを 雄勝彦の命 その大御子の駆け寄
せたまウを見て 鍔太の長剣を抜きて 天津
御子の命を撃たむと 馬を寄せて挑む時に
天津御子の命 告りたまわく 汝ハ畏き上な
り 吾を 其の剣以て 斬らにと振るヤ と
ウて 持たせる【貴玉を以てその剣を打ち落
としたまイて】徒歩に躍らして 雄勝彦を引
き掴みて 乗れる馬と共に 眼の上差して
大土に投げ棄てまししかば 人も馬も 眼飛
び出てくたばりき これの時に 表春靱男の
命 御齢 百三十七 太玉主魂の命 御齢
百二十一 思金幸座の命 御齢負わす翁なり
御軍行さり先に 天津御子の命 これの三
柱の上たち 告りたまわく 汝上たちハ 御
齢負わしたまエば 必ずしも 戦 勿 した
まイそ これの屯に 在座まして 議りませ
と 告らしたまエハ 諾なイき 然あれど
も これの時に 中臣吉自の命 甕土高凪の
命 大土垂男の命 手力火吹武の命 三降鎌
引の命 これの五柱の上たち 御軍人ハ 屯
に留めて 天津御子の命と共に 六柱の上た
ち 禍人が二千余り人の真中に斬りまして
未だ出させたまわぬを 蹴懲らしたまイて
これの三柱の翁上 屯に競エる軍人半らを率
きて 御身ハ馬に跨がりて 樫木を振らして
追ゐ駆けに 馳せ入りませば 皆 散り散
りになりて走す 故 国内 甚 穏びて 楽
し世なす
上津文 二十八綴り 完エ
-------------
29,1
-------------
上津文 二十九の綴り
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三
十一代姫の命 産御名ハ 立花姫の命 これ
の御子 枝長薬玉合の命を弥嚮男に召さした
まイき こハ 二十九代の天津御子の命の御
子 田沼の命の御子に坐す ここに天津姫御
子の命 御妊みたまイて 大土 小土に取り
なし 神さエに 霊熟き 斎熟きましますか
らに 大分の黒の小浜に 産室を御立てて
産したまエる御子の御名ハ 花依姫の命 こ
ハ 天津日嗣の御子にしあれば 大御名ハ
日高日子波限建鵜葺草葺不合 三十二代姫の
命 と 申す 次に 国光の命 次に 国姫
の命 これの姫御子の命 天の下を 知ろし
めさしたまイて 文机彦の命を 弥嚮男に
召さしたまイき 此れの御子ハ 三十代の天
津御子の御子 神濡彦の命の御子に坐す
-------------
29,2
-------------
ここに 天津姫御子の命 或る夜 南の
御殿に梯居ます時に 月の脚の殿内入らした
まわるを 見そなわすに 大きなる翁の 御
面 いと猛々しき神立たして 天津姫御子の
命に告りたまイつらく 汝命よ 吾 幸事を
与ゑに と云て 御佩かせる剣を抜かして
天津姫御子を抱かまエて 御口より 彼の抜
き持たせる剣を 鍔本に差し貫きまつるに
天津御子の命 あなヤ と 叫びたまイて
夢醒めさせたまイき これの時に 弥嚮男
天津御子の命の御驚声を聞こしめして 頓に
起き出て 天津御子の命を抱きまつりて 移
しまつる 故 天津御子の命 然々に恐しか
りつる と云て 御身穏びませず そゆ御妊
みたまイて 大土 小土に取りなし 神さエ
に 霊熟き 斎熟きますからに 臼杵の大の
浜に産室を御立てて 御輿入りまして 御子
産まさむとなしたまウ時に 磯すさり参イ来
て 歌イ歓く
清の宮の御子
生れます産宮 天の眞栄屋も
と歌ウ時に 御腹耐エ難くまして 御子産
まつる 御名ハ 清之宮姫の命 と申す 先
の夢に現れたまエる大神ハ 清之大神にこそ
あらめ と 皆人申しき 故 こハ 天津日
嗣知ろしめす御子にしましませば 大御名ハ
日高日子波限建鵜葺草葺不合 三十三代姫
の命とまをす 次に 金依姫の命 八重琴之
男の命 三柱生れたまイき
-------------
29,3
-------------
ここに 萱野常世彦の命 妹 香依姫の命
共に 千々の草花を 御庭の隅りに植ゑさ
したまイて 朝な夕なに御楽しみますに 取
り分きて 插頭し秀花を愛でまして 広く長
く植ゑたまウに その色白く いといさぎよ
し と云に 半らに火丹色出来て いと美し
く在さましし ここに天津姫御子の命 聞こ
しめしたまイて それの家に出往きたまイて
それの庭も狭なる花を窺目見まして告りた
まイき これの插頭秀花ハ いと麗しく咲け
り とて 歌イたまわく
人の女の顔美し花ハ
つきねふ山々に咲き
吾ハ見れど飽かず
ここに香依姫の命 御答ゑ歌を歌イけらく
四方知し 吾が大君の見そなわす
顔美し花ハ
吾が大君 顔美し花よ
これの庭に 火篝り起すと
人皆言らく
と歌イき 故 天津姫御子の命 いとあわ
れ と思ほさしたまイて 香依姫の命を大伴
の上に召さして 遊びたまイき
-------------
29,4
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三
十三代姫の命 産御名ハ 清之宮姫の命 と
まをす これの 三十三代姫の命ハ 生れま
しながらに 千道の悟り深く在しき 故 御
齢七つと申しし時に 侍女と共に 野辺に遊
びまさにと 出往きますに かびぬに往ます
に 臣の逸り男たち 牧山の馬を求きて 馬
鞍も掛けで 跨り跳ばし遊びたるに出会ゐて
此ハ良き御慰み と云 侍女皆 天津姫御
子の命を 背負ゐまつりて 彼往き 此く往
きて 見そなわせまつる時に 御子の命 告
りたまイき それの馬 此処に乘り越せてよ
と 告りたまイき ここに逸り男の臣の上
たち 各も各もに 馬引き参イ来時に 姫御
子の命 告りたまわく 吾ハ これの馬に乗
りてに と申す 逸り男申しけらく こハ
荒馬にませば 暫し待たしたまゑ 和馬を参
らせに と云 故 侍女共 皆 馬召しを止
めまつれど 聞こし入れまつらで 憤じます
故 大土八千別の命 自からに乗らせる馬
ハ いと荒き馬なり 天津姫御子の命 そを
見そなイたまゐて 彼れの馬こそ いと速み
馬なり それに乗せよ と 告りたまイき
故 八道別の命 馬より降りて 奴が乗せま
つらに と云て やがてに 御子の命を抱き
て 乗せまつりて 確とに手構エて 年長け
馬に乗せまつるに 此ハ 鈍馬なり 吾ハ
速き馬にこそ召さめ と 告りたまイて 憤
じます 故 為む術無みに 荒馬に乗せ代エ
まつり 左ゆ 大土千別の命 手構エまつり
また 右ゆ 甕土多毛之男の命 手構エま
つるに 姫御子の命 鞭欲し と 告りたま
イき 故 明玉浮手火の命 手速に 竹根鞭
を奉る 故 馬の背に聳り 手綱を引かして
千別の命に告らしたまわく 吾ハ 一人し
て歩きてに 故 双手を放ちてよ と 告ら
したまエども 二人の臣たち 猶 放たざり
き ここに 姫御子の命 馬を驚かして揺ら
したまエば 二人の臣たち 思ほエ無きに
挙りて抱きまつる その手 何時しかに 外
れけに放れき その時に鞭を打たして 駆け
往でますゆ あわヤ と 八十の人たち慌て
にき されど 姫御子の命ハ勤しまして 御
心の随に 鞭上げまし 速く駆けらしたまエ
る状ハ 逸り男に勝りましき 故 これの御
子を 皆人 讃めて うまし姫 とぞ 称エ
