妻と結婚式をやることになった。
結婚式といっても一般的なものではなかった。
まさに儀式である。
その儀式を執り行うのは神社ではなく、謎の老夫婦だった。
職人気質のお爺さんと、それを暖かく見守るお婆さん。
まんが日本昔話に出てくるような二人だ。
結婚式には昔のやり方と新しいやり方があった。
僕らは、そのどちらかを選べるようになっていた。
古い儀式の場合はお爺さんが、新しい儀式の場合はお婆さんが担当するようだ。
僕らは伝統を重んじて、爺さんのやり方で進めることにした。
すると爺さんは僕らを倉庫のような場所に連れて行った。
そこには昔の人が結婚式を挙げた時に使った備品がたくさん置いてあった。
積み重なった箱の上に、達磨のような手足のない薄緑色の着物を着た日本人形があった。
たしかこれはウチの両親が結婚した時の記念として玄関に飾ってあったものだ。
誰かに貰ったのか、よくわからないが僕が子供のころから置いてあった。
僕らは結婚式の準備をするために爺さんから話を聞く。
すると婆さんが出てきて、爺さんに微笑みながら言った。
「あんたのやり方はもう古いよ、今の子たちには準備が難しいよ」
確かに爺さん流の結婚式には準備する備品が色々と必要だった。
それは引き出物のように式が終わると自分で持って帰ることができる。
ただし、その準備はかなり大変なものであったので、代わりに爺さんに準備してもらうことができる。
でも、妻は自分で準備すると言った。
確かに妻が準備できるものでもあるが、当日までに仕上げなければいけないし大変な仕事だ。
しかし妻をみると、まったくもって「余裕」があるようだった。