どこかに行こうとしていた。
そこへ早く行かなければならないことだけわかった。
しかし、とあるお店に入ってしまった。
昔ながらの定食屋のようだ。
こんなお店で食事をとっている暇はないのだが、注文しなればいけない雰囲気だった。
辺りを見回すとサラリーマンたちが定食食べていた。
どこかに座ろうと思っても席がない。
奥にある「お座敷席」を見回すと、ぽつぽつと席が空いていた。
狭い店内を奥に入って、お座敷席の隅っこにあるテーブル席の椅子に座った。
すぐ近くに別の客がいて狭苦しくて不快だが仕方ない。
席についてメニューを見ると、あまり食べたくなるようなメニューがなかった。
メニューを眺めていると、お店のおばちゃんがやってきた。
店主ではなく、パートのおばちゃんのようだ。
ふと、このお店は過去に(夢の中で)一度やってきたことがあると思いだした。
「そうだ、この店にはから揚げ定食があるはずだ」
そう思ってメニューを探すとそれがあった。
僕はメニューを読み上げた。
「テレビのから揚げ定食」
お店のおばちゃんは不思議そうな顔をして僕を見ている。
メニューを見ると間違いなく「テレビのから揚げ定食」と書いてある。
確かにテレビのから揚げなんておかしい。
「鶏のから揚げ定食」
と言い直すと、まだお店のおばちゃんは僕の顔を微笑みながらじっと見ている。
「どうしましたか?」
そうたずねると、おばちゃんは「あなたの心の中を見ている」と言った。
心の中を見透かそうとしているのだった。
しかし、僕の方が先にわかった。
おばちゃんには心の中を覗き見る能力がないことを。
しばらくして、から揚げ定食が運ばれてきた。
皿の上にはコロッケと添え物の野菜炒めしかなく、から揚げは後から出てくるのだろうと思った。
しかし、いつまでたってもから揚げは出てこず、ついに完食してしまった。
しかたないから、そのまま席に座ってから揚げが出てくるのを延々と待った。
お店のテレビでから揚げの出てこない定食屋のニュースがやっていて「やっぱりな」と思う。
その日の夕食の皿の1つがコロッケと添え物野菜だった。