まつる と 申す
-------------
29,5
-------------
ここに 天津姫御子の命 御齢 十九の年
に 春さりて 御稔にふぶ虫多に涌きて 麦
の穂を食イ枯らして 熟き上らず 続きてま
た みなつに雨頻りて ふくみ月に いと寒
くで 稲屈み穂なして 熟き上らす ここに
大御田族 糧を失イて 天の下 皆 苦し
む ここに 三十三代姫の命 今 天の下を
知ろしめさず 御齢 十五に在して 清之宮
姫の命と申す 今年の夏 熟きの種津実上ら
ずして 青人草 皆 苦しむ されど 翌る
秋の熟きハ 水田津 畑津 上りてに と云
故 清之宮姫の命 天津神に 日に異 祷
みまつりき 或る日に 侍女に告りたまイつ
らく 汝たちハ 鍬打ち 鋤掻きハ知れりヤ
と云 詳しく知れり と云 また 友どち
多にありヤ と云 多あり答ウ 幾人
ありヤ と云 ここに 八十の侍女 左手を
異々並べて 三千人余り と申す 故 姫御
子の命 宜べ 汝たち 朋友を率きて 吾と
共に国廻して 種播きの上とならにヤ と
告りたまイき ここに 侍女 宜べ とウ
然れど その事を知らじと云 ここに 姫御
子の命 告りたまイき これの夏 熟きの上
らで 現人苦しむハ 皆 吾が天津罪にな
もある 故 天津神に 日に異に祷みまるに
若年の神 告りたまイつらく 汝 これの
豊道之原を知らすに 現しき青人草ら 天津
神を斎ゐまつるに 火穢し 水穢しなして
大饗を奉る 故 天津神たち 甚く怒ります
から その熟き事上らず これの秋もさむと
みなして 斯くぞあらにか 汝 嗣き御子の
命よ 天津神和しに 国祓エまさば 翌の年
ゆ 穏びて 豊幸ゐてに と 告りたまイき
-------------
29,6
-------------
故 汝たち 三千人余りの朋友率きて 国
々に往きて 火穢し 水穢しなさしめずに
なさしめて 天津祭りを斎かせよ また 野
毎の一坪の地も余さて 笹実を蒔け 水漏り
地ハ 異所に稗実を蒔け置きて帰れ 吾ハ共
に出て 国廻なして 訓り伝てせな と 告
りたまイき ここに 臣の夫人の姫の命たち
に 侍女の姫 これの朋友姫を副ゑ 国の国
々 島の島々を往き 斯く蒔かむ時に 人問
ハば 蚕種を蒔く と 答エよ 必ずしも
飢え糧になすと 勿言そ と 告りたまイき
故 手置服部姫の命 侍者の女を百人率き
て 両児島に出ましき 天熊砧姫の命ハ 天
之忍許呂別に出ましき 侍女然々 村雲蘯姫
の命ハ 狭手依島に出ましき 侍女然々 鹿
立橋姫の命ハ 天之一柱に出ましき 侍女然
々 日鷲佐韋姫の命 建日の国に言伝てます
侍女然々に 衝矛月姫の命 奇日の国に言
伝てます 侍女然々に 楮梳渕姫の命 速日
の国に言伝てます 木之俣速見姫の命 豊日
の国に言伝てます 侍女然々 剣八束姫の命
白日の国に訓り伝てます 侍女然々 積羽
熊毛姫の命 大宜都の国に出ましき 侍女然
々 御雷久我之女の命 建依の国に出ましき
侍女然々 山背菊姫の命 飯依の国に出ま
しき 侍女然々 石柝御守姫の命 愛媛の国
に出ましき 侍女然々 御雷布原姫の命 出
雲の国に出ましき 侍女然々 雷安来之女の
命 吉備津根の国に出ましき 侍女然々 別
土岸姫の命 穴門の国に出ましき 侍女然々
高淤加美舎人姫の命 丹波別の国に出まし
き 侍女然々 布都天之羽羽姫の命 越根の
国に出ましき 侍女然々 武市菜摘之女の命
陸奥の国に出ましき 侍女二百余り人 葉
槌恵美依之女の命 野陸の国に出ましき 侍
女百余り人 白羽帚姫の命 常陸の国に出ま
しき 侍女然々 御鉾櫛弓之女の命 无邪津
海の国に出ましき 侍女然々 明玉萬姫の命
遠津海の国に出ましき 侍女然々 宇賀之
弥越姫の命 狭依科の国に出ましき 侍女然
々 八玉紫姫の命 伊勢津の国に出ましき
侍女然々 棚機秋姫の命 淡海根の国に出ま
しき 侍女然々 久那斗八雲姫の命 日下根
の国に出ましき 侍女然々 言解数姫の命
秋津根の国に出ましき 侍女然々 故 秋の
熟き上らず こにゆ 国々仰せて これの稗
実 笹実を 手に手に取らさしめて 飢えを
凌がしたまイき
-------------
29,7
-------------
ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三
十二代姫の命 常世に御身穏びませず 故
速くに家隠りまさに と 申して 清之宮姫
の命に 天の下知らさしめと申すに 齢 い
と稚くして 神実満たざれども 三種の神宝
授けたまイて 弥嚮男 神玉国光の命を召さ
したまイき こハ 御齢五十余りならせたま
イ 夫人の命ハ 速くに亡りて 今ハ寡居り
ます 故 神実の満つる上なり これの上を
弥嚮男になすべし と 告りたまイき ここ
に 中臣寒川の命 斎部山之辺の命 思金弓
張の命 共に心矯みたまイて 論らウ状ハ
彼の御子ハ御齢五十余りに長けたまイぬ 姫
御子ハ漸く二十に足らず 故 姫御子ハ 弥
嚮男の齢負わせるを 嫌わせたまハば 忌々
しき天の下の弁別みとならに また それの
如なさずば 大天津御子の命の 御告り言に
悖ほりとならにと 更に 彼にヤ 此くにヤ
と 心酔ゐましき 然れど 為ずヤハあらじ
と云て 姫御子の命に宥め告りて 称エま
をす ここに 姫御子の命 三柱の上の上言
を 詳さに聞こしめさせたまゐて 御面笑み
褒まして 宜べし御告りたまわく 吾ハ神実
有らで 如何にしてか 天の下を知らむ と
心悶エす時に 今 臣たちの進び言 いと
畏し 彼の御子ハしも 未だ 逸り男なすゆ
いと神実有りし人なり 今ハ五十余りに在
らせ 神実の満つる人にこそあれ 故 そを
吾が弥嚮男に召して 神実を学びて 天の下
を知らに と 告りたまイき
-------------
29,8
-------------
ここに先の三十代の天津御子の命の御子
神玉国光の命の御事を 三柱の上たちに問わ
したまイき 吾聞くに これの御子 未た
逸り男なりし時に 隅の国に遊びまししに
これの山の中らのたぬに流る 大深谷あり
これの谷辺を過ぎる現人 折折に失せて出ず
と 現人 口々に云 故 神玉国光の命
往で入りて 禍物を狩らに と云 急がした
まイて 深谷の洞に出往きたまウ時に 姶羅
村の現人 吉入五郎 吉入六郎 吉入八郎
これの三人の兄弟 谷稜に伏して さめさめ
と泣きて惑ウ ここに命 怪しと思ほエたま
イて そこに立たせたまイて 三人が泣く故
を問わせたまエば 三人の兄弟 答ゑまをし
けらく 奴が父 昨日に 薪取らしに往まし
て 今日に 帰り来まさず 故 奴三人して
夙めゆ山駆けりて 尋ねすれども 見ゑま
さずで ここに落ち散るハ 足駄と 右手に
鎌を持たしながらに 手の肱より先ばかりあ
り 御躰の形さゑに見来ず こハ 禍物に啗
われまつるヤハ と 心急かせて その仇を
討たに と思ゑども 奴如きの者の手とウ者
死に侍らに と 心懈に泣く と申す 故
神玉国光の命 吾ハ 其の現しき青人草に
禍事なす 恐物を逐らわにとび思イて ここ
に越せき 故 汝たちも 親の仇なれ それ
の敵を逐らイてに と 告りたまイき 故
三人の兄弟 喜び猛びて 奴も共に向つきま
つらに とウて 其の深谷に分け入りき 故
そを攀ぢ そを降ちなすに これの深谷の
岩洞の中ゆ 家如す蝦蟇つち躍り出き これ
の命に 飛び掛かるを 三人の兄弟喚きて
得物振りて掛かるを とこけして 三人脇腹
に掻ゐ敷きて 命とを取らにとて騒ぐ時に
命とハ佩かせる十握剣を抜かして 眞嵩に斬
りたまエば かの蝦蟇が鼻柱を斬りたまイき
こに因りて 甚く怒りて 諸手以て 命と
を掻き抱きて 啗わに となす時に 三人の
兄弟 潜き逃れて 己が持たるこ探り斧を以
て 後背に撃ち立てぬれば 仰のけになるを
命ハ 良し と 告りたまイて 諸手以て
蝦蟇つちが前肢を握みて 眞上差しに差し
て 巌の間に がわと投げ放ちたまエば 仰
のけに四つの肢を蠢かし あをつり鳴く其の
声 雷如す ここに 命とハ 速みに 奴が
腹の上に駆け上がりて 剣以て づたづたに
斬り放ちたまイき 故 三人の兄弟に 親の
仇を討たしたまイき
-------------
29,9
-------------
斯く 現しき青人草を恵み養します若男の
心延エにあらば 今 五十なりに在すからに
神実の美し上にこそまさめ 吾ハ これの
上を召して 弥嚮となさばか良けにと云 こ
こに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三十三
代姫の命 弥嚮男 神玉国光の命を召させた
まイて 三種の神宝を戴きたまイて 天の下
を知ろしめさしたまイき 故 三十三代姫の
命 御妊みたまゐて 大土 小土に取りなし
て 神さゑに 霊熟き 斎熟きましますから
に 大分の黒の小浜に産室を御立てて 御輿
入りに産ませる御子の御名 付けまつらにと
する時に これの海辺に大きなる八千尾の亀
海より上り参ゐ出て 言祝ぐ状なす 故
八千尾亀之男の命と名付けまつる こハ 天
の下を知らす日嗣の御子に在すからに 大御
名ハ 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三十四
代彦の命と申す 次に 七瀬彦の命 次に
高瀬彦の命 次に 瀬之上姫の命 彦御子
三柱 姫御子一柱 生れましき
-------------
29,10
-------------
ここに 天津御子の命 弥嚮男の命と共に
御座居りを定めまさに とウて 更に 臣
の上たちを集エたまイき 故 中臣立脛高根
の命 表春開玉の命 太玉敷辺の命 斎部山
之上の命 側禰弓張男の命 思金仰の命 下
春弓取の命 科長阿部群の命 科長天津見群
鳥の命 科長上松の命 金山壱岐合の命 金
山大刀自の命 金山透通の命 弥都波七草手
の命 波邇夜須半佐多越の命 波邇夜須村男
の命 波邇夜須熊成の命 加賀武凝の命 大
屋那須戸之男の命 積羽栗田の命 積羽田配
の命 事代鈴彦の命 鳴海海垣の命 日別鉢
立の命 天懸錣生の命 国懸麻立の命 明玉
道留の命 明玉鮪魚の命 物主国明の命 物
主長井澤の命 田益馬追の命 御矛稲除の命
御年日縦の命 大屋渡守の命 事勝夏実の
命 塩椎焼藻主の命 厳高風の命 避常世の
命 波限糸石の命 甲斐弁鹿児弓の命 秋津
鰐男の命 佐須良靱振の命 底土合坂の命
赤土玉見の命 岩土船手の命 水分安垣宮主
の命 久比奢母智活津の命 八玉栗里の命
山津見味坂の命 大山勝玉の命 目一箇啄木
鳥の命 須勢理吉言部の命 衢小坂の命 大
土道別の命 底度久道知の命 土之千々別の
命 物主明の命 少名薬師の命 久米之御玉
の命 鹿立道返の命 活玉楢之男の命 三降
鮫彦の命 速玉現根の命 八俣膳の命 稲城
太沢の命 米城高彦の命 峰城千振の命 保
木数彦の命 玉粟太男の命 薄百合武の命
日月風間の命 日靱春日の命 門木合彦の命
大豆鹿之男の命 五木玉節之男の命 諸木
田主の命 笹木牧彦の命 伊柳文取の命 玉
名鳴瀬の命 太根垣隈の命 棚機撫菜の命
棚機越彦の命 事解底男の命 久那斗矢立の
命 久那斗峰男の命 長道千路之男の命 煩
歌枕の命 飽咋陰間の命 綿津鷲洲彦の命
沫那芸現世の命 頬那芸栗栖の命 萱野丹潟
彦の命 萱野身長の命 香山嵯峨之男の命
久久智御鳥の命 闇戸香具夜彦の命 香具山
花戸の命 真見然の命 国忍太敷の命 磐坂
鶏鳴の命 御年谷橋の命 丹羽八百人の命
奥津鎌波の命 足羽現幸の命 羽曳火面辺の
命 香山狭間之男の命 羽山燿の命 佐々津
常屋の命 国玉御平の命 積羽門原の命 手
置田陸の命 薄吹根の命 活玉八熊の命 御
雷川島の命 御雷藤彦の命 石柝道具の命
雷布玉之男の命 雷丹取の命 真土衣根の命
真土八百葉の命 高淤迦美建鞆靱壱岐彦の
命 高淤迦美狭身の命 別道上賀の命 岩降
彦の命 布都結萱之男の命 御搗鳴尾の命
武市手束男の命 穂日種熟の命 剣八束彦の
命 月桙美樫の命 楮梳瀬渕の命 木俣木賊
の命 積羽湯原の命 御名方青熊の命 山背
攘屋の命 日鷲鷲之男の命 村雲高窓の命
手置粕部の命 白羽足日の命 羽土五十釘彦
の命 鹿立佃の命 明玉萬男の命 御桙差男
の命 広鉾山道の命 只値加美内禰の命 天
熊清津見の命 八百の臣の上たちを集エたま
イて 御座居りを定めまさに と 告りたま
イき 故 臣の上たち諾べと云 ここに天津
御子の命 告りたまわく 吾が遠津御祖皇孫
の命 天降りまする時ハ 大御齢 六十六の
時なり また 御孫御子の命の 天の下知ら
したまし時の御齢 二百十余りなり また
うなべの初めの御子の命の 天の下知ろしめ
します時ハ 百二十余り そゆ 継々に 天
の下知らす御祖たち 受家男女ゆ 天の下を
知ろしめす 吾ハ 今年 漸々に 二十にな
り そを以て天の下を知りてハ 天津罪なウ
然れど 御神祖の命のしきなみますからに
默も得あらで よばゐつれど こゆ後に
現しき青人草の煩らゐとなりて 吾が罪を祓
わにに由無し 故 天津高御座に 御神祖の
命の天の祭り国の祭りの在座を定めて 吾ハ
次に座坐さに受家女となりて 高御座に登
らに 弥嚮男ハ 吾に並めてよ また 宮の
覇精高の上 覇精高児屋の裔上 覇精高太玉
の裔上 覇精高思金の裔上 これの上たちハ
受家男女となりてハ 高津殿に在座坐せ
外の覇精高の臣の上たち 受家男女とならば
並の殿に在座ませ 眞受家男女とならば
厳の殿に在座ませ 千努男女とならば 清津
殿に在座ませ 眞千努男女とならば 明津殿
に在座ませ 栄男女とならば 高津殿に在座
ませ 斯く在座まして 大御田族を慈しみて
足らし御代の千足る御代と安らげしめよ
然ばかれど 去にし御世に外津世の国ゆ襲イ
来て 青人草を苦しみて殺る こハ国の病イ
なすなり 故 もしもに参イ来ば 青人草
其に苦しまに 故 こを以て 今 天津神の
大御言を以て 訓り伝てなさに と 告りた
まイき 赤童 白童 いと確に育みて 日に
異に 薬も躯建を修せ こに死去なしせずば
皆人 百年を後になさに 故 穢れなすも
のハ 必ずしも食わすこと得せで修せ 幼び
男女とならば 力招ぎを勤がし 然れど【そ
が身に比ばエによばエて】身に障る重き物
勿 持たせそ 穢れとなる 厳し男女の力招
きば よりよりに重きを重ね 手堪エをなし
日に異に 三廻び 四廻びて 左右の手を
伸ばエて 頭の上の高ら置をなせ また 朝
開きと黄昏とに 体健の術を学びなさしめ
終日に 家業を学びなさしめ 体緩に 勿
せさせそ 体緩なさば穢れとなる 逸り男女
の力招きハ 手堪エるを重さ重ねに翳して
たゆたに歩きて 一町往き来なすに憩わずな
せ 体健術を種々に学びて 終日は家業を勤
ぎて修せ 受家男女の力招きハ 勿 せそ
然れど 体健と手力と 勿 劣しそ そハ
これの招ぎを捨てずで修せ 斯くなさば長生
足らに 眞受家男女ハ長生を修せ 日に異に
大道を夙めに 一村を歩きて 左右の手に
木杖を翳して そを以て 背打ち百弥 二百
弥になせて 体健なして 萬の訓り伝てを修
せ また 受家男女ゆ 栄男女に至る迄に
神眞を受けて 隠らわの仕エ代に 現しき青
人草の益良男女 子ら 瑞子らに訓り伝てな
せ また 千努男女 眞千努男女 栄男女ハ
御心随にて長生を修せ
-------------
29,11
-------------
【是ば
赤童ハ 生時より三才迄之唱
白童ハ 四才より七才迄之唱
幼びハ 八才より十三才迄之唱
厳しハ 十四才より二十才迄之唱
逸りハ 二十一才より三十才迄之唱
益良ハ 三十一才より五十才迄之唱
受家ハ 五十一才より七十才迄之唱
眞受家ハ 七十一才より九十才迄之唱
千努ハ 九十一才より百十余迄之唱
眞千努ハ 百十余より百五十迄之唱
栄男ハ 其以上】
-------------
29,12
-------------
こを以て 受家男女の臣たち 眞受家男女
の臣たち 皆に皆に 国の国々 島の島々に
国廻往きて これの訓り伝てを教エ諭して
外津世の国人参イ来て悪じなさば 殺し尽
くせ また慕イて来ば恵じなせ また 家業
を勤ぎて【強きに 勿 まげそ 弱きに 勿
勝ちそ】と 教えませ と 告りたまイき
また 今に外津世人参イ来む時 そをまげ
よ 故 その群毎にころばエなす眞受家男を
将軍となし また 受家男を軍師となし
これの二人の君に習イて戦なせ そが備ウる
訓りハ 将軍一人 軍師一人 これの二人ハ
屯れの眞中に在座なして 進びハ 大鼓を打
ち 退くハ 金鼓を 勝たに時ハ法螺吹き
負げに時ハ母衣振き 敵人 後ゆ増えば 白
旗を振らし それの屯れゆ敵逃げば 赤旗を
振らし 皆たつれば 大鼓をうどろに打たし
新人 先入り 金鼓打たば 頓に疲れ人
後退きて憩エ たとエば 敵人百人有らハ
二十人以て押せ 勝つ事を勿 思イそ こに
斬り入りて 負けじと勤励げ 将軍 軍師ハ
そを見て 長に 勿 戦わせそ 速く速く
に新人を替エよ 然なさば 敵人百人に二十
人当たり【新人五分にかれ悩みて 皆分々に
ならに】然ならに時ハ 心の随に敵を悩まさ
に また敵百人に 始めゆ二十人頓押せば
敵も二十人に合わせに 故 敵百人と見なハ
軍人二十人 女軍を左右に備エて 敵一延
ゑの人を騒がせ そなさば 一群に敵出来て
戦わに それの時に 女軍に結イらし騒がせ
よ こハ総イの訓りなり 詳らハ 臣たち
くく以て行なめ 外津世の悪じ人の多き 少
き以て 群毎に知らせて 一群となりて 将
軍に就けよ 故 神訓りの如なせて修せ そ
の軍師とならに人ハ 己が持たる軍人を一人
人たりとも 勿 殺しそ 若しもに敵人強く
ば 深山路に走して潜み居れ 別群の来るを
待ち 討ち出よ なをなをに強くば 宮に告
げよ 吾 軍を率きて出らに また 人毎に
軍衣を作り置け また 物除衣を作り それ
の時ハ 軍衣の上に物除け衣を鎧ゑ 頭の物
除けを被ふとれ また 皆人毎に靱を帯び
弓を挿み 太刀を佩き また 人々の得物を
作りて その家の眞中に棚上げ置かし 朝な
夕なに奉らして 日の毎の訓りせよ 故 物
人十人 こハ 受家男なす かれ男十人 益
良男なす うまり十人 益良男なす 勤し十
人 逸り男なす 並男二十人 逸り男なす
故 六十人にこにけし人五人 ものかゆ人五
人 将軍二人 鳴らし人八人 これの八十人
人を以て 一群と言 こを十合ゐを一口と言
これの一口 十合ゐを一軍と言 こを以て
修せ また 海辺 河辺ハ 水切りの術を学
ばせて修せ 故 術得ば 水底に技為しを学
ばせよ 故 一日 水底に業為さに時ハ 大
海魚の腹内の長臓の眞糞を押し抜きて 先に
桐木のみらづのおわなして 竿鉤の先に全抜
きに取り着け 此を口に含みて海底に入らば
一日 二日ありても業為す 故 こを修し
て学びなさせよ こハ 天津神の命の御訓り
伝てになもある 故 これの術を学びなさむ
に 高津神を祷き祀らば 安国の足らし御世
栄わゐてに また 外津世の禍人参イ来まじ
もしもに参イ来ば これの術以て逐ハば
頓に逐イて悪じ事を受けじ
-------------
29,13
-------------
故 常世に斎き奉る神の御名ハ 霊国根子
神伊邪那岐の命 霊国根子神伊邪那美の命
天照大御神の命 夜見照大御神の命 国照大
御神の命 また副ゑて 天渡襲百座科津産巣
日の命 天津座高津座置清美魂瑞之火産巣日
の命 天冴留豊道辺神御魂弥都波産巣日の命
天津降道萬眞栄伊美活立波邇産巣日の命
天御魂国御魂穿神常座成金山産巣日の命 神
御魂別国津清美魂直日産巣日の命 伊都之幸
守眞心常辺速秋津産巣日の命 天足国足潮津
清美底土産巣日の命 天足国足潮津清美赤土
産巣日の命 天足国足潮津清美岩土産巣日の
命 天之大土国之大土大御守山津見産巣日の
命 八心思金の命 天之児屋の命 天之太玉
の命 大雷の命 別雷の命 経津主の命 建
御雷の命 天津手力男の命 八島士奴美の命
大穴牟遅の命 少名牟遅の命 大土牟遅の
命 これの神たちを招きまつりて 日に異に
吾ハ祷き言を称ゑて 諸々の災ゐ無く 長生
なさしめたまイて 生業術 体健術を請イ祷
みまつりて 楽し御世の安ら御世に 足らし
めます事の由の 詳らに区々以て訓らし 神
眞を受け持たせ給べ と 告らしたまイき
上津文 二十九の綴り 完エ
-------------
30,1
-------------
上津文 三十の綴り
ここに 昇星御祖の神 こハ 天之底立の
命の 天の北の真中に御在座たまイて 常世
に座変エまさずて 天の下を知たしたまエる
神に坐す ここに大御神告りたまイつらく
これの豊道原を恵みて 幸事 禍事を知なさ
に と 告りたまイき 故 これの昇星の神
を 年の始め 月の始めに拝みて 高明りま
さば常事 また 中ら明りて清むハ 幸事の
真徴 また 低く明りて滞るハ 禍事の真徴
年の毎も 此を以て在せ
-------------
30,2
-------------
風精星御祖の神 こハ 志那都彦 志那都
姫の命に坐す 故 昇星の神の北の中らの
常世の御殿の大垣外 廻らしたまイて 黄昏
に十二の殿の辺に御立しまするハ むつびの
月の始めになもあり 其 一夜 八時 日に
原なす 故 明り立ちハ 然々に 然れど
中ら明りを常なす ここに 大星の神告りた
まイつらく 現人を恵じに 幸事 禍事を守
らしなさに と 告りたまイき 故 これの
御光色 まくよ くらよ くくよ もぐよ
まきよ すがよ はれよ あきよ これの八
色以て風招ぎを知れ 其の風ハ こぜハ東ゆ
吹く いこぜハ東 南の合わゐゆ吹く まぜ
ハ南ゆ吹く やまぜハ南 西の合わゐゆ吹く
なぜハ西ゆ吹く あなぜハ西 北の合わゐ
ゆ吹く よぜハ北ゆ吹く こよぜハ北 東の
合わゐゆ吹く 故 前の四くよハ禍風 また
後の四よハ幸風なす 此を以ておせ
-------------
30,3
-------------
火精星御祖の命 こハ火之燿彦 火之燿姫
の命にます 故 昇星の神の中ら殿の瑞垣内
に十二の殿辺に 夏のうたエの始めの黄昏に
御立たして 一夜七時 日に原なす 明りと
色と然々に こを以ておせ
-------------
30,4
-------------
また 土精星御祖の神 此ハ波邇夜須彦
波邇夜須姫の命にます 故 昇星御祖の命の
中ら殿の瑞垣内に十二の殿辺に 秋のふくみ
の始めの黄昏に御立たして 一夜五時 日に
原なす 明りと色と 然々に こを以ておせ
-------------
30,5
-------------
水精星御祖の神 こハ弥都波乃男 弥都波
乃女の命にます 故 昇星御祖の神の中ら殿
の瑞垣内に 十二の殿辺に 冬のかなめの始
めの黄昏に御立たして 一夜六時 日に原な
す 明かりと色と 然々に こを以ておせ
-------------
30,6
-------------
ひこ星御祖の神 こハ 大直毘 神直毘の命
にます とこ星御祖の神 こハ 金山彦 金
山姫の命にます これの二星御祖の神ハ 春
のけさりの中らの黄昏に八の殿に御立たして
月の神の一時を離りて 十一げの月に原な
す 明かりと色とハ 然々に こを以ておせ
-------------
30,7
-------------
清星御祖の神 こハ 速秋津彦 速秋津姫
の命にます 故 秋のはやれの中らの黄昏に
八の殿に現わなして 十二か月に原ます
底星御祖の神 こハ 底筒之男 底筒之女の
命 赤星御祖の神 こハ 中筒之男 中筒之
女の命 岩星御祖の神 こハ 上筒之男 石
巣姫の命 これの三星の神ハ 月の神に添イ
て 現わます 故 月の毎に原なす
-------------
30,8
-------------
高知星御祖の神 こハ 大山津見 大山之
女の命にます 夏のみなつの始めに 八の殿
に現わます 故 三十二か月に原なす 幸星
御祖の命 こハ 大年彦 大年姫の命
-------------
30,9
-------------
これの星の神たちの訓り伝てまし 幸言
吉言を守らしたまゑるからに 高天之原に斎
く星の神 八百萬の神たち誘イを訓り伝てて
幸年 禍年 国の幸 国の禍 心伝てに保
たし 禍年の守らしあらば そをもウけなせ
また 外津世の仇人あらば そをもうけな
せ 萬の物事を学びておせ と 告りたまイ
き 此を以て 清津神たち 厳神たち 並神
たち 共に 国の国々 島の島々に出立たし
たまイて これの訓り伝てを 尽々に教ゑた
まイて 国の覇精高の上たちを 道問わしま
しき また 天津大道を 天津神の学びなさ
しめに星の神を以て議れ
-------------
30,10
-------------
故 むつ魂星の神 こハ 大事忍乎伎の命
大事忍乎美の命に在す 故 むつびの始め
の黄昏に 五殿に御立たしまして 一時を離
りて 御入る けく魂星の神 こハ 石土彦
の命 石土姫の命に在す 故 けさりの始め
の黄昏に 六の殿に御立たしまして 一時を
離りて御入る いや魂星の神 こハ大戸日別
の命 大戸日姫の命に在す 故 いやよの始
めの黄昏に 七の殿に御立たしまして 一時
半ら離りて御入る うた魂星の神 こハ 天
之吹男の命 天之吹女の命にます 故 うた
エの始めの黄昏に 八の殿に御立たして 一
時半ら離りて御入る さな魂星の神 大屋彦
の命 大屋姫の命にます 故 さなエの始め
黄昏に 五の殿に御立たしまして 一時を離
りて御入る みな魂星の神 こハ 風木津別
之忍男の命 風木津別之忍女の命にます 故
みなつの始めの黄昏に 六の殿に御立たし
まして 一時離りて御入る ふく魂星の神
こハ 石津若男の命 石津若女の命にます
故 ふくみの始めの黄昏に 七の御殿に御立
たしまして 一時半ら離りて御入る はや魂
星の神 こハ 天津豊田彦の命 天津豊田姫
の命にます 故 はやれの始めの黄昏に 八
の御殿に御立たしまして 一時半ら離りて御
入る なか魂星の神 こハ 大かし彦の命
大かし姫の命にます 故 なよなの始めの黄
昏に 九の御殿に御立たしまして 二時離り
て御入る かむ魂星の神 こハ 塩凝之男の
命 塩凝之女の命にます 故 かなめの始め
の黄昏に 十の御殿に御立たしまして二時離
りて御入る また 火精星御祖の神の御子
むつ火星の神 きさ火星の神 いや火星の神
うた火星の神 さ火星の神 み火星の神
ふく火星の神 はや火星の神 なか火星の神
か火星の神 し火星の神 しつ火星の神
これの星の神たちハ 月の毎の始め毎に 十
の御殿に御立たしまして 一時毎に退り御入
る また 風精星御祖の神の御子 斎風星の
神 斎風女星の神 斎霞男星の神 斎霧星の
神 斎かゆ星の神 斎かゐ星の神 斎露星の
神 斎霜星の神 斎雪星の神 斎吹星の神
大斎雨星の神 大斎守星の神 これの星の神
たちハ 日の毎に御入りて 夜の毎に五 六
七 八に現れて原なす また 土精星御祖
の神の御子 す星の神 やみ星の神 とみ土
星の神 つゐ土星の神 和土星の神 なか土
星の神 荒土星の神 まき土星の神 みつぼ
星の神 たたら星の神 とろ土星の神 かき
土星の神 たを土星の神 いと土星の神 こ
れの星の神たちに 常処に二 四 六 八
十 十二の御殿に御立たし 黄昏に一時離り
て天昇す また 水精星御祖の神の御子 荒
野水星の神 荒穂水星の神 いとみ水星の神
うるき水星の神 とぢ水星の神 うほや水
星の神 八百水星の神 海水星の神 とみ水
星の神 彦水星の神 これの星の神たちハ
春ハ六 七 八の御殿に御立たして 黄昏に
半ら時天昇す 夏ハ朝開きに一 二 三の御
殿に御立たして 夜ハ現れず 秋も然々に
冬されば黄昏に六 七 八の御殿に御立たす
目覚めに御入る 外の星の神もこを以てお
せ こを以て清津上たち 厳上たち 並上た
ち 共に御配りて 各も各も受け持たしたま
エる国々 島々に出往きたまイて それの種
津作りの道 体健の道 楽し事の道 これの
三つの道を教ゑたまイて それの覇精高の上
と共に えかぞの上とならせたまイて それ
の国島の現人をえごとなして 長生の御系を
専らに進びて恵みましき
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30,11
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ここに 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三
十三代姫の命 産御名ハ清之宮姫の命 御齢
二百六十四にますからに 日嗣の御子に天の
下知ろしめさしめにとウて 直入のうましに
大宮を太敷きましき 故 そこを三宅といウ
ここに天津高御座の八重座の上に 日嗣の
御子を据ゑまつりて 御親らハ真側御座に立
たしたまイて 高津座の臣たち 明津座の臣
たち 清津座の臣たち 並座の臣たち 厳座
の臣たち 八百萬に並めしましき ここに児
屋寒川の命 太玉敷山の命 思金戸橋男の命
これの上たちハ 黄金の冠に八雲型の火地
色衽に 薄取りの襲を召さし 畝太の蚕布の
袴を穿き擦らし 御手に扇を取らし 貴玉を
背差して 頭毛ハ掛けし髻に分き垂らし 口
毛を刷かし 手足の爪を刷き装ゐて 三十三
代の天津御子の命 広前に弥々足摺りし も
座まし 八平手を拍ちて蹲みて 神の寿詞を
告り了エて また 八平手に畏む ここに
天津御子の命 八平手拍ちて 天津祝詞の太
祝詞言を告り了エて 弥嚮男を召して告る
故 弥嚮男 八平手を拍ちて 端掛けを着て
膝行きに擦らして 天津八座棚の辺に 八
平手に天津祝詞の太祝詞を称エて また端掛
けを眼深なして 八咫の大御鏡を眼の上高に
捧げて 足立ちます 故 これの時に 天津
御子の命 三臣の上たち 皆 蹲む これの
時に弥嚮男の命ハ 静かに足擦り出て 殿の
真中に立たす これの時に児屋寒川の命 禮
負イて膝行きに蹲み進ぶ 故 弥嚮男の捧げ
まつる大御神宝を児屋寒川の命に 真嵩に頭
載せましたまイき 故 寒川の命ハ 端掛け
を深めて 頭に頂き 足立ちまして 静かに
禮なし足擦りて 日嗣の御子の命の知ろしの
高宮に斎ゐまつらにと歩きます時に 日嗣の
御子 八千尾亀之男の命を始めて 臣の上た
ち 皆 八平手を拍ちて蹲む また弥嚮男の
命 然々に 村雲の大御剣一つを然々に 太
玉敷山の命 然々に また弥嚮男の命 然々
に 潮満つ干るの大御玉緒一つを然々に 思
金戸橋男の命 然々に ここに日嗣の御子の
命 八平手に清まりて膝擦りに その三種の
神宝を受けたまイて 像宮代に斎イまつりて
天津祝詞の太祝詞言を告らしたまイて 天
津高御座に上らしたまイき 時に児屋寒川の
命 太玉敷山の命 思金戸橋男の命 平手を
拍ちて 神の寿詞をまをして 大御名を称エ
ゑて 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三十四
代彦の命とまをす時に 日嗣の御子 平手に
祈る 五臣の上たち あウ と まをして
平手に祝詞を告る ここに先の天津姫御子の
命 御親ら着させたまエる御冠を脱き 阿那
□憇 と告たまウ時に 弥嚮男の命 こを取
りて 天津御子の命に着せ替ゑまつる時に
家隠りなす 奥津樟根の命 御齢三百五十余
り 水上小楮玉の命 御齢二百八十余り 祷
き膳に楢の瑞葉を交イ敷きて 酒杯の大御平
瓶を八重懸かさに盛りて 眼の上高に足擦り
て 先の天津姫御子の命の 御前津辺に持ち
据えまつる 故 その大御平瓶を取らしたま
イて 歌わしたまイき
御齢 経る瓶に 寛らに
高ら 脹る瓶に 寛らに
と歌イたまイて 上津平瓮を天津御子の命に
賜イ 中津平瓮を妃の命に賜イ 下津平瓮を
国立て三柱の臣に賜イ まし津平瓮を高津臣
たちに賜イ ひし津平瓮を明津臣たちに賜イ
よし津平瓮を清津臣たちに賜イ いし津平瓮
を厳臣たちに賜イ むし津平瓮を並臣たちに
賜イき ここに臣たち平手を拍ちて 天津祝
詞を告る 神立ちまさに と 告る ここに
目一箇新之木の命 手置燿那芸の命 金山韓
墨の命の桧以ち作り 漆に塗れる大燿の黄金
白銀に結べる燿玉の四垂り 八垂り 十六
垂りなしき 四垂れの屋根留めに 燿玉以ち
作れる御日像を置き 八垂れの屋根留めに
黄金以て作れる御月像を置き 十六垂れの屋
根留めに 白銀以ち作れる御星像を置き 御
輿の面毎に利鏡 勾玉を取り下げ また 四
垂れ 八垂れ 十六垂れの端毎の白銀 真金
に伸り木とし 伸り木後の沓形に鶺鴒を置き
御輿の御扉の前に足擦り垣を伏せて 臺の
上に八重の畳を敷き 畳毎の表面に 若枝の
六十の白麻立ての蓆を被り張らせて 蚕布の
黄金織地 火の布を縁らし臺の脚に杉の丸棒
を蜘蛛手なして これの御輿屋に天津御子の
命 御端掛けを深めて 四面の御輿屋に八咫
の御鏡を抱き載せまつり 八面の御輿屋に村
雲の御剣を抱き載せまつり 十六の御輿屋に
満干潮の御玉を抱き載せまつり こを舁き往
きの役ハ 日向の五日の国 現しき青人草を
常の益良男と定め 去にし御世の神訓り仕エ
まつらしむ
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30,12
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天津御子の命 御裳 禮裳の随に 御袴を
括り上げたまイて 藁以て結ゑる太白緒の足
板を履かしたまイて 御輿屋の真先に立たし
たまイ 高津上たちハ然々に御輿屋を取り巻
かし 明津上たち 清津上たち 厳上たち
並上たちも然々に 側辺 前辺 後辺に巻か
して 御輿辺在さにとなしたまウ時に 五日
の国の覇精高の上たち参イ来て申す 天津御
子の命の斯く徒歩立てますハ 良わず そハ
奴が役なり 故 これの御輿屋に召したまエ
とウ ここに天津御子の命 告りたまわく
そハ去にし訓りに違エり と 告りたまウ
ここに覇精高の上たち 皆 申しけらく
去にし御世に皇孫の命の天降ります時に
大穴牟遅の命 初めて御輿屋を造りて 迎エ
まつりし訓りあり 今 思イはにふるに こ
れの大神ハ それの時の覇精高の神ならに
故 御輿屋を造り参イ越しき また 大命ハ
しも 御三種の神宝を抱かせたまイて 天の
下を知ろしめすハ 去にし世を学びたまイて
今日しも天降ります活日の足らし日になも
と云 ここに天津日之御子の命 御輿屋に
召さしたまイき
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30,13
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故【これの時と 五日の国の国に】斎蔵在
しの御幣物なり と 奉る 各も各もに 四
人舁きの臺に山如まつる 日嗣の祝きなり
と 聞こエて国の国々 島の島々ゆ 各も各
もに 種々のそれの所に生エる物を以て【御
幣を臺の六人 八人舁きの据ゑて】御前 御
後辺に立ちき これの御幣の内に目立てなす
ものハ 蝦夷ゆ献る御幣なり そハ 沖津昆
布藻を以て 三踏み四方の現人家の如に作り
て その数二十なす 一つ毎に人百人余りに
舁き勤労き共なす
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30,14
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また五日の国の逸り男女 尽々に 男ハ頭
毛を掛けし本取り曲げ垂らし その上に飾り
元結イを白の麻布を太練り 黄な色に染めて
苧環を掛け 面の額に煤水を玉なしに画き
頬に火丹水を玉なしに画き 衣ハ袖成し袂
長の祭り衣を 胸合わせをまつり合わせに
右たりを上並め 緒短かの袴を着 背にハ思
イ思イに靱花 篠幡垂など種々の物を作り
背差し 足板藁以て結エる重ね巻きの草履の
緒ハ 綿布の黄な色布の編緒を締め履かしき
また 少女ハ頭毛を統べし元取りを頭上に
引き上げて 花形に思イ思イ曲げ垂らし 前
頭の毛の上に時花を弥々に飾り大挿頭を頭の
真中に引こたエ 小插頭を右左に二並め
真中の大插頭花形の中らに 栲の白布を火丹
色に染めて 太練りの元結いの紵巻きに飾り
結び上げ 弟の飾りと蚕布の面白型を大插頭
し 端掛けに引き廻し 面にハ白草実を塗り
て 額に煤水を点なし 眉を刷き 歯を真黒
なし 袖成しの太袂の衣 まつり合わせに
右たりを上なし 麻布の火丹色の袴を着せ
身にハ薄蚕布の袖長の襲を打ち掛けて 袂袖
ハ背飾りとなし 足板ハ若枝以て結エる丹綿
布の火丹色なす緒を履き 男女共に爪櫛を頭
毛の左右に差し 手にハ篠竹の玉串の穂に
楮布以て切れる八垂りの緒を差したる多なし
和幣檜木以て結エる扇持ち 歓きなす 皆
衣に五十鈴を纏ウ 中らハ鼓 銅鑼打ち
中らハ笛吹き 法螺吹き 中らハ琴ゑた琴弾
き 道分きに道分きて道饗代奉る 五日の国
の受家男女ゆ 熟りの男女共ハ その道筋々
の山の上 野の脇に屯れて 昼ハ日幡 月幡
星幡 八重幡 背幡 大伊吹 小伊吹 弓
張伊吹 立て並め 夜ハ提げ火屋を尖り隅曲
に立て並めて 最寄り最寄りに柴焚き木を山
なし 高天之原に燃やし上げ 鼓打ち 銅鑼
打ち 高音なして 道饗エまつる また 日
の御傘を作りて 御輿屋毎に差し掛けまつり
て 饗代なす ここに去にし世の学び以て
一丈の桧の玉串の穂に 楮布の八垂り裁ちの
千枚に取りなして 取り嵌めて 御輿屋の前
津の道並めとなし また大活弓の飾り弓を作
りて道並めとなし また活矢の飾り大矢を作
りて道並めとなす
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30,15
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ここに高千穂の二上りの天津高御座を御輿
出たまイて 厳とに高千穂の火燿の大宮に入
らせたまわで 高千穂の国内を廻りて御輿入
りたまイましますことハ 去にし世の訓りに
ますからに 東に到らしたまウ時に 天津御
子の命 告りたまイつらく 吾が天津日嗣知
らす今日の足らし日に 天津神宝の大御輿
清々しく坐ささるハ 吾が罪にこそあるらめ
と 悔イたまイき 故 そを中臣浜招之男
の命 斎部八重滝の命 思金堅石彦の命 大
御言を聞き畏みて 御輿辺の人たちに告りた
まイき などて斯く蹲みの態なして縮震る
と 告りたまイき ここに覇精高の上たち
道饗代の上をなしうつイに歓くに 山々の屯
る受家男女たち 鼓打ち 銅鑼打ち 高音な
すに 千々萬の現人 各も各もに鳴らしを鳴
らし 歌イ歓きなす時に 夕暮時なすからに
高千穂の国内 火山なしき ここに三つの
大御輿勇ましたまイき 故 御輿舁き守神懸
りして歓きなすに 三つの大御輿 山野駆け
り谷駆けりて勇ますに 天津御子の命も い
と盛に心栄エたまイき 御輿舁き守神懸り擽
ぎなす 故 皆人 歌イて神懸るその歌ハ
所々に限りき
此所ハ 臼杵の 五日の国よ
よいやゑ よいやゑ
そこゆ国越して また
此所ハ 臼杵 氷上の穴門の国よ
よいやゑ よいやゑ
また
此所ハ 臼杵 氷上の吉備津根の国よ
よいやゑ よいやゑ
また
此所ハ 臼杵 智保の出雲の国よ
よいやゑ よいやゑ
また
此所ハ 臼杵 智保の丹波の国よ
よいやゑ よいやゑ
また
此所ハ 臼杵 英多の愛媛の国よ
よいやゑ よいやゑ
また
此所ハ 臼杵の英多の飯依の国よ
よいやゑ よいやゑ
また
此所ハ 臼杵 列田の建依の国よ
よいやゑ よいやゑ
また
此所ハ 臼杵の列田の大宜都国よ
よいやゑ よいやゑ
また
此所ハ 阿蘇の越根の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 阿蘇波良の陸奥の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 阿蘇智保の常陸の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 阿蘇衣尻の野陸の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 阿蘇々の无邪津海の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 直入の遠津海の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 直入三宅の狭依科の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 直入三宅の伊勢津の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 直入の三宅笠和の淡海根の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 直入小直入の草木根の国よ
よいやゑ よいやゑ
此所ハ 直入の小直入の秋津根の国よ
よいやゑ よいやゑ
また添エて 大分の御宝山に御輿出ましま
す時に
此所ハ 大分阿南の天一柱 狭手依 天
之忍許呂両児別の国よ
此所ハ 大分稙田の蝦夷の国よ
よいやゑ よいやゑ
斯く所々で歌イ歓ぎて 足る日 八か日
夜ハ七か夜に 高千穂の大宮に御還りまして
国廻の禮言任なわせたまイて 三種の神宝
を大宮の日の高御座に斎き奉り 国々ゆ参イ
上る御幣を 種々に取り並めまつりき ここ
に妃の命 甕の瓮に盛れる神酒を大前に捧げ
て 八平の賞で手を拍ちて蹲む時に 天津御
子の命 日嗣知ろしの太祝詞言を申して 八
平手にまイのきます 故 臣の上たち 大贄
を奉り手を拍ちのく
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30,16
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ここに天津御子の命 天津日嗣の高御座に
着かせたまウ時 妃の命 同じ御座に着かせ
たまイき 故 高千穂の火燿の新宮に天の下
知ろしめさしたまイき 故 こを以て三十四
代彦の天津御子の命を 現人ゆ称エまをす
御名ハ火燿の皇ら命と皆の人まをす ここに
中臣浜招之男の命 斎部八重滝の命 思金堅
磐彦の命 大国籠石の命 少名山背彦の命
大土弥猛の命 火燿の皇ら命の大前津に 天
の祭り 国の祭りの太祝詞言を申す
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30,17
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また 太玉敷辺山の命 表春高根の命 太
玉山辺の命 太玉招主の命 下春弓張の命の
上たちハ霧島山の五百枝眞榊を 根掘しに掘
じて 上津枝に弥栄の勾玉を 八重組の火丹
色の蚕糸の緒に貫き 火丹色の七緒房懸りを
取り垂らし 中津枝に八咫の鏡像を真似び
新造りなせる花香の鏡を 槇の小板以て作れ
る掲けを 朱の漆の八重塗りに黄金の毀り粉
以て 八雲型に煌び画き 眞臺を作り 然に
塗らし また蚕糸の三十二條組の紫色に 紐
に蚕糸の七緒房の懸りなすを以て 斎イて取
り付け また下枝に紫色二の蚕布 麻布 綿
布 火丹色の蚕布 麻布 綿布 黄な色の蚕
布 麻布 綿布 青色の蚕布 麻布 綿布
水色の蚕布 麻布 綿布 雲色の蚕布 麻布
綿布 藍色の蚕布 麻布 綿布 黒色の蚕
布 麻布 綿布 これの八色布を取り掛けて
火燿の皇ら命の御世祝ぎの御幣に奉る ま
た思金弓張男の命 志那都阿部村の命 志那
都群鳥櫛の命 思金群鳥の命 志那都上松の
命 金山息合の命 金山大主の命 金山透の
命 弥都波眞暑彦の命 弥都波七草手の命
波邇夜須佐多之男の命 波邇夜須亀村の命
波邇夜須熊成の命 弥都波鳥凝彦の命 燿火
建凝の命 燿火松斧の命 大屋那須戸之男の
命 積羽天津御栗田の命 積羽文手
別の命 言代須々美主の命 鳴海海垣外根の
命 日別屋立の命 天懸心文の命 国懸朝立
の命の上たちハ 那須山の小竹野に生ゆる白
竹の一尺五寸竹を取らして 差枝を逆茂木に
打たせて 上津五百津枝負イなさせて 蚕布
の厚布を紫色 火丹色 赤色 青色 茎色
あき色 空色 土色に染めなさせて 三丈一
尺に垂らし 竹矢の穂先に結イ締めて垂幡を
作り また五寸竹を取りて それの枝毎 し
かみなすりの薄素板に 八百萬の神たちの神
祝きの謡イの寿詞を 欅の煤水に鶴鳥の毛羽
以て作れる筆以て 鮮かに二見手書きなして
彩み下げ また五寸竹のそれの枝毎に 大き
なる火屋作り下げ 小さなる火屋三十箇を作
り下げ 中の揺ら火竿に火を燧りて 一つの
燈となし 吹き風に揺らがしき また高津上
明津上 清津上 厳上 並上の上たちハ
機屋の織男 織女に仰して 蚕布 麻布 綿
布 栲布 小条布 白緒布 藤布 これの七
種布を織らしめ 多なし 神御衣床に御幣ま
す また鍛冶人に仰して 太刀 鉈 剣 矛
鐸 威薙 弓 矢 弓弦 種々の金刃物を
御幣なし 時の役 時の役 日の役 月の役
に仕ゑまつりて 天の祭り 国の祭り 天津
神心の心伝てくく伝てに仕ゑまつり 其の道
其の道の禮事を畏みて 天津日嗣知ろしめす
大贄の禮事ゆ始めて 千々別けの禮事 二十
四か日に了エぬ
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30,18
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先にこれの皇ら命 三十二代の天津御子の
命の御子 炊姫の命を召さしたまイて 妃と
なしたまイき また二十九代の天津御子の命
の御子 田主彦の命の御孫 許登麻遅姫の命
を召さして 向妻となさし また萱野東月の
命の御子 狭緒琴の命を御妾となさせたまイ
き ここに御妃 炊姫の命 御妊みたまイて
神さエにちあきゆあきますからに 臼杵の
大の浜に産室を御立てて 御輿入りに産ませ
る御子の御名ハ花姫の命 これの日嗣姫の大
御名ハ 日高日子波限建鵜葺草葺不合 三十
五代姫の命と申す 次に御妾 狭緒琴姫の命
の御腹に生れませる御子の御名ハ豊奇姫の命
次に菊姫の命
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30,19
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また向妻 許登麻遅姫の命御妊みたまイ
て大土小土に取り成し 神さエにちあきゆあ
きますからに 大分の黒の小浜に産室を御立
てて 御輿入りに産ませる御子の御名ハ若照
彦の命 こハ生れましの時に御室内 常世に
変りて いと明るありしからに 御名に負ウ
せまつる大御名ハ 日高日子波限建鵜葺草葺
不合 三十六代彦の命 と申す 次に若照姫
の命 次に幸照姫の命
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30,20
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こに火燿の皇ら命の天の下知ろしめす二十
一年のなよな月に 先の天津御子 日高日子
波限建鵜葺草葺不合 三十三代姫の命ハ御齢
二百四十二に成らせたまイ なよな月の 月
円の八か日の 昼時の日後時に神崩らせたま
イき 故 皇ら命 御妃の命を始めて 親族
の上たち 御枕辺に打ち伏して 御嘆きたま
ウ時に 世嚮男 神玉国光の命ハ常世に変ら
せたまわずで 勤しく在しき 故 御禊きま
つらに とウて 直入の三宅の背山の傍らの
岩穴に 大分の速吸門の眞潮呼びて こを温
め湯となして 天津御子の命の御屍を御親ら
に濯ぎて 清まわりに禮衣を着せまつりて
奥津喪家に在座在しまつり 御親らもその真
潮の温め湯に御濯きたまイ 禮衣を着さして
奥津喪家を作らしめて そに在座たまイて
告りたまイつらく 吾ハ天津日嗣の嗣々に守
らに と云て 御世を斎きなす 故 今完エ
ぬ こにより吾ハ天昇して 天津神に返り言
を申さに 必ずしもに皇ら命よ 去にし訓り
に 勿 違イそ と 告りたまイ了エて 御
眼を閉ぢさせたまウに 急目見ましたまエば
世嚮男の命ハ速くも神崩りましたまイき
故 親族の上たちの御嘆き 言許り無し こ
こに臣の上たち 檜の太御輿を作らしめて
天津御子の命の座ます喪家 また世嚮男の命
の座ます喪家とを 同じ御輿に並めしまつり
て 大分の御宝山上洞に祝りまつる
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30,21
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並上たちを御先人となし 明津上たちを御
衣人となし 厳上たちを浄み人となし 並上
たちを斎き人となし 並上たちを八雲人とな
し 足尼たちを花持ち人となし 内禰たちを
御食人となし たけびたちを海魚人となし
清津上たちを傾頭人となし 明津上たちを布
幸人となし 外禰たちを綿作り人となし 厳
上の足尼たちを輿巻き人となし 厳上の珍部
たちを後人となし 高津上たちを後辺人とな
し 清津上の足尼 外禰たちを御幣人となし
清津上の御神子たちを道先の神座人となし
明津上の御神子たちを道後の神座人となし
厳上の御神子を懸り人となし 各も各も
それの役に仕エまつり 阿蘇の胸坂に一夜御
留みたまイ 直入の三宅に伴まして 大分の
御宝の山の上に葬りまつり 皇ら命 御妃の
命 親族の上たち 臣の上たち 皆 喪に入
らせたまイて それの喪の禮事に仕エたまイ
き
上津文 三十綴り 完エ